桜降る代のゆるい午後:第6回

2017.03.10 Friday

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    メガミの日常をまったりお届け、そんなかんじのゆるい午後。

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    新たなメガミには毒がある

    2017.03.03 Friday

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       こんにちは、BakaFireです! いよいよゲームマーケット神戸まで、あと一週間強となりました。以前にハガネを紹介した際、まだ終わりではないとお伝えしましたが、今日はその続きを語る時です。

       

      もう一柱

       

       ここまでストーリーや情報を追ってくださった皆様には、少しばかり予想外なことが起こったかもしれません。1月下旬の段階で、私どもは新たなメガミ・ハガネの存在をお知らせしていました。当然、それはこの拡張のためです。

       しかしそれが全てではありませんでした。先日のストーリーにて、さらにもう一柱のメガミが登場したのです。そう、今後予定されている拡張では、拡張ひとつごとに二柱のメガミが封入されているのです!

       

       

      そのメガミに触れるべからず

       

       今回の記事ではもちろん、そのもう一柱を紹介いたします。ですがお待ちを。いつも通り、彼女の活躍はストーリーにてすでに描いております。もちろん、別のプレビューカードもありますよ。

       

       さらに本日の更新にて、ストーリーは第一章が完結いたしました。まとめ読みには絶好のチャンスです! もしお時間がありましたら、ぜひとも桜降る代の物語をお楽しみください。こちらをクリックすれば、最初から読むことができます

       

       すでにお読みになったか、残念ながら時間がないならばこのままお進みください。

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

      心の準備はよいですか? お見せしましょう。毒を操るメガミ・チカゲのその恐怖を!

       

       

       彼女のその汚れた外套の内側には、数多の毒が隠されています。そして相手に合わせて恐るべき毒を使い分けるのです。まさしく、彼女自身が巨大な毒袋と言えるでしょう。

       

       毒袋に毒? それだけでは何のことだか分からないかもしれないですね。それではまず、この2枚、そしてカード裏面をご覧ください。

       

       

       お分かりいただけたでしょうか。チカゲは新たなタイプの特性を持ちますが、しいて言うならばユキヒの傘カードに近いかもしれません。毒袋はチカゲのみが持つ領域です。そしてその中には、5枚のカードが用意されているのです。

       

       そのうちの1枚が「幻覚毒」です。そして「毒霧」を使えば、それを相手の山札の一番上に加えることができます。ご覧の通り、毒カードは悪質な効果を持っています。例えば「幻覚毒」は強力な切札のためにフレアを溜めているプレイヤーにとっては最悪の代物でしょう。

       

       しかし毒は伏せ札にできません。つまり基本動作のコストにできず、そして手札が3枚以上の際に伏せ札に選べないのです。必然的に毒は手札に滞留します。しかしそうなってしまうと、行動回数が抑制されることになります。《対応》を構えるうえで大きな邪魔になるのも厄介なところです。

       

       そして場合によっては、こんな恐ろしいことになるかもしれません。

       

       

       本日は新たに2枚のカードと、1枚の毒カードを紹介しました。相手に合わせて、的確な毒を選んでいく、その悪質にして緻密な戦略をお楽しみいただければ幸いです。

       

      これにて一旦の終わり

       

       以上で、第壱拡張のプレビューは全て終わりとなります。第壱拡張『夜天会心』3/12(日)ゲームマーケット神戸「A22 BakaFire Party」にて先行頒布され、しかる後の3/18(土)より各店舗で発売されることになります。ご期待ください!

       

       また、3/18(土)には公式イベント「萌芽の交流祭」が開催されます。そちらの公式大会では、早速ハガネやチカゲを用いたゲームをお楽しみいただけますよ! あなたのご参加、心よりお待ちしております!

      『桜降る代の神語り』第17話:戦いの終わり、そしてはじまり

      2017.03.03 Friday

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         表側も裏側も語ってしまえば、物語はそれで終わりというわけじゃあない。
         物語は舞台の上で繰り広げられるもので、当然舞台裏では黒幕が暗躍している。
         そしてそいつは、全てが終わった後で嗤いながらその出来について語るのさ。
         さあ、裏で縁の糸をいいように繰っていた男の講評と共に、一つの節目を語るとしよう。

         

         


         謀略というものは、結果だけ見た人間からしたら奇跡のように映るが、中身を知っている者からすれば、そういう結果が得られるだけの小さな事象が積み重なった末の必然である。だから気にかけるべきは途中の要素だけであって、結果はあくまで導かれる答えでしかない。
         だから私は、自分の仕掛けた策が、既に成功以上の結果に終わることを知っていた。

         

         最初は、龍ノ宮一志という存在を排除するのが目的だった。
         今の地位に落ち着いて久しい周りの家とは対照的に、成り上がったが故の勢いを有していた龍ノ宮。彼がもっと過激な姿勢を保ち続けていたのなら、出る杭として打つこともできた。けれど人並みに知性を持っていたが故に得た逞しさは、杭を柱にまで育ててしまった。

         

         邪魔でしかない。
         自分が覇権を持つためにも、自分より強かな柱はあってはならなかった。
         それでも人望も得ていた龍ノ宮の牙城は堅く、私は窮屈な思いを続けていた。

         

         事が明確に動いたのは、天音家の再興がきっかけだった。
         様子見を続けていた私に対し、知識人の集い・碩星楼から話を持ちかけられたのだ。高名な家々に召し抱えられるその博識さは、政治の場においても評判高い。
         曰く、天音の台頭を阻止すべく手を貸して欲しい、と。
         ちょうどそれは、龍ノ宮が天音と同盟を結ぶ、という情報が入ってきた頃だった。

         

         私にとって天音はそれほど気にかけるべき存在ではなかったが、政治に独特の美的感覚を有する彼らには我慢ならなかったらしい。
         龍ノ宮の排除を主眼としてよいのなら、という条件付きで、彼らと手を結ぶことにした。
         理念はさておき、利害関係を結ぶのにはそれなりに使える連中だったからだ。
         これが積み上げた事象の一つ目である。今にして思えば、縁の下の力持ち的な立場の協力者を事始めに得られたのは、運が良かったのかもしれない。

         

         運を持ち出してしまうと、二つ目の事象はなお運と言う他ないだろう。
         古鷹家で出会った忍。廊下で偶然見つけたそいつは、古鷹氏に聞けばなるほど使えそうな逸材だった。気が触れていることを始めとして、手元に置き続けたい類ではなかったが、それを考慮してもなお有益な存在であった。

         

         最強の名を恣にしている龍ノ宮だろうが、容赦なく殺す術を持っている。
         彼女を駒に加えることで、決闘という相手の土俵に上る必要はなくなった。

         

         彼女の稀有さを鑑みれば、手を尽くすのは当然のこと。結果へ至るために必要な要素も、雑に積み上げてしまえば容易く崩れ落ちてしまう。
         故に碩星楼にも協力を仰ぎ、事象を整えることにした。無論、私に光が当たらぬように。
         例えば茶番劇を一つ手配し、彼女に龍ノ宮の戦いを研究させたりもした。茶番に付き合わされたミコト諸君にはご苦労と言いたい。君たちのおかげで結果は実ったのだ、と酌すらしてやりたい気分だ。

         

         二つの要素が揃った時点で、どう転んだところで私が不利益を被ることはなくなっていた。
         掛け金を失うことに怯えなくて良い謀略が、果たしてこの世にどれだけあるだろうか。できるだけ分の悪い賭けにならないよう手を尽くすのが策士の義務だが、揃った駒が描ける未来に暗いものがないと気づいたときには、流石の私も笑ってしまった。

         

         私個人の目的は、龍ノ宮の排除。
         その手段は、闇昏千影を用いた暗殺。

         

         仮に暗殺が失敗したところで、致命的な問題にはならない。
         龍ノ宮が死亡しなかった場合、龍ノ宮と天音の同盟は無事世に認められることになる。
         このとき、諸氏にとって目の上のたんこぶだった天音は龍ノ宮に従う形となる。手綱を握る者が明確になった以上、碩星楼の面々もそれほど不満はないだろう。彼らは暴走じみた天音の躍進が気に食わなかっただけなのだから。
         私自ら、会合の場で決闘をけしかけるなんてことまでしたのだから、彼らへの義理は最低限果たした形ともなる。

         

         一方、個人的には少々面白くない展開ではある。龍ノ宮という泰平の世の柱はさらに強固となるだろう。
         とはいえ、そういった流れの方向性は今までとは変わらない。天音が乱したものが元に戻るだけだ。決定的な一手を打たれる気配がない以上、もう一度振り出しで、謀略を巡らす日々を過ごすことになるだろう。現状維持ならば、それは負けではない。

         

         では、暗殺が成功した場合はどうだろうか。
         件の決闘は、中止になる公算が高かった。当然だ、主役の一人である龍ノ宮が死んでいるのだから。
         この場合、闇昏を始めとした諸々の痕跡を抹消する必要がでてくるが、それさえ済んでしまえば未来の支柱が折れた世で楽しい楽しい権謀術数の時間となる。

         

         後処理には天音の処遇も含まれるが、元より大したことはない認識していたなりに、手立てはいくらでも考えてある。
         私自ら事に当たれば、理解者を失った野獣の始末など容易い。
         手間をかけて有効活用するか、面倒だとばっさり切り捨てるか、それだけが問題だと事態の推移を見る間考えていた。

         

         実のところ、実行当夜になって、最大の懸念が見事に払拭されていると分かってからというもの、暗殺の成功にはかなりの期待が持てていた。

         

         龍ノ宮自身はもはや闇昏に一任するしかないが、最強の男の傍には顕現したメガミ・ヒミカがうろついている。襲撃時にヒミカと出くわす、なんてことになったら目も当てられない。
         故に私は、ヒミカを城から追い払うように、と無理を承知で碩星楼に要請していた。
         自信満々のくせに具体的な方策を告げてこないものだからやや心配だったが、城内からメガミの気配が遠ざかっていくのを感じたとき、にやけずにはいられなかった。

         

         暗殺は成功する。では、それが最善の未来だろうか。
         それは否。いかに通常想定し得る答えが馬鹿らしくなるほど出来すぎた可能性があったとしても、備えが不利益にならないのであれば、当然それを想定して備えておくべきである。

         

         もしも闇昏が自慢の毒を打ち込むことに成功し、それでも決闘が行われたのなら?
         龍ノ宮の強さや気質から考えれば、ありえない話ではなかった。

         

         もしも強行された決闘の最中、龍ノ宮が事切れたとしたら?
         対面しているのは天音揺波、疑われないはずもない。あるいは直に手にかけたように見える決着を掴み取ってしまうかもしれない。

         

         ……そしてもしも、天音が殺したという結論を、ヒミカが導き出してしまったとしたら?

         

        「驟雨、これがお前の結論か」
        「……よもやこの絶景を前に、良心が痛むなどとは申しますまい?」
        「ふん、痛むのは足腰だけで十分だ」
        「私が父上の頭痛の種になっているわけではないようで、安心しました」
        「よく言う。勝手にやるのは構わんが、儂にだけは迷惑かけてくれるなよ」

         

         一足先に父と山まで避難していた私は、あまりにも清々しい気持ちでその光景を目の当たりにしていた。
         事がうまく行き過ぎた場合、龍ノ宮殺しの容疑を被った天音揺波が、ヒミカに目をつけられることになる。いかに無敗のミコトとはいえ、メガミ相手に単騎で生き残れる道理はない。

         

        「ご心配なく。迷惑な連中は、あの炎にくべられていますから」

         

         天を燻すほどの猛火に包まれた龍ノ宮城。
         邪魔者は、メガミの炎の棺桶に抱かれてこの世から消え去る。
         あまりにも……あまりにも理想的な、最上の成功!

         

         それはあまりにも出来すぎた結果が故に、あまりにも分かりやすい形となって現れていた。
         死体の確認が課題だなあ――そうのんきな感想を浮かべた私は、未来の世を支えるはずだった柱が燃え落ちる光景に、誰にも憚ることなく笑った。

         

         

         


         じり、じり、と肌を焼くのは、炎ではなくただの熱気だった。
         天音揺波はその膨大な熱量と殺気に、怯え、考えることも動くこともやめていた。

         

        「……ぁ」
        「おまえがぁ……っ」

         

         溢れ出した猛火が視界を舐め尽くす中、ヒミカを中心とした空間に、濃密に炎が満たされていく。緋色から橙へ、そしてちらりと舌を出す、黄色い炎。
         目にするのも億劫なほどに眩しさを孕んだそれ。
         塵すら遺すまいという殺意の塊は、臨界を迎えたように一段と強く、白く輝いた。

         

        「ぉおまえがあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

         

         感情の発露のままに叫び、そして抱え込まれていた炎が爆発したように解き放たれる。抑圧されていた炎は熱波となって、主の周り全てを焼き尽くさんと広がっていった。
         一瞬のうちに過ぎ去ろうとも、空間ごと人間は焼失させられるだろう暴力的な熱量。
         桜の傍ということを考慮したところで、ミコトですら耐えることはできまい。どれほど結晶を費やせば、生き残れるというのだろうか。

         

         殺意を燃料にして、殺しに来ている。
         ヒミカの炎に焼き尽くされ、自分は死ぬのだ。揺波の恐怖は、もはや未来を確信していた。
         分かりきっている死を前にすれば、目をつぶってしまったとしても、それ以上恐怖に襲われることはなかった。

         

         どれほど理不尽だろうと、怒れるメガミの前に立って生きて帰れるわけがない。
         本能で納得してしまったのだ。あれほど勝ちにこだわり負けを疎んできた揺波でさえ、それがメガミという存在なのだと。自分の身の上では、勝ち負けの土俵にすら立っていないのだと。

         

         天音揺波の生は、ここで燃え尽きる――

         

        「……っ!」

         

         だが、浴びせられた熱気は、揺波が想像していたものよりも格段にぬるかった。
         確かにそれは熱い。熱いが、耐えられぬほどではない。へたり込んで死を待っていた彼女に打ち付けられたそれは、沸々と煮えたぎった釜の湯から立ち上る蒸気のようでしかなかった。

         

        「天音ッ!」

         

         

         そして次に揺波を殴ったのは、至近より浴びせられる呼び声。
         事ここに至って自分が狂ったのか、と勘ぐってしまうほど、その声はこの場には似つかわしくない。

         

        「さ、細音さん?」
        「何をしているのですか、逃げますよッ!」

         

         目を開けた先には、確かに氷雨細音その人が、乱雑に揺波の腕を掴んでいた。
         見れば、ヒミカから揺波を守るようにして、巨大な氷塊が現れていた。熱波の盾となり、その大半を既に失っているが、代わりに生み出されたのは膨大な量の蒸気。触れ合えるほどの至近でなければ、細音のことを視認できないほどに場は白に包まれていた。

         

        「な、なんで細音さんが……」
        「話は後! 死ぬなんて許しませんから……!」

         

         細音の顔色はすぐれない。桜の下であるとはいえ、メガミの力を引き出すだけの十分な時間を用意せず、これほどまでの現象を瞬時に引き出したのだ。その負担は相当に大きい。
         予想外の助けが却って真っ白になっていた頭を叩き起こしたようで、揺波は徐々にやるべきことを整理していった。この場においては、自身が十全に動けないことを勘案しても、正直に助けられるべきだ、と結論するのに時間は要らなかった。

         

        「くそ、卑怯だぞッ! どこだああああぁぁぁぁぁぁっ! 逃げるなああああああッ!!」

         

         染まった視界にさらに怒りを増すヒミカを、細音は避けるようにして走った。お互い言葉はない。視界のない場で最も優位なのは、元々聴覚に頼っている細音であり、それは相手がメガミだろうとさほど変わらないはずだった。
         悲痛な怒りを頼りにして、逆にそれからひたすらに遠ざかる。
         純粋な炎による熱とは別の灼熱地獄の中、二人はただただ怒りの中心から逃げるようにして走り続けた。

         

        「あああああっ、あっ、あああああああッ! くそぁああああああああッ!!」

         

         轟と天を突き燃え上がる炎と、耳にこびりつくような悲哀。
         矛先を失った弔意の発露は、城を燃やし尽くすまで止むことはなかった。

         

         


         こうして天音揺波は、氷雨細音の助けによって九死に一生を得た。
         そして家の再興に向けた天音家の戦いは悲しき終わりを告げ、そして天音揺波の真なる戦いが始まることになる。
         他方で、人間同士の勢力争いは留まることを知らず、メガミたちをも巻き込んだそれは神話戦争の様相を呈することになる。
         節目を迎えたところで、この英雄譚はまだまだ終わらない。
         さあ、物語を次の段階へ進めようじゃないか。

         

         

         

         

         

         


         改めて人間たちの議論から状況の推移を把握したシンラは、人知れず息をついていた。
         今回は自らが打って出た以上、失敗することはシンラ自身が許さなかった。相手が扱いやすいヒミカだったからさほど心配もしていなかったが、結果は上々。彼女が人間を取り逃したことだけが誤算ではあったが、概ね仕事は果たしたと言えた。

         

        「やっと捜索に集中できるわ……誰が動かせるのか、まとめなおさなきゃ」

         

         困ったように笑う、一見して柔和な顔。
         しかしその口端は、僅かばかり吊り上がっていた。

         

        「早く……見つけなきゃ、ね……」

         

         

         次の言葉を紡ぐ頃には、もう張り付いたような笑みが戻っている。
         そして、議論を続ける碩星楼の面々を他所に、謀略を巡らせるメガミは気配を消した。

         

         

         


        「ふ、ぅーん? ねえねえ、お仕事なくなったぽいーですよー? ミコトも束になればぁー、案外侮れないものですねー? もしかしたらひみかん、前よりもよわっちになってたのかもーしれませんけどぉー」

         

         妙に間延びした口調が、闇の向こうの何者かへ投げかけられる。
         応じる声に、抑揚も、表情も、ない。

         

        「……そう」
        「あは、キョーミないですかー? でもー、これでもっともっといろぉんなコトがやりやすくなるってーことですよー? どこだって研究はできるかもしれませんけどー、研究に没頭するにはー、やっぱり環境は大切ですぅ」
        「…………そう」
        「あは、あは、やっぱキョーミなさそーですねえ。キョーミあったらあったでー、ちょろーっと不気味ですケド」

         

         それから、けらけらと笑いが響いたかと思えば、後には物と物が触れ合う音だけが場に満たされる。
         不気味に騒がしく、不気味に静かなそこで、闇が、二つ、わだかまっていた。
         

        語り:カナヱ
        『桜降代之戦絵巻 第二巻』より
        作:五十嵐月夜  原案:BakaFire 挿絵:TOKIAME

         

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        桜降る代のゆるい午後:第5回

        2017.02.24 Friday

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          メガミの日常をまったりお届け、そんなかんじのゆるい午後。

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          『桜降る代の神語り』第16話:生きる道

          2017.02.24 Friday

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             天音揺波と龍ノ宮一志の決闘……その尋常ではない決着は、如何にしてもたらされたのか。
             それを理解するためには、少し時を遡る必要がある。
             舞台は決闘の前夜、龍ノ宮一志の自室。
             天音揺波が夢の中で対策を練っていたその裏で、かの最強は余人の知り得ぬもう一つの戦いに身を投じることになる。

             

             


             眠れない。

             

            「…………」

             

             ほんのりと月明かりが差し込む部屋で、龍ノ宮は目を閉じたまま眠れぬ夜を過ごしていた。もう布団に入ってから随分と経っているが、一向に眠気はやってこない。
             明日は確かに、彼の目下の心配事である天音家に関する処遇にケリがつく日である。揺波との決闘を経ることで、表面上だけかもしれずとも、これで天音は大家の仲間入りである。乱暴に地図を塗り替えられることの恐ろしさも理解している龍ノ宮が、無事鞘に収まってくれた剥身の刀に安堵しなかったと言えば嘘になる。

             

             名目的に自分の下につくような結末になったことには若干不満も残る彼ではあるが、これ以上は高望みだろうことも分かっていた。
             天音がきちんと、成長の余地を残した形で受け入れられた。
             まだまだ若い揺波の今後を期待している龍ノ宮にとっては、それだけでも儲けものである。面白いやつは環境によらず面白い、というのが持論ではあるものの、それも度が過ぎれば芽を枯らす真似に他ならない。だから天音を、揺波を守れたことで、彼の当座の目的はほとんど達成されたと言ってもよかった。

             

             明日の決闘はその見返りに違いなかった。
             今、あの小さなミコトの少女がどこまでやれるのか、直に確かめることができる。しばらくは決闘の場における彼女の出番も減るだろうことを考えると、実に贅沢な役回りでもあった。
             そのことに、子供のような喜びを覚える自分を龍ノ宮は否定しない。

             

             だが、初陣でもあるまいし、決闘前夜に寝付けなくなるほど子供になった覚えはなかった。

             

            「…………」

             

             眠れないのは、気持ちが高ぶっているから、ではない。目を閉じているのも、眠ろうとしているからではない。
            眠りたくとも、彼は今、眠れないのだ。

             

             かたり。すませた耳が、木板を外すような音を捉える。
             もう一度かたり、と天井のほうから音がすれば、それはまさに天井板を何者かが外している証に他ならなかった。

             

             もう随分と前から、彼は天井裏にいる客人が放つ異様な殺気に気づいていた。その客がいつ挨拶してくるか、軽く寝たふりをしながら待ち続けていたのである。
             立場上命を狙われた経験がないわけではない龍ノ宮にしてみれば、間の悪い客だ、と気が滅入る一方で、隠す気がないのかはたまた隠せるほどの技量がないのか、殺気を振りまいている相手が異様であることが眠気をさらに払ってやまない。

             

             と、その殺気がさらに強く、鋭くなるのを感じ、龍ノ宮は開眼する。

             

            「……っと!」

             

             闇の中、月光に煌めく二筋の細い針が真っ直ぐ顔に向かってくる。掛け布団を放り上げ、中空で針を絡め取ってしまうと、そのまま横に転がり出て武器を手にした。護身用兼鍛錬用の、けれど龍ノ宮の丸太のような腕よりもなお太く大きい鉄槌だ。
             追撃の気配はなく、鉄槌を天井に向ければ、確かに一部、闇がわだかまっていた。

             

            「随分と遅いご挨拶じゃねえかよ、なあ! こちとら待ちくたびれちまったよ! たっぷりもてなしてやるからさっさと下りてこい!」

             

             下手人の気配は、殺気も含め未だ健在。それどころか、闇の向こうのさらに闇の中にいるはずの刺客に啖呵を飛ばしても、逃げる以前にさらに殺気を強める始末。
             異様という評は、龍ノ宮の中で固まり始めていた。
             それは相手自体もそうだったが、布団に刺さったはずの針からも漂ってくるものだった。とてつもなく不穏な、見過ごしてしまえばその瞬間にぽっかりと足下に空いた暗闇に飲み込まれてしまうような、そんな名状しがたい異様さが最強と呼ばれた男を困惑させる。

             

             しかし、相手に対する印象はさらに悪い方向へと上塗りされることになる。

             

            「おいおい……」

             

             異様さを通り越して、少女はただ、不吉。
             再び針を投げつけつつ、天井の穴から姿を現した下手人をひと目見た印象がそれだった。引きつって歪んだ笑みももちろんだったが、纏う雰囲気はただただ不吉と言うしかなかった。

             

             みすみす殺されてやるつもりもなかったが、大事な決闘の前にケチがついたかもしれない。
             針を弾いた鉄槌をもう一度握りしめ、まるで影から産み落とされた死者のような刺客を前に、彼は思わず苦笑いを浮かべた。

             

             

             


             決して近寄ってこないが、逃してもくれない。
             見てくれ通り腕力に自信のある龍ノ宮に対して、距離を取り続けるという選択はとても正しい。寝室が圧迫感を感じさせないほどに広いことも手伝って、襲撃者は己の間合いを保ち続けることができていた。
             そしてその戦術を活かすために、飛び道具には毒が仕込んであることだろう、と龍ノ宮は確信していた。縫い物用のそれが可愛く見えるほど立派な暗器とはいえ、まさか脳天に突き刺せるほど猛烈な速さで投げられるわけでもあるまいし、それだけで殺害に至らないのは明白だ。

             

            「ほっ、よっ」

             

             時には鉄槌で害意を弾き、時には身のこなしで殺意を避ける。
             攻撃は徐々に苛烈さを増していた。暗殺者であれば姿を見られた時点で必死だろうし、助けを呼ばれる前にケリをつけたいという心情は龍ノ宮にも理解できる。それとなく部屋の出口に向かおうとしても、狙ったように進路に刺されるのは釘ならぬ針。
             相手の技量を考えれば助けを呼べばむしろ犠牲が増えかねない、という思慮も、相手に伝わるものでも信じてもらえるものでもない。

             

             ただその一方で、最初に投げつけられた針から感じたような異様さは鳴りを潜めていた。
             勘違いで済ますには未だ残滓の強いその異様さが嘘のように、壁に突き刺さる針たちから特別な印象を龍ノ宮が受けることはなかった。殺意までもが抜け落ちているとまでは至らないものの、どうも彼女自身の不吉さも合わせても、訴えかけてくるような危うさを感じられなかったのだ。

             

             これならば、いっそ負傷を承知で突っ込んで殴ったほうが手っ取り早い。
             襲撃者を黙らせるそんな一手を半ば採用しようかと、一歩目を踏み出したときだった。

             

            「……っ!」

             

             その一歩は、無理矢理にでも下げられた。
             龍ノ宮の動物的直感は、今投げられた針にだけは絶対に当たってはいけない、という忌避感を身体に叩き込み、頭で考えるよりもなお早くその右足を下げさせていた。
             とす、というある種間の抜けた音は、件の針が畳に刺さった音。
             実際には機敏さが足りず、僅かに足を引いただけ。
             針は、足のあった位置を見事に貫いていた。

             

            「お見事」
            「……ちっ」

             

             襲撃者の反応は、その一撃が慎重を期した上での本命だったのだと物語る。両者が静止し、再び静寂の帳が下ろされる。
             狙いこそかわしてみせたものの、龍ノ宮の動きは明らかに勘についていけていなかった。最強と謳われる彼であれば、おそらくもっと安全に、確実に避けていたことだろう。しかし、それはこの場において実現できる道理はない。

             

             ミコトの力は、桜花結晶に依存する。桜花決闘時、結晶の舞い散る神座桜の下で対峙するミコトたちは、基礎的な身体能力然り、メガミの力然り、その力を最大化させることができる。逆に、結晶が乏しい場所では、ミコトは一般人よりも少し能力が高い人間でしかない。
             龍ノ宮はミコトの中でも特にその力の最大値が高い。けれど、あくまでそれは最大値。敷地内に桜があるとはいえ、離れたこの自室ではその力を存分に発揮することは叶わない。
             彼が顕現武器ではなく、実物の鉄槌を振り回しているのもそれが原因だ。メガミの力を借りることすらままならないのに、どうして武器を顕現させられようか。

             

             だが、だからこそ、龍ノ宮はすぐにその不吉さの源泉に思い至れなかった。

             

            「こんな場所でそんなもん振り回すたぁ驚きだ。どちらのメガミ様のお力かな?」

             

             確信を持って、彼は刺客へ問かけた。
             龍ノ宮と同様に全力とは程遠い動きであろうにも関わらず、彼女が持つ決定的な優位。
             まるで彼女が投げる針は――いや、おそらくはそこに塗られた毒は、きっとメガミの力を引き出すことで生まれた劇物に違いなかった。
             最強のミコトですら疑わざるを得なかった、桜の下以外での象徴武器の顕現。

             

            「ふっ、ふふっ……。わ、わかりますぅ?」

             

             さぞ嬉しそうに。
             まるで自分そのものを無限に肯定してもらったかのように、少女は顔を引きつらせたまま恍惚とした表情を器用に浮かべていた。
             そして一本の針を、手袋越しに弄びながら彼女は続ける。

             

            「ホロビはいつも千影のことを見てくれているんです。今もですよ、きっと、必ず。千影みたいな子を助けてくれるなんて、ホロビはなんて優しいんでしょう。こんなメガミ他にいますかね? いませんよね? いるわけがないんです。こんっっっなに親身になって協力してくれるなんて……」
            「ホロビ……死を象徴するメガミ、だったか」
            「そうです、よくご存知ですね。でも知っていて欲しくはありませんでした。なんであなた、知ってるんですか。知らないでおいてくださいよッ!」

             

             突然激昂する少女・千影に、龍ノ宮は口を閉ざした。
             彼にはホロビを宿したミコトと決闘をした経験があったが、それも片手で数えられるほどのもの。実際のところ、把握している者の少ない、使い手の限られるメガミである。

             

            「……でもまあ、知ってたところであなたは千影とホロビに殺されるんです。千影が得意なことって知ってますか? ……毒ですよ、毒。毒づくり。針に塗った毒は、千影が丹精込めて作ったものなんですから、ちゃんと味わって死んでくださいね」
            「毒、ねえ」
            「もう気づいてると思いますが、千影が使った毒は二つあります。一つはごく普通の、あなたならもしかしたら死ぬかもしれない毒。そしてもう一つは、じっくり、じっっっくり、一滴ずつ一滴ずつ、千影を通してホロビの力を抽出した『滅灯毒』――誰だろうと絶対に死ぬ毒です。死そのものを形にした毒ですよ!? こんなの、ホロビと千影にしか作れません! ああ、ホロビありがとう……あなたのおかげで、千影はまた死なずに済むかもしれないんですから」

             

             

             うっとりと、おそらくはその『滅灯毒』が塗られているであろう針先を撫でる千影を見て、龍ノ宮はこれ以上の会話は不要だと判じた。
             彼女は、異様であり、不吉であり、そして異常だと理解したのだ。

             

             身のこなしや技の完成度はまだまだ未熟。きっと決闘であれば、龍ノ宮が圧勝してしまうだろう。けれど彼女は、最強のミコトですら力を引き出せない環境下にさえ、メガミの力を持ち込むことにさえ成功している。
             メガミの力を引き出すには、メガミと心を通わせる必要がある。大抵のミコトが完全には成し得ずに終わるそれを、依存という歪んだ形ではありこそすれ、達成して力を使いこなしている。龍ノ宮の知る限りにおいて、同じ若さでこれほど力を使えるミコトはいなかった。

             

             死という抽象的な力すら毒という形に落とし込む、毒使いの暗殺者。
             その精神も、その才も、その技能も、彼女にまつわる全てが異常に見える。
             そして常と異なるということは、ミコトとしての力を十全に発揮できない身であっても襲撃者は撃退できるだろう、という普段の考えを改める必要がある。

             

            「気合入れるとすっかなァ……」

             自分に言い聞かせるように呟いた龍ノ宮は、さらに強く鉄槌を握りしめた。

             

             

             


             注意すればよいものが分かってしまえば、対応するのは容易い。たとえそれが致命の一撃であったところで、当たらなければ意味がない。

             

            「っはァ!」

             

             決して大振りになって隙を晒さぬよう、けれどまともに当たれば骨の一本を持っていけるような力強さで、龍ノ宮は鉄槌を振り続ける。
             自身で飛び道具を使う龍ノ宮は、当然その弱点も知っている。予備動作の暇がないほどに肉薄されてしまえば、打つことも許されずに防戦を余儀なくされる。ましてやミコトとしての力ではないとはいえ、鍛え上げられた大男の振るう全力の鉄槌が、線の細い少女に当たればどうなるかは火を見るより明らかだ。

             

            「あっ! いやっ!」

             

             間一髪避けるたびに悲鳴を上げる千影。襲った側というのが嘘のように、その顔には怯えがありありと浮かんでいる。鉄槌という分かりやすい死に恐怖しているようだった。
             龍ノ宮とて命のやり取りである以上容赦はしていない。避ける千影だって、か弱い女の子のような避け方ではなく、身体の軸をずらしたり、捉えたかと思えばいつの間にか数歩分後ろに居たりと、こうした立ち回りに慣れている者の動きをしている。だからこれは、間違いなく、互いにとって殺し合いだった。

             

             しかし同時に、殺し合いだからこそ、定石は心の拠り所にはなりえない。

             

            「くそッ、おらッ!」
            「は、はは……」

             

             恐怖の臨界を超えたらしい千影が、口から乾いた笑いをもこぼし始める。それに龍ノ宮はさらに不吉さを覚え……そしてこともあろうに、焦燥も覚えた。
             死者が笑っているような、相手をしているのが愚かしく思えてくるような、錯覚。
             死に怯えるあまり、死そのものになって襲ってくるかのような少女。
             そんな相手に対して、今のままでよいのか、と。

             

            「大人しく――」

             

             それを払拭するために繰り出したその一撃は、あまりに正確で、強烈だった。

             

            「しろってんだッ!」
            「ぐぎゃっ……!」

             

             その強烈さ、生身の少女が盾にした左腕を砕いてなお勢いあまるほど。
             その正確さ、腕を犠牲にせねば真っ直ぐ頭蓋を砕いていたほど。
             決闘であれば、決着がついたことに何者も異論を挟めぬほど痛快な一撃。

             

             ……だがそれは、あまりに正確に過ぎ、強烈に過ぎた。
             だからこそ、死中にあってなお彼女はそこに見出す。己の生きる道を。

             

            「ぅふぇっ……」

             

             打撃が成された直後、悲鳴の陰にこぼれた千影の笑い。龍ノ宮はそこで、己の失策を悟る。
             確かにこの全力に近い一撃は、相手を最低でも戦闘不能、よければ殺すほどのものだった。
             けれどその理想的な攻撃は、理想的であるからこそ狙いを相手も理解できてしまう。
             致命の一撃を必ずかわす程度の余地を、常に用意しなければならない状況で、だ。

             

            「……っ!」
            「うっ! ぐぇっ……!」

             

             肌を指す痛みと、千影が窓際の壁に叩きつけられたのは同時だった。
             龍ノ宮が目を向けたのは、己の左太腿。

             

             ぷらん、と。
             異様で、不吉で、異常な力を纏った針が、まるで冗談のように、自重に耐えきれずに肌から垂れ下がるようにして生えていた。

             

            「…………」

             

             さしもの彼も、それには言葉を失うしかなかった。
             ほんの少し力を入れれば針は自然と落ちる。だが、その代わりというように足から力が失われ、鉄槌を杖代わりに膝をついた彼は、月明かりを背にした刺客の声を聞く。

             

            「ひ、ひひ……ホロビ……やり、ました、よ。できた……できたんです、千影は……」

             

             だらりと左腕を下げた千影の顔は、鬱屈した歓喜の笑みで歪んでいた。

             

            「できた……! 千影は、千影はぁ……ぁあっ、死ななかったッ! いひ、いひゃははは!」

             

             狂ったように喜んだ千影は、障子窓を残った右腕で突き破ると、そのまま外へ飛び出し逃げていった。
            しばらくは夜闇に響いていた不気味な笑みも彼方へ消え、本当の静寂が取り戻される。

             

            「はぁ……」

             

             致命の針を退け、針の刺さっていない畳に大の字に寝転がった龍ノ宮は、冷静に事実を反芻していた。
             暗殺者の毒に対する自信は本物で間違いなかった。
             体内にある結晶に加え、自分の存在が削られていくような喪失感が彼を支配している。
             即死は免れたらしいし、とりあえず身体もまだ動く。だが、戦いに身を置き続けてきた龍ノ宮には、幸か不幸か自分の具合を把握する程度の能力は備わっていた。

             

            「やっちまったなあ……」

             

             もって、明日の朝。
             まだまだ色々な楽しみが残されている男にとって、それはあまりにも短い余命であった。

             

            「しゃあねえか」

             

             かか、と力なく笑った龍ノ宮からは、それを境にして欠片ほどの悲壮感さえも見受けられなくなった。
             彼が考えるのはただひとつ、残りの時間で自分にできること。
             配下の者を混乱させないためにも遺書は要るが、それはあくまで事務的なものだ。必要な内容も限られている。
             ならば後は――

             

            「一世一代の大勝負、ってか。たまんねえなぁ、おい!」

             

             最強の男は、未来ある者へ遺すことを止めなかった。
             ミコトとして、桜の下に在る者として、次へと繋いでいくことを。
             決闘を通じて、己が絶えてしまわないうちに、己を光明とするべく。

             

             それからしばらくして、眠らずに夜明けを迎えた龍ノ宮は、桜の下で天音揺波と相対する。
             人生最後の決闘を、未来に刻み込むために。

             

             

             

             さてさて、これが物語の裏面。
             まだ納得しきれない部分もあるだろうが、それは次回までお待ちあれ。
             前回が表、今回が裏ならば、次回は舞台裏とその先を語ろうじゃあないか。

             

             

             そしてもう一つ。今は彼女のことを語るとしよう。

             

             闇昏千影。
             この物語を動かす、英雄の一人。
             その歪な在り様は、君にとっても印象深いものじゃあないかな。

             

             天音揺波や氷雨細音と違い、彼女は正道にない、邪道にして負の英雄だ。
             しかし彼女もまた、この物語の中心人物。
             因縁の中で足掻き、そしてその末に、何かを掴みとるだろう。

             

             そもそも、これは桜降る代を作り出した一大英雄譚だ。
             かつてないほど英雄が生まれ、そして戦いの果てに完成されていった。
             天音揺波、氷雨細音、闇昏千影、そしてまだ語られぬあと一人。
             どういうことか、君ならもう察しているんじゃないかな?

             

             


             そういうことだよ。
             さあ、彼女の生きる道に、どうか喝采を!

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             


             即ち、この物語の末には四柱のメガミが誕生することになる。

             

             とはいえ、彼女は今回の一件によりメガミになったという訳ではない。
             龍ノ宮一志の暗殺。これは一大事ではあるが、まだまだ彼女の器は未完成だ。
             彼女の物語はこれからも続く。歪んだ英雄が何のために生きて、何を求めるのか。
             その行く末も、お楽しみあれ。

             


             おおっと、それから最後にもう一つ。
             最初の最初に、この物語は全五巻からなると伝えたはずだ。
             次回で、第二巻にあたる物語は終わりを告げる。
             そして氷雨細音との最後の決闘を伝えるまでを「序章」とするならば、これまで語ってきた物語は、いわば「第一章」だ。
             さあ、ひとつの物語の終わりだ。最後まで、お付き合い願うよ。

             

            語り:カナヱ
            『桜降代之戦絵巻 第二巻』より
            作:五十嵐月夜  原案:BakaFire 挿絵:TOKIAME

             

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