『桜降る代の神語り』第39話:世界が反転するとき

2017.10.27 Friday

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     影の仕掛けた挑戦は、一般的な挑戦とは少しばかり異なっていた。三対三。元来にして壮絶なメガミへの挑戦が、驚くべきことに三つだ。まさに豪華、そして絢爛。どの戦線も目まぐるしく乱動し、結晶が舞い散っていく。
     ああ勿論だよ。すぐにでもその戦いを語ろうじゃあないか。

     

     

     

     

     弓矢という武器は、一対一における圧倒的な有利を約束してくれる。だが、それはあくまで使い手の優位をさらに保証してくれるだけであって、対等の立場から無条件に勝利をもたらす類のものではない。
     静かに、一方的に仕留める。まさに狩りのため武器。
     決闘の場で用いるには、使い手の力量がより求められる。

     

    「……っは!」

     

     取り回しやすい小型の弓から、二本の空色の矢を一度に放った浮雲。そのうちの一本はライラの右脚を貫通し、桜吹雪を散らせたが、浮雲の顔に余裕の色はない。
     それは、射手が常に気にかける矢の残りが故か。いや、違う。メガミ・ミソラの力を凝縮して織り上げられた矢は、意思が尽きぬ限り狩人に供給され続ける。
     それは、射手が常に保つべき彼我の距離が故か。いや、少し違う。決闘の場において、狙撃手が至近されるのは真理であり、それまでにいかほど傷を与えられるかが焦点となるからだ。

     

    「ちぃっ!」
    「うん、いい」

     

     すかさず放った二の矢を、ライラは避ける素振りすら見せなかった。むしろよく当てられたものだと感心を示してすらいる。
    そんなライラへ向け、次の矢をつがえた瞬間だ。

     

    「……!」

     

     獣が、視界から消えた。
     否、あまりにも速く、獣の姿勢となって、あと一矢放つだけの余裕があった間合いを一瞬で詰めたのである。
     瓦の上へ散り積もっていた結晶が、遅れて吹き上がる。

     

    「おぉッ……!」

     

     下から躊躇なく喉元を狙った爪撃を、浮雲は咄嗟に顕現させた左の鉄拳で逸らす。頬を掠めたライラの爪の軌跡から、ばりばり、と雷が空間を裂く音がする。
     相手が常識的な相手ならば、射手は相手が自分の下へ辿り着く前に、致命の一撃すら入れることができるだろう。しかし今、浮雲が相手取っているのはメガミであり、風を権能に持つライラである。
     速すぎる。そんな暴力的なまでの単純な性能差が、彼女に早くも弓を捨てさせるに至った。

     

    「――くぅーっ!」
    「すごい」

     

     ライラの短い賞賛は本音だ。人間の狩人どころか、並のミコトですら風のように疾走る彼女を射ることは難しい。ライラは避けなかったのではなく、そもそも当てられるとは思っていなかったのである。
     弾かれた爪を無理に戻すことなく、後ろへ反らされた腕についていくように蹴り上げる。宙を回るその一撃に浮雲は慌てて右の鉄拳を合わせ、吹き飛ばすように弾き飛ばした。
     ライラは全身のバネをふんだんに使って受け身を取り、風を纏いながら間合いを離した。

     

    「でも……だめ。あれ、よくない。だから――」

     

     再び弓を使うべきか。一矢分作れた間合いに、浮雲は思案する。
     だが、そこに割り込むのは、

     

    「オ、オォォォォォォォォァァゥゥッッッ!!!!」
    「……!?」

     

     動物じみたライラの叫び。自然に生きる者に本能を呼び覚まさせるその声は、彼女の同胞たる風と雷を呼んだ。
     今や彼女は、雷雲纏う竜巻の如く。

     

    「全力、やる」

     

     息を呑んだ浮雲は、拳をしっかりと前に構えた。

     

     

     

     


    「んぬぁッ!」
    「……ふん」

     

     交差と共に繰り出した架崎の爪撃は、軽く掲げられたコダマの拳に弾かれる。作り出した氷の地面を滑ることで速度を稼いでいた彼は、無論体勢を崩され隙を晒してしまうが、コダマの追撃はない。

     

    「あ、ぐ……はぁ、はぁ……」

     

     架崎は、己に有利な状況を確かに作り出している。そして活かした攻撃もできている。
    だが、相対するコダマは、傷の一つもなければ、汗一つかいていない。
     それどころか、不動。

     

    「くそ……おぉっ……!」
    「どうした? 終わりか?」

     

     間合いを測るように周囲を滑っていく架崎を、腕組みをしたまま無感情に目で追うコダマの姿は、凍土の中心にあった。
    彼がこの場を作り出して以来、彼女は一歩も動いていない。
     凍ったままの素足が、それを証明している。

     

     斯様にして、あえて攻撃を受ける構えを見せるコダマに対し、切り裂かんと何度も突撃を敢行していた架崎であったが、未だ有効打はない。むしろ、試行を重ねるごとに対処されやすい単調な攻撃になってしまっていた。
     彼の戦いは、翻弄を基本とする。慣れない氷の足場に気を取られた相手に、滑走しての高速攻撃を繰り返すもので、よほど対応力のあるミコトでなければろくに刃を合わせることなく破れていくだろう。

     

    「薄弱」
    「は……?」

     

     肩で息をする架崎に対し、コダマはぽつりとそう言った。
     そして意図を汲み取れなかったと見るや、さらに付け加える。

     

    「お前の腕が泣いているぞ。それしきで、我が通せると思うか」

     

     だらん、と拳を下げるコダマの声色には、若干の諦めが乗っていた。

     

     翻弄を得手とする者は、如何に野分であっても大きな山を動かせないのと同様に、小揺るぎもしない相手に対面したとき、相手ではなく自分自身に翻弄される。風は確かに時には人を吹き飛ばせるが、山にぶつかった風は、自ら散っていくものである。
     架崎は、自分が築いた優位が優位でもなんでもないことを悟ってしまった。行く手を阻む山の大きさに気圧されてしまっていた。

     

    「ぐぅぅぅぅぅ……!」
    「来い。力は、考えるより前に手の中にある」
    「くそぉぉッ!」

     

     挑発ですらない誘いに、一直線に滑走を始める架崎。両の手の爪の狙いをコダマに定め、すれ違いざまの一撃ではなく、真っ直ぐな一撃を狙う。

     

    「ッッぁあああああッ!」

     

     動かないコダマの腹へ、右の爪を突き上げる。動かないままだとすれば、正中への打撃は必ず拳で弾かれる。しかも一直線に突っ込んでいるため、速度の乗った体当たりも同時に迫ることになる。彼の狙いはそこにあった。
     垂れ下がっていたコダマの両手が、腹の前で構えられた。受け止める動きである。
     それを認めた架崎は、すかさず、

     

    「おぉぉッ……!」

     

     先行させていた右手を追うように、左手でコダマの顔面を狙った。左右に避けるしかない、上下同時攻撃。
    陽動たる右手は、コダマの両手によって抑えられた。
     そして左の爪による一撃は、今ここで成され――

     

    「ふんッ!」
    「――!」

     

     勢い良く振り下ろされたコダマの額が、架崎の爪を叩き落とした。受けて余りある力をまともに浴びた彼の左腕は、瞬く間に氷の地面へ突き刺さる。
     そして、掴まれていた右の爪を中心にして半ば宙に浮いた彼を、桜の光を纏ったコダマの拳が打ち据える!

     

    「はッ!」
    「が――」

     

     大量の結晶を散らせながら、氷上を吹き飛ばされていく架崎。辛うじて保っていた意識をつなぎ合わせ、どうにか敵から目を離さずにはいられたが、その目には恐怖の色すら滲んでいる。

     

    「もう十分か?」

     

     その視線の先にあったのは、拳を突き合わせ、氷を噛み締め歩み寄る、力そのものだった。

     

     

     

     


     爪と鉄拳であれば、打ち合わせた際に小気味よい音が鳴るのは道理であろう。

     

    「ふっ、ぅぐッ……」

     

     だが今、浮雲が鉄拳で捌いているのは、ライラの爪だけではない。その拳、その脚、体術とも呼べない野性的で獰猛な一撃が、瞬き一つの間に何発も襲い掛かってくる。
     一発打てば、風より速く。二発打てば、雷より速く。
     本命の爪撃以外であっても、次第に風雷そのものと化していくように加速していく攻撃は、決してミコトが捌ききれるものではなかった。

     

    「ちッ!」

     

     浮雲にどうにか対応を可能にさせているのは、背中に生えた、晴れた空に桜色を溶かし込んだ色合いをした猛禽の翼。四肢だけでは追いつかない姿勢の制御を賄うそれは、交わした爪撃から間髪入れず繰り出された回し蹴りを回避すべく、浮雲を後ろへ運ぶ。
     しかし、獣は獲物を逃がさない。

     

    「だめ」
    「ちょ――」

     

     瓦の上にも関わらず、回し蹴りの最中だというのに、ライラは軸足で前へと踏み切った。届いてしまった蹴りを受け止め切れなかった浮雲が城壁の上を転がった。
     如何に空を飛ぶ手段があったとして、飛び立つ前に捕まえられてしまえば意味はない。しかも、飛び立てたところでライラにはここへ接近してきた際の強烈な旋風がある。本来一方的に有利な間合いを作るはずの翼も、追い詰められた浮雲を必死に支える手足でしかない。

     

     跳ね起きた浮雲は、ライラのいる方向へ向け、己を守るように腕を翳した。同時、更に距離を取ろうと試みるべく、翼を力強く羽ばたかせようとし……その甘えが通らないことを、悟った。
     音を置き去りにしたライラが、眩く発光するほどに雷を纏った爪を、目の前で既に振りかぶっていたからだった。

     

    「終わり……!」

     

     それはもはや、切り裂くというよりも、叩き落とすと言ったほうが的確だった。
     目にも留まらぬ速さで振り下ろされたライラの左の爪は、宙に浮きかけていた浮雲の肩を強打し、城壁の上から敷地の中へ叩き落とした。地面を何度も跳ね、その度に結晶を吹き散らせ、止まった頃には彼女の鉄拳もまた消え失せていた。

     

    「あッ……が――!」

     

     そして浮雲の後を追うように、吹き飛ばされた架崎が顕現させた靴と爪を花と散らせ、土の地面を転がった。

     

    「はは……まい、ったね……」
    「う、ぐぐ……これでは……」

     

     強すぎる。メガミの力をその身に叩き込まれた二人は、それでもまだ起き上がれることに呆れた。己の耐久力にではなく、動ける程度には加減をしてくれたメガミに。
     この調子では主も同じ道を辿っている――そう失意に襲われた架崎だったが、

     

     

     

    「驟雨……様……」
    「やはりお前たちでは厳しかったか」

     

     彼の目に写ったのは、影を寄せ集めたような大鎌を、地に伏すミズキに突きつける驟雨の姿であった。

     

    「なん、で……ですの……」
    「相性が良かった……その一言に尽きるでしょう」

     

     言葉では敬意を示す驟雨は、にやにやと倒れるミズキを見下ろしている。不思議なことにミズキの鎧兜に激しく傷つけられた形跡はない。むしろ、余裕を見せてこそいるが、息が上がり、大きく着崩している驟雨のほうが追い込まれたように見える。

     

    「ミズキ、情けないぞ」
    「ですが……」
    「コダマ、今、話違う。次、こいつ」

     

     城壁からライラが降り立つと、戦いの中で散っていった結晶がぶわりと巻き上がる。ミズキを見据えたまま翁玄桜のほうへとゆっくり後退していく驟雨を睨みつつ、負けた鎧の少女へ駆け寄った。
     ミズキを倒したところで、まだ二柱が健在である。挑戦の枠組みに則ったところで、その事実は変わらない。

     

    「まだやるのか?」
    「らい、容赦、しない」
    「おお、怖い怖い。流石の私も、メガミ様方相手に戦い抜けるほどの自信はございません」

     

     ただ、その状況下にあって驟雨は、薄く笑みを浮かべるほどに、未だ余裕だった。
     それどころか、そのまま次の戦いが始まってもおかしくないというのに、顕現武器であろう大鎌を手中から消した。さらさらと風に流れていく塵は、他のそれよりも色褪せた結晶の塵であった。

     

    「だから……私はもう何もする必要がない。命がけのお膳立てとは肝が冷えた」

     

     はん、と鼻で笑った驟雨。
     何か策がある。そう受け止めたコダマとライラは、一歩、踏み出す。場合によっては有無を言わさずに殺す覚悟で。

     

     ――故に、二人は、気づけなかった。

     

    「我々の切り札は……どうにも大食いなものでね」

     

     背後。
     ず……、と。彼女たちの死角の地面から、影法師が、這い上がった。
     それは、三つの決闘によって大量に生じ、地面に散らばった桜花結晶の塵が、ひとりでに寄り集まってできたような、灰の髪の少女。

     

    「後ろですわ……!」
    『……!?』

     

     ミズキが叫び、口端を釣り上げ嗤う驟雨を尻目に振り返ろうとするライラとコダマ。
    だが、それでは、遅い。

     

     無感情で、か細い、少女の声が――

     

    「―― 灰滅 ヴィミラニエ

     

     

     全てを吹き飛ばすような威力はなかった。
     風を、雷を、追い越すような速度はなかった。
     ただそれは、少女の言葉を皮切りにして起きた自然現象のように、一瞬で、絶対的な、変化をもたらした。

     

    「あ、が……」

     

     ライラの身体は、内側からばらばらになって砕けてしまいそうな衝動に襲われていた。顕現体を直接破壊されたときのようなそれではなく、顕現体を構成するのに必要な結晶の力が尽きかけているような、そんな喪失を覚える衝動。
     目の前に、その大きな供給源である神座桜があるはずなのに。
     混乱したライラは、背後から現れた新手すらろくに目に入らないまま、必死に自分の身体をつなぎとめようと試みる。

     

    「ら、イラぁ……お前、の……足なら……」
    「コダマ……!?」

     

     と、隣で同様に息を荒くしていたコダマが、ライラの腰に手を回す。
     不穏な動きに灰の少女は、驟雨と同じ影色の大鎌を瞬時に生み出し、振りかぶる。
     だが、脚の筋肉を盛り上がらせたコダマの凄まじい踏み込みが、大きな揺れと風圧と生み出し、少女の体勢を崩す。

     

    「ぁ……」
    「逃げ、ろぉぉォォッ!!」

     

     そのままコダマは、ライラの身体を彼女が戦っていた城壁の外まで投げ飛ばした。
     そして、その残身すらろくに保つことなく……コダマの身体は、桜と散った。

     

    「う、そ……」

     

     目の前で消えていったメガミの姿に、ミズキの焦点は落ち着かない。
     顕現体の消失は人間の死とは違う。あくまで仮初の身体が消えただけに過ぎない。
     だが、たった一撃だ。
     顕現体を崩壊させる、常識の埒外にあるただ一撃。それが、目の前で繰り出されたのだ。

     

    「くくく……ふ、ふふ……どうですか、ミズキ様」

     

     こみ上げる笑いをわざとらしく漏らす驟雨が、倒れ伏すメガミへ歩み寄る。その道すがら、コダマがいた場所に積もった結晶の塵を、これみよがしに蹴り払う。
     ミズキは侮辱的な行いに牙を剥こうとしたが、それより先に彼女の兜の角を乱暴に掴み上げられた。

     

    「いっ――離、しなさい……!」
    「何をおっしゃるのですか。私は、あなた方に挑み、勝った。だから私は私の為すべきを為し……それをミズキ様のご覧に入れようとしているだけなのですから。何、ご安心ください。ご友人のように、無理やりお帰り願うことはありませんから」
    「あの、メガミ……ウツロ、って……」
    「ああ、ウツロですか」

     

     屈んで、声の上ずるままにミズキへ敗北を突きつけていた驟雨は、ミズキの問を受けると、一度視線を外し短くクルルを呼んだ。それに応え樹上から駆け寄ってくるクルルは、両腕で大きく丸を描いている。
     それを見てさらに歪な笑みを強めた驟雨は、コダマを倒したきりぼうっと立ち尽くしているウツロを横目に、

     

    「皆さんよくご存知の、あのウツロです。今や素晴らしき我々の仲間ですよ。彼女の力がある限り我が覇道に敵はない……たとえ、メガミであったとしても」
    「……! おまえ、何を――」
    「ほいほーい。ばっちしちゃんちゃんなので、ちょーど組み立て完了致しまし! いつでもいけるぜぃ!」

     

     傍までやってきたクルルによって、ミズキの言葉は遮られる。
     クルルの手には、中心がせり上がった小さな小箱が握られていた。興奮ぎみで親指を立てる彼女の眼中に、非道な扱いを受けるミズキの姿はない。

     

    「では、始めよう――さあミズキ様、ご覧あれ!」

     

     クルルはそれを、驟雨の深い頷きを受けて、押した。

     

    「おっひょー☆」

     

     がたり。ごとり。かたかた、カタカタカタ……。
     一つの歯車が二つの歯車を回し、三つが六つを、十が二十に。そして大樹の表面を覆うあらゆる歯車が鳴動した直後、今までゆっくりと時を刻んでいた樹を囲む巨大な歯車が、息を吹き込まれたようにその速度を増した。
     やがて歯車の音が大きな一つの曲のように秩序を生むに連れ、樹が、歯車が、美しくも不自然でしかない、歪な光の胎動を孕んでいった。

     

    「おぉ、おぉ……! これが私の野望を叶える光! なんと美しい、なんと神々しい! これがあれば、私は、全てを手に入れられる! ああ、讃えよ! メガミの御業を! その叡智の結晶・神渉装置の名を!」

     

     叫ぶ驟雨に無理やり顔を上げられたままのミズキは、絶句し、目を見開いていた。これが実際どういう原理で何をもたらすのか、それは分からない。けれど驟雨が賞賛するそれが、ライラの予想通りおぞましい代物であると、胸の奥から湧き上がる異様な喪失感が示していた。
     と、そんな感覚も、突然途絶えた。
     いや、それどころか、ミズキの全ての感覚は、糸が切れたように失われた。全身の力は失われ、その瞳の光もまた失われた。

     

     そして喝采を叫ぶ驟雨を他所に、ミズキは、桜の塵となって消えた。
     その瞬間を目撃したのは、それが心底どうでもよいと言わんばかりの、灰の髪の少女・ウツロだけだった。
     驟雨が消失に気づいたのは、興奮の中、手に重みがなくなったからだった。

     

    「ふ……はっ、はは、ハハハハッ! あっけない! あっけないぞメガミ! それが……人々に崇敬される偉大な存在か!?」
    「うにゃ? みずきんったらもうばいばいしちゃった!? 人気者ですぅ!」
    「――ああ、そうだ。だからこそ! だからこそ貴様らは、我が覇道の礎となる。メガミよ、私のような人間のために、ありがとう、さようなら。そして、ようこそ私の国へ!」

     

     そして、ミズキ消失の意味をクルルと分かち合った驟雨は、おかしくて仕方がないというように、たがを外し、消え去ったメガミにも聞こえるよう、高らかに笑い始めた。

     

    「…………」

     

     そんな、驟雨も、部下たちも、クルルも、一様に喜んでいる中、ウツロはたった一人、無感動にそれを見上げていた。
    完全なる神渉装置。
     世界を揺るがす大仕掛けが、立ち込めてきた暗雲の下、不気味に起動した様を。

     

     

     

     

     これこそが、その顛末。
     こうして、裏で結ばれた因縁は反転し、表へと姿を現した。
     こうして、個人から始まった野望は結実し、全世界を揺るがすに至った。

     完全なる神渉装置の起動。この一大事をもってひとつの時代は終わり、桜降る代に至るまでの狭間の時代が始まることになる。龍ノ宮一志が築きつつあった平定と繁栄に向けた時代は彼自身の死により綻びはじめ、そしてこの瞬間に終わりを迎えたのさ。

     平和に向かう明るい世界から、野望に支配された暗い世界へ。一目見て分かるような何かが変わったわけじゃあない。しかし、世界の流れは決定的に裏返ってしまった。
     慌てる必要はないよ。世界に何が起こったのかは、これからいくらでも物語ることができる。むしろ君にとっては、それよりも気になっていることがあるんじゃないかい?

     瑞泉驟雨。暗く深い野望を秘めた、狭間の時代の立役者。彼の立つ場所は影であれど、彼もまた英雄の資質を持っていたのさ。彼もまた運命に翻弄されながらも意志を貫き、そして力に選ばれていた。

     そう、この時代で彼は二柱ものメガミから、助力を得ることに成功していた。一柱目は君も良くご存じ。着想を象徴するメガミ・クルル。

     そしてもう一柱こそが彼女だ。
     影を操り、塵を象徴し、
     旧い時代に主神・ヲウカと対立し、
     そして姿を消したとされていたメガミ。


     彼女に何があったのかは、これからのお楽しみだ。この桜降る代に至るまでで、彼女のこれまでは語られ、そしてその在り方も明らかになるだろう。
     だが、それがまだ語られぬとしても――

     見よ! 彼女はもう、君のすぐそばに!

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    語り:カナヱ
    『桜降代之戦絵巻 第四巻』より
    作:五十嵐月夜  原案:BakaFire 挿絵:TOKIAME

     

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    『桜降る代の神語り』第38話:影の目覚め

    2017.10.27 Friday

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       天音揺波が今まで抱えてきた、一つの大きな因縁。
       メガミ・ハガネへの挑戦を経て無事解消と相成ったそれは、あくまでも表側に過ぎない。
       未だ彼女が真に至ることのない、炎の陰で結ばれていた裏の因縁。
       旅を通して垣間見てきたそれは、闇の中からじっと天音揺波のことを窺い続けていた。

       

       しかし――その因縁は、くるりと反転する。
       裏から表へ。
       個から全へ。
       この桜降る地全土を揺るがす一大事が、いよいよ奈落から姿を現したのさ。

       

       ここで君には、裏側の物語も語るとしよう。
       天音揺波とハガネの戦い……それと時を同じくして行われた、もう一つの戦いを。

       

       

       


      「ふっふふーん、くっくるーん、くるくるっくるーん☆ くるくるくるぅーっと。あーよしよし、いい子ちゃんですねぇ歯車ちゃんたちは仲良しでよろしい!」

       

       能天気な鼻歌を交え、木製の歯車を次々と組み合わせていくのは、想像と創造の化身たるメガミ・クルル。彼女の態度は、子供が竹とんぼでも作っているような、遊び心に溢れたそれ。だが、手がける物の規模は、文字通り人間が地上から見上げるほどであった。
       翁玄桜。瑞泉城を厳しく見守り続ける、半町もの樹高を誇る大神座桜は今、灰色の雲の向こうの太陽へ伸ばしたその幹を、数多の歯車で覆っていた。

       

       クルルが現在作業を行っているのは、落ちたらまず助からないような翁玄桜の中腹。地上で技師たちが組立作業に奔走する一方、老獪のように曲線を有する桜を器用に登りながら、彼女は一人で膨大な部品の取り付けを行っていた。

       

       

      「三二七番から三九九番までよーし! 四〇一番から五一二番までよーし! さあさあ、今度はおっきいお友達ですよぉ。四〇〇の大判行っちゃいましょー! ――おぉい、下見といてくださいねー!」
      「〇三番から〇五番だ。計測班は配置につけ!」

       

       クルルの言葉を受け、地上の瑞泉驟雨は指示を飛ばす。語気を荒げてしまうのは、決して苛立っているわけではない。不必要なまでに翁玄桜を見上げる彼は、来るべき時を前にしてらしくないほどに浮足立っているのである。

       

      「連結、問題ありません!」
      「わっほう☆ ヨン、マル、マル、どーん☆」

       

       クルルは地上からの返答を受け、地上に安置されていた一際大きな歯車を三度指差してから、最後の掛け声と共に自分の足元――桜の幹を両の人差し指で指し示した。
       すると、その歯車は次の瞬間には、翁玄桜を中心にして回っていた。一瞬、がくり、と重さに引かれて落ちかけたが、すぐさま浮力を得たように安定し、クルルによって取り付けられた歯車の鎧の隙間をなぞるように何かを刻んでいく。

       

      「おーぅ、くるくるしてます! くるくるぅー!! そっちもくるくるですかー!?」
      「四〇〇番、結合問題ありません!」
      「おぉ……!」

       

       報告に色めきだつ驟雨とその配下。各々、あと一歩という感慨をさらに糧とし、残った作業へと向かっていく。

       

      「いよいよ……いよいよかッ……!」

       

       そんな興奮に包まれた城の敷地内、桜に一番近い城壁の上で守護の任に就いていた 架崎宗明 かざきそうめい は、目を向けるべき外側ではなく、作業の進む内側へと目を奪われていた。興奮のあまり、涼やかな曇り空にも関わらず、はだけた傷だらけの上半身からは湯気が立っている。
       隣で瓦の上に片膝立ちになって弓を携える 浮雲耶宵 うきくもやよい も、目線こそ城外の町と林に注いでいたが、異形の装置と化していく翁玄桜に意識が割かれていないと言えば嘘になる。各所に配置されている守護も、多かれ少なかれ似たようなものであった。

       

      「はー……ほんと、どうなっちまうんだろうねえ。いや、どうしちまえるんだろうねえ」
      「なんだ。事ここに至って疑念を抱くのか?」
      「いんや? あまりに大それたことだから、起こすことも、起きることも、一度頭に収めたはずなのに、酒に任せて出てきた絵空事なんじゃないかって脳みそが言って聞かないのさ」

       

       呆れたように弓の端でこんこん、と叩く。
      そんな浮雲に、架崎は込み上がってきた笑いを噛み殺して言った。

       

      「だが、現実だ。そして、驟雨様の描く未来だ」
      「あぁ……そうさ――、……!」

       

       浮雲の同意は、けれど最後までは成されない。
       突然素早く矢をつがえた浮雲は、迷うことなく城外の一点を射た。風を切る音で変化に気づいた架崎が矢を目で追うと、その先にあったのは、林から飛び出してきた人影であった。
       矢は距離を物ともせず、吸い込まれるように人影へと走る。だが逆にその人影は、むしろ一直線に浮雲たちへ、そして矢へ向かってきているようであった。
       そして矢が刺さるか否かという瞬間、人影は地を蹴り、宙で猛烈な捻りを生んだ。

       

      「こりゃあ……!」

       

       そこには旋風があった。
       城内に詰めていた者たちが、思わず地に足が着いているか確かめてしまったほどに、強烈な旋風が場を駆けていった。言うに及ばず、浮雲の放った矢などどこかへ失せていた。
       顔を覆ってしまった浮雲は、元いた場所に人影が見当たらないことを悟る。
       そして、

       

      「……おいおい」

       

       その人影は、人のカタチをしていながら、人ではないということもまた、悟る。
      旋風と共に駆け抜けてきたソレは、四つの手足をついて、城壁の上で隠すことなく敵意を振りまいていた。

       

      「らい、見つけた。嫌な感じ……違う、これ、悪い。ここから、変」

       

       所々雷じみた色模様の差す長い黒髪と、紅い腰巻きをなびかせて、異様な神座桜に嫌悪感を抱いた女。その耳……頭頂部に一対生えた狼のような耳は、この場の音全てを拾うようにぴんと張り詰めている。手に装着した雷色の爪は、稲妻の如く鋭い一撃となるに相違なかった。
       不用意に動けば、その瞬間に噛み殺される。力なき者がそんな空想を抱いてしまうほどに、たった一瞬で、この場の力関係は証明された。

       

      「ライラ……様……!」

       

       その例外の一人である架崎は、苦虫を噛み潰したような顔で、彼女を――風と雷を権能に持つメガミの名を呼んだ。
       ライラは架崎に気づくと、それから表情一つ変えずに翁玄桜と架崎を交互に見た。その間、じりじりと間合いを取る浮雲も視界に入っていたが、気にかける様子もない。

       

      「架崎、腹ぁ括りな」
      「い、いや……しかし……」
      「それとも何か? 縁のあるメガミ様だから、説得してご覧に入れようっていうのかい? 知らない間に随分と弁が立つようになったじゃないか。なあに、世間話でもしてれば、起動を待ってお帰り願うくらいには時間が潰せるだろうよ」

       

       発破をかける浮雲も、血を見ずにはいられないだろう展開に冷や汗が止まらない。饒舌になっているのは彼女のほうだった。
      話し合いの余地もないメガミ相手に時間を稼ぐ。
       それがどれほどの難行であったとしても、二人にとってそれは仕事であり、同時、礎となる覚悟を示す場でもあった。

       

       だが、その覚悟は、大地を砕くような破壊音と共に揺らされることになる。

       

      「なんだ!?」

       

       桜の下にいた驟雨の叫びは、浮雲たちのいる北城壁にではなく、翁玄桜のある庭を囲むもう一方の東の城壁へと向けられていた。
      立ち上る土煙。それをゆるりと破って出てきたのは、二つの人影。

       

      「ライラの勘は流石ですの」

       

       一人は、小柄なのに大柄という、相反する娘。この城の姫と言われても納得してしまいそうな可憐な少女が、城を身にまとったような鎧と、天守の頂を思わせる兜を身に着けている。振る舞いも淑やかなれど、彼女の腕ほどもありそうな兜の二本角が、守ることによる確かな攻めの意思を主張してやまない。

       

      「ああ。壊して、帰ろう」

       

       肌の焼けた、筋肉質で長身の女のドスの利いた声が、城内を凍てつかせる。襟足に絞って一本に細くまとめた髪は、これほどの破壊を起こしたとは思えないほど静かに腰まで垂らされている。両手にはめた手袋は、ただ威力を求める純粋な意思の発露として、飾り気のない鉄の板で覆われていた。

       

      「うそ……だろ……」

       

       守護を象徴するメガミ・ミズキ。
       力を象徴するメガミ・コダマ。
       そして、風と雷を象徴するメガミ・ライラ。
       浮雲の口をついて出た本音は、焦りも恐れも吹き飛んだ先にある、唖然がもたらしたものである。

       

       メガミは、それぞれが権能を持ち、それぞれが何かの象徴となっている。それはつまり、メガミは強烈な個として存在しているということであり、メガミ同士の気質は基本的に似通わないということでもある。
       特別に好きでもなければ、特別に嫌いでもない。つまり、無関心。
       そんな、悪く言ってしまえば自己中心的なメガミは、メガミ同士での集団行動などまずしないというのが、人間メガミ双方にとっての常識である。

       

      「話、そっち、いい。らい、聞く。でも、納得、たぶんない」

       

       それが、三柱。それも、束ねられた敵意を持って。
       もはや厄災と表現してもおかしくない事態に、架崎の口は空いたままになっていた。

       

       と、

       

      「これはこれはメガミ様方お揃いで。ようこそ、我が城へ」
      「ぷーぅ! らいらいなんで邪魔しちゃうんですかぁ!? 今チョーーーーーーいいところなんですよ!?」

       

       桜から降りてきたクルルと共に、驟雨は悠々とコダマ、ミズキの前へと歩み出る。
       それから、城壁で構えを崩さないままのライラに対し、

       

      「ああ、お話を聞いていただけるのでしたらちょうどいい。話すこと? もちろんありますとも。ですからどうぞ、こちらまでおいでになっていただければ」
      「ここでいい。話せ」
      「おぉ、それはそれは。ではこちらから失礼しましょう」

       

       三柱に向かって代わる代わるあっかんべーを見せつけるクルルとは違い、驟雨は余裕をもって丁重に彼女たちへ接している。敵である以前に、敬うべき相手である――そう態度で示しているようだったが、頭一つ分目線の低いミズキの視線はさらに鋭くなるばかりだった。
       配下の技師を含め、全ての者が注目したと認めるや、驟雨はこう切り出した。

       

      「こうして三柱もお越しになった以上、もはや交渉の余地はありますまい。我々の行いが、あなた方への不利益になるという事実をまずは認めましょう」
      「案外素直ですのね」
      「この段になって、あなた方相手に言い逃れができるとは思うほど、私は楽天家ではありませんので。……が、かと言って、私のための私の行いを、あなた方のために諦める訳にはいきません」

       

       そこで、と言葉を継いだ驟雨は、大きく手を広げ、

       

      「伝統に基づき、今ここで偉大なるメガミ様方に『挑戦』をさせていただきたい」
      「……ほう」

       

       ぴくり、と黙って顰められたままだったコダマの眉が、興味をそそられたように動いた。

       

      「オレたちを乗り越え、我を通すか。……その挑戦、面白い」
      「受けるんですの!?」
      「コダマ、だめ。今、それ、違う」

       

       提案へ意外な反応を返したコダマに、ミズキとライラは焦りの表情でコダマを見やる。だが鉄拳を突き合わせ、完全に乗り気になった彼女を説得する方法は二人にはなく、それ以前にこの『挑戦』は状況に適っており、否定することもできなかった。

       

       メガミへの挑戦。それは古くから主にミコトによって行われてきたものであり、目的も様々である。己の限界を試す者、技を請うための試練とする者、技を認められるための儀礼とする者……内容が決闘とも限らないそれの根底に流れるのは、メガミへの請願である。
       興りを紐解けば、不漁や干ばつに対して救いを請うたことが始まりとされる。それから意味合いは変わりこそすれ、上位者であるメガミは人間の願いを聞いてやるものだ、という不文律には今も変わりない。

       

       ただ、挑戦の内容が腕試しばかりになり、そして決闘が廃れ始めた現在、挑戦を行う者はめっきり減った。そんな伝統をわざわざ持ち出してきたこと、何より腕試しを喜んで受ける側であったコダマは、単純にして明快なその結論に、好感すら覚えていたのだ。
      話を聞くと言った手前、ライラも強硬手段には訴えづらかった。それに、挑戦は概ねメガミの勝利に終わる。勝って、驟雨の意を挫けばよいだけなのだ。

       

      「……分かった」
      「全く、仕方がないですの」
      「それはよかった! では――」

       

       合意に至ったことにわざとらしく安堵した驟雨は、まずクルルに視線をやった。メガミにメガミを当てても問題はないが、当のクルルは腕でばってんを作り「ぶー!」と連呼しながら、組立作業に戻っていってしまった。
      そうなると、手近に居るのは浮雲、架崎の二名。

       

      「ふむ……架崎、お前はコダマ様の相手をして差し上げなさい。浮雲はライラ様に」
      「……御意」
      「あたしも腹括ろうかね」
      「そして私は……」
      「わたくしが遊んで差し上げましてよ。このミズキ、ミコト風情に一太刀も通すつもりはありませんの」

       

       一歩前に出たミズキが、その動きで鎧を軋ませる。
      その隣のコダマが、城壁から降りてくるよう架崎に顎で空いた敷地を指した。彼の背中を拳で送る浮雲は、そのまま城壁の上にてライラと対峙する。

       

      「さて……では、始めるとしましょう!」

       

       宣言と同時、驟雨に並ぶように、影が形を作っていった。彼の背丈ほどの長い柄に、化物がにたりと嗤ったような曲がった刀身。
      それは、鎌。草木を刈り取るそれよりも、遥かに大きく、そして影色に燃える、大鎌。

       

      「我々の意思を通すための、戦いを」

       

       メガミと対峙する驟雨の口もまた、不遜に、嗤った。

       

       

       

       影も大きくなり続ければ、いずれ姿を曝すことになる。それが暗く、そして恐ろしいものであれば、なおのこと隠し続けることはできない。
       影が一切の困難なく目的を成し遂げる、そんな都合のいいことがあるわけないだろう? 裏に潜んでことを進めようとも、知略の限りを尽くそうとも、いつしか意志を貫くべき時が来る。
       
       そう、瑞泉驟雨にとっては今がまさにその時なのさ。
       影もまた、強大なる存在へと挑む――

       

      語り:カナヱ
      『桜降代之戦絵巻 第四巻』より
      作:五十嵐月夜  原案:BakaFire 挿絵:TOKIAME

       

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      『半歩先行く戦いを』第3回:切札は秘めてこそ

      2017.10.27 Friday

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         こんにちは、BakaFireです。

         

         こちらの記事は本作の攻略記事の第3回となります。ルールは理解できているものの、今一歩勝利への道筋を掴みかねている方を対象として、理論立てられた基礎をお伝えしております。

         

         本シリーズは現在大会で活躍されているプレイヤーの中より、戦術の理論化、文章化に長けた強豪であるつきのみちさんに執筆して頂いております。それでは、早速今回も始めるとしましょう。

         


        著者紹介:つきのみち
        本作を発売から今日にかけて遊んで頂いている古株のプレイヤー。具体化された理論に裏付けられたプレイングと、丁寧なメタ読みを得意とする。2017年8月のコミックマーケット92では本作の攻略冊子を同人にて作成、頒布した。本作の攻略が理論に基づき、これほどの分量を持って文章化されたのはその冊子が初めてのことである。


         

        『半歩先行く戦いを』

        第3回:切札は秘めてこそ

         

        著:つきのみち

         

         

        ※今回はやや難しい話が含まれます

         

         今回は切札と圧力について考えてみようと思います。「切札」はご存知の通り、通常札7枚と別に構築を行いフレアを支払って使用する3枚の札です。「圧力」とは何か?それは後程説明することとします。

         

        1. 切札の基本

         

         切札の基本は「切札は先に見せるな、見せるなら更に奥の手を持て」というとある漫画の名言がそのまま当てはまります。先に発動することで持続的に効果を得られるものを除けば、基本的に切札は「自分のライフが0になる時」か、「相手のライフを0にできる時(正確には、自身の勝利を確定できる時)」以外には使わない方が良いです。その理由は以下の通りです。

         

        .侫譽△鮠暖颪垢襪海箸納らの行動の選択肢が減る

        攻撃札であれば、相手にフレアを与えてしまう

        切り札を公開することで情報を失う

         

        各々について少し詳しく説明します。

         

        .侫譽△鮠暖颪垢襪海箸納らの行動の選択肢が減る

         

         例えば自分がユリナを宿していると仮定したとき、自フレア6から「月影落」を使用したとします。こうして自分のフレアが0になった状態で相手にターンを渡してしまうと、自フレアが0のため「浦波嵐」によって相手の攻撃を軽減するという選択肢を自ら放棄しているのです。すると相手は容赦なく強力な攻撃切り札を使用可能となってしまいます。相手もユリナを宿しているとするならば、自オーラ5からでも「一閃」をオーラで受けた瞬間に「月影落」をライフに直撃されてしまいます(「月影落」で済めばまだマシで、下手をすれば「天音揺波の底力」の直撃を食らって即死します※1)。

         

         攻撃札であれば、相手にフレアを与えてしまう

         

         相手のライフにダメージを与えることと相手のフレアを増加させることはほぼイコールです。強力な切札攻撃は当然相手に大量のフレアを供給するため、相手の選択肢を増やします。,塙腓錣擦襪函∩蠎蠅料択肢を拡大して自分の選択肢を狭めることになり、総合的には不利となることが多いです。

         

         攻撃をライフで受ければいつでもフレアは貯まるのだから、殊更切札を強調する必要は無いのでは?と思われたかも知れませんが、攻撃をライフに通しても相手のフレアが貯まらない瞬間は、実は全てのメガミに等しく与えられています。相手のライフを0にする瞬間です。相手にいくらフレアがあろうとも、使う機会が無ければ無いに等しいのです。それゆえに、強大な威力を持つ切札攻撃はできる限り相手のライフを0にする瞬間に使い、相手のフレアを大量に無駄にさせることが重要です。

         

         ただし、消費フレアが少なく威力も低い切札攻撃であれば上記´△良塒は少ないため、先に打つのも一つの手です。特に、消費フレアが少なく威力が低めの切札は中距離・遠距離に多く存在するため(そのメカニズムについては、第一回を参照すると理解が深まるでしょう)、打てる機会を逃すと次に機会があるかどうか分からない場合には、先に打つのも手でしょう。

         

         例えば、「千歳の鳥」ならば山札が空で間合3-4かつ相手が防御不能というタイミングは1回の決闘で1回あるかどうかですし、「レッドバレット」は間合5まで離れる必要があるため、メガミや切札の組み合わせによっては打つタイミングを一度逸すると次は難しい場合があります。

         

         ただし、これらのような切札は先に打つことで上記´△砲茲詆塒は比較的少ないですが(全く無い訳ではないので注意)、次のの理由による不利は変わらず受けることを考慮する必要があります。

         

        切り札を公開することで情報を失う

         

         伏せられた切札は、その正体が分からないがゆえに相手に対処を強いることができます。特にこれが顕著なのはサイネなので、サイネを例に説明します。

         

         サイネの切札は、単純な攻撃カードである「律動弧戟」を除けば癖が強く、対処を万全に整えれば被害は少ないものの、対処を怠れば致命的被害を受けかねない危険なカード揃いです。例えばユリナ/サイネを宿していて、相手の切札が2枚以上残っている際に起こり得る即死シナリオはおぞましいほどに多彩です。

         

        ・オーラが少ない状態で攻撃している場合

          →「音無砕氷」でターンを飛ばされ、「律動弧戟」「月影落」等の強力な切り札攻撃で死亡

          →切札攻撃ならば「氷雨細音の果ての果て」の直撃を受け即死

         

        ・オーラ5で2間合でターン終了

          →「響鳴共振」でオーラを削られ、「薙斬り」「八方振り」「遠当て」「律動弧戟」等を立て続けに食らい死亡

         

        (切札3枚ならさらに追加で「浦波嵐」が入ることすらある)

         

         これらは、各々のカード1枚を防ぐだけであれば極めて簡単です。「響鳴共振」はオーラを4にしておけば良いし、「音無砕氷」は集中力と手札をあらかじめ適切に使用してオーラや間合いを調節した上で攻撃すれば良い。「氷雨細音の果ての果て」はオーラを5にして切札を使えばライフにはダメージが通りません。

         

         しかし、切札が伏せられている場合は相手はこれらすべての可能性を考慮しなければなりません。考慮しなければ死ぬからです。切札が伏せられているだけで、相手はあるかどうかも分からない切札への対策の為に集中力や手札を無駄に消費したり、敢えて防御を手薄にしたり、打てば倒せるタイミングの切札を打ち損ねたりします。これらは自らの集中力も手札も消費することなく相手の手を曲げさせる(相手が本来やりたかったことを妨害する)ことが可能なためとても強力です。

         

        2. 「 圧力」を意識しよう

         

         切札の基本を説明したところで、冒頭で説明を保留した「圧力」の話をしようと思います。「圧力」とは何か。それは先の「切り札を先に使ってはいけない理由」ので挙げた「自らは何ら消費せず相手の手を曲げさせる」力です。

         

         例えば、自分がユリナ/チカゲ、相手がオボロ/トコヨを宿している状態で、次のようなボード状況を仮定します(説明のための図ですので、実現可能性については目を瞑ってください)。相手の手札は1枚、こちらの手札は「飛苦無」「斬」「一閃」、自集中力は1とします。相手は伏せ札が6枚あり、相手の切札は「壬蔓」1枚が開いているのみとします。

         

         

         自分はオーラが万全かつ手札も攻撃カードが3枚揃っているため、「飛苦無」→前進→「斬」「一閃」と畳みかけて相手のオーラとライフを削りたいところです。

         

         しかし、「飛苦無」の後の「斬」に対応で「詩舞」を使われてしまうと、自分は集中力0、間合3、オーラ5となってしまい、間合3-4から脱出することが不可能になります。もし、次のターンに相手が再構成をせずに「熊介(伏せ札6枚)」を使用したならば、ライフに4〜5点という致命的な大ダメージを受けてしまいます。

         

         これを未然に防ぐためには、2距離で「斬」を使わずに1ターン待ち、相手が再構成を終えて伏せ札が無くなる、もしくは自分の手札と集中力が充実し、相手が「詩舞」を使っても2距離か5距離に逃れられる状況となるのを待つ必要があります。

         

         これは「熊介」の持つ「圧力」によって、本来行いたかった「「斬」「一閃」で攻撃する」という手を、「「斬」「一閃」を手札に抱えて2距離に留まる」という形に曲げさせられたこととなります。仮に相手の切札に熊介が入っていなければ、あるいは相手の手札に「詩舞」が入っていなければ、強気に攻撃を振った方が得です。しかし、入っていた場合の致命度が高いために、退却を強いられることになります※2。この「入っていた場合の致命度の高さ」が高いほど、相手に与える「圧力」が強まるため、如何に「致命度が高い(ように見える)盤面を構成するか」が「圧力」の高い盤面を構成する上で重要です。

         

         「素直に打ちたい手を打つと致命的な状況が起こり得る」状況を作り出し、相手を自ら退かせることが「圧力」の本質です。 私の個人的な対戦経験から言いますと、強豪プレーヤーほどこの「圧力」の扱いに長けています。「圧力」の高い盤面を構築し続ける力が、中級と上級の境界であると私は考えています。

         

        3. 相手の「圧力」が高い!

         

         相手の切札や見えない手札の「圧力」が高くて手を曲げさせられ続け勝ちを逸した、以前は大技を躊躇なく決めて勝てていたのに、最近は僅差で勝ちを逃すことが増えてきた。そのような経験が、ある程度経験を積んだプレーヤーならあるかもしれません(ない人も多いと思います)。しかし、相手の「圧力」に屈して負けるからといって、決してあなたが絶対的に弱いわけではありません。相手から「圧力」を受けているということは、少なくともあなたが相手の手札や切札1枚1枚が脅威であることを把握し、闇雲に攻めない慎重さを身に着けている証だからです。自分のやりたいことばかりを考えて相手がどんな恐ろしい攻め手を繰り出してくるかに全く考えを巡らせていない段階よりは明らかに強いと言えるでしょう。

         

         しかし、相手の「圧力」に怯えて手控えているだけでは一方的に不利を押し付けられ敗北するのは道理なのもまた事実です。そこで、相手の「圧力」をどうやってかわすかを考える必要があります。方法はいくらかありますが、例を挙げると以下の2つが考えられます(他にもあります)。

         

        〜蠎蠅亮蠅鮴騎里貌匹濱擇蝓許容できるラインを見極める

        逆に「圧力」をかけて拮抗させる(やられたらやり返せる盤面を作る)

         

        少し詳しく説明します。

         

        〜蠎蠅亮蠅鮴騎里貌匹濱擇蝓許容できるラインを見極める

         

         まず、そもそも相手の手に入っていないカードに怯えていないでしょうか?相手が今までに使ったカードをきちんと把握し、相手のデッキに入っていないカードに怯えないようにしましょう。相手のデッキが割れれば、そのデッキと相性の悪いカードは入っていないと読むことができ、そのカードからの「圧力」を無視することができます。

         

         また相手の場を観察し、捨て札や手札の枚数、集中力を数えて相手の放てる最大の手を計算しましょう。その上で、ギリギリ許容できる範囲までしか手数を支払わないようにすれば、「圧力」に屈した場合でも損失を抑えられます。例えばヒミカを宿している時は間合を離せば離すほど安全になりますが、離れるために攻撃カードを全て伏せてしまっては意味がありません。相手の攻撃が避けられるギリギリのラインを見極め、残りの手札は反撃の為に残しておく必要があるのです。

         

        逆に圧力をかけて拮抗させる(やられたらやり返せる盤面を作る)

         

         2.で説明した盤面において、自分がユリナ/チカゲではなくユリナ/オボロを宿していた場合、仮に2距離で「斬」や「一閃」を「詩舞」で防がれて間合3から脱出不可能になったとしても、相手は早々「熊介」を振ることはできません。「熊介」を振った場合、「熊介」をライフで受けて増加したフレアを活用して「浦波嵐」でオーラを減らされた上に設置「鋼糸」からの「天音揺波の底力」でライフを7点削られて即死するためです。このように、より脅威度の高い盤面を作り上げる(つまり、やられてもやりかえせる盤面を構築しておく)ことで逆に相手に「圧力」を与え、相手から受ける「圧力」と拮抗させて不利を回避することができます。

         

        補足. 奥の手を忍ばせよう

         

         「切札は先に見せるな、見せるなら更に奥の手を持て」と最初に言いましたが、奥の手がある場合に関しては切札を先に使っても良い場合があります。

         

         例えば、自分がユキヒ/ハガネを、相手が後退力に乏しいメガミを宿していて相手のライフが4以下の時に、敢えてオーラ受け前提の「ゆらりび」を放ったとしましょう。これは切札を先に見せてしまう悪手とも考えられます。しかし、ここでオーラを砕いた上でさらに「大破鐘メガロベル」でライフを回復させたとすると、あとは「めぐりあい」「大地砕き」あたりを連打しているだけで相手は一生0距離から抜け出すことができず、「大破鐘メガロベル」でついたライフ差を逆転できません。オーラの辛さゆえに、その場にとどまってオーラを回復させれば「つきさし」、後退すれば「遠心撃」の直撃という非常に厳しい二択を迫ることができます。これは0距離貼り付きと「大破鐘メガロベル」によるライフ回復による圧倒的な盤面の優位という「奥の手」を忍ばせることで、切札を先に見せることを許容しているのです。

         

         切札を先に見せたいときは、構築時点で奥の手を仕込んでおきましょう。

         「切札と圧力」についての攻略は以上となります。次回は「守りの基本」について攻略しようと思います。

         

         ※1 互いにフレア6の状態から、プレーヤーAが手札と集中力を使い切った状態で「月影落」を打った場合、プレーヤーBが「浦波嵐」を使ってライフで受けると、プレーヤーBがフレア6、プレーヤーAがフレア0、オーラが3以下となるため、プレーヤーBが「底力」を使うとプレーヤーAは直撃を受けて死にます。

         

         ※2 非常に高度な戦法ですが、「熊介」が入ってないと決めつけて強気に攻めるという選択肢もあります。ただし闇雲に守りを切り捨てるのではなく、平素の打ち筋から相手の精神構造を分析し、どのようなデッキを組んでいるのか逆算した上で決めつけましょう。相手のデッキを決めつけることで、その範囲外のカードから受ける圧力を減らすことが可能です。全国上位レベルの強さを目指すならこの辺の情報戦、所謂メタ読みも視野に入るでしょう。なお、私は記事の連載を始めてから露骨なメタ読みを通されて負けることが増えました。

         

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        質疑応答の時間です

        2017.10.20 Friday

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           こんにちは、BakaFireです。先々週の大ニュース週間はお楽しみいただけたでしょうか。そちらではたいへん多くの情報をお伝えしましたので、それに併せて質疑応答の場を作っておきました。以下のようなツィートでした。

           

           

           そして、こちらのツィートにいくつかの質問を頂けましたので、本日はそれについて回答させて頂きます。ご質問頂いた皆様、ありがとうございました。それでは、早速はじめましょう。

           


           早速質問です!

           ゲーム外になりますが、全国にふるよにプレイヤー(大会参加者)は何人ぐらいいるんでしょうか?

           あと出来たら全国のふるよに所持者はどれくらいいるのかなぁーと、後者は無理そうだったら大丈夫ですー よろしくお願いします


           

           申し訳ないながら、私では正確な人数をお答えするのは難しいところです。

           

           私が主催している関東のイベントにご参加いただいた方は、これまでの累計ならば200から300人の間くらいかと思われます。地方のイベントについては私が管理しているわけではありませんので、正確な参加人数は把握できておりません。しかし大変うれしいことに、概ね人数は右肩上がりのようです。

           

           所持者の方については、正確な部数をここで公表すべきでないと考えます。それに加え『初版』と『第二幕』を両方手に取って頂いた方、『第二幕』を複数お持ちの方などがいらっしゃるため、正確に何人いるのかを探ることそのものも厳しそうです。

           


           これまでリリースされると発表されてきた「電源版」が「供廚暴犁鬚靴進になるということのようですが、それとは別に現行の「ふるよに機廚療展使任公式に登場する予定はあるのでしょうか?


           

           はい。『第二幕』をデジタルゲームにする予定はありません。

           

           デジタルカードゲームとして魅力的な展開を続けるには継続した拡張が不可欠であり、そのために『供焚勝法戮粒発を行うのです。逆に言うとその工夫がない限りは、多くの方々や企業のご協力を頂き、デジタルゲームとして世に出すのは難しいと言わざるを得ません。

           

           ここで誤解をしてほしくないのは、『供焚沼蝓法戮任諒儿垢魯妊献織襯押璽爐亮存修箸いΔ世韻任呂覆、ゲームそのものとしても魅力的になると私は確信している点です。つまり、デジタルゲーム化のために強要された変更ではありません。

           

           それに伴ってもう1点お伝えしておきます。私の知る限り、現在の『第二幕』については有志の方がネット対戦ツールを作成して頂いています。そちらについては「BakaFire Partyがネット対戦が可能なソフトを出したら削除していただく」としていましたが、現状でデジタルゲームになるのはあくまで『供焚勝法戮任后ゆえに、今回のデジタルゲーム化ではそちらへの削除申請は行わないことにしました。

           


          抗弁の処理について質問です。

          居合に対応して反論を使った場合、-1/0を受けるのは反論のみ、で合っていますか?


          抗弁について確認です。

          1.設置で使用した攻撃カードもカウントしますか?

          2.カウントするのは「攻撃」カードだけでいいですか?(律動弧戟は入りませんか?)3.天地反駁中は統合ルール通り、入れ替えてから-1/+0ですか?(居合の場合1/4)


          両者がシンラさんを宿して抗弁を同時に貼った場合、攻撃は-2/+0になるのでしょうか?


           

           ルールへの質問を見落としておりました。ご容赦ください。まとめて回答させて頂きます。

           

           反論のみで合っております。

           

           1はカウントされ、2はその通りで、3もその通りとなります。

           

           「抗弁」が2枚あるならば、-2/+0となります。

           


          壮語が抗弁になると納が増え森羅判証との相性が気になります


           

           「森羅判証」の価値は依然として高いままだと予測しています。そして「壮語」が前進を抑止する付与札ではなく、「森羅判証」の弾丸としての価値を中心に見られているのはカードとして望ましい形ではないと考えています。

           


          梳流しは間合い変更対応カードに弱くオボロサイネはそれを持っていない上で間合い4付近で戦うので極端に機能する例では?


           

           その通りです。そしてハガネ、チカゲも同様であり、簡単な対応手段がないうえで間合を4から大きく離せないという意味ではシンラやクルルも同様です。それに加え「梳流し」への調整がなければユリナ、ユキヒ、サリヤに対しても互角以上に戦えるとプレイテストでは判断しました。

           

           結論として、トコヨを宿せば有利を得られる相手が多いうえで、不利を被ることも少ないのです。勿論、プレイングがやや難しいという問題はありますが、そこに目をつぶれば選択肢として安定し過ぎていました。

           


          トコヨはヒミカクルルシンラあたりの苦手メガミも多く環境次第で働きはピーキーな認識ですがどうですか?


           

           こちらへの解答については、あくまで私個人の見解を話します。

           

           私としては調整前のトコヨはそれらのメガミに対して大きな不利はないと感じています。確かにこれらのメガミが相手ではトコヨのカードだけで勝てるという結果にはなりません。しかしお互いのもう1柱しだいでは、互角かそれ以上になることは十分にありえるでしょう。

           

           少なくともトコヨを宿しているというだけでこれらのメガミに対して絶望的な相性にはならず、それは調整を踏まえても変わらないと考えています。

           


          新しい修正で梳流しがかなり使い方が難しいカードになっていますが、マニュアルの「最初に遊ぶデッキ B1(トコヨ・サイネ)」の内容は変更されますか?


           

           いいえ、変更されません。

           

           これについては少し悩みましたが、ルールの挙動は難しくないので、初めて遊ぶ方でも扱えると判断しました。

           

           また、初期デッキでは「梳流し」を使いまわす動きは想定していません。「梳流し」の初期デッキでの役割は「間合4を通る際に1ダメージを稼ぐ役割」と「後半に跳ね兎と併用して1ダメージを与える役割」の2つであり、それは今の「梳流し」でも問題なくこなせると判断しました(初めて遊ぶ方は「梳流し」のケアも行わないと考えられるので、使う側の管理が十分でなくても当てる機会は存在します)。

           

           もちろん、全体的な勝率はユリナ/ヒミカ側に傾くでしょうが、ゲームの体験そのものが損なわれるとは感じません。総じて、初期デッキとしては問題なく働くと考えています。

           


          アナログゲーム版兇砲いて拡張や調整が実施された場合、デジタルゲーム版に対して同様の拡張や調整が同時期に行われる予定でしょうか?

          それとも、横断ルールではなくそれぞれ別のルールとして独立したものになりますか?


           

           今の時点で確定としてお答えすることはできません。

           

           少なくとも『供焚勝法挌売時点とデジタルゲーム版はほとんどが同一の仕様になります。しかしながら、アナログゲームとデジタルゲームでは僅かにゲームデザインを変えるべきと考えているところもあり(例えば、アナログゲームでは「任意」が向いている一方でデジタルゲームでは「強制」が向いていることは多いのです)、100%が同じとは限りません。

           

           そして、拡張や調整となると、それこそ100%の一致は難しいと考えています。しかし、大枠では一致しつづけられるようにするつもりです。例えば最近の「足捌き」「雅打ち」の修正のようなことが行われたら、それは双方で反映される見込みです。

           


          業夘朧聞澆癲峩く必要と判断されれば第二幕に対する調整は行われる」し、「当然ながら兇悗粒板イ(これらの変化に対する空間の広がりも含めて)多数行われる用意があり、調整も適宜実施される」ということでよろしいでしょうか?


           

           その通りです。

           

           調整が多いことは望ましいとは考えていません。しかし、これまで同様に強い必要性が認められれば調整は行います。頻度は落ちるでしょうが『第二幕』に対しても同様です。

           


          決定版における収録範囲(特に第一、第二拡張の有無)をお伺いできればと思います。個人的には入っている方が簡単とは思いますが、第一第二拡張が同梱、第三拡張が別売というのはそれはそれでわかりづらいのかも?

          かといって全別売としても拡張版の調整カードのみ封入という不自然なことに?


           

           決定版はあくまで基本セットであり、『第壱拡張』『第弐拡張』は同梱されていません。拡張版の調整カードのみ封入され、それについての注釈と、ハガネとクルルの訂正されたカードリストが同梱されます。

           


          デジタルゲーム版において、多数企業様が関わるモノですので独断での告知等むつかしいとは思いますが、可能であれば現在想定している収益モデル(基本無料か否か、等)がお伺いしたいです。


           

           申し訳ないながらお察しの通り、今の時点で確定としてお伝えするのは難しい質問です。

           


          今後頒布される決定版、第三拡張、設定資料および兇亡悗靴董現在時点での頒布予価等告知可能なものはありますか?


           

           決定版の価格は変わらずに3500円(税抜)となります。

           

           『第参拡張』は他の拡張と同じく1800円(税抜)で、イベント価格は1500円です。

           

           『供焚勝法戮呂泙戚つ蠅任垢、現状で把握している需要を満たすような素晴らしい頒布形態を計画しております。

           


          アナログゲーム版兇砲いて、第二幕に存在する一部お祭りルール(特に祭札関連ルール)と類似ルールが設定される予定はありますか?

          また、大発生ルール等メガミに属しないカードや、PRタロット及びPR集中力カードは兇妨澳浩がありますか?


           

           『祭札』の興犁鯣任出るかどうかというと、出したいとは考えております。しかしそれは『供焚勝法戮侶覯未出てからの話となります。

           

           大発生ルールはいまのところ『供焚勝法戮謀用しても遊べないことはないでしょうが、ベストな形になっているかはわかりません。

           

           PRタロットとPR集中力カードは『供焚勝法戮任盡澳垢靴討い泙后

           


          第二幕に対する拡張は第三拡張で終了するとのことですが、現時点において祭札で頒布されたメガミ以外の「原初札」(未作成、未公開含む)の頒布は予定されていますか?

          また、特にトコヨの原初切り札と境地のルールに関して修正等を行う予定はありませんか?


           

           全てのメガミの原初札について、少なくとも公式イベント内では必ず登場させます。すでに9月にはシンラが、10月にはサリヤが登場しています。

           

           それが『祭札2』のような形で頒布されるかというと、行いたいとは思っているものの、いくつかの克服すべき課題が残っているのが現状です。従って申し訳ないですが、今の時点では確定した予定はないと考えてください。

           

           トコヨの原初札と境地について、私としては問題はないと考えております。集中力が3では境地にならない点は仕様です。集中力2でターンを終えても集中力があふれずに獲得でき、自分のターンで無理なく集中力を1使用できるのは十分なメリットです。さらに「トコヨに挑戦!」は比較的難易度が高い「メガミに挑戦!」ですので、いくつかのカードが下方修正されたとしても十分な楽しさがあります。

           


          現在のメガミは11人ですが、胸点では12人とのことで、第三拡張では1柱のみの追加ということでしょうか?もしくは2柱追加ののち1柱が実装されないものでしょうか?


           

           重要な質問ですので、丁寧にお答えしましょう。

           

           『第参拡張』では変わらず2柱のメガミが追加されます。しかし『供焚勝法戮虜能蕕両態では『第参拡張』の2柱は存在せず、後に追加される形となります。代わりにまったく新しいメガミが1柱追加され、12柱という形になります。

           

           その理由は全ては語れません。しかし語れるものだけはお話ししておくと、『供焚勝法戮悗虜播化のために『第二幕』でのフィードバックを取り入れたいというものがあります。

           

           例えばクルルやサリヤは現状でコンセプトが明確なうえで良い仕上がりなので、『供焚勝法戮任諒儔修最も小さい2柱です。しかしそれでも『第二幕』で使用された際のフィードバックを踏まえ、いくらかの改善がなされたのです。

           

           今後追加される全く新しいメガミではそのような手法は使えません。しかし『第参拡張』の2柱は12月に発売され、そこから数か月間のフィードバックを観察する機会があります。それゆえに『供焚勝法戮任猟媛辰鮹戮蕕擦襪里砲禄淑な価値があるのです。

           

           

          大会管理システム設立と、次の大会について

           

           今回の質疑応答とは関係ありませんが、すばらしいお知らせをさせてください。本日の更新にて、大会管理システムが自動化されたのです。大会を主催頂いている方も、ご参加いただいている方も、皆様をもうお待たせすることはありません。管理画面から申請許可ボタンをワンクリックするだけで、滑らかに大会予定が更新されるのです。

           

           ええ、これまではまったくもって地獄のような日々でした。大会情報の最新化はすべて手作業なのです。そして愚か極まりないことにPC用とスマホ用の内容が異なるため、同じ更新を2回繰り返していたのです。これで絶望的な作業から解放され、これからはより魅力的な形で本作へと尽くせるようになります。もちろん、大会更新に伴う手作業でのミスもなくなり、より円滑な連絡も可能となるのです。素晴らしい!

           

           私の喜びをお分かり頂けるでしょうか。ありがとうございます。しかし申し訳ないながら、まだ万全の状態ではありません。スマートフォン版への適用と、大会の日程順の並び替えには、もう数日ほどお時間を頂く見込みです。数日間の間は移行期間ということで、ご迷惑をおかけすることをお許しください。

           

           それと折角大会関連の話題ですので、イベント関連の新ニュースもお伝えしましょう。そう、プレリリース大会です! その大会は東京では11/25(土)にイエローサブマリン秋葉原RPGショップ様にて開催されます

           

           それだけではありません。前回同様に他の地方でもプレリリースは開催されます。大阪、北海道、名古屋に加え、今回は福岡、新潟でも行われるのです。11/25(土)と26(日)がプレリリース期間となり、その間に各地方でイベントが開催されます。地方によっては2日間開かれる場所もあります。

           

           現時点で確定しているプレリリース大会はすでに大会リストに反映されております。是非とも参加をご検討くださいませ!

           

           それともうひとつ宣伝を。以前にお伝えした通り、来週末の10/29(日)には名古屋で大規模な大会が開催されます北海道でも併催イベントがございます)。豪華商品を取りそろえ、『第弐拡張』環境の総決算となる一大イベントです。定員はほとんど埋まっていますが、あと数名ほど枠がございます。この機会にあなたの実力を試してみてはいかがでしょうか。

           

           

           来週はいよいよデジタルゲーム版サイトの更新がはじまります。その準備が慌ただしいため私の記事はお休みをいただきます。デジタルゲームについての情報、そして再来週の更新をご期待くださいませ。

          『桜降る代の神語り』第37話:メガミへの挑戦

          2017.10.20 Friday

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             尋常ではない気を伴って、道端で呼び止められようものなら、次の瞬間には鍔迫り合いになっていてもおかしくない。
             けれど、天音揺波を呼び止めた童女はこれでもメガミだ。辻斬りなんかじゃあない。
             正しく相対するには、当然手段も相応のものを用意する必要があるだろう。
             そうして設けられる一席で、天音揺波はメガミという存在にどう向き合うのだろうね。

             

             


             目と鼻の先だった町を尻目に、背の高い針葉樹に覆われた小さな山を登ることしばし。陰気な山道を抜けると、幾分と開けた中腹が顔を見せる。これより先は、大地を東西に分断する山脈に繋がっており、気軽に臨めたものではない。
             無論、先導していた童女の足も止まった。

             

            「あなたはあっちね」

             

             神座桜の前で。

             

            「え……」

             

             桜の向かって左側へすたすたと歩いていく童女に、揺波は抗弁することができなかった。
             ここに至るまで、揺波が聞いた最後の言葉は『着いてきて』というもの。普通であれば不可解に過ぎて逃げ出すが道理だが、有無を言わせない童女の圧力の中で拒むことなどできようはずもない。ちろちろと、揺波の胸中に燻る炎もまた、その一助となっていた。

             

             揺波にとって神座桜とは、言うまでもなく決闘の舞台である。何者かと相対する状況下でそれを前にしたら、右手側か、左手側か、いずれかに粛々と歩を進め、相手と向き合う。それが揺波の当然である。
             しかし今、揺波の足は動かない。
             相手となるミコトが、この場に存在していないからだ。
             揺波をここへ連れてきた存在は、あくまでメガミである。

             

             と、そんな揺波の様子を見たのか、童女は緩く握り込んだ右手を横に突き出し、空に向けて開き、そして――

             

            「――!」

             

             次の瞬間には、彼女の手には大きな鉄槌が握られていた。まるで手のひらの上に極々小さなそれが乗っており、瞬く間に童女の背丈ほどの大きさに膨らんだようであった。
             左手の篭手と同じ、緑青を基調としたその大鎚。片面には、胴よりも大きな鐘のついた、奇妙なそれ。
             揺波には、その鉄槌に見覚えがあった。

             

            「その武器……もしかしてあなたは――」

             

             問いながら揺波は、粛々と童女の対面に向かって歩いていた。答えを待つまでもなく、それはまさしく最強の名を冠していた男の顕現武器であり、そして、相手がメガミということが正しければ、象徴武器ということになる。
             桜の下で振るうべき武器を桜の下で向けられた以上、揺波は位置につかざるを得なかった。

             

            「うん。あたしはハガネ。たっつー……あぁ、龍ノ宮一志に大地の力を貸してたメガミだよ」

             

             そう名乗ったハガネは、伏せがちに揺波を見やっていた。睨むというほどではないが、その瞳には暗いものがなかったかと言えば嘘になる。
             ヒミカのような殺意はない。だが、快活そうな見た目とは裏腹に、やや澱んでいる。
             そんなハガネが、相対するという意志を持って桜花決闘の舞台に導いた以上、問われるべきは一つしかない。

             

            「龍ノ宮さんのことは――」
            「あー、待って待って。言わなくていいよ」

             

             立場を明確にしておこうと口を開いた揺波を、けれどハガネは左手で制止した。

             

            「あたしはね、分からないの。たっつーが死んじゃったのはなんでか、色んな人が色んなことを言ってる。だいたいは、アマネユリナが悪い、って話だったけど……でも、あなたはたっつーのお気に入りだったってことも知ってる。だから、あたしには分からないの」
            「…………」
            「あたしはたっつーを信じたい。たっつーが信じたアマネユリナを信じたい。信じられるなら、そんなややこしい話なんてすっ飛ばして、あなたを信じられる。けど、あたしはあなたのこと、まだ知らないってことに気づいて」

             

             自分の身の丈ほどもある大鎚を、軽々片手で揺波へと向ける。

             

            「だから、あたしはあなたと決闘がしたい。決闘で、あなたのことを知りたいんだ」
            「わたしを……」
            「たっつーも、きっと……きっと、こうすると思うから」

             

             その言葉には、どろどろとした感情は含まれていなかった。眼差しもまた、純粋にただ揺波へと注がれる。
             真っ直ぐな意志に、揺波はもう必要以上に言葉を返すことはなかった。

             

            「我らがヲウカに決闘を……!」

             

             顕現させた斬華一閃の切っ先を向けることで、返答とする揺波。
             あの日について、体験してきたこと、考え続けてきたこと、知ったこと、それらをハガネに語るのは容易い。メガミに決闘で勝利するよりもずっと簡単だろう。だが、それで納得してもらうことは、勝利よりもなお遠い果てにある。
             意志を請われれば、意志をぶつけるだけ。
             その点、揺波は目の前の小さなメガミに親近感すら湧いていた。

             

            「じゃあ……行ってみようか!」

             

             その親近感も、この時この瞬間からは邪魔なものでしかない。
             己を主張するために、メガミに刃を向ける。その大事の渦中に身を置いた揺波は、静かに切っ先の向こうにハガネを見定めた。
             ――メガミへの挑戦が今、始まる。

             

             

             


             巨大な鉄槌による近接戦での圧倒的な打撃力。それは龍ノ宮戦で身に沁みていたことであり、銃によってその打撃圏内に引きずり出される戦術には苦戦を強いられた。だが何よりも厄介だったのは、後退による遠心力と共に鉄槌を巨大化させ、間合いと威力を得たことであった。
             身なりこそ童女であるが、ハガネはその槌を得物とするメガミである。必然、苦汁をなめさせられた中、遠距離への強打を警戒し、揺波は間合いを測ろうとしていた。

             

             だが、ハガネが選んだのは、前のめりとなった迷いなき前進であった。

             

            「な……!」

             

             その疾駆の最中、己も宙に浮きながらくるりと縦に一回転、鉄槌が振るわれる。揺波に直接届く間合いではないが、打撃したものは確かにあった。
             砂。そして、大気。
             凄まじい膂力で振り切られた鉄槌によって巻き上げられた砂塵が、揺波の視界を奪う。

             

            「ほらほら、ぼーっとしないでよ!」
            「くッ……!」

             

             咄嗟に揺波は、目を細めながら砂塵へと突っ込む。自分の手が封じられている状況で、自分より間合いの広く情報で優位に立つ相手に対し、間合いをとる選択はかえって危険である。
             身を打つ弾丸のような砂に守りの結晶が削られる。けれどその結晶は、ただ身を守るために消費したのではない。

             

            「いぃぃやッ!!」
            「っと」

             

             強い踏み込みと共に最上段から振り下ろした刃が、跳び上がっていたハガネの脚を掠めた。砂塵の残りと共に、ハガネの守りもまた一つ削られる。
             揺波が守ったのは、己の目である。文字通り目の前に結晶の盾を配することで、目を開けていられない砂塵の中で、辛うじてハガネの姿を捉えることができていた。

             

             対するハガネは、僅かであるが反射的に回避の姿勢を取ってしまったため、振りかぶっていた鉄槌を満足に振り下ろすことができない。
             そこで彼女が採ったのは、振るのではなく、下ろすだけ。
             跳び上がった状態で鉄槌を巨大化させれば、あっという間に大質量の打撃力が生まれる。

             

            「どーん!」
            「っ……!」

             

             一回りも二回りも大きくなった鉄槌は、ただ地面に落ちるだけで山を揺らす。直撃こそしなかったものの、間近で大地を砕かれた揺波は大きく体勢を崩した。
             しかし逆に、ハガネもまた落ちた鉄槌の柄にぶら下がったままであり、無防備に間合いに入っている。
             ここは、好機に他ならなかった。

             

            「っく――」
            「えっ……」
            「――ぁぁぁッ!」

             

             大地に縫い付けるように踏ん張り、下段にまで振り切っていた刃を、居合の形で無理やり振り上げる。
             果たしてそれは、身を捩ったハガネが回避しきる前に、胸へ深々と吸い込まれていき、結晶の霞を吹き散らした。

             

            「おぉ……!」

             

             咄嗟に鉄槌を元の大きさに戻し、地面を突いて己の身を後ろへと送るハガネ。地に足を着けると同時、勢いを稼ぐように後ろへさらに跳躍する。
             すぐさま追おうとする揺波であったが、ハガネは彼女の追従を拒絶するかのように、鉄槌を振り回しての回転を始めていた。一回転、二回転と重ねていくごとに、大地を砕いたそれよりもなお大きな槌へと変貌していく。

             

            「大・天・空――!」

             

             

             最も警戒していた、最も強烈な一撃。
             しかし揺波がこの技を受けるのは、これで二度目である。一度目までに対策を練り、一度目を辛うじて捌いたその後、もう一度受けることを考えて、胸中で幾度も対策を重ねてきた。

             

             相手は、存在からして一度目より格上。だが、全てが上位というわけではない。銃弾の雨をかいくぐった傷はなく、攻撃の流れはより素直である。
             そして何より、今の揺波に気負いはなく、武神ザンカの威風を完全に使いこなしている。
             故に――この帰結は、明々白々。

             

            「吹き荒れよ、嵐の如く!」

             

             

             先程の砂塵と遜色ない暴風が、瞬く間に戦場へ吹き荒れる。それは、最後の回転の半ばであったハガネの上体を揺らし、地面と水平だった鉄槌の軌道が僅かに空へと反れる。
             すかさず体勢を限りなく低くし、前傾の姿勢のまま、左腕に結晶を集中させた揺波は、まるで弾きあげるように鉄槌を受け流した。

             

            「――ッくっっ!」
            「うわ……!」

             

             打撃の軸を完全に外されてしまったハガネは、暴れる鉄槌に身体が持って行かれる前に、慌てて鉄槌を小さくする。
             が、それでも対策を積んだ揺波の前では、遅い。

             

            「やぁぁぁッ!!」

             

             切り込み、突き出し、斬り払う。
             鈍重な槌では防ぎきれない連撃によって、ハガネの身体から桜色の塵が傷の証として数多飛び散っていく。

             

             大きな有効打に、刀を握る揺波の手がいっそう力を孕む。
             この戦況、メガミ相手に十分戦えていると言って相違なかった。メガミという強大な存在を前に無力さを覚えたことのある揺波には、望外の状況である。
             このままいけば勝てる。
             自分の実力は、メガミとさえ戦える位置に来ている。
             勝つこと以前に、戦うことすら無謀だと考えていた揺波は、その事実にえも言われぬ喜びを感じていた。

             

            「ねえ――」

             

             けれど、

             

            「ダメだよ?」

             

             にっ、と歯を見せ、不敵に笑うハガネを相手に、それは命取りだった。
             油断にすらならないほんの僅かな気の緩み。それは、人にとっては些細であっても、メガミにとっては十分すぎる隙。

             

            「ほいっ」
            「――!」

             

             刀が、軽い返しの利いた篭手によって大きく外側へと反らされる。
             効果的な一撃を叩き込むことに集中していた揺波は、あえてその連撃を身体で受けきっていたハガネの篭手の妨害を、きちんと捌くことができなかった。しびれる手が、動きは小ささに似合わないハガネの力強さを物語っていた。
             意趣返しでもされたように動きを乱された揺波。それを尻目に再び飛び退るハガネであるが、同時、揺波が力の発露の刻までその身に宿し蓄えていた結晶が、吸い寄せられるようにハガネへと向かっていく。
             そして結晶を纏い、行われるは、無論――回転。

             

            「いっくよぉーっ!」

             

             一回転、二回転。三、四、と速度と大きさを得ていく鉄槌。
             再び、あの大技が来る。轟と風を切る大鎚は、揺波の身の丈ほどとなって暴力を形作る。
             けれど、揺波にとってこの技は三度目だ。防ぎ、捌いたからこそ、分かる。未だ五体満足な己を信じ、恐れず前へ出ればいいのだと。痛打を受けたところで、自分よりもなお多くの結晶を失っているハガネに至近し、さらなる一太刀を浴びせればいいのだと。
             だから、一歩前へ。迷わず、揺波は踏み出した。

             

            「だいッ――」
            「……!」

             

             だが、図らずともその足は、止まる。
             ハガネが、踏み切って、跳躍していた。

             

            「せんッ――」

             

             ひたすら後ろへ体重を運びながら、回転を続けていたハガネは、宙空でそれを縦とした。
             揺波が軽く見上げるほどの高さまで余裕を稼いだその身は、振り下ろした鉄槌を後ろに流す傍ら、次には叩きつけられるように半分捻っている。
             その高さでは、いくら人の背丈ほどの鉄槌でも、届ききらないだろう。

             

            「は……?」

             

             その現実味のない光景に、揺波は思わず言葉を漏らしていた。
             ハガネが後ろへ送った鉄槌は、地面を掠めたその直後から、遠心力を急に吹き込まれたように、膨張、伸長していた。

             

             ハガネの後ろには、東西を分ける山々が連なっている。
             そこに、ハガネの超巨大鉄槌が、堂々と肩を並べていた。

             

            「くうぅぅぅぅーーーーー!!!!!!!」

             

             

             背面から振り下ろされる鉄槌は、空をも覆う。
             天蓋が欠けて、落ちてきてしまったような、そんな冗談じみた一撃。旋回による遠心の力に加え、先程大地を砕いたような落下の力も加算されたそれは、人の身はおろか、どんなミコトであっても、まともに喰らえばそれだけで押しつぶされてしまうだろう。

             

             これが決闘でよかった、と呆然とする揺波は思う。
             メガミ相手に優位に事を進めているなどという驕りは、来るこの一撃によって粉砕されるに違いなかった。手応えを感じる以上のことを覚えてはならない……とても小さな、しかし大きすぎる過ちの対価は、そう胸に刻みこむのに十分過ぎた。

             

             その断罪を、甘んじて受ける。
             決闘人生で初めて敗北の覚悟を決めた揺波を、影が覆い尽くした――

             

            「っ……!」

             

             その時である。

             

            「ぇ……」

             

             影は、晴れた。
             揺波の左手から生じた桜色の光が、巨槌の影を払拭していた。

             

             それは、周囲をも照らす光量を凝縮したように収束すると、すぐさま揺波の全身を覆う。
             揺波を守るように。

             

             そして――衝撃。

             

            「うそ……」

             

             それに打ち砕かれたのは、ハガネの自信だった。
             山のようになった鉄槌の打撃は、確かに揺波に届いた。しかし、それだけで終わった。
             打撃したことによる衝撃は起きなかった。
             やや左上から打ち下ろされていた鉄槌は、揺波の頭上僅か拳一つ分のところで、止まっていた。彼女の髪の毛一本、揺るがすこともできずに。

             

            「なにが……?」

             

             呟く揺波に合わせたように、彼女を覆っていた光は霧散した。左手も、いつもと変わらないただのミコトの左手である。
             それを皮切りに、鉄槌は力を全て使い果たしたように、揺波の傍にずり落ち、胴を地面に投げ出した。取り付けられていた鐘が、ひどく鈍い悲鳴のような音を上げ、地面は唸りを上げたように揺れる。

             

            「はっ――!」

             

             唖然としていた両者であったが、未だ決着がついていないことにいち早く思い至ったのは、揺波であった。彼女の勝利への執念は、対処不可能な一撃が除かれた時点で、勢いを取り戻していた。
             駆け込む揺波に対し、ハガネの行動は限られる。大きくしすぎた鉄槌を手中に収めるまでの間があれば、揺波が距離を詰めるには容易かった。

             

            「たあぁぁッ!」

             

             そのまま駆け抜けるように、一閃。
             胴を薙ぎ切った斬華一閃が、散る桜の残滓を纏う。
             だが、ハガネが倒れる気配はない。先程のように受け止める余裕がまだあったのかと驚愕するも、揺波のやることは変わらない。
            もう一撃、叩き込む――!

             

            「――参った」
            「……!」

             

             振り向きざまの大上段が、ハガネの後頭部すれすれで止まった。
             ハガネは、その姿勢を保つ揺波へと振り向く。そして、おどけたように小さく舌を出して、

             

            「負けちゃった」

             

             そう、揺波の勝利を告げたのであった。

             

             

             


             砕いてしまった地面に向かってハガネが手をかざすと、割れ目から土が湧き上がってきた。それから自ら耕しているように、地面が脈動する。
             その様子を眺めながら、不可解な決着に未だ気を張っている揺波に対し、

             

            「あたし自身はまだ大丈夫だよ? でもさ、ミコトだったらもう結晶がなくなってるよね? 決闘を申し込んで、決闘の作法に則って、決闘をしたんだから、その勝敗はキミたちミコトの基準じゃなきゃ」
            「じ、じゃあ……」
            「だから、もうそんな怖い顔しないでよ。十分、分かったからさ」

             

             その言葉に、揺波はようやく肩の力を抜いた。役目を終えた斬華一閃が桜の花びらとなって消えていく傍ら、じわりと湧いてくる勝利の感覚を味わっていく。けれどそれはあくまでこの決闘の本題ではないことを、ハガネの一言によって思い出していた。
             地面を均し終わったハガネが、困ったように頭を掻きながら、揺波に向き合う。

             

            「うーん、ほらさ。話を聞いて分かってあげられるか分かんないから、こうして戦ったわけだし……分かったんだけど、何がどう分かったのかは、うまく言えないんだよね」
            「あー、それならなんとなく分かる気がします」
            「でしょでしょ? ……うん、そうだよね。たっつーが気に入ったんだったら、あたしが嫌いになれるわけないよね」

             

             鉄槌を手のひらに乗るまで小さくし、帯の中にしまいこんだハガネ。
             次に彼女は――揺波へ頭を下げた。

             

            「疑ってごめん!」
            「えっ、えっ……そんな!」

             

             すぐに頭は上げられたが、メガミに頭を下げられる経験などそうあるものではない。うろたえてどう返したものか思いつかない揺波に、言葉を継ぐ。

             

            「たっつーを、皆が言ってるみたいに卑怯な方法で殺しちゃうなんて、キミの太刀筋からは全然想像がつかない。ごめんね、信じられないからって、こんな試すような真似して」
            「いえ……こちらこそ、その、ごめんなさい」
            「あー辛気臭いのはナシ! いいのいいの、別に復讐しにきたとかそういうやつじゃないし。たっつーの気に入ってたユリりんが、そういう人じゃなかったって分かったんだもん、それでいいよ」
            「ユリりん……? ――わっ、ぽわぽわちゃん!」

             

             妙な呼ばれ方をしたが、突如、今まで鳴りを潜めていた旅の友が現れた。それは実に嬉しそうに揺波の周りを飛び回っている。その渾名の響きが気に入ったとでも言うように。
             ただ、この存在をハガネにはなんと説明したものか。そう少し困った揺波だったが、ハガネはふざけ半分で頬を膨らませ、揺波の傍らの桜色の光へにじり寄っていく。

             

            「あっ、そうだ! ユリりんそれずるいよぉ」
            「ずるい、ですか……?」
            「そうそう、さっきの大旋く――」

             

             言葉は、そこで打ち切られた。
             声音を断ち切る刃があるのなら、その業物によって成されたのかと思うほどに。

             

             がくり、と足を踏み出していたハガネは、突如全身の力が消失してしまったかのように、体勢を崩した。
            糸が切れたように。
             童女の身体が、生々しい音を立てて、顔から地面に倒れた。

             

            「はがね、さん……?」

             

             うめき声の一つ、聞こえない。
             あまりに突然の出来事に理解が追いつかない揺波であったが、今は決闘の直後である。死闘を繰り広げた後には何があるか分からないし、本人は否定していた上、メガミである以上薄い可能性だが、万が一ということもある。

             

            「ハガネさん! ハガネさん!」

             

             駆け寄り、背中を揺する。反応はない。
             それがもどかしくて、うつ伏せになっていたハガネを仰向けに横たえる。
             半ば祈りながらハガネの顔を見やると、意思も感じられない有様であったが、それから肩を乱暴気味に揺さぶっていると、目に光が戻ってきた。

             

            「大丈夫ですか!?」
            「ぁ……ぅ……」

             

             応じようとする意思もある。だが、喉を震わせるだけの力もなくしてしまったように、明確な声を発することができていなかった。
             目を泳がせながら発声を繰り返していくうち、ようやくまともな音が生まれる。

             

            「……ない」
            「え? なんですか!?」
            「……ないの」

             

             あまりにか細いその声に、揺波は耳を彼女の口元まで近づける。
             その声は、聞き取ることが難しくとも、震えているということだけは、はっきりと分かった。

             

            「立て、ない」
            「どこか、お怪我を……!?」

             

             揺波の問に、ほんの僅かに動かせるようになった頭を、左右に揺らすハガネ。
             そして彼女は、自分でも何を言っているのか理解しきれていないといった声音で、こう答えた。

             

            「あたし、の、ちから…………なくなっちゃった……」

             

             山の冷えた風が、びょう、と揺波の首筋を撫でていった。

             

             

             


             天音揺波は、決闘という意味でも、遺恨という意味でも、その因縁を消化した。
             こうして彼女はまた一つ、しらがみから解放されたと言えるだろう。
             しかし、消化されたとしても、その因縁の痕は更なる因縁の種になる。
             天音揺波の因縁の行き着く先は、果たしてどこにあるのだろうか。

             

            語り:カナヱ
            『桜降代之戦絵巻 第四巻』より
            作:五十嵐月夜  原案:BakaFire 挿絵:TOKIAME

             

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