黒幕よ雄弁に語れ(前篇)

2018.09.14 Friday

0

     こんにちは、BakaFireです。本日の記事は好評のシリーズ、メガミ特集の8回目となります。このシリーズで取り扱うメガミはTwitterでのアンケートにて決められ、現在は第6回でアンケートした4柱を順に進めているところです。1位のチカゲ特集、2位のクルル特集まで終わっていますので、今回は3位のシンラ特集となります。

     

     

     これまで行ってきたトコヨ特集オボロ特集サイネ特集ヒミカ特集ハガネ特集チカゲ特集クルル特集を踏まえた内容でもあります。お時間がありましたら、これらのシリーズもご一読いただけると嬉しいです。
     
     それでは、さっそくはじめましょう!

     


     
    流れは久々に最初通り

     

     どのようにメガミを語るべきかどうかについては、久方ぶりに最初のやり方を使うことになりそうです。その上で新幕がすでに発売している点についてはクルル特集と同様に扱うものとしましょう。まとめると次のようになります。
     

    • 前篇ではメガミの歴史を語り、中篇では第二幕における個々のカードを語る。
    • 第一幕での六柱を語る際は、本作そのもののゲームデザインと紐付けて語る。
    • 後篇では第二幕から新幕における変化について語る。


    桜が降るより前の話、その4

     

     第一幕から存在するメガミについて語るのもこれで4回目となりました。まずは通例に従い、どのようにシンラが生まれたのかをお伝えしましょう。これまた通例通り、桜が降るよりも前の世界へと遡り、そこにシンラがいるのかを見てみましょう。
     
     ええ、原型と思しき存在は確かにいるようです。これまでの特集で私は1人目「大剣」2人目「銃」3人目「盾」4人目「スカーフ」6人目「扇」の存在をお伝えしてきました。そしてこれが最後の一人です。そう、5人目「書」です!
     
     書が武器なのかと言われると首をかしげるところですが、かつての世界観ならばなにも不思議ではありません。中世ライトノベルファンタジーにおいて、魔法使いは当然あるべき存在ではないでしょうか。

     

     しかしながら、そのまま順当に存在しつづけたわけがありません。何せ世界には桜が降り、世界観は和風へと激しく方向転換したのですから。当然「書」は一度消えることになります。
     
     それではその後何が起こったでしょうか。オボロ特集をお読みいただいた方は覚えているかもしれませんね。そう、顕現武器コンペティションがやってきたのです! そしてその時、書は果たしてどうなったのでしょうか? ご覧いただきましょう!

     

     


     


     


     おおっと失礼。図を間違えてしまいました。正しくはこちらです。
     
     

     

     

     ここで重ね重ね誤解なきよう補足させていただくと、この企画は顕現武器コンペティションであり、武器の名前を挙げていくというものでした。ええ、もしかしたら誤解されている方がいらっしゃるかもしれませんので(今回は俺は入れてねーぞ)。

     

     とはいえ、選ばれてしまったからには何かの理由があるはずです。忍者が選ばれた時と同様に、理由を分析することにしました。

     

     今回は忍者とは違い、和風だからと言う理由ではないでしょう。私としては今回の理由は、異常性にあったと考えています。そのほかの武器5つは多かれ少なかれ、武器を用いた物理攻撃で相手に攻撃します。キャラクターごとに異なるプレイ感を実現するには、1人くらいは魔法攻撃を行うべきというのは納得のいく話です。

     

     そんなわけで忍に続き、書もまた採用となったわけです。折角ですので桜が降るより前にあったカードも、何枚かお見せしましょう。


    呪いの火    《行動》
    自オーラ⇒相手オーラ:◇2
    そうした場合、相手に1ダメージを与える。

     

     正しくシンラのあるカードの原型であり、同時にクルルのような気質もあります。最初は書は攻撃でなく直接的にダメージを与える効果が中心でした。しかしプレイテストの結果そのやり方はバランスに問題があり、また最初のパッケージに入れるには早すぎると分かったのです。


    再起動    書    《行動》
    自オーラ⇒相手オーラ:◇1
    そうした場合、捨て札のカード1枚を手札に戻す。

     

     相手に自分のリソースを差し出す儀式を対価にして、強大な効果を得るというコンセプトもありました。


    黒き雷 書 《行動》 消費4
    相手に2ダメージを与える。

     

     わかりやすくやばい効果です。

     


    魔法なき世界での魔法探し

     

     それでは桜降る代において象徴武器:書が採用されるに至り、まずはどのようなデザインがなされたのでしょうか。実際のところシンラはコンセプトが明確になったのは6柱の中で最も遅く、実に長い旅路でした。慌てず、ひとつずつ辿ってみましょう。
     
     まず、前時代での直接的なダメージが駄目であることは何度か試した時点で分かりました。今の知識で見ても、クルルがあれだけ厄介な制限の下でどうにかバランス上容認される効果です。大した制限もなく採用しては愚かな結果にならないはずがありません。
     
     しかしそれを没にした時点で、早くも問題に直面します。シンラが生まれた動機はその異常性――物理攻撃ばかりじゃなくて魔法攻撃もしたい――にありました。しかしたった今、早くも分かりやすい魔法攻撃は否定されたのです。
     
     それでは私たちはどうするべきでしょうか。ひとつの結論としては、シンラもある程度は攻撃カードで攻撃するべきだろうという結論にはなりました。「間合を合わせて攻撃する」ことを完全に放棄するにはあまりにも早すぎると言えたのです(※1)。
     
     しかしながら、普通でないことをして、普通でない勝ち筋を追うという独特の感覚を失ってはならないとも確信していました。プレイヤーには様々な気質があり、他人と違う勝ち筋を持つことに喜びを持つプレイヤーは間違いなく存在します。シンラを彼らにとって魅力的な存在にするためにも、私たちはそのやり方を模索することになりました。
     
     幸い、そのうちのひとつは比較的容易に決まりました。山札の破壊です。多くのカードゲームでは山札が切れた相手は敗北するため、山札破壊は特殊勝利条件に近い立ち位置になります。しかし本作では山札の再構成とライフへのダメージが結びついているため、山札破壊はライフへの直接ダメージに近いのです。
     
     例えば「立論」の初期の効果は3/7の山札破壊なので、3/7のライフダメージと捉えることもできます。これは我々の望む魔法攻撃にかなり近く、正しいやり方と言えました。
     
     しかし、山札破壊をただ詰め込んだだけのメガミには戦略的な膨らみはなく、魅力的とは言えませんでした。もう一本、軸となる脚が必要であり、私たちはそれを探すために旅を続けることとなったのです。

     

    ※1 完全な放棄には実に1年と3か月。クルルの誕生を待つ必要がありました。

     


    特殊領域には危険信号

     

     苦難の中、最初に生まれたアイデアは特殊な領域を使うというものでした。本作は様々な領域が存在し、そのうちのどこにどれだけの桜花結晶が置かれているのかで戦況が表されます。ならば、特定のメガミ専用の領域があるというのは、一見して魅力的です。
     
     領域名は仮に「ブック」とされていました。書物の中にあたかもMPのように結晶を溜め、それを消費して強力な現象を起こすのです。

     


     
     しかしプレイテストを重ねるうちに、このアイデアには致命的な問題があると分かりました。自己完結性の問題をより強調したような問題……自己閉鎖問題(※2)と呼ぶべきでしょうか。
     
     説明しましょう。要はブックに桜花結晶を移す効果も、ブックの桜花結晶を消費する効果も、そのようなカードはシンラしか持ち得ないという問題です。こうなるとシンラのカードを入れたら入れただけブックのリソースを溜められ、同時にそれを使う用途も豊富になるのです。
     
     コンセプトの部分で(※3)このような要素を持ってしまうと、極端な場合はシンラのカードで8〜10枚を埋めることが常に正解となってしまう恐れがあります。それは本作の魅力のひとつである「二柱を組み合わせる」部分を完全に殺しており、それゆえにこのコンセプトは没になりました。
     
    ※2 この問題は極めて厄介であり、現在もデザインにおいて常に意識され続けています。最近ではライラがこの問題へと陥りかけました。それを回避するために風雷ゲージの増加には、「他のメガミのカード」が必要となっているのです。

     

    ※3 自己完結を推進するカードがカードプールに1枚程度あり、それが他の選択肢を食いつぶすほどの強力さを持たない分には問題なく、むしろデッキ構築の幅を広げると考えています。『新幕』オボロの「虚魚」、ユキヒの『どろりうら』はその一例です。

     


    付与の歴史を紐解こう

     

     次に試されたアイデアについては、実はすでにオボロ特集で語っています。それはとあるコンセプトで、シンラの原型とオボロの原型が共有していました。語った通り問題があって没になったのですが、このアイデアはいつの日か帰ってくると感じてもいるため、今は秘密にしています。
     
     ここで重要なのは、そのコンセプトでは「それらのカードの上に桜花結晶を置いていた」点です。
     
     当たり前のことを勿体付けるなと感じたかもしれません。しかしお待ちください。シンラは最初の6柱であり、彼女らはルールそのものも変化していく中で形作られていったことを思い出していただければ幸いです。ええ、その時点での付与カードは上に桜花結晶を置いていなかったのです(※4)。
     
     そこで私は付与札に桜花結晶を置くというアイデアに至りました。展開時、展開中、破棄時という分類をしたのもほぼ同時で、このやり方には広いデザイン空間があるのは明らかでした。そしてこれはある意味では特殊な領域でもあります。メガミ全体にまたがるような形でブック領域のようなものも実現できるのです。
     
     しかしそれ以上に大きなメリットがありました。上に桜花結晶を置くようにすれば、盤面に残っているカードを区別できるのです。本作にはボードが存在し、それによってある程度の複雑さが与えられています。私としてはそのような状態で捨て札などの表向きのカードを置くべき領域を分け、盤面の複雑性を増やしたくはありませんでした。理想を言えば順番すら気にせず、他方で相手には分かりやすいように、雑にカードを並べられるようにしたかったのです(※5)。
     
     こうして、付与札に桜花結晶を置くという大きなルールが定まりました。もちろん初めから今の形だったわけではなく、細部においてはその後も幾度かの変更がありました。例えばオーラからしか桜花結晶が置けない代わりにオーラへと戻る仕様(※6)であったり、自分のターンにしか桜花結晶が落ちない仕様であったりしたことがありました。
     
     この付与札のルールは素晴らしく、シンラは付与札と強く結びつくというすばらしい個性を手にしました。これによりシンラはもうひとつの軸となる二本目の足を手に入れたと言っても過言ではないでしょう。しかし小さな問題もありました。これはあくまでメガミ全体にまたがる全体のルールの話であり、シンラという一柱のメガミのキーワードと呼べるかは疑問だったのです。
     
    ※4 恒久的に残る付与カードは切札にしかありませんでした。切札は今でいう【使用済】効果にあたる能力を持っていたのです。一方で通常札は開始フェイズに必ず捨て札になる――即ち今でいうところの納2のカードだったのです。

     

    ※5 『第二幕』「圏域」はサイネ特集の中篇をご覧いただければわかる通り、やむを得ない例外でした。

     

    ※6 当時はオーラの上限もありませんでした。

     


    閑話休題:付与札クイズ

     

     そうだ、付与札の話をしたのですから、途中でシンラのカードプールに存在した独特なカードを1枚紹介しましょう。付与札の上に桜花結晶を置くというアイデアが生まれた際に、あるゲームのことを想起しながら作ったカードです。
     
     ちなみに、この時点で納は自分のオーラからしか置けず、付与札の上から桜花結晶がオーラへと戻され、それは自分の開始フェイズにしか起こらないという仕様でした。

     

     改めて見返してみると、なかなか良いカードなのかもしれません。ただ、今改めてこのカードを作る場合は、上記のルール的な差異を全て能力として書かなければいけないのは少しばかり厄介です。
     
     分かる方には簡単かもしれませんが、このカードを思いついたアイデアの種となったゲームとは何でしょうか。クイズ感覚で考えてみてください。解答は中篇でお届けしましょう。


    納1
    【展開時】ダストから桜花結晶を2つこのカードに置く。

     

     


    最後は論壇に立つ

     

     この後のキーワードの探索は困難を極めました。これまでを総合すると、シンラのカードプールはすでに十分に独特なのです。他にはない魅力を出せてはおり、これで完成としても致命的な問題はありませんでした。ここに新しいコンセプトを加えようとしても、どうにも上手くいきません。
     
     しかしユキヒには初めから変貌があり、トコヨとオボロは境地と設置を見つけ、ユリナとヒミカもキーワードがあるべきと決死と連火を見つけつつありました。そのような中、シンラだけがそのようなキーワードを持たないのはあまりにも不自然です。
     
     そんな中、私は付与札との友好関係に着目して、論壇というキーワードを作りました。プレイテストの時間を考えるともはや残り時間は少なく、やむを得ない決断ではあったのは確かです。
     
     結果としてみると意識していた点は成功しており、悪くはないコンセプトでした。デッキの構築において付与カードを強く意識するようになり、構築において独特の楽しさや相互作用の感覚が生まれるのです。しかし、ベストのコンセプトだったかといわれると疑問が残ります。この部分については後篇にてお話しすることになるでしょう。
     
     こうしてキーワードの結末だけを見ると、これまでの本シリーズと比べてややビターエンドな様相を呈しています。しかし誤解なきよう補足しておくと、山札の操作や付与札の発見とその活用において、シンラと彼女をデザインする過程はすばらしいものでした。結果として生まれた独特なカードプールには独自の魅力があり、シンラは間違いなく成功だったと言えるのです。これらのカードの素晴らしさは、続く中篇で語ることにしましょう。
     
     
     今回はこんなところでしょう。次回の更新は来週、福岡で開催される大規模大会の申し込み開始と、10月、11月に向けたイベント関連の記事を書かせて頂きます。さらに余力があればシンラ特集の中篇にて、『第二幕』でのカード個別の話もいたします。併せてご期待くださいませ!

    今後の展望、2018秋

    2018.09.08 Saturday

    0

       こんにちは、BakaFireです。本日の記事では向こう三か月における本作の展望を書かせて頂きます。初めてご覧になる方のために説明すると、私は三か月に1回、本作の今後の展望や指針をまとめ、説明させて頂いているのです。

       


      前回の展望をおさらいしましょう

       

       今後の展望シリーズでは毎回、前回の展望を見直し、それらがどうなったかを確認していました。今回もそれに従いましょう。
       
       
      デジタルゲーム版はより魅力的に!

       

       これについてはニュースが少ないことに不安を頂いている方も少なくないかもしれません。しかしご安心ください。状況は良くなっております。


       
      より幅広く組織化を進めます

       

       組織化は進んでいるのは確かであり、特にPC版のサイトの作成は外注にて進められております。外部への依頼を適切なバランスで増やせるよう、引き続き尽力する次第です。

       

       他方で、雇用という側面まで来ると中々に難しい話であり、この3か月の間に劇的に前進させることはできませんでした。社員を抱えると考えると責任は重く、慎重にならざるを得ません。
       
       大変ありがたいことにすばらしく魅力的なお話もいくつか頂けており、結果として私自身の忙しさは増し続けています。おそらく向こう1年の間には大きな変化が必要となると考えています。
       
       
      公式サイトを初めとして、
      新幕のサポートを補強します

       

       前回の目標に抱えた内容は全て進められており、いくつかは完成しました。途中までしか公開できていないのものもある点は申し訳ないところですが、どうにか頑張らせて頂いております。

       


      大規模大会が大阪で開催だ!

       

       無事に開催され、大成功に終わりました! 気になる方は是非とも大会レポートをご覧ください。
       
       
      現状のバランスにつきまして

       

       前回も書いた通り、バランスは禁止カード改訂とカード更新についての記事で書く形になりました。これはこれらの話題が存在する場所を一元化し、分かりやすくするための試みでもあり、その面でも成功しているように感じます。
       


      『新幕 第壱拡張』が進行中!

       

       8月17日に無事に発売いたしました! ウツロ、アナザー版メガミ、カード更新といった試みの大半は見事に成功し、魅力的な環境を生み出していると考えております。
       
       勿論気になる点もまたゼロではありません。多くの成功の裏に、小さな失敗もいくつかはあったと考えています。しかしそれを語るべきなのはここではないでしょう。
       
       
       さて、前回までの展望はこのようなものでした。シーズン2でゲームバランスも大きく改善し、現状の『新幕』は良好な状況にあります。そして私どもはそれらをより魅力的にしていくための次の一手を模索している状態なのです。
       
       それでは、次の展望を始めましょう!

       


      デジタルゲーム版に大きな動きがあるぞ!

       

       向こう3か月における、最も大きな展望はこれで間違いないでしょう。長らくお待たせし続けてしまい申し訳ない限りではありますが、この3か月間でデジタルゲーム版は大きく動くことになります。やや具体的でない言い回しで重ねて申し訳ありませんが、こちらは私が独断で全てを語れるわけではないということでご容赦くださいませ。
       
       ひとつ良いニュースをお伝えするとすれば、開発は順調になり、軌道に乗っています。私は既にデジタル版の本作を遊ぶことができており、仕上がりは日に日に魅力的になっているのです!
       
       この3か月間、ぜひともご期待ください!

       


      新幕の攻略記事や動画を開始するぞ!

       

       アナログゲーム版でも新たな試みを計画しております。『第二幕』シリーズで好評であった本作の攻略記事を『新幕』でも始めていく見込みなのです。ありがたいことに本作を『新幕』から始めて頂いた方も数多くいらっしゃることからも、今こそが最適なタイミングと言えるでしょう。
       
       それに加えて新しいやり方として、本作についての動画の作成もまた進めております。先日の大規模大会レポートでは準決勝、決勝を動画でお送りさせて頂きましたが、これはまだ第一歩に過ぎません。より魅力的な動画の企画も動き出しております。
       
       動画については速ければ今月中、遅くとも来月の前半にはお見せできる見込みです。ご期待くださいませ!

       


      シーズン2大規模大会の舞台は福岡だ!

       

       シーズン1で大好評だった大規模大会について、シーズン2でも開催させて頂きます。但し、この部分については僅かな計画変更があったことは補足するべきでしょう。
       
       私どもは地方での大規模大会と、地方での予選と関東での本戦からなる全国大会を交互に行うと計画しておりました。しかし、夏のコミックマーケットからゲームマーケット秋までの期間を改めて観察したところ、思った以上にシーズン2が短いと分かったのです。
       
       この状況でシーズン2に全国大会を強行するのは無理が大きく、良い結果を生みそうにありません。そこでシーズン2はシーズン1と同様に、地方での大規模大会を開く形とするのです(※1)。
       
       さて、それでは大規模大会の舞台に相応しいのはどこでしょうか。『第二幕』では名古屋で、そして記憶に新しい『新幕』シーズン1では大阪で開催されました。まだ開いたことのない会場を選ぶべきであり、同時に地方と円滑に連携するためにも、交流祭が定期的に開かれている必要もあります。
       
       そうなると候補は福岡、北海道、新潟の3つとなります。この中で私どもは、今回は福岡が最も素晴らしいと考えました(※2)。九州ではシーズン1の間に九州全体での交流祭が開催されたこともあり、本作の盛り上がりが大きくなりつつあります。今ここで大規模大会を開き、より激しく盛り上げて行きたいのです!

       

       今回は大阪の時と同様に初報です。日程は11月3日(土)。会場は博多駅より電車でわずか3分、福岡県中小企業振興センターを予定しております。申し込みについては今月中には開始いたしますので、参加を希望される方は是非ともこちらの予定を開けておいていただければ幸いです。

       

      ※1 ということはシーズン3では? ええ、これまでの全国大会よりもさらに魅力的な全国大会イベントを計画しておりますとも!

      ※2 もちろん北海道、新潟はより未来の大規模大会では優先すべき候補となります。

       

       

      ゲームマーケットでは『第弐拡張』発売!
      そして様々なニュースを公開だ!

       

       そして最後に、次の拡張についてです。当然ですが私どもBakaFire Partyは11月24日〜25日に開催されるゲームマーケット2018秋に参加し、そちらにて『新幕 第弐拡張』を先行頒布いたします。
       
       そして今回もエリア出展となります。前回同様ステージを設営し、魅力的な発表を数多く行いますので、ご期待ください。ええ、本日はまだお話しできないことが残念ですが、本当に魅力的なお話がたくさんあるのです。ぜひともゲームマーケットでは私どものブースまでお越しいただき、新情報へとご注目頂ければ嬉しい限りです。
       
       
       以上となります。今回の展望もお楽しみいただけていればうれしい限りです。次の展望は『新幕 第弐拡張』が発売し、様々な魅力的な出来事が起こった後、12月にお届けいたします。

       

       次の私の記事は来週、シンラ特集をお届けする見込みです。こちらもご期待くださいませ!

      『桜降る代の神語り』第63話:影の中枢へ

      2018.09.07 Friday

      0

        《前へ》      《目録へ》      《次へ》

         

         闇昏千影らのひとつの戦いが終わった以上、もうひとつの戦場へと舞台が移るのは必然だ。
         しかし、先程垣間見せた危機……そこから物語を紡いでも難解に過ぎるというものだろうね。

         

         ここはひとつ、時を遡るとしよう。
        闇昏千影らが研究所へと潜入してからおよそ一刻ーー天音揺波らが瑞泉城へと到着したそのときから始めるとしようか。

         


         空に、怪鳥が舞っていた。
         立派な双翼を生やしたヴィーナは、揺波たち五人を乗せて夜の空に威容を示していた。とはいえ、人気の少ない河の方角から飛んできたこともそうだが、非常識極まりない謎の飛翔物相手に地上が騒がしくなるということはなかった。
        だが、誰もが見間違いで済ませようとした怪鳥は、瑞泉城の敷地へと突き刺さるような姿勢で、地面に引きつけられつつあった。

         

        「みんな備えてッ!」

         

         大気を裂く音に負けじと声を張り上げるサリヤに、ぎゅっと抱きつくジュリア。後部の臨時座席に残りの三人がしがみついている状況だが、地面への進入角度の深さは軟着陸とは程遠い。
        もはや激突待ったなしの状況で、真っ先に飛び降りたのは揺波だった。そこに顔を青くした千鳥と佐伯が続き、各々土に塗れながらも大地に立つ。
         そして僅かに遅れ、ガンッ! とヴィーナの車輪が地面に打ち付けられた。

         

        「……っ!」

         

         着地の衝撃は、間に合わせでしつらえた後部座席を破壊し、勢い余って地面に着いた翼の先端をばらばらにしてしまう。しかし、乗っていたサリヤとジュリアが投げ出されることもなければ、ヴィーナ本体はサリヤの求めに応じて、きぃと叫びながら車輪の回転を必死に押し留めており、あっという間に速度を減じさせていた。

         

        「大丈夫だった!?」

         

         瞬く間に体勢を立て直したヴィーナを駆り、生身で降りた三人の下へと近寄る。ジュリアは衝撃に頭を揺らされたようで、サリヤの背中でややぐったりとしていた。ガシャリ、ガシャリ、と軋みを上げながら、翼が元の位置に格納されていく。
        最も土汚れの少ない千鳥が、冷や汗をかきながら、

         

        「あの、なんというか、もうちょっと優しい感じに着陸とか、できたら嬉しかったなーなんて……」
        「ごめんなさいね。ここまでの運用をしたのは初めてだったから……」
        「あ、いや……! みんな無傷みたいだし、それだけで十分ですよ! こうして、予定通り城に乗り込めたわけだし」

         

         そう言う千鳥が見上げるは、敵の居城であった。
         一行が降り立ったのは、城へと続く門の前の広場であった。塀に囲まれているという圧迫感こそあるが、人間を百人単位で並べられそうなほど広い空間だ。今は衛兵の類の姿は見えず、降り立った五人だけである。

         

        「すぐに誰かが駆けつけてくるでしょう。急がないと」
        「ですね。目の前に降りられてよかっーー」

         

         佐伯の言葉に同意する揺波であったが、突然その言葉を自ら遮った。
         そして佩いた刀に手をかけると、

         

        「……! 避けてッ!」

         

         

         短い警句を発し、遮二無二その場から離れようと駆け出した。他の者も、揺波に従って即座に散開する。急発進したヴィーナの唸り声だけが、一行から上がった悲鳴のようだった。
         揺波が感づいた現象は、足元から発露していた。地面に落ちた夜闇から溢れ出した影色の茨が、生ある者を中に引きずり込もうとするように揺波たちに追いすがっていたのである。

         

        「な、なんだこれ……!?」

         

         塀の上に退避した千鳥は、それでも延々追ってきた茨がようやく諦めた様子を見て、不本意にも荒げた息を整える。
        結果として、茨に飲まれた者はいなかった。走って振り切ることができる程度には、この空間が広かったのも幸いだっただろう。斬っても手応えのないそれに、揺波もひたすら距離を取る他なかった。

         

         と、唐突に湧いた敵意ある現象に喘ぐ中、佐伯の口からこぼれ落ちたそれは、絶望であった。

         

        「最悪だ……」

         

         彼の視線の先にあるもの。
         それは、影だった。
         薄く開いた大きな門から、身を滑り込ませるようにして姿を晒していたのは、人の形をした影に灰をかぶせたような少女。その特徴はもとより、夜闇の中にあってなお、門の篝火に淡く照らされてもなお、目を離すことができないほど重くのしかかる圧は、彼女の正体を皆に悟らせる。

         

         ウツロ。瑞泉に与する、強大なメガミ。
         作戦中最も恐るべき障壁が、今ここで現れたという事実に、揺波たちは息を呑んでいた。

         

        「うそ、だろ……だって……」

         

         呆然とする千鳥。ウツロという大きな脅威に対しては、オボロが何かしら対処の手配を進めているはずだった。だが、札がまだ切られていないのか、それとも無駄だったのか、判然としない中でなおさら後ずさる足を止めることはできない。そしてそれは、サリヤの乗るヴィーナもまた同様だった。
         初めてメガミの威圧感に晒されたサリヤは、背中の主をウツロから隠すよう、咄嗟に向きを変えながら後退させた。自然と佐伯に並ぶ形となったが、彼は小さく震える指先で眼鏡の位置を直していた。

         

         存在するだけで気圧されるというのに、とつ、とつ、と歩いて向かってくるウツロの姿は悪夢でしかない。不幸なのは、これが現実の出来事ということ。一同は恐れから、それぞれ得物を構える。


         あとはただ、蹂躙の開始を待つばかりーーそう、誰もが覚悟していた。
         たった一人を除いては。

         

        「天音……!?」

         

         驚愕する千鳥の視線の先で、揺波は彼とは逆に、一歩を踏み出していた。
         千鳥が声を上げた理由はそれだけではない。
         揺波の刀は地面を向き、戦いに挑む気迫は欠片も見当たらなかったのだ。

         

        「ウツロさん、ですよね」

         

         静かで、およそ敵に対するものとは程遠い、語りかけるような声色。その誰何に、ウツロは立ち止まり、ややあってから僅かに首を縦に振った。
         以前とは違い、少しでも反応があったことにほっとした揺波は、

         

        「あのときは、結局答えてくれませんでしたね」
        「…………」
        「どうして、こんなことに手を貸しているんですか?」

         

         古鷹の舞台での邂逅。そのときに投げかけた疑問を、もう一度繰り返す。

         

        「そんなこと訊いてる場合じゃーー」

         

         やきもきしていた千鳥が一見無駄な揺波の行いを止めようとするが、それに佐伯が静止の手を向ける。揺波はそんな彼らに目礼する。
         その様子も、ウツロはただ黙って眺めるだけだった。
         揺波はさらに、言葉を重ねる。

         

        「ウツロさんが瑞泉に手を貸す理由だけが、どうしても分かりませんでした。酷いことを喜んでやっているようには見えない。でも、嫌々従ってるようにも見えない……ぽわぽわちゃんも、わたしも、ウツロさんが悪いメガミだとは感じられないんです」

         

         自らの内に宿る幼きメガミと意志を共にするように、緩く握った左手を胸に当てる。
         そして、真っ直ぐな問いを、彼女へ向ける。

         

        「ウツロさんは……何が、したいんですか?」

         

         それが、揺波がウツロを知るための道の途中、何故、を考えた果ての行き止まりにあった疑問だった。
         じっ、とウツロは変わることなく無感情なまま、揺波を見返していた。
         はっきりと。己に向いたその意志を、揺波の瞳の中に見出すように。

         

         ただ、それも長くは続かない。
         揺波から目をそらしたウツロは、そのまま目を伏せてしまった。初めて揺波が目にした、もっともらしいウツロの意志であったが、なんと声をかけたらいいものか迷ってしまう。
         と、

         

        「……ない」
        「え……?」

         

         闇に溶け込んでしまいそうな小さな声を、揺波の耳が捉えそこねた。
         ウツロは目線を落としたまま、今度はもう少しはっきりと、言葉を作った。

         

        「私は、ないの。何も、ない。空虚。私がしたいことは……何もない」
        「何もない、って……」

         

         予想外の答えに詰まる揺波。
         しかし、「でも」と続けたウツロは、前掛けの端を甘く握りながら、

         

        「負けたらだめ。それだけは、感じる」

         

         相手や具体性に欠けた物言いに、揺波は戸惑いながらも問いを重ねていく。

         

        「負けたら、って……何に、どうして……?」
        「分からない。でも、私が言ってるの」

         

         何故だろうか。ウツロの示す自身は、どこか自分とは違う誰かを指しているように聞こえた。

         

        「負けるのは嫌。負けるのは怖い。もう……私がなくなるのは、嫌……!」

         

         

         ぎゅっと、その手が握りしめられる。それは、今までの彼女の態度からは想像できないほどに強い、感情の発露と言って相違なかった。
         万人を恐れさせる側の存在が、恐れを抱いている。その事実は成り行きを見守っていた佐伯からして感覚を裏切られたようで、眉をひそめて疑いの視線をウツロへと注いでいた。

         

         一方で、揺波が作ったのは、笑みだった。
         分かりあえるものが見つかったという、安堵の笑みだ。

         

        「負けたくない……分かります。わたしも負けるのは嫌です。今までずーっと、決闘で負けてきませんでした。これからもずーっと、勝ち続けたい……負けたときのことなんて考えられないくらい、わたしも負けたくなんてないです。一緒ですね」

         

         共通項を頼りに、対話を続けていく。ウツロへの理解の先には、手と手を取り合う未来だってありえる。現状の悲惨さを憂う気持ちはもとより、ホノカと交わしあったウツロへの印象は、瑞泉に与しないよう説得できる可能性を無視できるようなものではなかった。
         だが、

         

        「……話しすぎた」

         

         緩く頭を振ったウツロは、拒絶を形と成した。
         飲み込まれそうな敵意と共に、彼女の手に影の大鎌が現れたのだ。

         

        「だから、ここでも負けられない。……消えて」
        「……わたしだって、負けませーー」
        「馬鹿か天音! 貴様が張り合ってどうする!」

         

         今度こそ、佐伯が揺波を止めに入った。勝ち負けが示す結末を想うまでもなく、付け加えられた物騒な台詞は武器を構え直す理由としては十分すぎた。
         経緯も理由もどうあれ、目の前のメガミは敵。
         結局、その現実は変わらなかったのだ。
         そして何より、ここはまだ大命を遂げるための道中なのである。

         

        「そ、そうだよ! ここで天音が消耗しちゃうのは流石にまずいだろ! 瑞泉のために温存させないと……」
        「で、でも……」

         

         千鳥の意見は、ウツロ相手に足止めを買って出ることを意味している。
         逡巡する揺波であったが、サリヤたちも千鳥に追随するように、

         

        「ユリナちゃん、ここは私たちに任せて!」
        「先行ってクダサイ! ダイジョブです!」

         

         計画通り、最も高い戦力を誇る揺波を大将の下へ送るべく、戦闘能力を持たないジュリアでさえも、重圧に負けないようウツロに敵意を向ける。
         揺波の逡巡は、大局に向け直された意志に飲まれ、消えていった。

         

        「はいっ……!」

         

         ウツロから大きく距離を取るように、門へと駆け出す揺波。幾ばくかの名残惜しさを覆い隠すように、警戒心を最大にまで高める。それを援護すべく千鳥たちは身構えた。
         けれど、千鳥の構えた苦無が、宙を裂くことはなかった。
         ウツロは、動かなかったのだ。

         

        「え……」

         

         不思議に思いながらも、無傷で門の向こうへと消えていく揺波。
         それを背に見送ってか、ウツロは残る四人に向き直る。

         

        「アマネユリナは、いい。でも、あなたたちは、通せない」

         

         門を遮るように立ち位置を変えた彼女は、その体躯とは対照的に、圧倒的な存在感を持つ門番と化した。

         

        「忍、覚悟は決めたか?」
        「なーに、これでも子供の扱いは慣れてるんだ、任せてくださいよ」

         

         煽る佐伯も、軽口を叩く千鳥も、謳われしメガミを前にして口は全く笑っていない。
         それはサリヤも同様だったが、ジュリアだけは心なしか口端が歪んでいた。

         

        「サリヤ、出し惜しみムヨウです!」
        「はい……! ――I AM THE SERPENT, I CURSE YOU...」

         

         サリヤの操作に応じるように、光を孕むヴィーナ。先程までのように翼を生やすのではない。光に包まれているのはヴィーナの前半分と後部座席である。
         うつ伏せになった人間が膝立ちになるかのように、前輪が軸を折り曲げるように中心にまで移動し、代わりにサリヤたちの座席が鎌首をもたげるかのように持ち上げられる。そして後部座席は、爬虫類を思わせる尻尾のように伸ばされていく。

         

        「TRANSFORM FORM:NAGA!!」

         

         宣言と同時、突き出た操縦席の前面が、双眸のように赤く光る。

         

        「…………」

         

         しかし、それでもウツロは動じることはなかった。
         戦力にして、一柱対三人。
         どれだけ武装を揃えようとも、その対比が意味するものは、無謀。

         

        「ん……」

         

         ウツロの手にした鎌が、希望を刈り取る形となって、四人に向けられる。

         

         

         

         

         


         抜刀したまま城内を進む揺波だったが、その刀が振るわれることはなかった。
         人が、いないのだ。

         

        「こっちかな……」

         

         気配がないわけではない。けれど、敵陣に突入した段階になって、行く手を阻む者が一向に現れないというのは不気味ですらあった。来たこともない大きな城ということもあり、差し込める月明かりといくらかの行灯だけという薄暗さも相まって、抱えていたはずの強い意志が端から少しずつ削れていくようだ。
         上階にいると目される瑞泉は、襲撃を冷静に受け止めている節があるように揺波には思えた。ウツロが通してくれたこともそうだが、どうにも誘われているようでならないのである。

         

         揺波を招き入れる理由ははっきりとしている。揺波が宿すホノカーー瑞泉曰く、ヲウカの力を手に入れるためだ。彼が古鷹の亡骸を前に語った内容は、未だ揺波の中で消化しきれていないものの、彼の究極の目的のために必要とされていることだけは理解している。
         万全の状態で瑞泉と会敵できれば最上だ。けれど、たとえそれが叶ったとしても、だからこそ一筋縄ではいかないような気がするのである。

         そんな不安を抱きながら、階段を一つ上りきったときである。

         

        「ようこそ、天音の娘」
        「……!」

         

         いきなりかけられた声に、咄嗟に刀を向ける。
         その先ーー大人が二人、並んで両腕を広げてもなお余裕がありそうな廊下に、枯木のような老人がぽつんと佇んでいた。薄闇ということもあって、どきりとしてしまう光景である。
         紋付袴姿の彼に、揺波は見覚えがあった。ただ、大家会合で見たことがある、というところまでしか思い出せず、次第に眉をひそめていく。
         そんな彼女の様子に、かか、と笑った老人は、

         

        「まともに覚えとらなんだか。ーー儂は瑞泉海玄。息子の驟雨が世話になっとる」
        「あ、はい……天音揺波です」

         

         一応名乗り返す揺波は、少しばかりやりづらさを覚えていた。
         海玄は、確かに彼女の行く手を阻むように立ちはだかっている。けれど、今にも飛びかかってきそうな気迫は感じられない。しかし一方で、それをただ、老人だから、の一言で済ませられない剣呑な空気だけが、揺波に刀を構えさせている。

         

        「あの……通してもらえたりは……しませんか?」

         

         ウツロの例もあり、期待がなかったかというと嘘になる。
         ただ、海玄はその問いをまるっきり無視し、

         

        「儂はな。これでもメガミ様は敬うべき存在だと思うとる」
        「え……」
        「なんだその意外そうな顔は。まあ、言いたいことは分かる。驟雨のやつがやっていることは、罰当たりも甚だしい。メガミ様に害をなすなぞ遺憾の極みよ。よもや儂がそれに加担する日が来るとは思わなんだ」

         

         だが、と海玄はほくそ笑んだ。

         

        「儂は敬虔なメガミ様の信徒である前に、一人の父親だ。息子が野望を成り遂げようとしている姿を、どうして夢見ずにいられようか!」
        「な……!」

         

         絶句する揺波。その価値観の差は、嗤う海玄との間で明白だった。

         

        「そ、そんなことでみんなを……!」
        「そんなこと? おぉ、おぉ、よりにもよって天音の者に謗られるとは。近年稀に見る野心家だった天音がなあ」
        「わ、わたしは、別に……」

         

         否定する揺波に、海玄は口端を吊り上げる。

         

        「何も揺波、お前さんのことを言ってるわけじゃあない。今は父親の話をしているんだ。……そう、時忠殿だ。ある意味、あやつも儂と同じだったと思わないか? 野心はあった、だがそれ以上に……揺波、お前さんの才能に夢を見ていたんだよ、あれは」
        「違う……お父様を、あなたたちなんかと一緒にしないでっ!」
        「くかかかっ!」

         

         挑発だということは理解できていた。けれど、海玄の言葉に真意しか含まれていないこともまた、理解できてしまっていた。
         もはや言葉を交わすことは無意味だった。ウツロにはまだ希望があったが、海玄は違う。あまりに違う方向を向いている以上ーーいや、自身というものを横に置いてなお、瑞泉驟雨が目指す先を見ようとしている以上、戦いは避けられそうにない。

         

         しっかりと、切っ先を海玄へと向ける。いかに枯れた身体であろうとも、若手のミコトをなぎ倒す老齢のミコトなんて珍しくもないのだから、見た目で油断することはできなかった。
         けれど、海玄はその構えに待ったをかけた。

         

        「奥の手、あるんだろう? 使っておいたほうが懸命だと思うが」

         

         そう言うと海玄は、羽織を脱ぎ捨てる。
         その下に現れたのは、両腕に取り付けられた複製装置であった。骨ばった腕のせいで、まるで歯車が回るたびに活力が吸い上げられていっているような錯覚に陥る。

         

        「こいつはな、複製装置<雫>と<滅>ーー儂が宿していたメガミ様の力を引き出してくれる」
        「自分の……メガミを……」
        「そうだ。故に、その力の使い方は熟知しておる。くれぐれも、古鷹の芸人風情とは比べてくれるなよ」

         

         そして、と継いだ彼は、

         

        「双方がメガミの力を借りれば、それはもう桜花決闘に違いあるまいて。仕合いたいのだろう、お前さんは。その望みを叶えてやろうというのだ。もちろん、勝てば道を譲ってやろう。メガミの力も使わぬ小娘に、できるとは思えんがの。くくく」
        「っ……」

         

         歯噛みする揺波に、実質的に選択権はなかった。複製装置を使う相手に、メガミの力抜きで戦うのはあまりに厳しい。むしろ、戦闘中にどうやって使うか、という駆け引きの手間を省いてくれただけ、有情とも言える。……神代枝が、貴重な物資であることを除けば、だが。
         全てを分かった上で、彼は使用を強いている。
         そんな、自分の預かり知らぬところで整えられた舞台で行う決闘に、揺波は既視感を覚えてしまっていた。

         

        「ザンカ……ぽわぽわちゃん……お願い」

         

         言われた通り、神代枝を砕く。普段遣いの刀を納め、手に握り込むのは斬華一閃。その肉厚の刀身を掲げ、この決戦の地で唱えるはずのなかった誓いを口にする。

         

        「天音揺波。我らがヲウカに決闘を」
        「瑞泉海玄。我らがヲウカに決闘を」

         

         神座桜があるはずもない暗い城内で、異例の桜花決闘が幕を開ける。

         

         

         

         

         


         先に動きを見せたのは、海玄であった。一方で、彼の足は止まったままである。

         

        「…………」

         

         静かに様子を伺う揺波の視線の先では、一抱えほどもありそうな水球、そして不吉な予感を禁じ得ない黒い霧が、海玄の周囲を固めるように宙に揺蕩っていた。
         一歩、また一歩。じりじりと距離を詰める。
         水球は三つに増え、黒い霧も範囲を少しずつ拡大しつつある。そんな中、単身飛び込むのは蛮勇というものだ。
         故に、

         

        「む……」

         

         揺波は斬華一閃を手放し、虚空を掴んで振り抜かんとする。光と消えた刀の代わりに彼女の手に収まっていたのは、薄暗い廊下を照らすように淡く輝く桜色の旗だ。

         

        「やッ!」

         

         振るわれた旗は、その軌跡から煌く流れを生み出した。その輝きの一粒一粒は桜花結晶そのものである。
         勢いよく送り出された桜吹雪は、主の手の届かない間合いで泰然と構える海玄へと迫り、守りの一つであった水球がその身代わりとなって弾けた。
         ただ、それを攻撃の皮切りとしたところで、海玄の次の動きに虚を突かれる。

         

        「ふん……!」
        「……!」

         

         海玄は、顔をしかめながらも前へ踏み出したのだ。
         距離を保ちながらの戦いを志向するとばかり考えていた揺波は、さらに警戒心を高めながらも同じく前進を選んだ。

         

        「ほぅれ」

         

         その僅かな動揺を押し広げようと、海玄が浮かべていた一つの水球を源にして、鉄砲水が猛々しく揺波へと襲いかかる。
         揺波の勘は、足を止めてはならないと叫んでいた。後ろへと回避するのではなく、選択したのは防御だ。手首で旗を小さく振り落とし、生じた軌跡の光によって水流を防ぐことで進路を保つことで、さらに一歩二歩と間合いを詰めていく。
         得手とする距離に入った揺波の手に、再び斬華一閃が握られた。

         

        「や、ぁアッ!」

         

         浅く飛び込むような踏み込みと共に、鼻先をかすめるような斬撃が放たれる。近距離戦での先手をまず取りに行くような、流れの礎となる牽制じみた一撃だ。
         これに海玄は一歩足を引き、その身を黒い霧の中に隠すように躱した。近くで見る霧は意外なほどに濃く、手応えがないことだけが、有効打にならなかったという事実を教えてくれた。

         

         それでも、刃の届く範囲を脱されたわけではないことは、隠しきれていない足元が保証していた。
         だからこそ揺波は、霧の危険性を承知で、二の太刀を浴びせにかかった。
         不吉さを薙ぎ払うような、一閃ーー

         

        「はッ……!」
        「ぬ、ぅ……!」

         

         命中した。
         手応えは、間違いなく海玄を捉えていた。
         このまま何もさせずに押し切る……そう、意思を固めたほどには、気持ちがいいくらいの快打であった。

         

         だが……次の手を繰り出そうとする揺波の視界に、異物が映った。
         ばしゃり、と。床を濡らす水の音だけであれば、海玄の操る水のせいだと無視することもできただろう。
         その場で踏ん張る海玄の足元に、撒き散らされたソレ。

         

        「ぇ……」

         

         赤。
         この満足に明かりのない廊下でも分かる、鮮やかな赤。
         本来、桜花決闘では目にすることがない、赤。
         気づかなければ、そのまま連撃も成せていただろう。
         気づいてしまったからこそ、一刀を振り切ったところで、揺波は固まってしまった。

         

         それが、海玄の血であることに。
         相手には、身体を護る桜花結晶が、ないということに。
         この戦いはーー誓いが空虚になるほどの、偽りの桜花決闘だということに。

         

        「ひ、ひっ……」

         

         ぬるり、と。
         額に脂汗を浮かべた老骨が、黒い霧の中から姿を現した。生身の脇腹が受け止めた刃を頼りにするように、傷がさらに深くなることも構わず、揺波の懐へと潜り込む。
         いつの間にか、その手には立派な簪が一つ。
         まるで、その一歩を踏み出させた歪な執念が宿るように、黒い霧をまとった簪の切っ先が、揺波の胸を指し示す。
         老人に、嗤う骸骨が重なって見えたような気がした。

         

        滅灯揺灯 ほろびのゆらりび

         

         

         迷いのない一突きが、揺波の心臓を貫いた。

         

        「あ……がッ……!」
        「くく……くひひ……ひひぁ……!」

         

         今まで受けたことのない衝撃と激痛に、頭が真っ白になる。脂肪も、肉も、骨も、本来それを守るはずの部位の悉くを無視し、心臓への一撃という死への誘いを成就させた海玄は、叩き込んだ死を示すかのように不吉に嗤う。
         ただ、彼が返り血を浴びているということはなかった。
         人間としての守りを全て突破されようとも、揺波は今、少なくとも彼女自身は、桜花決闘の場に相応しい力を携えている。体内の桜花結晶が、死に至る刺突を肩代わりしたために、揺波の肉体は無傷のままであった。

         

         死を想起させられた彼女は、自身の状況を理解して、さらに冷や汗を流した。
         あと一つ。それが、体内に残った結晶の数だった。
         二度目など、当然許されるはずがない。

         

        「は……あぁッ!」
        「がッ……」

         

         簪を押し込み続けようとする海玄を、打ち払うように刀を引いた。死を運んだ老人には、もうそれに抗うだけの力は残されていなかった。

         

        「……!」

         

         上段に構えようとしていたことに気づいて、揺波はその手を止めた。
         たたらを踏んだ海玄は立っていることもままならず、膝から崩れ落ち、そして倒れ伏した。飛び散った血が、彼の粘つくような感情を代弁するように、揺波の脚に着いた。
         顔を狂喜に歪ませたまま、海玄は床に命を吐き出すだけの物と化した。

         

         下ろした斬華一閃の先から、ぽた、ぽた、と先程まで彼の中で巡っていた血が滴り落ちる。
         整えられた舞台は、その既視感通りに再演を終えた。まるで演者の亡霊が、ゆめ忘れるなと彼女に悲惨な結末を見せつけているかのようだった。彼がそんな人間ではないとは分かっていても、血溜まりに倒れる姿に幻視するなというほうが無理だった。

         

         手の震えに、刃先に溜まる血が小さく波を打つ。
         ぎゅっと、揺波は胸を押さえた。

         

         

         

         


         上へ、上へ。
         それが本当に正解かも分からないのに、ただひたすら上を目指した。
         障壁はもはやなく、これが奇襲の効果だとすれば作戦の妙に喜ぶべきだが、不自然なまでに人気のない城に、捨て身の狂気に晒されたということもあって、揺波は奇妙さに息苦しさをやや感じていた。
         引き込まれている。後戻りも許されないよう、手を、脚を、見えない手が掴んでは奥に連れ込もうとする。そんな不気味な不可視の意志に後押しされながらの行軍に、不安を覚えないというのも無理な話であった。
        けれど、引きずり込まれきったその先で、不安は無用なものとなる。

         

         階段を上った揺波は、開け放たれたふすまの向こうに、この階唯一にして最大の部屋を認めた。
         他に廊下の類は見受けられず、最上階に違いない。ただ、現れた部屋は、地上から見上げるほどの高さにあるというにはあまりに広い。畳敷きのそこは、決闘をするにもなお余裕のある、無駄な空間を作っている。

         

         特筆すべきは明るさだ。火を用いた灯りは一切ないというのに、この夜の最中にあって、夜明けを思わせるほどに視界は明瞭だった。仄かに桜色めいた光に目を移せば、城と肩を並べる巨大な神座桜の結晶たちが、一方の壁一面に大きく誂えられた、雲のような曲線形の窓の向こうに覗いていた。他方から差し込める月明かりが、誰も居ない廻縁を照らしている。

         

         そして、その最奥。
         逃げも隠れもせず、彼はそこにいた。
         戦場にふさわしくない堂々たる態度が、しかし揺波には妙な納得感をもたらす。

         

        「ようこそ」

         

         瑞泉驟雨。
         打倒すべき元凶。
         脇息にもたれかかり、余裕ある笑みを浮かべた彼は、ただ一言、現れた揺波を歓迎した。

         

         

         

         


         ウツロを仲間に任せ、瑞泉海玄を打破し、ついに天音揺波は瑞泉驟雨と相対することになった。
         そう、まずは作戦は成功といってよいだろう。こうして、英雄は敵将と向き合うこととなったのだからね。

         ただし、天音揺波はもはやただ一人。そして、この状況を望んだのが天音揺波たちの方だけとは、限らない。

         さあさあ、いよいよ今こそが真価が問われる大一番だ!
         この戦いの趨勢を決める、一大決戦に括目あれ。

         

        語り:カナヱ
        『桜降代之戦絵巻 第五巻』より
        作:五十嵐月夜  原案:BakaFire  挿絵:TOKIAME

         

        《前へ》      《目録へ》      《次へ》

        コラボカフェ期間変更のお知らせ

        2018.09.04 Tuesday

        0

           こんにちは、BakaFireです。いつも『桜降る代に決闘を』を楽しんで頂き、誠にありがとうございます。このようなことでブログを書かなければならないことを大変悲しく思いますが、あなたにお伝えしなくてはならないことがあり、筆を執らせて頂きました。
           
           ボードゲームカフェ・ムスビヨリ様にて開催中のコラボカフェにつきまして、重要な告知を行わせて頂きます。

           

           この度、ムスビヨリ様を運営している創作集団タルヲシル株式会社様のSNS上での騒動を受けまして、本作を遊んで頂いている方々から、コラボカフェの利用やイベントへの参加を躊躇し、不安を感じる声を受け取っております。

           

           この現状を踏まえ、創作集団タルヲシル株式会社様とのコラボカフェについての話し合いの場を設けました。そして上記の理由や、地理的な理由でイベントに参加するつもりのない方までもが不安を覚えてしまっているという現状を強く憂慮し、コラボカフェの開催期間の変更と、予定されていたイベントの会場変更を行うことを決定いたしました。

           


          コラボカフェ開催期間の変更

           

           当初、9月24日(日)まで開催予定であったコラボカフェにつきましては、9月10日(月)の営業をもって、終了とさせて頂きます。約一週間の猶予期間は、この記事に気づかずにお越しいただいた方が楽しめないという事態を、可能な範囲で減らすためのものです。

           

           9月10日(月)までの営業期間は、通常通り、コラボメニューの提供、限定コースターの配布を継続いたします。

           

           また、コラボカフェにて配布しておりました「限定コースター」は例外的に限定という枠組みを外すことにします。これらのコースターはBakaFire Partyが買い取った上で、今後なにかしらの方法で入手頂けるよう検討しております。

           

           同様に現在メニューに含まれている「集中力クッキー」も同様に買い取り、イベントへの参加賞などの形で活用していく見込みです。

           

           

          「中間祭:縁結ぶドラフト大会」開催場所の変更

           

           9月8日(土)に開催を予定されていた「中間祭:縁結ぶドラフト大会」につきましては開催場所を変更し、行わせて頂きます。現在はイベントページは変更済みの上、参加予約をされた全ての方にはメールをお送りしております。

           

          東京都台東区東上野4-10-1 浅野ビル1F
          上野入谷口会議室
          開始時刻:13:00
          参加費:1500円(カフェの場合の参加料と同額です。コラボメニューが注文できない代わりにランダムなコースター3枚と集中力クッキーが参加賞として付属します)

           

           コースターと集中力クッキーにつきましてはBakaFire Partyが買い取りましたものの中から、本イベントへの参加賞として配布させて頂きます。

           

           

           BakaFire Partyといたしましては、創作集団タルヲシル株式会社様の一連の騒動につきましては完全な第三者であるため、中立の立場を取ることは変わりありません。
           
           しかしながら、この度の騒動における創作集団タルヲシル株式会社様の言動は私どもの信頼を失わせるには十分なものであり、また私どもの作品を遊んで頂いている皆様に強い不安を与えるに足るものだと判断いたしました。
           
           この騒動の決着がつかないままコラボカフェを継続することは、遊んで頂いている皆様が本作を心から応援し、楽しみづらくしてしまうと考え、この度の措置を取らせて頂くことにいたしました。

           

           急な変更となってしまい、大変申し訳ございません。イベントへとお申込みいただいた方、参加を検討してくださった全ての方に重ねてお詫び申し上げます。ご理解、ご容赦を頂ければ幸いです。

          2018年9月禁止改定

          2018.09.03 Monday

          0

             私どもはバランス調整の宣言と、それに基づく理念(PC版)(スマートフォン版)に従い毎月第一月曜日にカードの禁止改訂を行います。この記事はその2018年9月のものです。禁止カードを出すことそのものについて疑問や不安を感じる方は、こちらよりリンクしている宣言か、それを要約した理念をご一読いただければ幸いです。

             

             

            2018年9月禁止カード

             

            全体で禁止

            Thallya's Masterpiece

             

            トコヨ/ユキヒで禁止

            二重奏:吹弾陽明

             

             これらの禁止はシーズン2の間、即ち11月下旬まで継続し、『第弐拡張』でのカード更新を通して解除されます。

             


             こんにちは、BakaFireです。シーズン2も無事に始まり、新たな環境をお楽しみ頂けていれば嬉しい限りです。今週末には大規模大会をはじめとし、シーズン2をより盛り上げるための今後の展望もお話しいたしますのでご期待ください。
             
             シーズン最初の禁止改訂となりますので、まずは現状の環境への見解をお話ししましょう。
             

             

            シーズン2バランスの現状評価

             

             シーズン1と比べ、シーズン2のゲームバランスや環境は大きく改善したと考えております。
             
             シーズン1には多くの問題のあるカードがあり、それゆえに問題として取り上げられてもおかしくないデッキが多数存在していました(※1)。その上で、そのようなデッキが多すぎたことと、そのようなデッキ同士の対戦ではそれなり以上には楽しめるゲームとなっていたため、禁止は出さない形で進めていました。
             
             しかしシーズン1からシーズン2でのカード更新はそれらの問題の大半を解決し、多くのメガミが輝ける環境を作り出しました。私どもは今回の環境をもって、『新幕』のバランスは『第二幕』の最終段階へとほぼ追いついたと言って良いと感じております。それに加え、インフレーションによる鮮烈な魅力、アナザー版などの新たな試みによる魅力、豊富なデザイン空間を得られており、未来は明るいと感じています。
             
             もちろん、現時点のバランスでもやや勝ち易いメガミと勝ち辛いメガミが存在するとは考えています。しかしこの水準の差は『第二幕』の最終段階でも存在しており、今後のカード更新で整えていけば解決する小さな課題と考えれば十分と捉えております。


            ※1 オボロ/ライラ、サイネ/シンラ、サイネ/クルル、オボロ/クルル、サリヤ関連の全てのデッキなどがそれらの例です。これらのデッキは、環境上に同等のデッキが存在していなければ禁止カードで措置されるべきであったと考えています。サイネ/シンラは特に分かりやすい例であり、オボロ、サリヤ、ライラのバランスがもし適切だったならば、間違いなく禁止カードを必要としたと言えるでしょう。

             


            新たな禁止カードの背景

             

             ここまでは私どもが『第壱拡張』のカード更新や大半の新カードでうまくやり、魅力的な環境を作れたと捉えているというポジティブな見解をお話ししてまいりました。
             
             しかし誠に申し訳ないながら、本日お話ししなければならないのはそれだけではありません。新たなカード1枚のバランス調整に幾ばくかの誤りがあり、結果として問題のあるデッキが1つ生まれてしまったのです。
             
             さらに先述の通り、シーズン1での問題はほとんど解決され、問題と呼ぶべきと捉えられうるデッキはもはやほとんど存在していません(※2)。その結果として数少ない問題のあるデッキが、その問題を強く発揮できる状況が整ってしまっています。
             
             『新幕』のバランスは『第二幕』の最終段階へと「ほぼ」追いついたというのはまさにそういう理由であり、問題のあるデッキへの解決を図らなければ、正しく追いついたとは言えない状況なのです。
             
             それゆえに私どもは、組み合わせを限定した形での禁止カードを1枚出さざるを得ないと判断しました。


            ※2 もしかしたら問題と捉えるべきかもしれないという程度のデッキはいくつか存在しており、私どもはそれらの動向を注視しています。しかし禁止カードが必要なほどとは考えておらず、環境上の有力な選択肢のひとつに過ぎないと捉えています。現時点ではそれらのデッキのために禁止カードを出す可能性は高くないと考えていますが、10月の禁止改訂で判断を覆す可能性もまた存在しています。

             

             

            どのような問題が起こったのか

             

             問題となるデッキはアナザー版である「旅芸人」トコヨとユキヒを組み合わせたクリンチロック型のコントロールデッキです。具体的な動きは、「二重奏:吹弾陽明」を使用し、毎ターン「ふりはらい/たぐりよせ」「ひきあし/もぐりこみ」「要返し」「ふりまわし/つきさし」の中から必要なカードを戻し、間合0近傍を維持し続けるというものです(※3)。


            ※3 相手によっては傘を閉じたうえで「跳ね兎」などを戻し、間合5近傍を維持する方向で立ち回ることもあります。


             このデッキの問題は以下の4つに整理できます。それぞれ説明しましょう。
             
            1:強力である。
            2:相性が極端すぎる。
            3:本作の王道を否定し過ぎている。
            4:感情面での問題が生まれがちである。


            1:強力である。

             

             禁止の必要性を判断する大前提として、このデッキは十分に強力です。しかし他のデッキの全てを打倒し、環境の唯一の正解になるほどではありません。それ以外の問題も組み合わせて考える必要があります。
             
            2:相性が極端すぎる。

             

             このデッキの弱点は分かりやすく、シンラかクルルを使用すれば大体の場合は五分以上のゲームを行えます。しかしそれらを宿していないデッキはほぼ必敗であり、豊富すぎる間合のコントロール手段に押しつぶされることとなります。
             
             これはゲームをメガミを公開した時点で決定づけすぎてしまい、特に大会などのイベントではゲームの魅力を著しく損ねてしまいます。
             
             どのような組み合わせにも、相性は必ず存在し、それは否定すべきではありません。しかし、このデッキのように極端すぎる場合は問題として取り上げるべきでしょう。
             
            3:本作の王道を否定し過ぎている。

             

             2で説明した必敗のデッキとは即ち「間合を合わせて攻撃する」デッキ全般のことを指します。つまりこのデッキは本作の王道にあたるデッキに対して強力過ぎるのです。
             
             これは本作の本作らしい部分に楽しさを感じて頂いたプレイヤーの方に取って苦しすぎる環境を作ってしまいます。特に本作を始めたばかりの方の多くはそういった戦い方こそが全てであり、それを圧倒的な相性で潰される体験は心地よいものとは言えないでしょう。
             
            4:感情面での問題が生まれがちである。

             

             このデッキはロック寄りのコントロールであるために勝利まで時間がかかり、延々と同じ動作を繰り返し続けるという特徴があります。こういったデッキは対戦相手に強い不快感を与える恐れがあり、こちらについても始めたばかりのプレイヤーへの悪い影響を懸念するに足る問題だと言えるでしょう。
             
             『第二幕』での「審美眼」を禁止しようとした際の失敗を反省しているため、私どもは不快感だけを理由にカードを禁止することは絶対にありません。しかし今回のように1や2の問題がまずある場合は、3や4はそれを後押しする副次的な理由として働くべきと考えています。
             
             
            なぜ組み合わせ単位での禁止なのか

             

             「Thallya's Masterpiece」が全体で禁止であるのに対し、「二重奏:吹弾陽明」はなぜトコヨ/ユキヒだけでの禁止なのでしょうか。そちらについても説明いたします。
             
             「Thallya's Masterpiece」は「Form:YAKSHA」との組み合わせにより、サリヤ単独での高い自己完結性を持っています。ゆえにこのパッケージが存在する限りはサリヤを用いた組み合わせが環境の正解となり続けてしまう恐れがあります。これを解決するにはパッケージそのものを崩すしかありません。
             
             他方で「二重奏:吹弾陽明」はカード更新で整えるべき点こそありますが、環境に君臨するほどの強さは持っていません。トコヨ/ユキヒ以外のデッキでも有力なものはありますが、いずれもいくつかの欠点や不器用さを抱えており、大きな問題と呼べる水準のものは見つかっていません。
             
             それどころか、環境の多様性にも一役買っています。現在、ビートダウンやコンボでも強力なデッキは多数存在していますが、コントロールを好むプレイヤーが強力なコントロールデッキを使う権利もまた当然あってしかるべきです(※4)。
             
             「旅芸人」トコヨは強力なコントロールデッキの一柱として高い存在感を発揮できており、彼女を軸にしたコントロールデッキは環境に魅力的な選択肢をもたらしているのです。これらを踏まえると全体で禁止し、彼女を用いたデッキの大半を取り除いてしまうのは最善の選択とは思えません。
             
             以上より、問題であるトコヨ/ユキヒに限定した禁止を行わせて頂くことにしたのです。


            ※4 これはシーズン1において成し遂げられておらず、大きな失敗だったと私どもは捉えています。

             


            お詫びと今後の改善策

             

             最後に、今回の私どもの失敗についてお話しするとともにお詫びを行い、今後の改善策をお話しします。
             
             今回の失敗は、単純に私どもバランス調整チームの力不足というほかありません。シーズン1における攻撃的な環境とトコヨの弱さに感覚を麻痺させられてしまい、「二重奏:吹弾陽明」の強力な使い方に気づくことができませんでした。私どもの力不足を反省し、お詫び申し上げます。
             
             改善策については、先月お伝えした「Thallya's Masterpiece」の禁止の際の改善策と同様のものを今回も提示いたします。「次の拡張に向けたカードのバランス調整」と「カードの更新」の両方を1つのチームで見ようとしたため、両方に中途半端な部分があったことは否めません。
             
             現在はバランス調整チームは次の拡張を集中的に見るようにして、カード更新についてはバランス調整チームは軽く意見を出す程度にとどめ、ゲストテスターの意見をより深く取り入れられるように手配を進めています。

             


             本日は以上となります。次回の禁止改訂は10月1日(月)となります。上記の※2にある通り、私どもはいくつかのデッキへと注目を続けているため、そちらへの最終的な結論をご報告差し上げることになるでしょう。