『桜降る代の神語り』第8話:龍の襲来

2016.12.16 Friday

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     今現在、この桜降る代において、強者こそいても、覇者と呼ぶべき者はいない。
     しかし一昔前、覇を唱えるわけでもなく、情に厚く民の信頼を集める一人の為政者がいた。多くの人間が、彼こそこの国を太平に導くだろうと思っていたほどの男が。
     無論、全国を揺るがせた英雄譚に、彼の席がないわけがない。
     あるいは……天音揺波と出会ったことも、あるいは必然だったのかもしれないね。

     


    「くくく、北も概ねが我が天音の領地。しかし、次、か……ううむ。西の古鷹山群は忍の里ゆえに手が出しづらく、かといって南は最強と名高い龍ノ宮家が……」

     

     天音家当代・時忠は、その日も謀に熱中していた。
     稀代のミコトとして負けを知らない娘のおかげで、零落して暇を持て余していた時には想像できなかったほどに、考えなければならないことが増えた。領地の経営だけではなく、広げた領土を如何にするか、そしてこの先どう立ち回っていくべきか……元より野心に満ちた男であれば、打ち手として盤上を見下ろした際のこの忙しさは喜ぶべきものであった。

     

     けれどこの男、野心家ではありはするものの、肝の座り方までは一流ではない。あまり要所のない北を先に攻めたのは合理的な判断とも言えるが、娘の強さを客観的に評価できているにも関わらず、未だ北方以外に手を十分に進められていない。それは、情報の入手に手間取っている以上に、たった一度の失敗を極端に恐れているからであった。

     

     故に。

     

    「たあぁァァァーーーーーーーーーーーのもおぉォォォォォォォォォォォぉぉッッ!」

     

     穏やかな昼下がり、山をも揺るがすような大声に、彼は肝を潰した。頭の中を占めていたのは、敵襲の二文字だった。
     反射的に座椅子から転び出て部屋の隅に逃げてから、忘れていた呼吸を取り戻し、叫ぶ。

     

    「あ、ぁあななな、なんだぁ! 何事だ!」

     

     ややあってから、女中が居室を訪ねてきた。女中のほうは長いこと天音に仕えている古株のためか、むしろ当代より肝が座っているようで、落ち着いたものだった。

     

    「旦那様、お客様がお見えです」
    「だっ、誰だ! 今日は誰も来る予定はないぞ!」
    「龍ノ宮家当主、 龍ノ宮一志 たつのみやいっし 様です」
    「は……はああああああああああああああああ!?」

     

     今まで当代の頭の中を巡っていたいくつもの策謀が、木っ端微塵に消し飛んだ。
     龍ノ宮と言えば、覇権に最も近いとされる家であり、その当主・一志は最強と目されるミコトである。言うまでもないが、目をつけられたらまずいなんて言葉では済まない相手である。
     それが、突然やってきた。その事実をうまく消化できずに呆ける当代を置いて、女中は勝手にその当人を連れてきた。客間でないことなどお構いなしである。

     

    「よう、当主殿。突然押しかけてきて悪かったな」

     

     

     廊下から覗くその大男は、七尺もかくやと言わんばかりの巨漢であった。裸体のあちらこちらをサラシで覆い、その上から猟師が身につけているような革の上着を羽織っている。豪快さを絵に描いたような男という印象を受けるが、決してそれは粗野ではない。不揃いな無精髭が、細かいことに頓着しない心根を表しているようだ。
     当代は、資料だけ見たことのあるその顔が本当に当人のものであることを認め、とうとう開いた口が塞がらなくなってしまった。

     

    「あ、あ、な、なん……」
    「おまえさんちのミコトはどこだ? 揺波と言ったか。会って話がしたい。――ああ、さっきの。ちょっとミコトのところまで案内してもらえるか?」
    「え、ちょ……」
    「というわけで、しばらく邪魔をするぞ」

     

     有無を言わさず、龍ノ宮はそのまま女中を捕まえて行ってしまった。
     部屋には、真っ白になった当代の抜け殻だけが残されている。

     


     鍛錬を切り上げた揺波は、自分に会いに来たという相手を観察しながら、縁側に腰掛けて休んでいた。傍では、先程まで揺波のことを観察していた龍ノ宮が、その太い幹のような身体を柱に預けている。

     

    「……なるほど確かに、こりゃあそこら辺のじゃ敵わねえわけだ。天音揺波の強さに偽りなしってところだな」
    「おじ……龍ノ宮さんもきっと『強い』ですよね」
    「おじさんでもいいぞ」

     

     最強とまで謳われる存在が目の前にいる。けれど、自分をおじさんと呼べ、だなんて間の抜けたことも言ってくる。確かに揺波の認識は間違ってはいないだろうが、彼女には少しこの男のことが不思議に写った。

     

    「箱入り娘だから知らんだろうが、元々俺の土地はあっちこっちの農村を継ぎ接ぎしたような感じでな。んなもんだから、権威なんぞ知ったこっちゃない女子供も多くてよ。たまに顔を見せりゃ肩車までせがんでくる始末だ」
    「あなたの肩の上なら、とっても見晴らしがいいでしょうね」
    「俺としちゃあ、そっちのほうが肩が凝らなくていい。所詮俺は、たまたま腕っ節が強かったから天辺の近くにいるだけなんだからよ」

     

     縮こまって肩をすくめる龍ノ宮。

     

    「肩は凝らないほうがいい。頭を使っても肩は凝る。だから、まかり通らねえことがあったとしても、腹を割って話して、皆仲良くできるのが一番楽だ」
    「物事を決めるなら、決闘をすればいいのでは……?」

     

     ただ素直に、揺波はそんな疑問を口にした。
     そんな彼女に龍ノ宮は意外そうな顔をするも、少し考えて得心がいったようだった。

     

    「強くなりすぎるっていうのも考えもんなんだ。まあそこは、上に立つ者の事情ってやつだ」
    「そう、ですか……」
    「そんな事情ってやつを、俺も、お前の親父さんも抱えてる。だからこうして、俺は仲良くなりにきたんだ。お前だって、家が幸せなほうがいいだろう?」

     

     釈然としない顔ではあるが、首を縦に振る。

     

    「龍ノ宮は、天音と同盟を組む用意がある。再興を願う天音の家と、平和な世の中を願っている俺。手を組めば、お互い幸せになれるって寸法よ」
    「それはお父様には……」
    「あ? まだだよ、まだ。というかお前の口から伝えてくれ。当代殿は家の長だが、天音が持つ桜は正確には揺波、お前の所有物なんだ。本来なら代表はお前であるところを、政治だのなんだの面倒くさいことを親父さんがやってくれてるだけにすぎん」

     

     本当にめんどくさい、という龍ノ宮のぼやきは宙に消えていく。

     

    「お互い、幸せ……」

     

     見つめる手の甲には、ミコトの証である桜花結晶が昼下がりの日差しにきらめいている。
     龍ノ宮は、ぼうっとし始めた揺波に構うことなく話を続ける。

     

    「一月後。俺を含めたでけえ家の面々が、顔を突き合わせちゃ色々とお話する会がある。大家会合っつーんだが、天音家もこれに参加してもらいたい」
    「…………」
    「いや、揺波。だからお前も来るんだよ」
    「ふぇっ?!」

     

     間の抜けた声を出した揺波に苦笑いしながら、揺波の隣にどかりと座った。

     

    「しっかりしてくれよ、稀代のミコト様よぉ。若いもんの中じゃあ有望株なんだし、同盟を結んだらあるいは一緒に地方平定に出向くことだってあるかもしれねえんだからよ」
    「一緒に戦う……やったことないですけど、私絶対に負けません!」
    「バーカ、手分けしてやんちゃしてる家と決闘しておとなしくさせるって話だよ」

     

     ガハハハ、と笑いが轟く。大きく無骨な手に背中を叩かれる揺波は、恥ずかしさを覚えながらも今までになかった可能性に頭を占められていた。
     自分が今までやってきたこと――一人の相手に勝つことだけではない何かで、父が喜んでくれるのだという。政治の話は難しくて理解する気も起きなかったが、戦うことなく目の前の男と手を組むだけで、家が幸せになれるという。

     

    「じゃあ……」

     

     その先は続かなかった。
     自分の常識の範疇を超えた申し出に困惑する揺波は、それからの龍ノ宮との世間話もほとんど上の空で答えていた。

     


     頭上で大地を照らしていた陽も、やや傾き始めて来た頃。
     どこからか「あああああああっ」という、現実を受け入れたくないあまりに発された絶叫が聞こえた気がしたが、揺波にはそれを気にかける余裕はなかった。
     それからややもして、

     

    「おー。なんだ、ここだったか。そいつが噂の揺波か?」

     

     庭のほうからやってきたのは、龍ノ宮ほどではないにしろ、揺波より二回り以上も背の高い女だった。
     彼と同じく、胸にサラシを巻いただけの上半身に炎を思わせる意匠の外套を羽織っている。腰巻きも股が見えそうなほど短く、そして脛を隠すほどに長い革の靴。なにより印象的なのは、魔物かなにかを象った冠を被った頭からは、比喩ではなく炎がなびく紅蓮の髪が伸びていることだった。


    「どうしたヒミカ。別に今日は決闘するわけじゃあないぞ」
    「知ってるけど、一志が気になるミコトっていうから、流石のアタシも気になっちゃって」

     

     ヒミカと呼ばれた女は人間ではない。メガミのうちの一人であり、炎と感情を象徴する。本来メガミはミコトであっても知覚することが難しい存在だが、彼女は人間と同じように肉を得て顕現体として活動している。
     揺波は数少ない座学の中で、一応彼女のことは頭に入れていた。現代のヒミカは銃と呼ばれる飛び道具を己を象徴する武器としており、相手が宿したら厄介だと考えていた。
     しかし、彼がヒミカを宿すかもしれない、という推測は、うまく揺波の中で消化されない。

     

     揺波は、龍ノ宮以上にヒミカから尋常ではない『強さ』を感じ取ってしまっていた。
     メガミだから、なんて単純な理由で本当に説明をつけてよいものか迷うほどに、揺波にとって彼女は勝ちの見えない存在だった。
     龍ノ宮の肉体のように分かりやすい強さがあるわけでもない。象徴武器である銃の姿も、少なくとも今は伺えない。ただただ存在からして強い――そんな強敵を前に、揺波は息を呑む。

     

    「ふぅん……へぇ……こいつが」
    「あの……」

     

     品定めするようにじろじろと見てくるヒミカにたじろぐ。顕現しているメガミは少なく、出会うともなれば稀だ。ただでさえ妙なる強さを湛えているというのに、そんな存在にじっくり観察されでもすれば、さしもの揺波であっても気後れするというもの。
     やがて満足したのか、ヒミカは満面の笑みで、

     

    「ふーん、いいぜいいぜ! やっぱり一志が言うからには間違いないな! ちょっとおっかない気がするのはあれかな、相棒のせいかな?」
    「はあ……ありがとうございます?」
    「よく分からんだろうが、素直に褒めてると受け取ってやってくれ。こいつは感情むき出しだから、思ったことそのまま言いやがる。俺も人のこと言えた義理じゃなかったが、こいつとつるむようになってからますますその気が強くなりやがったらしくてなあ」
    「まあな! ……っておい、人のせいにすんなよな!」

     

     からから、と笑いながら怒るヒミカ。素直に冗談を言い合って笑い合う様は、まるで悪友のようだった。
     反撃とばかりに、

     

    「はっ、知らないんだからな! 今日ここに来てること、アタシが出かける前に皆に教えといたから」
    「なっ、おま……」
    「いいのかー? もうそろそろ小うるさい連中が早馬で着く頃だぞー?」
    「うるせえ、とっととずらかるぞ! あいつらに独断専行がバレたら何時間説教されるか分かったもんじゃねえ!」
    「あはははは、結局迎えになっちゃったな!」

     

     慌てて腰を上げる龍ノ宮には、最強の字はまるで似合わなかった。そこにはただ、人の上に立ち気苦労の絶えない男の姿だけがあった。揺波が最初に感じていた『強さ』は、もうどこかに紛れてしまっていた。
     そんな彼は最後に、揺波へ告げる。

     

    「じゃあな、天音揺波。後で親書を送るが、さっき言ったことはちゃんと親父さんに伝えておいてくれ。龍ノ宮は、天音と共に歩めることを願っている」

     

     ヒミカも別れを告げると、二人とも常人離れした動きで塀を飛び越え、消えていった。しばらくヒミカの笑い声が聞こえていた が、それもなくなると、天音家は静けさを取り戻した。
     嵐のような二人の来訪に、揺波は考えをまとめきれずにいた。
     自分に言われても、困る。
     そんなふうに処理しきれない出来事を押し流しながらも、やはりどこかにしこりは残り続けたままであった。
     揺波には、あの二人のように色々なものを笑い飛ばすことは、できそうになかった。

     


     この出会いを以って、孤独に戦いを進めてきた天音に始めて手を差し伸べられたことになる。
     確かに龍ノ宮一志は強かった。それはカナヱも認めるところだし、天音の当代からしたら腰も抜かすだろうよ。
     それでもこれは、天音とではなく、天音揺波と龍ノ宮一志の邂逅だった。
     あと幾度、天音揺波の物語は、彼と関わる形で語ることになるだろう。
     それが、英雄となるための階段を辿ることに他ならないんだからね。

     

    語り:カナヱ
    『桜降代之戦絵巻 第二巻』より
    作:五十嵐月夜  原案:BakaFire 挿絵:TOKIAME

     

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    『桜降る代の神語り』第7話:仄昏き洞より

    2016.12.02 Friday

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       遠い。
       皆が、遠い。
       愛らしい人間たちが、遠い。

       

       ちょっと凝らして見てやれば、刀を切り結び、拳を交わし合う人間たちを見ることは叶わないではない。
       血煙を薙ぎ払う決死の一撃。結晶に己を任せた覚悟の吶喊。
       我を滾らせる、彼らの武。
       桜の花弁を溶け込ませたようなこの白き世界を越えて、それを朧気ながら眺めることは、できないわけではない。

       

       だが、今の我には人間たちがただ遠い。
       桜の下で戦う彼らのその手に、我の影はない。
       だからいくら視点を近づけようとも、脈動を共に感じることはできず、それがひたすらに寂しさをもたらすのだ。

       

       我はただ、皆と共に武の高みから世界を見渡したかっただけ。
       そんなささやかな望みであっても、皆は良しとしなかった。皆が皆のために、我と共にあることを望まなかった。
       だから最後には不自由な身に甘んじたのも、我と共に歩むことが叶わぬ皆のため。もはや彼らと通じ合うことができなくなるとしても、我は愛しい人間のためにこのささやかな望みを諦め続けてきた。

       

       もはや同輩たちの囁く音すら聞こえない、桜の奥の奥。こんな仄暗い場所で我が触れ合えるのは、長きに渡り我を戒める無骨な鎖だけ。
       けれど、そんな有様であったとしても、我がこうあることは無為ではない。
       たとえ、どれほど孤独であろうと。

       

       しかし最近は、見ているだけであってもなかなか退屈させてくれない人間がいる。
       その人間の子は決闘を始めたかと思うと、破竹の勢いで連勝を続けている。我の知る者の中でも稀有なまでに幼く、女としてより先に闘士として花開いた。戦以外の様子を見るに、嫁に貰われる機会は当分訪れなさそうだが。

       

       零落した家に生まれたのが幸か不幸か、立ち向かう相手にも事欠かないようで、その才溢れる刀捌きを存分に披露している。
       先日の決闘でも、小刀を構えて懐に潜り込んでくる相手に見事立ち回っていた。得手とする刀よりもさらに間合いの狭いそれに対し、素の左手で刃を掴み、相手を振り回して放り投げてしまったのには笑いの一つも出るというもの。

       

       決闘すらろくにやらなくなってしまった今の時代の人間たちは、その子の戦いにただ唖然とするしかないようだ。
       けれど方向性は違えど、我の内に燻る感情はただ愉快なだけではない。
       退屈は楽のみでは解消されないものだ。

       

       その子の才は皆が認めるところであるし、我にも異論はない。既に稀代の使い手としての器はできつつある。
       だが、その器は脆い。
       材質の脆弱さではない。作りの歪さが、武の頂を目指す途中で枷となるだろう。
       最悪の場合、何かの拍子に粉々に砕けてしまうかもしれない。そんな危うさを、あの子は孕んでいる。

       

       戦いを得られたのが生まれによる幸であるなら、その歪さこそが生まれによる不幸だろう。
       きっと鍛え続ければそのうち立てたであろう場所に、一足飛びで上り詰めたのは、あの日我の社に何も分かっていない顔で放り込まれたから。
       事もあろうに、その後しばらくしてからはっとして「勝負しましょう!」などとのたまえる傑物であるからして、どのような出会いがあったとしても偉業を為しえただろう。あの子はそういう存在だ。

       

       我は人間と共にあることを幸と思っているが、ほとんどの人間にとってはそうではない。
       どれほど才に恵まれた者だとしても、苛む不幸に出会えば為せるものも為せなくなる。
       何よりも、幼く未熟な子であれば、不幸に喰われ続ける己が確と組み上がっていくはずもないのだから。

       

       共に歩んでいた者を失うことが常であった我にとっては、あの子が魅せる親和性に安心しているところだ。
       今や眺めることしかできぬ身にあって、このたった一つの繋がりは貴重である。たとえそれが、野心のために我が子を犠牲にしかけた下衆によって、幸運なことにもたらされたものだとしても。
       だからこそ、その繋がりがあの子をよく見るためにしか使えないことに歯がゆくなる。

       

       我はあの子に言うべきことがいくつもある。
       それは、あの子が武を磨くため。
       そして、磨いた武に相応しい器たらんとするため。
       武を司る者として、そして本来出てくることはなかった縁を結んだ者として、あの子を導いてやらなくてはならない。
       我はあの子のために、ひいては自分のために、そうする義務がある。
       それを妨げるこの鎖が……人から遠ざけられたこの身が、幾年を経て、また憎らしい。

       

       力を求めるあまり、我を受け入れられず絶えていった者たちの果てに、あの子は――揺波は立っている。
       我がメガミであり、あの子が人間である以上、いつか果てはやってくる。しかし、犠牲が積み上がってできた果てで、拳を高々と掲げる者が誰か一人でも現れなければ、その犠牲からはやがて意味が失われるだろう。
       今の我のささやかな望みは、たった一人となった同胞と共に在り続けること。
       願わくは、これからさらに磨かれていくあの歪んだ魂が砕けてしまわんことを。

       

       

       君はザンカ、というメガミを知っているかい?
       武を求める者たちにとって彼女との繋がりを得ることは、強さを授かるための近道であり、そしてまた死への近道でもある。そんなメガミさ。
       その危険性より幾分昔に封じられたのだが、そんな存在でもこの舞台上には引き上げられる。
       天音揺波が右の手に宿し、無敗を為すためのよすがとしているのがこのザンカだ。
       性質は危険だけど、別に悪いやつじゃあない。
       ただ、人間を愛し、その可能性を信じすぎているだけさ。

       

      語り:カナヱ
      『桜降代之戦絵巻 第一巻』より
      作:五十嵐月夜  原案:BakaFire

       

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      今後の展望、2016冬

      2016.11.25 Friday

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         こんにちは。BakaFireです。これまでのストーリー新たなメガミの発表、そして第二幕に向けた大発表をお楽しみいただけたでしょうか。この記事ではゲームマーケットの話題からは少し外れ、さらに未来の計画についてお話しいたします。

         

        サイネ登場……、これだけではご不満ですか?

         

         ご存知の通り、第二幕では改革が行われ、さらに新たなメガミであるサイネが登場します。間違いなくゲーム環境は大きく変化し、より魅力的になるでしょう。しかし、僅か1柱のメガミしか追加されない点に不満を感じる方もいらっしゃるかもしれません。

         ご安心ください。確かに今回は1柱ですが、『桜降る代に決闘を』には、今後に向けた大きな拡張計画があるのです。それをお話ししましょう!

         

        第二幕計画を発表します!

         

         結論からお話しします。2017年を通し、本作は合計3回の拡張を行います。そしてそれらの拡張を通し、変化し続けるゲームであることを実現します。さらにストーリーと連動させ、ストーリーを楽しむ気質のプレイヤーにとってもより魅力的にします。それぞれ説明しましょう。

         

        1:変化し続けるゲーム

         デッキ構築ゲームには戦略を探求する楽しさがあります。さらに素晴らしいことに、カードプールを拡張するれば、その楽しさを再生させられるのです。この仕組みによってプレイヤーはいつまでも飽きることなく、変動していく環境を楽しめるのです。

         本作も同様の原則が適用できます。第二幕の改革からも分かる通り、ルール面での不完全さがありましたため、急いで拡張しなかったのは結果として正解でした。しかしゲームマーケット2016春での頒布開始から今回の拡張まで7か月もの間が空いてしまったのは、あるべき姿から外れていたと言えるでしょう。

         これを反省し、2017年の本作は計3回の拡張で環境を動かし、変化し続けるゲームの実現を目指します。

         

        2:ストーリーとの連動

         現在、当ブログではストーリー『桜降る代の神語り』が連載中です。現在の「桜降る代」の前日譚であり、人間、天音揺波がメガミ、ユリナへと至るまでの英雄譚でもあります。

         サイネの最初のカードプレビューをストーリーの中で行ったのは記憶に新しいでしょう。サイネも昔は人間、氷雨細音であり、そして揺波とは好敵手の関係にあったのです。ストーリーと連動させて彼女を発表し、様々な設定を描くことで、サイネはより魅力的なキャラクターとなったと考えております。

         2017年に登場するメガミたちも同様です。彼女たちは天音揺波の英雄譚の中で、重要な役割を持つメガミたちです。ストーリーの中で登場し、彼女たちの魅力が描かれるのです。

         

        最初の拡張はいつ出るのか?

         では、2017年最初の拡張はいつ出るのでしょうか? もう決定しております。お知らせしましょう。第一拡張はゲームマーケット2017神戸にて頒布いたします。すでにそちらで登場するメガミたちはゲームデザインが完了し、非常に魅力的なものとなっております。あとは残る開発期間でゲームバランスの面の調整を徹底的に行い、あなたの元へとお届けいたします。ご期待ください!

         

        2016秋計画の結果報告

         

         今後の展望、2016秋ではイベント面の計画を大きく見直しました。そちらの結果について報告し、今後のイベントについてもお話ししましょう。

         

        三拾一捨について

         三拾一捨は熟練したプレイヤーにはとても好評でしたが、大半のプレイヤーにとって遊びやすいものではありません。今後は特に競技的な大会を上級大会と銘打ち、その中でのみ適用します。

         

        交流祭について

         大好評でした。様々な要因がありますが、どの時間に行っても問題なく遊べるという安心感が何よりも重要と考えます。今後も継続して開催していきます。

         

        初心者大会について

         元々の計画にはありませんでしたが、ミスボドの内部にて開催いたしました。結果として、ほとんど初めて本作に触れる方が8名もご参加いただけました。大きな意味があるため、今後も継続して開催していきます。

         

        今後の大会につきまして

         

         以上を踏まえ、2017年のイベントは以下の2種を中心に行います。

         

        秋葉原交流祭

         これまで秋葉原で開かれていた大会は今後、基本的には交流祭になります。そしてその中の内部イベントで公式大会、大乱闘、プレリリース大会、上級大会などを、その時点での状況に合わせて行います。

         

        初心者大会/経験者大会 in ミスボド

         蒲田で行われているボードゲームイベント、ミスボドの一部をお借りし、初心者大会と経験者大会を行います。初心者大会は修練ルールで行われ、新たなプレイヤーが参入しやすい環境作りを目的とします。経験者大会はその会場に遊びに来た経験者にも、最大限お楽しみいただくためのものです。どちらも最小4人から開催します。

         さらに素晴らしいことに、ミスボドは大規模なゲームイベントです。従って、大会に参加していない時間も様々なボードゲームでお楽しみいただけるのです!

         

        ランキングシステムの廃止

         ランキングシステムはより多くのプレイヤーがイベントに参加し、楽しんで頂けるようにという想いをもって作成いたしました。しかし、現状を見ると2つの理由で良く働いていません。

         1つ目は、イベントが競技的になり過ぎてしまう点です。開発当初、ゲームの性質から競技的であるべきだと私どもは考えていました。しかしイベントを進めてみた結果、競技的であることを望むプレイヤーは想像より少ないと分かりました。

         2つ目は、地方での公認大会との折り合いです。イベントの参加人数と頻度により、現在はそれぞれの獲得点数に歪みが生まれてしまっています。また、参加人数が少なめのイベントでは総当たり戦の方が楽しめるにもかかわらず、形式を変え辛い状況にあります。

         これらの理由により、2017年からはランキングシステムを廃止します(2016年のランキングは最後まで行い、賞品も郵送しますのでご安心ください)。その分のリソースは、他の面でお楽しみいただけるよう還元してまいります。

         

        大会の賞品について

         すばらしいニュースがあります。まさに本日、大会賞品用のプロモーションタロットが私の自宅まで届きました! 現在はゲームマーケットの準備で立て込んでおりますが、それが落ち着き次第、これまでの優勝者の皆様にはヒミカをお配りしていきます。そしてランキングの結果が出ましたら、ユリナもお贈りいたします。

         2017年は、3月までの間は引き続きヒミカが各種大会の賞品となります。

         

         

         以上となります。ここまででお分かり頂けた通り、私どもは2017年を駆け抜け、少しでも楽しさを提供できるよう全力を尽くす所存です。何卒、お付き合いいただければ嬉しいです。

         次の展望は、この計画が形になったあたりでお伝えいたします。来年3月の「今後の展望、2017春」をお待ちください。

        『桜降る代の神語り』第6話:星詠会

        2016.11.18 Friday

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           歴史には、表があれば当然裏もある。一般人が知りうる歴史は、表舞台で演じられた物語に過ぎない。
           当然、人々の知るうわべの英雄譚にも、秘された裏が存在する。
           けれどカナヱは知り、そして語る者だ。カナヱの物語に表裏なんてないんだよ。
           だから次は、舞台裏の一角を――世を裏側から動かそうと画策する者たちについて語ろう。

           


           学び舎のようでいて、雰囲気を異にしている。快活な子どもが読み潰された書を退屈そうにめくっている光景はなく、一辺を欠いた八角形に配された長机にめいめい座る者たちは、むしろ今まで得てきた知識をいかに刃へ変えるか、熟慮の炎を静かに滾らせていた。
           広く、円形の形をした部屋は薄暗い。陽光を取り入れる窓はなく、あちらこちらで輝く灯りが十人の論客を淡く照らす。

           

          「今回の星詠会はこれで全員ですかな」
          「思ったよりも来たな。いや、こういうときだからこそ集って欲しいわけだが……」
          「ありがたい話じゃあありませんか。我々碩星楼の学者は、一人では何事も限界が訪れることを知っていて、その学びを活かすだけの賢明さをちゃんと持っている証拠です」

           

           ふくよかで、めかしこんだ男の嬉しそうな笑い声。
           彼の言うとおり、この場にいる面々は、皆学問を修めた者たちである。家は違えど、各々の立場で存分にその知識を活かし、人々を導く立場にある。無論、家と家では敵対することもあるが、彼らは裏で論を交わし、全体の益となるよう世を動かしてきた。

           

            碩星楼 せきせいろう 。人々の間で賢人の代名詞でもあるそれが、彼らの属する学徒集団の名であった。
           その中でもさらに有能な学者たちで開かれる、世にまつわる出来事を報告し合い、あるべき未来を論じるのがこの星詠会である。

           

          「さて……それでは本日の議題は何にしますかな? 銭金商會や海上交易がらみの話でしたかな? それとも、大家会合まで一月ですから、それについてですかな?」
          「はぁ……あまりおどけてくれるな。もはや自明のことだろう」
          「失礼……佐伯殿も大変でしたな。天音家台頭の報が、よもやこれほど遠方まで届いているとは」

           わざとらしいねぎらいであっても空気が弛緩することはない。普段は思慮の果てに待つ理想の未来への期待に満ちるこの場も、今回ばかりは焦燥の色を隠せないようだった。

           

          「もはや有事だ。当家が本格的に騒ぐ前に事を鎮めたい」
          「同感だ。山猿を野放しにしておけば、そのうち群れをなすかもしれん」

           

           議題は明示されていないが、議論の方向性に異論を挟む者はいなかった。
           何しろ彼らにとっては、精緻に描いてきた巨大な絵の上を、血塗れの足で走り回られているようなものだったのだから。

           

          「天音を止められる家はないのか。言ってしまえば一人のミコトだろう。しかもまだ幼い」
          「そう言っていられたのも北が一通り落とされるまでの話ですよ。南下はできないだろうという大方の予想を覆してしまったのですから、これから先の結果はもはやなんとも」
          「門下生たちの情報網でも動向を捉えそこねてしまうほどの弱小だったのだから、予測しきれずとも仕方あるまい」

           

           目頭を揉む髭面の男の顔には、増えた面倒事に対する疲れがにじみ出ていた。

           

          「必勝を確約できるほどのミコトに相手をさせることは叶わんのか」
          「できそうなのは言うまでもなく一人、いる。いるけれど、仮に我々の言葉が届くのだとしても、あの龍が動くとなると事態は余計に読めなくなる」
          「おいおい、龍ノ宮の名前を出すのはナシだ。筋肉の詰まった頭から出てくる答えなんて、どんな本にも載っちゃいないんだからな」

           

           彼らはあくまで知識と知恵で世界を動かしている。簡潔に言えば政治である。
           治世が進み、あらゆることを政治によって丸く収めようとしていた学者たちに、突然現れた猛獣の突進を止めることはできなかった。それは、己の影響の及ぶミコトを含めても、だ。

           

           渋面が並び、沈黙が落ちる。
           誰もが、言葉を口にする前に頭の中で否定し、意見を出さなくなってしばらく。

           

           ほう、と部屋の明るさが、ほんの僅かに強まった。
           一瞬のことであったが、それを待ちわびていた者が一人でもいるのなら、誰にも気づかれない道理はない。

           

          「お、おい! 書が!」

           

           ある男が立ち上がり、部屋の奥――八角形に並んだ机の欠けた一辺のさらに奥を指差した。

           

          「おお、判証の書に……!」
          「なんだ、なんと書いてある!」

           

           わらわらと席を立ち、前に出る。
           皆が注目している部屋の奥は、拳一つ分ほど高い床の間のようになっていた。落ち着いた赤で染められた絨毯が敷かれ、中央では足のついた書見台が学者たちを見下ろしている。

           

           そこには、一本の巻物が開かれた状態で、静かにあった。
           この場にいる皆は知っている。この巻物の中身は、今でこそ文字が認められているが、つい先程まで空白であったことを。そして、自分たちの抱える難問に対し的確な助言となる内容であることを。

           

          「『呵責なく平穏を裂く者は、その行いが齎す災禍を知らず。全を目指す志に仇なす厄災に他ならない』」
          「やはり、書も天音を憂いておられるのだ」
          「当然だろう。今まで、書の意向を鑑みながら国々を動かしていたわけだからな」

           

           読み進めるにつれ、現状を放置すればどれほど影響が出るのか、学者の地元にも関わる具体的な例から全国に焦点を当てた未来予想図が並べられていった。書はこの場にいる何者よりも強く憂いている……学者らはそれを再確認する。

           

          「『田畑に山が突然せり上がることがないように、かの興隆は異なものである。急ぎ鎮めねば、実りは失われることだろう』」
          「『野蛮な無法者に学を説いても無意味。筆は桜の下で振るうものにあらず。学にて火の山を鎮めよ。然るべきものへ説くべし。再び均した土地に種を蒔くのは誰か』」

           

           書の文字はここで終わっていた。全員内容を頭の中に収め終え、会が始まったときのように白紙が顕になるように書見台に戻される。
           彼らの顔は、先程までとはうってかわって非常に満足げであった。
           まるで、もう心配事などないかのように。

           

          「方針は決まった。そして、それを叶えられる強者もまた限られている」
          「近しい者から接触していけばいいかな? 門下生を使えば如何様にもできるだろう」

           

           彼らは、書の内容を答えとしていた。具体的な指示がなかったとしても、彼らには知と縁がある。そして同じ学びを得た者たちであるからにして、書より導き出される具体的な解答もまた同じ。

           

          「では、今回の星詠会は以上ということで」

           各々確認も終わり、三々五々散っていく学者たち。
           後にはぽつん、と書だけが残された。

           

           


          『もっと前から下地を作らせておけばよかったかしら……』

           

           その誰も居なくなった会場で、一つの念が生まれる。
           普通の人間であれば一切の感知ができず、ミコトであれば辛うじて。肉を得ているわけでもなければ、認識できるのはごく限られた存在だけである。
           彼女の念に呼応するように、書は微かな光を放つ。

           

          『まあ、駒はまだあるし、おさるさんを止めなきゃいけないのは確かだから、もう少し私も動いてみようかしら、ね』

           

           そう、この論壇には最初から十一人目がいた。
           彼女はメガミ、名はシンラ。その権能は、弁論。

           

           自分が操る賢者たちを正しく評価する彼女は、その念を残してこの場を後にした。
           今度こそ、何の力もない書だけがぽつん、と残された。

           


           表でいい顔をしている連中こそ、裏で何をしているか分からない。けれどシンラ以上に何をするか分からないやつもいない。
           彼ら碩星楼は、確かにこれから自分たちの理想とする世に戻すべく暗躍していく。
           だけど、そんな政治の場にまで食い込んだ連中の糸を、更に裏から引くメガミもいるのさ。
           否が応でもまた彼女の手腕を語るときがくるだろう。
           裏側とはいえ、彼女も立派に天音揺波と交わる縁を持っているんだからね。

           

          語り:カナヱ
          『桜降代之戦絵巻 第一巻』より
          作:五十嵐月夜  原案:BakaFire 挿絵:TOKIAME

           

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          第二の幕開けは近い:後篇、新作発表

          2016.11.11 Friday

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             この記事は三本立てのうちの後篇です。前篇から読みたい方はこちらよりどうぞ。

             

             ここまでで改革すべき問題点と、そのために何をするのかを説明いたしました。最後はいよいよ、その結果として何が出版されるのかを説明します。

             

             まずは新たな基本セットです。こちらの変更点はここまでで全て書いておりますが、改めてまとめます。

             

            桜降る代に決闘を 第二幕

            • 新たなメガミ、サイネの追加
            • 初期デッキの変更
            • 修練ルール、決闘ルールへの分化
            • カード10種への調整
            • メガミタロット2種への調整
            • ルールブック、カードリストの最新化
            • ボード、トークンの仕様調整

             

            そして、既に初版をお持ちのあなた。あなたに相応しいものを用意いたしました。ご覧ください!

             

            幕間 細音雪花

             

            内容物

            • カード21枚(サイネのカード全てと調整されたカード全て)
            • メガミタロット3枚(サイネと調整されたタロット全て)
            • ルールブック/設定資料集1冊

             

             第二幕で遊ぶ上で必要となる全てのカードが入っています。ルールや初期デッキについてもルールブック内でフォローされています。つまり、こちらを導入するだけで初版を第二幕にアップグレードできるのです。

             

             しかし、それだけでは寂しいと考えました。そこで特別付録として、設定資料集をお付けすることにしました。この世界、桜降る代や、麗しきメガミたちの設定をまとめ上げております。それだけではありません! 本作はTOKIAMEさんの美しいイラストも魅力ですが、残念ながらカード上では様々な枠により隠されている部分があります。それらのイラストも全てフルサイズでお届けいたします!

             実際に見なければ信じられない? 確かに! それでは特別に、内容を2ページほどお見せしましょう。

             

             

             一点のみお詫びしなくてはならないことがあります。製品の仕様上、調整されたボードとトークンを同梱させることはできませんでした。申し訳ございません。これにつきましては、皆様の需要をお聞かせ願えればありがたいです。もしご要望が多ければ、何らかの方法でボードとトークンのみの頒布を検討いたします。よろしくお願いいたします。

             

             

             これにて今回の発表は終わりとなります。長らくのお付き合い、誠にありがとうございました! 来週の11/18(金)には公式サイト全体の更新を行います。ストーリー第6話の更新もありますよ! そして再来週の11/25(金)には未来の話を行います。「今後の展望、2016冬」をお楽しみに!