『桜降る代の神語り』第42話:忍の里防衛戦

2017.11.17 Friday

0

    《前へ》      《目録へ》      《次へ》

     

     こうして忍の里に騒乱が、ああ、まさに文字通り放り込まれたということになる。
     仲間意識の強い忍たちのことだ。仲間を、さらに言うなら里を支える重要な一人を失ったとあっては、黙っているはずがないだろう。
     逃れえぬ戦いの時。さてさて、何が起こったのかを見ていくとしようか。

     


     しん、と静まり返った場を破ったのは、忍たちの敵意だった。

     

    「……おっと」

     

     歯軋りの音。刃を抜く音。畳を踏みしめる音。何か一つ、合図があれば即座に飛び出さんと構えた忍たちを前に、それでも御堂はうっすらと浮かべた笑みを崩さなかった。
     遅れて揺波が膝立ちとなって刀に手を伸ばし、サリヤが主を背後へと隠した。
     最後まで動かなかったのは、二柱のメガミだけであった。

     

    「どういう……ことかな?」

     

     その一柱であるオボロは努めて無表情を張り付かせたまま、一音一音に圧を込める。首から上だけの姿になった忍から、瞳だけを動かして、御堂へと。少女のような外見からは想像もつかないほどの威圧感が、ただ一点に向けられていた。
     常人であれば、そこで生を諦めるか、遮二無二許しを請うほどの状況。
     けれど御堂はそれでも、まるで風に吹かれているだけ、といった態度を保っていた。それどころか、問い質すオボロに小さく苦笑いを零す始末。

     

    「あなたならば、敢えて聞き直す必要もないでしょう?」
    「ほう……?」
    「用件は、この通り確かにお伝えしましたよ。誤解の余地が生じないよう、わざわざ形にしてきたのですが、どうも配慮が足りなかったようで……まあ、次の機会までに、もう少し伝わりやすい形を我々の方で考えておきますね」

     

     極めて事務的に謝罪した御堂は、僅かな目礼の後、何事もなかったかのように、今来たばかりの廊下へ身体を向けた。
     そして、皆にわざと聞こえるように、言葉を補った。

     

    「次の機会があれば、ですけど」
    「っ……!」

     

     前のめりになっていた忍たちの殺気が、さらに膨れ上がる。それを意に介さず帰ろうとする御堂の肩を掴もうと、最も近くにいた藤峰が手を伸ばす。

     

    「おい貴様ただで帰れると――」
    「たっ、大変ですッ!!」

     

     だがその手は、宙で止まった。
     廊下の奥――御堂と入れ違いになるようにして駆け込んできた忍の悲痛な声。普段の藤峰であれば、それを無視してまずは同胞を殺した男を捕えただろう。
     しかし、彼は悟ってしまったのだ。

     

    「里が……」

     

     会議場に飛び入ったその忍の顔色は、同じく皆に悟らせるには十分なほど、青ざめていた。
     首の入っていた竹籠を放り捨て、逃げていった男は、ただ自分たちに答えを示しただけなのだと。

     

    「里が、火攻めに遭っています……!」

     御堂の示した答えのその先が、既に目の前までやってきているのだと。

     

     

     

     

     


     古鷹山群は、赤く燃えていた。

     

    「……!」

     

     屋外へ出た一行は、里を囲む木々が燃えているという事実に言葉を失った。議場は里の北寄りに位置していたが、そこより見える北の森は、真っ赤な舌で大地を舐め回されているかのように火が回っていた。
     今はまだ、湿気も相まって背の低い草木が燃えているだけのようであったが、放置すれば里を隠す雄大な木々が、揺波たちを焼き殺す薪となるのは時間の問題だった。

     

     下手人の姿は、文字通り火を見るより明らかである。白鬚の生えた笑顔の老人をかたどった面をつけた者たちが、里を闊歩し、あるいは木々に紛れ、火を生み出していた。
     彼らの放つ炎の勢いは人一人が扱うには凄まじく、樹や家を舐め上げるほどであったが、その行為に反して所作に野蛮さは感じられない。舞台の上で火の化身を演じるような、ある種の優雅さすら纏っているのが不気味であった。
     火勢に煽られるように揺波の旅の友が、その桜色の光球の身体を震わせる中、ジュリアもそんな歪な襲撃者に声を震わせていた。

     

    「なん、デスカ……あのヒトたち……」
    叶世座 きょうぜざ ……古鷹が有する私兵団だ。あいつらまで持ち出すとは、やつは本気か……!」
    「半数は南に散れ! 炎に囲まれては敵わん! 半分……半分だ! そこで必ず食い止めろ!」

     

     オボロの指示を皮切りに、半ば呆然としていた忍たちが動く。サリヤもジュリアと共にそれに同調し、研究室のヴィーナの元へと急いでいった。
     揺波の手は自然と刀の柄へと添えられていたが、そこで敵の装備に目が行き、動きが固まる。

     

    「オボロさん、あの篭手! たぶん、遺跡で襲ってきた人たちがつけてたやつと一緒です!」
    「……だろうな」

     

     低く唸るようなオボロの同意。目にする仮面の人間は全て、あの爪使い、弓使いと同じく、手のひら大の歯車を噛み合わせたような篭手をつけている。先程まで、要警戒だと議論していた実物が、こうして一同の前に現れた形となった。
     そこでさらに同意を示したのは、ハガネである。

     

    「じゃなきゃ、こんな場所でヒミカっちの炎、使えるわけないもんね……」
    「そんな……! ヒミカさんが、こんなことする人たちに力を貸してるっていうんですか!?」

     

     信じられない言葉を聞いたとばかりにハガネを見る揺波。
     だが、ハガネが否定を返すよりも先に、それに答える者がいた。

     

    「使わせていただいているとも。これのおかげでね」

     

     興奮を抑えきれないながらも、冷静であろうとする、少しくぐもった男の声。
     家屋の陰から姿を現したのは、例に漏れず歯車の篭手を装備した一人の襲撃者であった。他と違うのはその面……真っ赤な猿のような顔に、飛び出た金の目、見せびらかすように開いた口には歯車の歯が覗く、そんな異様な面をつけていることだった。
     同じ襲撃者でも、彼は一見して異質であり、奇怪だった。

     

    「複製装置<焔>。ああ、素晴らしいものだな! こうしてヒミカの力を自由に振るえるというのは! このようなゴミ掃除にヒミカの炎を使えるというのは、いっそ清々しい!」

     

     言いながら赤面の男は、寄りかかっていた家に炎を放った。雅に野蛮へ走る他の叶世座の面々とは明らかに異なり、この者はまさに、我によって野蛮を為していた。
     全員が、一斉に得物を構える。

     

    「おまえッ……!」
    「おっと、これはよくない。私は掃除に来ただけで、遊びに来たわけではないからな。なに、遊び相手は私の他にもいるさ。ハッハッハハハ!」

     

     笑いと共に、篭手のつけた右腕を大きく振るうと、特大の火柱が立ち上がり、家がさらに燃え上がっていく。
     火柱が消えたとき、既に男の姿はなかった。

     

    「オボロっち……あれ、ひょっとして……」
    「ああ。だが今は詮索している場合ではない。考えなしに挑んでは返り討ちにされるということが分かっただけで十分だ」

     

     オボロは静かに、藤峰も含め残っていた忍たちにも指示を出し、放った。あくまで防衛なのだと、念を押して送り出す。
     そして最後に残った揺波に向けて、拳を突き出した。一瞬、何のことか分からなかった揺波だったが、拳からはみ出した白桜色に気づいた。

     

    「すまないが、力を貸して欲しい。ハガネもそうだが、拙者も十分な戦力とは言い難い。何より、この身も今や貴重な資源だ。全体を統べる任にあたらせてもらおう」
    「これがあれば……戦えるんですね?」
    「折るように潰して、撒くように放ればいい。あいにく安定版ではないから保証しきれんが、あとは決闘と同じ感覚のはずだ」

     

     短く笑ったオボロの目は、全く笑っていなかった。
     差し出した揺波の手に落ちてきた神代枝は、穏やかな温かさを返してくる。桜の光球は、それを揺波の肩越しにおずおずと観察しているようだった。
     ただ、次のオボロの言葉に、揺波は冷水を背に差し入れられたように震えを走らせた。

     

    「だが――これからお主が行うのは決闘ではない。殺し合いだ」
    「……っ」

     

     唇をかみしめて、辛うじて抗弁を飲み込んだ。燃え盛る炎の向こうに幻視するのは、最強の男。その物言わぬ身体を脳裏から追い払うように、小さく頭を振る。
     そんな揺波にオボロは、手厚く諭すでも、叱咤するでもなく、

     

    「目標は敵を退けることだ。無理はするなよ」

     

     そう平坦な口調で言い残すと、いきなりハガネの首根っこを掴み、彼女に反論を許すことなく、まだ燃えていない家々を足場にして南の方へと消えていった。
     一人残された揺波だったが、ここは紛れもなく戦いの場であり、そうである以上何もしないことは許されない――そういったある種強迫めいた意識が、彼女を下ではなく前へ向かせる。
     そして左手に握った神代枝を砕き、言われた通り放った。

     

    「……!」

     

     その軌跡は桜色の尾となって、ぐるりぐるりと周囲を周り始めた。さながらそれは桜の花びらを巻き上がる一陣の風のようであり、実際、小ぶりではあるものの、桜花結晶がいくつも揺波を取り巻いていた。
     決闘の宣誓を終えたときのような高揚感が、稀代のミコトを包み込む。

     

    「決闘じゃないけど……お願い、ザンカ……!」

     

     言葉と同時、メガミの力を宿らせた揺波の脚は、いつも通り戦いの場に赴くように、大地と大気を蹴った。収まりつつあった桜色の風を吹き散らすかのように、力強い一歩が刻まれる。
     揺波は確信と共に、普段使いの刀を打ち捨てた。そして次の瞬間には、彼女の手中には斬華一閃が収まっていた。
     曇りなき銘刀の輝きが、健在であるザンカの力を十分に引き出せたと示していた。

     

    「いきます……!」

     

     疾風と化した揺波が、戦場へと躍り出る。
     その銘刀の峰を、前に向けて。

     

     

     

     


     ジュリアの研究室代わりとなっている倉庫から発進するなり、サリヤの視界は里の食堂に火を放つ赤い仮面の男を捉えていた。

     

    「やめなさいっ!」

     

     制止の叫びと共に、容赦なくヴィーナに加速を叩き込む。相手の装備する篭手に既視感を覚える彼女ではあったが、ヴィーナでの戦闘機動が通用するのはその一度目の邂逅で学んだことだ。その持ち主が、彼女の主を殺めようとしたことも忘れていない。
     最初から全力で。躊躇のない突貫で速度を身に纏うサリヤであったが、

     

    「やめればいいんだろう?」
    「な……!」

     

     赤面の男の思わぬ行動に、サリヤは急激に右へと距離を取った。
     男は、近くに倒れ伏していた別の忍を――それも、全身を焼かれているというのに、それを盾にしたのだ。

     

    「このっ……!」
    「はっ! いくら速い馬だろうと、騎手が焼かれては意味がないぞ」

     

     その隙に男は、サリヤの視界を奪うように空間を焼いた。迂回で角度を変えての再突撃を図っていたサリヤはこれに、さらなる回避を余儀なくされる。
     ヴィーナは確かに純粋な戦闘において、他より大きな優位をもたらしてくれる存在である。だが男の指摘通り、ヴィーナはあくまで神速の矛であり、サリヤを守る盾にはなれない。飛び込む動きに対して反撃を置かれれば、それが致命傷となりかねないのだ。

     

     炎による目眩ましが晴れたときには、男も逃げるように離れていた。焼けた忍を放り、攻め込んできた北へ向けて、だ。押し通ろうとする意思の全く見えないその動きに、サリヤは刃の鞭をしならせながら警戒の色を露わにする。
     と、住居を背にした男は、くつくつ、と嗤いを零した。

     

    「まさかこんな場所で再会するとは。いやまあ、貴様は覚えていないだろうがな。くくっ……もう一人はどうした? おまえが必死に守ろうとしていたやつだ」
    「何……あなた誰なの?」
    「いるんだろう? ……ああ! つまりこのあたりなのか。あれほど大事にしていた人間だものなあ、離れるわけにはいかんよなあ」

     

     嫌味ったらしい男の顔色は窺えない。けれど、背にしていた家の屋根から強襲をかけようとしていた忍に対し、咎めるように火炎を放った彼が実力者であることは、疑うまでもないことであった。
     相手の正体は分からない。首を寄越してきた御堂とも声が違う。けれど、里にとって、そして主にとって脅威足りうることが分かれば、サリヤには十分だった。

     

    「これも何かの縁だろうが、残念ながら貴様と戯れることは本来予定にはない。……だが、この辺で火遊びをするくらいの余裕はある。どれが当たりか、探す遊びだ。面白いだろう?」
    「全然笑えないわ……!」
    「おお、怖い」

     

     表情の読めない相手との間に、一種の膠着状態が生まれる。
     初撃をいなされた時点でサリヤが攻めあぐねるのも無理はない。彼女にとって、メガミの力を使う相手との戦いは、片手で数えられるくらいしかない。経験の無さは、深慮にて補うしかない。
     しかし、サリヤにとって時間は敵だった。主のことを知っているこの男を逃す訳にはいかないが、ここにほど近い倉庫に戦禍がいつ及ばぬとも知れない。

     

    「ジュリア様に手は出させない!」

     

     ヴィーナを唸らせたサリヤは、再び一直線に男へ向かう軌道を描いた。戦場の雑音をねじ伏せるような低い嘶きと共に、弾丸のような一撃と化す。
     対し、男は背を向け走り出しながら、後ろに回した右手から炎を生み出した。瞬く間に灼熱の壁が立ちはだかり、何人も越えられない領域がサリヤの行く手を阻む。
     だが、そこでサリヤは急激に左へ舵を切った。
     ヴィーナの常識はずれの機動力によって、右側を中心として生み出された炎壁を撫でるように左へ抜ける。

     

    「あ――っつい!」

     

     じり、と焼ける肌に耐えるサリヤは、突貫を諦めたわけではない。
     今まで後ろへ流していた鞭の剣は、突如の方向転換によって前を志向したまま。サリヤはそれを、ただ前へ送ってやるだけでよい。人の速さと機動だけでは成し得ない、獰猛な蛇の如き斬撃は、それだけで為された。
     燃え尽きつつある壁を切り裂いて、剣は赤面の男のうなじへ吸い込まれ――

     

    「残念」

     

     キィン、と。金属音を奏で、弾かれた。
     男の頭部は、いつの間にか桜色に透けた兜の幻影に覆われていた。

     

    「うそ!?」
    「危ない危ない。複製装置<護>――あいにく、私の手は一つだけではなくてね」

     

     悠々と振り返る赤い仮面の男に、もちろん傷はない。
     積極的な攻撃こそないが、こちらの攻撃もまた通らない。戦場に居続けるという目的に特化したような振る舞いに、サリヤは彼に弄ばれているような気にすらなっていた。
     そしてそれは、事実でもあった。
     多数の敵を持ち前の機動力で倒す――この戦場で今最も必要とされている能力を持つのは、間違いなくサリヤである。だが、こうして悪戯に時間を浪費させられては、この能力も腐っていると言わざるをえない。

     

    「くっ……」

     

     倉庫への進路を塞ぐようヴィーナを止めたサリヤは、徐々に焦りを募らせていく自分にさらに焦りを感じていた。
     そこへ、

     

    「む……!?」

     

     突如、赤面の男が警戒を露わに、サリヤの背後へ注視した。それは、まさに彼女の主がいるはずの倉庫の方角である。
     罠かもしれない、と思いつつも、案じる心は振り向くことを選んだ。

     

    「え……なに……?」

     

     赤面が目の当たりにしたものを見て、サリヤは呆然とする他なかった。
     倉庫の中から、膨大な桜色の光が溢れ出しているではないか。
     見守っているうちにそれは収束していったが、

     

    「キャアアアッ!」
    「ジュリア……様?」

     

     間違いなく、それは倉庫から聞こえる彼女の主の悲鳴だった。
     けれどサリヤはより心配を募らせるのではなく、困惑していた。その悲鳴は、凶器を突きつけられた悲鳴というよりも、長い間成果がなかった研究の実験が予想外にうまくいったときのような、そんな驚きの悲鳴に近かったからだ。

     

    「あああああもう……!」

     

     理解はできない。けれど、駆けつけないわけにもいかない。
     ヴィーナの腹を蹴ったサリヤは、赤面の男に背を向け主の下へと急いだ。

     

     

     

     


     決闘であれば、傷はつけられないものの、切った身体は物を断った手応えを返してくる。そしてそのまま振り抜くことができる。太刀筋が悪く、肉と骨に刀を巻き取られた、なんてことはそうありえない。
     ましてやそんな決闘において、あえて峰打ちを選ぶ必要は皆無に等しい。

     

    「い――ぃやッ!」
    「がっ……」

     

     翁面の女の腹を、強い踏み込みと共に切りつけた揺波は、三度目の悪手をもう一度払拭すべく、強引に振り抜いた。重厚な斬華一閃の峰打ちは鈍器の一撃に等しく、仮面の女は遠く吹き飛び、動くのをやめた。
     揺波が倒したのはこれで六人目。ミコトではあったが、ヒミカの炎以外にメガミの力は使ってこないことに揺波は気味の悪さを覚えていた。だがむしろ問題なのは、相手のミコトはむしろ少数派のようであることだった。そのことが、なお彼女にやりづらさを課している。

     

     メガミの力を扱うのに、結晶による守りがない、あるいは扱い得ない相手。決闘中、相手の結晶の力を測りながら戦う揺波にとって、相手がそれを持たないというのは本能的に加減をもたらしてしまう。遺跡の爪使いもそうだが、手練れであることがむしろ幸運だった。でなければ、揺波の手は致命的なまでに鈍っていただろう。
     そして何より揺波にとってやりにくかったのは、相手はあえて襲ってこないことだった。邪魔になりそうな者がいれば攻撃する、くらいの積極性で、むしろ逃げ回っているのは仮面たち叶世座のほうだと言っても過言ではなかった。

     

    「……!」

     

     火に包まれた里の中、次の相手を探し、辺りを見渡したところで、二人を相手取っている忍の姿を見つけた。先行していた藤峰だ。
     猛然と駆け出す揺波は、彼が飛び道具でうまく炎による優位を低減させていることに気づいた。しかし、彼の足元に無数に散らばる苦無や手裏剣が、じりじりと追い詰められているという事実もまた教えてくれる。

     

    「藤峰さん!」
    「天音か!」

     

     揺波の叫びは、二人の仮面の注目をひきつけた。その隙を突き、藤峰は一方の仮面へと肉薄する。もう一方の手前の仮面はどちらの対処を優先するか一瞬迷っていたようだったが、メガミを宿すという優位を持つ揺波には、それだけで十分であった。
     手前の仮面に至近した揺波は、迎撃の炎に対して、何もしなかった。いや、むしろ手前の仮面に対して、何も行動を起こさなかった。

     

    「はあぁッ!」

     

     そのまま駆け抜けた揺波は、藤峰の小刀を辛うじて捌いていたもう一人へ、仮面をぶち割るように斬華一閃を叩き込んだ。疾駆の勢いの乗ったそれは、あっという間に仮面の男に昏倒をもたらす。

     

    「なんと……!」
    「逃しません!」

     

     離脱を図る残された仮面は、慌てて牽制の炎を放とうとするが、鋭く姿勢を低くした揺波の切り上げによって、右腕が弾き上げられる。そのままさらに踏み込み、重い上段が仮面の頭蓋を撃ち抜いた。

     

    「ふん、やるな天音」
    「大丈夫でしたか?」
    「見ての通りだ。問題ない」

     

     そううそぶく藤峰の忍装束は、あちらこちらが焼け落ちていた。見える肌も赤く、左腕に至っては一目で火傷と分かる有様であった。
     それを指摘しようとした揺波だったが、倒したばかりの敵を見下ろしていた藤峰が、なんの前触れもなく向けてきた力の篭った視線に射すくめられた。藤峰は何か言いたそうにしていたが、深い深呼吸と共にそれを飲み込んだようで、表情からやや険が取れる。

     

    「人の心配をしている暇があったら前を向け。向こうの通りへの援護だ、行くぞ!」
    「は、はい!」

     

     燃えていない家々の間を縫い、藤峰と共に里の南北へ跨る東の通りへ出た揺波は、彼が傷を押してまで急いだ理由を悟ることになる。
     先程まで揺波が一人進軍していた里の西側も確かに被害が大きかったが、東のそれは煌々と炎の明るさに照らされるような絶望感に裏打ちされていた。まるで流れ作業のように外縁の木々を、家々を焼いていく仮面たちによって、大きな炎の壁ができているかのようだった。

     

    「くっ……!」

     

     弾かれるように飛び出した揺波は、多くの忍が抵抗する激戦区へ身を投じる。
     ヒミカの炎というあまりにも強力な手が向こうにある以上、忍に可能なのは藤峰のように遠距離で戦うか、人数差を生み出して電光石火で片を付けるか、そのどちらかであった。

     

    「はッ!」
    「……助かる!」

     

     若い忍と対峙していた仮面の延髄に峰を叩き込み、黙らせる。
     次に目についた仮面の女は、揺波に気づいて炎を向けようとするが、回り込む揺波の後ろには別の仮面が忍とやりあっている。その間一つ数えることすらできず、頭を横合いから殴りつけられ地に伏した。

     

    「森のやつは深追いするな!」
    「あッ、ああぁぁッ!! あづい!!! たすげで!!」
    「援軍はまだか!」

     

     だが、全体の数と、火力が違う。揺波がこの場において一騎当千の兵であることはおよそ間違いない。けれど敵兵とて雑兵ではなく、揺波が一人倒す間に失われるのは、一人の忍と一軒の家、そして里を隠す一本の樹であり、相手にとってはそれで十分なのである。
     奪われる一方。敵の総数すら判然としない。

     

    「つ、次……、は……」

     

     決闘とはまるで違う戦いが、揺波を焦燥で炙る。無理に峰打ちをしていたことも、彼女の体力を着実に奪っていた。
     揺波は戦いの達人ではあったが、より正確に言うならば決闘の達人である。繰り出した技に合わせられたときのために体捌きに余裕を持つことはするが、決闘の最中に次の決闘を意識して消耗を抑えることなどしない。決闘は、常に一対一の全力勝負なのだから。

     

     言うなれば揺波は、短い決闘を幾度も繰り返しているようなものだった。藤峰を手助けしたときも、各個撃破が真っ先に頭に浮かんだからそうしたまで。多数の敵と味方を俯瞰しての戦いの仕方を、彼女は知らない。
     故に、ザンカの力があったとしても、彼女一人では限界がある。
     一人奮戦したところで、多くの人、多くの物を、護ることはできない。彼女にできるのは、一本の刀で一人の敵に勝つことだけ。

     

    「はぁ……はぁ……」

     

     悲鳴と怒号、燃え上がる炎の叫び。桜花決闘とは程遠い惨状の中、まだ味方はいるというのに、揺波は急に独りになった感覚に襲われる。
     そこでふと、揺波は不思議な相棒のことを思い出した。

     

    「あれ……ぽわぽわちゃん……?」

     

     だが、旅の友の姿はどこにもない。
     温かみのあるあの桜色の光が、傍に居ない。
     すわ炎に巻かれたか、と心配になる揺波。だがそれよりもなお、この悲惨な戦場で本当に一人になってしまったようで、不安が湧き上がってくる。

     

     一人が勝ったところで、皆が負ければ意味がない。
     味方が倒れていく中、最後まで立っていたところで、揺波一人で残った敵全員を倒し切るなど不可能だ。揺波が参陣したところで、既に里の東側はオボロが死守を命じた中央付近まで侵攻されている。このままでは最後まで蹂躙されるだろう。それは明確な敗北である。
     勝てるのに、勝てない。理解はできるはずなのに、矛盾を突きつけられたように揺波の頭は真っ白になっていた。

     

    「うぅぅっ!!」

     

     それでも揺波は、敵に向かって走った。闘争本能に導かれるように、忍を屠る仮面へと。
     大局を動かすことができずとも、動かねば必ず負けるのだから。
     揺波には珍しい、大きく振りかぶった大上段。

     

    「ああああああぁァァッ!」

     

     威勢に気づいた仮面の男に、それを叩き込もうとして――

     

    「……!?」

     

     揺波の視界が、なくなった。
     否……桜色に、塗りつぶされた。
     仮面の男を、桜色の光の奔流が、飲み込んでいたのだ。

     

     

    「うおっ、なんだこれ!」

     

     戸惑う揺波が間合いを離す中、光の向こう側で仮面は慌てているようだった。時折、何かを追い払おうと振り回される腕が見え隠れする。
     彼を覆っていたのは、翅を持つ桜色の光球――その大群であった。次から次へ突撃していく光の玉が、あまりの密度に桜の光条を成しているようですらある。威力はさほどなさそうであったが、突然の出来事に仮面の男は混乱をきたしている様子だった。

     

    「えっ……」

     

     突撃の流れには、源流もあった。見知った友とあまりによく似た造形に、揺波が驚きと共にそれを目で追うと、家と家の間にそれはあった。
     ……いや、それは『居た』。

     

     それは、少女だった。淡い桜色を基調とした着物に袖を通した、黒髪の少女。背丈は揺波より目線一つ分くらい低い程度だろうか。口を固く結び仮面たちを睨んでいるが、あどけない顔では迫力に欠ける。
     まるで、苦戦している揺波という姉を助けに、ちょっと背伸びして駆けつけた妹のよう。

     

    「だ、誰だ貴様はッ!」

     

     別の仮面が、出現した新手に激昂する。ただ、敵味方問わず、彼女に気づいたこの場の誰もがこの時ばかりはその問を胸に抱いていた。
     襲撃者も、忍も……そして、揺波も。
     全員の視線を一身に集めた少女は、その控えめな胸を張り、腰に両手を当てながら……さも当然だと言うように、こう答えた。

     

     

    「ぽわぽわちゃんです!」

     

     

     

     

     

     

     おや、どうしたんだい。そんな鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして。
     なんてね、冗談さ。君の気持ちも分からなくはないよ。確かにこの時点では、彼女は意味不明の存在だ。
     しかしカナヱは言ったはずさ。いつだったかな? そうだ。サリヤ・ソルアリア・ラーナークの紹介をした時だよ。英雄たちにとって、欠けた席は残りひとつ。そして彼女が目覚める時、英雄譚は真なる意味で始まる、そんな具合にね。そう、あの時にこそ、天音揺波は英雄となるべく、決定づけられたといっても過言ではない。

     彼女はあの時点で、天音揺波のもとに眠っていた。そして氷雨細音との戦いを経て目を覚まし、そしてこの騒乱の中で、いよいよ覚醒となったというわけさ。

     彼女の正体については、君ほどのものならば想像はできているかもしれないね。流石に委細は捨て置くとしても。まあ、慌てなくてもこの物語の中で明らかにはなっていくよ。少なくとも、次回の時点で語らせてもらうこともあるだろうね。

     むしろ君は、今感じている予感を確かなものにしたいんじゃないかな?


     ああ、もちろんそれは正しいとも。
     彼女はこの英雄譚の最後の欠片であり、そして今この瞬間、君の戦う舞台においても最後の欠片だというわけさ。

     今は多くは語らない。それよりも感じるといい。
     彼女の力、その片鱗を……!

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    語り:カナヱ
    『桜降代之戦絵巻 第四巻』より
    作:五十嵐月夜  原案:BakaFire 挿絵:TOKIAME

     

    《前へ》      《目録へ》      《次へ》

    桜降る代のゆるい午後2:第2回

    2017.11.15 Wednesday

    0

      《前へ》      《目録へ》      《次へ》

       

      ゆるい午後シーズン2は、デジタルゲーム版のメガミ紹介も兼ねているぞ!

      デジタルゲーム版も併せてよろしくよろしく。

       

      《前へ》      《目録へ》      《次へ》

      コラボカフェがやってくるぞ!

      2017.11.14 Tuesday

      0

         こんにちは、BakaFireです! 本日は皆様にすばらしいニュースを届けに参りました! しかしその前に、ひとつお詫びがございます。そしてそれに伴い、少しばかり苦労話をすることをお許しください。

         本来であればこの記事は先週の金曜、11月10日に更新される予定でした。しかしその日の夕方、いざ記事を書こうとPCを立ち上げたら、長年愛用してきたモニターから断続的な怪音が発せられたのです。画面は暗い闇に飲まれ、脈拍のように点滅を繰り返すのみとなりました。

         もにたーちゃん、15歳。大往生でした。

         改めて振り返ると15年も使ってたのかよと感慨深く感じつつも、自分の無頓着さに呆れるばかりです。しかしとにかく、解決しなければ何もできないのも事実です。そのまま最低限の連絡だけは済ませ、ビックカメラへと向かいました。PCの裏面を撮影するために自宅とビックカメラを2往復するという愚かなトラブルもありましたが、なんとか復旧を果たすことはできました。しかしその時点で11日の朝だったのです。

         そして実にタイミングが悪く、11日朝のうちに入稿しなくてはならない〆切が1件あり、さらにその日から13日まで、大阪のイベントに参加する予定も立てておりました。ゆえに最終的に、本日14日の更新となってしまったのです。

         ご期待頂いていた皆様には、長らくお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。また、本件でご迷惑おかけした方々すべてに、改めてこの場でお詫び申し上げます。

         

        桜降る代が今こそ現世に!

         

         さて、トラブルの話はこのくらいにして、本題へと移りましょう! そう、すばらしいニュースです。以前の展望にて軽く触れた、本作のコラボカフェにつきまして、いよいよ具体的にお話しする時が来たのです。

         



         お伝えしましょう。『桜降る代に決闘を』コラボカフェは、東京は上野ボードゲームカフェ、ムスビヨリ様にて、11月26日(日)から12月10日(日)の約2週間にわたり開催されます。

         

        ※ 12月2日と3日のゲームマーケット中は除きます。
        ※ 水曜日、木曜日は定休日となります。

         

         

         

        住所:〒110-0005 東京都台東区上野7-7-5 東欧ビル5F

        (上野駅入谷口から徒歩1分、上野駅浅草口から徒歩5分)

         

         ムスビヨリ様は和風をコンセプトとしたボードゲームカフェであるため、本作の世界観を再現しやすく、さらにゲームを遊ぶ場でもあります。まさしく本作とコラボするにはベストと言えるでしょう!

         立ち上げから具体化、実現まで快くご協力いただきました創作集団タルヲシル株式会社様、株式会社エイシス様、有限会社センキ様に、この場で深くお礼申し上げます。

         


        様々な企画も盛りだくさん!

         

         コラボカフェと言うものの、具体的には何があるのでしょうか。ええ、本日はそれもお伝えしましょう。以下のような、素晴らしい企画が盛りだくさんなのです。ご覧ください!


        店内が桜降る代仕様に、さらに対戦卓を常備します!

         

         開催期間中、店内は本作のメガミたちや桜花結晶により彩られ、スペシャルな内装になります。さらにテーブルのいくつかには本作のボードと桜花結晶が常備され、お越しになればすぐに対戦できるようになるのです!


        ※ 本作常設ではない卓もありますので、他のボードゲームもお楽しみいただけます。


        限定コースターの付いた特別メニューも登場!

         

         期間中はメニューの中に、本作をイメージした限定メニューが登場します。メニューの詳細は近日中にムスビヨリ様にて発表されますので、ご期待くださいませ。


         さらにそれらのメニューをご注文いただきましたら、特典としてメガミのイラストが描かれたコースターをランダムに1つお贈りいたします。


        ※ 限定コースターは基本セットに収録された7柱(ユリナ、ヒミカ、トコヨ、オボロ、ユキヒ、シンラ、サイネ)のものがございます。
        ※ それ以外のメガミを宿す皆様、誠に申し訳ございません。しかしご安心ください。コラボカフェが今回限りとは限りません。皆様の応援次第で、第二段が行われる可能性はありますし、その際には必ず拡張のメガミたちが登場することでしょう。
        ※ コースターの付属は、無くなり次第終了となります。予めご了承ください。

         


        11月26日にはオープニングイベントが開催されるぞ!

         

         ここまではコラボカフェ内容のうち、基本にあたる部分になります。しかし、もちろんそれだけではありません。いくつかの日程ではさらにスペシャルなイベントが開催されます。

         初日にあたる11月26日(日)には、オープニングイベントとして交流会が開かれます。ところでお気づきでしょうか? この日は25日、26日のプレリリース期間でもあります。その通り! 26日には関東におけるプレリリース2日目として、プレリリース大会も併催されるのです。つまり、こちらでも新たなメガミ、ウツロを用いたゲームをお楽しみいただけるというわけです!

         さらにゲストとして私、BakaFireが参加するのは勿論のこと、イラストレーターのTOKIAME先生もお招きしております。一緒にこの祭りを楽しみましょう!

         一点お詫びする点があるとすれば、店内面積の都合より、オープニングイベントにご参加いただけるのは20名に限らせて頂く点です。できる限り公平にするため、イベント申し込みは明日11月15日(水)の19時から、イベントページのフォームより可能とし、先着とさせて頂きます。ご容赦くださいませ。

         ちなみにプレリリースのイベントとしては25日の秋葉原での交流祭の申し込みはまだ可能ですし、両日の参加も可能です。あなたのご参加、心よりお待ちしておりますよ!


        第参拡張を限定100部の先行販売!

         

         以前の記事でお伝えした通り、本作の第参拡張は12月2日と3日のゲームマーケット2017秋にて先行頒布され、12月9日(土)より全国のゲームショップで頒布されます。

         

         しかしコラボカフェではゲームマーケットの翌日、12月4日(月)より第参拡張を100部限定で先行販売させて頂きます! ゲームマーケットにご参加いただけない方、ご購入いただけなかった方で急いで手に入れたい方は、是非ともこちらをご利用くださいませ。

         


        平日夜に8人大会も開催しますよ!

         

         本作のイベントですので、ちょっとした大会もお楽しみいただけるようにいたしました。平日の夜にカジュアルに楽しめるよう、8人規模で随時選択(毎試合メガミ変更可能)の大会を行います。日程は12月4日(月)8日(金)の2日間。もちろん、第参拡張の新たなメガミも使用できますよ!


        12月10日はエンディングイベントあり!

         

         そして最終日となる12月10日(日)にもまた、交流会を予定しております。16人規模程度の大会など計画しておりますので、そちらもご期待くださいませ。


         本日はここまでとなります。コラボカフェという新たなお祭りを、お楽しみいただければ嬉しいです。来週、というより今週末は12月からのイベントについて、いくつかのお知らせを行います。

        『半歩先行く戦いを』第4回:攻めと守りに基本あれ

        2017.11.13 Monday

        0

          《前へ》      《目録へ》

           

           こんにちは、BakaFireです。

           

           こちらの記事は本作の攻略記事の第4回となります。ルールは理解できているものの、今一歩勝利への道筋を掴みかねている方を対象として、理論立てられた基礎をお伝えしております。

           

           本シリーズは現在大会で活躍されているプレイヤーの中より、戦術の理論化、文章化に長けた強豪であるつきのみちさんに執筆して頂いております。それでは、早速今回も始めるとしましょう。

           


          著者紹介:つきのみち
           本作を発売から今日にかけて遊んで頂いている古株のプレイヤー。具体化された理論に裏付けられたプレイングと、丁寧なメタ読みを得意とする。2017年8月のコミックマーケット92では本作の攻略冊子を同人にて作成、頒布した。本作の攻略が理論に基づき、これほどの分量を持って文章化されたのはその冊子が初めてのことである。


           

          『半歩先行く戦いを』

          第4回:攻めと守りに基本あれ

           

          著:つきのみち

           

           

          サマリー

          • 攻撃を振るより先に必ず防御手段を確保する。
          • 攻撃を振る時は目的を明確に。


           今回は「防御の基本」「攻撃の基本」について考えます。

           

           今回は今までの記事で説明した内容を基礎とした説明が多いため、第1回〜第3回を未読の方は、先に読んでから今回の記事を読まれることを推奨します。


           この攻略記事シリーズは、私の過去の対戦経験から抽出した「初中級者がよく陥りがちな失着」について、より正着に近い動きとその理由を説明するというスタンスを取ってきました。私が対戦した中でよく見た失着とその結末としては

           

          .ーラを惜しんで銃の攻撃をライフ受けし続けた結果全く接近できずに敗北

          ∋┐冒肝蝋況發鮨兇辰栃屬靴離拭璽鵑冒躪況發鮗けて敗北

          先に切札を使った結果、フレアが空になったところを切札で攻められて敗北

          ぅーラの管理を疎かにし、相手のライフはほとんど減らないのに自分のライフは減って敗北

           

            銑はそれぞれ過去の記事の内容と対応していることが分かると思います。では今回は?もちろん最後のい紡弍する記事となります。

           

           

          1. 防御は攻撃に優先する

           

           結論から言うと、現状のゲームバランスでは(重要)大半のメガミの組合せにおいて防御は攻撃に優先します。なぜ防御が攻撃に優先するのかというと、一言で言えば「ダメージ計算においてライフへのダメージは攻撃力の合計と防御力の合計の差分により決定され、現状のバランスにおいては大半のメガミの組合せにおいて攻撃力と防御力が拮抗しているから」です。何を言っているのか分からないと思いますので、詳しく説明します。

           

           全てのメガミには、共通する守りのリソースとしてオーラが与えられています。オーラがある限り、(オーラダメージが−であるものを除く)<攻撃>はライフの代わりにオーラでダメージを支払う権利を有します。逆に言えば、オーラが無くなってしまえばどんな攻撃もライフで受けねばなりません。それが1/1や2/3のような、オーラさえあれば軽微なオーラダメージで済む攻撃であっても、オーラが無ければ手痛いライフダメージとなって跳ね返ってくるのです。

           

            また、現状のカードプールにおいて各メガミのオーラへの攻撃力は抑えめに設定されており、1柱のカードのみで、間合いを動かすことなく、切札を使わずに、同一ターン中にオーラに5以上のダメージを与えられるメガミはオボロとヒミカしかいません。また可能な組み合わせの場合でも、オボロは設置と全力攻撃の組合せ、ヒミカは自らのライフを消費する必要があります。

           

           これらを総合すると、自分がオーラを5にしておくだけで、相手がオーラを削り切ってライフにダメージを与えるには最低でも以下のどれかを行う必要があることが分かります。

           

          • 複数のメガミのカードを組み合わせた連携攻撃
          • 切札の使用
          • 設置、自ライフ消費等の特殊条件を要する攻撃

           

           これらの条件を考えると、オーラを万全に保っているだけでも1ターン中にライフに2点3点のダメージを通すのは相当に難しいことが分かります。それは裏を返せば、一度大ダメージを受けてしまうと、守りをしっかりと固めた相手から2点3点のダメージを奪い返して逆転することは困難を極めることを意味します。一方、オーラによる防御を超過したダメージはそのままライフに直撃することから、一度守りを疎かにすればライフに2点3点といったダメージは容易に通ってしまいます。

           

           守りを疎かにしたプレーヤーは、攻めてもライフ1点程度のダメージしか与えられないにもかかわらず、軽い攻撃でライフに2点3点の大ダメージを受けてライフ差は広がる一方、といった展開となってしまいがちです。そのため、防御は攻撃より優先するのです。(攻撃力と防御力が凡そ拮抗している現環境においては、切札を使わずにデッキ1巡でライフに2ダメージ受けたら耐え難い激痛、3ダメージ受けたらほぼ死亡と考えて相違ありません)

           

           

          2. 具体的な防御の指針

           

           防御には大体3通りの方法が存在します。

           

          .ーラによる防御

          対応による防御

          4峭腓砲茲詼標

           

           各々について軽く解説します。

           

          .ーラによる防御

           

           全てのメガミに与えられた、基本的な防御の手段です。

           

           サイネの「響鳴共振」を警戒している場合および、前進方向への間合調節の自由度を残しておく必要がある場合(第一回参照)を除けば、オーラは常時5にしておくことが望ましいです。 相手の攻撃が苛烈を極めオーラ5をキープし続けられない場合、今のデッキ1週で残りどの程度の攻撃が来得るかを考え、最も許容できない攻撃を受け切れるオーラ量を目安にオーラを補充しましょう(相手がオボロであれば、最もライフダメージの高い「鋼糸」を受け切れる2オーラは最低でも残しておきたい、等)。

           

          対応による防御

           

           対応を持つカードを出すことで防御します。

           強力ですが、手札に無いことが割れてしまうと力を失うため、使いどころはよく考える必要があります。(例えば、シンラを宿していて「斬」に「反論」で対応すると、次のターンに「居合」が飛んできます)

           

          4峭腓砲茲詼標

           

           相手が攻撃可能な間合に接近することが不可能であれば、最も安全な防御となります。間合による防御の方法と対策については、第一回に書きましたので参考にするとよいでしょう。

           

           

          3. 攻撃は目的を持って

           

           防御の基本があれば、攻撃の基本もあります。攻撃の振り方は本格的に書くと膨大な分量になってしまうので、最も基本的な部分に的を絞って説明したいと思います。

           

           攻撃の基本は、攻撃を振る前に一歩立ち止まって「何のために攻撃を振るのか」「今の手札でその目的を達成できるか」を考えることです。

           

           攻撃を振る目的は基本的には「相手のライフにダメージを与える」ことです。しかし、ライフに通る攻撃しか振らないのであれば相手に圧力(前回の記事を参照)を与えることは難しく、悠々とした展開を許してしまうでしょう。

           

           攻撃を振る目的には大体以下の3つがあると考えます。

           

          .薀ぅ佞縫瀬瓠璽犬鰺燭┐

          ▲ーラにダメージを与える

          B弍を吐かせる

           

           順に、各々が必要とされる理由と場面、振り方を解説します。


          .薀ぅ佞縫瀬瓠璽犬鰺燭┐

           

           先にライフが0になった方が敗北するゲームなので、ライフにダメージを与えることは当然最重要です。相手に効率よくライフダメージを与えるには、「梳流し」等のライフダメージが「-」になっている攻撃を用いるか、「斬」「薙斬り」などの3/1ダメージの攻撃が有効です。

           

           先に説明した通り、基本的に現環境では複数のメガミの連携攻撃にて、手札を2〜3枚使わなければ通常札だけではライフに攻撃を通せません。ライフにダメージを与えたいなら、手札3〜4枚の状態から一気に攻めると良いでしょう。3/1の攻撃を振る際には、「一閃」や「鋼糸」などの高いライフダメージを持つ札を所持している可能性を演出し、オーラで攻撃を受けるとライフにより大きなダメージを受ける危険性を匂わせましょう。未使用の切札で圧力をかけるのも有効でしょう。

           

          ▲ーラにダメージを与える

           

           ライフにダメージが与えられないことが分かっていてもオーラを削るためにあえて攻撃を振るべき場面も多々あります。具体的には以下のような理由が挙げられます。ただし、オーラ削りは後々相手のライフにダメージを与えるための布石か、自分のライフを守るための盾ということを忘れてはいけません。いたずらに攻撃をオーラ受けさせては相手のライフにダメージを与えられず敗北します。

          • 相手の後退を封じる

           特にヒミカ相手に有効です。相手のオーラを削ることで後退に使用するオーラを枯渇させ相手の得意間合いへ逃げる手を封じます。オーラを減らすのを嫌ってライフで受けてもらえれば、,量榲を果たせるため満足でしょう。

           

          • 相手に圧力を与える

           相手オーラ5の状態で相手にターンを渡すと、オーラを補充する必要が無いため手札も集中力も全て攻撃に回すことができます。また、全力の攻撃カードも手軽に使用されてしまいます。相手のオーラをある程度削っておくことで、全力攻撃を使用することに一定のリスクを与え、相手の手を曲げさせることができます。また、宿しに必要なオーラを削るため相手のフレア蓄積速度を削ぐこともできます。

           

          • 次のターンにライフに攻撃を通すための布石

           この理由で使用する攻撃で強いのは何といっても「居合」でしょう。各プレーヤーは原則として1ターンに集中力1と手札2枚で最低3回の基本行動が使用できますが、オーラに4ダメージを与える「居合」は1ターンで得られる基本行動の総量を超えるオーラダメージを与えるため、直撃すれば相手は1ターン完全に防御に徹するか、オーラがガラ空きの状態でターンを渡すかの二択を強いられます。ここで再構成から再度「居合」を振ったり、「斬」「一閃」等の連携攻撃を仕掛ければ相手のライフに一気に大ダメージを与えるチャンスとなります。

           

          B弍を吐かせる

           

           許容しがたい攻撃を放って対応を消費させ、より強力な攻撃を当てるための布石にすることがあります。例えば、「つきさし」で対応を消費させてからの「ゆらりび」が最たる例でしょう。また、相手のデッキに対応札が入っているかどうかを確認する為に、敢えて防がれそうなタイミングで攻撃を放つこともあります。例えば、相手のデッキに「turbo switch」が入ってなさそうな気がするけど7枚全部は割れていないので、入って無いことを確信したい時に試しに「居合」を振って確認しに行く等はあります。

           



           というわけで改めましてBakaFireでございます。


           さて、ここまで連載してまいりました攻略記事ですが、記事作成のつきのみちさんのご意向より、しばらくの間休載とさせて頂きます。再開は年明けを予定しています。


           しかしご安心ください。この休載はネガティブなものではございません! ではなぜ休載するのか。それはつきのみちさんがめでたいことに、コミックマーケット93に当選したためです! そしてそちらではコミックマーケット92で出版された攻略冊子を現在の仕様に合わせて改良したものを頒布されるとのことです(一応この冊子は公式の扱いではありませんので、ご注意ください)。その原稿のため、こちらの記事はしばらく休載する必要が生じたのです。
           
           つきのみちさんが出展されるのは一日目(12/29)、東と29aとなります。そちらの冊子も、本シリーズの再開も、それぞれご期待頂ければ嬉しいです! それでは、年明けにまたお会いしましょう!

           

           

          《前へ》      《目録へ》

          『桜降る代の神語り』第41話:再び忍の里

          2017.11.13 Monday

          0

            《前へ》      《目録へ》      《次へ》

             

             天音揺波とハガネの旅は続き、一週間の時が流れた。
             旅そのものはつつがなかった、と言ってもいいだろう。
             けれど、先の町で起きていたような、メガミやミコトを取り巻く気味の悪い話は、行く先々で彼女たちの耳に入る。
             嫌な予感を募らせながら辿り着いた忍の里。そこで待つのは、果たして?

             

             


            「え、っと……」

             

             揺波が忍の里に着いてまず、困惑の色を見せた。
             ついこの間出立したばかりの位置から見る里は、はっきりと緊張感、そして慌ただしさを露わにしていた。最初に忍たちに取り囲まれたときとも、客として受け入れられていたときとも違う空気が、里の見え方を変えている。

             

            「なんか変……だよね?」
            「は、はい……なんというか――」
            「一触即発、って感じ」

             

             隣のハガネが、真剣な面持ちで揺波の言葉を引き取った。
             整然としているだけで、ほとんど普通の人里と変わらない町並み。そこに確かに人もいる。だが、人々は道を、屋根の上を、忙しなく行き交うだけで、そこから生活の息遣いは感じられない。装いも黒い忍装束の者が多く、子供の姿は皆無であった。

             思わず腰の刀に意識が行ってしまう揺波であったが、位置を直すだけに留めた。殺気立った慌ただしさこそあるが、騒がしくはない。血なまぐさい事態が今起きている、というわけではなさそうだった。

             

            「おい、貴様天音か!」

             

             そうやって別人のような里に面食らっていると、声と共に突然空から行く手を阻むように人影が落ちてきた。
             厳しい顔立ちの男は、里の往来から抜け出してきたように忍装束に身を包んでいた。張り上げられた声にハガネは一歩引いてしまうが、揺波にはその威圧的な声に聞き覚えがあった。

             

            「あぁ、お久しぶりです! ……えーっと――」
            「藤峰だ。ふん、騒がせるな」

             

             憤慨しながらも肩の力を抜いた彼は、揺波が最初忍の里に辿り着いた際、臨戦態勢で出迎えた三人の忍のうちの一人である。

             

            「こんな時に戻ってくるとははた迷惑な。随分急ぎの旅だったようだな」
            「あー……ちょっと色々あって、オボロ様に会いに来たんです」
            「貴様も知っての通り、オボロ様はお忙しい。手が足りずに道すがら余所者の対応を任されたこの俺も、これから緊急の会議だ。我々も、色々あってな。まあ宿くらいは後で用意してやるから、しばらくその連れ、と……」

             

             苛立つ様子の藤峰であったが、揺波の陰に隠れていたハガネに目を向けてから、言葉をすぼませていった。それから吟味するように無言で眺めていたが、突然ぎょっとしたように目を見開いた。それから、天を仰ぎ低く唸りつつ、頭をかきむしった。
             そんな彼へ、苦笑いを浮かべながらハガネは、

             

            「わかる……? こういうわけなんだけど……オボロっちに会える?」

             

             問われた藤峰は心を落ち着けるように深呼吸一つ。
             そして浅い礼と共に、努めて冷静にこう返した。

             

            「……失礼した、前言を撤回しよう。今からオボロ様もいらっしゃるその会議へと、ご出席いただきたい」

             

             先を促す彼の顔は、声色に反して苦虫を噛み潰したようであった。

             

             

             

             


             案内されたのは、里でもいっとう大きな屋敷であった。何代か前の長の家だったが、質実剛健である忍にはかえって居心地が悪かったようで、以来賓客用、そして多くが会する必要のある公の議場として使われている。
             廊下から襖を開けると、だだっ広い畳敷きの部屋に三十人は下らない数の人々が、めいめい座していた。揺波の見知った顔は少なく、千鳥も見当たらなかったが、最前列でジュリアの隣に座っていたサリヤが、揺波たちに向かって小さく会釈した。

             

             

            「オボロ様、天音揺波と……ハガネ様をお連れしました」
            「む……?」

             

             藤峰の言葉に右肩越しに目を向けたのは、集まった人々の前に立っていたオボロであった。
             彼女は普段着流している白衣を前できちんと留めているせいか、白い筒から頭が生えているような格好になっていた。腰の巨大巻物も今は持っておらず、揺波たちとは反対側の端で筆を執る忍の前で広げられている。

             

             入室する揺波たちに背を向けていたオボロは、向き直ってから藤峰の言が正しいことを確かめて眉根を上げた。少しだけ右半身に傾いだ身体で、小首をかしげているようにも見えるがそうではない。
             その一方、揺波は絶句していた。

             

            「オボロっち……それ、どうしたの……」

             

             不安そうに問うハガネの視線は、オボロの左半身に注がれていた。
             ひらりと舞っていた一本の白い筒が、動きを失って、べたり、と潰れている。
             中身がない、筒のように。

             

            「冗談、ですよね……?」
            「ああ、これか?」

             

             おもむろにオボロは、右手でそれを――だらんとぶら下がった、中身のない白衣の左腕の部分を、掴んで見せた。そして、真顔で弄んでから、興味を失ったかのように放り捨て、再びだらりと垂れ下がる。
             袖を通さず、胴に押し込んでいるわけではない。
             身体が傾いていたことに気づいたオボロは、左腕が生えているはずの肩口を億劫そうに撫でながら答える。

             

            「長く付き合ってきた分、流石に左腕一本丸々失うと体重の釣り合いが取れなくてな。まあ、落ち着いたら治すさ」
            「…………」

             

             まるで、包丁で指を切ってしまったから水仕事が大変だ、とでも言うような軽いオボロの言葉に、揺波もハガネも、返す言葉が見つからなかった。

             

            「訳は後で話そう。いい時に来てくれた、まずは座ってくれ」
            「どうぞ、前の方へ」

             

             藤峰に促され、ようやく動き出した二人。言われた通り、手前の最前列に座る。
             そのまま藤峰が襖を閉めると、オボロも腰を下ろした。ただ、白衣を整える手は、揺波の首元をついていく桜色の光球に目を奪われたために止まる。が、つい、と視線をそらし、再度居住まいを正してから改めてハガネを見た。

             

            「さて……藤峰がどう説明したかは知らんが、この場は対策を練るための会議だ。まだ全員ではないようだが、なに、揺波がちょうど珍しい土産を携えて戻ってきてくれた手前、贅沢も言っていられまい」
            「お土産というか、お荷物だったんだけどね」
            「つまるところ、ハガネをそうせしめた現象についての対策会議となるわけだ」

             

             が、と続けたオボロは、視線を何か言いたげな揺波へと移した。

             

            「議論のためにはまず現状を正しく認識、共有することが必要になる。順序立てて……できれば時系列順に理解していきたい。それで言うならば、拙者の腕は後だし、お主らを襲った出来事はおそらく始まりに相当するだろう」
            「その腕……ハガネさんと同じで、力を失ったからではないんですか?」
            「だから逸るな。腕はあくまで副次的なものに過ぎん。どちらにせよ前提は一緒なのだ、お主らの話を聞いてから、こちらの見解を述べたほうが手っ取り早いだろう」

             

             そう諭された揺波は、膝の上に揃えた手に、自分よりも小さな手が重ねられたことに気づいた。その手の主は、見上げるように揺波と目を合わせると、こくりと小さく頷いた。

             

            「……はい、分かりました。じゃあ……そうですね、ハガネさんと最初に会ったときのことから話せばいいでしょうか。あれは、御冬の里を発ったその日のことでした――」

             

             

             

             

             それから揺波は、決闘を皮切りにして始まった二人旅の様子をかいつまんで語った。とはいえ主たる出来事はハガネが力を失ったことであり、先々で得られたのは噂話止まりである。それを正確に話そうとする揺波に、適宜先を促していったオボロは、まるで彼女が聞いた話を既に知っているかのようであった。

             

            「ふむ……」

             

             あぐらで頬杖をつきながら情報を吟味していたオボロは、揺波の話が終わってからやや経って、思索の海から戻ってきた。

             

            「やはりおまえたちが来てよかったよ。この事態を軽んじてはならない、という拙者の予感は正しかったのだ」

             

             その答えに、揺波と、そしてハガネは静かに息を呑む。
             オボロは二人を見比べてから、「認識をすり合わせよう」と前置きし、

             

            「一週間前。つまりハガネが倒れたおよそ同時刻、拙者も力が抜けていく感覚に襲われた。しかし拙者の場合倒れるほどではなく、瞬発的に激しい消費行動をとった際のような程度に過ぎなかった」
            「えっ……あたし消えかけちゃうくらいだったのに」
            「この現象はメガミごとに差異があるということだろう。できればもっと、当時顕現していたメガミに話を聞きて傾向を探りたいところだが……難しいだろうな」

             

             一同を見渡すオボロに反応する者はいない。揺波がハガネを見るが、心当たりはないと首を横に振った。

             

            「――続けよう。そこで虫の知らせが届いた拙者は、まずこやつら忍に異常がないか確認した。すると、思うように拙者の権能を借りられないミコトがいると判明した。すぐさま調査の手を各地へと広げると、影響の大小こそあれど、同様の事例が多数報告された」
            「じゃあ、わたしたちの通ってきた町での話は……」
            「全て一つの事象に繋がっている、と考えてよいだろう。突然メガミを満足に宿せなくなったともなれば、腕利きのミコトだろうと逃げ出しても不思議ではない」

             

             揺波は己の右手に目を落とした。揺波とて、ザンカの力がなければ、ただ戦いの才がある人間でしかない。襲撃された際も、サリヤの介入がなければ殺されていただろう。結晶の守りの有無とはまた別軸で、宿せないというのはそれほどにミコトの不安を煽るのである。

             

            「ハガネの件を鑑みれば、ミコトへの影響の大小は、そのままメガミへの影響の大小に比例しているという説が濃厚だろう。ミコトは、力を借りたくても借りられない状況下にあり、メガミは与えたくとも与えられぬ状況下にある、というのが正しい認識だと推測する」
            「だとすると、今あたしを宿しても、ミコトはあたしの力が使えないの? この、顕現体から力が抜けちゃっただけじゃなくて……」

             

             眉尻を下げたハガネの問に対し、オボロは、

             

            「そうだ。影響はメガミそのものに及んでいる。それは間違いない。我々の身体がどうこう、といった次元の話には収まらない。それ故に……原因には未だ見当がついていない。なにしろ前代未聞だからな。だが――」
            「はい、あれから進展はありません」

             

             視線を投げかけた先の藤峰の回答に、ため息一つ。その代わり、得心した、とばかりに言葉を続けた。

             

            「だが、原因は分からずとも、震源地と目される場所はある。――瑞泉だ」
            「……!」
            「あくまで状況証拠に過ぎん。しかし、未曾有の事態にしては偏りが大きすぎる。……瑞泉の周辺を主に調査していた南方の調査員が何名かいるのだが、皆連絡が途絶えていてな。行方をくらましただけならともかく、連絡の一つも寄越さんのは何かあったと思うしかない」

             

             そして、と指で二を示し、

             

            「影響の度合いの分布だ。影響を受けたミコトの数の多い地域は、人口差を考慮したとしてもなお、南に偏っている。その中心は旧龍ノ宮領。そしてそこを今、大手を振って取り込もうとしているのが、瑞泉。――飛びつくのを躊躇ってしまうほどの符号だが、前々から警戒はしていた。今はそちらの方面をさらに注視している、というのが我々の現状だ」

             

             一通り話し終えたオボロは、揺波たちの反応を待たずに「さて」と区切りをつけた。改めて背筋を伸ばす揺波を横目に、オボロは本題へと入る。

             

            「認識の共有が為ったところで、議論すべきは今後の方針についてだ」
            「あの……その前に改めて確認しておきたいのですが」

             

             そこで小さく手を上げたのは、サリヤであった。

             

            「これが、放置しておけば勝手に元に戻るような、自然現象……という可能性はないんでしょうか。私たちの故郷の、コールブロッサムも、結晶の産出量が増減することがあるので、そういった事象なのではないかと……」
            「ほう、それは興味深い。……だが、その可能性は低い。桜そのものに対して影響が出ているのであれば、確かに力は失われるだろうが、それなら影響はより均一に、そして神座桜にも目に見えて変化が起きるだろう」
            「ううん、見てきた桜は皆元気そうだったよ」

             

             二柱の反論に納得したサリヤは、そのまま引き下がる。
             代わりに今度はハガネが提案するが、

             

            「ねえ、悪者がいるんだったら、どかんとやっつければいいんじゃないの? ……今のあたしじゃ無理かもしれないけど」
            「ハガネさん、だめです。もし、これが誰かの策だったら……嵌った状況で挑んではいけないです。こんなすごいことをやってきた、と思っても、もっとすごい次を想定しないと、今大丈夫でも、その次でやられるかもしれません」

             

             留めるのは揺波。情勢をよく理解することは難しいが、相手が存在するのであれば別だ。彼女の純粋な戦闘勘は、性急な解決をよしとしなかった。
             それに感心したように頷いたのはオボロである。

             

            「揺波の懸念は正しい。確証がない、というのは、何も下手人に限った話ではない。果たしてどこかにいる首謀者を討てば終わるのか、誰にも分からない状況で突撃するのは危険だ」
            「そ、っか……」
            「そして思うに、拙者にこのような躊躇を強いている段階で、この事態は最悪な結末へ向かって転がりだしている。サリヤ殿の言うように、勝手に収まる自然現象であれば笑い事で済む。だが、備えをせずにさらなる災禍にただ飲まれるのはいただけない」

             

             そこでオボロは、腕に頼らず器用に立ち上がると、サリヤの隣のジュリアに目配せをした。するとジュリアは足をもつれさせながらも前に出る。

             

            「そこ、デ! ワタシたちが開発したコレデス!」

             

             オボロに並んだジュリアは、一同に見せつけるように下端を握った短い棒を突き出した。もはや白に近いほど淡い桜色をしたその棒は、ともすればジュリアの手に握り込んでしまえるほどの大きさである。

             

            「モシモ……モシモ、ミナサンが、メガミサマの力借りることできずに、戦うこと求められたとしたら? そんなトキは、備えあればダイジョーブ! 結晶のエネルギーをギョウシュクしたこれを砕いてくだサイ! そうすれば、メガミサマの力、使えるようになるはずデス!」
            「空間に結晶の力を充填させる使い捨ての道具だ。その場が一時的に神座桜の下になると思ってくれれば早い。桜の下以外で、ミコトが拙者たちを宿し戦えるよう作ったものだ」

             

             自らもその棒を取り出したオボロは、それを放って揺波に寄越した。慌てて受け止めた揺波の手の上に白桜色が転がり、横からハガネが覗き込んでいる。手触りは石のようであるが温かみがあり、全体がほのかに発光していた。

             

            「以前、ワタシが襲われたとき、ユリナサンたち、力使えないのに、敵、使ってました。それズルイ、怖いかったデス! ワタシタチも同じコトできないか考えて、造花結晶の理論でもっと高い密度で結晶エネルギー圧縮することに成功しました! これはスゴイ造花結晶と思ってクダサイ!」
            「今朝方ようやく形にできてな。最悪の事態を想定して用意した、現状出し得る最善の対抗策の一つだ。名を『神代枝』と言う」

             

             オボロがその名を告げた瞬間、当のそれを観察していたハガネがぎくりと固まった。
             ぎこちなく視線を動かすと、その意を汲み取ったのか、

             

            「ふ……いつ入用になるとも知れんからな。手近なところにちょうどいい材料があれば、使わぬ手はないだろう?」
            「なら……」
            「まあ、というわけだ。まだ安定性のために改良が必要だが、可能な限り生産し、これを武力の備えとする。事態がより深刻なものとなった場合、攻勢のためにも、自衛のためにも、これは必要になるだろう。量産性にも未だ乏しく、使いどころは考えねばならんがな」

             

             鼻息荒く神代枝を見せびらかしているジュリアへ、戻るよう肩を叩くオボロ。揺波に渡したものも回収しつつ、

             

            「次に、情報の備えだ。これについては、我々の情報網だけでは既に把握しきれない事態であるため、古鷹へと密な連携を要請している。本来ならばこの場に、使いに出した楠坂が居てもよい頃合いだったのだが……おや?」
            「どうしました?」

             

             何かに気を取られたオボロの様子を窺う揺波であったが、周りの忍たちも同様の反応を示してから少しして、同じく気づくことができた。
             答え合わせをするように、揺波たちが入ってきた側の襖を藤峰が開ける。
             廊下から、一人分の足音が聞こえていた。

             

            「これはこれは、皆さんお揃いで」

             

             現れたのは、これといって個のない、どこにでも居そうな中肉中背の男だった。薄く張り付かせた笑みも、よろず屋か、飲み屋か、あるいは旅籠か、商人本人ではないが客商売には身を置く人間のように、印象に残らないのっぺりとしたものであった。
             彼は蓋の閉まった網目の密な竹籠を小脇に抱えており、足についた泥跳ねから、それを持って森を抜けてきたばかりのようであった。

             

            「御堂殿でしたか。お返事だけいただければ十分でしたのに、御堂殿まで遣わされるとは、古鷹殿のお気遣いは厚い」
            「いえ、それほどでもございませんよ」

             

             藤峰に御堂と呼ばれた男は部屋に入ることなく、額にかいた小汗をわざとらしく拭う。実に演技じみていたが、言外の意味を測りかねた皆は言及することができない。
             と、藤峰はそこで、古鷹家の遣いが一人で顔を出したという妙な事実に、ようやく気づいた。

             

            「ところで……楠坂はどうしたのでしょう。そちら側にまだ残っているのでしょうか」
            「ああ、彼ならちゃんと居ますよ」

             

             御堂の返事は、嫌にねっとりと、揺波の耳を打った。
             ぞわ、と。この場にいる御堂以外の誰もが、少なからず背筋にさぶいぼを立たせた。
             どこに彼が居るのか――それを口にする前に、御堂は竹籠の蓋を捨て、そして、

             

            「我々の答えとなって、ですがねぇ」

             

             その中身を、ぞんざいに、皆の居る部屋へ放り投げた。


             ごろん。
             黒と、肌色をした、丸みのあるそれ。
             一抱えもあるそれは、自身の凹凸によって転がることなく、肌色の面を皆に向け、静止した。

             

            「ぇ……」

             

             心で納得する前に、それが何なのか、揺波は理解できてしまっていた。
             前回忍の里を訪ねた際に、自分を聴取したあの忍・楠坂。
             彼のその――頭、なのだと。

             

             

             


             メガミにとっても前代未聞の出来事は、忍の里にもその魔手を伸ばし始めていた。
             流石オボロ、忍たちは強かなものだね。謎を解き明かし、そして不穏を払おうとしている。
             しかし、影もまた狡猾であり、迅速だ。
             忍たちはその強さと迅さゆえに、避け得ぬ争いにもいち早く至ってしまったのさ。

             

            語り:カナヱ
            『桜降代之戦絵巻 第四巻』より
            作:五十嵐月夜  原案:BakaFire 挿絵:TOKIAME

             

            《前へ》      《目録へ》      《次へ》