Ride on & Open the Gate!(前篇)

2018.12.28 Friday

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     こんにちは、BakaFireです。本日の記事は好評のシリーズ、メガミ特集の9回目となります。このシリーズで取り扱うメガミはTwitterでのアンケートにて決められ、今回は第2シーズンで最後となるサリヤ特集となります。
     
     これまで行ってきたトコヨ特集オボロ特集サイネ特集ヒミカ特集ハガネ特集チカゲ特集クルル特集シンラ特集を踏まえた内容でもあります。お時間がありましたら、これらのシリーズもご一読いただけると嬉しいです。
     
     それでは、さっそくはじめましょう!

     


     
     
    第二幕第弐拡張二柱目の流れ

     

     彼女をいかに語るかについては、時期を同じくするクルル特集に概ね準じます。しかし、これまで『新幕』になってからの特集を書いてきた知見を踏まえ、少しばかりやり方を変えることにします。以下のようになります。
     

    • 前篇ではメガミの歴史を語る。
    • 歴史については2017年2月から6月ごろ、彼女がデザインされた頃の話をする。
    • 中篇では新幕における大枠での変化を語る。
    • 中篇と後篇2回にわたり、『第二幕』と『新幕』それぞれのカードを並べて、カードの歴史と変化について語る。

     

     つまり前篇では『第二幕』が中心の話となります。『新幕』から本作に触れて下さった皆様は、昔話としてお読みくださいませ。
     
     
    ある協力者にして友人のお話し

     

     サリヤの始まりはどこにあるのでしょうか。それは意外なことに最も大昔、桜は降るよりも前、コロセウムでラノベ風の闘士たちが戦っていたころに存在していたのです。サリヤは海の向こうからやってきたイレギュラーですが、その生まれ方すらも実にイレギュラーなものでした。
     
     「私ども」と私が書く際に数えられている、私の素晴らしい協力者の1人について話をしましょう(BakaFire Partyは多くのことを私が行っていますが、私一人ですべてを回すことはとても不可能です。この上なく貴重ですばらしい協力者の皆様のおかげで本作は回っているのです)。彼は『アリストメイズ』『ルイナス』あたりの過去作品から協力してくれており、幾度となくすばらしい助言を頂いていました。そしてもちろん、本作でもご協力頂いていたのです。
     
     他方で彼は、自分の趣味嗜好と欲求に極めて素直でした。私がコロセウムな世界観の中、6人のキャラクターの設定を考えていた時の話です。彼はファミレスで自分の趣味嗜好に溢れた設定を伝えてきました。細かく語るのは避けますが、まあ様々なところでサリヤ的なものだったと伝えておきましょう。
     
     そして彼は本作に全力で協力するので、自分の趣味に即したキャラクターを出してほしいと私に頼んできたのです。誤解なきように伝えておきますと、彼の助力は本当に素晴らしいものでした。おそらく彼がいなければ、本作は皆様が今楽しんでいるようなものにはならなかったでしょう。
     
     しかし彼にとっての悲劇はその1か月後に起きました。世界に桜が降り、和風になったのです。褐色銀髪西洋鎧は、彼にとって必要不可欠なものでした。
     
     
    彼女がいるべき場所はどこか?

     

     多くの特集でお話ししてきた通り、世界には桜が降り、名前もフレーバーも与えられていなかった「トークン」は桜花結晶になりました。そしてキャラクターはメガミとなり、彼女らは当然和風でした。
     
     そうなると西洋ファンタジー風のキャラクターを入れるにはいくばくかの工夫が必要になります。今から振り返ると不可能ではなかったようにも思えますが、(当時は彼がいわゆる剣士を所望していた点も含め)難しいという判断を下しました。
     
     しかし他方で、彼との約束を完全に違えるというのは私の中の友情に反しています。そこで私は、西洋風のメガミを未来の拡張で出すためのやり方を考えることにしたのです。そして本作を続けられるかどうかという危機も乗り越え(※)、『第二幕』から本格的にその検討を始めました。
     
     『第二幕』は三回の拡張を通し、起承転結をイメージした骨組みを考えていました。こう考えると彼女のあるべき場所は明白です。「転」すなわち『第弐拡張』以外ありえないでしょう。西洋風という意外性は、順当な流れの中に魅力的な驚きを与える効果が期待できます。
     
     これは消去法でも明らかです。「起」にあたる『第二幕』では主人公であるユリナのライバルを出すと決めていましたが、それを西洋風にしてしまうと本作の王道をどこに置くのかがぶれてしまいます。「承」の『第壱拡張』ではある意味で予想通りな拡張が望まれるため、ここでいきなり奇をてらうのも誤りです。「結」の『第参拡張』は物語を締めくくる必要がありますが、そういう働きは期待できません。 
     
    ※ 『第一幕』は様々な面で不十分な作品だったため、そもそも本作を続けられるかどうかという瀬戸際にあったのです。幸いにしてそこまで待ったことで公式小説を通して世界観がより固まったため、海の向こうという概念が考えやすくなりました。この辺りの詳しい話はサイネ特集で語っております。

     


    海の向こうがやってくる時

     

     こうして私は西洋風のメガミを『第弐拡張』で出すという制限のもとで、世界観、物語のアイデアを膨らませていきました。私が尊敬するある方が「制限は創造の母」という言葉をよく引用していますが、それは事実であると強く感じさせられます。この制限により、物語は様々な面でうまくいったのですから。
     
     やり方についての最初の気付きは、チカゲから得られました。物語を魅力的にするためには、物語の時点で人間であるキャラクターはユリナとサイネ以外にも必要だと彼女を通して考えるようになったのです。ならば、「海の向こう」というこの「桜降る代」とは別の場所を用意し、そこに住む人間がメガミになるというストーリーはありえるのではないでしょうか。
     
     こうして世界に「海の向こう」が生まれました。最初こそ使い方に難儀していましたが、物語の吟味を進めるにつれて、本作において必要不可欠なものになっていったのです。
     
     特に重要だったのは敵方の存在、即ち瑞泉やクルル、ウツロなどを考えるにあたって、彼ら彼女らを正しく敵として働かせるやり方においてでした。物語をお読みでしたらご存知でしょうが、彼らは神渉装置というカラクリを用いてメガミの力を奪い、複製装置を用いて神座桜の下以外でもその力を行使できるようにしたのです。
     
     そうなると主人公であるユリナたちは、異なる方法で対抗できるようになる必要があります。そんな中、海の向こうはまさに絶妙な存在でした。彼女たちの協力によって融和した技術を用いるというのは、実に自然で正しく見えるのです。
     
     こうして物語の要請から、海の向こうは形作られていきました。神座桜の力がこの地と比べて弱いというのは元々決まっていましたが、それゆえに科学技術や金属加工に優れるという設定、桜花結晶の力が弱いためにそれを単なるエネルギーとしてしか見なしていないという設定などが加わっていったのです。
     
     そして技術の力でユリナたちを助けるのですから、科学者が必要です。その結果としてジュリアが生まれました。この上で科学者には戦闘能力はあるべきではありません。そこで西洋風の世界観を補強するためにも技術に携わる特権を持つ貴族と言う設定に繋げ、彼女を守護する騎士としてサリヤが誕生したのです。
     
     実に長い道のり! しかしこうして、海の向こうのイレギュラー、サリヤは物語へと降り立ったのでした。

     


     
    乗騎はどこから来た?

     

     ここまででサリヤ個人への理解は深まってきました。しかしまだ語るべきことは尽きません。ここからはゲームシステムも含めて、話を進めていきましょう。
     
     デザインの前段階では、彼女は西洋剣を持っている想定でした。しかし問題はすぐに見つかりました。『第二幕』の時点では刀の間合は1-2であり、その間合は離脱がなかったゆえに危険でした(※)。

     

     そこで素直な西洋剣ではデザインが不可能と判断し、かの友人とイメージのすり合わせを行いました。その結果、馬に乗っている騎士という方針が得られました。こういう戦い方をするメガミは確かにいないため、十分な独自性があります。
     
     西洋で馬といえば槍もまたそれらしい武器です。そこでまずは馬上で槍を操り、機を見て突撃するという方向で最初のカードリストを進めることにしました。

     

    ※ ユリナとユキヒはどうにか上手くやっていけていましたが、これ以上その間合にメガミを増やすにはあまりにもリスクが大きかったのです。

     


    海の向こうの桜花結晶とは?

     

     イメージとは別に、彼女の持つ特殊なルールについても検討されました。彼女のルールは、チカゲから引き継がれる形で始まります。
     
     チカゲ特集で書いた通り、チカゲは最初は悪い結晶――毒化結晶を持つというアイデアを試されていました。しかし得られる面白さに対してルールが複雑すぎ、入稿までに間に合わせることは不可能と判断して没にしました。
     
     サリヤは彼女からその知見を引き継ぎ、海の向こうの結晶(※)――冠花結晶を使えるようになりました。これは大体は桜花結晶ですが、サリヤを宿していないといくつかの面で上手く使えず、最大の特徴として山札の再構成でボードから消え、手元に戻ってくるのです。

     


     
     何回かのプレイテストでのフィードバックは良好でした。特にこのルールで間合に冠花結晶を置くという動きには独特な面白さがありました。間合に結晶を増やせるので4-5辺りの槍らしい中距離で戦え、再構成のタイミングで一気に結晶が消えるため、槍を構えて突撃というフレーバーが実現できていたのです。
     
     当時のカードを2枚ほどお見せしましょう。

     

    造花壁 行動/対応
    自/マシン→間合:◇1

     

    突撃攻撃 攻撃/全力
    適正距離0-1 5/2

    【常時】現在の間合がターン開始時の間合より近づいていないならば、このカードは使用できない。
    【常時】この攻撃は対応されない。

     

     しかし、このまま簡単に完成とはいきませんでした。ルールとして、ゲームとして、世界観として様々な問題が生まれ、サリヤはもう一度だけ大きな転生を必要としたのです。

     

    ※ この時点ではまだ海の向こうの世界観は固まっていませんでした。

     


    持ち上がる数多の問題

     

     問題は多角的で複雑で、当時はひどく混乱したものでした。今はもはや整理されているので、この記事では切り分けてお伝えしましょう。

     

    問題1:まだルールが難しい

     

     冠花結晶は間合だけでなく、オーラにも、フレアにも、ダストにも、めったにありませんがライフにも置かれていました。それに加えて特殊なルールもあり、(毒化結晶よりははるかにましとはいえ)まだルールが複雑すぎたのです。
     
    問題2:デジタルゲームとの相性が悪い

     

     この時点で本作にはデジタルゲーム化の話が持ち上がりつつありました。しかしあらゆる領域に冠花結晶が置かれてしまうと、それはデジタル版を遊ぶ上で耐えがたい問題を引き起こします。
     
     例えばオーラに2つの桜花結晶、2つの冠花結晶が置かれた状況で2/1の攻撃をオーラで受けたいならばどのように受けるのでしょうか。はたまた間合に冠花結晶がある時に、基本動作で前進しようとしたらどうなるのでしょうか。
     
     アナログゲーム版であれば、単に結晶を動かすことが意思表示になるので問題ありません。しかしデジタルゲーム版ではあらゆる場面でポップアップを表示させなくてはなりません。これは余りに不愉快で、スマートフォンを布団に叩き付けるには十分すぎるものでしょう。
     
    問題3:繰り返しのつまらなさが見え隠れしていた

     

     最初のフィードバックこそは良好でしたが、プレイテストを繰り返すうちに何名かのテスターからは不満の声が生まれました。山札の再構成は周期的なものです。そして冠花結晶を配置して活用し、取り除いて突撃技を撃つという立ち回りは同じ周期をもっていたのです。その結果として同じ展開が繰り返されやすくなり、ワンパターンゆえのつまらなさが問題視され始めたのです(※)。

     

    ※ 今だから明確化していますが、当時は「何か面白くない」という分かり辛いフィードバックであり、言語化にも苦労しました。


    問題4:海の向こうの設定が決まった

     

     プレイテストと並行して、海の向こうが物語でどのような役割を果たすべきかという設定の制約も固まりつつありました。先述の通り科学技術、機械工学、金属加工というイメージが求められたため、サリヤもまたある程度はそれを体現する必要があります。しかし現状では十分ではありません。

     


    サリヤ2.0

     

     これらの問題へと全力で取り組み、様々な解法を試しては崩し、サリヤは形になりました。こちらも整理してお伝えしましょう(こうして整えると簡単そうにも見えますが、当時は同時多発的に問題が襲い掛かってきたため、混沌と苦難の中で知恵を絞ったものです)。

     

     

    解決1:バイク(のようなもの)に乗せた

     

     改めて書くとクレイジーですが、物語の要請を踏まえると理に適っています。機械工学的なイメージを持たせるには機械の乗騎に乗せるのが自然です。その上で騎士のイメージを辛うじて壊さないためには、これしか選択肢はないでしょう。
     
     しかし、バイクと直線的に書いてしまうと世界観を壊しすぎる恐れがあります。そもそも桜降る代にバイクはありません。そこで1つしか存在しない特別なものとして乗騎ヴィーナという名前を与え、バイクとは作中では呼ばないことにしたのです。
     
     ちなみにこの時点で槍よりも乗騎のほうが象徴的になったため、象徴武器が「乗騎」に決まりました。

     

    解決2:造花結晶という名をつけ、燃料にした。

     

     乗騎をバイクにした時点で、特殊な結晶は燃料にするのが自然だと分かりました。海の向こうの世界観から見ても、サリヤがその結晶をゲームに持ち込んでいる理屈を正当化するためにも、これは明らかに正しい判断です。
     
     そしてこのタイミングで名前は造花結晶に改められ、世界観に即したものとなりました。さらに燃料は原則的には使い捨てであるべきなので、ボードから取り除かれる際に戻らないようになり、併せて燃焼を持つカードが作られました。
     
    解決3:結晶が置かれる場所を間合に制限した。

     

     問題1や問題2とにらみ合い、その上で冠花結晶がどうなっていると面白いのかを分析しました。その答えは2つありましたが、最終的にサリヤはそのうちの片方だけを採用することになりました(※)。
     
     それこそが間合に冠花結晶を置いた場合です。これは上記の通り面白いだけでなく、置かれるときと取り除かれるときで間合が劇的に変化していくために機動戦闘の感覚が出せており、サリヤらしさにかみ合っているのです。

     

     間合だけに制限すれば問題1は解決です。そして間合に置いた造花結晶は動かせないようにして「間合+1トークン」と「間合−1トークン」という形でまとめ、問題2も解決できたのです。

     

    ※ もうひとつの答えはまだ活かされていませんが、いつの日か皆様にお見せできるだろうと期待しています。

     

    解決4:サリヤらしい戦い方を再定義した。

     

     解決1から3がなされた上でなお問題3は残り続けました。そこで私たちは改めて話し合いに臨んだのです。そして「繰り返し感」こそが問題だと把握し、再構成で造花結晶を取り除くのは誤りだと結論付けました。
     
     間合はもっと目まぐるしく変化したほうが機動戦闘らしいと言えます。そこで造花結晶が取り除かれるのは自分の開始フェイズと定めました。
     
     そして最後に、それらを踏まえてサリヤはどう戦うべきかを再検討しました。こうしてたどり着いたMasterpieceこそが「離散した間合」です。彼女の攻撃の適正距離は中距離に固めるべきではありません。数多くの間合に散らすのです。そうすることで連続攻撃のために移動が必要になり、機動戦闘という感覚を強められるのです。

     

    おまけ:鞭の如き剣

     

     これらの解決の結果、槍には問題が生まれました。第一に槍には間合を使い分けるイメージがありません。第二に大きな槍が果たしてバイクの上で使えるのかという違和感があります。
     
     そこでバイクの上で使えそうで間合が可変しそうな武器として、あの一風変わった剣が生まれたのです(※)。
     
    ※ 後にイラストのTOKIAME先生とお話しした際に、似たような武器としてウルミというものがあると分かりました。それを聞いて、まあ実際にあるなら大丈夫だろうと最終的なGOサインを出しています。まったくの余談ですが、TransFormがインド的な名前なのはウルミがインドの武器であることに影響されています。

     


     本当に長い旅路でした。海の向こうのイレギュラーはその生まれ方もまさしくイレギュラーなものだったのです。実際、サリヤというメガミは私の作家性からは生まれづらいキャラクターであり(※)、独自の魅力があります。このような形で世界を広げてくれた友人に、改めてこの場で感謝いたします。

     

    ※ デジタルゲーム版の台詞を考える際には特に苦労しました。

     

     本日はここまでとなります。来週は中篇ではなく、イベント関連の記事を一本書かせて頂きます。そして再来週には中篇をお届けすることになるでしょう。それぞれご期待くださいませ!

    『桜降る代のいろは道』第2回:サンプルデッキで遊んでみよう

    2018.12.22 Saturday

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       こんにちは、BakaFireです。

       こちらは本作の攻略記事で、動画を用いたシリーズです。目標は初心者から初級者へのステップアップ。本作をほとんど知らない、あるいはあやふやながらもルールだけは知っている方が基本的な戦い方を理解し、ゲームをカジュアルに楽しめるようになることを目指します。

       今回は第2回となりますので、まだ第1回をご覧になっていない方はこちらよりご覧ください

       そして今回も前回同様、すばらしい解説として本作のデジタルゲーム版ではオボロ役を務めて頂く、声優の若林直美さまをお迎えしております。今回もご協力ご出演、誠にありがとうございます。

       それでは、早速お楽しみくださいませ!

      ※ こちらの動画はシーズン2の環境にて作成しております。動画編集に時間がかかってしまったため、一部カードが最新でなくなってしまったことをお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした。

       

       

       

       動画をお楽しみいただけましたら幸いです。来週のブログの記事はサリヤ特集が始まります。
       
       そして本動画をご覧になり、本作を始めてみたいと感じてくださった方は今こそが大チャンスです。全国のイエローサブマリン様にて初心者体験会が開催されるのです。こちらも来週中には告知が行われますので、ご注目頂ければ幸いです。

       

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      『桜降る代の神語り』第72話:陰陽事変

      2018.12.22 Saturday

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         神座桜が散り、真っ暗だったあの夜を照らすものは3つあった。
         1つは星々。けれど、それに影を払拭する力なんてないし、微かな灯りでしかなかった。
         2つ目は、天音揺波やホノカたちの輝き。しかし、絶望的な力の差にそれも曇っていった。
         最後の3つ目……それこそが、闇夜を払う鍵となる。そう、駆けつけたヒミカとハガネ、縁が導いた、メガミたちの灯だ。

         

         英雄が紡いできた縁の灯火は、さらなる希望を得て燃え盛る。

         

         

         

         

         


        「バァーン、バァーン!」

         

         紅が、空に二条の軌跡を描いた。
         銃声に紛れた掛け声が送り出したのは、二発の金属塊。噴出する炎によって自在に飛翔するヒミカが、敵意みなぎる終焉の影に向かい、手にした二丁の銃から放ったものである。

         

         彼女の銃は、自身の炎によって弾丸を打ち出す。
         ミコトが扱うそれとは違い、溢れ出さんばかりの本人の力が込められたそれは、銃声よりも先に着弾し、ウツロの身から結晶を大きく吹き散らせていた。押し出した炎の激しさから、弾道そのものを一瞬燃え上がらせる。

         

        「ォ……」
        「んで、もいっちょ、バァーン!」

         

         炎を纏った弾丸は吸い込まれるように命中し、ウツロの右肩をえぐった。
         揺波たちが手を尽くして、命からがら与えられた有効打は数えるほどしかない。単純な力量差だけで押し返され、果ては影となって無力化された。そんな障壁を越えても、影は顔色一つ変えなかったのである。

         

         それを、援軍のハガネ、ヒミカは容易く凌駕する。
         メガミたちの一撃は、ウツロにとって明確な障害となる。

         

        「……!」

         

         

         目を見開いたウツロの周囲で、影が形を生む。
         それは、刃だ。柄すらない、ただの刃だ。
         人の背丈よりもなお長尺の漆黒の刃が、無数に連なり、切っ先をヒミカへと向けていた。

         

        「マジかよ……!」

         

         寒気すら覚える殺気の束が、高空へ退避するヒミカをなお取り囲んだ。
         一発、二発と引き金を引いたところで、霧散した刃は弾と同じ数でしかない。一度に持てる武器が二つだけである以上、四方八方からなだれ込む数の暴力に武器だけで対抗することは難しい。

         

        「チッ……こんなもん……!」

         

         正面から突いてきた刃をひねって交わし、その間に両脇に迫っていた影を銃を叩きつけて吹き飛ばす。さらに足元を薙いできた一本は、身体を支える炎の出力を瞬間的に上げることによって回避、別の刃が二の腕を斬りつけるが、そのまま上へ突き抜けて飛び退った。
         置き土産とばかりにその場に爆炎で吹き散らしたヒミカは、炎の向こう側からやってくる刃たちを迎撃すべく、仰向けになるように飛翔し、銃を構えようとする。

         

         だが、数の利とは、決して単純な物量だけに留まらない。
         影の刃は、夜の帳が下りた森を背景にすれば、容易く紛れてしまう。

         

        「ぐ、ぅあッ……!?」

         

         前面に気を取られていたヒミカの背中に、地上から迂回するように飛び上がってきた一本の細い刃が突き立った。
         さらに到着した刃が、一本、また一本と彼女の身体を切り刻んでいく。

         

        「くそっ!」

         

         たまらず全身から爆炎を迸らせ、まだ迫ってくる刃が押し返された隙に、ウツロから離れるように進路をとった。健在な影の刃が、その後を追っていく。
         誰が見ても、たとえメガミであっても、大きな傷を負ったのは間違いない。ただ、看過できない力でもって、ヒミカは敵の目を引きつけた。人はそれを、好機と呼ぶ。
         大鎌の圧力が緩んだ今、再び翅を手にした揺波がウツロへの至近を叶えるべく、音も立てずに飛び込んでいった。
         だが、刃を振り下ろさんとしたそのときだ。

         

        「……ッ!?」

         

         背後をとっていたはずなのに、突如ウツロは携えていた大鎌を、揺波のいる空間ごと刈り取るように後ろへ振るう反応を見せたのだ。
         怪物のようになったウツロの得物は、人の身で対抗するには大きすぎる。力比べも勝てず、ともすれば鈍器ですらあるそれで吹き飛ばされる未来が、振り下ろした刀を止められない揺波を待ち受けていた。
         そこへ、

         

        「得物は長い、懐は安全だ!」

         

         響く佐伯の声に導かれ、翅を無理やり羽ばたかせて前へ出る。
         巨大な上顎のような鎌の刀身は後頭部を掠め、代わりに鎌の柄と斬華一閃とで鍔迫り合いが始まる。揺波は両手を添えて必死に、一方ウツロは背中越しに。力の差は歴然としており、その様子は膠着と呼ぶには揺波は劣勢が過ぎた。
         そんな揺波を援護するべく、ホノカは桜の精を呼び集める。

         

        「お願いっ!」

         

         だが、彼女の願い虚しく、光はウツロが差し出した闇の片翼に全て阻まれる。防御行動を強いた、と言えば聞こえはいいが、その実、精彩を欠いた攻撃はついでのように払われただけである。
         と、

         

        「おい、何しょぼくれてやがんだ!」
        「ひゃい!」

         

         ホノカの背中を叩く力強い手。
         戦闘中にも関わらず、全く接近に気づかなかった彼女は、その声の主がヒミカだと知る。ちらちらと背後を気にするその姿は、刃に全身切り刻まれたのか、傷だらけになっていた。
         思わず息を呑むホノカだったが、力なく抗議の声を上げる。

         

        「だって……やっぱり私じゃ、全然戦えなくて……」
        「はぁ? 戦えないだぁ?」

         

         するとヒミカは、見ろ、とホノカの頭を掴み、ウツロへと向き直らせる。
         そして、肩越しに耳元まで顔を近づけると、

         

        「おまえはあいつのなんなんだよ」
        「なんだ、って……」
        「あいつはやべー、だからぶっ飛ばす。アタシはそうだけど、おまえらはあいつぶっ殺すとかそういうのじゃないんだろ?」

         

         なら、と続けたヒミカは、ホノカの背中に拳を当て、残りの言葉を告げた。

         

        「おまえはあいつをどうしてやりたいのか、ちゃんとここに訊いてみな」
        「…………」

         

         一拍、二拍と返事が来ないのを受けて、ヒミカはそれ以上何も言わずに飛び去っていく。その際、ウツロへ向けて一発弾丸を放つも、至近し始めた数多の刃に気を取られて影色の翅を掠めるだけに終わる。
         ホノカは、ヒミカを追う刃たちが傍を通り過ぎても、口を引き結んで宙に佇んだままだ。揺波をすぐ助けられないことに歯がゆさを感じようとも、即答できなかった問いの答えを探っていた。

         

         ただ、劣勢を覆す手立てがなければ、揺波はこのままウツロに押し切られる運命だ。
         ギリ、ギリ、と噛み合う刃と柄。今や正面から両手でもって大鎌を押し付けてくるウツロに、揺波は次第に上を取られていく。踏ん張りの効かない空中にあって、徐々に高度が下がっていく。
         と、周囲から、轟、と風を圧縮したような音が鳴った。

         

        「……?」

         

         少しだけ、ウツロはそれに気を取られたのか、揺波から意識が反れたようだった。同時に揺波へ加わる圧力も減じるが、それでも斬り返すには至らない。
         だが、その一瞬の間に、揺波だけはウツロの向こうに音の正体を見た。
         宙を駆ける、巨大な鉄槌を。

         

        「空飛んでるとか、ずるいよっ!」

         

         

         振りかぶっていたそれをウツロめがけて落とすハガネは、足元に空色の翼を生やしていた。否、浮雲を移動手段として使い、大物を構えるには狭すぎる彼女の背中で器用に構えていた。
         初撃よりはかなり控えめであっても、傷を生むには十分な大きさ。
         先に落ちてきたその陰に、ウツロは危機を感じたのか、揺波を弾き飛ばして迎撃を為す。

         

        「っ……!」

         

         見上げるウツロの得物が、対抗するように大きさを増す。揺波のときと同様に、背後へ振り切られようとする大鎌は、ハガネたちをまるごと飲み込もうとしていた。

         

        「おぉーーっとッ!」
        「ぐおっ……!?」

         

         ハガネが選んだのは、跳躍だ。
         既に鉄槌を振っていた体勢だというのに、ハガネの足裏と浮雲の背中との間に凄まじい反発力が生まれたかのように、ハガネは前方上へ、浮雲は鎌の届かない後方下へ、それぞれ別れた。
         そして、

         

        「ォ……!」
        「あ、ぐ……!」

         

         鉄槌はウツロに、大鎌はハガネに。
         同時に命中した攻撃に痛み分けとなる。けれど、得られた結果には大きな差があり、ウツロはその場に留まりきれずに体勢を崩しただけだったが、ハガネは胴を深々と抉られ、大量の桜を散らしながら地上へと落ちていった。
         だが、生まれた隙は値千金のものである。揺波にも、ヒミカにも、それが分かっていたからこそ、その身へ加速を叩き込んでいた。

         

        「今が好機だッ!」
        「チッ……わかってるよ、んなこたぁ!」

         

         佐伯の号令に苛立つヒミカは、足からの炎をさらに倍化させ、下方から間合いを捨てての急接近を試みる。
         彼女を襲っていた刃は取り残され、二つの銃口がウツロの背中を捉えた。
         凝縮された炎が、銃を通して迸る。

         

        「クリムゾン・ゼロッ!!」

         

         

         局地的な爆発が、ウツロの身体を上空へ打ち上げる。散った塵が、爆煙の中に踊る。
         さらに、より上に位置していた揺波が、急降下と共に斬華一閃を斬り落とす。

         

        「つき、かげ……おとぉぉぉし!!」

         

         

         人の身だけでは稼げない高度が加わり、揺波必殺の一撃が浮き上がっていたウツロを真っ二つに断ち切る。
         竹を割るような一刀によって吹き出した桜が、爆風に消えていった。

         

         二人の大技は、ハガネの作り出した隙によってどちらも直撃したのである。
         間違いなく、防がれることもなく。
         けれど、それでも戦場に吹き荒れるのは、暴力的な影であった。

         

        「が、ぁっ……!?」
        「いッーー」

         

         あれほどの衝撃や傷の後とは思えない、力強い大鎌の振りによって、揺波とヒミカは打ち出されたように吹き飛ばされていく。
         両者共、樹々に抱きとめられたために、地表に打ち付けられることはなかった。しかし、全身の傷は元より、空に留まるための翅や炎の力のなさが、満身創痍の証に他ならなかった。

         

        「おいおい……しぶとすぎんだろ……」

         

         毒づくヒミカは、もう樹を支えにしている状態であり、満足に戦場へ復帰できる余裕を失っていた。そんな彼女を、ウツロは悠然と見下ろしながら、元々向かっていた方角へと着実に下がっていく。
         大きすぎる力量差に加え、油断もなければ体力の底も見えない。
         相手にすること自体が間違っているーーそんな徒労感すら覚えさせる影の形に、あるかどうかも分からない次の一手を皆が探し始める。

         

        「アタシたちじゃ埒が明かねえ」

         

         戦意を保ちながらも、半ば呆れたように言ってみせる。
         そんなときだ。

         

        「なら、もう、一撃」

         

         ヒミカの言葉に、応える声が。
         風に乗ったその音がウツロの背後から響いたかと思えば、彼女に向かって吹いた一陣の風がバチバチと雷を孕む。
         そして、風の中から現れた人影は、手に備えた三又の爪を振り抜いた。

         

        「ゥ……」

         

         素早いその一撃に反応しきれなかったウツロは、傷を負わせた相手を鎌で振り払わんとする。だが、薙いだ空間にはもう誰もおらず、ぎょろりと動いた瞳が眼下に収束していく。
         樹の先端に掴まった影の主は、頭の上の獣の耳を、警戒するようにぴんと立てる。

         

        「ら、らららライラ様……!」
        「おまえにしちゃおせーぞ」

         

         興奮する佐伯を無視して、冗談半分で文句を飛ばすヒミカ。
         ライラはそれに、ウツロを注視したまま答えた。
         

        「たおれてた。でも、休んだから、いける」

         

         それに、と続けた彼女は、ほんの小さく、口端を吊り上げた。

         

        「みんな、まにあった」

         

         

         

         

         

         


         たった五人で大いなる影に挑み、強大な力に絶望した。
         二柱の助力を得たとしても、返り討ちにあった。
         いかに敵本人から敗北を突きつけられなくとも、挫けそうになる心が打つ手がないと訴えようとしていた。

         

        「みんな……」

         

         ライラの言葉を受け、周囲を見渡す揺波に、『みんな』を目視することはできない。
         けれど、あちこちから集まってくる心強い気配は、確かに感じられる。
         たとえ誰か分からなくても、広がった闇に瞬く星のように、それは彼女にとって鮮烈だった。

         

        「急いだ甲斐があったってもんだ」
        「これ……ヒミカさんが?」
        「いんや? そりゃ来るやつは来るだろ」

         

         けど、とヒミカは揺波に歯を見せて笑いかけた。

         

        「ここでみんな集まれたのは、アタシたちより先に駆けつけたお前らのおかげだ。ありがとよ!」
        「そんな、私はただ……」

         

         結果論だと反論しようとして、揺波は言葉を飲み込む。援軍をあてにしていなかったのは事実だが、揺波たちだけでは打開が難しいこともまた確かだ。不必要に謙遜するより、会釈でもって返す。
         そうして、集まってきた力を把握しようとした揺波の耳を、この場に似つかわしくない音色がくすぐった。

         

         剣戟の音でも、銃撃の音でもない。
         奏でられるは、共鳴し合う音楽。美麗であり、勇壮でもあり、不思議と力が湧いてくる、そんな音色。

         

        「これって……」

         

         それは、森のどこかから響き渡っていた。

         

         

         

         

         


         仄かに月明かりが差し込めるだけの、樹々の狭間。
         逞しい馬から降り立った二人の手には、彼女たちだけの武器がある。

         

        「いいのですか? 千影やサリヤさんの分も、私は戦うべきでは……」

         

         ここにきて、未だ迷いを見せるのはサイネだ。
         戦場に駆けつけたはずなのに、持てと言われたのは薙刀ではなく、琵琶であった。

         その弦に合わせる笛を構えたトコヨは、サイネの言葉をばっさり切り捨てる。

         

        「いーのよ、あたしたちは飛べないし」
        「それはそうですが」
        「別に斬りかかるだけが戦いじゃあないわ。音楽の、あたしたちの演奏の力、見せてやればいいの」
        「そういうものですか」
        「そういうもんよ。ほら、演るわよ!」

         

         先行して奏でられる笛の音に、笑みを零すサイネ。
         バチに力を込め、一つ、二つと弦を震わせる。次第に音色を増やしていけば、交互に、時に混ざり合って、旋律を主張し合う音楽となっていく。

         

         二重の音色が、鼓舞となって闇夜に響いた。

         

         

         

         

         


        「ウ、アァーー」

         

         深い意思が見えないウツロであっても、表情を明るくした揺波たちに、その音楽が自分に不利益を生むことは本能的に理解したようだった。
         故に彼女は、それを無意味なものとすべく、あの透き通った悲痛の声を上げようとしていた。
         だが、

         

        「よ、よっしゃー! いっちょぶちかましてやんなー!」

         

         可愛らしくもありながら、威勢のいい合図がウツロの意識に割り込んだ。
         彼女の背後、現れた新手には、手足の代わりにヒレと尾がついていた。
         鯨だ。
         宙に浮いた巨大な水球で、鯨が泳いでいた。

         

         体長はむしろ小ぶりなほどだが、顔にいくつもの刀傷をつけたその鯨は、自分よりも優に長い大太刀を口に咥えている。どこか笛の音にも似た鳴き声は、けれど滾る戦意を抑えられないように気迫に満ちていた。
         そして、鯨の上には小柄な少女が一人。
         海のメガミ・ハツミが、しがみつくように両手に持った櫂をウツロへと向けると、水球ごと鯨が突撃を敢行する。

         

        「……!」

         

         大鎌で切り返し、弾こうとするウツロ。しかし、ハガネの鉄槌ほどの巨大さではないものの、鯨が繰り出したのは体当たりではなく、質量を帯びた斬撃である。
         なんとか押し返すことには成功するも、ずぶ濡れのウツロは体勢を崩す。一方、鯨とハツミは吹き飛ばされはしたものの、その身体を受け止めたのは彼女自身の水球である。逆に受けた衝撃を利用して水球を巡るように泳ぎ、瞬く間に再度間合いに入る。

         

        「もーいっかいぃ!」
        「グ……」

         

         盾にした大鎌をものともしないようなぶちかましに、ウツロはその身を綻ばせながら地面へと吹き飛ばされた。
         影色の翅を大きく広げ、勢いを殺しながら森の中へ着地する。
         それを見計らったかのように、ただでさえ闇に包まれているというのに、ウツロの周辺が霧で覆われ始める。

         

         ちょうど、彼女にはそれを払えるだけの大きな翅と、鎌があった。
         だから、と動きを作ろうとしたウツロは、

         

        「……?」

         

         その身も翅も動かせないことに、小さく眉をひそめた。
         腕に、細い糸状のものが食い込んでいた。

         

        「は、はやくッ……!」

         

         苦悶の声を樹上で上げるのは千鳥。
         彼の腕にはめられた複製装置<忍>は火を吹きそうな勢いで駆動し、革の手袋をはめた彼の手は幾条もの鋼鉄の糸が集っていた。明かりのなさが、空間に満ちた罠をさらに罠足らしめていたのである。

         

        「よくやった……!」

         

         

         ウツロを挟んで千鳥と反対側の位置では、オボロも片腕ながらまた鋼糸を掴んでいた。傍では、霧を吐き出す鰻が役目を終えたとばかりに彼女へすり寄っていた。
         そうして忍二人がウツロを拘束した、その直後だ。

         

         霧の向こうから、いや、霧煙るこちら側へと、立ち入る女が一人。ウツロが人の形をした影ならば、こちらは雪が人の形を成しているような女だ。
         一歩、踏み出すごとに彼女の足元が凍りつく。いかにも暖かそうな厚手の服に身を包んでいるのに、その身からは冷気が溢れ出しており、彼女の周囲の霧が晴れていくようですらある。

         

        「貴様ら、巻き込まれるでないぞ」

         

         メガミ・コルヌ。氷を象徴とする彼女が、手のひらのものに吹きかけるように、ウツロに向けて息を吐いた。
         その途端、森に極寒が訪れた。
         いきなり吹き荒れた大寒波が、動けなくなったウツロへ強烈に吹きつけたのである。

         

        「ーーーー」

         

         ハツミとの交戦で濡れていたことも相まって、瞬く間に一つの氷像が完成する。
         周辺の草木が凍って砕ける音があちこちで響く中、ミシミシと内側から破壊しようと試みる音は聞こえるものの、重ねられた拘束がすぐに解けることはない。

         

         

         

         

         

         ……そんなウツロを、ここから一番近い山の中腹から狙う者たちがいる。
         そこでは、空色の光が場を強烈に照らしていた。中心となるのは、メガミ・ミソラ。空を駆ける狩人は今、浮雲たちのものよりも雄大な翼を畳み、同じく空色の光で編まれた弓で、眩い輝きを放つ矢を引き絞っていた。
         彼女たちからは、樹々に隠れてウツロの正確な位置は分からない。けれど、その鏃は必ずウツロを指しているのだと、隣で弾かれる算盤が告げている。

         

        「パチパチパチー、っとこれで終いです。あとなんぼか上で、右にも頼んます。ーーあぁー! ちゃうちゃう! ……そこ! そこや! もっと力込めて、ガツンといてこましたってください!」
        「……言われなくとも」

         

         尖った耳を鬱陶しそうにひくつかせると、高まる力になびいていた、新緑を思わせる色合いの髪が払われる。ミソラはこの口うるさいメガミ・アキナが、金勘定だけが能ではないことを知っており、素直に狙いを修正する。
         そして、巨大な力がたった一本の矢に収束し終わった。

         

        「僕の矢が、千里の果てまで貫こう……!」

         

         アキナが確定した場所めがけ、全霊を込めてミソラはその矢を放つ。
         あまりに凝縮された力は軌跡の大気を破壊し、暴風を生んだ。それでいて狙いは寸分違わず、ブレることもなく、氷漬けとなったウツロの胸に突き立った。

         

        「ガ、ァァオォ……!」

         

         頑丈な身体に風穴が開くことはなかったが、それが返って長く彼女を苦しめる。穿っただけでは勢いはなくならず、衝撃で氷が砕け散り、鋼糸もほどけて自由になった手でウツロが押し止めようと、彼女を地面に縫い付けてやまなかった。
         大量の塵が洪水の如く吹き出しても矢は満足しなかったのか、行き場を失った力は枷から解き放たれようにウツロを巻き込んで爆発する。

         

        「ォ、ォォ……」

         

         余韻も去り、再び音楽だけが響く森が返ってきたとき、ウツロは膝をついていた。
         あれだけの攻撃を立て続けに受けて五体満足なままであったが、土がついたというその事実は、揺波たちにしてみれば多大な成果である。

         

         だが、この地を覆う影は、それをよしとしない。
         たとえ忘我の果てにあったとしても。

         

        「ゥゥウアアアアァァァァァッ……!」

         

         慟哭が、天を衝いた。初めて、感情らしいものが垣間見えた叫びだった。
         ウツロの身体から影が溢れ出し、肉体の一部が塵となっていく。それは身体を構成することを諦めた力の末路ではなく、塵という形に部分的に再構成しているようで、あるいはさらなる力に自分を食わせているかのようだった。

         

         押し込めた己が求めた力を、ウツロは周囲に解き放つ。
         揺波の翅を奪ったあの灰色の空間が、ミソラの矢に負けじと爆発的に広がっていく。

         

        「ーーーー」

         

         それは一瞬、音を奪った。
         漂っていた霧も、名残のような氷も、生み出された虚無の空間によって尽くかき消される。皆を力づけていた音楽でさえも、誰の耳にも届かなくなった。

         

        「ウウウウッ……!」

         

         影の翅を展開し、空へと舞い戻ったウツロは、最初の進み方が嘘のような速さで行程を再開する。
         その先には、樹海の中に聳える、上半分を砕かれた山が。
         陰陽本殿。
         彼女が封印されていたはずの地を求めるように、乱雑なまでに力強くウツロは羽ばたいた。

         

        「ま、待ちやがれ!」

         

         灰色の空間による虚脱によって対応が遅れた中、ヒミカはどうにか引き金を引く。同時、彼方より変化を察知したミソラも、次弾を放っていた。
         しかし、弾も矢も、塵を撒き散らしながら飛ぶウツロに届くことなくかき消されてしまう。狙われたことすら、本人は認識していなかっただろう。

         

         無事に飛んで追いつける者が復帰した頃には、ウツロは陰陽本殿の目前まで迫っていた。砕かれて不格好になった山の中心に、火口のように空いた穴の下では、もう珍しくもなくなってしまった結晶のない桜が待っているはずだった。
         実のところ、誰もウツロがここに辿り着いて、何が起きるのか理解していなかった。
         それでも、一目散に目指すだけの理由が彼女にはあり、目的を果たさせてはならないという最悪への恐れが、多くの者を動かしていた。

         

         ……ただ、二人を除いて。
         そして、ウツロの力に影響されなかった一柱が、最後の砦として立ちはだかる。

         

        「ァ……」
        「ウツロさん、お待たせしました……!」

         

         桜色の光を帯びた旗を掲げ、ホノカは告げる。

         その瞳にはもう、迷いはなかった。

         

         

         

         

         

         


         悲哀が、夜を包む。

         

        「ァアアア……!」

         

         新たな障害を前に、ウツロは速度を緩めなかった。全身から吹き出した濃密な影を纏いながら、ホノカを空間ごと塵にせんと空を駆ける。
         対し、ホノカは周囲にいくつもの桜の精を現した。桜の色で空を満たそうと、それらはウツロの影を受け止めるべく飛び出していく。

         

         この戦いの始め、ホノカの光がウツロに届くことはなかった。
         しかし、己の意思を固め、手の届ききらなかったメガミたちの意思を乗せた光は、今や神座桜を思わせるほどに強く、逞しく輝いている。
         そして今、数多の光は、迫りくる影をどうにか受け止めていた。
         影の奔流と光の奔流が、陰陽本殿の直上でぶつかり合う。

         

        「……!?」
        「お願い……話を、聞いて下さいっ……!」

         

         飛び込んできたウツロの勢いが弱まっていく。
         影と光は、衝突した傍から宙に溶け合うように消えていく。あらゆるものを一方的にかき消してきたウツロの影だが、ホノカの光だけは例外だった。逆に、ホノカの光がウツロの影を一方的に打ち払うこともまた、なかった。

         

         相克する力。対極に位置する力。
         拮抗しあうことを定められた彼女たちの権能の現れは、やがて両者の間に陰陽の巡りを生む。塵を結晶に形作る光と、結晶を塵に還す影……どちらが押し負けてしまうこともないが、相反する力が混じり合えずに混じり合う矛盾を叶え、互いの存在に触れていく。
         そして、身体に亀裂が走ったウツロの顔が、はっきりと恐怖に歪んだ。

         

        「い……やだぁっ!」

         

         そこに、意思はあった。顔は未だ、終焉をもたらした影そのものであっても、自我は確かにあった。
         揺波たちが知る、ウツロ。その自我が。
         けれど、意識を取り戻そうとも、我に返るということはなかった。表情のように、心は未だ歪みに囚われたまま、彼女は慟哭する。

         

        「やめて、もうやめてッ! 来ないでッ! あなたとまた戦うのは、嫌……また、負けるのは、嫌ぁっ!」
        「何をーー」
        「ひとりぼっちは、もう嫌なの……! やっと出てこられたのに、負けて逆戻りなんて絶対に嫌っ!」

         

         錯乱しているようにしか聞こえない言い分に、ホノカは言葉に詰まる。
         そこへウツロは、涙を零しながら、こう叫んだ。

         

        「だからもう来ないでよ、ヲウカっ!」
        「え……」

         

         それは彼女の言葉であって、彼女の言葉ではない。かつて存在し、けれど彼女の中にはないはずの過去に炙られた悲痛な訴えは、光に旧き仇を見出したホノカへと叩きつけられていた。
         意表を突かれたホノカは、その名を受け止めきることができていない。
         だが、彼女はハッと我に返り、固めた意思を瞳に映し出した。

         

        「違いますっ!」

         

         願いへの答えになっていないその否定に、今度はウツロがひるむ。

         

        「な、何が……!」
        「何故かは分かりませんけど、私はヲウカの力を持っている……んだと思います。でも、ここにいる私はヲウカじゃありません!」

         

         その口から理由が告げられることはなかった。
         曖昧で、しかもウツロからしてみれば戯言にもほどがあるその言葉を、彼女は勝者からの嘲りと受け取ったようで、声の悲痛さに若干の怒りが交じる。

         

        「下らない嘘はやめてッ!」
        「本当です! 私は、私……ぽわぽわちゃんです!」
        「ふ、ふざけないで……!」
        「ふざけてませんっ!」

         

         込めた意気が、光の強さとなってウツロの勢いをさらに削ぐ。
         変化は、それだけではなかった。引きつった端正な顔が光にあてられて崩れ去っていき、徐々に元のやや幼いウツロの顔が見え始める。手足も影の装甲を剥がされていくように、輪郭がおぼろげに掴めるまでとなっていた。
         ホノカは加えて、

         

        「それに、そもそも私とユリナさんはウツロさんの敵じゃありません! あの悪い人はもうやっつけたんですから。ユリナさんも前に訊いてましたけど、ウツロさんは……何がしたいんですか?」

         

         瑞泉城で問うた、揺波の再現。互いの立場は、明確に変わっている。
         手を差し伸べるように優しく問いかけたホノカは、今こそ円満な解決の糸口を心から欲していた。
         だが、あのとき無だと答えたウツロは今、己こそが答えを求めていると訴えるように、悲痛な顔つきで首を横に振る。

         

        「わから、ないの……」
        「え……?」
        「分からないのっ! 自分が何をしたいのか、自分でも分からないの……! 私にはなんにもないの! だから……ッ!」

         

         繰り返す。同じ答えを、自分こそ望んでいないのに、叫び返す。
         無駄な問答を打ち切るべく、ホノカの妄言によって削がれていた戦意をウツロは取り戻し始める。終焉をもたらしたあの姿すらもはや邪魔だというように、意思に満ちたウツロ自身から塵が吹き出していく。

         

         しかし、繰り返すのはホノカもまた、同じだった。
         揺波が応じたあの言葉で、ウツロの戦意を撃ち抜くように言い放つ。

         

        「分かりますっ!」
        「……!」

         

         否定でも疑問でもない、理解という返答に、ウツロの表情が固まった。
         未だ明暗のせめぎあいが続く中、がむしゃらに口から飛び出したような同意は、ウツロへとはっきり届いた。
         ホノカは、溢れ出してくる共感を必死に届けるように、

         

        「私だって、なんだか分からないままにこの地にいるんです。たまたまユリナさんと出会えたけど、そうじゃなかったら……ううん、今だってどうなるか分からない!」
        「…………」
        「でも、だから! 色んなことを知りたいんですっ! やれることを……やりたいことを見つけていきたいんですっ!」

         

         真っ直ぐな意思だった。
         ただ一人、ウツロと同じ境遇にある者は、諦観など知らぬとばかりにひたすらに前向きな意思を胸に抱いていた。
         不安がないわけではない。けれど、そこでうずくまることはない。

         

         そんな意思を浴びせられ、ウツロには受け流す言葉も否定する言葉も、そして諦観に根ざしていられるだけの意思も、ありはしなかった。
         放出する影の矛先が、ぶれていく。仇敵に対して全力であたっていくための力が、端々から夜闇に溶け出していく。もはやウツロが身体に纏った影はなく、ホノカが輝きを一段と強めていくのとは対照的であった。
         そして、それが最後のきっかけだった。

         

        「あっーー」
        「う……!」

         

         影と光が、二人の間で釣り合った。
         均衡を越え、平衡を越え、混ざり合うはずのないものが混ざり合う。互いが互いであるままに影と光は手を取り合い、一つの大きな力として広がっていく。

         

         そして、世界は光に包まれた。
         空っぽでも、終焉を告げるでもない温かな光は、戦いによって傷ついた者たちの希望となる。
         それは何も、人やメガミに対してだけではなかった。

         

         ホノカとウツロの眼下では、陰陽本殿の枯れ桜が満開を迎えていた。

         

         

         

         

         


         手を尽くし、持てる力で終焉に抗った者たちがいた。彼女たちは影を打ち破り、平穏を取り戻そうとした。

         だけど天音揺波と、ホノカは違った。彼女たちはウツロを理解しようとした。与えられた力と共に理解を差し伸べた。そして彼女たちの言葉は影を揺らがせ、この地に光を取り戻すに至る。

         これにて一件落着……となればよかったのだけれど、物語はもう少しだけ続く。
         君も気をつけたほうがいい。解決を間近に控えたときこそ、話をあらぬ方向に転がされてしまわないように、ね。

         

        語り:カナヱ
        『桜降代之戦絵巻 第五巻』より
        作:五十嵐月夜  原案:BakaFire  挿絵:TOKIAME

         

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        今後の展望、2018冬

        2018.12.14 Friday

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           こんにちは、BakaFireです。本日の記事では向こう三か月における本作の展望を書かせて頂きます。初めてご覧になる方のために少し補足しましょう。私どもは3か月に1回この類の記事を掲載し、今後3か月間における計画をまとめ、説明させて頂いているのです。
           

           

          前回の展望のおさらいをしよう!

           

           展望シリーズでは毎回、前回の展望を見直し、それらがどうなったかを確認していました。今回もそれに従いましょう。

           


          デジタルゲーム版に大きな動きがあるぞ!

           

           この件について繰り返すのは苦しいものです。しかし、ここでもう一度お詫びだけは改めてお伝えしておきます。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
           
           また、12月20日から第1回となるクローズドテストが開始されます。12月の交流祭にご参加いただいた皆様には来週頭を目途にメールをお送りしますので、詳しい案内につきましてはそちらをご覧ください。
           

           

          新幕の攻略記事や動画を開始するぞ!

           

           初心者向けの動画シリーズ『桜降る代のいろは道』、初級者から中級者へのステップアップのためのヒント集『新幕 半歩先行く戦いを』の連載がそれぞれ開始しました(おおっと、そういえば来週は『いろは道』の第2回も更新されますよ!)。
           
           
          シーズン2大規模大会の舞台は福岡だ!

           

           無事に成功に終わり、大いに盛り上がりました。大会のレポートも掲載しておりますので、よろしければご覧くださいませ。
           
           
          ゲームマーケットでは『第弐拡張』発売!
          そして様々なニュースを公開だ!

           

           『第弐拡張』が無事に発売し、いくつかのニュースをゲームマーケットで発表しました。それらこそが次に私が全力で挑戦していくことですので、まさに本日の展望でいくつかをお伝えすることになるでしょう。
           
           


           前回までの展望はこのようなものでした。シーズン3ではシーズン2に残されたバランス上の課題も解決され、ゲームとしての魅力は研ぎ澄まされています。幾ばくかの過ちこそ見つかってしまいましたが、過ちの規模はシーズンを経るごとに小さくなっており、この点においては少なくとも改善の傾向にあると考えています。
           
           そのうえで本作は一つの大事な時期、転機にあると考えています。第一に大きな逆風として、本来予定されていたデジタルゲーム版のリリースが延期となってしまいました。第二にストーリーなどのこれまで進めてきた流れがもうじき大団円を迎える点です。これからも本作は続く以上、より魅力的な新展開を用意するのは当然でしょう。
           
           もうひとつ反省を付け加えるとすれば、デジタル版を前提としていたため、シーズン2ではアナログ版の展開に十分な時間を注げなかったのも確かです。

           

           そこでシーズン3ではイベント展開に最大限の力を入れるよう計画しています。これはデジタル版を欠いた状態でも最高に盛り上げて、魅力的なイベントを皆様に楽しんで頂くためのものであり、そして来たるべき次の流れに備えるためでもあります。


           私どもの計画を、ひとつずつ紹介しましょう。

           


          初心者向けイベントに力を入れていくぞ!

           

           新たに本作を始めようと考えている方がよりスムーズに、分かりやすく楽しめるよう、初心者講習などのイベントに改めて力を入れてまいります。
           
           まずは1月にイエローサブマリン様での初心者講習イベントを再び開催します。その上で今後は1、2か月程度に1回のペースで定期的な開催を行っていくつもりです。もちろんこちらのイベントでは前回同様、プロモーション集中力カード「ユキヒA」が入手可能です。

           


           
           そしてこのイベントがある程度軌道に乗ったら、他の初心者向けイベントも増やせるようにしていきたいと考えております。様々なボードゲームショップやボードゲームカフェの皆様にご助力をお願いすることもあるかと思います。その折には、お力添え頂けるとありがたい限りです。

           


          交流祭にいくらかの変化があるぞ!

           

           交流祭は現在、実にうまくいっているイベントです。その上でさらなる改善の余地はあるため、それを進めていきます。
           
           方針として、私どもは交流祭を「本作のイベントに参加するか迷っている方が安心して最初の一歩を踏み出せる場所」にしたいと考えています。そのために交流祭は、これまで以上にカジュアルで安心感のあるお祭りを目指します。
           
           しかし注意が必要なのは、交流祭の状況やあるべきあり方は地方ごとに異なるということです。交流祭は東京、大阪、名古屋、福岡、札幌、新潟で開催されていますが、会場の利用形態も平均的な参加人数も異なります。そしてそれらの状況ごとに、どのようにすればご参加いただいた皆様が最も楽しめるのかは異なるのです。

           

           第一の試みとして、交流祭に向けた告知を強化します。本作をとりあえず手に取った方が交流祭の存在を知りやすいようにするのです。すでに最近のポスターやチラシでは交流祭の情報を必ず記載するようにしており、その試みは始まっています。さらに今後は、地域別のイベントへの案内なども作れればと考えております。
           
           第二の試みとして、適切な地域では「大会なし」「大会あり」を分けるやり方を進めます。東京で始まったこのやり方は大成功であり、大会を楽しむ層と、大会に出るのは少し苦しく感じる層の両方がイベントを楽しめるようになりました。これを進めることで、大会に出ろと言われると正直参加をためらうけれど、イベントには興味があるという方も交流祭に参加しやすくなります。
           
           第三の試みは東京だけのものです。1月の交流祭では(試験的に)大会を「通常選択」と「三拾一捨」に分割してみます。この試みはまずは後述する全国大会のために、競技的に楽しんでいる方のためのものです。しかしこれは逆説的に大会には出たいものの、そこまでの競技性を求めていない方のためのものでもあります。
           
           第四の試みは物語との連動です。現在、物語テーブルによる特殊なゲームは大好評を続けています(つい先日は1対3で遊ぶふるよにTRPG(の戦闘パートのような何か)が用意され、大いに盛り上がりました!)。後述する新たな物語の流れも含めてこの方向を推し進め、ストーリーとしても楽しめるようにします。

           

           これはまだ願望でしかありませんが、お楽しみいただける地方を増やし、地方と関東の格差を埋めるためにも東北地方、四国地方、中国地方などのまだ交流祭が開かれていない地方でも交流祭を開きたいとも考えています。

           


          来月の交流祭は

          プロモーション集中力「クルル」入手のチャンス!

           

           ここまでの話を見て、交流祭に参加してみたいのでしたらまさに今が大チャンスです。本日より1月の交流祭の申し込みが始まっているだけでなく、1月に参加すればプロモーション集中力カード「クルル」(※)が獲得できるのです。

           


          ※ クルルはゲームマーケット2018春の購入特典でした。このようなイベント限定特典は地方への配慮のため、配布から半年ほど後に交流祭で復刻します。

           

           

          BakaFire BoardGame Partyを開催するぞ!

           

           よりカジュアルなイベントも計画を進めています。それこそがBakaFire BoardGame Partyです。交流祭の最大の魅力であり、同時に最大の欠点は一日中本作を遊ぶという点です。
           
           本作を遊んでくださっている皆様の中には、間違いなく本作を遊びたいが、一日中本作だけを遊び続けるとなると微妙であるという方もいらっしゃると思います。一日中遊べる方も、たまには他のゲームも遊びたいかもしれません。逆に本作を遊んでいない方の中にも、本作に触れてみたいという方もいるでしょう。
           
           この試みはそういった皆様のためのものです。本イベントはBakaFire Partyのゲームを中心としたボードゲームイベントです。私の代表作である本作や『惨劇RoopeR』はもちろんのこと、『OWACON』『アリストメイズ』『ルイナス』『ライデマイスター』『フラムルルイエ』も用意しております。入退場自由で、お望みのゲームを自由にお楽しみいただけます(『惨劇RoopeR』だけは時間を固定します)。
           
           それだけではありません。以前の記事で触れたとおり、私は作りかけのまま止まってしまっているゲームや、リメイクの計画などがございます。それらのアイデアの中で、特に長大な計画が必要そうなものや、非常に惜しいところまで進めたものの凍結されているものなどを用意し、モック版を体験できるようにもいたします。本イベントを通し、開発をライブ的に楽しめるのです。
           
           第1回は次回の惨劇RoopeRコンベンションを拡張し、そちらの運営の皆様と共同する形にて1月20日(日)に開催します。参加を検討されている方は、ぜひともこちらのTwiPlaをご覧ください。こちらが上手くいきましたら、今後は3か月に1回程度のペースで開催を続けていく見込みです(※)。

           

          ※ 今のところはこの試みは東京で行うつもりです。しかし地方で要望があり、その上で実現可能であれば、他の地方での開催も検討しております。

           


          最大規模の全国大会が開催されるぞ!

           

           ここまではカジュアルなイベントについてお話してきました。しかしそれだけではありませんとも。本作を競技的に楽しんでいる皆様もご安心ください。
           
           3月30日(土)、これまでを越えた最大規模での全国大会「天音杯」池袋サンシャインシティ、文化会館特別ホールにて開催いたします。予選は全国各地で1月26日から3月3日までに開催され、そちらにご参加いただければプロモーションタロット「ハガネ」を入手できます。

           

          ※ プロモーションタロットの特別さを保護するため、小さいサイズかつsampleの文字を入れて掲載しております。
           
           こちらの詳細は特設サイトにて掲載いたしますので、本日に語りすぎることは避けておきます。ご期待頂ければ幸いです。

           


          カジュアルな新製品『祭札二〇一九』が発売!

           

           全国大会は競技的なだけの場ではありません。カジュアルに遊ぶための新製品『祭札二〇一九』が会場にて先行販売されます。これまでに交流祭で遊ばれたカジュアルルールの中で特に好評なものを厳選し、そして洗練してお届けいたしますよ!
           
           そして全国大会会場ではこの製品を用いたカジュアルなサイドイベントも開催されます。残念ながら予選を通過できなかったとしても、そもそも競技的な場に興味がなくても楽しめるイベントにいたしますのでご安心ください。

           

           残念ながら全国大会までお越しいただくのが難しい方もご安心ください。『祭札二〇一九』は先行販売から1、2週間後に全国ゲームショップ、ネットショップでの販売が開始いたします。

           


          新たなストーリーに向けて
           
           本作の公式小説『桜降る代の神語り』は先週から終章が開始しました。つまりそう遠くないうちに完結し、大団円を迎えることになります。
           
           それでは本作の物語はこれで終わりなのでしょうか。いえいえご安心ください。すでにいくつかのアイデアがあり、そのための計画を進めております。さらに魅力的かつ新しいやり方で、本作を盛り上げられるよう尽力いたしますとも。
           
           その計画が本格的に始まるのはむしろ次回の展望、4月以降となりますが、3月の時点でもそのための第一歩は踏み出されます。ご期待くださいませ!
           

           
           以上となります。今回の展望を踏まえ、本作の挑戦を楽しんで頂ければ嬉しい限りです。今回の展望は3月末までの内容を含んでおりますので、次回の展望は少し遅らせ、2019年4月にお届けします。
           
           来週はWebサイトにおける他の更新に力を入れたいため、私の記事としてはお休みをいただきます。そして再来週からはサリヤ特集をお送りいたします。ご期待くださいませ。

          『桜降る代の神語り』第71話:終焉の影

          2018.12.14 Friday

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             君もが経験深いミコトであるならば、決闘で初めて相対するメガミの力に尻込みしたこともあるかもしれないね。
             メガミの力は特徴的で強大。ましてや、古きメガミたるウツロ、その真なる姿であればなおさらだ。

             天音揺波たちは、たった五人でそんな底知れぬ終焉の影との戦いに挑む。
             未来を覆い隠した闇を、打ち払うために。

             英雄、天音揺波の最後の戦いが始まる。

             

             

             


             二対の桜色の翅が、夜空を駆けた。
             己の意思を確とした揺波とホノカが、我関せずと先を行くウツロへ、速度を上げて追いすがる。

             

            「待って!」

            「ウツロさん、話を聞いて下さい!」

             

             行く手を阻むように回り込み、訴えかける二人。漫然と進んでいた影を相手にそうするだけの力はある。けれど、ウツロが桜を枯らした光景を目の当たりにしていた者が見たら、その心の強さに思わず敬意を示すことだろう。
             揺波たちは未だ、武器を構えてすらいない。
             その前にやるべきことがあるという信念が、ホノカを叫ばせる。

             

            「お願いします、このままだとみんな真っ暗なまんまになっちゃうんですっ!」

             

             果たして、その言葉にウツロは目だけを動かした。
             進路を塞ぐ、ホノカを見やる。
             無表情に。
             無感情に。

             

            「…………」

             

             そして、返答の代わりにウツロはゆっくりと右手を掲げる。
             動作そのものに、害意も敵意もない。あるとしても、目の前を飛び回る邪魔な虫を追い払う程度の、そんな些細なものだった。
             だが、滲み出してくる攻撃の気配に、いち早く揺波が宙を飛び出した。

             

            「くっ……!」

             

             歯噛みし、抜き払った斬華一閃で右手を打ち据える。真正面、すなわち揺波とホノカを捉えるはずだったその手は地面を向き、膨れ上がった攻撃の気配が反れたことを揺波は悟る。
             その直後、弾かれたウツロの手から、濃密な影が放たれる。
             眼下の森に、それは着弾した。

             

            「ぁ……」

             

             全てが、塵に帰した。ホノカの悲鳴すら、飲み込まれたようだった。
             黒い炎のように万物を舐め上げた影は、森の木々や住んでいた動物たち、生きとし生けるものを瞬く間に食い尽くしてしまった。あまりの量に煙のようになった塵の向こうには、禿げ上がった森の地面が顔を覗かせていた。ウツロはそれを、無感動に眺めている。

             

             これを人間が喰らえばどうなるか、嫌でも想像してしまう。
             それほどの相手に挑んでいるのだということを、誰もが再確認させられた。
             そして、そんな力を問答無用で振りかざしてくる相手であることも。

             

            「できることなら、やりたくなかったんですけど……」

             

             認識してなお、一旦間合いをとった揺波に怯えの色はない。
             斬華一閃の切っ先をウツロに向け、彼女は宣言する。

             

            「ウツロさん、力づくでも話を聞いてもらいます!」

             

             対話の余地が眼下の森のように塵となった今、為すべきことを為すためには戦いは避けられない。予定されていたことではあり、これで対話は三度ふいにされたものの、揺波はそれでも自身の姿勢を崩すことはなかった。

             

            「ぽわぽわちゃんも……ね?」
            「え……あっ、はい……!」

             

             あまりの光景に目を奪われていたホノカが、慌ててその手に桜色の旗を現した。

             

            「が、がんばりますっ! 絶対に、ウツロさんを止めますっ!」

             

             恐怖は、ある。けれどそれよりも、彼女が踏ん切りをつけるように声を上げたのは、自分にできるのかという弱気な心を隠すためだ。
             急速に実態を帯びた使命感が、彼女を動かす原動力である。
             揺波と共に戦いの初舞台に上がったそんなホノカへ、ウツロの意識がはっきりと向けられた。明確に己を妨害する、障壁へと。

             

            「…………」

             

             無言で放たれた敵意に、ホノカの脳裏に回避の二文字が浮かぶ。
             そこへ、

             

            「……?」

             

             ウツロの脇腹を少し貫通するように、空色の光で編まれた矢が突き刺さる。衝撃で僅かに姿勢を崩したその隙に、揺波とホノカは飛び立ち、ウツロの視界から一度抜け出した。
             遠く、空と桜を混ぜ込んだ色合いの翼で器用に滞空していた浮雲が、ミソラの力で作り出した大弓の残身を解いていた。

             

            「おらっ、こっちだ!」

             

             続き、ウツロに浴びせられたのは鋭く投射された手裏剣だ。宙空でも忍の素早さをそのままに、千鳥が彼女の周囲を飛び回って、焦点を絞らせないよう細かい攻撃を繰り出していく。
             ウツロはそれを、積極的に防ごうとはしない。射抜いた矢も、突き刺さった手裏剣も、傷口から溢れてきた影によって、次から次へと塵にされてしまう。手応えという点においては、一切と言っていいほどなかった。

             

             けれど、彼らは自分の役割を知っている。
             この戦場の主役は、彼女たちであると。

             

            「はあぁぁぁぁッッ!」
            「……!」

             

             高所から切りかかった揺波の刃を、ウツロは咄嗟に手中に現した得物を両手で掲げることで受け止める。それはもはや大鎌の原型を辛うじて留めているだけの、巨大な影の怪物のような代物で、およそこの世のものとは思えない光景が夜空に生まれた。
             ギリ、ギリ、と力比べになる両者。上をとった揺波の有利は、けれどウツロと対等であるために必要なものでしかない。ただ、怪物の影が斬華一閃の刀身をちろちろと舐めるが、手裏剣のように塵に還されることはなかった。

             

            「い、行きますよっ!」

             

             そこへ、夜空を流れる何体もの桜の精が、動きの止まったウツロの背中めがけて続々と飛び込んでいく。
             これも同じく塵にされることはなく、打撃力は確かに意味を成していた。けれど、揺波の刃を届かせるほどに体勢を崩せてはいない。

             

             そこから膠着状態を動かしたのはウツロである。
             彼女は翅を動かすことで降下と後退を同時に叶え、得物を手前に引くことで揺波の勢いを下に受け流した。背面で瞬いていた桜の光たちが、風圧で吹き飛ばされる。

             

            「っと……ッ!」

             

             それを受けて揺波は無理に体勢を立て直そうとせず、そのまま切り落とすように急降下。ウツロの振るった怪物の大口が、揺波がいた空間を食いちぎったのは、離脱した僅か一拍後のことだった。
             再び谷を描くように引き返す揺波。刀身を盾にしながら、機敏な翅の動きで振り切られた大鎌を避けると、そのままウツロの足元を薙ぐように斬りつける。

             

            「やぁッ!」

             

             本来それは、軽く飛び上がるだけで回避できる斬撃だ。
             だが、ウツロの初動を押さえつけるように、斜め上から縫い付ける軌道で浮雲の矢が背中を穿った。

             

            「ァ……」

             

             空気の漏れ出たような声を上げ、ウツロはその脚から桜の塵を吹き散らせる。
             すかさずもう一撃を狙っていた揺波であったが、まとわりつくような攻撃を闇雲に拒否するように、大鎌の怪物を淡々と振り回した。ともすれば得物を弄んでいる動きでしかないそれも、規模が違えば暴力の渦でしかない。

             

            「う、ぐ……!」

             

             間合いに入り込んでいた揺波は、刃でどうにかそれを受け流し、それでもなおウツロへ肉薄せんと前を目指した。
             再度の至近を援護するべく、千鳥の手裏剣がウツロの指を捉える。しかしそれも焼け石に水、今度は注意すら惹くことができず、煌めく桜色の翅がウツロの空虚な瞳に映し出される。

             

             一撃離脱を決断した揺波が狙ったのは、得物を操る右の腕。
             しかし、横合いから切り込んでいった揺波は、間合いに入る直前でその動きを変えることになる。

             

            「下がれッ!」

             

             よく通る佐伯の声を、どうしてか揺波はすんなりと受け入れられた。
             すんでのところでウツロから離れることを選んだ揺波は、ウツロが操る怪物が、森を塵にしたあの濃密な影を吐き出している光景を目の当たりにする。
             そして、完全に間合いから外れた直後だ。佐伯の右腕で、複製装置<空>とは別に借り受けていたもう一つの複製装置が、歯車を高鳴らせた。

             

            「雷よ!」

             

             天蓋で瞬いた稲光が、ウツロへと殺到する。
             ライラの力によって生み出されたそれは、広がろうとしていた塵化の影をかき消すほどの熱量でもって、幾度も彼女を打ち据えた。生身の人間が浴びれば、ついには跡形もなくなってしまうような自然の暴力だ。

             

             己の意思とは反し、雷光の中で身体を震わせるウツロの姿は、今までで一番攻撃が通っていたように見えた。
            それでも表情一つ変えない彼女に、遠く、佐伯は息を呑む。

             

            「まだまだッ!」

             

             雷が止んだ頃合いを見計らって、さらなる追撃を敢行するのは揺波だ。
             しかし、ウツロは手にしていた大鎌を一度影に還し、世界に訴えかけるかのように両手を広げた。
             その口から響いたのは、透き通るような声だ。

             

            「ーーーー」

             

             

             同時に悲痛さも感じさせるようなそれは、己の内側に秘めたものを、殻の隙間から絞り出しているよう。
            少なからず意思の見えた歌声は、一見しては分からない、けれど劇的な変化をもたらす。
             無防備なウツロに正面から切りかかった揺波の刃が、身体をすり抜けたのだ。

             

            「な……!」

             

             感触が、ない。
             刃が触れる先から、ウツロの身体が影となっていた。
             文字通り、影を切った揺波は、その勢いを殺しきれずに体当たりをする形となった。しかしそれであってもなおウツロの身体を揺るがすことはできず、背中側に突き抜けてそのまま慌てて距離を取る。

             

             さらに、目を疑うような力の発露は続く。
             声がやんですぐ、まるで世界がウツロの訴えに屈したかのように、彼女を中心として色を失った球形の領域が生み出される。それは一瞬にして広がりを見せ、色褪せた灰の空間が宙域を支配した。
             飲み込まれたのは、揺波、千鳥、そしてホノカ。
             自分の周囲を桜の光の膜で覆ったホノカが、色を失うことはなかった。けれど、ミコト二人の背中にあった輝きは、あっという間にかき消えた。

             

            「天音ッ! 闇昏ッ!」

             

             圏外に逃れていた浮雲が、地面に引かれていく二人へ叫ぶ。それでも、二人が翼を出し直すことはなかった。色褪せた空間は、既に役割を終えたとばかりに消え去っているにも関わらず、だ。
             あの空間が奪ったものは、色と、そして力。
             二人は、満足な対応もできないほどの、強烈な脱力感に襲われているのである。

             

            「う、ぐおぉぉっ……とび、かげぇ……!」

             

             自分一人で助かるのは不可能と判断したのか、千鳥は渾身の力を振り絞って、もう一つの複製装置<忍>から鳶を生み出す。
            首根っこを掴まれ助かる彼だが、さらに下に落ちていく影があった。
             揺波だ。

             

            「……! ユリナさんっ!」

             

             力の喪失を防ぐことに必死だったホノカが、それに気づいて声を上げる。
             翅を奪われた揺波は、再び舞い上がるべく、力の抜けた身体で懸命に翅を出そうとしていた。しかし、いつまで経っても出てくる気配のないそれに、千鳥のような代替手段のない彼女はされるがままに死を迎えつつあった。

             

             逆落としでホノカが追いかけるも、出遅れたことによる縮めがたい距離と高度の差がある。千鳥も鳶影に指示を飛ばすが、こちらは互いに顔が伺える距離であっても速さが足りない。
             どうにか追いすがろうとする千鳥へ、揺波の左手が伸びる。
             まだ地上まで高さはあろうとも、これを逃せば彼女を救う瞬間はもう訪れまい。

             

            「あま、ねッ……!」
            「ちどり、さーー」

             

             だが、差し出した手は、空を切った。
             止まった時の中、目を見開く両者の距離は、ほんの拳一つ分。
             それだけの距離があれば、決闘の決め手にさえなる。けれど、それを知悉する揺波が迎えるのは、敗北ではなく、もっと先にあるものだ。

             

            「ぁーー」

             

             無慈悲にも、落下は続いた。
             英雄が、落ちていく。
             それは一人の死を決定づける光景である以上に、この地に再び光を灯す存在が失われる絶望的なものであった。

             

            「あまねぇぇぇぇッ……!!」

             

             悲痛な叫びとは裏腹に、千鳥は主を案じた鳶影に運ばれていく。その脇を抜け、消えゆく光を、もう一つの桜の光が追う。零れた涙が、月光にきらめいて軌跡を描く。
             その手は、あまりにも小さく、弱々しかった。
             背中の光に、かき消されてしまいそうなほどに。

             

             

             

             


            「ここまででいいよ!」

             

             風を切る音、そして炎が大気を破壊する音。
             それらに負けないよう、張り上げられた幼い声に、応える者が一人ーー否、一柱、いた。

             

            「おう!」

             

             愉快な熱気は、夜空を焦がす。

             

             

             

             


             叩きつけられる風の中でも、揺波は決して斬華一閃を手放さなかった。
             それは諦観に抗う姿勢の現れでもあったが、無情にも自然の理に逆らう手立ては、彼女から全て失われていた。

             

             そして、その瞬間は訪れる。

             暗い大地に、その身を裂かれるーーはずだった。

             

            「……え?」

             

             予想に反して得られたのは、僅かな衝撃と、柔らかい感触。
             何より、手に入るはずのなかった浮遊感が、いつまでもやってこない破滅とは矛盾していて、閉じていた目をこわごわと開く。

             

             燃え盛る炎が、風に棚引いていた。
             その炎を、揺波は忘れるはずもない。
             無論、その主も。

             

            「なんで、ヒミカさん!?」

             

             目を疑うような光景に、信じられないといった声を上げる。
             揺波は今、過去に命を狙われたヒミカに抱きかかえられていた。あの炎上から時間が経ちはしたものの、未だ殺意に満ちた彼女の怨嗟を度々思い出してしまう揺波は、これが走馬灯というものなのかもしれない、と混乱のあまりに考えてしまう。

             

             けれど今のヒミカは、歯を見せて笑ってさえいた。
             身の竦むような怒りは、どこにもない。

             

            「よう、ヤケドすんなよな?」

             

             

             軽い調子で返すヒミカに、これが現実に起きている出来事であると揺波は理解していく。
             だが、揺波の視線の先、ヒミカのさらに向こうで繰り広げられていた光景は、そんな理解を妨げる途方もないものであった。

             

             月が、星空が、消えていた。
             巨大に巨大を重ねたような物体の影に、揺波たちは飲まれていた。
             それが鉄槌であると認識できたのは、ぐるぐると宙で横に回転していることに加え、活力を感じさせる掛け声のおかげだった。

             

            「いっくよーっ! 最大全開のぉっ……だいッ、せんッ、くうぅーー」

             

             

             以前決闘で叩きつけられた、山をも超えるような鉄槌……それを遥かに凌駕する大きさのそれは、比率があべこべすぎて、持ち手であるハガネを見失いかねなかった。
             大地をくり抜いたような鉄塊が、空に踊っている。
             そしてそれは、揺波がよく知るように、最後は上から押しつぶさんと縦の回転へと変化する。

             

             矛先は、佇み続けるウツロ。
             大質量が、終焉の影を襲う。

             

            「ーーどっかーん!」

             

             可愛らしい声と共に、宙が打撃される。あまりの威力に、ウツロは瞬きする間に地表へと叩きつけられており、その衝撃は着弾点の周囲の木々を吹き飛ばすほど。元いた宙域に、残滓のように漂っていた影は、打撃によって生まれた嵐のような風によって散り散りにされる。
             少しだけ遅れて、鉄槌に据えられた鐘が、もはや世界を壊しかねない鈍い大音量で奏でられる。思わず揺波は、ヒミカの肩も借りながら耳を抑えた。大きすぎて全く響かなかったことだけが救いだった。

             

            「ほんとあれ、デカくするとうるさいんだよな」

             

             呆れたように言い、ヒミカは徐々に高度を下げ、揺波を下ろす。
             再び立つことのないはずだった地面に足をつけて、その感触が本物であることに、安堵と不思議がないまぜになった感情を抱く。
             ただ、それらは命拾いした感慨であるはずなのに、今はそれよりも、目の前のメガミの存在のほうが気にかかっていた。

             

            「あの……」
            「あ? あぁ……えっとだな」

             

             恐る恐る窺うようなそれが、説明を求めるものであることは、ヒミカもすぐに理解したようだった。それも、今起きた出来事よりも、二人の間にあるはずのわだかまりの行方について。
             頭上で燃える炎の上から頭を掻いたヒミカは、少しばつが悪そうにしながら言葉を探っていたようだったが、突然、ぱんと両手を合わせて頭を下げた。

             

            「すまん! あのときは悪かった!」
            「え……」

             

             いきなりの素直な謝罪に、揺波は驚きが先に立った。そして、当時の殺意との大きすぎる落差が困惑を生む。

             

            「え、あの……どうして……」
            「アタシもこっちに出てこられなかった間に色々考えたんだよ。それに、ハガネにも窘められちゃあな」

             

             振り返るヒミカの視線の先では、一撃を放ち終えた巨槌がみるみる小さくなっていた。木に隠れて揺波からは持ち主は見えなかったが、瑞泉攻略の礎となったあの小さな巨人の笑顔が脳裏に浮かぶ。
             彼女たちは、この危機に際して駆けつけてくれた。神渉装置が失われた今、もはやメガミを縛るものはどこにもない。あとはただ、彼女たちの拠り所である満開の桜だけが、なにもない日々から欠けている。
             と、そこへ降り立つ影が二つ。

             

            「ユリナさんっ!」
            「あっ、ぽわぽわちゃーー」

             

             遅れて後を追ってきたホノカが、地面で喘ぐ片割れの千鳥を置いて、いきなり揺波の胸に飛び込んだ。
             その声は、僅かに上ずっていた。

             

            「ユリナさん、よかった……私、私、全然間に合わなくて……!」
            「ぽわぽわちゃんも、無事で良かった」
            「ごめんなさい……もっとちゃんとしていれば、助けられたのに……」
            「いいんですよ。ヒミカさんが、助けに来てくれましたから、わたしはまだまだがんばれます」

             

             宥める揺波は、自分が口にしたその事実に改めて心中向き合っていた。
             ざっくりとしたヒミカの釈明に、揺波の心に巣食っていた悪夢はそれだけでは消えきっていない。円満に解決したハガネの説得であれば、と理解はできるものの、納得しきれないものがある。
             けれど、そんな揺波をヒミカが助けたことは事実だ。そして揺波は、脳裏にこびりついていた怒れる炎神ではなく、本来のヒミカのことを思い出していた。

             

             彼女は最初、こう紹介されたのだ。
             思ったことをそのまま言う、感情むき出しのやつだと。
             感情を司るそんなメガミが、果たして怨敵を救い、両手を合わせるだろうか。
             ……今は亡き彼女のミコトが、「許してやってくれや」と困ったように笑っているようだった。

             

            「ヒミカさん……ありがとうございます」

             

             ホノカの頭を撫でながら、真っ直ぐ目を見て、礼を述べる。
             今度は逃げずに、彼女の意思を受け入れるように。

             

            「トーゼンだ」

             

             屈託のない笑顔が、揺らめく炎と共に夜に咲いた。
             そして、もう言いたいことは言い終わったとばかりに再び空へ視線を彷徨わせたヒミカは、目的のものを見つけたのか、笑みを好戦的なものへと変化させていく。

             

            「おまえら、アタシたちが来たからって、まだまだ油断すんなよッ!」

             

             一喝したその意味を、揺波は理解した。
             森の中から、人の形をした影が夜空へと浮かび上がっていた。
             あれだけの強烈な一撃を受けて、なお健在。

             

            「はい……!」

             

             覚悟を一つ、斬華一閃を握り直す。
             ウツロは今や、明確な敵意と戦意を揺波たちへと向けていた。

             

             

             


             厳しい戦いであっても、天音揺波とホノカなら。そのような希望的観測は、ウツロの圧倒的な力によって粉砕されてしまった。

             けれど天音揺波は多くを成した英雄だ。その本質は自らの力だけには限られない。因縁を越え、紡いできた縁を頼りに、彼女の下へ力が集う。たどり着いた果てで待ち受ける難敵を、打ち破るためにね。

             そう、それこそが英雄さ。この戦いはまだ、終わらない。

             

            語り:カナヱ
            『桜降代之戦絵巻 第五巻』より
            作:五十嵐月夜  原案:BakaFire  挿絵:TOKIAME

             

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