対応不可1.1

2018.08.06 Monday

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     こんにちは、BakaFireです。7月28日には大規模大会、8月4日にはプレリリース大会が無事に終わり、これにてシーズン1のイベントはほぼ全てが終わったと言えます。そしてシーズン2に向け、今週には合計3本のゲームバランスに関する記事を予定しております。
     
     どの記事から読まれるかは分かりませんので、冒頭文は全ての記事で共通のものとしておきます。既にほかの記事でお読みの方は読み飛ばして頂ければと思います。

     

     

    冒頭文:シーズン1バランスへの全体評価

     

     これまではシーズン1の環境を楽しみ、研究を続けて下さったプレイヤーの皆様ができる限り楽しめるよう、私どもは可能な限りバランスに対して言及しないよう心掛けてまいりました。
     
     しかしながらシーズン1も終わり、シーズン2でのカード更新も目前に迫った今週には、今のゲームバランスに関する私どもの想いと考えを包み隠さず、可能な限り誠実にお話しさせて頂きます。
     
     6月の禁止改訂で軽く触れたとおり、現在のゲームバランスは(今後の拡張空間と引き換えに)もっとも整っていた『第二幕』の最終段階よりは崩れたものとなってしまっています。現状への評価を正直に申し上げますと『第二幕+第壱拡張』の時期(2017年3月〜7月)よりは良いバランスにあり、『第二幕決定版』(2017年10月〜12月)の時期よりは悪いバランスにあると考えています。『第二幕+第壱、第弐拡張』の時期(2017年8月〜10月)と比べるとどうなのかは微妙なところです。こういったバランス面の後退については私どもの力不足であり、深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。
     
     このように書くとバランスについて酷くネガティブで、崩壊しているように感じられるかもしれません。しかし誤解なさらないでください。『新幕』はゲーム全体を派手で鮮烈なものにすることに成功した上で、十分に魅力的だった『第二幕+第壱、第弐拡張』の時期と同程度には多くのメガミが輝ける状況を作れています。あくまで最も理想的だった状態から後退したという話なのです。
     
     実際、全体としては『第二幕』よりインフレーションした方向で魅力的なゲームに仕上がっています。しかしながら、バランスが後退したという点もまた事実であり、インフレーションについていけていないメガミがいる一方で、インフレーションするにしてもやりすぎている箇所があり、そして今後に問題となりうる潜在的なリスクも存在しています。
     
     私どもが理想のバランスを目指し続けると理念を掲げており、これらの課題全てに真摯に取り組んでいく意志がございます。それゆえに宣言した理念に従いカード更新を行います。
     
     幸いにしてバランス上の問題やリスクのうち、今見えているものの大半に対しては今回のカード更新でメスを入れられています(3つの記事のうち1つはこのカード更新に関するもので、今の環境についてより詳しく言及し、全てのカード更新への説明を行います)。

     


    残されてしまった2つの課題

     

     このようなバランスの事情から、私はこの3か月間、相当に悩み続けました。しかしそれ以上に、ここ2週間はより深く苦悩しつづけておりました。告白するとともに、皆様に深くお詫び申し上げなくてはなりません。
     
     カードの更新を経てもいまだ2つの課題が残ってしまうと分かったのです。こちらの記事ではそのうちの1つ、比較的軽いものについて説明し、それに対する今後の取り組みと意志表明を行います。
     

     

    何が起こってしまったのか

     

     私どもは来たる8月10日から12日のコミックマーケット94で『第壱拡張:神語起譚』を先行頒布します。そして17日には全国ゲームショップ、ネットショップで発売します。
     
     それに向けて私どもは7月28日の大規模大会でアナザー版ユリナの全カードを、そして8月4日のプレリリース大会でアナザー版サイネとアナザー版ヒミカの全カードを発表しました。
     
     それらのカードには多くの良いフィードバックが寄せられましたが、私の想像を超えて、幾ばくかの悪いフィードバックも集まってしまったのです。そして、悪いフィードバックのほぼ全てがある一つの事柄に対してのものでした。キーワード能力「対応不可」です。
     
     私はこの意見を受けとり、対応不可は大失敗だったのではないかと自問し、8月4日の深夜までにかけて深く悩み考えることにしました。そして私の中で一つの結論が出たため、今後に向けた意思表示と、幅広い意見を求めるためにこの記事を書かせて頂くことにしたのです。
     
     
    対応不可は失敗なのか

     

     まずは結論についてまとめさせて頂きます。

    • 対応不可と言うキーワードを作ったことそのものは間違いではなかった。
    • 対応不可は失敗ではないが「影菱」は大失敗だった。
    • 今回のフィードバックは私どもが過ちに向かいつつあることへの明白なサインである。

     

     それぞれ説明しましょう。
     


    対応不可と言うキーワードを作ったことそのものは間違いではなかった。

     

     『基本セット』『達人セット』『第壱拡張』それぞれの全ての対応不可を持つカードについて、その動機を見直しました。その結論として、対応不可は便利な道具であり、キーワードとしては問題なく成功していると判断しました。
     
     それぞれのカードの動機については後述します。

     


    対応不可は失敗ではないが「影菱」は大失敗だった。

     

     大半の対応不可を持つカードは正しい在り方にあると考えますが、1枚だけ明らかな例外があります。「影菱」です。もうひとつの記事でオボロにはメガミ全体として小さな問題があると書いていますが、その問題の8割強は「影菱」にあります。つまりカード単独としてみると「影菱」は大失敗だと言えるのです。
     
     「影菱」は対応不可であるために理不尽さがあり、高い攻撃力ゆえにゲームを終わらせる力が強く、ゲームの運要素を過剰に高めていました。今回の悪いフィードバックの背景には、「影菱」に対してプレイヤーがうんざりしているという意思表示だとも感じております。
     
     幸い、「影菱」は次のカード更新で更新されます。

     


    今回のフィードバックは私どもが過ちに向かいつつあることへの明白なサインである。

     

     今回の意見を聞き、改めて『第壱拡張』のカードを見つめ直してみましたが、私としてはこれらの対応不可にはいずれも相応の理由があり、これらが直ちに問題だとは感じられませんでした。それゆえに急いでの禁止を行うつもりはありません。ルールを順守し、理念に従ったスケジュールで取り扱います。
     
     他方で、改めて対応不可の枚数が想像より増えていた点には強い危機感を感じました。拡張の中で対応不可を持つ全てのカードには対応不可を付けるべき理由が十分に存在しますが、果たしてそのままの対応不可が最適だったかと言うと幾ばくかの疑問も残ります。
     
     この調子で『第弐拡張』『第参拡張』と進めていくと、私どもはひどい過ちに至るだろうと強く感じさせられます。それゆえにシーズン2の間に対応不可を見つめ直し、その扱いに対してもう少し慎重になるべきと考えております。
     
     
    対応不可はなぜ与えられたのか

     

     続けて、全てのカードに対して対応不可がなぜ与えられたのかを説明します。『第壱拡張』に存在する対応不可を持つカードもすべて出そろっているため、そこまでを含めた説明となります。

     

    分類A:ルールを分かりやすくするためのもの

     

    返し刃

     

     返し刃の2発目に対応ができると、対応した攻撃には対応できないというルールから外れているように感じられ混乱を招きます。それを防止するためのものです。
     
     この類の対応不可は必須であり、決して外すべきではないと考えています。

     

    分類B:カードの役割を遂行するための必要性によるもの
     

    衝音晶
    無窮ノ風
    大地砕き

     

     カードそのもののパワーが小さ目であるため、その効果を安定して機能させるために対応不可を付けるというものです。

     

     「衝音晶」はカードパワーは少し低めの1枚です。もちろんよいカードですが、1/-から対応のリスクを消すくらいのことはしてもよいでしょう。

     

     「無窮ノ風」はカード更新で対応不可が追加されます。「梳流し」を当てるためにこれを撃つというのに、これに「もぐりこみ」を撃たれるのは何かがおかしいと言えるでしょう。
     
     「大地砕き」は全力を使う割にはダメージに繋がりづらく、防御としてもある程度しか働きません。相手を崩す良いカードではありますが、この水準の利得に対して対応を危惧しなければならないのは逆に不当です。
     
     この類の対応不可は問題とはなりづらく、むしろカードを活かすためにも積極的に用いていくべきだと捉えています。

     

    分類C:苦労に見合った安定性を与えるためのもの

     

    乱打
    クリムゾンゼロ
    炎天・紅緋弥香
    奏流し
    影菱
    分身の術
    鐘鳴らし

     

     「斬」を失ったにも拘らず「乱打」は適正距離が2しかないために山札1週目で撃ち辛く、2/1ゆえにライフを安定して取れません。それに加えて決死を達成し、相手のオーラを1以下まで削らなくてはならないのです。
     
     「クリムゾン・ゼロ」は間合0に潜らなければ対応不可が付かず、ヒミカには前進するカードは一切含まれていません。消費5も安いとは言えない値です。
     
     「炎天・紅緋弥香」は消費7と重く、相手は間合の操作で対処する余地があります。そしてこのカードを撃つときには直ちに勝たなければならないのです。
     
     「奏流し」の間合5は戻るのも維持するのも困難です。そして、当てたところで与えられるのは1ダメージです。
     
     「分身の術」を効果的に使うには全力を持たない攻撃を伏せ、さらに相手がその間合にいなければいけません。もし相手が適切に対処したら、延々と手札に抱える羽目になり、残念ながら再構成と言うタイムリミットもあります。
     
     「鐘鳴らし」を撃つためには2歩の後退が必要であり、それに加えて組み合わせる先の攻撃も必要です。
     
     これらのカードを効果的に働かせるには相応の困難さが伴います。それに対して対応1枚で軽々しく対処されてしまうと、これらを目指すというロマンを追うことそのものができなくなり、冷たく苦しいゲームになってしまうと考えています。ロマンを追い、ワクワクとした楽しいゲームにしたいと私は考えているのです。
     
     しかし、この類のカードにはイエローランプも灯っています。同じ理由であった「影菱」には大きな問題がありました。「相応の困難さ」があるからこそこの効果は許されるのであり、その「相応の困難さ」が嘘であればこれらの対応不可は理不尽な問題へと繋がります。
     
     これらのカードの中には対応不可こそがベストマッチであるカードは間違いなく存在し、少なくとも対応不可のようなものはあるべきだろうと考えています。しかし、課題の困難さの度合いに応じて、もう少しマイルドな対応不可に切り替えるべきカードは存在するかもしれません。
     
     これらのマイルドな対応不可についての指針は後述します。

     

    分類D:フレーバーによるもの

     

    癇癪玉

     

     「癇癪玉」は例外であり、ストーリーのフレーバーによるものです。この効果に対して少なくとも「返し刃」で対応されるのは明らかにおかしいと言えるでしょう。
     
     しかし、このようなゲームにとって本質的でないところで、対応不可のようなパワフルなキーワードを加えるべきではありませんでした。今後はマイルドな対応不可に切り替えるべきであり、もし「癇癪玉」にカードを更新すべき程の問題があれば、そのような形に更新します。
     
     
    マイルドな対応不可

     

     最後に、今後の対応不可のあり方について、今の考えを説明しましょう。この段落の内容は確定事項ではありません。シーズン2の間により吟味し、洗練するつもりです。よろしければ皆様のご意見も聞かせて頂けると嬉しい限りです。
     
     私どもは、純粋な対応不可を使う頻度を減らすつもりです。代わりに、もう少し使いやすくした形の対応不可を必要に応じて採用していきます。特に、上記の分類Cの属するものは元来の対応不可に加え、これらの道具も使い分けていく形になるでしょう。
     
     これらの対応不可には2種類のやり方があります。説明しましょう。
     
    1:対象を限定した対応不可

     

     カードの中には、切札を切ってくれるなら対応されるのはやむを得ないが、通常札で対応されるのは我慢ならないというケースは十分に考えられます。そのような際には対応不可(通常札)のような書き方で、部分的な対応不可を与えます。
     
    2:対応の方向ごとの対応不可

     

     本作の対応は主に以下の4通りがあります。複数の分類にまたがっているものもあるでしょう。
     
    顱Ч況發梁任曽辰
    髻-X/-Y修正によるダメージの減衰
    鵝Т峭腓諒儔修砲茲覯麋
    堯反撃

     

     このうち、颪ら鵑紡个靴討楼焚爾里茲Δ塀颪方で効果を分割できます。
     
    ’:【常時】この《攻撃》は打ち消されない。
    ’:【常時】この《攻撃》は軽減されない。
    ’:【常時】この《攻撃》は対応された後に間合を再度参照しない。

     

     ’と’は文章から把握しやすく、このまま採用してもよさそうです。しかしながら、ピンポイントで颪糶鬚梁弍だけを止めたいケースはあまりなく、多くのカードに採用されることはないでしょう。ゆえにキーワードにはせず、本当に必要な時に平文で道具として使う形がよさそうです。
     
     ’はそもそもに意味が分かり辛く、このままの文章でカードに書くのは望ましくありません。しかし他方で鵑砲弔い討蓮△海慮果こそが必須であり、それゆえに対応不可を持つカードは少なくありません。これらを踏まえると、キーワードとするべきと考えています。名前は仮に、回避不可としてみます。
     
     細かく説明しましょう。鵑梁弍カードは他のカードと比べて強力であるためです。間合を外してしまえば攻撃そのものを打ち消せ、さらに間合が変化することで相手のターンを通した計画にも影響を与えられます。通常札の打ち消しが切札以外に限られている反面、この類のカードは切札にも効果的です。
     
     特に「一閃」などの単独の間合を持つカードは鵑梁弍にひどく弱いものです。「一閃」くらい気楽に使えるならば良いのですが、相応に苦労した攻撃をこれで躱されるのは理不尽に過ぎるというものです。
     
     一例をあげるならば「奏流し」は今のところは対応不可が適切だと考えていますが、これがどれほど弱体化を求められたとしても回避不可は付けるべきであると考えています。
     
     
     本日はここまでとなります。対応不可についての皆様のご意見をいただけると、大変ありがたく思います。本日は例外的な記事となりましたが、次回の更新はこれまで通り来週の金曜に、コラボカフェにまつわる話を行います。ご期待くださいませ!

    2018年8月禁止改定

    2018.08.06 Monday

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       私どもはバランス調整の宣言と、それに基づく理念(PC版)(スマートフォン版)に従い毎月第一月曜日にカードの禁止改訂を行います。この記事はその2018年8月のものです。禁止カードを出すことそのものについて疑問や不安を感じる方は、こちらよりリンクしている宣言か、それを要約した理念をご一読いただければ幸いです。

       

      2018年8月禁止カード

       

      全体で禁止

      Thallya's Masterpiece


       こんにちは、BakaFireです。7月28日には大規模大会、8月4日にはプレリリース大会が無事に終わり、これにてシーズン1のイベントはほぼ全てが終わったと言えます。そしてシーズン2に向け、今週には合計3本のゲームバランスに関する記事を予定しております。
       
       どの記事から読まれるかは分かりませんので、冒頭文は全ての記事で共通のものとしておきます。既にほかの記事でお読みの方は読み飛ばして頂ければと思います。

       

      冒頭文:シーズン1バランスへの全体評価

       

       これまではシーズン1の環境を楽しみ、研究を続けて下さったプレイヤーの皆様ができる限り楽しめるよう、私どもは可能な限りバランスに対して言及しないよう心掛けてまいりました。
       
       しかしながらシーズン1も終わり、シーズン2でのカード更新も目前に迫った今週には、今のゲームバランスに関する私どもの想いと考えを包み隠さず、可能な限り誠実にお話しさせて頂きます。
       
       6月の禁止改訂で軽く触れたとおり、現在のゲームバランスは(今後の拡張空間と引き換えに)もっとも整っていた『第二幕』の最終段階よりは崩れたものとなってしまっています。現状への評価を正直に申し上げますと『第二幕+第壱拡張』の時期(2017年3月〜7月)よりは良いバランスにあり、『第二幕決定版』(2017年10月〜12月)の時期よりは悪いバランスにあると考えています。『第二幕+第壱、第弐拡張』の時期(2017年8月〜10月)と比べるとどうなのかは微妙なところです。こういったバランス面の後退については私どもの力不足であり、深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。
       
       このように書くとバランスについて酷くネガティブで、崩壊しているように感じられるかもしれません。しかし誤解なさらないでください。『新幕』はゲーム全体を派手で鮮烈なものにすることに成功した上で、十分に魅力的だった『第二幕+第壱、第弐拡張』の時期と同程度には多くのメガミが輝ける状況を作れています。あくまで最も理想的だった状態から後退したという話なのです。
       
       実際、全体としては『第二幕』よりインフレーションした方向で魅力的なゲームに仕上がっています。しかしながら、バランスが後退したという点もまた事実であり、インフレーションについていけていないメガミがいる一方で、インフレーションするにしてもやりすぎている箇所があり、そして今後に問題となりうる潜在的なリスクも存在しています。
       
       私どもが理想のバランスを目指し続けると理念を掲げており、これらの課題全てに真摯に取り組んでいく意志がございます。それゆえに宣言した理念に従いカード更新を行います。
       
       幸いにしてバランス上の問題やリスクのうち、今見えているものの大半に対しては今回のカード更新でメスを入れられています(3つの記事のうち1つはこのカード更新に関するもので、今の環境についてより詳しく言及し、全てのカード更新への説明を行います)。

       


      残されてしまった2つの課題

       

       このようなバランスの事情から、私はこの3か月間、相当に悩み続けました。しかしそれ以上に、ここ2週間はより深く苦悩しつづけておりました。告白するとともに、皆様に深くお詫び申し上げなくてはなりません。
       
       カードの更新を経てもいまだ2つの課題が残ってしまうと分かったのです。こちらの記事ではそのうちの1つ、より重いものについて説明し、禁止改訂と言う形で解決を図らせて頂きます。

       

       カード更新は間違いなく合格点の仕上がりで、ゲームをより魅力的にしています。しかし残念ながら満点ではありませんでした。カード更新パックは7月の上旬には入稿しなければならなかったため、直近の事情、特に7月28日の大規模大会の結果を反映することはできませんでした。

       

       それゆえに、最もバランス上の問題が大きい事実を把握できず、カード更新に含めることができませんでした。結果として、大きな失敗1つと、小さな心配事2つを抱えてしまったと感じています。心配事については失敗とは限らないためここでは語りません。大きな失敗について歴史的な側面も含めて説明し、お詫び申し上げます。


       

      何が起こってしまったのか
       
       特に強力なメガミとして、ライラ、オボロ、クルルの順に戦略が発見され、話題が推移していったと私どもは把握しています(より細かくはカード更新の記事にて)。そしてそのいずれよりも後、7月頭ごろになってからサリヤが強力であると話題になっていきました。
       
       関東でも7月8日の交流祭でサリヤが大活躍し、そしてその場で幾らかの問題提起がなされました。私はその日のうちにカード更新の内容を話し合って手を入れ、どうにか「Form:YAKSYA」を更新内容に含めることはできました。
       
       しかし「Thallya's Masterpiece」までは手が回りませんでした。また「Form:YAKSYA」の更新内容もこのカードがきちんと輝き続けられる程度の調整にとどまります(長期的に見れば正しい判断ではあります)。そしてさらに厄介なことにサリヤはそこから研究がさらに進み、最終的にはこれまで強力とされてきたいずれのメガミよりも問題が大きいと分かってしまったのです。
       
       そして先に述べたライラ、オボロなどを含む数柱は強力であるゆえに、それぞれ小さな(禁止カードを出すほどではない)問題を抱えています。そしてこれらの問題を私どもは把握していたため、カード更新で解決できるようにしています。しかしこうなるとサリヤの問題はより致命的になります。多くの課題が解決された上で、サリヤだけが中程度の問題を抱えたまま放置されてしまうのです。
       
       シーズン1では小さな問題たちが積み重なることで互いにぶつかり合い、結果として問題とはあまり感じられないという状況も目立ちました。しかしそれらの問題が取り除かれることになると、シーズン1よりも悪い状況になることは想像に難しくありません。
       
       私どもはここまでの結論に至った時点で、シーズン2を待たずにカードを禁止させて頂くことにいたしました。大会などの結果を踏まえた方が安全なのは確かです。しかし私どもは全てのプレイヤーの皆様に誠実であるよう心掛けており、楽しむためにお越しいただいた方に理不尽な体験をさせてしまう可能性はできる限り取り除くべきと考えております。私どもが大きく問題であると判断している環境を放置するのはまさしく不実であり、さらに言うならば私個人はそのような自分を決して許せません。
       
       以上を踏まえ、サリヤのカードの中で最も問題があり、さらにカードの更新も行われない「Thallya's Masterpiece」を禁止させて頂きます。これらの事情により、この禁止はシーズン2の間継続します。
       
       この失敗について、私どもバランス調整チームの力不足と非難されたとしても、何一つ返す言葉はございません。私どもに十分な実力があれば環境をより先んじて把握し、カード更新を通してサリヤの問題を解決することはできたはずです。これらについて深くお詫びし申し上げます。重ね重ね、誠に申し訳ございませんでした。
       
       今後の改善策につきましては、こちらの記事の最後に書かせて頂きます。

       


      サリヤの何が問題なのか?

       

       ここまでで歴史的な側面と、実際に行う禁止措置は説明させて頂きました。次は、サリヤがどのように問題であるのかを説明させて頂きます。
       
       サリヤの問題点は多岐にわたります。まとめると、以下の4点になります。
       
      1:攻撃力が高い
      2:防御力が高い
      3:弱点がない
      4:理不尽かつ強力な動きがある

       

       これらを見ると私どもがひどく愚かであるように感じられ、自省の念に駆られてしまいます。しかし、環境全体として見ても早くて6月末、洗練されたという意味では7月下旬になるまでサリヤが強く話題にならず、むしろオボロやライラの方が問題視されていたのは事実です。これはどういうことでしょうか。
       
       それはサリヤの問題が複合的なものであり、使い方が洗練されるまでは問題として認知されづらいものだったためです。実のところ、1、2、3についてはそれぞれ単独で見る範囲では問題と呼べる水準ではありません。これらが全て揃ってやっと小さな問題と呼べる程度であり、そして全て揃っていると言っても勝ち目がないほどではないのです。
       
       4の強力な動きは「Form:YAKSYA」と「Thallya's Masterpiece」の組み合わせによるものです。「Beta-Edge」の騎動前進と「Thallya's Masterpiece」による後退、あるいはその逆を組み合わせることでリソースが許す限り「Beta-Edge」を撃ち続けられます。別のルートとして、間合2から「Beta-Edge」を使用し、間合0へと潜り続ける動きも強力です。
       
       しかしこれも単独では驚きのあるコンボに過ぎず、問題と呼ぶほどではありません。ですが、1から3と両立するとなると話は違います。これらと組み合わさるがゆえにコンボは安定し、他方でコンボの存在が1から3の強みを底上げしてしまいました。
       
       それに加え、このコンボには理不尽さがあります。それも単独なら問題ではないですが、2や3と組み合わせるがゆえに理不尽さに加え、どうしようもないという感覚を与えてしまいやすく、大会などにお越しいただいたプレイヤーの方に不愉快でひどく疲れた感覚を与えてしまう恐れがあります。
       
       これについては、特に『新幕』から本作を始めて下さった皆様に対して強い申し訳なさを感じております。そして、このような体験を繰り返さないためにも今回の禁止へと踏み切らせていただきました。

       


      今後の改善策はあるか?

       

       最後に、今回の私どもの失敗を踏まえ、改善策をお話しいたします。
       
       今後は「次の拡張に向けたカードのバランス調整」と「カードの更新」の切り分けをより大きくして、現在のバランス調整チームは前者を重く見るようにいたします。今回の反省点として、2つの調整案件を1つのチームで見ていたため拡張の調整に集中せざるを得ず、環境を見ることへの意識が少しおろそかになってしまったと考えています。
       
       他方で、後者についてはより幅広く生に近い意見を拾えるよう、現在のバランス調整チームに所属していないプレイヤーをゲストテスターとしてお呼びし、「カードの更新」を専門にしたプレイテストを開催します(今のバランス調整チームも、全員とは限りませんが参加します)。
       
       前者は新たなメガミやアナザー版メガミなどの秘密にするべき情報を扱うため、安易に人を増やせませんが、カードの更新であればより広いプレイヤーをお呼びしても問題ないと判断したのです。
       
       このやり方について関東の意見を拾うべきなのは当然ですが、それ以上に私個人としては関西の意見を上手く拾えていない点を憂慮しています。関西は関東に次いで大きいコミュニティであり、そこに所属する実力者たちは決して無視すべきではありません。
       
      (もちろん中部、九州、北海道なども重要ですが、すべてをカバーしようとするのは無理がありすぎるのも事実です。ご容赦ください)
       
       関東と比べて地理的な距離ゆえに、いくらかの難しさがあるため悩ましいところではあります。どのようにすべきかは決めてはいませんが、場合によっては私が直接関西までお邪魔させて頂き、そこでご意見を頂くための日を設けるかもしれません。
       
       
       本日は以上となります。次回の禁止改訂は9月3日(月)となります。シーズン2が出て最初の禁止改訂であるため、私どもは8月の大会環境には特に注意深く目を凝らすつもりです。

      シーズン2でイベントが新時代へ!

      2018.08.03 Friday

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         こんにちは、BakaFireです。本日は次のシーズン、そして新たなステージに向けたイベントの変化をお伝えいたします。
         
         
        シーズン2は8月17日から開始だ!

         

         『新幕』基本セットと達人セットの発売日である5月18日から続いたシーズン1は、8月16日をもって終了となります。そして『新幕 第壱拡張:神語起譚』の一般発売日である8月17日よりシーズン2が開始いたします!
         
         シーズン2からは『新幕 第壱拡張:神語起譚』に登場する新たなメガミ・ウツロ、そしてユリナ、サイネ、ヒミカ、トコヨのアナザー版メガミが使用可能になります。さらに今存在しているメガミたちのカードにもカード更新を通して変化が起こり、より魅力的なゲームがお楽しみいただけるようになります。

         

        ※ 申し訳ないながら、シーズン間の混乱防止と、賞品の郵送スケジュールにおける安全を確保するために、8月13日から8月16日の4日間は公認大会の承認を止めさせて頂きます(交流会の開催は可能です)。ご容赦くださいませ。

         


        賞品も次の時代へと進む時だ!

         

         シーズン2になって変化するのはカードプールだけではありません。覚えておりますでしょうか。現在の優勝賞品であるプロモーションタロット「ヒミカ」の復刻期間は6月24日から8月12日まででした。つまり……、
         
         その通りです。8月17日、シーズン2からは新たな優勝賞品、プロモーションタロット「サイネ」の時代となります。ええ、当然ですとも。お見せいたします!
         


         
        ※ プロモーションタロットのプレミアムさを残すために、かなり縮小した画像としております。ご容赦ください。


         それだけではありません! これまで半年以上に渡り、全国各地の交流祭を盛り上げたプロモーション集中力カードにも変化があります。現在の戦乱之陣の賞品(交流祭で5点(勝利で2点、敗北で1点)以上を獲得したら贈られます)であるプロモーション集中力カード「オボロ」は9月の交流祭にて配布が終了となります(まだ獲得していない方はぜひとも8月か9月の交流祭にご参加ください)。
         
         そして10月からは新たにプロモーション集中力カード「サリヤ」が登場しますよ!
         

         


        交流祭に特殊テーブルが帰ってくるぞ!

         

         賞品が変わるだけではありません。全国で開かれる交流祭イベントもより魅力的になります。これまでは『新幕』発売直後ということもあり、特殊テーブルの開催を控えておりました。これについてはいきなり変わったことをやるべきでないという理由と、『新幕』直後の慌ただしさゆえに私どもに準備の時間は不足していたという理由によるものです。
         
         しかしもはや『第壱拡張』が発売し、環境も整いつつある今月以降、これらの魅力的なテーブルを開催しない理由はありません。
         
         まず「大乱闘テーブル」(既存の大乱闘ルールを『新幕』で遊ぶ卓1つと、全くの新規ルール1つが並ぶ形となります)と「O2Dテーブル」が戻ってきます。
         
         そして「メガミに挑戦!」ですが、これについてはそのままの形では戻ってきません。このテーブルはメガミそのものへと挑戦するというストーリー性と、ゲームを崩壊させるようなクレイジーなカードの魅力により大人気を博しました。
         
         しかしながら、すでに挑戦が存在している13柱のメガミの原初札を『新幕』にコンバートしたとしても、ここには大きな驚きはなく、看板にするだけの魅力はありません(いつの日か、全原初札をコンバートしてまとめてお見せするつもりではあります)。
         
         そこで私どもは、このテーブルの大きな魅力であるストーリー性に注目し、物語を再現するような特殊テーブルを用意することにしました。『第壱拡張』の特設ページをご覧いただいたらお分かり頂けると思いますが、シーズン2は公式小説『桜降る代の神語り』がコンセプトになります。つまり、『神語り』のストーリーを再現するような特殊デッキを用いた対戦が可能なのです。

         

         ストーリーを追ってくださっている方が大いに楽しめるのは当然として、ストーリーを呼んでいない方もカジュアルに楽しめるような内容を予定しております。ご期待くださいませ!
         
         「メガミに挑戦!」がなくなるわけではありません。こちらは物語テーブルの一種として存続します。つまりいつの日か「ライラに挑戦!」は開催されますのでご期待ください!

         

         大いにパワーアップした交流祭は関東では8月25日「夏暁の交流祭:東京の部からお楽しみいただけます。さらに、九州にお住まいの方は大チャンスです。それよりも早く、8月19日夏暁の交流祭:福岡の部」の時点で特殊テーブルもお楽しみいただけるのです。

         

        【2018/08/12追記】

         

         こんにちは、BakaFireです。皆様にお伝えすべき魅力的な変更が行われましたため、こちらの追記にてご案内します。大変ありがたいことに「夏暁の交流祭:東京の部が満席となったこと、そしてシーズン2での私どもはより初心者向けのイベントにも力を入れていきたいということ、これらを鑑みて、本イベントに大きな変更を行うことにしました。

         

         これまで公式の交流祭のリザーバーの皆様に向け、裏イベントを開いていただいていたグリバーさんのご協力を頂き、同日に「夏暁の交流祭:東京の部(大会なし)を同じ秋葉原の別会場で開催することにしたのです。こちらのイベントでは大会は開かれません。しかしこの記事で紹介した様々な特殊テーブルは全て存在し、さらに戦乱之陣の賞品(プロモーション集中力「オボロ」)も獲得できます。

         

         この試みは素晴らしいものです。まず、単純に参加可能な人数が24名増えるため、リザーバーの方にもお楽しみいただきやすくなります。そして大会に出ることに対して高いハードルを感じる方もお楽しみいただけるようになるのです!

         

        【2018/08/14追記】

         

         現在、参加の予約を開始しています。大会一覧のフォームよりお申込みお待ちしております!

         


        コラボカフェオープニングイベントにつきまして

         

         先週の記事にてコラボカフェについてお伝えさせて頂きましたが、そちらのオープニングイベントの申し込み開始時期をまだお伝えしておりませんでした(店内スペースの都合より、オープニングイベントには20名までしかご参加いただけないため、申し込み開始時刻は厳格に決めさせて頂きます。ご容赦ください)。
         
         申込開始は8月6日(月)21時とさせて頂きます。参加を希望される方は、この辺りの時間にイベント情報ページにご注目頂ければ幸いです。


         
         さて、本日はこんなところでしょうか。ご覧いただきました通り『新幕』のイベントは大きくパワーアップして展開していきます。新たな舞台であなたの実力を試すもよし、カジュアルに楽しむもよし。あなたのご参加、心よりお待ちしております!

         

         来週のゲーム関連記事はお休みをいただきます。しかしその代わりに6日には禁止改訂、10日から12日のどこかではカード更新の記事が掲載され、そちらでは現状のゲームバランスについての見解を丁寧に書かせて頂きます。

        『桜降る代の神語り』第61話:メガミマンVSメカゴジョー

        2018.08.03 Friday

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           仮面と仮面。さらには、程度の差こそあれど、悪党と悪党。
           あの衝突が、英雄譚にしては異質すぎる相対だったことは間違いない。
           けれど、多くの人々が彼をほら吹きだと笑っても、カナヱはそれが語られるべき大切な出来事だと知っている。

           

           華々しい英雄譚の陰で繰り広げられた、即席の英雄の戦いを君に聞かせようじゃないか。さあ、愛の戦士、メガミマンの生き様にご括目だ。

           

           

           


          「おわっ……っと、っとぉ! 危ないってば!」

           

           物が乱雑に散らばった床に気をつけながら、メガミマン、もとい楢橋は身体をくねって攻撃を回避していく。
           彼に向かって繰り出されているのは突きだ。それも、赤面の男が作り出した桜色の光で編まれた兜の立派な一本角によるものである。頭突きと言えば聞こえは悪いが、見た目以上に軽い身のこなしから繰り出されるそれは、楢橋にただ回避を強いていた。
           顔を覚えられてはならないという泥棒の本能から仮面を外せずにいる彼は、慣れない覆面の視界の中、奇怪な仮面から必死に逃げ回っていた。

           

          「大人しくッ! しろッ! 曲者めッ……!」
          「いやだねっ!」

           

           振り回される角の先が腕を掠めていく。その力強さに楢橋はひやりとしつつも、足元にあったガラクタを相手に向かって蹴り飛ばす。まともに追いつかれたら刺し殺される以上、足を鈍らせるのは分かりやすい対抗策の一つだ。
           しかし、僅かな隙をついて距離をとった楢橋は、あくまでそれが比較的マシな選択肢でしかないこともまた理解していた。

           

           足を打ったガラクタを忌々しげにどける赤面の男は、ガラクタの山を挟んだ向こう側にいる楢橋へ右手を向ける。
           飛び出た炎が、軌跡を辿るように楢橋の背中に食らいつく。

           

          「ぅわっちちちち!」
          「こっちはひと思いには死ねんぞ? ネズミ一匹のせいで、研究成果を焼き尽くすわけにはいかないからな」
          「だから、死なないって――あっづ!」

           

           今度は足を炙られ、飛び上がるようにしてひたすら彼我の距離を求めた。
           赤面の男の言う通り、この部屋の損傷を避けたいのか、角による攻撃よりも炎による攻撃のほうが随分と殺意が薄かった。忍の里を焼き払ったというには、あまりにも火勢は弱い。それが楢橋の数少ない幸運の一つであった。

           

           けれど、それは好機の礎というにはあまりに心もとない。それこそ、じわじわと焼かれて逃げ切れなくなる結末は目に見えていた。
           何故なら両者には、その程度の加減では埋まらない根本的な差があったからだ。

           

          「まったく、ちょろちょろちょろちょろと……」

           

           立ち止まり、顔と面の境を掻く赤面の男。
           油断なくその様子を伺っていた楢橋は、歯車で出来た仮面の歯の向こうに、男が嗤うのを見た。

           

          「ふん……ミコトですらないくせに」
          「……!」
          「気づかないとでも? ここまで入り込んでくるなんて手練れの忍かと思ったが、まさか逃げ回るだけが能の、ただの人間だったとはなあ。どこから制服を手に入れたのかは知らないが、コソドロを少しでも警戒した私が馬鹿みたいだ」

           

           ははは、と光る手の甲を晒しながら響かせる嘲笑はあまりにわざとらしく、仮面越しに楢橋に染み込んでいく。

           

           神座桜のない場において、ミコトと人間の違いは絶対的なものではない。超人的な力や技を発揮できないミコトは、あくまで常人の枠に留まる存在である。
           だが、多くのミコトは先天的に優れた身体能力を有している。それは概ね人間が鍛えれば超えられる程度のものではあるが、逆に言えば鍛えていない人間とは根本的に差が生まれているということでもある。
           何より――天音揺波たちの襲撃の可能性を認識していたらしい赤面の男にとっては、神代枝という切り札を無視してもよいというさらなる安堵に繋がるのだ。

           

           ぐ、と楢橋の拳が握りしめられる。
           楢橋もまた、仮面の口の向こうで、不器用に口を歪ませていた。

           

          「へぇー……よく見てるじゃん。でもさー、それ女の子にはあんまりやんないほうがいいよ? じろじろ手見てたら『きもちわるーい!』って怒られちゃったことあるし」
          「コソドロで、軟派者か。はは、残念だったなあ! クズらしい惨めな人生を送っていたんだろう? せめてミコトに生まれていれば、多少はマシだったろうものを!」
          「そうかよッ!!」

           

           吠えると同時、前へ突き出された楢橋の手から、吹き出したものがあった。
           水だ。
           左腕につけていた複製装置<雫>によって、猛烈な水流が赤面の男に向かって宙を走った。

           

          「む……!」

           

           今まで袖の下に隠れていたためか、思いもよらぬ反撃に虚を突かれた様子の赤面であったが、染み付いた動きは身体が勝手に繰り出すものである。装着していた桜の兜をお辞儀をするように差し出せば、放たれた水流は霧と散っていった。
           伏せていた切り札を出してしまった以上、楢橋に攻撃の手を緩めることは許されていない。ミコトのように与えられた力で敵をなぎ倒すことができない彼には、手持ちの武器を最大限活かし、そして頼る他ないのだ。

           

           両の手を互いに掴んだ楢橋は、掌底に空いた隙間を相手へ向ける。すると、先程よりも細く、勢いのある水流がそこから短い間隔で飛び出し、矢のようになって赤面に迫った。
           水の矢の半数は相手に当たる軌道を描いていたが、赤面はむしろ自分に当たらない矢に感心したようだった。

           

          「ほう!」

           

           彼は立てた右腕を前に出すことで、守護の力を前面に広げた。即座に組み上がった桜色の城壁が、水の矢を悉く弾いていく。背後にあった本棚や大型の絡繰に当たるはずだった矢も、同様に砕け散っていった。
           その様子を見て取った楢橋は、今の射角を放棄するように位置取りを変えながら、合図をするように二本指を下に振り下ろす。矢に気を取られている間に、赤面の頭上に特大の水球を移動させていたのだ。
           だが、

           

          「悪くない」
          「な……!」

           

           赤面が左手で弾ける何かを表現した瞬間、その水球の中から火炎が溢れ出し、弾け飛んでしまった。
           ぽたぽた、と蒸発しそこねた水が床に撒き散らされ、赤面の男に降り注ぐはずだった大質量の水の檻の無残な最期に楢橋は歯噛みする。
           そんな彼の下へ、城壁を解いた赤面の男は静かに駆け出していく。

           

          「いかに誰でもメガミの力を扱えると言っても、複製装置はそれを可能にするだけで使いこなせるかはまた別の話だ。その使いよう……今すぐにでも機巧兵団に入れるぞ。私が保証してやろう」

           

           さらに速度を上げて迫る男に水流を叩きつけようとするも、向けた腕から軌道を読まれて回避される。
           さらに一歩、踏み込むことで距離を詰めた赤面は、

           

          「まあ――あくまで、一兵卒としてだがな!」

           

           言い放つなり、入り込んだ懐から楢橋の腹を抉ろうと、兜の角を突き出した。
           打つ手のない楢橋は、少しでも受け流そうと決死の覚悟で後方へ飛び退る。しかし、そこで躱したはずの角が、一呼吸置く前に再び迫っていた。
           赤面の男が背後に向けた手のひらから、爆発が生じていた。

           

          「……!?」

           

           脚によらない推力で繰り出された二段目の刺突に、今度こそ楢橋は回避の失敗を悟った。宙に浮いた彼の正中線を見事に狙った攻撃は、身をひねったところでどうあがいても当たる軌道だった。
           彼が差し出したのは、左腕。
           二の腕に突き刺さった角は骨に直撃し、嫌な音が響く。力の入らなくなった腕は緩衝材に成り下がったが、それでも赤面の突進の衝撃は殺しきれない。

           

          「あッ――ぐぁッ……!」

           

           吹き飛ばされた楢橋は、二度、三度と跳ね、散らばったガラクタをさらに無秩序な状態にしつつ、細音が安置されている柩に背中からぶつかって止まった。

           

          「ぁ……ぁ、ぁ……」
          「ネズミ退治もそろそろ終わりか」

           

           頭を揺らす衝撃に思考が曖昧になりかけたが、左腕から発せられる痛みが味方する。しかし、左腕以外はわりと動く、と把握したまではいいが、ただでさえ追いつかれていたのにこれから赤面の攻撃を捌ける自信はとんと湧いてこなかった。
           複製装置<雫>もつけた腕が動かなくてはろくに扱えない。それ以外に、彼が持つ武器はない以上、詰みがそこに待っていた。

           

           苛立たしげに面との境を掻く赤面の男が、一歩、また一歩と近づき、それは次第に追撃を成すために加速していく。
           何か、と動く右手を彷徨わせる楢橋。この期に及んで外れなかった笑う髭男の面に運命を感じずにはいられなかったが、あとはもう投げつけてひるませるくらいしか彼には考えつかなかった。
           と、そんな彼の手が、『何か』に触れた。

           

          「死ねええぇぇぇぇッ!」

           

           叫びを上げ、角を向けて走り込んでくる赤面。どれほど不格好な突進であろうとも、今の楢橋には避ける手段はない。
           そう――避ける手段は。

           

           最後の踏み込みを為した赤面の男の眼前。
           そこに、一抱えほどもありそうな、大きな八面体の水晶が突然現れた。

           

           

          「は――」

           

           止められない勢いのまま、突進の矛先は阻むように出現したその水晶へと吸い込まれていく。
           だが、その水晶は砕けることなく、赤面の刺突を受け止めた。生じるはずの激突音すらもじんわりと吸収していくようで、一瞬、宙で静止した赤面と相まって、時が止まったかのようだった。
           さらに、世界の再開は、赤面の動きによって告げられる。

           

          「う、うおっ!?」

           

           赤面の男が、強い衝撃を受けて弾き飛ばされた。まるで、受け止めた衝撃を、水晶がそのまま反射したかのように。
           そのままふわりと楢橋の前に浮いた水晶を、赤面はその面の向こうから不快そうな眼差しで睨み、視線はその奥、楢橋本人へと向けられる。
           楢橋は、手にしたソレを右腕にはめながら、柩に体重を預けるようにして立ち上がっていた。

           

          「ふ、ふふーん、複製装置<晶>って……とこ、かな?」

           にやり、と面の奥で笑った楢橋は、この部屋に持ち込んでいたもう一つの複製装置を、赤面の男に突きつけたのだった。

           

           

           

           


           柩を開けるために楢橋が行った試行錯誤は多岐にわたる。繋がっている線を辿った先を調べたり、欠落していそうな部品がないか探したり、ガラクタの山をひっくり返したり……全ては結局無駄だったわけだが、一つだけ、無駄に意味がありそうなハズレがあった。

           

          「これは……ひょっとすると、細音サンに、助けられた……とかなのかなー?」

           

           血の滴る左腕をだらんと垂らす楢橋の周りには、たった今赤面の男の攻撃を跳ね返したものと同じ水晶が、計五つ、守りの陣を敷くように浮かんでいた。
           楢橋が惜しいと感じていたハズレ……それは、細音の柩の側面に、複製装置がちょうど収まる口が開いていたことだった。彼はそこに、先程くすねたばかりの複製装置<巌>を差し込んでみたのだが、結局うんともすんとも言わなかったことに肩を落としてそのままになっていたのだ。

           

           赤面の男との遭遇前に再装着できなかったこと、戦闘中にその余裕がなかったことは不運であったが、最終的に運良く手中に収めることができたのは、彼の悪運の強さを称える他ない。

           

          「うーん……よく分かんないけど、これはきっと……オレっちの想いが、細音サンに通じたんだよ、ネ? はは、嬉しいなあ……愛、感じちゃうよ」
          「ちっ……馬鹿馬鹿しい。だから何だと言うんだ。お前が死ぬまでの時間が延びただけじゃないか!」

           

           悪態をつく赤面が再度踏み切る。楢橋はちらりと背後を振り返ってから、戦場を柩の周りから移すように横へ駆け出した。
           深手を負った彼の動きは鈍い。水晶という防御手段が手に入ったのは幸いだが、使い方がろくに分からないままでそれに頼り切りになるわけにもいかない。なんとなく、動かせているような気になっているだけでは状況は好転しない。

           

           そんな状況を強調するように、色味を増した兜の角が、水晶の一つを穿った。
           身を固くしていた赤面の男が弾き飛ばされることはなく、水晶は楢橋の身代わりになって無残に散った。

           

          「ははッ! どうした、あと四つだぞ!?」
          「くっ……!」

           

           砕けて落ちていく水晶を相手に蹴りつけるも、その程度では小揺るぎもしない。そうした無駄な反撃で崩した体勢を立て直すために、もう一つ水晶が犠牲になる。

           

          「最初の、やってくれても、いいじゃん……」
          「まぐれがそう何度も続くか!」
          「愛だもん!」

           

           痛みを紛らわせるように叫んだ楢橋だったが、ふと、自分の声がやけに響いたことに気づいた。まるで洞窟の中で声を出したときのような、そんな反響が耳につく。物が溢れかえっているこの部屋では、今までなかった現象だった。
           そこで彼は、三つになった水晶の盾を全て自分の前面に集めようと念じた。応じる動きは決して機敏なものとは言えず、お互いぶつかってしまう始末であったが、彼が求めたのはむしろその結果であった。

           

          「はっは、今にも割れそうな音だな!」
          「ならどうぞっ!」

           

           楢橋は水晶のうちの一つを、赤面の顔に向かって思い切りぶつける。流石にまるごととあっては衝撃があったらしく、赤面は若干ひるんだ。その隙に柩を飛び越えた楢橋は、敵とその柩を挟んで対面することになる。
           無論、すぐに後を追おうとした赤面の男だが、それに楢橋は、左腕の痛みを努めて隠しながら、

           

          「あんたさー、なんか拍子抜けだよねえ」
          「……なんだと?」

           

           赤面の男の足が、止まった。
           仮面の下で口端を歪める楢橋は、右だけで肩をすくめてみせる。

           

          「いやね? 赤い変なお面を被ったやつには気をつけろ、って言われてたからさー。忍のみんなを焼き尽くした外道、っていうもんだから、もーっと怖くて強い人かと思ってたんだよねえ」
          「…………」
          「見つかったときも、正直ダメかと思ってたんだけど……でも、オレっち一人ろくに始末できないのに、それホントかなー? って思い始めてきたんだよね。ミコトですらないオレっち一人に、そんな奴が手間取るかなあって」
          「……ほう」

           

           そっと、左腕の傷を抑えながら、彼は言う。

           

          「必死に頭ぶんぶん振って、猪じゃないんだからさー。そんなんじゃ牡丹鍋にされちゃうよ? ……そろそろ、お仕事片付けた忍たちが、ここに来る頃だしね」

           

           得意げに。けれど、脂汗を滲ませながら。
           それは、苦し紛れについた嘘のようであるが、そういった体の挑発でもあった。援軍の到着という情報の真偽を赤面の男が確かめる余裕はない。彼にとって、楢橋の言葉から導き出される結論は、真偽問わずたった一つである。
           弱者相手に手間取っていることは、確かに真実なのだから。

           

          「……望み通り、忍同様焼き殺してやるッ!」

           

           轟、と赤面の男の手の上で、火球が燃え盛った。
           そして、太陽のような灼熱の塊が、楢橋を灰にせんと放たれる。

           

          「待ってまし、た……ッ!」

           

           部屋の損害も顧みない一撃に楢橋があてがったのは、折れていた左腕だった。右手で無理やり前に向けると、手の先から大瀑布が溢れかえった。ひっくり返りそうになる勢いに足で堪えながら、迫る火球を押し返すように全力で水を放出する。
           それがメガミの力によるものだろうと、膨大な熱量に膨大な水流をあてがえば、生じる結果は自ずと決まってくる。柩の直上で衝突した相反する二つは、互いを削り合うように勢いを減じ、そして消えた。

           

           後に残ったのは、白だ。
           隠し部屋は、水蒸気で満たされた。
           一瞬で広がった濃密な水蒸気の向こうに、彼我の姿が隠される。

           

          「あっ、クソ……前が……!」

           

           眼前の敵を見失う焦りは尋常なものではない。さらに、局所的な高温多湿という特異な環境に放り込まれたことで増していく不快感が、それを炙るように加速させていく。赤面の男が慌てて桜の城壁を展開し始めたのも無理はない。
           狙うのは、その瞬間だった。

           

          「喰らえーーッ!!!」

           

           気合を込めた一撃を、楢橋は繰り出そうとする。
           あえて、その気合を声に乗せて。

           

          「馬鹿め……!」

           

           視界が頼りにならない現状、咄嗟に声の方向へ反応した赤面の男は、正しい。見えない敵が漏らした自分の位置に向かって、迎撃の炎を放ったのもまた、正しいだろう。遅れる決着への焦燥の中、好機に食いつかないわけにはいかないからだ。
           けれどそれは、失敗に他ならなかった。あるいは、もう少し耳をそばだてていれば違っていたかもしれない。

           

           白い視界の中を行く炎は、確かに獲物を捉えた。
           焼き尽くしたそれは、バタン! と中身の詰まった書架が倒れたような音で、息絶えたことを主張した。
           ……明らかに、肉の音ではなかった。

           

          「あーあ、いっけないんだぁ。瑞泉サマに言ってやろーっと」
          「あっ、ああっ……!」

           

           空間を奔った炎を皮切りに、徐々に水蒸気が晴れていく。赤面の男は、その中に決してあってはならない光景を認めて絶句した。
           細音が収められている柩から延びていた複数の線……その先に繋がっていた大きな箱状の絡繰が、木造部分が炭と化した無残な姿を晒して倒れ伏していた。
           そして狙われたはずの楢橋は、声の源とは全く別の場所で健在であった。

           

          「な、ななななん……」
          「わざとさ、別の場所に……物音立てて、誘導するの、コソドロの常套手段なんだ。悪いね」

           

           楢橋が目の前に浮かべた水晶を叩くと、コンコン、と柩の絡繰の向こうから響いてくる。そこには、無事だったあと一つの水晶が浮かんでいた。音に干渉する水晶を組み合わせることによって、音源の位置を誤魔化したのである。
           受け入れがたい現実に動揺しきりの赤面は、自分の失敗を素直に飲み込むことを放棄したのか、えらを掻きむしりながら、

           

          「き、貴様……貴様ァ、よくも……!」
          「いや、あんたがやったんじゃん。オレっち悪くないもんね」
          「あああぁぁぁぁっ、絶対許さん!!」

           

           激昂した彼は、兜の角をさらに逞しくさせながら、柩の向こう側で口笛を吹く楢橋へ突進の姿勢を見せる。
           けれど、赤面の男が柩を飛び越えようと、踏み切ろうとした瞬間だ。

           

           ガンッ! と柩が中からの衝撃に大きく揺れた。
           突然のことに赤面の男は驚きに身体を震わせて、狼狽えながら柩から距離を取る。

           

          「…………」

           

           赤面の男の息を呑む音は、しかし異音によってかき消された。
           柩の頭のほうから、多くの回転する何かが急加速したような低い唸り声が聞こえ始めていた。さらには、うっすら黒い煙が立ち上ったり、焼けた装置とを繋げていた幾本もの線が、扱っていた力に耐えかねたように柩から千切れ飛んだり、明白に異常を訴えている。

           

           そして、パリィン! と。
           甲高い音を立て、柩の天板の硝子が、勢いよく割れた。

           

          「ひっ……」

           

           破砕に一度目をつぶったその間に、柩の中から天を指すものが一本。
           それは、寒気を覚えるほど美しい、極寒の海底から汲み上げてきたような色合いの刀身を持つ薙刀であった。

           

           彼女の瞳は、光を映さない。
           彼女の耳は、敵の鼓動を聞き逃さない。
           彼女の全ては、ただ技を極めんがためにある。

           

           氷雨細音。
           技巧を追い求める少女は、今、縛めから解き放たれ、立ち上がった。

           

           

          「よかった……ちゃんとオレっちの愛が通じてたんーーぐはぁッ!」

           

           後退る赤面の男とは対照的に、彼女の下へ駆け寄った楢橋は、仮面ごと顔面に裏拳を叩きつけられる。容赦のない一撃に耐えきれず、今まで彼の顔を守り続けた仮面は割れてしまった。

           

          「あーっ! め、メガミマンが……! メガミマンがーっ! 助けてあげたのにいくらなんでもそれはないんじゃない!? オレめっちゃ怪我してるんですけど!?」
          「すいません、先程から不愉快な声が聞こえていましたので」
          「……しかも、いつの間にか服着てるし」
          「何か言いましたか?」
          「な、なんでもないですよー……」

           

           しかし、と柩より一歩、踏み出す足の向く先は、赤面の男。人の身が放つには余りある細音の圧が、この場に存在する唯一のミコトに降りかかる。

           

          「き、貴様は……本当、だったのか……」
          「それよりも、打倒すべき相手がいるようですね」

           

           楢橋のものよりも規律をもって周囲に水晶を浮かべた細音が、感覚を確かめるように薙刀を振り回し、カタカタ震える赤面の男へ切っ先を突きつける。
           この場の力関係が入れ替わったことは、明白であった。

           

           

           

           

           


           す、す、と板はよどみなく動く。何度も繰り返されたであろうそれは扉の癖のようになっており、隠し部屋への扉の鍵開けを試みる千影の観察眼と推測を裏付けてくれる。

           

          「ひひ……」

           

           手順そのものは多い。けれど、それは単なる嫌がらせでしかない。上に、右に、扉の切れ目をずらしていくにつれて、解除方法の正しさはどんどん担保されていく。これが時間稼ぎ用の誤答だった場合の心配は、彼女の中でもうほとんど消えかかっていた。
           と、扉の板全体が、カタリと、支えがとれたように動いた。
           鍵となる寄木細工の仕掛けが解除されたのだ。

           

          「……!」

           

           そのまま右に引くと、ややガタつくものの、戸袋に収まっていってくれそうな手応えが返ってくる。
           にや、と千影の口端が吊り上がる。
           けれど、扉を開け放ってしまうべく、力を込めたときだ。

           

          「っ……!」

           

           

           ぞくり、と走った悪寒に、手は懐へと舞い戻る。
           そして振り向きざま、手中で砕いた試験管を背後へ放り投げる。入っていた痺れ粉が、薄暗い廊下に撒き散らされた。

           

          「あたーっ!」
          「ぃひぁ……!」

           

           聞き覚えのあるふざけた悲鳴に、全身総毛立つ。
           いつの間にか背後まで迫っていたクルルは、割れた試験管が鼻っ面にあたったことだけを嘆きながら、漂う毒を意に介さず距離を詰めてくる。
           千影にとって、クルルとの三度目の邂逅はあってはならないことだった。もはや手元に神代枝はなく、生身で抵抗しきれないことは証明済みだ。今度こそ、本当の死が手を伸ばしてきているのである。

           

           弾かれたように開けた扉に食いついた千影は、あらん限りの力を込めて扉を引いた。元から袋小路である以上、逃げるためには先に進むしかない。だが、焦りのせいか、はたまた仕掛けが中途半端に残っているのか、古い家のふすまのようにガタガタと何度も引っかかり、退路は素直に開かない。
           その間にもクルルは、完成済みの電撃装置を手に、一歩ずつ迫ってくる。

           

          「やぁっ! い、いやです、こないでェッ! やだ、やだぁッ!」
          「聞き分けの悪い子はメッですよーん」

           

           苦し紛れに投げる苦無も毒針も、クルルの動きを妨げるには至らない。無意味だと分かっていても、爆発的に膨れ上がった恐怖心では抵抗せずにはいられない。
           扉はまだ開ききらない。いや、それどころか、千影はその扉の向こうにもう一枚、金属質の扉が控えているのを見てしまっていた。それが本当にただの戸であればいいが、もしさらに仕掛けがあったときのことを考えると、彼女はどうにかなってしまいそうだった。

           

           ただ、狂うための時間も、千影には与えられなかった。
           クルルの指が、装置の突起を押そうと構えられた。
           妨害しようと放った苦無は回避され、代わりにクルルの脇腹へ突き刺さる。

           

          「あっ、ああっ……!」

           

           一枚目の戸を開ききり、現れた二枚目の戸の取っ手に手をかける。
           その瞬間、

           

          「ーー!」

           

           バガン! という大きな破壊音と共に、いきなり戸の上半分が吹き飛んだ。室内から押し出されてきた何かは、ギリギリ千影の頭上を掠めて廊下へと転がされていく。
           うめき声が小さく響く中、千影はクルルの足元で止まったそれが、今の自分と同じ服装であり、さらに自分の知っている男であることに気づいた。ただ、赤い仮面をつけている彼の折れた腕の断面には、肉や骨に混じって歯車が詰まっているようで、その冒涜的な有様は人間と呼ぶにはやや憚られた。

           

          「おやーん? ごじょーんが吹っ飛ばされてきました……あ?」

           

           不可解な出来事に首をひねるクルル。けれどそのメガミは、千影のさらに向こう、手下を痛めつけたであろう下手人の姿を目の当たりにして、口を開いたまま固まった。
           彼女の視線、その先。
           千影もまたそれを追えば、扉の向こうで毅然と薙刀を構える少女が一人。

           

          「ひ、さめ……?」

           

           そこには、千影が思わず息を呑んでしまうほどに存在感を放つ細音が、クルルと対峙するように光のない瞳を向けていた。

           

           

           

           


           こうして、愛の戦士……もとい、楢橋平太の活躍によって、氷雨細音は再び舞台に上がることを許された。
           決して表舞台に上がらない小悪党。全てを知るカナヱだからこそ、こんな陰の立役者も語れるというものさ。

           

           さあ、こうして改めて英雄は四人、決戦の地に立ち並んだ。
           計画は概ね予定通り。
           だけど、彼女たちにとっての本番はあくまでこれからさ。
           この先の戦いはこれまで以上に強敵揃い。彼女らが如何にして立ち向かうか。ご期待あれ。

           

          語り:カナヱ
          『桜降代之戦絵巻 第五巻』より
          作:五十嵐月夜  原案:BakaFire  挿絵:TOKIAME

           

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          大阪にカンバッチガチャが上陸だ!

          2018.07.27 Friday

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             こんにちは、BakaFireです。本日は既に『第壱拡張』の特設ページの公開コラボカフェ第二段のお知らせと2つの更新を行っておりますが、もうひとつだけ、ちょっとした記事もお伝えさせて頂きます。
             
             いよいよシーズン1を締めくくる大規模大会が明日に迫ったというわけですが、それに合わせて、大阪で素敵な復刻イベントを用意させて頂きましたよ!

             


            大阪大規模大会に合わせてカンバッチガチャが大阪に登場!

             

             遡ることおよそ2か月半。5月に開催されたゲームマーケット2018春のことです。BakaFire Partyはエリア出展の催し物の一環として、本作のカンバッチガチャを特設させて頂き、たいへん好評を頂きました。
             
             この度、それらのガチャを本作を長らく支えて下さっている大阪のショップのご協力により、特設させて頂けることになりました。ありがとうございます! まだ仮設の状態ではありますが、ガチャマシーンをご覧くださいませ。

             

             
             設置開始は大規模大会の当日、7月28日からとなります。予定数が無くなり次第終了となりますので、お求めの方はこの機会に是非とも以下のショップまでお越しいただければと思います。もちろん、大阪大規模大会のための遠征し、その日の夜や翌日の日曜日にお越しいただくというのは素晴らしいプランです。


            設置店舗

             

            ボードゲームショップDDT
            大阪府大阪市中央区南船場1-13-1竹田ビル1F
            https://www.boardgameshop-ddt.com/

             

            BOARDGAME Lab!DDT
            大阪府大阪市北区豊崎5-7-21おおきに豊崎西公園ビル3F
            https://www.boardgame-lab.com/

             

            ひがっちゲームズ
            大阪府大阪市東住吉区北田辺6-3-2
            http://higacchi-hp.blogspot.com/

             


             次回の更新は来週、大会イベントが次の時代へと進む話をさせて頂きます。併せてコラボカフェのオープニングイベントの予約開始時間もお伝えいたします。ご期待くださいませ。