新たなメガミと構想を空想

2020.09.04 Friday

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     こんにちは、BakaFireです。いよいよ『第伍拡張』の発売日まで2週間を切り、『第伍拡張』で登場するもう1柱の話をする時が近づいて参りました。ですが先にお伝えしておきますと、この記事はまだ彼女を紹介するものではございません。今後のスケジュールと、私どもの試みを紹介するために先んじて書かせていただいております。
     
     私どもは自宅で『祭札二〇一九』に収録されたふるよにTRPGを楽しんで頂くための新しい試みとして全4話からなる『一人用TRPG』を公開いたしました。ゲームブック風のシナリオ仕立てになっており、桜降る代での冒険をお楽しみいただけます。
     
     そして今皆様は、この『一人用TRPG』にて『第伍拡張』のもう1柱と出会える状態にあります。この冒険の果てに、そのメガミが正しく登場し、カードプレビューも行われているのです。


     現在、この試みには多くの好意的なフィードバックを受け取っており、私としても胸をなでおろし、そして強い喜びを感じています。特に世界とキャラクターを楽しむ気質の皆様にとって、価値あるものを提供できた点は本当にうれしい限りです。これらは本作にとってかけがえのないものであり、それを楽しむ皆様もかけがえのないプレイヤーです。感想を発信していただいている全ての皆様。本当にありがとうございます。励みになっております(※)。
     
    ※ 今回の成功を受け、近しい試みをまた行うつもりです。作るのが中々に大変なのでゲームマーケットの準備が落ち着いた後、10月か11月になるとは思いますが、アイデアはあります。ご期待いただければ幸いです。
     
     その上でこの試みをまだ知らない方に、一人でも多くこの物語としての体験を楽しんでいただきたいと思い、この記事を書かせていただいております。小説を含む本作の世界や物語にいくらか以上の関心がございましたら、ぜひ一度遊んでいただけると嬉しいです。
     
     『祭札二〇一九』を用意して、TRPGとして遊んでいただければ理想的です。しかし『祭札二〇一九』をお持ちでなかったり、時間的に難しい方もいらっしゃると思います。その場合は判定や戦闘を全て飛ばし、ノベルゲームのようにお楽しみいただく選択肢もございます。
     
     というのも、第一次制限時間(※1)がもうじき近づいているのです。当該ページに奇妙なカウントダウンがございますが、実は本作はラストのネタバレを制限しております。そしてカウントダウンの切れる2020年9月1日昼12時に登場するメガミやプレビューされたカードへのネタバレが解禁されます(※2)。

    ※1 さらに9月4日の昼12時は第二次制限時間となります。こちらではこの記事が正しく完成され、新たなメガミがギミックやカードとともに紹介されます。
    ※2 この記事はネタバレを行う方が正しく解禁を待ったうえで、問題のない形で行っていることを保証することも意図しております。

     

     即ち完全に自力で楽しめる期間は明日の昼までです。遊ばなければならないものではないため、無理はなさらないでください。しかしもしお時間があるのでしたら、お楽しみいただければ幸いです
     


      そして本日にこの記事は修正されています。2020年9月4日を迎え、時は来ました。今こそ存分に語るとしましょう。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     あなたの冒険の果てに、カナヱが舞台へと降り立つのです。

     

     

     

     心構えのためにひとつ先にお伝えします。彼女はあらゆる(オリジン版)メガミの中で特に異常で複雑で難解なメガミであり、真っ当な桜花決闘から外れたゲーム体験を提供します。

     

     私はまず芯に沿った王道の体験を重視しています。本作が本作らしいことは大事なのですから。ゆえにコルヌ以降の新たな物語でもまずは王道を守り、そこからのずれに楽しさが仕込まれていました。

     

     しかしかつての物語でも、私は一度だけ王道を崩し、桜花決闘を色揃えパズルゲームへと改変しました。王道の体験を続けすぎるのもまた飽きを生むからです。そして新たな物語も6柱目。……そろそろではないでしょうか?

     

     邪道を愛する皆様。お待たせいたしました。新たな一大邪道の到来です。桜花決闘を演劇の舞台へと変えてしまいましょう! 物語ボードをご覧ください!

     

     

     このボードは桜花決闘を即興演劇やノベルゲームへと改変します。間合を合わせて攻撃することは主目的ではなくなります。特定の演出でフラグを立て、幕(シーン)を進め、エンディングを迎えるためにゲームをするのです。

     

     挙動のイメージとしては双六ですが、サイコロは振りません。まずはゲーム開始時、図にあるように駒をボード上のふりだしにあたる位置――白の幕に置きましょう。

     

     

     そして次は駒を進める手段を準備しましょう。構想カードがカナヱのカードで準備できます。ここでは特に構想の準備に特化した「たまゆらふみ」だけ紹介しておきます。

     

     

     構想カードは6種類あります。それぞれ物語のフラグ、即ち駒を進めるための条件が書かれています。準備する際は任意のものが選べます。ここでは2枚お見せしましょう。

     

     

     条件は各ターンの終了フェイズに確認されます。付与のように桜花結晶を1つ、カード下側左端の石板に置きましょう。そして満たされていたらひとつ右に桜花結晶を動かし、最も右に進んだら構想が達成され、駒がひとつ進みます。

     

     ここで注目すべきは『両者の終了フェイズに、両者の行動をチェックする』という点です。駒が進めば相手にとっては悪いことが起きます。即ち構想はあなたの道標であるだけでなく、相手への戒めでもあるのです。あなたの脚本へと相手をも巻き込み、物語を演じさせましょう。

     

     

     駒が進むとどうなるか。その幕の色に応じた効果が得られます。

     

     

     物語を進め続け、6回か5回構想を達成したならば終幕へとたどり着きます。そしてその時物語は終わり、あなたは勝利します。そうです。カナヱは特殊勝利を持ちます。それも1枚のカードではなく、メガミ全体のコンセプトとして特殊勝利を掲げているのです。

     

     そしてもちろん特殊勝利をしなくてはならないわけではありません。特殊勝利はカナヱの看板ではありますが、必ずしも大団円を迎えるような脚本を描かなくても構いません(むしろそうしないことの方が多いでしょう)。

     

     皆様の創造性を期待し、2枚のカードを紹介しましょう。「即興」と「ほかげきらぼし」をご覧ください。

     

     

     彼女を宿すには事前の準備が欠かせません。幕をどのように進めるか構想し、実現すべく構築し、そして舞台の上では演者として自らの脚本を演じるのです。

     

     難解で緻密な技が求められる、脚本家の快感をお楽しみいただければ幸いです。

     

     

     本日はここまで。そして本日9月4日にて『第伍拡張』は発売1週間前を迎え、第二次プレビューが始まります。次回の更新は明日。第二次プレビューのスケジュールで関する記事でお会いしましょう。

     

     

     

     

    気になった方のための補足:ボードの線の上にある奇妙な文様は「試練」です。試練を超えるには構想カードを裏向きにし、より難しい形で達成しなくてはなりません。

    『八葉鏡の徒桜』エピソード7−3:桜花133年の陰陽本殿

    2020.08.28 Friday

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       桜花133年。かの英雄譚が繰り広げられた、桜降る代を迎える前の時代。
       私たちの知る歴史では、前年から続いた天音揺波による快進撃が、当時没落していた天音家を一年足らずで大家の座にまで押し上げようとしていた。これは、かの英雄・龍ノ宮一志により招かれた大家会合を間近に控え、揺波が運命の時を迎えようとしていた頃のことである。

       

       

       

       

       


       茫洋たる時の海を、私の意識はただただ揺蕩っていた。
       始まりは夢の中で目が覚めたかのように曖昧で、いつそれを迎えたのかすら判然としない。時間の感覚はふやけてしまったように不確かで、もはや気の遠くなるほど昔から過ごし続けているよう。けれどその実、さしたる時間は流れていないのだと、理解もまたしていた。

       

       遥か天上に穿たれた、空を切り抜く大穴。
       時に明るく温かい光が降り注ぎ、時に暗く冷たい光が差し込める、その変化だけが時の流れを確かに物語っていた。自分にとってどれだけの時間が流れていようとも、空の明滅は先頃に三十を数えたばかりだった。
       私にとってその天窓こそが、世界が私を置き去りにして動いている証だった。初めの頃は変わりやすい空模様を気晴らしに眺めて、それが恨めしく思え、今では虚しく感じられるようになった。

       

       時が流れようとも、私は目覚めたこの場所から一寸たりとも動けない。
       まるで私は、この小さな石の揺り籠に横たえられた赤子のようだった。
       誰にも気づかれることなく、気づいてもらうために泣き声を上げることもできず、誰かの下に辿り着くために自ら手足を動かすこともできない。時折この揺り籠で羽を休める小鳥に、どこかへ連れて行ってもらうことすらできやしない。

       

       そもそも、誰かに連れ立ってもらおうとしたところで、私は自分の名前すら告げることができなかっただろう。
       決してそれは、言葉を交わせないからではない。
       自分が何者か、分からない。
       自分をなんと呼ぶべきかも分からない。
       ごっそりと、自分を形作る大切なものが抜け落ちてしまっている感覚が、いつまで経っても拭えない。

       

       そして、私がどうしてここにいるのか、それすらも分からない。
       天に向かって伸びた巨木の体内にいるような、薄暗い場所。苔むした壁面は、私がこうして揺蕩った時間が矮小に思えるほど、ここが長い年月を経ているのだと教えてくれる。
       ただ、漂う厳粛さは、自然の温もりを全く思わせない。
       ここは酷く冷たく、恐ろしい――言いしれぬ感覚がいつまでも囁き、考えることしか許されていない私を苛み続けた。どこまでもこんな場所が広がっているのだとしたら、ずっとこのままでいたほうがいいのではないか、とすら思えた。

       

       数少ない救いの一つは、意外なことに、冷え切ったように聳える花も葉もない枯れた大樹であった。
       その威容に見守られているといったことではなく、その樹がどこか私を受け入れているように思えていたのだ。何故そう感じられるのか、欠けてしまったであろう自分の一部に答えを求めたけれど、返事はなかった。

       

       手を伸ばすことのできない私には、大樹の膝で眠ることも叶わない。
       だから、私にできたのは、目覚めからずっと私をあやし続けてくれたこの小さな石の揺り籠の中で、僅かな温もりを支えに時を過ごすことだけだった。

       

       変化に憧れながら、外界という変化に怯える。
       そうしてさらに、空の明滅を二十、三十と数え、回数も次第に曖昧になっていった。
       それでも、誰も来ることはなかった。
       掻き抱いた温もりが、孤独に削られていく。

       

       

       

       

       


       そんなある日のことだった。
       ざり、ざり、と二足で土を噛む音が、遠くから響いてきた。この空間の地面に空いた、横穴の暗い奥からだった。
       やがてその主はこの空間に出てきたようで、足音が少し鮮明になる。明らかに意思を持って歩む足音だった。それも、二組。

       

       私が最初に覚えたのは、歓喜だった。小動物が稀に顔を覗かせるくらいしか動の気配のなかったこの冷たい場所に、人がやってきたのだ。その高揚感は、目覚めてからもっとも強く私の心を揺り動かした。
       けれど、刹那の後、本能が身震いをした。
       瞬く間に私から歓喜を奪い去ったのは、恐怖――否、危機感と呼ぶべきものだった。
       身を潜めろと、本能が叫んでいた。
       ここからどこか温かい別の場所へ連れて行ってくれるなどという、磨り減った想いを捨てろと必死に訴えていた。

       

       無論、身を隠そうにも私には身体がなく、潜める息もない。どうすればいいのか迷い、私自身という存在を思いつくままに小さく抑えることで、代わりとした。
       やがて足音は大きくなり、この空間の中心、すなわち私のいるほうへと向かってきた。
       そして聞こえてきたのは、人間の男の声だ。

       

      「ようやく着いたか……。いやはや、一時はどうなることかと思ったが、無事に役目は果たせそうだ」

       

       彼の安堵に、二人目の男が訊ねる。

       

      「旅程は特に何事もなく消化したかと思いますが、何か懸念でもおありでしたか?」
      「ん? ああ、天音の件だよ。動向如何によっては、この調査も延期しなければならないところだったんだが、存外あのままあっさり消えてくれたからな。おかげで、晴れて予定通り来れたわけだ」
      「おや、そういえば見る陰もなくなったとは聞き及んでいましたが」

       

       それに答える男は嘆息混じりだ。

       

      「最盛期など、シンラ様が直々に動かれることも視野に入れていたほどだというのに……北で敗北を喫してからは、見ているこちらが居たたまれなくなる有様だったよ」
      「元々、無謀な拡大戦略でしたからね」
      「天音の娘も、敗北以来人が変わったように精彩を欠いていたらしい。だから、やつらは時間を戻したように奉土を失っていったよ。そして先日届いたのは、屋台骨だったその娘が行方知れずになってくれたという吉報だ」

       

       ふふ、と秘めた喜びが漏れる。
       片割れがそれに追従するように、

       

      「天音家も晴れて断絶というわけですか。佐伯殿も枕を高くして眠れたのでは?」
      「随分と頭を悩ませてくれたからな。最後にもうひと暴れされるかと危惧していたが、杞憂に済んで本当によかった。まったく、調査一つとっても調整は楽じゃないんだ。今回も、最悪私一人で来る羽目になっていたかもしれなかったところだよ」

       

       こつ、こつ、と彼らの足音が硬質なものになっていく。石の揺り籠がある広い石床へと足を踏み入れたようだった。

       

      「その調査ですが、これから何をお手伝いすればよいので?」

       

       付き添いらしい男の問いに、ああ、ともう一方が応じる。

       

      「君は不審な変化がないか、辺りに気を配ってくれているだけで構わない」
      「はあ」
      「目的としてはヲウカの捜索だよ。シンラ様曰く、生存している可能性は捨てきれないらしくてな。こうして全土を調べ回っているわけなんだが、奴が身を隠すとすれば、最も縁の深いここ――陰陽本殿が有力なのではないかと、私が遣わされたわけだ」

       

       恐怖のままに目を逸らし続けていたかったけれど、むしろ恐れのあまりに私の視界は彼らを捉えていた。どちらも知性を滲ませる風貌であるが、主体である男の眼差しは特に、隠されたものを容赦なく暴き出すように鋭い。
       これから彼らが何をするのかは分からなかった。けれど、見つかった場合に良い未来が待っているような気はしない。私の内側に感じるか細い力ですらも遮二無二抑え込んで、懸命に存在を潜める。

       

       ただ、男たちは私の努力をあざ笑うように、やがて私の宿る石の揺り籠の前で立ち止まった。
       男は懐から取り出した巻物を広げ、息を整える。巻物の見た目はさして特別さを感じるものではないのに、伝わってくる気配は奇妙としか言い表せない。
       そして彼は、不思議と響く声で、それを唱えた。

       

      「『ヲウカよ、顕れよ』」

       

       ぞくり、と。
       どこにもないはずの私の身体が、彼の声に震え上がった。
       巻物のように、その言葉もまた奇妙な力を孕んでいる。その力が、私に働きかけている。否、言葉面は希うものであっても、これは干渉とでも言うべき強引さだった。

       

       だが、ヲウカというその名前を、私は知らなかった。
       けれど、私にはまた、自分の名前というものに覚えがなかった。
       もしかしたらこれが自分のことである可能性は捨てきれない。微睡むように淡々と過ぎていく時間の中、何度もその答えに手を伸ばそうとした私にとっては、天啓のように降ってきた手がかりとも言える。

       

       しかし、剣呑な男の言葉を肯定することはできない。そうしてはならないと、本能がまたしても叫んでいる。
       ここで名乗り出ようものなら、奇妙な力の宿る彼の言葉に引き寄せられてしまい、私が私でなくなってしまうような気さえした。だから私は、違う、違う、と縮まりながら必死に否定を続け、願いに抗い続けた。

       

      「……ふむ、どうだ?」

       

       どれだけの間、そうして耐えてきただろうか。私が応えずにいると、彼らは目を皿のようにして周囲を延々と調べ始めた。もちろん、言葉の引力はずっと生まれたままだ。
       やがて、しゅるしゅる、と巻物が巻かれていく音で、私は石の揺り籠の内側にひたすら向けていた意識を、男たちへと戻した。奇妙な力が、収められていく。

       

      「やはり変化は」
      「……そうか。あてが外れたのか、それともシンラ様の杞憂なのか。いずれにせよ、ヲウカはここにはいないと考えてよさそうだな」

       

       結論を得てからというもの、彼らは後ろ髪引かれることなく、手早くもと来た道へと戻っていく。天窓から射し込んでくる光の具合からして、実際にはあっという間の滞在だったのだろう。

       

      「ところで、桜も枯れているのによくあんなに力を使えましたね」
      「ふふふ……、それも当然! 何故ならこの書は、畏れ多くもシンラ様が直々に力を込めてくださったのだ! 本来ならば我々の手で探し出さねばならないというのに、あの御方はなんと慈悲深い……お前にはまだまだ早いだろうが、お力を下賜していただける日を夢見てよく励むんだぞ!」
      「あー……。はい、がんばります……」

       

       目的を果たした男たちの会話が、遠ざかっていく。
       気配も消え失せた頃、私は深く深呼吸をするように心を落ち着けた。

       

       しん、とこの冷たい場所に静寂が戻ってくる。
       また、私は独りになった。

       

       

       

       

       


       それからまた、空の明滅を何十と繰り返した。けれど、誰もここを訪れることはなかった。
       もう見飽きた空の顔だけが日常における数少ない変化だったが、その飽きにももう慣れ始めていた。私に許されているのは、ぼんやりと空を眺めることだけなのだから。

       

       その日も私は、ただ空を眺めていた。珍しく、雲一つない眩い空だった。
       視界を彷徨わせていると、ちょうど天窓の縁から顔を出し始めた太陽とふと目が合った。切り抜かれた空が、照り返す鏡のように輝く。
       目を焼く光に眩む中、意識は不思議と見覚えのない像を結んでいた。

       

       私の宿るこの石に、刀を佩いた一人の少女が腰掛けていた。ぼやけた周囲には、他にも男女の姿があるように思える。
       その空想の中で、私はその少女の左手へと移り宿った。

       

       

       見に覚えのない光景を、私はどこか憧憬と共に眺めていた。
       けれど、ふと意識を瞬かせた刹那の間に、その幻視は掻き消えてしまった。後に残されたのは、清々しいほどに晴れた空……元の空模様だけだった。これが擦れ始めた自分の空想に過ぎないと思ったら、胸の奥からも自嘲しか湧いてこなかった。
       そうしてまた、私は一人現実に取り残されていた。

       

       

       

       

       

       空の明滅は、さらに無情に繰り返されていく。
       百が過ぎ、二百を経て、三百を超えた。
       それでも、人が来たのはあの男たちで最後だった。
       誰も、来なかった。

       

       しかし、その繰り返しの中で、私は私の存在が徐々に大きくなっていくのを感じていた。
       最初のうちは糸のように細く、何一つ成せないような力だったが、今となっては多少は自信の源になってくれていた。ここに至っても未だ、その力が一体なんなのか、うまく言葉にすることはできなかったけれど。

       

       だが、力とは実現の礎である。
       だから私は、願いをもって、力を籠めた。

       

      「……っと」

       

       するとそこには、一人の少女が、石柱を支えにして立っていた。
       石の揺り籠から抜け出して、私は自ら作り上げた身体に身をやつしていた。
       未だ名を持たぬ、私の姿。
       ここではないどこかへ行くための身体。

       

       

       外が恐ろしいという思いは変わらない。
       けれど、誰も来ないまま、ここに在り続けることのほうが、私にはよっぽど恐ろしくてたまらなかった。時間の流れに独りでどんどん磨り減っていってしまったら、最後にはどうなってしまうのか、想像することも嫌だった。

       

       だから私は、小さな手を握りしめて外へと歩き出した。
       ひとり目覚めた、冷たい場所に別れを告げて。

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       一目見たとき、あれは糞婆ではなく、むしろ小娘……ホノカに近しい存在だと私は判断しました。

       ホノカと違ってそれらしい役割をきちんと与えられたようで、表面上は随分と上手く取り繕っていますが、他ならぬ私が分からないはずがありません。あの糞婆にどれほど辛酸を舐めさせられてきたか……思い出すだけでも腸が煮えくり返るほどですとも。

       

       面倒で不快な存在であることは確かです。しかし他方で、この地に忌々しくも根付いた腐れ木を焼き払う好機になるかもしれません。この娘の到来が何を引き起こすのか。今は慎重に見定めるべきでしょうね。

       

       寧ろ危惧すべきは正しく彼女らの本題でしょう。あの小娘……内面はともかく、装いは正しく――いいえ、影の力すらも感じる在り様は、隠し記されていたかつての本質そのものだと類推できます。
       私が見たこともないほどに旧い、最古のメガミたちの時代……その頃のヲウカだと。

       

       

       

       

       

       

       


       ……目覚めたときからあの姿ではないでしょう。影は影として在るのだから。
       ならば彼女がここに至るまでに……、
       はてさて……何があったというのでしょうかね。

       

       

       

       

       

       

       

       

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      『達人セット』再版で共に達人への道を歩もう!

      2020.08.27 Thursday

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         こんにちは、BakaFireです。『第伍拡張』のプレビューも段々と本格化し、今の私は特設サイトやPVを始めとした様々な作業で慌ただしい日々を過ごしております。もう少ししたら下ごしらえも終わり、第2次プレビューとして発売日まで駆け抜けますので、お時間を頂ければ幸いです。

         

         ですが、今日の本題は『第伍拡張』ではございません。以前のロードマップでもお伝えした通り、皆様の応援のおかげで『達人セット』が品切れとなり、来たる明日、2020年8月28日に再版の運びとなりました(※)。これまで『達人セット』を手に取ってくださった全ての皆様にお礼申し上げます。

         

         そして『達人セット』の入手が難しくお待たせしてしまった全ての皆様、申し訳ございませんでした。どうにか再版が行えましたので、手に取っていただけると嬉しい限りです。

         

        ※ 新型コロナウイルスに伴う製造ラインの減少により、一部地方では出荷が遅れてしまう可能性がございます。予めご容赦、ご了承いただければ幸いです。

         

         

        新装版でよりお求めやすく!

         

         『基本セット』再版ではシーズン5へと対応し、「はじまりの決闘」の調整が行われました。それでは『達人セット』はどのように変わったのでしょうか。ゲームとしてはほぼ変化していません(※)。しかし製品として見るならば『基本セット』よりも劇的に変わりました。

         

         『達人セット』はパッケージそのものを変更して『達人セット 新装版』となります。具体的には箱そのものが小さくなり、ストレージボックスとしての機能が失われる代わりに、価格が6000円から4500円に変更されます。

         

         

         理由を説明しましょう。新幕シリーズが開始し最初の製品として発売された時、『達人セット』は『基本』と『達人』の全コンポーネントを収納するストレージボックスとしての役割も担っていました。見目麗しく複雑な内容物を収めた点で、その試みは大成功だと考えています。

         

         しかし当時は大成功でも、時間が流れたら話は変わるものです。もうじき新幕は『第伍拡張』が発売します。『第参拡張』あたりまでは工夫すれば『達人セット』は収納できましたが、ここまで拡張が増えたらもはや不可能です。『達人セット』はストレージボックスとして求められていた機能を果たしきれなくなりました。

         

         他方で価格面の問題も見えてきました。全てのメガミが使える完全な環境で遊ぶにはシーズン6では7つもの製品が必要です。もちろん単に遊ぶだけなら『基本セット』以外は購入が必須ではありませんが、遊ぶからには揃えたいと考える方も相応には多いでしょう。ゆえに新規プレイヤーの皆様にとって敷居が上がり過ぎてしまう懸念があります。

         

         以上の理由よりストレージボックスの機能を完全に取り除き、製造費を削減した分で価格を下げることにしたのです。追加されるメガミや収納のためのカードフォルダには変更はありませんのでご安心ください。より気軽に『達人セット』を手に取っていただければ嬉しい限りです。

         

        ※ シーズン6への対応が行われただけであり、それらの更新カードは『第伍拡張』に同梱されます。従ってすでに『達人セット』をお持ちの方は(コレクション以外の理由で)購入する必要はございません。ご安心ください。

         

         

        シーズン6対応とシーズン切り替えについて

         

         既存プレイヤーの皆様にはもうひとつお伝えすべきことがあります。『達人セット 新装版』がシーズン6に対応している点です。それではシーズンの切り替えはどうなるのでしょうか。

         

         切り替えは9月11日、『第伍拡張』の発売と同時となります。従って9月10日までは『達人セット』で更新されたカードについては読み替えて取り扱います。

         

         この判断は混乱を避けるために行われています。どちらにせよ一定の混乱は生じてしまいますが、『達人セット』で更新されるカードが1枚だけである点と、その1枚の読み替えが容易である点から、こちらの方が混乱が小さいと結論付けました。

         

         『達人セット』で更新される1枚に限っては本日に紹介し、簡単に説明すべきでしょう(※)。

         

        ※ 精密な説明を行うには、私どもが目指している方向と今の本作への見解についての総合的な説明が必要不可欠です。ゆえに1枚のために行うには文章量が過剰になり、また今の私の抱えている作業量を鑑みると、その文章を優先したら他のプレビュー計画を諦め、無味乾燥とした見せ方にせざるをえなくなってしまいます。ゆえに今回の説明は簡単なものに留めます。全ての更新カードに対する私どもの詳しい考えは9月11日の記事で必ず説明されますので、そちらまでお待ちください。

         

         

         「完全論破」の消費は2になります。

         

         この更新案はシーズン4→5の時点で決定に近い位置まで進んでいました(※)。しかし開発末期にホノカへと2枚の調整を行う意義が示唆され、その時点では面付けの問題から枚数の変更が効かなかったためにシンラの更新は見送られ、ユリナやオボロの下方修正による影響を加味する意味でも次の1シーズンは様子を見るという判断が下されました。

         

         ゆえに「完全論破」は開発初期の時点から次のカード更新における最有力候補でした。その上でシーズン5におけるシンラの活躍も十分とは言えず、アナザー版ライラの過剰な強さや『第伍拡張』の内容などの周辺事情を加味した考察を進めたとしても、候補としての位置は覆されませんでした。

         

         「完全論破」は独立した1枚のカードとして力不足ですが、機能やテキストの独自性には強い魅力があります。シンラの直接的な勝ち筋の調整が困難ならば、この1枚を実用的な水準まで引き上げるべきだと私どもは判断しました。これはシンラの眼前構築をより悩ましいものとし、シンラを扱うプレイヤーの体験をより楽しいものとするでしょう。

         

        ※ 「森羅判証」の更新案を試していましたがゲームバランスにおける問題から見送り、代わりに「完全論破」を更新する方向へと切り替えられました。

         

         簡単な説明としては以上となります。私どもの計画の背景や考えについては9月11日に説明しますので、そちらをお待ちください。

         

         

         本日はここまでとなります。次はおそらく『第伍拡張』のもう一柱についてお話する記事でお会いすることになるでしょう。ご期待くださいませ!

        9月以降もイベントを楽しんでいこう!

        2020.08.23 Sunday

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           こんにちは、BakaFireです。本日は9月以降の本作のイベントについてお話しするために筆を執らせていただきました。というのも以前の記事でお伝えしたお気楽交流祭に関する期間は8月までのものであり、9月以降の指針が定まらなければイベントの申請なども難しいからです。

           

           6月にお伝えした時と比べて世間の情勢も変化しています。そして本作としても『第伍拡張』の発売とシーズン6の到来が近づいています。改めて今の状況を踏まえ、指針をお伝えしましょう。

           

           

          9月以降もお気楽交流祭は継続だ!

           

           6月時点での情勢はこれからどう変化するか判断が難しく、楽観的な予測も悲観的な予測もありえるものでした。その上で3か月弱を経て、少なくとも楽観的な状況ではないと私は考えています。

           

           ゆえに当時に考えた水準よりも緩やかに物事を変化させていくべきだと判断し、本年一杯はお気楽交流祭を通した『まずはゲームを気楽に遊ぶ場を提供する』指針を押し出してまいります。その上で大規模イベントや全国大会を実現するための新しいやり方を模索していきます。

           

           加えてお伝えするならば、お気楽交流祭という試みそのものが成功でした。気楽な参加や離脱が可能で人口密度への配慮が行いやすい点は時流に合っており、(本作に競技的に取り組み続けている方だけでない)既存プレイヤーや新規プレイヤーの姿も見られました(※)。総じて望ましい結果だと言えるでしょう。

           

           懸念点も問題ありませんでした。お気楽交流祭では初心者体験会を必須としていましたが、誰もが開けるイベントとすると初心者への配慮が不十分なイベントが混ざり、初心者が過度に楽しめないものを公式と認めてしまうリスクがあったのです。しかし主催の皆様の丁寧なご配慮によりそのような問題も起きませんでした。心よりお礼申し上げます。

           

           そこで私どもは主催の皆様をこれまでより信頼し、交流祭や初心者体験会をより公に開いていく指針を取ろうと考えています。お気楽交流祭の継続はその第一歩となります。

           

          ※ 競技的プレイヤーはもちろん貴重な存在ですが、そうでないプレイヤー達や新規プレイヤーがいなくなればゲームは維持できず、終了を余儀なくされます。ゆえに母数として大きい非競技的プレイヤーには重く目を向ける必要があるのです。

           

           

          9月以降は条件付きで大会の併催も可能!

           

           お気楽交流祭は自粛期間明けに気楽に本作へと復帰できるようにするためのカジュアルなイベントでした。それゆえに大会の併催を禁止しておりました。

           

           しかし9月以降では逆の事情もございます。新たなシーズンが始まるため、可能な限り大会に出たいという需要も大きくなるからです。そこで後述する条件通りにお申込みいただいた場合に限り、大会の併催を可能とします。

           

           この条件はカジュアルな対戦や初心者体験会を目当てにしたプレイヤーが(他の全員が大会に出てしまうなどして)途方に暮れ、楽しめないリスクを取り除くためのものです。普段は勝負を第一に考える皆様も、お気楽交流祭の場においては全ての参加者がまず楽しめるようご配慮を頂ければありがたい限りです。

           

           

          お気楽交流祭はこんなイベントだ!

           

           お気楽交流祭そのものの説明も簡単に行いましょう。より詳しくは6月の記事も併せてご覧ください。

           

          カジュアルに楽しもう!

           

           大会はないか、併催イベントとして切り分けられます。気軽に楽しむことが第一のイベントです。

           

          物語テーブルが遊べる!

           

           本作は物語を模した特殊ルールとして、多数の物語テーブルが公開されています。お気楽交流祭はそれらを遊ぶ絶好の機会です。

           

          初心者体験会としてのサポートもあり!

           

           初心者体験会も併催されます。初めて遊ぶ方やルールに自信がない方も大歓迎。手ぶらでのご参加もOKです。ルール解説用のカードセット「はじまりの決闘」や、次の一歩に最適な物語第0話「神語りのはじまり」を体験していただけます。

           

          プレゼントが盛りだくさん!

           

           参加したら様々なプレゼントを受け取れますよ! まずお気楽交流祭は初心者体験会でもあります。ゆえに(初心者として体験したかどうかによらず)参加した店舗に応じてプロモーション集中力「チカゲ」(「ヒミカ」(※)プロモーション集中力「ユキヒA」を受け取れます。

           

           さらにお気楽交流祭は交流祭でもあります。ゆえに5点(勝利で2点、敗北で1点)分のゲームを楽しめば、プロモーション集中力「コルヌ」も入手できます。

           

          ※ プロモーション集中力「ヒミカ」がほぼ切れてしまいましたため、完全に切れしだい初心者体験会としてのプロモーション集中力はチカゲに切り替わります(切れるまではヒミカのままです)。過去にチカゲは全国大会本戦の参加賞としての位置づけとして扱っていましたが、私どもは大半のプロモーション集中力については位置づけを切り替え、積極的に復刻していく指針としています。現在の例外は全国大会の上位賞として勝敗の関わる位置づけに置かれているシンラのみです。

          ※ 「沐浴」は切れてしまいましたため、9月以降は配布されません。長期的にはこの類のイベントをサポートする試みをまた行う可能性は高いでしょう。

           

           

          9月以降の開催概要はこちら!

           

           9月以降もあらゆる方がお気楽交流祭を開催できます。開催のための注意事項は以下の通りです。

           

          イベント名

           

           「お気楽交流祭:〇〇の部」に限定します。〇〇には都道府県名か、伝わりやすい市町村などの地名を入れてください。例「お気楽交流祭:秋葉原の部」

           

           この際、必要と判断した場合は括弧書きで会場名を加えても構いません。文字数が多くなりすぎないようご配慮いただけると助かります。例「お気楽交流祭:秋葉原の部(YS秋葉原RPGショップ)」

           

          開催可能期間

           

           お気楽交流祭は2020年9月1日から12月31日に開催できます。

           

          申請日

           

           後述する送付物が少し複雑であるため、安全のため申請は開催日の3週間前厳守とさせていただきます。

           

          会場

           

           定員4名以上の公的な場所でなくてはなりません。公式サイトで公的に参加者を募集する必要がございますので、個人宅などの私的な空間では開催できません。また、特定の大学の学生であるといったような参加条件のあるイベントにすることもできません。

           

          大会について

           

           お気楽交流祭そのもので大会を開くことはできません。

           大会を併催する場合は「交流祭併催大会:〇〇の部」という名前で別途申し込んでください。この際、お気楽交流祭の定員より4名以上少ない定員でなくてはなりません。

           

          例:お気楽交流祭が20人規模である場合は、大会の定員は最大でも16人となります。これにより満席ならば大会に参加せず、気楽に遊ぶためのプレイヤーが4名残ることになります。

          補足:この目的はあらゆる気質のプレイヤーが気楽に楽しめるようにするためのものです。参加者、主催共に趣旨を理解し、柔軟にルールを運用していただければ幸いです。

           

          初心者体験会について

           

           初心者体験会としての対応が必要です。ルールに不安がある方にご参加いただいた場合、「はじまりの決闘」や「神語りのはじまり」を用いてルールの解説などのサポートを行ってください(※)。

           

          ※ 補助のための紙芝居やカードは初心者体験会のページからダウンロードできます。ルール解説ガイドの活用もおすすめいたします。

           

           そしてご開催頂いた場合、以下のものをお送りいたします。

           

          体験会&交流会案内ポスター

           日付と時間を描き込み、掲示できるポスターです。店舗で開催される方や、店舗と連絡が取れる個人主催の方はぜひともご活用ください。

           活用が難しい個人主催の方は、開催のお礼として素朴に受け取ってください。

           

          各種参加賞

          定員人数に1を足した枚数の

          • プロモーション集中力「チカゲ」(「ヒミカ」)またはプロモーション集中力「ユキヒA」
          • プロモーション集中力「コルヌ」

          をお贈りします。定員は会場の規模に応じて、感染防止のためにゆとりのある人数を設定してください。

           

           

          賞品も次の時代へと進む時だ!

           

           そしてもうひとつ大きなニュースがございます。以前の記事で大会賞品の切り替わりに触れました。『第伍拡張』のスケジュールの影響で時期は少しだけ遅れましたが、10月から新たな賞品がやってきます。プロモーションタロット「クルル」をご覧ください!

           

           

           それだけではございません。完全戦における賞品はもうひとつ切り替わります。これまでのブラックキラカード「ゆらりび」12月からブラックキラカード「炎天・紅緋弥香」へと変更されます。

           

           さらに素晴らしいお知らせもございます。6月の記事で、9月と10月は大会の賞品が豪華になるとお伝えしておりました。『第伍拡張』のスケジュール変更に伴いこちらも10月と11月に変更されますが、これらの2か月はプロモーションタロット「ヒミカ」の再復刻期間となり、本来の賞品に加えてプロモーションタロット「ヒミカ」を獲得できます(※)。

           

           

           もともとチカゲとクルルの間にヒミカの復刻期間は計画しておりました。4月から6月のイベント自粛における埋め合わせも含め、計画を圧縮したと捉えて頂ければと思います。

           

          ※ 『まずはゲームを気楽に遊ぶ場を提供する』指針とは少しずれがありますが、何もかもを自粛しているとこのようなファンサービスも行えません。また、最近新たに本作に触れた方々のためにも過去のタロットを入手するチャンスを用意するのは重要と考えております。

           

           賞品をまとめると以下の通りとなります。

           

          2020年9月

          季節戦

          ・プロモーションタロット「チカゲ」

          ・ホワイトキラカード「桜降る代に幕開けを -神語り-」

          ・プロモーション集中力「ユリナ」

           

          完全戦

          ・プロモーションタロット「チカゲ」

          ・ブラックキラカード「ゆらりび」

           

          2020年10月、 11月

          季節戦

          ・プロモーションタロット「クルル」

          ・プロモーションタロット「ヒミカ」(再復刻)

          ・ホワイトキラカード「桜降る代に幕開けを -神語り-」

          ・プロモーション集中力「ユリナ」

           

          完全戦

          ・プロモーションタロット「クルル」

          ・プロモーションタロット「ヒミカ」(再復刻)

          ・ブラックキラカード「ゆらりび」

           

          2020年12月〜2021年5月予定

          季節戦

          ・プロモーションタロット「クルル」

          ・ホワイトキラカード「桜降る代に幕開けを -神語り-」

          ・プロモーション集中力「ユリナ」

           

          完全戦

          ・プロモーションタロット「クルル」

          ・ブラックキラカード「炎天・紅緋弥香」

           

           

           本日はここまで! 本作の次なるイベントをお楽しみいただければと思います。次は『達人セット』の再版についての話にてお会いすることになるでしょう。ご期待くださいませ!

          『八葉鏡の徒桜』エピソード7−2:三盟19年の大家会合

          2020.08.21 Friday

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             三盟19年。これは今、私たちが生きている時間。この現代の桜降る代。
             ユリナがその英雄譚の果てにホノカ、ウツロと盟約を結び、新たな桜花決闘を生み出した証たる年号――三盟を掲げ、数多の神座桜が鮮やかに輝く時代。桜降る代という新たな時代の到来に伴い、かつて桜花136年が三盟3年と定め直されてから16年もの月日が流れた。

             

             

             

             

             目前に広がる瀧口の港は、蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた。
             過去に類を見ない超大型船の予定外の来航は、昼下がりの穏やかな時間を海の男たちから奪い去った。水深に余裕のある桟橋から、多くの船が大慌てで別の岸へと移動していく。まだ蔵に収められていなかった荷が、港内の人間総出で運ばれていった。

             

             

             やがて、どうにか着港の叶った巨大船から、長い舷梯が下ろされる。
             多くの視線を集めながら、まず降りてきたのは四人の人影だった。

             

            「急ぎではあったけど……迷惑かけちゃったみたいね」

             

             先頭を行くサリヤが、まだ慌ただしい港を見渡しながら呟く。彼女の後ろではユキヒが、その呟きへ短く同意する。
             さらにはそこから、佐伯、ジュリアと続き、一行は船上からファラ・ファルードの民に見守られながら、久方ぶりの桜降る代の大地を踏むこととなった。
             そんな彼女たちを桟橋の上で出迎えたのは、全身汗まみれとなった恰幅のいい老人。

             

            「ごめんなさいね、銭金さん。驚かせちゃったみたいで」
            「い、いえいえ! こちらこそ、受け入れにお時間を頂戴したようで、長旅でお疲れのところ誠に申し訳ありません……!」

             

             軽く詫びたユキヒに、 銭金舐蔵 ぜにかねなめぞう は隙あらば手ぬぐいで汗を拭いながら、なんとか商人としての顔を作っていた。肥えた老体に鞭打って駆け付けてきたようで、ついた杖と脚が時折疲労に震えていた。
             彼はその苦労を笑顔の裏に隠しながら、

             

            「しかし、シンラ様からはもうしばらくあちらにご滞在なされると伺っていたものですから、驚かなかったと言えば嘘になるかもしれません。それに、まさかこのような豪勢な船でお戻りになられるとは……」

             

             それに、サリヤが苦笑いをしながら理由を告げる。

             

            「これは、その……急いで戻るって言ったら用意されて……。全面的に協力してもらえたのは嬉しいんですけど、乗客が乗客だ、って大ごとになってしまいました。皇帝陛下のお口添えまであったので、無下にするわけにもいかず……」
            「メガミ様をお送りするわけですからな、張り切るのも仕方のないことかと」
            「この大きさで、帰りは半月もかからなかったんですから、有り難い話ではあります」

             

             本来の銭金であれば、それを叶える造船技術を讃え、談笑を商売の糧とすることだろう。
             だが、彼は何かを待つように相槌を打つのみだ。
             機を見たユキヒが、彼に応えるように本題へと入る。

             

            「そうなのよ、向こうで大変なことが起こったものだから、早く帰ってこられてよかったわ。……それで、銭金さんにはお願いがあるんだけど」
            「な、なんなりと」

             

             帰り路を国の力を使ってまで急いだ事情と、その上での願いとはどれほどの規模のものか。
             笑顔を強張らせた銭金へ、ユキヒは困ったようにそれを告げた。

             

            「皆で話し合いをしたくて……臨時の大家会合を開いてもらえないかしら?」

             

             

             

             


             ふと騒ぎを耳にして少女が視線を下にやると、出迎えと思しき老人が腰を抜かしたように杖に縋っていた。彼女の位置からではユキヒたちの陰に隠れて詳しい様子は窺えなかったが、二柱ものメガミに介抱されているところを見て、老人から意識を外した。
             船の甲板では、先に降りた四人が一通り話をつけるのを待っている船員たちの他、彼らから少し離れた位置の船縁で、三人の女が眼前に広がる景色を眺めていた。

             

             生き生きとした人々は精力的に港を駆け回り、その活気を示すように立派な街が内陸へ向かって続いていく。そして街の一角で活力を象徴するかのような咲き誇るのは、瀧口の大桜。この街の神座桜は、入港する船を導くように鮮やかに輝いていた。
             高い甲板からは、さらに遠く、咲ヶ原が山々に囲まれているその様子まで見通せる。よく晴れた清々しい空の下、桜の見守る雄大な大地が地平の彼方まで広がっていた。

             

            「聞いてはいましたが、驚きました……」

             

             少女の隣で、黒髪の女が感慨深く言葉を漏らす。白く染まった一房の髪が、潮風に揺れて優しく頬を撫でていた。
             それに、彼女のさらに向こうで長い金槌を杖代わりにする少女が、

             

            「うん……。でも……、あたしはちょっと、懐かしいな」

             

             しんみりと漂わせた郷愁に、小さく頬を緩ませる。
             二人の言葉に、少女はあえて答えるでもなかった。聞かされた話を一度は呑み込んだつもりではあったけれど、こうして目の当たりにしてみると、夢でも見ているのかと思いたくなってしまう。

             

            「これが……、桜降る代」

             

             改めて、教えられた現実を胸中で噛み砕く。それが、彼女に他の二人とは決定的に違う視座を与えていた。
             少女がぼんやりと眺める先では、神座桜が当然のごとく鮮やかに咲きこぼれている。
             船縁に腕を預けた彼女は、湧き上がる複雑な感情を整理するようにひとりごちた。

             

            「あたしが、いない世界……か」

             

             

             

             

             


             龍ノ宮城。かつての英雄・ 龍ノ宮一志 たつのみやいっし が東部の荒野を開拓し、その成功の末に一代にて築き上げた居城である。二十年前、 天音揺波 あまねゆりな たちの英雄譚において重要な舞台となったが、その際に彼の命と共に失われていた。

             しかし現在、焼け跡だった場所では、往時の姿とまではいかずとも、立派な城が龍ノ宮の人々を見守っている。かの豪傑の遺志を継がんとする者たちや、彼の考えに共感していた大家たちによる旧龍ノ宮連合によって復元、管理され、会合の場などで利用されている。

             

             

             そして今、まさにその会合のため、大広間には数多くの人々が集っていた。
             急場ということ以上に、参列者が特殊に過ぎることから、席次すらろくに決められていない。各家、団体、それぞれ繋がりのある者たちでまとまって座しているのみで、皆一様に最前へ設けられた主席が埋まるのを待っている。左手に広がる庭など、もう誰も見ていなかった。
             その最後列では、末席を汚していると言わんばかりに震える男が一人。

             

            「き、きき聞いてない……聞いてねえよ旦那ぁ……」

             

             恐る恐る前列を指差しながら、隣の小太りの老人を非難するのは 楢橋平太 ならはしへいた だ。彼の前には紙と筆が用意されているが、硯に揺蕩った墨が彼の心境を表すように波紋を生んでいた。
             老人――銭金はか細い抗議を揉み潰すように、

             

            「ふん、これほどの一大事だから連れてきたんだ。きちんと書き取り、お前が感じた危機感も記しておくんだぞ」
            「オレにも心構えというものがですね……」
            「前もって教えたら、どうせ逃げ出してただろうが」

             

             縮こまっている楢橋を小声でどやしていると、銭金の隣に中老の女が案内されてきた。身に纏う着物こそ正装のそれだが、痛んだ髪が肩に散らばる様が覆い隠した粗暴さを思わせる。急いでいたのか、僅かに熱気が伝わってくる。

             

            「隣、失礼するさね」
            「なんだ、貴様か。もう始まる時間だぞ」
            「瑞泉から大慌てで飛んできたんだ。早馬なんて久しぶりだったから足腰痛くて敵わないんだ、お手柔らかに頼むよ」

             

             飄々と返すのは 浮雲耶宵 うきくもやよい 。かつて覇を唱えんとしていた瑞泉家の重臣として辣腕を振るっていた彼女は、主君の失した今もなお瑞泉の政局の一翼を担っている。
             手で顔を扇ぐ浮雲は、会場を見渡して驚きを顔に浮かべる。

             

            「……壮観だねえ。龍ノ宮、瀧口あたりの連合に、前の方に陣取ってるのは……蟹河や天音あたりの桜花拝連中かい。碩星楼からも佐伯のやつがいるし、でかいとこが勢揃いで随分と景気が良いこった。場所柄、間に合うところは全員来てるんじゃない?」
            「流石に西と北の連中は無理だろうからな。古鷹の姫さんなんて、延々馬に乗せるわけにもいかんしな」
            「そうさねえ。そんでもって――」

             

             一息置き、浮雲は意を決したように視線をさらに奥へと向ける。
             臨時の大家会合。全ての家が集うまで待つべきと主張する人間はどこにもいない。
             既に参列している彼女たちの姿を見て、異を唱えられる者がいるはずもないのだ。

             

             開会を待つのは、五柱ものメガミ。
             シンラという、この地の知性を象徴する者。
             ハガネという、この大地を象徴する者。
             そして、ユリナ、ホノカ、ウツロという、今や桜花決闘をも象徴する者。

             

             

            「はは……壮観を通り越して絶景さね」

             

             軽口を叩く浮雲の頬は引きつっている。
             五柱のメガミが一つの場に参列するという状況は、ただそれだけで一大事に他ならない。
             さらには、浮雲も、銭金も楢橋も、過去にメガミが集った大事件の当事者として、一様に悪寒を感じざるを得なかった。
             浮雲がその状況にようやく至ったのを見て、銭金はせせら笑う。

             

            「これで、あの方々ですら『集められた側』なのだからな」
            「冗談きついよ、まったく。ま、議題が本当ならさもありなんといったところさね……」

             

             事前に伝えられているのは、『桜降る代の外より三柱のメガミ来たる』という趣旨のみ。
             それだけでも、この地に根ざした桜と共にあるメガミという常識を揺さぶるものではあるが、それを当のメガミ本人が俎上に上げているのだ。それだけでは終わらないと、参列者たちは確かな予感を胸にここへ集っている。

             

             そうしているうちに、城の手の者によって障子戸が閉められ、大広間に浅く広がっていた人の声が途絶えていった。
             この地を揺るがす会合が、始まる――

             

             

             

             

             


             す、と廊下側の襖が開かれた。
             開会の刻を示すように現れたのは、二柱のメガミ、ユキヒとサリヤ。今回の会合の発起人である。大家側にこの異例の大家会合を取り切れる者はおらず、議長としてユキヒがこの場に立つとの知らせは人間・メガミ問わず多くの者を驚かせた。
             自然体のままに座すユリナもそのうちの一人であった。議長には適任でこそあるが、どちらかといえば仲を取り持つように問題を解決する側の存在が、表に立ってまで問題を運んできたのだ。機も相まって、知らせに二つ返事で龍ノ宮に向かったことは記憶に新しい。

             

             ユキヒは奥に設けられた席に向かう中、この大広間に集った面々を見渡していた。ただ、途中からその眼差しに、困惑の色が微かに滲む。
             前列にいたハガネは、そんなユキヒに向かって「はいはーい」と手を挙げた。

             

            「ヒミカっち、『後でかいつまんで聞かせてくれ』だって」
            「そう、ありがとうね」

             

             礼を述べるユキヒはしかし、微笑みを僅かに陰らせているようだった。首を傾げるハガネだったが、そのままユキヒが膝を折ったのを見て、居住まいを正す。
             そしてユキヒは一息ついてから、開会を告げた。

             

            「急なお話にもかかわらず、本日はお集まりいただきありがとうございます。本会の議長を務めさせていただきます、ユキヒでございます」

             

             その声色は、普段のたおやかなものではなく、メガミとしての威厳に満ちたものだ。参列した人間たちが改めて姿勢を正すだけではなく、ユリナを始めとしたメガミたちもまた表情を引き締めた。
             続けてユキヒは、

             

            「大家会合の名前をお借りしているのに、全大家の集合を待たずに始めるというのも些か心苦しくはありますが、今回はいち早く皆さんのお耳に入れたいことがございます。ここにお見えになっていない方々にも、今日の出来事を是非お伝えいただけると助かります」
            「…………」
            「一方で、本日の主題は同時に我々の常識を揺るがすものでもあります。故にまずは、この桜降る代を牽引する皆さんにお力添えいただきたいと考えました。ここから広く人々に伝えて良いものかどうか、本日の結果を踏まえた上で、どうかご配慮のほどお願いします」

             

             無用な混乱は避けて欲しいと、いちメガミが予め釘を刺す前置きに、参加者の中から息を呑む音が聞こえるようだった。
            皆がそれを理解したと見たか、ユキヒは間を設けてから言葉を継いだ。

             

            「さて、それでは早速本題に入りたいと思います。私たちは先日まで、遠い海の果ての地ファラ・ファルードに滞在をしていました。元はと言えば、枯れかけた桜しかないような彼の地において、神座桜が立派に咲き始めた異常現象が渡航の契機だったのですが……」

             

             その土産話を期待していたホノカも、今はユリナの隣で真剣な顔をして耳を傾けている。
             ただ、ここまでであれば、共に席につくシンラからも聞いていた内容だ。
             ユキヒはその胸中を読んだかのように、先を続けた。

             

            「今からご紹介したいのは、メガミの居なかった彼の地において、その異常な桜より現れた三柱のメガミです」

             

             どうぞ、と。
             一度閉ざされていた襖が再度開き、ユキヒに促された三柱が議場へと姿を現した。

             

             山吹色の着物を腕につっかけるように着崩した栗毛のメガミ。
             萌え出づる草花に袖を通したような装いのメガミ。
             そして、巨大な腕輪を備え、白と桜、さらに濃い灰の衣装を纏った黒髪のメガミ。
             ただ彼女たちが現れた……それだけで、場には瞬く間に混乱が生まれた。

             

            「え、えぇーっ!?」

             

             まず反射的に声を上げたのはハガネであった。彼女は、先頭で入ってきた栗毛のメガミ――ハガネが人間のように一つ歳を重ねる間に、いやに大人びて見えるようになってしまったような見た目の少女に向かって、指を指しながら議場の静謐さを破った。
             次にユリナの意識に入ったのは、隣で口を開けたまま、言葉を失って少し青ざめているホノカである。彼女の視線は最後に入ってきた黒髪のメガミを捉えており、それはウツロもまた同様だった。微かにひそめられた眉が、警戒の証であるとユリナは気づく。

             

             さらにハガネの声を皮切りとして、ざわめきは人間の参列者たちにも伝播していく。
             ちらり、と背後を窺えば、全員がありありと驚きを顔に浮かべていた。ただ、その中でも最も強く、そして毛色の異なる反応を見せているのは、ユリナたちとほぼ同じ列に陣取っていた桜花拝宮司連合の面々であった。

             

            「よ、よもや……本当に……?」
            「今までずっと、彼の地にお隠れなさっていたのかもしれんぞ……!」

             

             彼らはホノカとは逆に、三柱目のメガミを目の当たりにしてから、高揚とでも言うべき情動を露わにしていた。始めは小声で勝手な憶測を隣同士で語っていたが、時を経るごとにつれて彼らの声がざわめきをさらに大きなものとしていく。

             

             その驚愕のさざなみに打たれている当のメガミたちもまた、集った面々を目の当たりにして動揺しているようだ。
             中でも特に、中央に立つ新緑の少女の感情は、容易く見て取れるほどに揺れていた。こみ上げてくる想いに瞳はせわしなく、わなわなと震える口元は、溢れ出しそうになっている感情を辛うじて喉元で留めているのだと示していた。

             

             この場で驚いていないのは、事前に顔を合わせているはずのユキヒとサリヤだけ。
             しかし、この大広間があっという間に動揺で満たされてしまい、ユキヒはどう先へ進めてよいものか切り出しかねているようだった。
             そこへ、

             

            「『お静かになさい……!』」
            「――――」

             

             不思議とよく通る声が、騒々しさをぴしゃりと抑え込んだ。自分がいきなり口をつぐんだことを、後になって気づく者すらいる。
             明確に権能を乗せた、力の籠もった声を発したのはシンラだ。取り戻した静寂に、彼女に対してユキヒは小さく頭を下げる。
             ユキヒは、三柱に腰を落ちるけるよう促してから、

             

            「人によって驚かれる点は様々かとは思いますが、質問を含めて、どうか今しばらく胸の内に納めておいてください。混乱はごもっともですから、これから少しずつ解きほぐしていこうと思います」

             

             そして議長は、会を前へと進める。
             事の重大さに気づき始めた人々の背中を、後押しするように。

             

            「まずは、彼女たちから一人ずつお話をいただきます。ご静聴ください」

             

             

             

             

             


            「じゃ、あたしから手短に済ませるよ。二人ほど込み入ってないし」

             

             そう言って手を軽く挙げたのは、ユリナたちから向かって一番左に座る少女だ。
             彼女はまず、己の名を名乗った。

             

            「あたしはハガネ。大地を象徴するメガミ」
            「……!」

             

             間違いなく、それは少女から発せられた言葉だった。
             シンラの影響がまだ残っているのか、聴衆から声が上がることはない。それはユリナのよく知るハガネも同様だったが、彼女からはもう、少女が現れたときの驚きは感じられない。
             ハガネと名乗った少女は、こちら側のハガネに少しの間、目を向けながら、

             

            「一言で言うと、そこにいるあたしとは、違う歴史を辿ったあたし、ってところかな。あたしたち三人とも、その違う歴史が流れてる別の世界からやってきたんだ」
            「…………」
            「あたしたちの居た向こう側の世界からこっちの世界には、ここにいる二人の権能と鏡の力を合わせてやって来たわけだけど……あー、難しいよね。今はそうだなあ、橋を繋げて隣町に来れた、とでも思っておいて。後で分かるからさ」

             

             最後の例えがなければ、ユリナは早くも理解を放棄してしまうところだった。聞き手は皆難しい顔をしている者ばかりで、あまり納得の空気が漂っているとは言い難い。こんな荒唐無稽な話が始まるからと、ユキヒは質問を諌めたのかもしれない。
             しかし、彼女の言葉からはっきりしたことは確かにある。
             少なくとも、メガミにとっては。

             

            「やっぱり、あたしなんだ」

             

             

             こちら側のハガネが、得心がいったように口にする。
             それに向こう側の世界のハガネは、こくりと頷いて見つめ返した。

             

            「その姿、ちょっと懐かしいなあ」
            「あたしはちょっとむずかゆいんだけど……なんだか、変な姿見でも見てる気分」
            「あはは、根っこは同じだからね」

             

             言葉を交わす二柱の姿は、まるで年の近い姉と妹のようだった。けれど、向こう側のハガネは優しく相手を見ているようでいて、声に出さない複雑な想いが時折瞳をよぎっていた。
             メガミにとって顕現体とは、あくまで仮初めの身体でしかない。そこから滲み出るメガミ本来の気配は偽れるものではないが、ユリナも肌身でこの二柱があまりに似通っていると感得していた。いわんやハガネ本人にしてみれば、だ。

             

             もちろん他人がそれを否定できるわけもなく、多くの説明を欠いた自己紹介が戯言ではないのだと、二柱の様子に聴衆は納得を強いられていた。
             向こう側のハガネは、これを『込み入っていない』と言った。
             ならば後二柱の事情とは、とユリナが不安に思ったところで、そのハガネが議長の代わりに次へと促した。

             

            「えっと、次どっち?」
            「では、私が」

             

             名乗りを上げたのは、白と桜色を基調とした衣で装った黒髪のメガミ。
             彼女は短く嘆息するように息を整えると、

             

            「私はヲウカ、向こう側の世界において主神を務めておりました」
            「おぉ……!」

             

             その名が声になった途端、抑えきれずに漏れた歓声が右手側から上がった。思わずユリナが眉をひそめる。
             ヲウカは彼らへと少しばかり淡く微笑みかけて窘めてから、

             

            「こちら側へ来た目的については、後ほど詳しくお話します。ハガネの言う通り、皆さんにとってはとても理解し難い話でしょうから、順を追うことにしましょう」
            「…………」
            「一通り、こちらの事情を説明した後で、改めて考えていただいて構わないのですが……最終的には、私たち三人をこの……桜降る代、に受け入れていただくことが、今の私の望みです」

             

             

             彼女はそこで言葉を切り、目を伏せた。しおらしいとまではいかないものの、その姿からは憂いが滲んでいる。
             そんなヲウカに、聴衆の一部からは喜色を隠しきれない声が投げかけられる。

             

            「ヲウカ様!」
            「顔をお上げください……!」
            「再びお導きいただく日が……」

             

             桜花拝宮司連合の面々だけが、まるで自分たちのほうが救いを得たとばかりに彼女を求めていた。彼らは皆、蟹河に本籍を置く宮司たちであり、この場への参加が間に合った宮司連合の大多数を占めている。
             やがて、彼らの中心に位置する、顔にひときわ皺の刻まれた老齢の男が言い放つ。

             

            「勿論ですとも!」

             

             代表格である彼に、周りの宮司たちが発言を譲る。
             今にも立ち上がらんばかりの彼は、衆目を集めていることを歯牙にもかけずに、

             

            「もしやと思っておりましたが、やはりヲウカ様であらせられましたか……! 我々が貴方様を受け入れぬ理由がどこにあるでしょう。これでこの地の未来は保証されたも同然!」
            「ああ、そう言っていただけるのですね」
            「しかし、なんと高貴な佇まいであらせられるか……これこそ、本物にしか持ち得ぬ美しさですな」

             

             びくり、と隣でホノカの肩が小さく震えた。ユリナは露骨に顔をしかめ、ウツロも同様に嫌味を垂れた男に非難の目を向けた。
             ホノカがヲウカの転生した存在であることに対しては、主神ヲウカの信奉者たちであった桜花拝宮司連合の中でも未だに態度が分かれている。中にはこうして、ホノカ自身を認めない者たちもおり、ユリナたちが顔を合わせるたびに諍いが起きる。

             

             普段であれば、決着のつかない口論がこれから始まるところだ。
             しかし、ユリナが口火を切る前に、芯のある老女の声がそれを遮った。

             

            「正村殿、仮にもそのヲウカ様の御前ですよ。言葉は選びなさいな」
            「……失礼した」

             

             天音に根ざす宮司として同席していた 高野君江 たかのきみえ が、ユリナたちに代わって男を諌めた。鼻を鳴らして居住まいを正した彼の態度にまだ憤慨は収まっていなかったが、高野の鋭い眼光によってユリナたちもまた釘を刺される。

             

             視線を戻す最中、二つ隣に座っているシンラの姿が目に入ってぎょっとする。彼女がヲウカを蛇蝎のごとく嫌っていたことを思い出したのだ。
             けれど、シンラはいつもの内面の読めない淡い笑みを湛えているだけで、敵愾心が湧き出しているなどということはなかった。それがこの場をこれ以上乱さないためなのか、あるいは他に思うところがあるのか、ユリナには判然としないまでも、杞憂に内心胸をなでおろす。

             

            「で、では、最後に」
            「……うん」

             

             途切れてしまった空気に、ユキヒは慌てて会を進行させる。
             残るは、真ん中に座った新緑の少女。
             荒唐無稽でこそあるが、ハガネも、ヲウカも、何者であるかはまだ理解が容易だった。どちらもよく知っているメガミなのだし、感覚はそれを否定しない。

             

             だが、最後の彼女だけは、ユリナの知るどのメガミともうまく符号しなかった。
             その答えが、語られ始める。

             

            「あたしはメグミ。象徴してるのは植物と開拓、かな」

             

             知らない名前に、一同は続きを待つ。

             

            「あはは、ごめんねー。かな、なんてさ。元々人間で、向こう側の世界でメガミになってそんな経ってるわけじゃないから」
            「…………」
            「今日は、みんなにあたしたちのことを、向こう側のことを、知って、もらい――もらい、たくて……っ……」

             

             どこか飄々としていそうだった彼女の口から、声が途切れる。
             押し留めていた感情が溢れたように、彼女の瞳から涙が流れ始めていた。
             すかさずユキヒが声をかけるが、

             

            「メグミさん……? 無理は――」
            「ご、ごめん……ちょっと……」

             

             手は助け舟を断るように制止を示している。
             ぐしぐし、と乱暴に袖で涙を拭うが、一度切ってしまった堰は戻らない。
             メグミは少し泣き声になりながら、

             

            「ここにいるみんなからすると、絶対訳わかんないと思うんだけど……ごめん、これだけは言わせて」

             

             そう前置きすると、彼女は聴衆の一角に熱い視線を注いだ。
             そこに座していたのは、旧龍ノ宮連合に類する者たち。その中でもとりわけ、赤東方面を治める大家の面々である。
             困惑する彼らに、メグミはくしゃりと歪めた笑顔でこう告げた。

             

            「じっちゃん……みんな……また会えて、よかったっ……!」

             

             心の底から再会を喜び、安堵した者の顔だった。メガミという肩書を忘れてしまうくらい、それはただの一人の少女が離れ離れになっていた家族に見せるような、そんな様子だった。今にも飛び出して、輪の中に飛び込んでいきそうである。
             一方、急に再会を祝された赤東の者たちは、一体誰のことを指しているのだと仲間内で見合っていた。メグミの言う通り混乱した挙げ句、もちろん誰も彼女のことを知らなかったためか、一様に首をひねっていた。

             

             このような大事な会合で妄言を吐いたとなれば、当然のようにいい扱いはされない。無視して話を進めてもらえればいいほうだろう。
             ただ、赤東の面々は、一方的に伸ばされた彼女の手を、恐る恐るだが掴もうとした。

             

            「いったいあんたは……?」
            「お祀りしてるメガミ様でもねえし、めぐみなんて子聞いたことねえが……どこん家の子だったんだ?」

             

             真摯な感情に邪険にするわけにもいかなかったのか、優しく問いかけた。
             メグミはそれにほっとしたようで、気持ちを切り替えるように頬を叩く。目端に残った涙を、身なりからすると逞しい指先がすくった。
             深呼吸一つしてから、彼女は問いに答える。

             

            「あたしの人間だった頃の名前は、 瀧河希 たきがわめぐみ 。でも、それは訳あって名乗ってた通名なんだ」

             

             そして、真名が告げられる。

             

            「あたしの本名は 龍ノ宮希 たつのみやめぐみ 。龍ノ宮一志の、実の娘だよ」
            「……!?」

             

             驚愕のあまり、誰もが絶句する。
             その男の名がここで出てくるなどと、誰が想像していようか。
             あまつさえ、彼の遺志を継いだ旧龍ノ宮連合の者たちがいる前で。
             ……あまつさえ、彼の首を断ち切った者のいる前で。

             

            「龍ノ宮さんの……」

             

             ぽつり、と次に作られた声は、ユリナの呟きだった。
             それを耳にしたか、メグミはユリナへと顔を向けた。メグミがどこまでこちらの事情を知っているか、推し量ることはできなかったが、少なくともその眼差しに敵意はなかった。

             

             彼女の正体に心当たりがあるはずもない。
             ユリナはここに来てようやく、ハガネが言っていた『違う歴史』という言葉の意味を実感し始めていた。
             英雄譚の中で没したはずの男の娘だというのなら。
             跡取りすらいなかった男の実の娘だというのなら。
             メグミは、命運を受け入れたように、その事実を告げる。

             

            「うん……だから、ここにあたしはいない」
            「…………」

             

             それにどう返していいのか、ユリナには分からなかった。
             ありそうにもない言葉を探しているうちに、メグミは皆へと向き直る。
             彼女が辿った歴史を、今こそ詳らかにするために。

             

            「ここにいるみんなに知ってほしい。向こう側で、何があったのか」

             

             

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