技の果てはどこまでも静か(後篇)

2017.09.01 Friday

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    静けさと清音の先へ

     

     

     こんにちは、BakaFireです。今回の記事はサイネ特集の後篇となります。前篇をまだお読みでない方は、こちらから読まれることをお勧めします。

     

     このシリーズは特定のメガミに注目して、本作のデザインを語るというものです。第2回まではトコヨ特集オボロ特集を行い、今後も継続していくつもりです。

     

     前篇ではメガミ・サイネに関する歴史を説明し、彼女のキーワード「八相」が生まれるまでの話と、初版と第二幕の狭間の歴史を語りました。後篇では個々のカードに注目し、それらを通して彼女を語ることにしましょう。

     

     

    カードの何に注目するか

     

     このやり方もこれまでのものを踏襲します。以下にてまとめましょう。

     

    • カードの歴史と評価に注目する
    • 歴史とはカードが生まれた経緯を指す。
    • 歴史においてルールの変化が重要ならばそれも語る。
    • 評価はゲームにおける魅力、バランスの適切さ、メガミの気質の体現性の3点を見て行う。
    • 現在問題視している箇所や、カードへの否定的な見解も書く(出版から時間が経ち、皆様からのフィードバックを頂くと至らなかった点も見えてくるのです)
    • 否定的に書き、修正を匂わせたとしても、修正を急ぐつもりはない。

     

     幸いにして、初版での環境を観察した上でデザインしたためか、サイネへの反省点はこれまでと比べると小さいものです。早速見ていきましょう。

     

     

     サイネはその目的から見ても、フレーバーから見ても基本的な攻撃を持つべきです。目的とは初期デッキで使用するというものです。初期デッキはできる限り複雑さを軽減すべきなので、そのメガミの中に何枚かは分かりやすいカードが必要なのです。

     

     フレーバーはユリナのライバルであるという点です。ユリナは「斬」を持ちます。ゆえにサイネもまた、2つの適正距離を持ち、3/1である攻撃を持つべきなのです。

     

     これまでの環境を観察し、このカードはもっとも基本的かつ適正なバランスを持ったバニラ(能力のない)な攻撃だと考えています。つまり「適正距離3-4、3/1」こそが攻撃の基準として妥当なのではないかということです。

    (「斬」には根深い問題があると考えています。極めて厄介な問題で、解消しようにも一筋縄ではいきません。いつか説明させて頂くつもりです)

     

     

     前篇でお伝えした通り、サイネは最初から連続攻撃のコンセプトがありました。これはライバルとしてふさわしいものです。ライバルは主人公との対比で定義されるので、同じ感じであり、同時に異なる感じである必要があるのです。連続攻撃はそれを良く実現しています。攻撃に焦点を置いていることは変わらず、一方でダメージへの感覚や判断で、適度に異なる感覚があるのです。

     

     バランス調整の歴史としては、直前で2発目の適正距離3が除かれています。これは「間合2以下での前進禁止」導入直後にオボロ/サイネが強くなりすぎないかを過度に警戒したためのものです。初版カードの修正もあったため私どもには時間が不足しており、中距離での戦略がどこまで優位になるのか計れていなかったのです。

     

     発売直後のサイネの評価を見る限りでは、これは失敗だったと捉えていました。しかし最近になって実は正解だったのではないかと考え直しつつあります。「雅打ち」調整後のサイネの活躍や、打点の高さを鑑みると、この調整をしていなければ暴れすぎていたかもしれません。

     

     

     サイネの移動カード枠です。「薙斬り」と同様に、このカードは初期デッキのためにデザインされました。本作の最大の要点は「間合を合わせて攻撃する」点にあります。ゆえに基本的な攻撃カードと同じくらい、基本的な移動カードが必要なのです。

     

     適正距離3-4は中々に微妙な立ち位置で、遠距離相手には前進したく、近距離相手には後退したいものです。ゆえにオーラが最大でも前進でき、効率よく後退もできるカードとして「足運び」が作られました。ほんの少しばかりカードの強さが足りないようにも思いますが、サイネの中では良い塩梅で機能しているため、メガミ間における個性の一環として問題ないと考えています。

     

     

     第一幕での前進は強すぎ、間合の焦点は0となっていました。ゆえに得意な間合が3や4のメガミはこのままでは機能しません。そこで、強力な後退を行うか、前進を抑止する必要があります。 薙刀やサイネのイメージとして、素早く動くよりは前進し辛い場を作る方がそれらしいので、後者が採用されました。

     

     しかしカード個々での対策には限界があり、結果として第二幕のルールが導入されることになり、こういった手段は必須とまでは言えなくなりました。それでも依然として前進が強めであることは変わらず、カードに魅力もあったためそのまま残ることになりました。特に、1回だけは前進を許す点や、抑止する間合が制限されている点は、ゲームを止めすぎずに適度な抑止力となっていると感じています。

     

     ところでこのカードは実に奇妙です。行動カードでありながら、捨て札にある際に付与札のように働くのですから。なぜこのようになったのかと言えば、これまた奇妙な昔話があるのです。お話ししましょう。

     

     自然な話として、このカードは途中までは《付与》カードでした。それも、印刷に至る本当にギリギリまで。しかし、入稿される直前。実に直前の大会で一人のプレイヤーがあるデッキを開発したのです。

     

     それこそがトコヨとシンラを組み合わせ、「森羅判証」を最速で貼り、4枚の《付与》カードを叩き付けて勝利するコンボデッキ「森羅4カード」でした。このデッキの動きは私の予想を完全に超えており、魔境のような一幕環境でも十分な成果を出せる強さを持っていたのです。

     

     そしてそれ故に奇妙なリスクが発見されました。通常札に《全力》でない2枚以上の付与札を持つメガミは、このデッキタイプを成立させます。さらにサイネは「無音壁」と「衝音晶」を持っており、どちらも「森羅判証」との相性は良好なのです。通常札に合計3枚の《付与》カードを持つメガミがいまだ存在しないために動きの予測も難しく、バランスに高いリスクが生じていたのは明白です。その上プレイテスト期間は既に終わっており、検証する時間もありませんでした。

     

     そこで大会のその場で調整案を考え、それを適用したのです。その結果が今の「圏域」です。付与であるより序盤に貼り易く、デザイン通りの目的を果たしやすくなっており、むしろ良いデザインになったと感じています。少しばかり運への依存性が高いところは気がかりですが、許容範囲内と捉えています。

     

     

     八相のコンセプトが生まれた時点で、それを防御的にも使えるようにすべきと考えました。オーラが0なのは高いリスクですが、リソースと手札を上手くやりくりすれば、そのリスクを軽減できるのです。また、守りを削ぎ落して集中を高めれば、相手の攻撃を見切れるというのも、サイネらしい戦い方と言えます。

     

     小さな失敗として、《全力》を対象から除くのはやめておくべきでした。第一幕当時、「居合」や「斬撃乱舞」のような《全力》の《攻撃》カードは不遇な立場にありました。問題の本質は間合にあったのですが、当時の私はそれをカードの相性により改善できないかと考えました。そこで「全力に弱い」対応カードをデザインしたのです。

     

     多くの後知恵を踏まえるとピントのずれた考えであり、このカードそのものの強さも思っていたほどではなかったため、やや魅力を減じてしまったと感じています。

     

     

     サイネの詳細設定が固まりきるより前に、イメージ的な設定は存在していました。その中に衝撃を吸い、それを放出する結晶という特殊なアイテムもありました。

     

     「衝音晶」はそれを再現したカードです。攻撃を減衰して吸収し、それを放出して1/-の攻撃にするのです。割と初期に出来上がり、そのままほとんど変わらずに印刷されました。《付与》で《対応》のカードがこれまで存在しなかったことも含め、独特の魅力あるカードになったと考えています。

     

     

     サイネのカードのうち、7枚の通常札と3枚の切札のコンセプトはそこまで苦労せずに定まりました。しかし、最後の切札はなかなか決まらず難航していました。そしてプレイテスターと会話しながら想像を膨らませた結果、無音壁の原型が生まれました。効果は今と同じです。違うのは切札であり、全力でなかった点です。

     

     かなり期待してプレイテストを行いましたが、結果は思ったほどに良いものではありませんでした。この効果は守りを固めるだけであり、切札として消費を支払ってまでやりたいことではなかったのです(当時は「生きる道」もありませんでした)。さらに1回だけ相手に攻撃を留まらせる程度の結果しか生まず、3枚しかない切札の枠を勝ち取るのは困難でした。

     

     他方で、別の問題を抱えていたカードもありました。「響鳴共振」の原型で、こちらは通常札でした。しかし相手がオーラを4以下に留め続けていると、いつまでも手札に抱え続けなければいけませんでした。他方で一度でも見せれば、今度は相手がオーラをケアしつづけなくてはいけません。つまりお互いにイライラするカードだったのです。

     

     ここまでお伝えすれば、私どもがどうしたかもうお気づきでしょう。両者の通常札、切札の立ち位置を入れ替えたのです。無音壁は納3か、全力で納5か迷いましたが、後者の方が魅力的だと判断されました。結果、どちらも良い位置に落ち着いたと考えています。

     

     

     立ち位置は八方振りに近いと言えるでしょう。月影落との対比になっていることも含め、実にライバルらしく良いデザインになっていると考えています。

     

     バランス面では面白い流れがありました。まず基本的には、適正距離3は適正距離1-2に劣ります。ダメージとしては累計すると4/3であり、月影落に並びます。ゆえに月影落の消費である6と比べ、それより低い5としていました。

     

     しかし実際に試してみると、思ったより弱かったのです。「久遠ノ花」一発で止まらない辺りや、『ハースストーン』で倒されても2/1を生む2/3のゴーレムが強かった辺りを鑑みて、連続攻撃は強い一撃とは別種の強さがあると予想していました。しかし、オーラを少量残せばライフへのダメージを大きく減らせる点が思いのほか弱く、本作における連続攻撃はもう少し強めに作るべきだと学んだのです。

     

     結果、消費はさらに下がり4になりました。実に良い塩梅だと感じています。

     

     

     サイネのコンセプトを模索する途中に、「相手のオーラが5であれば、いくつかのカードが強化される」というコンセプトも出ていました。初版当時、前進してくるプレイヤーのオーラは5になりやすく、問題となるレベルだったのです。決闘ではなく玉入れと揶揄されたのも無理はないでしょう。

     

     しかしこれはコンセプトとしては失格でした。 コンセプトを魅力的にするには、適度な障壁とそれを打開した際の報酬を活用し、そこから楽しさを得られることが必要です。八相であれば後退や宿しで自ら満たすのは簡単です。しかしこれらの基本動作でオーラを0にして、本当に問題ない状況というのも限られます。ゆえに適度な障壁として働き、課題を克服した際には楽しさが得られるのです。

     

     ところが相手のオーラを増やすのは自分からはできません。ゆえに、相手がケアをすると超えられない障壁が生まれてしまい、全く楽しく働かないのです。オーラを増やす機能を持つカードを作れば可能ですが、今度はそのカードがなければ機能しないコンセプトになってしまいます。

     

     しかしオーラが5であるのは強い行動なので、それを咎めるカードは駆け引きを魅力的にします。ゆえにコンセプトとしては没ですが、カードとして1枚存在するのは望ましいと言えるでしょう。肝心の効果としては、オーラが5になりやすいのは前進を多く行う側なので、後退効果を持たせるのが妥当です。

     

     あとは「無音壁」にて語ったエピソードの通り切札へと移り、完成となりました。

     

     

     これを語るには、まずは「見切り」を語らねばなりません。ああいえいえ、サイネの持つ「見切り」ではありません。移動カード枠の話をする際、昔はどのメガミでも使用できた共通カードがあったという話をしましたが、「見切り」はその中の一枚です。今の文脈に直すと、このようなカードでした。

     

    行動/対応

    追加コスト:手札を1枚捨て札にする

    対応した切札でない《攻撃》を打ち消し、現在のフェイズを終了する。

     

     これは言うまでもなく強力で、問題のあるものでした。特にあるプレイテスター(ちなみに高校時代に熊を繰り出してきたやつとは同一人物です)が「森羅判証」の原型と組み合わせて作り上げたデッキは、いわゆるロックデッキであり、大半のデッキに10:0をつけるふるよに史上最も愚かなデッキでした。

     

     しかし同時に、このカードには魅力を感じていました。和の決闘は静と動のせめぎ合いで構成されています。対応してフェイズを終えるという効果は相手の動を崩し、刹那の間隙を生むのです。これは実に決闘らしく、魅力的です。

     

     それゆえ拡張を作るとなって私は、このカードをやり直すことにしたのです。まず、通常札として何度も使えると愚かなことになるので切札にしました。切札ならば切札の攻撃も打ち消せるべきと考えたので、そうしました。結果、驚くほどつまらないカードが生まれました。切札を打ち消せることから、大技の切札のために構えるカードになり、フェイズを終える部分が全く活かされていないのです。

     

     そこで切札を打ち消せなくしても、元の効果に戻り切札としては何ともしょぼいものです。しばらく頭を悩ませた結果、ブレイクスルーにたどり着きました。打ち消すことを辞めるのです! 主眼にしたいのはフェイズを終える部分であり、それだけでも十分に魅力的なのです。

     

     そうすることで複数回使えても良くなりました。通常札とするには少しばかり強すぎるので、切札として再起を付けるのがベストです。そこまで考えて驚いたのは、八相があまりにも適切な条件であったことです。

     

     件のロックデッキで分かる通り、この効果は毎ターン使えると愚かな結果をもたらします。しかし八相であれば、再起したターンにはオーラがないため、このカードを使ったとしてもライフにダメージが通っているのです。故に毎ターン再起してもロックとしては働きません。

     

     過去に成し遂げられなかったものを上手くこなし、魅力的なカードにできたことに深く満足しています。

     

     

     これについて語るべきことの多くは、既に前篇で語り終えています。氷雨細音は天音揺波のライバルであり、そのぶつかり合いを実現するのです。このカードはまさしく彼女の、ライバルとしての側面を体現していると言えるでしょう。

     

     バランスとしては、消費5から始まりましたが途中で消費4になりました。思っていたより使いどころが難しいため、早期に構え、プレッシャーをかける必要があったのです。実際に直撃させるのは難しいですが、存在していることそのものがサイネの強みともなっており、良い仕上がりであると考えています。

     

     

     原初札は基本的には「メガミに挑戦!」で使用されるものです(メガミと挑戦者で対戦し、メガミ側は原初札を用いる代わりに1柱しか使えず、挑戦者は相手のメガミを見たうえで宿す2柱を選ぶ)。そのため、そのメガミ単独での戦いを実現できるようにデザインされます。特に通常札は、その戦いの円滑化が目的となります。

     

     サイネは攻撃的な性能を持つメガミですが、《攻撃》カードは2枚しか持っていません。それゆえに、単独となると攻撃能力に幾ばくかの不安があるのです。そこでシンプルに過剰な性能を持った《攻撃》カードを作りました。一工夫したのはその使用条件に八相を加え、ただ安易に打つだけのカードにしなかった点です。駆け引きが濃くなるとともに、サイネらしくなったのです。

     

     

     原初札の切札も同様のコンセプトで作られますが、こちらは「刺激的で特殊な舞台を作る」ことを意識してデザインされます。

     

     効果を見て察したかもしれませんが、こちらもユリナとのライバル関係を意識したデザインになっています。そう、「浮舟宿」との対比です。逆向きの「浮舟宿」 は明らかに強力なので原初札に相応しく、自分のオーラを失わせる効果もサイネにとってはメリットとして活用できます。

     

     舞台を作るという意味では、裏に強烈なコンボを持つことで、いつ倒されるか分からない緊張感を表現するという形で成されています。挑戦者が油断したのであれば、静かな盤面は一転して激しくなり、怒涛の連撃を仕掛けてくるのです!

     

     

     これにてサイネ特集は閉幕となります。様々なカードに秘められた物語をお楽しみいただけたら嬉しい限りです。今回の特集への感想や、他に行ってほしい特集などありましたらTwitter(@BakaFire)までお伝えください。

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     来週はお休みし、次回の更新は再来週、今後の展望2017秋となります。ご期待ください。