技の果てはどこまでも静か(前篇)

2017.08.25 Friday

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     こんにちは、BakaFireです。定期的にお送りしているメガミ特集も、いよいよ第3回となります。以前までに行ったトコヨ特集オボロ特集を一部踏まえた内容となっておりますので、お時間があるならば先にお読みになることをお勧めします。

     

     前回お伝えした通り、しばらくの間はアンケートは行いません。これまで結果に基づいた順番で進め、今回はサイネ特集となります。

     

     

     それでは、早速はじめましょう!

     

    やり方は前回のままで?

     

     どのようにメガミを語るかは前回までのものを踏襲したいところです。以下のようなものでした。

     

    • 前篇ではメガミの歴史を語り、後篇では個々のカードを語る。
    • 第一幕での六柱を語る際は、本作そのもののゲームデザインと紐付けて語る。

     

     しかし、今回はそうはいかないようです。勿論あなたならお気づきでしょう。サイネは七柱目のメガミであり、第一幕の六柱には含まれないのです。ならば、どのようなアプローチをするべきでしょうか?

     

     六柱がゲームデザインそもそもの変遷に紐付けられているならば、サイネは第一幕と第二幕の間の変遷に紐付けられています。そこで今回の記事ではサイネのデザインを語ると同時に、その狭間の歴史についても語ることにしましょう。

     

    大ヒットと拡張のはじまり

     

     本作の初版は2016年5月、ゲームマーケット2016春に出版されました。一年半にわたる開発期間をかけた渾身の力作であり、これが当たらなければ本当にまずかったため、私は深い緊張に包まれていました。前日の夜、一睡もできなかったのを今も覚えています。

     

     ふたを開けてみたらどうだったか。本当にありがたいことに、大成功でした。TOKIAME先生の素晴らしいアートの力もあり、数多くの方に手に取って頂け、その後のショップでの評判も上々でした。

     

     このような二人用ゲームを作ると決めた時点で、大会の開催も決めていました。この類のゲームは二人用ゆえにいわゆるボードゲーム会では立てづらく、プレイできる機会が限られてしまいます。ゆえに、公式から交流の場を作るのは極めて重要です。そちらの大会にも24名もの方が集まって頂き、大いに盛り上がりました。本作の出だしは、まさに絶好調だったのです。

     

     この流れを見て、私は拡張の作成を決めました。今となっては懐かしき第1回公式大会レポートで、拡張作成を宣言したのです。

     

    模索された新たなメガミたち

     

     私は意気揚々と新たなメガミのアイデアを練りました。最初のプレイテストに持ち込まれたのは3柱でした。

     

     そのうちの1柱の象徴武器は毒で、チカゲの原型でした。次の1柱は……、今触れるのはやめておきましょう。そのプレイテストでの彼女の評価は最悪であり、没になりました。しかし、いつの日か正しいやり方で帰ってくると私は信じています(ちなみに、神語りには名前が出てたりします)。

     

     最後の1柱の象徴武器は薙刀です。そう、彼女こそがサイネの原型でした。彼女に与えられた特性は、集中力を追加コストとするというものでした。当時のカードをいくつかご覧いただきましょう。

     

     

    突引

    攻撃/全力 適正距離3-4 3/2

    追加コスト:集中力2

    【攻撃後】「適正距離3-4、2/1」の《攻撃》を行う。

     

     サイネははじめから連続攻撃のコンセプトを持っていました。第一幕時点ではゴミですが、第二幕の現状だとどうでしょう。少しばかり重すぎて、それでも使い辛いカードに思えます。

     

    反復

    行動

    追加コスト:集中力1

    捨て札か伏せ札にあるカードを1枚選び、手札に戻す。

     

     デンジャラスなカードです。この手のカードが危険であることから、本作でのカード再利用は「使用する」という形でなされるようになりました。

     

    才気

    付与 納4

    追加コスト:集中力1

    【展開中】あなたの切札の消費は1少なくなる。

     

     悪いカードではないように思います。クルルが似たようなカードを持っていたこともありましたが、なんやかんやあって没になりました。

     

     ゲームとしては無難に機能していましたが、このコンセプトは没になりました。最大の理由は、集中力をコストとできるとしても、そのメガミがどういうキャラクターなのかが見えてこない点にあります。カードやコンセプトはメガミの在り方を体現していなくてはいけません。その点において十分とは言えなかったのです。

     

     また、集中力をコストとするという概念は応用の幅が広く、1柱だけに制限するべきではないとも判断されました。現在では「Roaring」で使われていますが、今後も登場する可能性はあるでしょう。

     

     

    衰退、そして打開に向けた模索

     

     しかし好調は長くは続きませんでした。最高の出だしを飾った本作ですが、時計を数か月ばかり進めてみると、人気には明白な陰りが見えてきたのです。最も顕著なのは大会でした。第2回の時点で参加者が僅かに減り、バランス調整をした第3回では盛り返しましたが、それ以降は再び減少を続けました。末期には毎回8人集まるかどうかで胃を痛めており、開催すらも危ぶまれていました。

     

     何を失敗したのでしょうか。今となって思い返すと、3つの理由が挙げられます。

     

    ゲームのバランスがひどかった

     ゲームの構造そのものが魅力にあふれていたのは、今の成功からも間違いないでしょう。しかしバランスはダメでした。今は完璧というつもりもないですが、それにしてもひどすぎたのです。アートとコンセプトの力で何とか最初だけは成功できましたが、つまらないゲームが廃れていくのは当然のことです。

     

    大会に賞品の実体がなかった

     初版作成時点ではあらゆる余裕がありませんでした。ゆえに大会の賞品となるものを一緒に印刷できなかったのです。そこでやむなく、賞品印刷後に賞品がもらえる権利を賞品にしていました。何だかややこしい話ですが、魅力的でないことは間違いないでしょう。

     

    拡張までの間に時間が空きすぎてしまった

     ゲームマーケットのスケジュールは厄介なもので、5月の次は12月まで空いてしまいます。一般的なボードゲームではその程度の期間は何ということはないですが、LCG的な方向性を持つゲームでは、その間にニュースがないのは大問題でした。

     

     しかし、当時はそのような答えは見えてはいませんでした。それゆえに、苦しみの中での模索が続けられていたのです。

     

    薙刀らしく構えていこう

     

     模索の中、ゲームバランスの問題は当然挙がっていましたが、それに類する小問題として初期デッキにおける問題(詳細は第二幕開幕の記事で)も持ち上がっていました。そこで新たなメガミは初期デッキを改善する目的も与えられることになりました。

     

     結果、先の3柱から優先して、薙刀が選ばれました。薙刀は和風の決闘において実に必然的な武器であり、初期デッキに相応しく、初版に存在しなかったのが不思議なほどです。この時点でサイネという名前が与えられ、本格的なデザインが開始しました。

     

     サイネのコンセプトだけが先行して考え直されることになりましたが、トコヨやオボロほどの苦労はありませんでした。八相については、アプローチが実にうまく機能したのです。説明しましょう。

     

     デザインチームは薙刀という武器そのものに注目しました。刀や薙刀には様々な構えがあり、現実の試合でもそれらを駆使して闘います。しかし、複数の構えを状態として表すのはゲームとしては複雑すぎます。そこで、特に名前が格好良かった「八相の構え」のみに注目することにしたのです。

     

     この構えは守りを捨て、攻撃的な立ち回りを行うというものでした。では本作での守りとは何か。もちろんオーラです。こうなれば答えは簡単でしょう。オーラが0であるときに強化されるとすればよいのです。初期デッキでも使うため、特殊なコンポーネントや追加ルールは使えないので、その面でもふさわしいものでした。そしてプレイテストをしたら明らかに違うプレイングを求められ、とても素晴らしかったのです。

     

     

     八相の話はこれで終わりですが、サイネについてはもうひとつ語ることがあります。そう、ストーリーについてです。

     

    神語りのはじまり

     

     人気が低迷していく中、様々な改善策が模索されていました。その中には、世界観の魅力を強調するというものもありました。そして最も早く実現し、今も魅力的に続いているものがあります。そう、五十嵐月夜先生が描く公式小説『桜降る代の神語り』です。

     

     そして神語りの開始時期は、サイネのデザインの末期でもありました。この時点で、サイネはストーリーの中で発表すべきなのはすぐに分かりました。問題は、どうすれば魅力的になるのか、です。

     

     物語全体の計画を模索し、知力の限りを尽くしました。そして大きな結論として、初版時点での欠陥に気づきました。本作を格闘ゲーム的に捉えるならば、リュウに対するケンが不足していました。 そう、ユリナにはライバルが必要だったのです! そして初期デッキに用いられ、さらに薙刀という分かりやすい武器を持つサイネは、ライバルとしてまさに相応しい位置にいました。

     

     ユリナがもともとは人間、天音揺波だったことは初版時点で決まっていました。そうなれば当然、サイネも元人間であるべきです。そして、ユリナの人間時代があることを伝えるカードとして「天音揺波の底力」も存在していました。ならば……?

     

     ここまで考え、最高のアイデアにたどり着いたと確信しました。サイネにも人間時代を象徴するカードを、「天音揺波の底力」とぶつけあえるようにデザインするのです。そして、ストーリーでそれを実際にぶつけ合い、その後にカードをプレビューするのです!

     

     

     このプレビューはとても好評なものでした。サイネ、そして氷雨細音はストーリーと共に育まれたメガミでもあるのです。

     

    そして第二幕へ

     

     サイネの話はこれで一段落なのですが、第二幕の話は完結していません。あと少し、お付き合いいただきましょう。

     

     人気の低迷は続いていましたが、一方で良い知らせもありました。ショップでの状況は好調であり、再版の可能性も生まれはじめたのです。しかし今のままで再版しても意味がないのではないかという悩みも生まれていました。

     

     再版に伴い、抜本的なバランスの見直しを行うことにしました。まずはユリナの攻撃が暴力的すぎたため、それが修正されました。しかしその結果、さらなる問題が持ち上がってしまいました。ユキヒを宿し、ただひたすら間合0への前進を繰り返したら勝ててしまったのです。

     

     皮肉なことに、それを抑えていたのはユリナでした。間合1や2で高い打点を出せたため、ただ前進するだけの相手を十分に打ち倒せていたのです。まさに二者択一。絶望的な空気がプレイテストの場に流れていました。

     

     私は頭をかきむしりながら、お手洗いに立ちました。やはりこのゲームはもう駄目なのか。しかし幸いなことに、私はそこで天啓を得ることができました。閃いたのです。「間合2以下で基本動作:前進を禁止する」 というルールを! メガミたちが私を見捨てなかったのか、それとも考え続けた脳みそに光が通ったのかは分かりませんが、どうにか命を繋ぎました。

     

     唯一問題を挙げるとすれば、プレイテスターから見て私は相当な危険人物だったようです。彼らいわく、どうやら私は頭を抱えながらお手洗いに立ち、戻ってきたら異常に興奮していたようです。「普段から頭がおかしいとは思っていたが、ついに本格的に症状が出たのかと思った」という暖かなお言葉は、今も忘れられません。

     

     それはさておきこのルールは素晴らしく働きました。しかし、多くのカードへの調整も必要でした。この段階で、リニューアルした第二幕を出し、他方で調整カードと追加カードに設定資料集を付けた差分パッチも出すという指針が完全に固まりました。こうして、第二幕計画は形になったのです。

     

     その結果はどうか。現状を見るかぎりでは、成功のようです。楽しんで頂けているプレイヤーも目に見えて増え、そしてデジタルゲーム化も決定しました。当時の問題のある環境にもかかわらず、関東大会や地方大会を支えて頂いたプレイヤーの皆様には、今は感謝以外ありません。そして今楽しんで頂けているあなたにも、改めて感謝を伝えさせて頂きます。

     

     少し長くなってしまいました。サイネ、そして幕間の物語はこれで十分でしょう。

     

     次回の更新は来週、サイネ特集の後篇にて、現在のカード個別の話をさせて頂きます。ご期待くださいませ。

     また、今回の特集への感想や、他に行ってほしい特集などありましたらTwitter(@BakaFire)までお伝えください。あなたの一声が、今後の記事を変えるかもしれません。お待ちしております! 

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