忍の道をいざ行かん(後篇)

2017.06.30 Friday

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    忍びの道はまだ続く

     

     

     こんにちは、BakaFireです。今回の記事はオボロ特集の後篇となります。前篇をまだお読みでない方は、こちらから読まれることをお勧めします。

     

     このシリーズは特定のメガミに注目して、本作のデザインを語るというものです。第1回となるトコヨ特集で好評を頂けましたので、今後も継続していくつもりです。

     

     前篇ではメガミ・オボロに関する歴史を説明し、彼女のキーワード「設置」が生まれるまでの話をしました。後篇では個々のカードに注目し、それらを通して彼女を語ることにしましょう。

     

     

    カードの何に注目するか

     

     このやり方もトコヨ特集の時のものを踏襲します。以下にてまとめましょう。

     

    • カードの歴史と評価に注目する
    • 歴史とはカードが生まれた経緯を指す。
    • 歴史においてルールの変化が重要ならばそれも語る。
    • 評価はゲームにおける魅力、バランスの適切さ、メガミの気質の体現性の3点を見て行う。
    • 現在問題視している箇所や、カードへの否定的な見解も書く(出版から時間が経ち、皆様からのフィードバックを頂くと至らなかった点も見えてくるのです)
    • 否定的に書き、修正を匂わせたとしても、修正を急ぐつもりはない。

     

     オボロはトコヨとは逆の意味で反省点があるメガミです。カードを語るにつれて、それらについても触れていくことになるでしょう。

     

     

     設置の歴史は前篇で語った通りです。それではドトールコーヒーで書かれたノートにはどのようなカードがあったのでしょうか。

     

     当然、設置を持った攻撃が含まれていました。たいていの場合、設置は開始フェイズに起動されます。つまり直前には相手のターンがあり、相手には設置攻撃の間合から外れるという選択肢が存在しているのです。

     

     これこそが設置攻撃の大きな魅力です。追加の攻撃を行えるというのは、状況によっては山札の再構成を1ターン早めるだけの価値があります。そして適正距離にいることを選んだ相手にイレギュラーな攻撃を当てるのは罠に嵌めた快感を生むのです。

     

     最初は適正距離4-5のカードとして生まれ、それでは設置での起動が辛すぎるので3-4となりました(実際は第一幕ではそれでも辛すぎたのですが)。現在はやや強めのカードパワーもあり、手札から撃つか設置して撃つか悩ましい、絶妙なカードになったと考えています。まさしく、オボロの看板カードの一角と言えるでしょう。

     

     

     ドトールノートの時点では、単に間合のずれた設置攻撃が複数存在しているだけでした。しかしプレイテストを重ね、すべてがそれでは退屈だと分かってきたのです。そこで、設置して使うことにさらにボーナスがあるカードが作られました。

     

     魅力的なのは、確実性と強さの取引をしている点です。手札から撃つならば間違いなく撃てる一方で打点がやや乏しく、設置して撃つとなると相手が都合の良い間合にいるとは限りません。こういったギャンブルは楽しいものであり、他方で基本動作という保証がされているため、何も得られないという不快感も払拭されています。設置攻撃そのものの魅力に加え、より鮮烈なスパイスが加わったのです。

     

     しかし残念ながら、このカードも「鋼糸」も歩んできた歴史は不遇なものでした。そもそもに第一幕では、間合2ですらまともに機能しない絶望の大地だったのです。あの「梳流し」ですら「コンボでは強いがやや微妙なカード」と評価されていたあたり、第一幕の恐ろしさが垣間見えるというものです。

     

     当然、解決のために変更が施され、第二幕が訪れます。それにより設置攻撃は息を吹き返しました。間合2は新たな焦点となり、「影菱」はまさに罠らしい場所から睨みを効かせられるようになったのです。それを嫌って一歩後退したならば、そこには「鋼糸」が待ち構えているのも絶妙と言えるでしょう。

     

     これはあまりに絶妙すぎたため、全て計算されていたのではと思えるようなものです。正直に告白しましょう。それは偶然であり、一番驚いたのは我々です。強いて言うなら、第一幕の段階で全ての間合に魅力を与えるよう気を配ってデザインしていたのが功を奏したのかもしれません(当時は失敗でしたが)。

     

     現在の「影菱」そのものは十分に魅力的であり、その出来にはおおむね満足しています。ただ然るべき時には、あとほんのわずかにだけ強くしたいところではあります。設置から使用したら対応されないとか。

     

     

     全力の攻撃カードですが、正直に告白しますと、この枠のデザインはかなり難航していました。当時のデザインにおいては、全てのメガミに《全力》の通常札を2枚ずつ持たせるという計画だったのです(第一幕のカードリストをご覧いただければわかる通り、その計画は最終的にはなくなりました)。

     

     オボロは「分身の術」はそれなりの時点でできていましたが、もう一枚の枠がうまく行っていませんでした。いくつか見るべき点のあるアイデアはありましたが、様々な問題により没になっていたのです。

     

     最終的にはやむなく《全力》の《攻撃》カードとし、オボロらしくするために伏せ札から使えるオプションを持たせました。しかしながら、やむをえない感が強く、満足していない1枚です。

     

     

     設置の行動カードであり、オボロの移動カード枠です。しかし現在においては、歴史が生んだ2つの歪みのために満足のいかない仕上がりになってしまっています。語ることは多く、重なる話題も多いため、この2枚はまとめてお話ししましょう。

     

     ひとつめの歪みは「虚魚」によるものです。詳しくは「虚魚」そのもので語りますが、トコヨ特集での答えあわせだけはここで済ませてしまいましょう。トコヨの「風流」が没になった時、その効果は2つに分かれました。その片割れはもちろん「詩舞」。それではもう片方は? それこそが「誘導」です。「誘導」は「逆さ風」が「虚魚」となった際に、共に移籍してきたカードなのです。

     

     もうひとつの歪みは第二幕における「設置」のルール変更によるものです。もともと第一幕では山札の再構成に際し、任意の枚数の設置カードを使用できていました。こうすることで設置行動と設置攻撃が繋がり、罠でコンボするような楽しさが生まれると考えたのです。実際、確かに楽しさもありました。しかしながら問題もあると判断せざるをえなかったのです。2つの問題点を説明しましょう。

     

     ひとつめの問題は開始フェイズを煩雑化してしまう点です。何枚ものカードを使えるとなるとその動きは余りにもメインフェイズに近く、今が開始フェイズであることを忘れてしまうのです。第一幕ではオボロがひどく弱く、結果として顕在化しなかった問題ではありましたが、間違いなく水面下には存在していました。

     

     もうひとつの問題は第二幕において強すぎたことです。設置攻撃が絶妙な仕上がりになったことは説明した通りで、それ自体は歓迎すべきことですが、設置行動と組み合わせてコンボできるとなると、打点が豊富過ぎたのです。特にユリナとの組み合わせは危険な水準へと達していました。

     

     この2点を解決するために、設置は1回の再構成で1枚だけと改められることになりました。それによって設置攻撃はより魅力的になったと感じます。しかしその一方で、そもそもコンボを前提としてデザインされたこれらの2枚は魅力を損なってしまいました。

     

     以上の歴史により、現在のこの2枚には満足していません。しかるべき時には、まとめて修正したいと考えています。

     

     

     オボロの《全力》カード枠として早めに誕生し、その地位を守り続けました。それもひとえに「分身の術」という圧倒的な忍者らしさによるものです。前篇で語った通り、オボロは忍者のメガミが必要だから生まれたメガミです。それ故に、カードの忍者らしさもまた重要なのです。

     

     その点においては設置カードたちも高得点ですが、このカードは満点と言えます。伏せ札を活用し、全力という相手が事前に対処できるタイミングゆえに罠のように発動でき、そしてまさしく「分身の術」らしい効果なのです。さらに、同一のカードを2回使える点も見逃せません。同じカードを複数使えない本作において、これは夢を感じる効果でもあるのです。

     

     このように素晴らしいカードなのですが、思っていたよりは活躍せず、やや使い辛いカードにも感じています。しかしそれはオボロ全体としての問題かもしれませんし、相性の良いカードがあれば化けるカードなのかもしれません。総じて、今は静観すべきと考えています。

     

     

     隙について語る時が来ました。しかし、隙を持つカードは基本では2種しか存在しません。それゆえに、隙というキーワードに疑問を感じている方もいらっしゃるかもしれません。まずはそれを説明しましょう。

     

     隙の起源は「圧気」です。「圧気」は魅力的なカードで、私も高く評価しています。しかし開発途中において「圧気」には問題がありました。初めてカードを見たプレイテスターの大半が、テキストを見て顔をしかめ、眉間にしわを寄せるのです。理由は明白です。テキストが分かりづらかったのです。何せ当時は、隙の処理を(ちゃんと厳密な形で)テキストに平文で書いていたのですから。

     

     しかし、補足の説明をすれば(格闘ゲームで言う特殊モーションに入る感じのカード。隙があるからその間に殴られたら失敗するけど、殴られなければ強い効果が出るよ)誰もが納得するのです。つまり、効果そのものが分かりづらいわけではありません。

     

     そのための解決法は、キーワードにすることでした。まさしくイメージ通りの「隙」という名前を付け、幾分かやわらかい説明をカッコ書きで着けたのです。結果、多くのプレイヤーが解読できるカードになりました。

     

     それに伴い、「圧気」以外に隙のカードを作ろうという模索も行われました。「圧気」が攻撃を行っていましたので、それとは異なる方向でとんでもない効果である必要がありました。その結論が「生体活性」です。いくつか作られた効果の中で最も夢があり、とんでもなく、そして理解しやすいものだったのです。基本セットで隙の注釈を外したくはなかったので、テキストが短いことも重要でした。

     

     現在のカードの出来には満足しています。やや活躍し辛い印象もありますが、それはオボロ全体の問題に起因していると考えています。

     

     

     熊介が生まれた経緯は、前篇でもお話しした通りです。伏せ札を活用するやり方の一つとして、伏せ札の枚数を数えるというものがありました。しかしご存知の通り、伏せ札を作るのは簡単です。ゆえに普通の攻撃カードにそのやり方を加えてもさして魅力的にはなりませんでした。

     

     それを解決したのは《全力》と適正距離でした。《全力》ゆえに、基本動作で伏せて伏せ札を増やし、そのまま使用という流れは抑止されます。そして適正距離ゆえに、伏せ札が危険な枚数に至っているのであれば、相手は間合を外すという対策が取れるのです。強さが枚数ごとに変動していくので、どこまでを許すかというせめぎ合いもプレイングに繋がり、魅力を生んでいると考えています。

     

     第一幕では間合を外すのが簡単すぎたため働きませんでしたが、第二幕では間合2に「影菱」があることも合わせていい塩梅になったと感じます。実際、オボロのカードの中でも私が特に好きな一枚です。

     

     ちなみにオボロは忍者であると同時に、生物学者でもあります。さらに言うならば、本作の世界ではそれらを統合したオボロの在り方そのものが「忍」の由来であるという設定もあります。通常札では忍者らしさを強調する必要があったため、切札で生物学的な研究者としての側面を体現することにしました。その方法として、彼女の実験体であり、そして友でもある動植物を切札で描いたのです。

     

     ところで強烈な打点で殴りつけてくる動物に熊を選んだのは、高校時代にある友人がTRPGでしでかしてくれやがったことに多分に影響されていることをここに告白します。ありがとう!(両手中指を立てて)

     

     

     鳶影の経緯もまた、前篇でお話ししました。伏せ札を活用するやり方の一つとして、伏せ札からカードを直接使うというものがあるのです。しかしこのやり方には一ひねりが必要です。単に伏せ札から使うだけでは、普通に手札から使うのと大差ないのです。

     

     それを解決したのが「鳶影」でした。本来《対応》でないカードを対応で使えるというのは、カードの新しい側面に光を当てます。例えば、大きく移動するカードを大きく回避するカードにするといったように。そしてさらに熟練したプレイヤーは、本当に必要であれば対応でなくても使用するのです。

     

     これらは「鳶影」が傑作だと明確に示しています。シンプルな挙動の中に驚きがあり、そしてプレイヤーの実力を反映できるつくりになっているのです。驚くべきことに「鳶影」は初期案から、一切の変更が行われませんでした。優れたアイデアというものは、初めから一定の完成をみているのかもしれませんね。

     

     

     これまでの切札2枚は成功を感じ、その素晴らしさを語っています。しかし残念ながら、このカードは大反省会の時間となります。

     

     「虚魚」はぶっとんだ効果が必ずしも楽しく働くとは限らないという悪しき例であり、本作全体を歪めてしまった問題児でもあります。深い反省を込めて、歴史を語っていくとしましょう。

     

     このカードの起源はトコヨの「風流」にあります。風流の効果が逆向きになるとより強力になることに気付いた時、このカードは生み出されたのです。 既にトコヨ特集で語っている通り、当時は「逆さ風」という名前でした。事実、風流の中においては強力に働いていました。しかしそれは風流の強さに支えられたものだったのです。

     

     風流に問題が見いだされ没になった時、それらの効果は分割されることになりました。そしてトコヨに「境地」が見いだされると同時に枚数の問題から「逆さ風」、いえ「虚魚」ギミックはオボロに移されることになったのです。

     

     一見してわかる通り「虚魚」は斬新でとんでもないものであり、ぱっと見た範囲ではとても魅力的です。大きな不幸であり反省点は、その時点で私がこの効果に魅入られ、こだわり過ぎてしまったことです。

     

     具体的にはどういうことか。このアイデアを活かすために、複数のメガミにまたがって「矢印が逆向きになると強くなる効果」を無理に入れようとしてしまったのです。幸い「マグナムカノン」「詩舞」「詭弁」などは「虚魚」関係なしに強みがあるカードでしたので、大きな問題はありませんでした。

     

     しかし「忍歩」と「誘導」はそうではありませんでした。特に「忍歩」はやや不自然な桜花結晶の移動となり、理解しづらいカードになってしまいました。もう語った通り設置の問題も併発し、これらのカードの魅力は大いに損なわれてしまったのです。このカードに引きずられ、デザイン全体を歪めてしまったのは大きな反省点といえるでしょう。

     

     後付ですが、風流が没になった時点で弱すぎることに気づき、完全に没にするか何かのテコ入れをするべきでした。【使用済】効果にして時間制限をなくすか、《対応》を付けて相手の矢印効果も逆転するかといったところでしょうが、そもそもこのカードを残すべきかどうかは疑問です。

     

     しかし「虚魚」にも成功はありました。「祭札」に収録された大発生ルールでは理不尽で魅力的なアクシデントとして活躍しているのです。つまりこの効果そのものには魅力はあります。しかし、普通のカードとして魅力的に仕上げるには他のカードへの依存性やバランスの問題から、極めて難しい課題であると今は認識しています。

     

     

     一時的にリソースをブーストし、重いカードを使えるようにする類のカードは、デッキ構築型のゲームでは魅力的です。その類のカードはいくつかデザインされましたが、最終的に生き残ったのが「壬蔓」でした。

     

     「壬蔓」はカードの構造そのものは巧妙に作られています。しかし、現在においてはそれを活かしきれていないのも事実です。このカードが失敗かと言われれば、改善の余地はあるが、明白な失敗とは思えないと答えます。状況は「分身の術」に近いといえるでしょう。

     

     

     原初札は基本的には「メガミに挑戦!」で使用されるものです(メガミと挑戦者で対戦し、メガミ側は原初札を用いる代わりに1柱しか使えず、挑戦者は相手のメガミを見たうえで宿す2柱を選ぶ)。そのため、そのメガミ単独での戦いを実現できるようにデザインされます。特に通常札は、その戦いの円滑化が目的となります。

     

     オボロ単独で十分な攻撃力を出すためには、設置を活かす必要があります。そこで再構成によるダメージをなくし、イレギュラーなタイミングでの設置をやり易くしたのです。

     

     2つ目の効果は後付で追加されました。理由は交流祭での「オボロに挑戦!」がやや簡単すぎたためです(但し、「オボロに挑戦!」だけは第一幕環境で行われていたため、安易にバランスが失敗だったと評価するのも難しいのですが)。

     

     

     原初札の切札も同様のコンセプトで作られますが、こちらは「刺激的で特殊な舞台を作る」ことを意識してデザインされます。

     

     「朧霞」は交流祭で「オボロに挑戦!」が行われた時と、「祭札」でカードになった時とで効果が変更されています。かつての「朧霞」は「3枚以上のカードを使えない効果」と「間合2以下での前進を禁止する効果」から成っていました。経緯を説明しましょう。

     

     「オボロに挑戦!」は第一幕という問題のある環境で行われました。そこで最も意識されたのは、残虐なる悪鬼どもにオボロちゃんが瞬殺されないことです。3枚以上のカードが使えない効果は、その時点で最も危険なのはユリナやヒミカによる猛攻であったため、それを抑止するために加えられました。

     

     もうひとつの効果は、要は第二幕のルールを適用するというものです。これまでで書いた通り、第二幕では設置攻撃は魅力的になります。その環境を実現すればすなわち、オボロにとって良い環境になるということです。

     

     正直に告白すると、第二幕に向けたデータ取りの側面も大きいものでした。実際4/3の「居合」(第一幕では「居合」は弱いと評価されていましたからね!)になぎ倒され、「居合」を4/2に調整すべきという案が正しいと分かり、データ収集として良い仕事を果たしました。

     

     そしていざ第二幕となると、間合2以下での前進は常にできなくなり、代わりに設置は1枚しか使えなくなりました。そこでもう一方の縛りを取り払う効果とすることで、実質的に同じ状況を作れるようにしたのです。結果として、よりオボロらしい効果となったのは嬉しいところです。

     

     

     

     これにてオボロ特集は閉幕となります。様々なカードに秘められた物語をお楽しみいただけたら嬉しい限りです。今回の特集への感想や、他に行ってほしい特集などありましたらTwitter(@BakaFire)までお伝えください。

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     次回の更新は来週、ついに彼女について語る時となりました。ご期待ください。