忍の道をいざ行かん(前篇)

2017.06.23 Friday

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    前回の好評、反響に深い感謝を。

     

     こんにちは、BakaFireです。5月下旬にから6月頭にかけてお届けしたトコヨ特集では、多くの反響ありがとうございました。作品としてニュースがあるという類の記事ではなかったため、実験的なものでしたが、好意的に受け取っていただけたようで安心いたしました。

     

     それを踏まえ、本日は続編として、次のメガミの特集を行うことにしました。前回のトコヨ特集を一部踏まえた内容となっておりますので、お時間があるならば先にお読みなることをお勧めします。

     

     そして前回同様、アンケートも行いました。

     

     

     129票のご協力ありがとうございました! 勝利を飾ったのはオボロとなりますので、今回の記事はオボロ特集となります。

     

     とはいえ、アンケートそのものは前回ほど魅力的ではなかったようです。新たなメガミとしてハガネを追加していたため無意味ではありませんでしたが、前回で一度結果が出たものを掘り返す形になってしまっていました。それを反省し、以降のこのシリーズ3回分ではアンケートは行いません。前回と今回の結果に即し、サイネ、ヒミカ、ハガネの順で進めていきます。

     

     さて、反省はこのくらいにして、早速はじめましょう!

     

     

    やり方は前回のままで

     

     どのようにメガミを語るかは、トコヨ特集のものを踏襲します。どういうものか、簡単にまとめておきましょう。

     

    • 前篇ではメガミの歴史を語り、後篇では個々のカードを語る。
    • 第一幕での六柱を語る際は、本作そのもののゲームデザインと紐付けて語る。

     

    桜が降るより前の話、その2

     

     トコヨ特集で触れたとおり、本作は最初は和風ではありませんでした。トークンが桜の花びらになるまでは、西洋風コロセウムの世界でラノベ風戦士が決闘するゲームだったのです。そしてトコヨはその頃に存在した3人目「盾」と6人目「扇」が融合した存在でした。

     

     では、オボロもまたその頃から存在していたのでしょうか。答はいいえです。強いて言うならばスピード&行動回数タイプである4人目の「スカーフ」が該当するかもしれません。スカーフって何やとお思いの皆様、試作段階のゲームの世界観などそんなものなのです。いえいえラノベ風世界ですしね。きっと格好良いはずですとも。

     

     とはいえカードリストを見直しても、オボロらしさは見当たりません。折角なので、カードリストを何枚か紹介しましょう。むしろユキヒの原型とも思える箇所が目立ちます。

     

    手裏剣    スカーフ

    《攻撃》    適正距離4    2/1   

    このターンのエンドフェイズにこのカードを手札に戻してもよい。

     

     どうやら手裏剣を投げているようなので、オボロの原型と捉えました。しかしこの効果は……、そう、やりすぎてしまったのです。

     

    暗殺    スカーフ    コスト6

    《攻撃》    適正距離0    -/5

     

     何の原型かはお判りですね。そしてこれがそのまま印刷されなかったことを偉大なるメガミに感謝します。

     

    顕現武器コンペティション

     

     オボロの話に戻りましょう。それでは世界が和風になった時、何が起こったのでしょうか。「刀」「銃」「扇」が採用され、残る3キャラの武器は考え直す必要がありました。そこで私どもはプレイテスター全体で、武器のコンペティションを行ったのです。

     

     やり方はこうです。まず全員で武器の名前をひたすらに出していき、リストを作ります。そして紙片を多数用意し、本作に必要と感じる武器に投票していくのです。他のメンバーの意見に影響されないよう、投票は秘密裏に行われました。さて、見事に1位を獲得したのは何だったのでしょうか。

     

     

     そう「忍者」です! 武器じゃねーじゃねーか。武器だって前置きしただろ。誰だよ入れたの! 俺も入れたけど。

     

     しかしこの結果は私どもにやるべきことを教えてくれました。和風の世界観であり、さらに現実に忠実でないファンタジー和風ともなれば、忍者を出さないのはありえないということです。即ちオボロは、忍者のメガミが必要だという世界観の要請から生まれたのです。

     

    閑話:伏せ札の話

     

     それではオボロのキーワードの成り立ちを話していきたいところですが、ご存じの通りオボロは伏せ札に強く関係づけられたメガミです。予備知識として、伏せ札についての昔話を行いましょう。

     

     

     トコヨの「境地」は集中力と共に生まれました。ではオボロの「設置」も伏せ札と共に生まれたのでしょうか。答えはこれまたいいえです。伏せ札というゲームシステムは相当に昔から存在していました。どのくらい昔かと言えば、西洋コロセウムなくらいには昔の話です。

     

     本当に最初のプレイテストの日、プレイテスターは前進も後退もできないスーパークソゲーを遊ぶ羽目になったわけですが、その際には当然の結果として、手札1枚をコストとした前進と後退が生まれることとなります(ちなみに纏いや宿しはこの時点では存在しませんでした)。

     

     その様子を観察していて、私はひとつのことに気付いたのです。コストとして手札を捨てるたびに、対戦相手がそれを強く注目するのです。対戦型カードゲームとして、それはおかしなことではありません。勝利のためには、わずかな情報すら見逃すべきではないのですから。使われたカードは表向きで捨てられるものなのですしね。しかし本作に限っては、その通例に従ってはいけないという確信めいた予感がありました。

     

     帰宅してからこの予感について分析したところ、問題点は2つあると分かりました。1つ目は基本動作という「ゲーム内で何度も行う操作」のコストであること。そして肝心の2つ目は「山札が8枚(当時は!)しかない」ということです。

     

     説明しましょう。山札が少ないということは1枚当たりの情報がより重要になるということです。何がデッキに入っているのか、何がもう使われているのか。30枚や40枚のデッキでも重要なのですから、いわんや8枚ではといったところです。それ故に、勝利に貪欲なプレイヤーは捨て札に注目します。

     

     あるカードは使われたのであれば、それが捨て札に行ったかどうかは確認するまでもありません。実際に効果を適用したのですから。しかし、何かのコストとして捨てられたのであれば、何が捨てられたのかを確認する必要が生じるのです。そして基本動作というまさに基本の行為のコストなので、何度も起こるのです。本当に何度も! それはあまりにも鬱陶しいものでした。

     

     また、コストで使われたカードまで捨て札に行ってしまうと、8枚しかないデッキではあまりにも早く内容が割れてしまうという問題もありました。これではデッキを組む対戦型カードゲームが持つ、情報戦という魅力を捨て去ってしまっています。

     

     これらをどう解決したかは、ご存じの通りです。実際に使用される以外の方法で消費されたカードは、基本的に「裏向きで」捨てられるようにしたのです。こうして伏せ札は、わずか2回目のプレイテストの段階からずっと変わらずに存在しつづけたのでした。

     

    忍びの道は長き道

     

     さて、本題に戻り「設置」の歴史を語ることにしましょう。しかしこれは長く厳しい道程でした。ひとつずつ、紐解いていきましょう。

     

     まず最初の時点では、設置とはかけ離れたコンセプトが与えられ、オボロの原型とシンラの原型が共有していました。しかしそれには問題があったため没になりました。これはいつの日か芽を出すかもしれませんので、今は秘密にしておきます。

     

     ここでオボロが生まれた理由に立ち返り「忍らしい」能力が模索されました。結果として伏せ札に目が向けられました。忍とは密かに動き、秘密を隠すものです。伏せ札という秘匿情報はまさにフレーバーに即していました。

     

     それを活かすためにまず作られたキーワードが「罠」です。

     

    散らし鉄線    罠 

    罠:相手がダスト⇒自オーラを解決する。

    相手フレア⇒ダスト:◇1

     

     罠は伏せ札にある時のみ効果があります。相手が特定の条件を満たしたら伏せ札から使用でき、その効果を与えるのです。しかしこれはより上位のゲームデザインから見て問題がありました。割り込み要素なのです。

     

     本作の割り込み要素は「相手の攻撃への対応」に制限されています。プレイヤーが自分のターンで割り込まれずに自由に動けることはプレイ時間の短縮に役立ちます。しかしその一方で、一切の割り込みがないと駆け引きが不足してしまいがちです。

     

     本作はそれを巧妙に解決したと自負しています。攻撃されたならば、どのみちオーラかライフのどちらで受けるかを選びます。ゆえに優先権は相手へと移行し、そこで割り込んでもストレスはないのです。本作のデザインはその点において自信があったため、それを乱す罠は没になりました。

     

     次に、伏せ札の枚数を数えるというアイデアが出ました。

     

    忍者刀    攻撃    適正距離3    1/2

    伏せ札が2枚以上の場合、このカードは+1/+0となる。

     

     まあ弱いことはさておいても、魅力的なカードではありませんでした。伏せ札は簡単に置けるため、単にカードを伏せてから使えばよいだけで、展開が単調になるのです。この類で生き残ったのは1枚だけです。つまり……。

     

     

     

     次のアイデアは、伏せ札からカードを使うというものでした。

     

    口寄せ    消費6    行動

    あなたの伏せ札から《攻撃》を望む枚数だけ公開する。それらの《攻撃》をすべて行う(解決する順番は自由である)(射程が適正でない攻撃は解決されない)。

     

     この方向性は悪くはありませんでした。しかしこのカードも単にカードをたくさん伏せてから雑に撃つだけであり、さして魅力的ではありませんでした。しかし失敗だけではありません。傑作も生まれていました。

     

     

     

     ここまでの経緯は悪いものではありません。順調に魅力的なカードは揃いつつあります。しかしながら、あと一味足りないのです。パズルのピースは揃っているはず、あとは組み立て方です。

     

     これまでの成功を振り返ると「熊介」は伏せ札の枚数が多い時ほど危険性が上がり、「鳶影」は対応ゆえに伏せ札から奇襲できました。そう、伏せ札の有無を相手に意識させていたのです。理不尽な押し付けではなく、対処できうる形で。これはゲーム性を向上すると同時に、失敗した相手を罠にかけたという感覚が強まり、忍らしさも高めていました。

     

     罠はその要件を満たしています。しかし相手のターンの割り込みは相応しくなく、また通常札においては複雑性を下げるためにも条件を揃えたいところです。それでいて相手に対処の余地を与え、罠らしくしたい。悶々とした思考が渦を巻いていました。

     

     そんなある日。私は夢を見ました。私は夢の中で正体不明のゲームをやっていることがあります。そしてそれが魅力的であれば、そのまま興奮してゲームにすることもあるのです。例えば『モノポリー』のような円形のマップを周回し、各マスに『ドミニオン』のサプライにあたるカード群があり、止ったマスのカードを獲得してデッキビルディングをするゲームであったり。

     

     しかし今回の夢は明確に本作でした。私はオボロを使い―いやオボロかどうかは判然としませんが―伏せ札からカードを使っていたのです。開始フェイズに。開始フェイズ!?

     

     そこで飛び起きました。開始フェイズです。開始フェイズにあるものは何か? 集中力の増加? カードのドロー? いや違う、山札の再構成です! それならば直前に相手のターンがあるから相手は対処や準備の余地があります。さらに毎ターン必ず起こる訳ではなく、例外的な(山札が0や1でない時の)再構成をするならば、それは罠に嵌めた感覚を生むはずです。

     

     私はそのまま近所のドトールコーヒーへノートと共に向かいました。そして、しっかりと埋まったカードリストを片手に笑顔で帰宅したのです。長く厳しい忍の道も、ようやく終着点へと至りました。

     

     まだまだカード個々の物語は続きますが、「設置」の話はここまでで十分でしょう。

     

     

     

     次回の更新は来週、オボロ特集の後篇にて、現在のカード個別の話をさせて頂きます。ご期待くださいませ。

     また、今回の特集への感想や、他に行ってほしい特集などありましたらTwitter(@BakaFire)までお伝えください。あなたの一声が、今後の記事を変えるかもしれません。お待ちしております! 

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