終焉ノ宿命ニ禊ノ刻ヲ(後篇)

2019.09.09 Monday

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     こんにちは、BakaFireです。今回の記事はウツロ特集の後篇となります。前篇中篇をまだお読みでない方は、こちらとこちらから読まれることをお勧めします。
     
     このシリーズは特定のメガミに注目して、本作のデザインを語るというものです。今回は第3シリーズ第2回にして累計第11回となります。

     

     前篇ではメガミ・ウツロに関する歴史を説明し、彼女が生まれるまでの話をしました。中篇は新幕における変化をお話しし、N1からN3のカードについての歴史を書きました。従って後篇では残るカードN4から原初札までをお話しすることになります。
     
     それでは、さっそくはじめましょう!

     

     


     

     

     ウツロにおいては「影の翅」などにおいてカードの番号にずれがあるため、先にこの1枚をお話しましょう。中篇にてお伝えした通り、私どもはウツロらしく便利な効果として「侵食効果」を新たに発明していました。そこで当然の推移として、侵食1を行う行動カードをデザインすることになります。

     

     しかしここで皆様に思い返していただきたいことがございます。ありがたいことにあなたが『第壱拡張』をすでにお持ちでウツロを宿して遊んだことがあるならば、『第壱拡張』を開封してカードを始めてみたときのことを思い出してください。
     
     侵食効果は正直なところ、文面を見た限りではそこまで強くないように感じなかったでしょうか。その感情はデザインチームはもちろんのこと、バランス調整チームにおいても同様のものでした。初見の段階では侵食効果は過小評価されており、それゆえに今よりもカード全体が強くデザインされていたのです。
     
     その結果として生じた最も愚かな事例は後程お話しすることにして、今は「重圧」について述べましょう。それは次のようなものでした。


    行動
    侵食1を行う。
    灰塵―ダストが10以上ならば侵食1を行う。


     額面だけを見るとこれもまたそこまで愚かには見えません。しかし驚くべきことにこの効果ですら問題がありました。山札1週あたりで1回使うだけならばゲームは壊しません。しかし「二重奏:吹弾陽明」や「風雷の知恵」と組み合わせ、灰塵を満たしたうえで連打すれば相手のリソースを崩壊させられたのです。
     
     結果としてこの1枚は二度の調整を経て今の形に至り、適切な水準で印刷されました。灰塵の閾値が12だと僅かに力不足なのですが、その部分を自分自身が作るダストが補い、ダスト11個でも灰塵効果を誘発できる点はとくに絶妙で気に入っております。


     

     

    第二幕

     

     ウツロの移動カード枠です。ウツロは新たな中遠距離のメガミとしてデザインされたため、当然ながら後退するカードが求められます。
     
     ここでひとつ、はっきり述べておきましょう。無条件での「ダスト→間合:2」は本作では決して作ってはいけません。本作がこれまでの歴史において間合が前に偏りがちであり、間合0や間合2でのやり取りがゲームバランスの観点からたびたび疑問視されるがゆえに誤解しそうですが、これは厳然たる事実です。

     

     事実、条件の付け方を間違えた「ダスト→間合:2」効果は何度かプレイテスト段階でのゲームを破壊してきました。大体の場合で同水準の移動カードを持つメガミと組み合わせてゲーム序盤から後退を繰り返し、相手をまともに近づかせないまま遠距離から殺害してます。一度近づいた間合を戻す効果として「ダスト→間合:2」は適切ですが、序盤から簡単に連打できてはいけないのです(※)。

     

     そしてウツロは「ダスト→間合:2」の条件を灰塵に求めました。序盤は満たしづらく、本当に必要な後半に機能しやすい灰塵は実に適切です。この1枚はダストを減らしてしまいますが、そもそも遠距離における瞬殺問題を水面下で食い止める狙いで灰塵を採用した点から鑑みれば妥当性があると言えます。
     
     この1枚の仕上がりにはおおむね満足していますが、最終的に少しばかり使いづらかった点は小さな失敗と捉えています。「ダスト→間合:2」のうち、「ダスト→間合:1」だけは灰塵を満たさずとも機能するべきだったと今は考えています。
     
    ※ ちなみに経験から「ダスト→間合:2」はアウトですが、「ダスト→間合:1、自/オーラ→間合:1」であればセーフだと私どもは捉えています。その系列で最も強力な1枚こそが「バックステップ」でしょう。

     

    新幕

     

     『第二幕』での経験を踏まえ、『新幕』では改善を試みました。また『新幕』においては、移動においてダストを減らしてしまうとウツロの機能を阻害してしまう点もまた少しばかり気になっていました。『第二幕』ならば持ち味で済ませられましたが『新幕』のカードパワーでは力不足へとつながる可能性があります。
     
     そこで私どもは間合と達人の間合を共に変化させれば、仮想的な移動が実装できるという点に気が付きました。仮想移動は従来の移動よりやや弱い効果です。しかしウツロのようにそれが求められたり、あるいは理念として移動能力を弱めたい場合には絶妙な働きをするのです。
     
     こうして書くと「影の翅」は滑らかに今の効果になったようです。しかしこのカードにはいくらかの紆余曲折がありました。これについては後ほど、全く新しい記事シリーズにてお話いたしましょう。実に愉快な企画をご提案頂いたことについて、ここで深くお礼を申し上げておきます。ご期待くださいませ。


     

     

    第二幕

     

     メガミは適正距離だけでなく、戦い方の方向性もまたコンセプトとして存在します。例えばユリナであれば攻撃を繰り返すビートダウンを、トコヨであれば攻撃に対応し、隙をついてクロックを刻むコントロール(あるいはよりTCG向けの用語であれば、クロックパーミッションと呼ぶべきかもしれません)を得意としています。

     

     ウツロはその点においては桜花結晶というリソースを喪失させて制御する点から、どちらかといえばコントロールの気質を持っています。それゆえに一定以上に優秀な対応カードも持つべきだと私は判断しました。

     

     そして生まれた1枚がこのカードなのですが、この効果は当時の情勢を色濃く反映しています。何度か他のメガミ特集で振れた通り『第壱拡張:夜天会心』のデザイン後半から『第弐拡張:機巧革命』と『第参拡張:陰陽事変』のデザイン初期においてはユリナ/トコヨ、特にトコヨが圧倒的な強さを誇っていました。
     
     ゆえに私どもはトコヨを強く警戒し、他方でカードの調整をこれ以上繰り返すのは心象が悪すぎるのではないかと当時は考えていました。ゆえに『第弐拡張:機巧革命』以降のメガミはトコヨへの耐性を持つようにデザインしていました(※)。

     

     この効果は「梳流し」を明確に意識したものです。「-/1」の攻撃は『新幕』の今と比べて当時は圧倒的に強く環境内で広く使われていたため、そこへの対策を持つことはメガミの意義を大きく高めると考えたのです。結果として動機は間違っていましたが、このカードそのものの仕上がりは良好でした。
     
    ※ 結果としてこれらの判断は『第二幕』の中でも特に大きな過ちでした。デザインにゆがみを生み、そのうえで結局はカードに調整が必要と改めて結論付けられてしまったのです。

     

    新幕

     

     理念は『第二幕』と変わりません。そして『新幕』では全体的にカードの性能が上がり、ライフへのダメージが2以上の攻撃も増えました。それならば対応―特にダメージの値を操作するもの―に関してももう少し強力にしても問題はないでしょう。その上でテキストをシンプルにできるならば言うことはありません。

     

     

     この1枚の枠はウツロのカードの中でしばらく迷走していました。最初のコンセプトが上手くいっていなかったため、どちらかの意味で話にならない仕上がりになってしまっていたのです。そのコンセプトはデメリットの付いた付与であり【展開時】に「自/ライフ→ダスト:1」を解決するというものでした。
     
     ご存じの通りこのテキストは重く、特に攻撃へとつながらないカードが持ったうえでそれに見合った効果にしようとすると、局所的にゲームを破壊しがちなのです。最終的にこの指針は今回は不可能だと断念されました。その後も『新幕』ではヤツハのデザインで再挑戦されましたが、再び失敗に終わっています。

     

     では「契約の楔」が生まれた原因はなんでしょうか。実のところを申し上げますと、これもまたトコヨ(とユリナ)への耐性を意識したものです。このカードは「梳流し」、そして悪名高き「審美眼」を意識したものでした。
     
     他方で完全に環境への意識から生まれたわけでもありません。妨害としての「距離縮小」があまり使われていないデザイン空間であり、相手の付与札を破壊するような効果をもう1柱くらいは持つべきというゲーム全体への意識もありました。その上でウツロは理念的にこれらの効果にふさわしかったのです。
     
     結果としてトコヨは調整されて目的が歪んだカードとなりましたが、ウツロのユリナやオボロへの耐性増強といった機能を果たし、『第二幕』においてウツロを大会環境で活躍できるメガミにした立役者と呼べるかもしれません。他方でその機能はやや極端であり、絶賛すべきかというとそれもまた怪しいところです。そういったバランスにおける懸念ゆえに『新幕』では取り除かれることとなりました。

     

     

    第二幕

     

     自戒と反省を込めてまず断言しますと、この1枚は実際に印刷された時点では大失敗でした。もはや私の手元のデータすら失われていましたが、確か次のような1枚だったはずです。

     

    付与/全力 納2

    【展開時】相/オーラ→ダスト:◇2
    【破棄時】現在の間合が8以下ならば、相手は手札を全て捨て札にし、集中力が0になり、次の開始フェイズに集中力を得られない。

     

     デザインの動機はハガネにおける「地脈収束」の失敗へのリベンジでした。「地脈収束」は全力の隙があるカードであったために機能せず、しかも得られる効果もそれに見合ったものではありませんでした。そこで私は効果を十分に強力にし、また展開時の補償もより使いやすいものにしました。
     
     しかし結局のところ全力の隙であるために機能しづらく、さらに効果を十分に強力にしたために強い先手後手の問題を生んでしまいました。

     

     思い返せば、このリベンジという動機がそもそも間違っています。メガミは理念をきちんと定め、その理念において必然性を伴うように1枚1枚をデザインしなくてはなりません。当時の私は「毒針」において間合1を採用した時などで散見されるように、この類の過ちが多かったように感じられます。

     

     とはいえこの1枚は失敗ではあるものの、ゲームバランスを破綻させているわけではありませんでした。ゆえに本来であればやむなくこのままにした可能性が高いでしょう。しかしホノカ特集でお話しした通り、ホノカにはバランス上の問題があったために『第参拡張:陰陽事変』は発売前の更新を余儀なくされました。そこでせっかくならばと、併せてこの1枚も修正されました。
     
     最終的な今のカードは『第参拡張:陰陽事変』発売時点では結成されていた現在のバランス調整チームの中で、特にコントロール寄りの立ち回りを好む1人と話し合ってデザインしたと記憶しています。隙による機能の問題、先手後手の問題、そしてダストを作る力がわずかに不足していた問題などをまとめて解決できており、限られた時間の中で最善の知恵を絞り、素晴らしい1枚に仕上げられたと満足しております。

     

    新幕

     

     『第二幕』で最終的に仕上がった「遺灰呪」は十分に魅力的なカードでした。ゆえに大きく変える理由はありません。適切に微調整し、強化すれば十分でしょう。
     
     最初はライフをダストに送る個数を2つにしてみましたが、お笑い種だったので達成時に返却されるオーラの個数を1つ減らすことにしました。

     

     

    第二幕

     

     ウツロの1枚として分かりやすくコンセプトを伝え、必殺技らしい鮮烈さがある1枚としてデザインされました。驚くべきことに消費も効果も一度も変更されずに印刷に至り、最終的な完成度もすばらしいものでした。
     
     この1枚がいかにしてデザインされたかについては、ハガネ特集の「大天空クラッシュ」で半分以上はお話ししています。メガミがコンセプトで何らかの値を参照するならば、それは多くの場合で閾値であるべきです。しかし切札の1枚に限っては変数を扱い、巨大な効果を実現できるとより魅力的になります。こうすることで鮮烈な印象と劇的なゲーム展開を提供するとともに、そのメガミの個性を強調できるのです。
     
     ウツロはダストの数を閾値で扱うため、ダストの数を変数とするべきです。しかしダストの数は(ハガネにおける)間合の変化と違い、ゲームの展開によっては10どころか20にすら至るものです。そうなってくるとそれを変数として活かせる要素は限られるため、この完成形に至るのは必然と言えるでしょう。
     
     最後に効果についても単純な話です。ド派手な必殺技であれば当然ながらゲームを前に進めるべきです。その上で桜花結晶をダストへと送る効果を得意とするウツロであれば、この効果もまた必然です。

     

    新幕

     

     この1枚も『第二幕』で十分に完成されているため、必要なのは様々な微調整です。これらの調整は段階的になされていきました。

     

     まずはライフをダストに送る個数が3つになりました。『新幕』への調整に伴ってどこかしらのライフへのダメージが向上されますが、この1枚は必須と言えます。必殺技である以上は十分なインパクト、すなわち決定力が必要です。しかし『新幕』の水準では2ライフでは苦労に見合っていないのです。
     
     次に消費が20では一切の知性を働かせずとも撃ててしまったため、消費が22へと上がりました。
     
     「このカードを取り除く」テキストが加えられた原因はライラです。クルル/ウツロでは動作が難しく、またダストを作る力も低めだったため『第二幕』では問題ありませんでした。しかしライラはダストを作る力も高く、普通に近距離で戦ってウツロがそれをサポートするという戦型も強力でした。そこに「灰滅」「風魔纏廻」「灰滅」が加わっては致命的です。
     
     最後の調整は実に繊細です。遠距離で強力な2柱の組み合わせであるがゆえにヒミカ/ウツロは『第二幕』で強力であり、ゆえに私どもは警戒を払っていました。そして幾度かのプレイテストの末、消費が22だとヒミカ/ウツロによる大半のゲームで最終盤に使用できてしまうと分かったのです。ヒミカ/ウツロはそこに至るまでの攻撃も強力です。ゆえに私どもはこの組み合わせが苦労なく使用できるのは問題と判断し、消費を24へと引き上げました。
     
     結果としてすべてが絶妙な調整であり、私は満足しています。

     

     

    第二幕

     

     私はこれまでのデザインの中で【攻撃後】効果を消去する効果を何度か考えてきましたが、そのいずれも適切な1枚ではないと取り除かれてきました。しかしこの効果は対策カードとして有益です。特に対策の多様性を広げる面で価値があり、『第二幕』のカードプール全体の中で1枚は用意したいと考えていました。
     
     『第参拡張:陰陽事変』で『第二幕』で最後の拡張です。そしてこの効果はウツロのイメージにも合っていました。そこで私は最後にもう一度試すことにしたのです。
     
     これまでの反省を活かし、私はさらに【破棄時】効果を消去する効果も加えた甲斐もあり、結果としてほどよい1枚に仕上がりました。汎用性は低めですが、カードプールにおける存在感は中々のものです。

     

    新幕

     

     「虚偽」は独特なカードであったものの、汎用性が低めである点を懸念していました。特に『新幕』のカードパワーの中で切札の枠を1枚割くかどうかとなると疑問でしょう。
     
     他方で「契約の楔」が没になるにあたり、何を懸念したのかも分析しました。結論として「契約の楔」の効果は魅力的なものの、それが(他のカードとの相互作用なしで)ゲーム中で何度も起こっては、効果が刺さって対策されているプレイヤーが自分のやりたいことができなすぎてしまい、健全な体験ができない点に問題があると私は判断しました。
     
     ゆえに「契約の楔」は切札であれば問題ありません。そこで同じ付与/対応であり、その時点でカードパワーに不安のあった「虚偽」と合わせて1枚にすることで、より汎用的な1枚に仕上げたのです。
     
     しかしただ2枚を混ぜただけではテキストが汚すぎ、認知しづらいカードになってしまいます。そこで【攻撃後】と【破棄時】がそれぞれ攻撃と付与を見ており、距離縮小が攻撃を見ている点に着目し、それぞれのカードタイプに弱体化と効果消去を与える形で統一しました。距離縮小は攻撃のデータを1つ減らしているため、対になる付与への効果も付与のデータを1つ減らすとすれば美しさもあります。

     

     何かの間違いで最初は納6を維持する形でデザインされていましたが、バランス調整チームによって速やかに納が3へと下げられ、完成となりました。

     

     

     

    第二幕

     

     実にナイスなこの1枚は私のデザインではありません。前篇でお話ししたナイスなアイデアマンがウツロのデザイン開始に伴い、アイデアとして提供した1枚なのです。私もこのデザインには感服し、迷いなく滑らかにカードプールに投入され、そして変更されずに印刷へと至りました。

     

     それゆえに中々語ることもないのですが、重ねて彼のデザインを褒めちぎるとすれば、フェイズの終了を2つのやり方で活用している点こそが一番の魅力でしょう。攻撃に誘発する形であれば「音無砕氷」のように連続攻撃を阻害する一方で、ならばと攻撃を控えれば開始フェイズを終了させることで相手のカードドローを妨害できるのです。

     

    新幕

     

     ナイスデザインであり、この1枚の役割は数値的なパワーによるものではありません。今のままでも必要なマッチアップではきちんと必要になると判断し、変更しないことを私どもは選びました。

     

     

     

    第二幕

     

     最初期の時点では攻撃後効果で相手の付与札を破壊できる攻撃でした。しかしプレイテストを重ねるうちに、ウツロを機能させるためにはダストを作る補助がいくらか必要だとわかり、そのための新しいカードの枠として没になりました(※)。普通の相手であれば必須ではないのですが、纏いと宿しを繰り返すなどの妨害を行いやすい相手に限ってはそのようなカードがなければまともなゲームができず、極端な相性の問題が見られたのです。
     
    ※ 付与札を破壊する要素はのちに「契約の楔」へと移されることになります。
     
     さて、それゆえにこの1枚に課せられた制約は「ウツロの機能を著しく妨害できる相手に対して十分にダストを作る」というものになります。しかしながらこれは中々に難儀な課題です。実現には相当数のダストが必要なのですが、大量のオーラやフレアを一度に破壊できると本来狙っていない相手に対しても強力すぎるカードになってしまい、それに見合った消費や制限を課すと元来の目的を達せられないのです。
     
     そこで私はこれを【使用済】効果とし、継続的にダストを生み出していく効果としました。こうすればゲーム全体を通して見ると十分なダストを作れ、他方で瞬間としては程よい効果なので問題を引き起こさないのです。

     

     ウツロの戦い方を支え、ゲームの体験とゲームバランスのどちらから見ても魅力的な1枚に仕上がったと考えています。
     
     もうひとつ、「陰陽事変」を冠する名前の話をしましょう。このカードが変化する直前あたりにホノカのコンセプトが定まり、ウツロと対になることが決まりました(詳しくはホノカ特集をご覧ください)。そこで私はカードのどこかに2柱が対になっているような一組のカードを入れ、カードプールでもそれを表現したいと考えたのです。
     
     最初はこの「付与札を破壊する効果」と「この旗の名の下に」を対にする計画でした。しかし上記の通りウツロ側の制約で新たなカードとなったため、ホノカ側もそれと対になるようなカードをデザインすることにしたのです(※)。
     
    ※ これもまたホノカ特集でお話しした通り、当時のデザインチームにとっては「陰陽事変:陽」は問題のないカードに見えたため、私どもはうまくやったと考えていました。

     

    新幕

     

     いよいよです。『新幕』プレイテストにおいて最も愚かな一枚の話をしましょう。
     
     宜しければ『第壱拡張:神語起譚』を初めて手に取った時のことを思い返してください。なにやら「陰陽事変:陰」の名前が変わっているが、効果が何一つ変わっていないことについてツッコミを入れたくならなかったでしょうか。
     
     その気持ちは私どもも同じですが、委細は少しばかり異なります。私どものツッコミは「変わっていないんかーい」ではなく、「結局戻るんかーい」でした。そうです。この1枚には紆余曲折があり、そのすべてが愚かでした。
     
     「重圧」で書いた通り、私どもは侵食効果を過小評価していました。それゆえにデザインチームはなんともおぞましい1枚をデザインしてしまいました。ご覧ください。


    行動 消費7
    【使用済】あなたの開始フェイズに侵食2を行う。

     

     今の「重圧」や「刈り取り」を使い、侵食効果が第一印象よりも強いと分かっている方からしてみればこの1枚がどれほどわけのわからないものなのかは明白でしょう。この「魔食」を「Stunt」経由で最速で立て、調整前「重圧」とのクソコラボも鮮やかな試合はあらゆるプレイテストの中でも際立って理不尽でした。結果としてバランス調整チームの中でこのカードテキストは次のように揶揄されることになります。


    行動 消費7
    あなたは勝利してもよい。

     

     その後も私どもは諦めず調整が施されていきました。侵食効果は一見して魅力的で、「陰陽事変:陰」の調整案としては適切そうに見えたためです。そして三回の下方修正の末に次の効果までたどり着きましたが、それでもやはり駄目でした(※)。


    行動 消費5
    【使用済】あなたの開始フェイズに侵食1を行う。

     

    ※ ちなみにこの類の効果では消費は問題ではありませんでした。消費が低ければ常に壊れ、高ければサリヤやオボロとの組み合わせでだけ壊れ、それよりも高ければサリヤやオボロ専用カードになり魅力的でなくなります。

     

     結論として、リソースの損耗が確定で起こる点に問題がありました。本作は1ターンに得られるリソースは3(1集中力とカード2枚)であるため、その中の1でも序盤から恒久的に削られるとゲームにならないのです。
     
     ならば元来の目的を保持しつつ、相手は工夫と判断しだいでリソースの損耗を回避できれば問題を解決できます。妨害すべきはオーラやフレアに相手が桜花結晶を貯めこむ状況です。つまりオーラやフレアに桜花結晶がない場合に回避できるとすればもっともスマートでしょう。その道具としては矢印効果こそが適当です。移動元の結晶が0であれば機能しないので、余計なテキストを入れずに狙いが実装できるのですから。
     
     そして私どもは気づいたのです。「ああなんか、ちょうどいい効果があったなあ……」と。

     

     

     

     原初札は基本的には「メガミに挑戦!」で使用されるものです(メガミと挑戦者で対戦し、メガミ側は原初札を用いる代わりに1柱しか使えず、挑戦者は相手のメガミを見たうえで宿す2柱を選ぶ)。そのため、そのメガミ単独での戦いを実現できるようにデザインされます。特に通常札は、その戦いの円滑化が目的となります。
     
     ウツロの不足の定め方にはいくつかの方法があります。その中で私は(「影の翅」の性能が十分でないため)単独で自らが得意とする間合を活かしきれない点を解決する道を選びました。「円月」などのウツロ固有の攻撃カードもきちんと活用できたほうが、よりウツロらしい体験につながるためです。
     
     加えて「影の翅」のダストを減らす点も懸念されます。『第二幕』の枠内では問題ないとはいえ、「メガミに挑戦!」でウツロのカードしか使用できないなるといよいよ欠点が浮き彫りになってしまいます。
     
     そこでそれらを解決しつつ、シンプルにしてインパクトのある効果として万能のテレポート移動を実装しました。影を渡って自在に移動できる点もウツロのイメージに合っており、中々に必然的な1枚になったと満足しています。

     

     

     

     原初札の切札も同様のコンセプトで作られますが、こちらは「刺激的で特殊な舞台を作る」ことを意識してデザインされます。
     
     ウツロに課せられる制限といえば灰塵を活かすことくらいでしょう。しかしそれゆえに自由度が高く、悩ましいところです。そこで「影渡り」を含めたカードプールと、ウツロらしさの両面から考えを掘り下げます。さらにもちろん、テキストが一見して狂っている点も重要です。
     
     攻撃面においては「影渡り」さえあれば「左手」「右手」「円月」を一気に撃ち込めるため必要最低限には足りていそうです。そうなるとメガミの個性や与えたい体験から加える要素を決めるべきです。そこで私はウツロはそもそもコントロール的であり、さらに魔王との闘いは長期戦にて絶望へと抗っていくべきものだと考えました。つまり切札は防御的で、そしてプレイヤーは防御を破るために灰塵へと向き合わなくてはならないのです。
     
     そこまで考えたら「ダメージを受けない」という狂ったテキストはすぐに思いつきました。灰塵を満たしている限りは再構成まで含めて無敵であるため、プレイヤーは灰塵を解除する(あるいは関係なく勝つ)方法を探さなくてはなりません。消費は相応に重くし、この消費そのものが灰塵のサポートになると同時に、序盤では弱くなるようにしました。魔王戦の本番は真の姿を現してからであり、第一形態ではむしろ弱く感じるくらいのほうがふさわしいのですから。
     
     この効果は実に強く、「ウツロに挑戦!」は普通に挑んだら絶対に勝てません。対策となる構築は必須となりますが、そのための創意工夫もまた「メガミに挑戦!」において面白いものです。いくらかピーキーな仕上がりではありますが、この戦いもまた独自の面白さがあったと評価しております。

     

     


     本日はここまでとなります。3回にわたるウツロ特集をお楽しみいただけていればうれしい限りです。次回は今週末の金土日のどこかの更新となり、そこではデジタルゲーム版についてのお話をさせていただく見込みです。
     
     実際のところ私がどれだけ頑張ってももはや制御できない話ではありますが、今の様子を見る限り9割8分がたポジティブな話ができそうです。ご期待くださいませ。