終焉ノ宿命ニ禊ノ刻ヲ(中篇)

2019.08.23 Friday

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     こんにちは、BakaFireです。今回の記事はウツロ特集の中篇となります。前篇をまだお読みでない方は、こちらから読まれることをお勧めします。

     

     このシリーズは特定のメガミに注目して、本作のデザインを語るというものです。今回は第三シリーズ第2回にして累計第11回となります。

     

     前篇ではメガミ・ウツロに関する歴史を説明し、彼女のコンセプトやルールが生まれるまでの話をしました。中篇と後篇のやりかたはサリヤ特集と同様です。中篇ではまず新幕における変化を軽くお話しします。その上で個々のカードについて第二幕、新幕両方を踏まえてお話しするのです。全てのカードについて書くとあまりに長くなってしまうため、今回はN1からN3までの3枚を扱います。
     
     それでは、さっそくはじめましょう!

     


    理念文書で魔王様を整理

     

     ウツロを『新幕』に適応させていくに際し、他のメガミと同様により丁寧な整理が行われました。理念文書です。すでにいくつかの特集で書かせていただいた通り『新幕』ではそのメガミを使用してプレイヤーにどのような気分になってほしいのか、そのメガミがどうあってほしいのかをまとめた理念文書が存在しています。
     
     『第二幕』の開発時点でウツロの根幹にある理念は見えていました。それは魔王気分です。ウツロは『桜降る代の神語り』の物語において最も強大な敵方です。ゆえにそれを宿すプレイヤーもまたそのようなロールプレイを楽しめるべきなのです。

     

     『新幕』ではその点をより整理し、2つの要点にまとめました。「ネガティブ効果」と「相手の選択」です。説明しましょう。
     
     前者は簡単です。ウツロはネガティブな影響を持つ効果―オーラやフレアをダストに送ったり、手札を捨て札にしたり―ならばどのような効果も持ちうるとした半面、その逆にあたるポジティブな効果は決して持てないように定めたのです。これは悪のイメージとともに、ホノカと対である印象を補強するものでもありました。
     
     後者も『第二幕』の開発を通し、その後半ではイメージのできていたものです。魔王は英雄の挑戦を受けて立ち、英雄を試す存在です。ゆえに強大な力を持ちながら、物語のピントはそれを受けた英雄の決断に合わせられるのです。
     
     私はそれを相手が効果を選ぶ効果で実装することにしました。このやり方は多くのカードゲームにおいて相手に決定権のあるカードは弱いという点で優れています。つまりバランスをとるために効果そのものを強大にできるため、実に魔王らしい凶悪な文言が書けるのです。
     
     そしてこれらの効果を掘り下げる中で、ひとつの発明品が生まれました。それはすばらしい発明であり、そしてこの中篇と次の後篇を読みやすくするためにも説明すべきでしょう。それこそが開発中の用語で「侵食X」と呼ばれていた「相手が自身のオーラ、フレア、ライフから選んでX個の桜花結晶をダストに送る」効果です。
     
     『第二幕』を経て、ウツロはもう少し気軽に桜花結晶をダストに送れるべきだと分かりました。他方でオーラやフレアを確定でダストに送れるようにすると組み合わせにおける問題が起こりやすすぎます(もちろんライフはもってのほかです)。そこでこの効果であれば実にちょうど良い塩梅で、さらに相手の選択という面でもウツロらしかったのです。

     


    塵の値は有為転変

     

     もうひとつ「灰塵」にまつわる歴史として、ダストの閾値の変化を語るべきでしょう。『第二幕』での閾値は初めから8であり、最後まで変化しませんでした。これについては大層な理由があるわけではなく、この辺りがゲームにおいてちょうど意味深い障壁であろうと考え、プレイテストにおいてその予測が概ね正しそうなフィードバックが帰ってきたためです。
     
     『新幕』では桜花結晶の数が4個増えており、さらにウツロのカードプールはより心地よくダストを作れるよう工夫されていました。ゆえに閾値は増やすべきにも思えましたが、まあ一応念のため8のままでデザイン班としてのテストを行いました。結果は予想通りで、よだれを垂らしながら適当にカードを使っていたら簡単に満たせたので閾値は直ちに10に変わりました。
     
     そこからしばらくはバランス調整チームの中でテストされ(さまざまな愚かな現象(※)は起こりましたが)灰塵の閾値には手は入りませんでした。

     

    ※ 後篇をお楽しみに!
     
     そこからウツロの完成度がもう一段引き上げられたのはゲストプレイテスターを交えたプレイテストでした。私どもは『新幕』の『第壱拡張』よりセットの完成度を引き上げるべく、数名のプレイヤーをゲストとして呼んでそこからフィードバックを受け取っていたのです。
     
     それは人間は歴史に騙されてしまうためです。私どもはそこまでの開発において様々な紆余曲折があったことを把握しています。それゆえにこのような変遷があるならこの現状は妥当だと考え、過ちに気づかない可能性があるのです。最たる例はシーズン1の『Thallya's Masterpiece』です。この1枚は印刷まで3、4回の弱体化を受けており、私どもはここまで弱くなったから妥当だろうと誤認していました。
     
     ゲストテスターに関するやり方はより洗練されつつあります。『第参拡張:零限突破』では(シーズン2と3で禁止カードを要した反省から)カード更新と新メガミでまとめてテストするには無理があると判断し、カード更新だけを見るゲストテスターと、新メガミなどの全体を見る直前フィードバックチームを切り分けました。そして結果としてより良い結果に繋がったと考えております。
     
     話を戻しましょう。その際のゲストテスターには、『第二幕』でウツロを徹底的に使い込んでいたプレイヤーが呼ばれていました。そして彼にはもちろん開発途中のウツロをテストしてもらったのです。
     
     そのフィードバックは最初は良好でした。しかしテストを重ねるうちに段々と不満が見え始め、私どもの隠れた失敗の気配が漂い始めたのです。そしてテストと議論を重ね、その正体が見えました。灰塵の達成において、意思決定と努力の快感がわずかに足りなかったのです。
     
     彼のプレイテストにおいて、大半の場合はウツロ側がターンを迎えた時点で、ダストは10〜11個ありました。つまり確かに中盤以降でなければ灰塵は満たされませんが、ウツロらしく妥当にプレイしていれば灰塵は自動的に満たされてしまうのです。これでは与えられたものをただ受け取るだけで、プレイヤーとしての快感につながりません。
     
     そこで私どもは閾値を12にするという決断を下しました。ダストが10〜11になるならば、そこから1枚カードを用いる―例えば相手に攻撃をオーラで受けさせたり、切札を使ったり―という僅かな努力と工夫を要するようにしたのです。
     
     この変更でウツロのプレイ体験はより濃密で意味深いものになりました。特定のメガミへと丁寧に向き合い続け、だからこそ本当に見つけづらい課題へと気づけたのは素晴らしいというほかありません。この場で改めて心からの感謝を贈らせていただきます。
     
     ウツロの『新幕』に向けた変化はこんなところでしょうか。それでは残る紙面では何枚かのカードについての歴史をお話ししましょう。
     

     

    第二幕

     

     ウツロの基本的な攻撃の枠としてデザインされ、ほぼ変更されませんでした。中遠距離を志向する第2のメガミとして設計されたため適正距離は6-9であり、灰塵を参照します。
     
     気を遣った点はもちろんヒミカとの組み合わせです。ヒミカは遠距離での攻撃の苛烈さゆえに比較的ダストを作りやすいメガミであり、それゆえに遠距離ながら灰塵は満たしやすくもあります。ゆえに灰塵で得られるボーナスを+1/+1が論外であるのはともかく、+0/+1ですらないようにしました。
     
     他方で他のメガミとの組み合わせではダストを8以上にしたうえで間合6に行くのはなかなかに困難です。それならば「-/1」の攻撃でも問題ないのではないでしょうか。『新幕』の今となっては中々に想像しがたいことですが、『第二幕』において「-/1」はそれだけ強力だったのです。
     
     結果としてこれらの考えはどちらも概ね正しく働き、魅力的なカードに仕上がりました。少しばかりメガミの組み合わせが難しくプレイングも難解ですが、『第参拡張』のメガミであるならば致命的問題ではないでしょう(基本セットなどでは難しすぎるため当然ダメです)。

     

    新幕

     

     『新幕』でライフが10になるにあたりダメージの再定義が行われますが、まずウツロはこの1枚が2/2になりました。さらに『新幕』では-/1は(第二幕の印象から過大評価していましたが)そこまで強力ではなかったと分かりつつあった、灰塵の難しさを鑑みて-/2も問題はないと判断しました。
     
     他方でダメージの増加に伴い、ヒミカとの組み合わせには一層の警戒が払われました。ヒミカ自身の攻撃が間合8で使用しやすくなった点を加味し、ゲームの序盤で決定的な差がつきやすくなりすぎないように適正距離8までを除き、6-7としたのです。間合も中距離により、遠距離よりの中距離として個性も際立ったと言えるでしょう。
     
     「円月」が活躍する幅が想定より狭くなっている点に不満はあります。それがウツロ自身の問題なのか、それともヒミカ以外との「円月」を使いうる組み合わせを補強すべきかは今まさに検討されているところです。

     

     

    第二幕

     

     ウツロのサブウェポンとしてデザインされ、こちらもほぼ変更されませんでした。こちらもヒミカと組み合わせた際に問題を起こしてはならないという制限から逆算して設計されています。つまりオーラやライフへのダメージを大きくしてはなりません。そうなれば、強力な攻撃後効果があるべきでしょう。
     
     さらにこれまでのセットをデザインする中で、何度か俎上に上りながらも没になってきた効果がありました。それこそが「相手がオーラへのダメージを選んだならば」誘発する攻撃後効果です。私はそのテキストを思い返して、どこかウツロらしさを感じ取りました。当時ではおそらく言語化しきれていませんでしたが、開発後期の時点では「相手の選択」効果の魔王らしさを認識しており、今でも正しい直感であったと判断しています。
     
     効果を手札破壊にしたのは、ヒミカと組み合わせた速攻をさておけばウツロをややコントロール寄りのメガミと考えていたためです。ゆえに防御手段が必要なため、ハガネと近い理由から手札破壊が採用されました。また手札破壊のような能動的妨害もウツロらしいと感じていました。この面でも後になって見れば「ネガティブ効果」に即しています。
     
     このように機能的であるとともに、デザインを通してウツロらしさを定義した重要な1枚だったと言えるでしょう。
     
     小さな失敗を挙げるとすれば、多くの場面で適正距離4-7が使いづらいことを、当時は気づけていなかった点です。中遠距離という色眼鏡で見て適正距離を定めてしまいましたが、もしかしたら3-7のほうがもう少し使い勝手の良いメガミだったかもしれません(そうしたら問題だったかもしれませんが)。

     

    新幕

     

     「灰の右手」については大成功していたため、カードの指針を変える理由はありませんでした。あとは正しく機能するように『新幕』に合わせるだけです。
     
     そう考えるとライフへの打点を増強する必要性からみても、ライフへの1ダメージを許容しやすくなったためにそのままでは手札破壊が機能しない点から見ても、このカードが1/2になるのは必然的と言えます。
     
     カード名の変更については次の「刈り取り」で述べるとしましょう。

     

     

    第二幕

     

     同じくウツロのサブウェポンとしてデザインされました。多くの語るべき内容は「灰の右手」と一致していますので、ここでは相違点だけを述べましょう。
     
     ウツロにはダストを作る能力を十分に与えなければならないと私どもは考えていました。その際にネックとなるのは相手のフレアです。当時の(デザイン班がバランス調整を兼ねていた)私どもはダストを枯らし、フレアにため込んでいくプレイングを十分に理解できておらず、またそれをこなせるプレイテスターも1人もいませんでしたが、『第一幕』時点での知識からその種のプレイングへの警戒はしていました。そこで「灰の右手」と近いやり方で、相手のフレアへと干渉できるカードをデザインしたのです。
     
     その判断は正しかったですが、失敗した点は「灰の右手」をより重篤にしたものでした。まずこちらだけダメージを0/1としてしまいましたが、これはダストを作る力を補強する面で不足していました。さらにダスト作りというウツロの立ち回りに関わる仕事を任されていたからこそ、より3-7がふさわしかったとも言えるかもしれません(※)。
     
     その失敗はプレリリース大会で明らかになり、またホノカが強さの面で問題であると発売前に分かったことから、(ホノカと違って致命的問題ではありませんでしたが)併せて発売前に調整されることになりました。

     

    ※ ただし、1/1にしたうえで3-7にして問題ないのかどうかは定かではありません。

     

    新幕

     

     「塵の左手」については強力なライバルが立ちはだかりました。侵食Xです。ウツロにダストを作る力が必要であるのは明らかでしたが、元の「塵の左手」の効果は侵食との重なりが感じられ、また1/1では力不足でした。しばらくプレイテストを重ねましたが、いまひとつ魅力的とはいいがたい効果だったのです。

     

     その原因はカード名にありました。『第二幕』でのカード名は格好良さの面から納得していましたが、他方で両手を対にしているというイメージゆえに、両者の間合を揃えなくてはならないという制限が生じていたのです。『第二幕』では上手くいっていましたが、『新幕』では間合をそろえたうえで両者の強みを生かしつつ整えることはできませんでした。そこで2枚のカード名を変更させ、間合を変えられるようにしたのです。
     
     ここからいわゆる「蝕みの塵」をデザインするという道もあったかもしれませんが、私どもは侵食効果を掘り下げる道を選びました。攻撃時に侵食2を行う攻撃として設計し、適切かつ中距離らしさの残る間合4を与えました。そしてそれだけでは間合の制限に見合った強さではありませんでしたので、その時点で没になっていた「契約の楔」から引き継がれる形で付与札へと対策する力が与えられたのです。
     
     総じて魅力的なカードですが、まだ真価は発揮できているとは考えていません。この1枚が活かされるには、中距離をより活かすための環境づくりが重要と言えるでしょう。
     
     
     本日はここまでとなります。来週はウツロ特集の後篇にて残るN4からS4と原初札の話を行います。ご期待くださいませ!