Ride on & Open the Gate!(前篇)

2018.12.28 Friday

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     こんにちは、BakaFireです。本日の記事は好評のシリーズ、メガミ特集の9回目となります。このシリーズで取り扱うメガミはTwitterでのアンケートにて決められ、今回は第2シーズンで最後となるサリヤ特集となります。
     
     これまで行ってきたトコヨ特集オボロ特集サイネ特集ヒミカ特集ハガネ特集チカゲ特集クルル特集シンラ特集を踏まえた内容でもあります。お時間がありましたら、これらのシリーズもご一読いただけると嬉しいです。
     
     それでは、さっそくはじめましょう!

     


     
     
    第二幕第弐拡張二柱目の流れ

     

     彼女をいかに語るかについては、時期を同じくするクルル特集に概ね準じます。しかし、これまで『新幕』になってからの特集を書いてきた知見を踏まえ、少しばかりやり方を変えることにします。以下のようになります。
     

    • 前篇ではメガミの歴史を語る。
    • 歴史については2017年2月から6月ごろ、彼女がデザインされた頃の話をする。
    • 中篇では新幕における大枠での変化を語る。
    • 中篇と後篇2回にわたり、『第二幕』と『新幕』それぞれのカードを並べて、カードの歴史と変化について語る。

     

     つまり前篇では『第二幕』が中心の話となります。『新幕』から本作に触れて下さった皆様は、昔話としてお読みくださいませ。
     
     
    ある協力者にして友人のお話し

     

     サリヤの始まりはどこにあるのでしょうか。それは意外なことに最も大昔、桜は降るよりも前、コロセウムでラノベ風の闘士たちが戦っていたころに存在していたのです。サリヤは海の向こうからやってきたイレギュラーですが、その生まれ方すらも実にイレギュラーなものでした。
     
     「私ども」と私が書く際に数えられている、私の素晴らしい協力者の1人について話をしましょう(BakaFire Partyは多くのことを私が行っていますが、私一人ですべてを回すことはとても不可能です。この上なく貴重ですばらしい協力者の皆様のおかげで本作は回っているのです)。彼は『アリストメイズ』『ルイナス』あたりの過去作品から協力してくれており、幾度となくすばらしい助言を頂いていました。そしてもちろん、本作でもご協力頂いていたのです。
     
     他方で彼は、自分の趣味嗜好と欲求に極めて素直でした。私がコロセウムな世界観の中、6人のキャラクターの設定を考えていた時の話です。彼はファミレスで自分の趣味嗜好に溢れた設定を伝えてきました。細かく語るのは避けますが、まあ様々なところでサリヤ的なものだったと伝えておきましょう。
     
     そして彼は本作に全力で協力するので、自分の趣味に即したキャラクターを出してほしいと私に頼んできたのです。誤解なきように伝えておきますと、彼の助力は本当に素晴らしいものでした。おそらく彼がいなければ、本作は皆様が今楽しんでいるようなものにはならなかったでしょう。
     
     しかし彼にとっての悲劇はその1か月後に起きました。世界に桜が降り、和風になったのです。褐色銀髪西洋鎧は、彼にとって必要不可欠なものでした。
     
     
    彼女がいるべき場所はどこか?

     

     多くの特集でお話ししてきた通り、世界には桜が降り、名前もフレーバーも与えられていなかった「トークン」は桜花結晶になりました。そしてキャラクターはメガミとなり、彼女らは当然和風でした。
     
     そうなると西洋ファンタジー風のキャラクターを入れるにはいくばくかの工夫が必要になります。今から振り返ると不可能ではなかったようにも思えますが、(当時は彼がいわゆる剣士を所望していた点も含め)難しいという判断を下しました。
     
     しかし他方で、彼との約束を完全に違えるというのは私の中の友情に反しています。そこで私は、西洋風のメガミを未来の拡張で出すためのやり方を考えることにしたのです。そして本作を続けられるかどうかという危機も乗り越え(※)、『第二幕』から本格的にその検討を始めました。
     
     『第二幕』は三回の拡張を通し、起承転結をイメージした骨組みを考えていました。こう考えると彼女のあるべき場所は明白です。「転」すなわち『第弐拡張』以外ありえないでしょう。西洋風という意外性は、順当な流れの中に魅力的な驚きを与える効果が期待できます。
     
     これは消去法でも明らかです。「起」にあたる『第二幕』では主人公であるユリナのライバルを出すと決めていましたが、それを西洋風にしてしまうと本作の王道をどこに置くのかがぶれてしまいます。「承」の『第壱拡張』ではある意味で予想通りな拡張が望まれるため、ここでいきなり奇をてらうのも誤りです。「結」の『第参拡張』は物語を締めくくる必要がありますが、そういう働きは期待できません。 
     
    ※ 『第一幕』は様々な面で不十分な作品だったため、そもそも本作を続けられるかどうかという瀬戸際にあったのです。幸いにしてそこまで待ったことで公式小説を通して世界観がより固まったため、海の向こうという概念が考えやすくなりました。この辺りの詳しい話はサイネ特集で語っております。

     


    海の向こうがやってくる時

     

     こうして私は西洋風のメガミを『第弐拡張』で出すという制限のもとで、世界観、物語のアイデアを膨らませていきました。私が尊敬するある方が「制限は創造の母」という言葉をよく引用していますが、それは事実であると強く感じさせられます。この制限により、物語は様々な面でうまくいったのですから。
     
     やり方についての最初の気付きは、チカゲから得られました。物語を魅力的にするためには、物語の時点で人間であるキャラクターはユリナとサイネ以外にも必要だと彼女を通して考えるようになったのです。ならば、「海の向こう」というこの「桜降る代」とは別の場所を用意し、そこに住む人間がメガミになるというストーリーはありえるのではないでしょうか。
     
     こうして世界に「海の向こう」が生まれました。最初こそ使い方に難儀していましたが、物語の吟味を進めるにつれて、本作において必要不可欠なものになっていったのです。
     
     特に重要だったのは敵方の存在、即ち瑞泉やクルル、ウツロなどを考えるにあたって、彼ら彼女らを正しく敵として働かせるやり方においてでした。物語をお読みでしたらご存知でしょうが、彼らは神渉装置というカラクリを用いてメガミの力を奪い、複製装置を用いて神座桜の下以外でもその力を行使できるようにしたのです。
     
     そうなると主人公であるユリナたちは、異なる方法で対抗できるようになる必要があります。そんな中、海の向こうはまさに絶妙な存在でした。彼女たちの協力によって融和した技術を用いるというのは、実に自然で正しく見えるのです。
     
     こうして物語の要請から、海の向こうは形作られていきました。神座桜の力がこの地と比べて弱いというのは元々決まっていましたが、それゆえに科学技術や金属加工に優れるという設定、桜花結晶の力が弱いためにそれを単なるエネルギーとしてしか見なしていないという設定などが加わっていったのです。
     
     そして技術の力でユリナたちを助けるのですから、科学者が必要です。その結果としてジュリアが生まれました。この上で科学者には戦闘能力はあるべきではありません。そこで西洋風の世界観を補強するためにも技術に携わる特権を持つ貴族と言う設定に繋げ、彼女を守護する騎士としてサリヤが誕生したのです。
     
     実に長い道のり! しかしこうして、海の向こうのイレギュラー、サリヤは物語へと降り立ったのでした。

     


     
    乗騎はどこから来た?

     

     ここまででサリヤ個人への理解は深まってきました。しかしまだ語るべきことは尽きません。ここからはゲームシステムも含めて、話を進めていきましょう。
     
     デザインの前段階では、彼女は西洋剣を持っている想定でした。しかし問題はすぐに見つかりました。『第二幕』の時点では刀の間合は1-2であり、その間合は離脱がなかったゆえに危険でした(※)。

     

     そこで素直な西洋剣ではデザインが不可能と判断し、かの友人とイメージのすり合わせを行いました。その結果、馬に乗っている騎士という方針が得られました。こういう戦い方をするメガミは確かにいないため、十分な独自性があります。
     
     西洋で馬といえば槍もまたそれらしい武器です。そこでまずは馬上で槍を操り、機を見て突撃するという方向で最初のカードリストを進めることにしました。

     

    ※ ユリナとユキヒはどうにか上手くやっていけていましたが、これ以上その間合にメガミを増やすにはあまりにもリスクが大きかったのです。

     


    海の向こうの桜花結晶とは?

     

     イメージとは別に、彼女の持つ特殊なルールについても検討されました。彼女のルールは、チカゲから引き継がれる形で始まります。
     
     チカゲ特集で書いた通り、チカゲは最初は悪い結晶――毒化結晶を持つというアイデアを試されていました。しかし得られる面白さに対してルールが複雑すぎ、入稿までに間に合わせることは不可能と判断して没にしました。
     
     サリヤは彼女からその知見を引き継ぎ、海の向こうの結晶(※)――冠花結晶を使えるようになりました。これは大体は桜花結晶ですが、サリヤを宿していないといくつかの面で上手く使えず、最大の特徴として山札の再構成でボードから消え、手元に戻ってくるのです。

     


     
     何回かのプレイテストでのフィードバックは良好でした。特にこのルールで間合に冠花結晶を置くという動きには独特な面白さがありました。間合に結晶を増やせるので4-5辺りの槍らしい中距離で戦え、再構成のタイミングで一気に結晶が消えるため、槍を構えて突撃というフレーバーが実現できていたのです。
     
     当時のカードを2枚ほどお見せしましょう。

     

    造花壁 行動/対応
    自/マシン→間合:◇1

     

    突撃攻撃 攻撃/全力
    適正距離0-1 5/2

    【常時】現在の間合がターン開始時の間合より近づいていないならば、このカードは使用できない。
    【常時】この攻撃は対応されない。

     

     しかし、このまま簡単に完成とはいきませんでした。ルールとして、ゲームとして、世界観として様々な問題が生まれ、サリヤはもう一度だけ大きな転生を必要としたのです。

     

    ※ この時点ではまだ海の向こうの世界観は固まっていませんでした。

     


    持ち上がる数多の問題

     

     問題は多角的で複雑で、当時はひどく混乱したものでした。今はもはや整理されているので、この記事では切り分けてお伝えしましょう。

     

    問題1:まだルールが難しい

     

     冠花結晶は間合だけでなく、オーラにも、フレアにも、ダストにも、めったにありませんがライフにも置かれていました。それに加えて特殊なルールもあり、(毒化結晶よりははるかにましとはいえ)まだルールが複雑すぎたのです。
     
    問題2:デジタルゲームとの相性が悪い

     

     この時点で本作にはデジタルゲーム化の話が持ち上がりつつありました。しかしあらゆる領域に冠花結晶が置かれてしまうと、それはデジタル版を遊ぶ上で耐えがたい問題を引き起こします。
     
     例えばオーラに2つの桜花結晶、2つの冠花結晶が置かれた状況で2/1の攻撃をオーラで受けたいならばどのように受けるのでしょうか。はたまた間合に冠花結晶がある時に、基本動作で前進しようとしたらどうなるのでしょうか。
     
     アナログゲーム版であれば、単に結晶を動かすことが意思表示になるので問題ありません。しかしデジタルゲーム版ではあらゆる場面でポップアップを表示させなくてはなりません。これは余りに不愉快で、スマートフォンを布団に叩き付けるには十分すぎるものでしょう。
     
    問題3:繰り返しのつまらなさが見え隠れしていた

     

     最初のフィードバックこそは良好でしたが、プレイテストを繰り返すうちに何名かのテスターからは不満の声が生まれました。山札の再構成は周期的なものです。そして冠花結晶を配置して活用し、取り除いて突撃技を撃つという立ち回りは同じ周期をもっていたのです。その結果として同じ展開が繰り返されやすくなり、ワンパターンゆえのつまらなさが問題視され始めたのです(※)。

     

    ※ 今だから明確化していますが、当時は「何か面白くない」という分かり辛いフィードバックであり、言語化にも苦労しました。


    問題4:海の向こうの設定が決まった

     

     プレイテストと並行して、海の向こうが物語でどのような役割を果たすべきかという設定の制約も固まりつつありました。先述の通り科学技術、機械工学、金属加工というイメージが求められたため、サリヤもまたある程度はそれを体現する必要があります。しかし現状では十分ではありません。

     


    サリヤ2.0

     

     これらの問題へと全力で取り組み、様々な解法を試しては崩し、サリヤは形になりました。こちらも整理してお伝えしましょう(こうして整えると簡単そうにも見えますが、当時は同時多発的に問題が襲い掛かってきたため、混沌と苦難の中で知恵を絞ったものです)。

     

     

    解決1:バイク(のようなもの)に乗せた

     

     改めて書くとクレイジーですが、物語の要請を踏まえると理に適っています。機械工学的なイメージを持たせるには機械の乗騎に乗せるのが自然です。その上で騎士のイメージを辛うじて壊さないためには、これしか選択肢はないでしょう。
     
     しかし、バイクと直線的に書いてしまうと世界観を壊しすぎる恐れがあります。そもそも桜降る代にバイクはありません。そこで1つしか存在しない特別なものとして乗騎ヴィーナという名前を与え、バイクとは作中では呼ばないことにしたのです。
     
     ちなみにこの時点で槍よりも乗騎のほうが象徴的になったため、象徴武器が「乗騎」に決まりました。

     

    解決2:造花結晶という名をつけ、燃料にした。

     

     乗騎をバイクにした時点で、特殊な結晶は燃料にするのが自然だと分かりました。海の向こうの世界観から見ても、サリヤがその結晶をゲームに持ち込んでいる理屈を正当化するためにも、これは明らかに正しい判断です。
     
     そしてこのタイミングで名前は造花結晶に改められ、世界観に即したものとなりました。さらに燃料は原則的には使い捨てであるべきなので、ボードから取り除かれる際に戻らないようになり、併せて燃焼を持つカードが作られました。
     
    解決3:結晶が置かれる場所を間合に制限した。

     

     問題1や問題2とにらみ合い、その上で冠花結晶がどうなっていると面白いのかを分析しました。その答えは2つありましたが、最終的にサリヤはそのうちの片方だけを採用することになりました(※)。
     
     それこそが間合に冠花結晶を置いた場合です。これは上記の通り面白いだけでなく、置かれるときと取り除かれるときで間合が劇的に変化していくために機動戦闘の感覚が出せており、サリヤらしさにかみ合っているのです。

     

     間合だけに制限すれば問題1は解決です。そして間合に置いた造花結晶は動かせないようにして「間合+1トークン」と「間合−1トークン」という形でまとめ、問題2も解決できたのです。

     

    ※ もうひとつの答えはまだ活かされていませんが、いつの日か皆様にお見せできるだろうと期待しています。

     

    解決4:サリヤらしい戦い方を再定義した。

     

     解決1から3がなされた上でなお問題3は残り続けました。そこで私たちは改めて話し合いに臨んだのです。そして「繰り返し感」こそが問題だと把握し、再構成で造花結晶を取り除くのは誤りだと結論付けました。
     
     間合はもっと目まぐるしく変化したほうが機動戦闘らしいと言えます。そこで造花結晶が取り除かれるのは自分の開始フェイズと定めました。
     
     そして最後に、それらを踏まえてサリヤはどう戦うべきかを再検討しました。こうしてたどり着いたMasterpieceこそが「離散した間合」です。彼女の攻撃の適正距離は中距離に固めるべきではありません。数多くの間合に散らすのです。そうすることで連続攻撃のために移動が必要になり、機動戦闘という感覚を強められるのです。

     

    おまけ:鞭の如き剣

     

     これらの解決の結果、槍には問題が生まれました。第一に槍には間合を使い分けるイメージがありません。第二に大きな槍が果たしてバイクの上で使えるのかという違和感があります。
     
     そこでバイクの上で使えそうで間合が可変しそうな武器として、あの一風変わった剣が生まれたのです(※)。
     
    ※ 後にイラストのTOKIAME先生とお話しした際に、似たような武器としてウルミというものがあると分かりました。それを聞いて、まあ実際にあるなら大丈夫だろうと最終的なGOサインを出しています。まったくの余談ですが、TransFormがインド的な名前なのはウルミがインドの武器であることに影響されています。

     


     本当に長い旅路でした。海の向こうのイレギュラーはその生まれ方もまさしくイレギュラーなものだったのです。実際、サリヤというメガミは私の作家性からは生まれづらいキャラクターであり(※)、独自の魅力があります。このような形で世界を広げてくれた友人に、改めてこの場で感謝いたします。

     

    ※ デジタルゲーム版の台詞を考える際には特に苦労しました。

     

     本日はここまでとなります。来週は中篇ではなく、イベント関連の記事を一本書かせて頂きます。そして再来週には中篇をお届けすることになるでしょう。それぞれご期待くださいませ!