黒幕よ雄弁に語れ(前篇)

2018.09.14 Friday

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     こんにちは、BakaFireです。本日の記事は好評のシリーズ、メガミ特集の8回目となります。このシリーズで取り扱うメガミはTwitterでのアンケートにて決められ、現在は第6回でアンケートした4柱を順に進めているところです。1位のチカゲ特集、2位のクルル特集まで終わっていますので、今回は3位のシンラ特集となります。

     

     

     これまで行ってきたトコヨ特集オボロ特集サイネ特集ヒミカ特集ハガネ特集チカゲ特集クルル特集を踏まえた内容でもあります。お時間がありましたら、これらのシリーズもご一読いただけると嬉しいです。
     
     それでは、さっそくはじめましょう!

     


     
    流れは久々に最初通り

     

     どのようにメガミを語るべきかどうかについては、久方ぶりに最初のやり方を使うことになりそうです。その上で新幕がすでに発売している点についてはクルル特集と同様に扱うものとしましょう。まとめると次のようになります。
     

    • 前篇ではメガミの歴史を語り、中篇では第二幕における個々のカードを語る。
    • 第一幕での六柱を語る際は、本作そのもののゲームデザインと紐付けて語る。
    • 後篇では第二幕から新幕における変化について語る。


    桜が降るより前の話、その4

     

     第一幕から存在するメガミについて語るのもこれで4回目となりました。まずは通例に従い、どのようにシンラが生まれたのかをお伝えしましょう。これまた通例通り、桜が降るよりも前の世界へと遡り、そこにシンラがいるのかを見てみましょう。
     
     ええ、原型と思しき存在は確かにいるようです。これまでの特集で私は1人目「大剣」2人目「銃」3人目「盾」4人目「スカーフ」6人目「扇」の存在をお伝えしてきました。そしてこれが最後の一人です。そう、5人目「書」です!
     
     書が武器なのかと言われると首をかしげるところですが、かつての世界観ならばなにも不思議ではありません。中世ライトノベルファンタジーにおいて、魔法使いは当然あるべき存在ではないでしょうか。

     

     しかしながら、そのまま順当に存在しつづけたわけがありません。何せ世界には桜が降り、世界観は和風へと激しく方向転換したのですから。当然「書」は一度消えることになります。
     
     それではその後何が起こったでしょうか。オボロ特集をお読みいただいた方は覚えているかもしれませんね。そう、顕現武器コンペティションがやってきたのです! そしてその時、書は果たしてどうなったのでしょうか? ご覧いただきましょう!

     

     


     


     


     おおっと失礼。図を間違えてしまいました。正しくはこちらです。
     
     

     

     

     ここで重ね重ね誤解なきよう補足させていただくと、この企画は顕現武器コンペティションであり、武器の名前を挙げていくというものでした。ええ、もしかしたら誤解されている方がいらっしゃるかもしれませんので(今回は俺は入れてねーぞ)。

     

     とはいえ、選ばれてしまったからには何かの理由があるはずです。忍者が選ばれた時と同様に、理由を分析することにしました。

     

     今回は忍者とは違い、和風だからと言う理由ではないでしょう。私としては今回の理由は、異常性にあったと考えています。そのほかの武器5つは多かれ少なかれ、武器を用いた物理攻撃で相手に攻撃します。キャラクターごとに異なるプレイ感を実現するには、1人くらいは魔法攻撃を行うべきというのは納得のいく話です。

     

     そんなわけで忍に続き、書もまた採用となったわけです。折角ですので桜が降るより前にあったカードも、何枚かお見せしましょう。


    呪いの火    《行動》
    自オーラ⇒相手オーラ:◇2
    そうした場合、相手に1ダメージを与える。

     

     正しくシンラのあるカードの原型であり、同時にクルルのような気質もあります。最初は書は攻撃でなく直接的にダメージを与える効果が中心でした。しかしプレイテストの結果そのやり方はバランスに問題があり、また最初のパッケージに入れるには早すぎると分かったのです。


    再起動    書    《行動》
    自オーラ⇒相手オーラ:◇1
    そうした場合、捨て札のカード1枚を手札に戻す。

     

     相手に自分のリソースを差し出す儀式を対価にして、強大な効果を得るというコンセプトもありました。


    黒き雷 書 《行動》 消費4
    相手に2ダメージを与える。

     

     わかりやすくやばい効果です。

     


    魔法なき世界での魔法探し

     

     それでは桜降る代において象徴武器:書が採用されるに至り、まずはどのようなデザインがなされたのでしょうか。実際のところシンラはコンセプトが明確になったのは6柱の中で最も遅く、実に長い旅路でした。慌てず、ひとつずつ辿ってみましょう。
     
     まず、前時代での直接的なダメージが駄目であることは何度か試した時点で分かりました。今の知識で見ても、クルルがあれだけ厄介な制限の下でどうにかバランス上容認される効果です。大した制限もなく採用しては愚かな結果にならないはずがありません。
     
     しかしそれを没にした時点で、早くも問題に直面します。シンラが生まれた動機はその異常性――物理攻撃ばかりじゃなくて魔法攻撃もしたい――にありました。しかしたった今、早くも分かりやすい魔法攻撃は否定されたのです。
     
     それでは私たちはどうするべきでしょうか。ひとつの結論としては、シンラもある程度は攻撃カードで攻撃するべきだろうという結論にはなりました。「間合を合わせて攻撃する」ことを完全に放棄するにはあまりにも早すぎると言えたのです(※1)。
     
     しかしながら、普通でないことをして、普通でない勝ち筋を追うという独特の感覚を失ってはならないとも確信していました。プレイヤーには様々な気質があり、他人と違う勝ち筋を持つことに喜びを持つプレイヤーは間違いなく存在します。シンラを彼らにとって魅力的な存在にするためにも、私たちはそのやり方を模索することになりました。
     
     幸い、そのうちのひとつは比較的容易に決まりました。山札の破壊です。多くのカードゲームでは山札が切れた相手は敗北するため、山札破壊は特殊勝利条件に近い立ち位置になります。しかし本作では山札の再構成とライフへのダメージが結びついているため、山札破壊はライフへの直接ダメージに近いのです。
     
     例えば「立論」の初期の効果は3/7の山札破壊なので、3/7のライフダメージと捉えることもできます。これは我々の望む魔法攻撃にかなり近く、正しいやり方と言えました。
     
     しかし、山札破壊をただ詰め込んだだけのメガミには戦略的な膨らみはなく、魅力的とは言えませんでした。もう一本、軸となる脚が必要であり、私たちはそれを探すために旅を続けることとなったのです。

     

    ※1 完全な放棄には実に1年と3か月。クルルの誕生を待つ必要がありました。

     


    特殊領域には危険信号

     

     苦難の中、最初に生まれたアイデアは特殊な領域を使うというものでした。本作は様々な領域が存在し、そのうちのどこにどれだけの桜花結晶が置かれているのかで戦況が表されます。ならば、特定のメガミ専用の領域があるというのは、一見して魅力的です。
     
     領域名は仮に「ブック」とされていました。書物の中にあたかもMPのように結晶を溜め、それを消費して強力な現象を起こすのです。

     


     
     しかしプレイテストを重ねるうちに、このアイデアには致命的な問題があると分かりました。自己完結性の問題をより強調したような問題……自己閉鎖問題(※2)と呼ぶべきでしょうか。
     
     説明しましょう。要はブックに桜花結晶を移す効果も、ブックの桜花結晶を消費する効果も、そのようなカードはシンラしか持ち得ないという問題です。こうなるとシンラのカードを入れたら入れただけブックのリソースを溜められ、同時にそれを使う用途も豊富になるのです。
     
     コンセプトの部分で(※3)このような要素を持ってしまうと、極端な場合はシンラのカードで8〜10枚を埋めることが常に正解となってしまう恐れがあります。それは本作の魅力のひとつである「二柱を組み合わせる」部分を完全に殺しており、それゆえにこのコンセプトは没になりました。
     
    ※2 この問題は極めて厄介であり、現在もデザインにおいて常に意識され続けています。最近ではライラがこの問題へと陥りかけました。それを回避するために風雷ゲージの増加には、「他のメガミのカード」が必要となっているのです。

     

    ※3 自己完結を推進するカードがカードプールに1枚程度あり、それが他の選択肢を食いつぶすほどの強力さを持たない分には問題なく、むしろデッキ構築の幅を広げると考えています。『新幕』オボロの「虚魚」、ユキヒの『どろりうら』はその一例です。

     


    付与の歴史を紐解こう

     

     次に試されたアイデアについては、実はすでにオボロ特集で語っています。それはとあるコンセプトで、シンラの原型とオボロの原型が共有していました。語った通り問題があって没になったのですが、このアイデアはいつの日か帰ってくると感じてもいるため、今は秘密にしています。
     
     ここで重要なのは、そのコンセプトでは「それらのカードの上に桜花結晶を置いていた」点です。
     
     当たり前のことを勿体付けるなと感じたかもしれません。しかしお待ちください。シンラは最初の6柱であり、彼女らはルールそのものも変化していく中で形作られていったことを思い出していただければ幸いです。ええ、その時点での付与カードは上に桜花結晶を置いていなかったのです(※4)。
     
     そこで私は付与札に桜花結晶を置くというアイデアに至りました。展開時、展開中、破棄時という分類をしたのもほぼ同時で、このやり方には広いデザイン空間があるのは明らかでした。そしてこれはある意味では特殊な領域でもあります。メガミ全体にまたがるような形でブック領域のようなものも実現できるのです。
     
     しかしそれ以上に大きなメリットがありました。上に桜花結晶を置くようにすれば、盤面に残っているカードを区別できるのです。本作にはボードが存在し、それによってある程度の複雑さが与えられています。私としてはそのような状態で捨て札などの表向きのカードを置くべき領域を分け、盤面の複雑性を増やしたくはありませんでした。理想を言えば順番すら気にせず、他方で相手には分かりやすいように、雑にカードを並べられるようにしたかったのです(※5)。
     
     こうして、付与札に桜花結晶を置くという大きなルールが定まりました。もちろん初めから今の形だったわけではなく、細部においてはその後も幾度かの変更がありました。例えばオーラからしか桜花結晶が置けない代わりにオーラへと戻る仕様(※6)であったり、自分のターンにしか桜花結晶が落ちない仕様であったりしたことがありました。
     
     この付与札のルールは素晴らしく、シンラは付与札と強く結びつくというすばらしい個性を手にしました。これによりシンラはもうひとつの軸となる二本目の足を手に入れたと言っても過言ではないでしょう。しかし小さな問題もありました。これはあくまでメガミ全体にまたがる全体のルールの話であり、シンラという一柱のメガミのキーワードと呼べるかは疑問だったのです。
     
    ※4 恒久的に残る付与カードは切札にしかありませんでした。切札は今でいう【使用済】効果にあたる能力を持っていたのです。一方で通常札は開始フェイズに必ず捨て札になる――即ち今でいうところの納2のカードだったのです。

     

    ※5 『第二幕』「圏域」はサイネ特集の中篇をご覧いただければわかる通り、やむを得ない例外でした。

     

    ※6 当時はオーラの上限もありませんでした。

     


    閑話休題:付与札クイズ

     

     そうだ、付与札の話をしたのですから、途中でシンラのカードプールに存在した独特なカードを1枚紹介しましょう。付与札の上に桜花結晶を置くというアイデアが生まれた際に、あるゲームのことを想起しながら作ったカードです。
     
     ちなみに、この時点で納は自分のオーラからしか置けず、付与札の上から桜花結晶がオーラへと戻され、それは自分の開始フェイズにしか起こらないという仕様でした。

     

     改めて見返してみると、なかなか良いカードなのかもしれません。ただ、今改めてこのカードを作る場合は、上記のルール的な差異を全て能力として書かなければいけないのは少しばかり厄介です。
     
     分かる方には簡単かもしれませんが、このカードを思いついたアイデアの種となったゲームとは何でしょうか。クイズ感覚で考えてみてください。解答は中篇でお届けしましょう。


    納1
    【展開時】ダストから桜花結晶を2つこのカードに置く。

     

     


    最後は論壇に立つ

     

     この後のキーワードの探索は困難を極めました。これまでを総合すると、シンラのカードプールはすでに十分に独特なのです。他にはない魅力を出せてはおり、これで完成としても致命的な問題はありませんでした。ここに新しいコンセプトを加えようとしても、どうにも上手くいきません。
     
     しかしユキヒには初めから変貌があり、トコヨとオボロは境地と設置を見つけ、ユリナとヒミカもキーワードがあるべきと決死と連火を見つけつつありました。そのような中、シンラだけがそのようなキーワードを持たないのはあまりにも不自然です。
     
     そんな中、私は付与札との友好関係に着目して、論壇というキーワードを作りました。プレイテストの時間を考えるともはや残り時間は少なく、やむを得ない決断ではあったのは確かです。
     
     結果としてみると意識していた点は成功しており、悪くはないコンセプトでした。デッキの構築において付与カードを強く意識するようになり、構築において独特の楽しさや相互作用の感覚が生まれるのです。しかし、ベストのコンセプトだったかといわれると疑問が残ります。この部分については後篇にてお話しすることになるでしょう。
     
     こうしてキーワードの結末だけを見ると、これまでの本シリーズと比べてややビターエンドな様相を呈しています。しかし誤解なきよう補足しておくと、山札の操作や付与札の発見とその活用において、シンラと彼女をデザインする過程はすばらしいものでした。結果として生まれた独特なカードプールには独自の魅力があり、シンラは間違いなく成功だったと言えるのです。これらのカードの素晴らしさは、続く中篇で語ることにしましょう。
     
     
     今回はこんなところでしょう。次回の更新は来週、福岡で開催される大規模大会の申し込み開始と、10月、11月に向けたイベント関連の記事を書かせて頂きます。さらに余力があればシンラ特集の中篇にて、『第二幕』でのカード個別の話もいたします。併せてご期待くださいませ!