狂気カラクリ博覧会(後篇)

2018.07.06 Friday

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    イカれたカラクリを改造しよう!

     

     

     こんにちは、BakaFireです。今回の記事はクルル特集の後篇となります。前篇中篇をまだお読みでない方は、先に読まれることをお勧めします。
     
     このシリーズは特定のメガミに注目して、本作のデザインを語るというものです。今回は新シリーズ第2回にして累計第7回となります。

     

     前篇ではメガミ・クルルに関する歴史を説明し、彼女のキーワード「機巧」が生まれるまでの話をしました。中篇では『第二幕』での個々のカードに注目し、それらを通して彼女を語りました。そして今回の後篇では『新幕』における彼女についての話を行うことになります。
     
     このシリーズにおいて『新幕』の話を行うのはこれが初めてとなります。従って、『新幕』開発の流れを明らかにしつつ、そこで何があったのかをクルル中心の視点で語る必要がありそうです。
     
     それでは、さっそくはじめましょう!

     


    新幕はじめました

     

     『新幕』は『第二幕』の潜在的目標に由来するデザイン空間の枯渇を解消することを第一の目的として開発されました。さらに次いで問題解決を通して、気持ちよく爽快感のあり、同時に戦略性が保たれたゲームとすることも目的でした。
     
     詳しくは『新幕』開発の記事をお読みいただくとして、私どもはそれらの潜在的問題を改善するためにライフを10にして、離脱を追加し、メガミの適正距離を見直しました。
     
     それに合わせて必然的に変更すべき個所が生まれます。それは「ダメージの塩梅」です。当然の話ですが、ライフが10に増加するならば、カードが与えるダメージも増加しなくてはなりません。ダメージがそのままであれば当然プレイ時間は伸びることになり、もっさりとした、魅力的でないゲーム体験を与えることになってしまいます。
     
     事実、ライフを10にして離脱を入れたゲームを体験するための最初のテストでは適当にカードプールを作っていたこともあり、プレイ時間は50分にも及びました。ちなみにこの時点のテストでは、ユリナ、サイネ、ヒミカ、トコヨの基本4柱のカードプールのみでテストされていました。
     
     では、どの程度ダメージを増加させるべきでしょうか。本作を再構成が2、3回程度行われるゲームだと考えると、ライフは実質的には5〜6から7〜8へと変化しており、おおよそ1.25倍から1.4倍程度になっています。1ゲームのプレイ時間はある程度減らす方向に持って行きたいと考えているため、ダメージは1.4倍程度にするのが適切そうです。
     
     そうなると、全てのカードのライフへのダメージを1上げることはできません。ライフへのダメージを上げるべきカードと、そうでないカードを取捨選択する必要が生じます。

     


    メガミたちへと問いかけよう

     

     ここまでが分かった時点で4柱のカードプールについてダメージを吟味し、ひとまず遊んでみて楽しいと感じられる数字にできました(もちろん、バランスはまだまだ駄目ですが)。そして、ライフ10と離脱は間違いない判断だと確認できたのです。
     
     そこまできたら、全12柱のカードプールをいよいよ作ることになります。その時点で私は全てのメガミをじっくりと見直すため、以下の3項目について問いかけることにしました。

     

    • そのメガミの理念はどのようなものか
    • 変更すべきコンセプトはあるか
    • ダメージはどこで取るようにすべきか

     

     ここでまずはデザインの領分としてこれら3項目への解答を書かせて頂き、それを通してメガミたちに何があったのかを語ることにしましょう。


    そのメガミの理念はどのようなものか

     

     『新幕』にあたっての大きな試みとして、私は全てのメガミに対して「理念文書」の作成を行いました。これは以下の項目からなっています。

     

    目的

    • そのメガミを宿していてどんな気持ちよさを味わわせたいか

    コンセプト

    • どうやって目的を実現するか
    • キーワード能力はなぜ手段となるか
    • サブコンセプトは何で、なぜそれが必要なのか

    どのリソースにどれだけ触れるのか

    苦手なこと、できないことは何か

     

     この文章はここでは直接すべてをお見せすることは避けておきましょう。いつの日か、理念文書の話をより深くブログで行う日も来るかと思いますので、その時をご期待ください。
     
     この理念においてクルルは一切の問題なく「クレイジーな発明家の感覚を味わう」と答えられ、それは前篇でお話しした内容とほとんど同じでした。
     
     実際、この理念はハガネ、チカゲ、クルル、サリヤはスムーズに書けており、ハガネ特集やチカゲ特集でお伝えした「宿したプレイヤーにどのような楽しさを体験させたいのか」というコンセプトの再確認に過ぎません。つまりこの理念文書は『第一幕』初期からサイネまでの、明確な目的がまだ未成熟だったころのメガミたちのためのものとも言えます(とはいえ、いざ書いてみたら拡張4柱にもそれぞれ気づきはありましたが)。

     


    コンセプトは変更すべきか

     

     理念文書がスムーズに書けた点や、『第弐拡張』が『第二幕』において大成功であった点を加味すると、クルルのコンセプトで変更すべきところはデザインの時点ではありませんでした。
     
     クルルへと大きな変化が与えられたのはバランス調整チームによるプレイテストが行われた後になります。それについては、もう少し後でお話ししましょう。

     


    ダメージはどこで取るようにすべきか

     

     クルルのダメージの取り方はいかれているため、どうすべきかは難しいところです。とはいえデザインの時点での私は、全てのメガミについてライフへのダメージが増え(そしてオーラへのダメージは若干ながら増え)ているため、クルルもライフへのダメージを向上すべきだろうとは考えていました。
     
     そこで私は「クルルはほとんどが上手くいったが「とるねーど」と「びっぐごーれむ」だけはいまひとつ活躍できていないので、強くすることにしよう」と考えました。
     
     ええ、今改めて書いてみると頭がおかしいとしか思えませんが、誤解なさらないでください。このカードリストを作っていたのは2017年8月から9月。つまり『第弐拡張』の発売から1、2か月しか経っていません。この時点ではクルルといえば「えれきてる」と「いんだすとりあ」であり、「びっぐごーれむ」と「とるねーど」は使い辛いという評価がほとんどでした。「びっぐごーれむ」軸のデッキが大会で大活躍して第二回全国大会の予選を大いに揺らしたのは実にそれから半年近く後、2018年3月の話なのです。
     
     そこで私は「びっぐごーれむ」「とるねーど」を次のように変更したのです。


    びっぐごーれむ
    消費3 行動
    【使用済】機巧(全全):あなたの終了フェイズに相手のライフに1ダメージを与えてもよい。そうした場合、山札を再構成する。
    【使用済】あなたが《全力》カードを使用した時、その解決後に基本動作を1回行ってもよい。

     

    とるねーど
    行動/全力
    機巧(攻攻):相手のオーラに5ダメージを与える。
    機巧(付付):相手のライフに2ダメージを与える。

     


    バランス調整チームへの受け渡し

     

     これらの質問への答えを踏まえてカードリストを作り、楽しさを確かめました。ことクルルにおいて、この部分は簡単なものでした。すでに上手くいっており、楽しいと分かっているものを再確認するだけでしたので、すぐに合格となったのです。
     
     そして私どもデザインチームは、個々の戦略が強すぎるかどうかはさほど見ず、楽しさが保たれているかどうかに専念しました。なぜかと言えばその時点でバランス調整チームの発足が確定していたからです。
     
     このタイミングは2017年9月。ちょうど『第二幕決定版』に向けた調整が行われていたころです。バランス調整チームはこの調整を通して仮運用され、『第二幕決定版』発売後から本格的に『新幕』のテストを開始したのです。

     


    4ターンでお前を消す方法を思いついたぞ!

     

     

     バランス調整チームの運用はこうして始まりました。最初の時点ではまずは10ライフと離脱、そしてパワフルな(ええ、結果として印刷されたものと比べてもさらにパワフルな)カードプールへと慣れることに苦心するとともに、バランス調整チームはその過程を大いに楽しんでいました。
     
     さらに素晴らしいニュースもあります。前篇と中篇で『第二幕』のプレイテストでは「クレイジーな発明家」は私一人しかいなかったため、ほぼ一人での調整を強いられたとお話ししました。しかし『新幕』でのバランス調整チームには大変ありがたいことに、そのような発明家が私以外に2名も所属していたのです。
     
     しかし時は流れメンバーが『新幕』に慣れてきたころ(『第二幕』でも実は「びっぐごーれむ」と「とるねーど」が強力だったことからも分かる通り)、このカードプールに眠っていた愚かな地雷はマッドサイエンティストたちにより発掘されることになります。。
     
     ある日、一人のプレイテスターが(まさにクレイジーな発明家らしく)笑いながらデッキを用意して現れました。そのデッキはこの上なくヤバい代物でした。メガミはヒミカ/クルル。詳しい説明は省きますが、第2ターンと第3ターンと第4ターンに3ダメージを与えるデッキです。当たり前ですが残りライフは1ですので、その時点で再構成ができないため相手は蒸発することになります。
     
     こうしてクルルは当然の如く、調整が求められることになりました。

     


    コンボオンリーからの脱皮

     

     私どもは最初、「びっぐごーれむ」と「とるねーど」の機巧条件を厳しくする形で調整を試みました。具体的には「びっぐごーれむ」には対応が追加され、「とるねーど」のライフ2ダメージは行動2つと付与2つという機巧条件になりました。こうして先程のデッキは機能しなくなり、世界には仮初の平和が与えられました。
     
     しかしこのカードプールに埋まっていた地雷はひとつだけではありませんでした。流石に先程のデッキよりはましではありますが、愚かな事態を引き起こしそうなデッキは次々と発見されていったのです。
     
     そしてその「愚かな事態を引き起こしそうだけど自明に愚かではない」デッキが大丈夫かどうかテストしつづけ、その結果を観察した結果、もうひとりの発明家から大きな提言がなされました。クルルは『第二幕』でも相性への依存が比較的大きいメガミでしたが、今のクルルはその依存が大きくなりすぎているというのです。
     
     それはデータからも明らかでした。それらのやばそうなデッキはユリナ/オボロなどのビートダウン的なデッキとぶつかると大体は粉砕され、実際は適正にも見えます。しかしこれらのマッチアップはプレイテストにおいてはある程度恣意的に作られています。
     
     問題となるのはコントロール的なデッキとのマッチアップです。その時点では「えれきてる」にも若干の上方修正があった点も含め、行動カードによる不可避かつ正確なダメージクロックにより、それらのデッキはクルルとマッチングした時点で自動的に敗北するのです。
     
     本作のような非対称の対戦ゲームにおいて、キャラクター間の相性は存在して然るべきです。しかしながら、それが行き過ぎてしまうのは問題です。少なくとも、見た時点で決着してしまうようなマッチアップは可能な限り少なくする必要があるのは確かでしょう。
     
     そこで私どもはクルルに抜本的な改革を行うことにしたのです。当時のクルルは綿密な事前準備によってクレイジーなコンボを成立させ、凶悪なダメージを打ち込むメガミになっていました。しかし、コンボがここまで強力だと先述した相性上の問題が発生します。
     
     他方でコンボを単に弱めると、今度は宿す価値のないメガミが誕生します。ビートダウンには10割勝てず、コントロールには五分ではゴミもいいところでしょう。そこで私どもは「えれきてる」や「とるねーど」のダメージ水準を昔の形に戻し、その代わりにクルルにはトコヨやシンラに代表されるようなコントロール的な立ち位置を幾ばくか与えることにしたのです。
     
     こうすることでビートダウンに対してはコントロール的なカードでいなすことで猛攻をしのぎ、コンボを成立させていくチャンスが生まれます。同時にコントロール側もコンボから刻まれる打点が緩和されるため、対処するチャンスが生じるようになるのです。
     
     しかし、メガミの間の差別化は意識しなくてはなりません。クルルがコントロールの要素を持つとはいえ、トコヨやシンラと近すぎる方向の内容とすると没個性へと繋がります。同時にクルルらしく、奇妙である必要があります。さらに注意点としてコントロールのダメージを妨害し過ぎない必要もあります。コントロールのデッキが攻める際は連続攻撃はあまり行わない傾向にあるため、逆に連続攻撃に対して強いデザインであるのが好ましいでしょう(但し『第二幕』の「音無砕氷」はダメです)。
     
     そのために開発されたのが『新幕』における「くるるーん」と、新たなカード「りふれくた」です。実際にプレイテストした結果、これは期待した通りの影響を与えていました。こうして、クルルはクレイジーなコンボだけではなく、新たな武器をもって『新幕』の舞台へと降り立ったのです。

     

     


    これまでの1か月半を踏まえて

     

     こうして『新幕』は無事に発売し、そして1か月半の時間が流れました。折角ですのでこの記事ではこの1か月半を踏まえた今の見解も気になる所です。
     
     しかしこの辺りを深く語ろうとすると、今のゲームバランスやカード更新にまつわる話まで踏み込むことになります。今回の主題からは外れますので、ここでは軽く触れる程度にとどめておきましょう。こちらは今後のカード更新に関する記事でお話しさせて頂きます。
     
     特に厄介なことに、クルルは他のメガミと比べて本質をつかみづらいメガミです。「第二幕」の際にも最初のフィードバックは「弱い」という意見が多く(実際はかなり強力なメガミでした)、あらゆる構築の全体像が見えるまでには実に半年近い時間がかかっています。それゆえに、今の時点で『新幕』で見えている物事が真実とは限らず、ことクルルに対してはより慎重な態度であるべきなのです。

     

     その上で今の環境に触れるならば、コンセプトは上手くいったように見え、良い魅力が出ているとうれしく思っています。全体的に、かなり成功しているのは間違いありません。
     
     しかし他方で、少しばかり上手くいくのが早すぎることに対して強く警戒しています。今後のカード更新において、クルルを改めて見つめ直す必要性は生じるだろうとも予見でき、その他の改善点の影響も踏まえると併せてすぐに更新すべき個所もあるだろうと考えています。しかし他方で先述の通り、総合的には慎重な態度で検討するべきなのは確かでしょう。

     

     

     これにて3回に渡るクルル特集は閉幕となります。正直なところ、『新幕』開発で最初に語らなければいけなかったのがこいつだったことには頭痛を禁じえませんでしたが、どうにか面白いお話ができていれば幸いです。
     
     次回の更新は明日。短い記事ではございますがプレリリース大会についてお知らせいたします。