狂気カラクリ博覧会(中篇)

2018.06.22 Friday

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    イカれたカラクリ開発秘話

     

     

     こんにちは、BakaFireです。今回の記事はクルル特集の中篇となります。前篇をまだお読みでない方は、こちらから読まれることをお勧めします

     

     このシリーズは特定のメガミに注目して、本作のデザインを語るというものです。今回は新シリーズ第2回にして累計第7回となります。

     

     前篇ではメガミ・クルルに関する歴史を説明し、彼女のキーワード「機巧」が生まれるまでの話をしました。中篇では『第二幕』での個々のカードに注目し、それらを通して彼女を語ります。『新幕』にまつわる話は後篇に行いますので、それまでお待ちください。

     

     

    カードの何に注目するか

     

     やり方もこれまでのものを踏襲します。以下にてまとめましょう。

     

    • カードの歴史と評価に注目する
    • 歴史とはカードが生まれた経緯を指す。
    • 歴史においてルールの変化が重要ならばそれも語る。
    • 評価はゲームにおける魅力、バランスの適切さ、メガミの気質の体現性の3点を見て行う。
    • 現在問題視している箇所や、カードへの否定的な見解も書く(出版から時間が経ち、皆様からのフィードバックを頂くと至らなかった点も見えてくるのです)
    • 否定的に書き、修正を匂わせたとしても、修正を急ぐつもりはない。


     クルルへの反省点は、とても驚くべきことに小さなものです。これほど難解なメガミを、しかもたった一人でプレイテストする羽目になったにも関わらず、僅か1枚の調整で済んだ(いや、当然調整は望ましいものではなく反省すべきではあるのですが)のはむしろ奇跡的です。

     
     

     

     えれきてるが正しい意味で生まれたのは機巧というキーワードが誕生したのと同時でした。前篇で機巧のアイデアが浮かび、そのまま次のプレイテストに向けてカードリストを作り直したと書きましたが、その際のリストに最初から存在していたのです。
     
     最大の目的はクルルに独自性のある勝利手段を与えることでした。クルルのターゲットである「クレイジーな発明家」は(ほかならぬ私自身を含め)型にはまることを嫌います。それゆえ、勝ち筋もまた異常であるべきなのです。
     
     本作は「間合を合わせて攻撃し」「ダメージを与える」ゲームです。そこで私は、そろそろ1柱くらいは前者の型を完全に壊してもよいだろうと考えたのです。つまり、攻撃でない手段でライフにダメージを与えます。
     
     もちろん、無条件でライフにダメージを与えられる行動カードを作るのは明白に危険です。しかしその点でもクルルは完ぺきでした。まさに今、機巧というキーワードが誕生し、それを用いたカードを作っているところなのですから。
     
     そこで併せて素晴らしいアイデアが浮かびました。クルルは一切の攻撃カードを持たないようにするのです。こうすれば明らかな異常性を強調でき、さらにこの勝ち筋をプレイヤーに分かりやすく伝えられます。同時に攻撃カードを使うことを露骨に難しくでき、機巧の調整がやりやすくもなるのです。
     
     最後に考えるべきなのは機巧が求めるカードタイプをどのようにするかです。ここまでで、攻撃に頼らずに勝つというコンセプトは明白なので、攻撃は条件に入れるべきではありません。むしろ、攻撃は強いカードタイプなので攻撃カードをできるだけ入れないようにしたいという感情を呼び起こすべきです。そこで逆に、数多くの行動カードを求めるようにしました。このように調整することで、攻撃でなく「えれきてる」で勝つという戦略を力強く推進できるのです。
     
     続けて、そういったカードはどんなデッキに入るのかを考えてみました。まず考えたのが対応カードを用いるコントロールのようなデッキです。トコヨの「梳流し」は分かりやすい類似例です。このカードも相手のオーラを無視できるため、幾ばくか近い側面があるのです。
     
     しかし当時の時点でトコヨの強さから(やや過小評価していましたが)「梳流し」への危険性も感じていました。ゆえに、対応カードをふんだんに盛り込んだコントロールデッキが「えれきてる」を用いることには危険もあると感じたのです。
     
     ですが驚いたことに、機巧の便利さは私の予想を超えていました。それこそ対応を機巧の条件にしてしまえば良いのです。対応カードを捨て札や使用済の切札にするということは、そのカードで対応できないということを意味します。結果として「えれきてる」を撃つ瞬間には対応を構えづらく、隙ができるのです。
     
     こうしてクルルの勝利手段として、まずはルールを破るダメージ手段が発明されました。驚いたことにカードリストに入ってから、一度も変更されませんでした。

     


     

     

     クルルの初期妄想の時点で「全力を全力でないタイミングで使用できるようにする」カードは存在していました。前篇でお伝えした通り、ルールを破りクレイジーなことをすると同時に、他のカードへの依存性が高いこのカードは発明家にとって最高のおもちゃです。
     
     しかし機巧が生まれるより前にはバランスの問題より、実装できていませんでした。「クイックドロー」は原初札として(カードを引かなければ)そこまで強力な方ではありませんが、無条件で存在すれば明らかにゲームを破壊します。
     
     それについても機巧の発明が解決してくれました。機巧を適切に調整できれば、このカードも問題なく実現できるのです。
     
     それでは、どのような機巧条件にするべきでしょうか。この手のクレイジーな効果で第一に考えるべきなのは、この効果を悪用した際に最も凶悪となる状況です。私は連続攻撃の中に全力攻撃を混ぜた場合だと判断しました。「斬」「一閃」「居合」が1ターンの間に全て飛んできたら悲しいことに人は死にます。
     
     これについてはクルルが攻撃カードを持たないという構造から、かなり緩和されています。そこで私はそれに加えて、機巧条件で行動や付与を要求することでタイミングを抑止しつつデッキ構築にも縛りを加え、危険性を抑止したのです。

     


     

     

     このカードは機巧よりも昔、初期のカードプールから原案が存在していました。ご覧いただきましょう


    行動/対応
    【常時】このカードは対応でしか使用できない。
    カードを2枚引く。

     

     本作で「カードを引く」効果には大きな危険性があります。理由は2つあります。1つは通常札が追加のコストを要求しないこと。もう1つは山札が7枚しかないため、引き切りが容易であることです。
     
     それゆえにこの類のカードはヒミカ以外が持つことはできませんでした。しかし拡張も『第弐拡張』まで進んだ頃ともなれば、そろそろこの類の効果が再び作りたいところです。さらにフレーバーとしても良好です。本作のドローは刹那的な思考をイメージしているため、感情と紐付けられたヒミカが持っていますが、クルルが持つのもまた自然です。発明家は外因的な刺激で思考をスパークさせ、認識を拡張させるものなのですから。
     
     これはそういった経緯でデザインされ、問題を見事に回避していました。行動回数の増加にせよ、引き切りにせよ、動くべきターンに過剰な行動ができるから問題となります。対応でしか使用できないならばカードを引けるタイミングは相手に依存するため、相手はケアができるのです。
     
     そして機巧が導入された後もこのカードは残りました。実に奇縁なことに「対応でなければ使用できない」効果が機巧と絶妙な相性だったのです。
     
     クルルはある程度単独で機巧を揃えられる必要があるので対応カードを持つべきですが、他方で攻撃カードを持たないというコンセプトも存在しています。そうなると行動か付与の対応となるのですが、それらは攻撃と違い、いつでも使用できます。しかしそうすると安易に自分のターンに使用するだけで機巧条件が満たせてしまい、メガミを組み合わせる魅力に乏しくなってしまうのです。
     
     ところがこのカードであれば、使用できるタイミングが相手に依存するため、機巧を安易に揃えづらくなるのです。グッドデザイン!
     
     しかしある程度プレイテストをした結果、どうにもこの効果のままでは使い辛いと分かりました。対応で2ドローをすると山札が1枚以下になることが多く、次のターンの再構成で機巧を崩さざるを得ないのです。
     
     そこで効果を機巧にとってより便利なものにすることにしました。山札の序盤に引いたため、機巧カードを伏せ札にせざるをえないことはよくあります。そこでそれらを山札の底に戻し、使用できる機会を得られるようにしたのです。

     

     ちなみにもうひとつの効果はトコヨへの対策です。当時はトコヨが極めて強かったため、そこへと対策するカードを多くのメガミが持てるように進めていました。『第二幕決定版』調整でお分かり頂ける通り、私は後にそのやり方が誤りで、そもそもトコヨを弱体化すべきだったと判断を改めました。
     

     

     

     このカードは「えれきてる」と共に、攻撃に依存しない勝ち筋として設計されました。同じように「ライフにダメージを与える」「行動カード」となるため、それ以外のところで体験に違いを与える必要があります。そこで全力カードにして、さらに条件を付与2枚とすることで「えれきてる」との差別化を図りました。
     
     しかし全力カードとなると、これだけではやや力不足にも感じます。そこで別のルートとしてクルルで「攻撃カードで勝利するルート」を検討できるようにもしました。クルルの全てがクルル中心で組むわけではありません。組み合わせた際に他のメガミを中心として戦える余地を残した方が構築の幅が広がり、魅力的なのです。
     
     クルルと組んで攻撃する際の問題は、攻撃の枚数が足りないため十分に相手のオーラをはがせないという点にあります。そこで、オーラへと5ダメージを与えることでその問題を解決するのです。
     
     これに近い効果はユキヒの「ふりまわし」が行っていますが、あれには間合制限があり、さらに対応も可能です。両方の弱みを払拭したカードを安易に作るのは、当然ですが危険です。
     
     しかしここでも機巧が巧妙に解決しました。攻撃2枚を条件とすれば、「とるねーど」でオーラを空けて、そこから滑らかに攻撃を連打する動きは極端にやり辛くなります。同時に攻撃カードが必要だと強調され、このカードがどういうカードなのかというメッセージが強まります。
     
     これも驚いたことに、機巧導入時の最初のデザインから一度も変更されませんでした。

     

     

     

     前篇でお見せした通り、「切札を未使用に戻す」カードは駆動ギミックにおいても、クレイジーな発明家を興奮させる意味でも重要と考えていました。問題はバランス調整のやり方です。とりあえず全力にしておくのは初めから確定しており、そこにどのような制限を付けるかが問題でした。
     
     機巧がデザインされた後は単純にあらゆる切札を未使用に戻せるようにして、機巧条件を正しく設定すれば十分だと考えました。そこで考えるべきなのは「あくせらー」と同様、一番やばいのはどういう時かということです。
     
     まず私は全ての切札を見直し、何が未使用に戻るとヤバいのかを検討しました。様々なロマンティックなアイデアが浮かぶ素晴らしい時間でしたが、ダントツでヤバいのは明らかに1つでした。「大破鐘メガロベル」です。
     
     本作において回復する効果は強力です。消費3の切札を何度も使うのは簡単ではありませんが「大破鐘メガロベル」は例外です。なぜならダメージでライフはフレアへ移動するため、実質的に消費は1なのです。
     
     もうひとつヤバそうなのは「あくせらー」との組み合わせです。明らかに危険なカードであるため全力にして隙を生むようにしているのに、これらと安易に組み合わせられるのにはリスクがあります。この2点を鑑みて機巧条件を考えるべきなのは間違いありません。
     
     まず、より危険な前者から始め、ハガネのカードプールを慎重に観察しました。そこでかつてのハガネのデザインは良い方向に働きます。彼女は対応カードを持っていないので、対応を条件にすればよいのです。さらに彼女の攻撃カードも「砂風塵」以外は使い辛いことにも気づきました。ゆえに攻撃を条件に加わります。
     
     ありがたいことに、後者も自動的に解決しました。「あくせらー」と一切の条件が重なっていないので、組み合わせた動きがやり辛いのです。もしそうなっていなかったら、「あくせらー」の条件をいじる必要があったでしょう。
     
     これらを踏まえ、私はハガネ/クルルを検証しました。これは実に楽しく、他にない体験であり、私はこのデッキの大ファンになりました。あるゲームでは合計12ライフを稼ぎ出し圧殺した一方で、他のゲームではなんだかんだ負けたのです。機巧条件は完璧でした。どうにかデッキが成立する一方で決断をプレイヤーに求めていました(例えば、安定して対応を揃えるには「どれーんでびる」が必要ですが、そうすると他の入れたい切札を諦めねばならないのです)。
     
     しかし、本当にこれで大丈夫と私は確信できませんでした。これはまさに、ヤバそうでヤバくないかもしれない少しヤバいデッキだったのです。また、これがデッキとして成立してほしいとは心から思う一方で、環境上位の強さには絶対になってはいけないと確信していました。これはゲームを遅延させて相手を怒らせて勝利するデッキであるため、使われる側がひどく不快になる恐れがあるのです。
     
     そのような状況のまま悩み続けていた中、私は別の問題にも気が付きました。「大破鐘メガロベル」を戻す分には強みがある反面、他のどれを戻してもかなりのゴミなのです。「完全論破」「滅灯の魂毒」などロマンを感じる構築を試しましたが、どれも苦労には見合っていませんでした。これではカードのデザインとして失敗です。
     
     私は考えに考え、巨大な結論にたどり着きました。未使用に戻すという挙動を辞め、消費を踏み倒して切札をその場で使用できるようにすればよいのです。「完全論破」にせよ「滅灯の魂毒」にせよ、4や5という重い消費をもう1度支払うから無理が生まれます。ならばそこを解決すれば、様々なロマンが現実的になります。
     
     そしてこのアイデアは無限メガロベルデッキへの懸念も払拭しました。メガロベルの消費を踏み倒すようにすると、桜花結晶がフレアへと滞留するようになります。こうすればメガロベルによりライフにするダストを不足させられるようになり、相手としても対処の余地が広がるのです。
     
     すばらしい解決手段は、複数の問題を一度に解決するものだとどこかで聞いた覚えがありますが、これはまさにそれです。こうして長い苦闘の末、このカードは完成したのです!

     

     

     

     機巧導入より前は「かさまわし」に近い効果で、切札が未使用に戻るたびに手札から見せることで、基本動作を1回行えるカードでした。
     
     機巧導入時は一時的に姿を消しました。しかし、しばらくしてこの類の効果がなければクルルは余りにも苦しいということに気が付きました。クルルは機巧を完成させるためにカードを使用しなくてはなりません。逆に言えば、基本動作をするためにカードを伏せ札にし辛いのです。いずれの基本動作もリソースを確保するには重要で、クルルはリソースを必要とします。そうなれば、この効果が帰ってくるのは必然でしょう。
     
     元のデザインと同様、歯車がかみ合うような感覚を補強するため、何かを条件に誘発する効果にするべきです。しかし駆動条件は多用すべきでないとすでに結論付けられていました。それでは問題は、何に誘発すべきなのかどうかです。
     
     そこで私は、機巧がカードタイプ、サブタイプに注目していることに気付きました。つまりクルルは全体としてそれらの情報に注目するメガミなのです。ならば、これまで注目されたことのないタイプを強く見るというのはどうでしょうか。
     
     攻撃は数多くのメガミが気にしており、またクルルと相反しています。付与はシンラが注目しており、対応はトコヨが注目しています(当時はヤツが健在だったのです……)。残りは行動と全力で、どちらもクルルの個性には合っていそうです。そこでこのカードでは行動カードに注目し、全力は別のカードに任せることにしました。
     
     カードとしては最高に上手くいき、気持ちの良い出来でした。クルルのリソース不足も解決し、実に魅力的なカードとなったと言えるでしょう。
     
     さて、ここからは発売後の話です。デザインとして多くの面で成功した「もじゅるー」でしたが、他方でクルルのカードの中で唯一カード調整を必要とした失敗談を抱えたカードでもあるのです。
     
     この手の話題の時は自戒と反省を込め、当時の感情を振り返るのが常ですが、しかしどうにもこのカードを悪く言うのは難しいものなのです。ひとつ、ひどく感情的な昔話をお許しください。
     
     今でこそ『第弐拡張』は『第一幕』『第二幕』シリーズにおいて最も成功した拡張だと確信していますが、発売直後はフィードバックにひどく苦しみ、精神的にナーバスになっていました。サリヤに対しては「強すぎる」、クルルに対しては「弱すぎる」というフィードバックが届き、私はチカゲの時のようなひどい失敗を繰り返したのではないかと不安で夜も眠れませんでした(マジで眠れませんでした)。
     
     私が救われたのは、発売翌週の大会です。そこにひどく病みながら視察に行った私は、プレイヤーたちが楽しげにクルルを回しているのを見たのです。環境がサリヤ一色でひどいものになっているという覚悟に満ちた予測も外れました。サリヤは適度にしか支配的でなく(実際は適正な強さでした。その辺の話は未来のサリヤ特集にて)、またクルルを用いたデッキが強豪プレイヤーの操るサリヤを打ち破っていたのです。
     
     いやまあ、そのデッキこそが後に修正を要した「無限音無」デッキなのですが。まあそんなわけで、私は感情的にあまりこのカードを悪く言うことはできないのです。
     
     この失敗は『第二幕決定版』調整で認め、修正しましたが、その修正もまたとても気に入っています。危険な動きを抑止する一方で上方修正でもあるため、プレイヤーがワクワクするものだったのです。今後に『新幕』で行われるカード更新も、可能な限りこのようなものにしていきたいと強く考えています。

     


     

     

     クルルの移動カード枠です。間合を「6−間合」にするという効果は最初から存在し、一度も変更されませんでした。このカードによる間合の体験は実に奇妙で、クルルらしいクレイジーさがあったのです。
     
     しかしゲームバランスの面では厄介でした。最初は単なる付与でしたが、しだいに悪用のやり方が多く、条件がないと強すぎると分かってきました。そこで切札にしてみたり、機巧条件を付けてみたり様々な変遷を経て、最終的には今の形に落ち着きました。
     
     『第二幕』がひと段落した今となって見直してみると、このカードはクルルの中で一番の失敗だと考えています。効果そのものに独自の魅力はあるのですが、クルル自身は攻撃を持ちません。機巧条件もうまいものではなく、間合を合わせる方向でこのカードを活用するのが難しすぎました。そして最終的に『新幕』では取り除かれることになります。
     
     いつの日か、きちんと攻撃カードを活かせる形で帰ってくると信じています。その時にクルルのカードであるかどうかは分かりませんが。

     


     

     

     クルルの戦略を想定し、必要性を計算してデザインしたカードです。このカードもまた、機巧導入時に誕生し、一度も変更されませんでした。
     
     まず、切札のサブタイプ対応という位置づけからスタートしました。前篇で語った通り、機巧における切札は拡大再生産のような側面があります。クルルのいくつかのカードは対応を求めるため、それを切札から提供できるという選択肢は魅力的なのです。
     
     次に戦略的意義を考えます。対応を必要とする以上、分かりやすいのは「えれきてる」です。このカードを用いる戦略はややコントロール的なものです。しかしその戦い方には欠陥があります。長期戦となりやすいくせに攻撃を行わないため相手のオーラをダストに送れず、ダストを枯らされることによるリソース不足に陥ってしまうのです。
     
     それを解決するには、相手側からリソースを奪うような効果が必要です。そうなれば、その行き先が自分のオーラとなるのは必然でしょう。対応として相手の攻撃を受け止めるにも使えるため、対応カードらしさが増すのですから。
     
     しかしコントロールで使うとなると、複数回使えなければ意味がありません。他方で再起を付けるのは拡大再生産というコンセプトに沿っていません。考えた結果、以前のコンセプトだった駆動ギミックをこの位置に導入することにしました。結果として大成功でした。クルルらしい誘発効果にしたことでこのカードがより大きなシステムの中で働く、絶妙な部品として感じられるようになったのです。

     


     

     

     機巧導入してから、しばらくの時を経て生まれたカードです。先述の通り「もじゅるー」は行動カードに注目し、クルルは行動と全力に注目するのが魅力的だろうと判断したため、併せて全力に注目するカードとしてデザインしたのです。
     
     まずは全力2つを機巧条件として、終了フェイズに1ダメージを与える切札を考えました。しかし危険であることは明白であり、試すまでもありません。条件を満たした後で放置しておけばそのうち相手が死ぬからです。
     
     全力2つでダメージを与えるべきだが、その際に機巧条件が崩れる必要がある。そう考えれば答えはすぐに出ました。ダメージと同時に再構成をすればよいのです。こうして誕生し、誕生後は効果は変更されませんでした。
     
     もうひとつ、私はこのカードのバランスについて印象深く、同時に心に刻んでいるエピソードがあります。お話ししましょう。
     
     このカードはデザイン時点では消費は2であり、そして本当に最後、入稿の直前まで2でした。入稿前の最後に近いタイミングで私はひどく悪い予感をこのカードに感じ、消費を3に差し替えたのです。
     
     発売直後はこのカードはあまり活用されておらず、使い辛いという評価が多いものでした。そのため私は判断の誤りも感じ、少しばかり気に病んでいました。しかし発売から半年が経過して研究が進み、第二回全国大会を迎えた時、このカードを活用したデッキは環境を大きく揺らしたのです。
     
     結果として、消費を2で出してしまっていたら環境をひどく歪め、全国大会に悪い影響を与えていたかもしれません。その時に私は、上振れの可能性が大きく、使い手のリテラシーを強く求めるカードは、プレイテストの時点ではやや弱く感じる程度に調整すべきという学びを得ました。
     
     事実として当時、一人でクルルを調整していた時の私の勝率は悪いものでした。しかしこのカードを初めとして、プレイヤーの技術が熟練したら高い上振れを示す可能性を感じてもいました。こういう時はプレイヤーの創意を信じるべきです。そしてプレイテスト時点の私が勝てないからといって、安易に強くすることは避けるべきなのです。この点において結果論ではありますが、クルルはかなり高い水準で成功していました。

     


     

     

     「あくせらー」「りげいなー」など、クルルは他のカードに依存するとともに、クレイジーな効果を持つカードが導入されていることは、これまで語ってきたとおりです。このカードもまた、その1枚と言えるでしょう。
     
     機巧導入と同時に「あっぷぐれーど」というカードが作られました。使用すると手札のカードを封印するとともに、そのカードを強化したカードがデッキに加わるというカードです。例えば攻撃カードを封印したら、以下のカードが加わります。


    狂化攻撃    攻撃/対応
    0-10    1/1
    【使用後】「あっぷぐれーど」に封印された《攻撃》1枚を使用する。その《攻撃》は対応されない。その後、その《攻撃》を再び封印する。

     

     封印したカードを強化するという考え方には強い魅力を感じました。しかしその反面、このカードにはどことない失敗も感じていました。しばらく悩んだ末、原因は「あくせらー」とプレイ感が重なりすぎていることだと分かりました。このカードは全力カードを封印するのが明らかに強く、同じ結果になりやすいのです。
     
     そこでコンセプトをそのままに考え直し、カードを質でなく量で強化することにしてみました。そうしたらとても魅力的であると同時に、同じカードが1枚しか入らないというルールを破る点でクルルらしく、さらにはカードの量が増えることで機巧を揃える助けにもなりました。
     
     アイデアが固まってからは結果として変更されませんでしたが、バランス調整には頭をひどく悩ませました。
     
     やるべきことは「あくせらー」「りげいなー」と同じです。増やすとやばそうなカードを全てリストアップし、その中で特筆すべきものを検証するのです。プレイテストの結果、最終的には問題がないと判断しました。今この時に至るまでゲームは破壊されておらず、どうやら私の決断は正しかったようです。

     

     それともうひとつ、おもしろい小噺もしましょう。『第弐拡張』と『第参拡張』を同時にデザインしたことは失敗した面の方が多いのですが、このカードが「でゅーぷりぎあ」の名前を変更しないようにできた点では大成功に働きました。そうしていなければ、ホノカのデザインでは一悶着があったことでしょう。

     


     

     

     ストーリーにおいて極めて重要な立ち位置を持つ、ストーリー再現枠とも呼べるカードです。神渉装置という装置の本当の意味で細かい設定は物語の流れと共に、ストーリー部門の打ち合わせを通して決まっていきました。しかし神渉装置という装置でメガミの力を奪い、それを瑞泉が手にするという漠然とした流れはこの時点で決まっていました。
     
     それゆえにクルルをデザインする時点でカードプールに取り入れられることになります。最初は相手の使用済の切札を使用するだけのカードでしたが、今一歩力不足が感じられたことと、機巧が導入されたことより、相手の切札を見て、使用済にする効果が加えられました。これは本来の効果とも美しく相互作用するとともに、メガミの力を奪うというフレーバーにもかみ合うものです。
     
     私個人の思い出としてみると、この効果がついに印刷されたのは感慨深いものです。『第一幕』開発中のカードプールに何度か姿を見せたことがありましたが、当然ながら全て没になりました。機巧、それも特に難しい7枚必須という条件をもって、どうにかこの効果が適正なバランスになったのです。

     


     

     

     原初札は基本的には「メガミに挑戦!」で使用されるものです(メガミと挑戦者で対戦し、メガミ側は原初札を用いる代わりに1柱しか使えず、挑戦者は相手のメガミを見たうえで宿す2柱を選ぶ)。そのため、そのメガミ単独での戦いを実現できるようにデザインされます。特に通常札は、その戦いの円滑化が目的となります。
     
     クルルの単独での不足点は明白です。自分で攻撃と対応が捨て札に置けなければ、機巧が組み立てられないのです。それゆえ、攻撃/対応のカードであることはすぐに確定します。
     
     それ以上に強い決断が必要だったのは、「クルルに挑戦!」をどういうゲームにしたいのかどうかです。クルルの精巧に機巧を組み立て、綿密なプレイングを行うという側面を強調するならば、切札にも機巧条件を定め、難解なゲームを作ることになります。
     
     しかしそのようなゲームは「メガミに挑戦!」に、そしてクルルというキャラクターに求められていることでしょうか。そしてそのクルルを回せるプレイヤーは本当に存在し、それは楽しいものなのでしょうか。私はそれをNOだと判断しました。
     
     それゆえにクルルのゲームを破壊するクレイジーさを強調することにしたのです。メガミは13柱もいますし、精巧なゲームは他のメガミがやっています。何より、ふざけてしまってよいメガミはこいつくらいではないですか! ヒャッハー!

     


     

     

     原初札の切札も同様のコンセプトで作られますが、こちらは「刺激的で特殊な舞台を作る」ことを意識してデザインされます。「らんだまいざ」で語った通り、そういう指針で行くと決めたからには全力でクソゲーを作ることになります。
     
     最初に浮かんだのは「かおすすとーむ」でした。眼前構築でデッキに入れる通常札は7枚で、入れない通常札も7枚です。ならば、それを入れ替えてしまってもよいではありませんか(よいわけがない)!
     
     しかし問題があります。原初切札がそういう効果なのは相手にもわかっています。ならば、入れ替えられる前提でクソデッキを組むという選択肢が生まれてしまうのです。まあそれなら使わなければよいのですが、原初クルルで遊ぶのです。折角の原初切札を使わないなんて、つまらないではありませんか。
     
     そこで閃きました。「かおすすとーむ」が飛んでくるかどうか、使う側も使われる側も分からないようにしてしまえば良いのです(なにいってんだ)! 「かおすすとーむ」と比肩するクソカードをもう2枚作り、それら3枚からガチャをするクソカードを原初札にするのです!
     
     そういうつもりで作ったカードが「おめがぶれーど」と「完全態神渉装置」です。バランスを取ろうというか細い意志は見えなくもないですが、プレイテストはしていません。We Did't Playtest This at All!!
     
     
     今回はこんなところでしょう。来週は原稿作業の都合でお休みをいただきます。次回の更新は再来週、クルル特集の後篇でお会いしましょう!