外套の裏には歪な心(後篇)

2018.02.10 Saturday

0

    毒は静かに躰を蝕む

     

     

     こんにちは、BakaFireです。今回の記事はチカゲ特集の後篇となります。前篇をまだお読みでない方は、こちらから読まれることをお勧めします。

     

     このシリーズは特定のメガミに注目して、本作のデザインを語るというものです。今回は新シリーズ第1回にして累計第6回となります。

     

     前篇ではメガミ・チカゲに関する歴史を説明し、彼女のキーワード「毒袋」が生まれるまでの話をしました。後篇では個々のカードに注目し、それらを通して彼女を語ることにしましょう。

     

    カードの何に注目するか

     

     やり方もこれまでのものを踏襲します。以下にてまとめましょう。

     

    • カードの歴史と評価に注目する
    • 歴史とはカードが生まれた経緯を指す。
    • 歴史においてルールの変化が重要ならばそれも語る。
    • 評価はゲームにおける魅力、バランスの適切さ、メガミの気質の体現性の3点を見て行う。
    • 現在問題視している箇所や、カードへの否定的な見解も書く(出版から時間が経ち、皆様からのフィードバックを頂くと至らなかった点も見えてくるのです)
    • 否定的に書き、修正を匂わせたとしても、修正を急ぐつもりはない。

     

     前篇でも語った致命的な過ちのために大きな修正を入れることになってしまいましたが、現時点でのチカゲへの反省点は小さなものです。また、チカゲもハガネと同様に当時の環境や知見が意識されていました。当時の環境についても簡潔にまとめ直しましょう。詳しくはハガネ特集をご覧ください。

     

    • 『第二幕』になり、暴力的火力の支配からは解放された
    • しかし結果としてトコヨが最も強くなり、防御的で抑制的な環境となった。
    • 競技性はまっとうなものになったものの、これはこれでつまらないと感じる方もいると考えられ、問題だった。
    • 結果、『第壱拡張』のメガミにはトコヨへの耐性が求められた。

     

     ハガネと比べ、チカゲはより特定のメガミへの対策を意識してデザインされたカードが目立ちます。今としては、そのように対策的なデザインを行うのは良いやり方とは考えていません。ですが当時の歴史的資料として、何への対策として作成されたのかも書くことにしましょう。

     

     

     

     現在でこそ適正距離は3-5ですが、修正前は1-3でした。1-3でも単独のカードとして強すぎはしないのですが、近距離であることそのものが問題であるため修正されています。

     

     毒化結晶が没になり、原案の毒のルールに変更された時点で作成され、一度も変更されませんでした。このようなシンプルなカードはメガミ全体の複雑さを制御するためにデザインされます。メガミのコンセプトを伝えつつシンプルなものとなることも多いですが、毒を送るカードはあまり多くは作れないため、チカゲは能力のない《攻撃》カードを持つことになりました。

     

     デザインは理にかなっており、「斬」と比べてオーラへのダメージが1小さく、代わりに間合に3が追加されています。ダメージは意図的に小さくデザインされました。いくら近距離問題への把握が不十分と言えど、近距離にダメージが大きい攻撃を追加してはいけないことくらいは分かっていたのです。

     

     

     現在の適正距離は5ですが、修正前は1でした。

     

     毒を送る基本カードです。毒はとても魅力的なルールですが、毒を送られる頻度が多すぎるとあまりにも不愉快です。それゆえに、この類のカードは通常札に2枚、切札に1枚が限界と考えており、事実その通りだったようです。

     

     さらに、普通の《行動》カードでも問題のあるストレスレベルです。そこで2枚の通常札はそれぞれ「毒を送り辛くする工夫」を行う必要がありました。

     

     「毒針」の解答は《攻撃》カードの攻撃後効果にするというものです。《攻撃》ならば間合によって使用できるタイミングが制限され、相手は《対応》カードで対処できる余地が生まれるのです。

     

     ではその間合をいくつにすべきか。結果としては大失敗でしたが、私は1を試してみることにしました。この動機は間合1への挑戦にあります。『第二幕』ルールの導入で、間合0と1には特別さが与えられることになります。中でも間合1単独の間合を持つ《攻撃》は、その攻撃を行うためには他の移動カードを使う必要があり、さらには前後どちらに移動する対応でも避けられてしまいます。これらには組み合わせる魅力、構築する魅力、相手との相性を考慮する魅力と、双掌繚乱、眼前構築の魅力が詰まっているように感じられました。

     

     それゆえに間合1単独にすることで強力で魅力的なカードをデザインできると当時の私は考えていました。「毒針」は駄目でしたが、未来では一応の解答は得られています。その辺りは、サリヤ特集でお話ししましょう。

     

     今振り返ると、これは動機そのものに誤りがあったとも考えています。間合1の魅力を無理に探そうとするのではなく、やろうとしていることが自然に間合1を求めるまで待つべきだったのかもしれません。

     

     

     

     チカゲは死の恐怖に怯えており、転じて高い生存欲を持ちます。当然、逃げることにも彼女にとっては得意なことなので、逃げるような《対応》カードがあるべきでしょう。

     

     初期案は「間合⇒相/オーラ:2」の行動/対応という極めて愚かなカードで、当然没になりました。ではその枠にどのようなカードを入れるべきでしょうか。

     

     当時の環境として最も問題であったのはトコヨですが、彼女と最も有力な形で組み合わせられていたユリナへの問題が感じられなかったかと言うと、当然そのようなことはありませんでした。ユリナとユキヒの組み合わせはまだまだ一線級であり、「斬」「一閃」「月影落」などの《攻撃》は当時はまだ問題があるのではないかと懸念していたのです(実際は近距離問題というより上位の構造の問題でした)。

     

     そこで、これらの攻撃、そして前進に対して刺さりうる対応カードとしたのです。結果として、近距離型だったチカゲとのかみ合いが奇妙だったのは反省点ですが、このカードそのものの出来や、中距離型となった後の仕上がりは良好でした。強いて言うならば、近距離問題ゆえに近距離型のメガミが作れず、結果としてこのカードが刺さる相手そのものが少なくなってしまったのは反省点です。

     

     

     

     毒化結晶がある時点から存在し、適正距離が0-4から0-3になった以外は一度も変更されませんでした。毒化結晶にせよ毒袋にせよ、チカゲは(当時としては)追加ルールが多く、複雑さがありました。それゆえにテキストのない《攻撃》カードがもう1枚あるべきと考えられたのです。「飛苦無」と違う印象にするため、《全力》カードになるのは必然です。

     

     当時はチカゲは近距離型としてデザインされていたため、適正距離に0-1を含むべきでした。しかし、『第一幕』での「つきさし」の強さやクリンチ戦略の脅威から、単純にその間合で火力の高い攻撃は危険です。

     

     そこで、適正距離をさらに広げる代わりに、オーラへのダメージを小さめに設計しました。全力を使ってオーラを2だけ削るのはあまり強くない動きです。こうすることで適正距離としては安易に使えるものの、安易に使うだけで成果が得られるわけでもなくなるのです。

     

     さらにこのダメージは、チカゲの暗殺者としての側面を強調しています。暗殺者は正面から腕力で斬りかかる力は弱いものです。しかし相手が隙をさらしているならば、命を刈り取る一撃を撃ちこめるのです。オーラへのダメージよりライフへのダメージが高いとはそういうことなのです。

     

     この側面はもう少し強調しても良いかもしれません。しかし『第二幕』ではライフが8しかないために、それは実現できませんでした。つまり……。

     

     

     

     チカゲの移動カード枠です。元々は先ほど「遁術」で述べた愚かなカードがその役割を担っていましたが、それが没になったため、こちらでも新たなカードが必要となりました。

     

     そこでいくつかの案を試しましたが、2歩の前進ではクリンチ戦略の危険が大きすぎ、前進より弱ければ魅力に乏しすぎると分かりました。そこで模索の結果、前進そのものをカードにしてみることにしたのです。

     

     『第二幕』ルールにより、カードでの前進は基本動作での前進と違い、間合1以下に踏み込むという価値があります。そして書式もシンプルです。『第二幕』後の最初の拡張にシンプルで、それでいてセンセーショナルなカードとして登場させるには相応しいと考えたのです。

     

     結果として、そもそもの近距離問題のために愚かな結果となりました。ただ、修正されていないことから分かるようにこのカード自身のせいではありません。

     

     その際の修正でチカゲが中距離型のメガミになると決まった際、併せて「抜き足」と「泥濘」も修正すべきかどうかは検討されましたが、それについては不要と判断しました。チカゲには「生きる道」が存在しているため、《攻撃》が中距離になったとしても至近距離に隠れるインセンティブは十分にあるのです。

     

     

     

     毒を送る基本カードです。「毒針」同様に「毒を送り辛くする工夫」が必要でしたので、こちらでは極めて単純に《全力》カードにして実装しました。《全力》カードは使う際に隙をさらしてしまうため、かなり使い辛いものです。しかしこのカードを使えば相手のドローの1枚は毒カードになるため、その隙が程よく緩和されるのです。これは双方にとって適切な塩梅といえるでしょう。

     

     結果、作成されてから一度も変更されませんでした。毒の強さはこのカードを基準となると考えて間違いありません。

     

     

     このカードの枠は幾度となく変更されました。途中で一度この「泥濘」になった後で没になり、その後再びこの「泥濘」に戻りました。

     

     強力な「前進」を抑止する「壮語」と比べ、カードとしての存在に幾ばくかの疑問はあります。しかし、当時は近接距離であった点や、「生きる道」を活かすための隠れる動きの補助となる点を考慮し、これでよいだろうと考えたのです。

     

     今でも幾らか疑問はあります。しかし近距離での打撃力が乏しく、他方で「生きる道」を持つチカゲでなければ、このカードを持つことはできないのも確かでしょう。

     

     

     

     毒カードのデザインで重要なのは、毒を選ぶ行為を有意義なものにすることです。

     

     しかし最初はできておらず、初期案は単に嫌そうな効果を3つ並べただけでした。麻痺毒の原型、幻覚毒そのもの(このカードは1度も変更されませんでした)、そして弛緩毒は単に毒袋に戻すという効果だけを持った《全力》カードでした。

     

     この初期案から毒カードの楽しさは見いだせましたが、カード効果としては失敗も感じていました。最たる原因は「弛緩毒」であり、毒選択の9割でこの毒が選ばれるほど、安定してしまっていたのです。そこで旧「弛緩毒」は没にし、改めて毒に求められるものを考えてみました。

     

     結果、毒は相手がやりたいことを妨害する一方で、それを狙っていない相手は簡単に使用して取り除けるものであるべきだと分かりました。こうすれば毒を送る側は相手の狙いを類推しなくてはならなくなり、意思決定が有意義になるのです。

     

     では、妨害すべき3種の「やりたいこと」とは何でしょうか。重なりはあっても構いませんが、重なりが大きくてはいけません。考えに考え、「基本動作」「切札の使用」「攻撃」がその3つであると私は結論付けました。「基本動作」は「麻痺毒」で、「切札の使用」は「幻覚毒」で担えます。そこで残る「攻撃」を抑止する手段として新たな「弛緩毒」をデザインしました。

     

     現状の毒3種はそれぞれが程よく、有意義な選択を演出できていると感じています。

     

     

     「毒袋」というコンセプトが出来上がった時、切札でも毒を送るカードがあるべきと考えるのは自然です。そして切札からは特別な毒を送れた方がワクワクするのも間違いないでしょう。コンセプトや効果は変更されず、消費は途中で4から5に引き上げられました。

     

     では、毒の特別さはどのように設計されるべきでしょうか。単純に効果が強い、つまりはより悪い効果の毒というのはうまいやり方ではありません。毒を使うかどうかは相手次第です。逆に言えば、相手が毒を使うのか、それとも手札にため込むのかという選択権を持っているからこそ悪質な効果を持たせられ、魅力的な毒になるのです。

     

     そこで、毒袋に戻らない毒を作ることにしました。一度入れられたら、恒久的にデッキを蝕むのです。イメージとしては「完全論破」にも近いかもしれません。その辺りは一度しか使えない切札であるという点ともかみ合い、良いデザインになりました。

     

     ちなみに、毒袋に2枚の「滅灯毒」があるのは「生体活性」などの再利用のためのロマンです。本作が、メガミの組み合わせを楽しむゲームでもある以上、ロマンの余地はできる限り残すべきなのです。

     

     

     ギリギリ、それも入稿当日まで吟味が続けられた1枚です。最初の案は次のようなものでした。

     

    叛旗の激毒    消費3

    攻撃/対応    適正距離0-10    2/2 

    【常時】このカードは対応でしか使用できない。

    【攻撃後】対応したライフへのダメージが3以上の《攻撃》を打ち消す。

     

     これについても、ユリナを意識したデザインになっています。最初にデザインされた時点では『第二幕』も始まったばかり。ゆえに警戒対象はトコヨというよりもユリナでした。ユリナ/ヒミカで『第一幕』を焼き尽くし、ユリナ/ユキヒでの活躍もほぼ確約されている以上、当然と言えるでしょう。しかしどうにもこのカードはぱっとしませんでした。

     

     そんな中、『第二幕』初期の環境も見定められ、ユリナ/トコヨこそが極めて強力であり、同時にゲーム展開を遅くしているという問題点もあると分かってきました。その時点で警戒対象はユリナだけではなく、トコヨとユリナという形になったのです。

     

     さらにもう一点の懸念点もありました。後に述べる「闇昏千影の生きる道」です。本作初となる特殊勝利カードであるため、バランスは強く気にしてデザインされました。細かくは当該カードで語りますが、結果として十分な強みがあり、その一方で安易な成功手段はないと考えられる仕上がりになったのです。

     

     しかしそこで気付きます。「闇昏千影の生きる道」は確実に「久遠ノ花」で止まってしまうのです。そのような状況で「生きる道」戦略に十分な強みが見いだされてしまったら、それこそトコヨを宿すことが絶対の正解になってしまいます。

     

     以上より、ユリナ/トコヨに刺さりつつ、それでいて「久遠ノ花」に対策できるカードが求められました。その結果としてできたのが次のカードです。

     

    叛旗の激毒 消費3

    相手は自身の切札から消費が5以上かつ未使用の切札を全て公開し、使用済にする。そうした場合、それらの枚数だけ相手のライフに1ダメージを与える。

     

     これは激毒の名に恥じぬほど、ユリナ/トコヨを苦しめました。しかし試すにつれ、余りに多くの問題を抱えたカードであるとも分かったのです。まず証明の問題があります。さらに、余りに一部のカードのみを咎めているためユリナ/トコヨ側の眼前構築が不自由になりすぎ、気分の悪い読み合いを強いられてしまいます。

     

     以上よりこれも没になりました。しかしながら多大な問題として、その時点で入稿の締め切りであり、次のカードを試している時間がなかったのです。選択が必要でした。結論として、ユリナへの対策は諦めることにしました。すでに「遁術」があるため、無理にこれ以上の対策を行う必然性はないと判断したのです。そして、「生きる道」のために「久遠ノ花」への耐性を与えることを最優先事項としました。

     

     そしてその場で即興的に作られたのがこのカードです。「生きる道」と正しくかみ合うよう納は6と整えられ、他の使いどころもあるようにあらゆる「-」を持つ《攻撃》を対象としました。正直に告白しますと、私どもにはこのカードをテストする時間はありませんでした。もちろんその場では最善を尽くし、リスクが小さくなるよう知恵を振り絞りましたが、一度も実際のゲームでは回されていないのです。結果として、良好なテックカードとして働いたのは幸運にも恵まれたと言えます。

     

     

    現在の適正距離は3-7ですが、修正前は1-5でした。

     

     本作のようなゲームには相互作用とジレンマが欠かせません。チカゲが毒カードと言うギミックを活用する以上、そこからそれらを生じさせるように他のカードで演出する必要があります。

     

     毒カードは当然ですが、使用したいカードではありません。そして使わないことを選んだら手札で滞留します。それだけでも連続攻撃や対応の阻害ができるため、十分な意味があります。しかし、それだけではゲーム的な気持ちよさを濃縮できていません。

     

     毒が手札にたまると、必然的に手札を2枚以上持ってターンを終える頻度が上がります。その際に悪いことが起こるようにするのです。こうすれば毒を送った側は自分の行動が良い結果に繋がったという相互作用の楽しさを得られ、毒を送られた側は毒を使うべきか使わざるべきかと言うジレンマをより強く感じ、ひりつくような意思決定を味わえるのです。

     

     これらの理念、そしてカード単独の試みは魅力的でした。しかし残念ながらバランスはダメだったようで、各種攻撃カードと共に中距離間合へと移されることになります。その後はバランスの面でも丁度よく、良い仕上がりのカードとして気に入っています。

     

     

     本作初の特殊勝利カードであり、チカゲ――闇昏千影のあり方を象徴するカードでもあります。

     

     ご理解いただけることでしょうが、このカードのバランス調整には高い注意集中が払われました。まず、初期案を紹介しましょう。

     

    v1

    消費4 納4 付与/全力

    破棄時:あなたは勝利する。

     

     この時点では、隙を切札の《付与》カードに持たせようという試みがなされていました。通常札の隙と同様にあらゆる1以上のダメージで失敗しますが、その際は未使用に戻ります。特殊勝利を狙うデッキが、軽々しく一度失敗しただけでゲームに勝てないようではつまらないので、失敗してもチャンスが残るようにしました。この時点で十分な魅力が感じられ、コンセプトとしては完成していると判断しました。

     

     しかし、バランス調整には多大な吟味が必要なのは明白です。事実、問題はすぐに発見されました。消費が4だとあらゆる組み合わせで先手第2ターンに使用できてしまうのです。先手第2ターンでは間合はまだ十分に離れており、大半の組み合わせが攻撃を間に合わせられません。そこでまずは、消費が4から5へと引き上げられます。

     

    v2

    消費5 納4 付与/全力

    破棄時:あなたは勝利する。

     

     こうなれば2ターン目の使用はほぼ不可能です。唯一、オボロと組み合わせれば後手第2ターンに使用できますが、オボロは後退は不得意であり、また後手であるために先手側には前進の時間が十分に与えられています。この案ではバランスは壊さないだろうと考えられていました。

     

     しかししばらくのプレイテストの末、逆の問題があると分かりました。悲しいことに、全く成功しないのです。《全力》の付与を貼り、2ターンもの間、一切の攻撃に当たらないようにする。これはどれほど対応が得意なメガミと組み合わせても、はっきり言って不可能でした。成功しない特殊勝利は、まったく魅力的ではありません。

     

     成功のためのハードルを下げる必要がありました。そしてしばらくの模索の末、オーラへのダメージでは失敗しないようになったのです。この時点で隙からは大きく離れましたので、隙と言う名前を使うのは辞めました。

     

    v3

    消費5 納4 付与/全力

    展開中:あなたがライフへのダメージを受けた時、失敗して未使用に戻る。

    破棄時:あなたは勝利する。

     

     結果、十分に成功するようになりました。そしてさらに素晴らしいことに、ゲーム展開も魅力的になったのです。オーラで防げば失敗しないのですから、チカゲ側はオーラをできる限り5に近づけ、相手が攻撃し辛い形にした上で貼るのがベストになります。それゆえ、成功のために様々な工夫ができるようになりました。一方で貼られる側はライフに攻撃を通すために、十分な連続攻撃を準備しておくことで対策できます。これらによって、このカードを巡ったせめぎ合いが熱いものとなるのです。

     

     カードとしての魅力はすでに相当のものです。しかし、カードの使い方を考えているうちに、恐ろしいことに気づいてしまいました。切札の対応、具体的には「久遠ノ花」や「音無砕氷」を構えてしまえば、容易に成功できそうに思えたのです。

     

     次のプレイテストで実験し、まさにその通りでした。さらに言うならフレアを5つ最速で溜めて撃つ動きそのものも危険であり、根本的な強さにも問題を感じます。

     

     困ったことになりました。私は悩み苦しみます。相手に十分な時間が与えられ、その上で通常札での対応の範囲では、このせめぎ合いは魅力的なのです。どうにか切札の対応だけを、スマートなやり方で使わせないようにし、さらにこのカードそのものの使用を遅らせられないでしょうか。

     

     そんな苦悩の中、テスト中のリストを見ていた私はあるカードに気が付きました。ええ、もうお分かりでしょう。それはチカゲのカードではありません。ハガネの「大破鐘メガロベル」です。

     

     ハガネ特集で語った通り、「大破鐘メガロベル」に「他の切札が使用済ならば」という条件が付いているのは別の理由によるものです。しかしなんたる巡りあわせでしょうか。この文言は運命的なことに「生きる道」の問題を2つとも解決し、救済できるのです。

     

     第一の問題である対応の切札は、守りきらなくてはならない2ターン目だけは、その前に切札を消費しなくてはならないため解決されます。これは逆に1ターン目は切札の庇護を受けられるため、工夫の余地も与えています。第二の問題である最速で貼る動きは、他の切札2枚も使用しなければならないことから合計フレアが増えるため解決されます。

     

     こうして「生きる道」はいよいよ今の姿にたどり着きました。しかし、これでバランス調整は終わりではありません。第一の問題はともかく、第二の問題が本当に解決されたかはすぐには分かりませんでした。そこで私は、他の全てのメガミとチカゲを組み合わせ、「生きる道」を狙う場合の切札構成を考えてみました。そしてその中で有力な組み合わせだけを取りだし、丁寧にテストしたのです。

     

     長い苦心と努力の末、「生きる道」は素晴らしいバランスに仕上がりました。本作のベストカードのひとつと言っても過言ではないでしょう。たったひとつ失敗があるとすれば、このカードにこれだけ入れ込んだ結果として、他のバランスが幾らかおろそかになってしまったのは否定できない点です。

     

     

     原初札は基本的には「メガミに挑戦!」で使用されるものです(メガミと挑戦者で対戦し、メガミ側は原初札を用いる代わりに1柱しか使えず、挑戦者は相手のメガミを見たうえで宿す2柱を選ぶ)。そのため、そのメガミ単独での戦いを実現できるようにデザインされます。特に通常札は、その戦いの円滑化が目的となります。

     

     チカゲの問題は決定力の不足にあります。『第壱拡張』の初期でこそバランスに多大な問題がありましたが、調整後は攻撃力が控えめとなりました。しかしここで輝くのが「生きる道」です。攻撃力が控えめでも突然に特殊勝利を狙われるリスクがあるので、ゲームがスリリングで魅力的になっているのです。

     

     しかし単独となると問題が浮き彫りになります。組み合わせるメガミの攻撃能力を組み合わせられないので決定力不足は自明であり、チカゲだけでは防御力も不足しているため「生きる道」も夢物語です。

     

     そこで通常札と切札それぞれで防御、攻撃を補うことにしました。攻撃と「生きる道」の天秤がチカゲの魅力である以上、「メガミに挑戦!」でもそれは活かされるべきでしょう。防御カードが確定で存在していると固すぎてストレスになるため、通常札が防御を担当することになります。

     

     もう一工夫したのは、手札に毒があるかどうかを見るというギミックです。これによって相手は毒を使うモチベーションが高まり、より毒を意識したゲームとなるのです。このギミックは今後は原初札に限らず、利用できるのではないかと期待しています。

     

     

     原初札の切札も同様のコンセプトで作られますが、こちらは「刺激的で特殊な舞台を作る」ことを意識してデザインされます。上記の通り、切札では攻撃を担当することになります。しかし、安易な攻撃カードでは原初の切札ではありません。チカゲらしさを煮詰めたようなものである必要があります。

     

     第一に見いだされたのが、手札の2倍のダメージを持つという効果です。「大天空クラッシュ」で書いた通り、変数は何度も使うと混乱を招きますが、ここぞというときに使うと素晴らしい効果があります。チカゲのカードが相手の手札を閾値として見ることがある以上、これはチカゲ的です。

     

     次に、新しい毒を作り、それを攻撃後効果で加えるようにしようと決めました。この理由は単純です。原初札と言う特別な場所で新たな毒が登場するのは格好よく、センセーショナルだからです。「残滓毒」の効果については、安易な回答を抑止するものにしました。「生きる道」はシンラやクルルに脆弱性があります。そこで、彼女らの得意とするカードタイプを咎めるような効果にしたのです。

     

     ここで悩ましい事態に陥りました。新しい毒は1ターンでも早く送りたい。しかし貴重なリーサル手段を早々に切ってしまうとダメージ不足が深刻である。ならば再起を付けたいが、そうなると消費が問題となります。消費が低いと強すぎる一方で、消費が高いと序盤に毒を送る目的がそもそも果たせないのです。

     

     そこまで来てさらに閃きました。消費もXにしてしまえばよいのです。事実、これは素晴らしいアイデアでした。消費0の0/0、消費2の2/2、消費4の4/4、そして消費6の6/6、すべてに意味があるのですから。

     

     

     

     これにてチカゲ特集は閉幕となります。様々なカードに秘められた物語をお楽しみいただけたら嬉しい限りです。

     

     私自身の作業があまりに立て込んでいるため、申し訳ないながら2週間ほど私の記事はお休みをいただきます。休み明けには、細音雪花が帰ってくる話をいたします。ご期待くださいませ!