外套の裏には歪な心(前篇)

2018.02.02 Friday

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    メガミ特集、第2シーズン開幕なり!

     

     こんにちは、BakaFireです。今回の記事はこれまでご好評を頂いたメガミ特集シリーズの続編となります。前回のハガネ特集で『祭札』に原初札が収録されたメガミの特集は全て終わり、同時に以前のアンケートで順番を決めたメガミも全てやり終えたことになります。

     

     そこで今回に向け、Twitterでのアンケートを再び行いました。結果は以下のようになりました。ご覧ください!

     

     前回を超える303票ものご協力をありがとうございました! 結果、チカゲ、クルル、シンラ、サリヤの順になりましたので、今回のシーズンはこの順で進めていきます。そして初回となる今回はチカゲ特集となります。

     

     前シリーズであるトコヨ特集オボロ特集サイネ特集ヒミカ特集ハガネ特集を踏まえた内容も含まれております。もしお時間がありましたら、順にお読みいただくのをお勧めします。

     

     

    前回と同じような流れです?

     

     どのようにメガミを語るか。今シーズンではむしろ踏襲できるメガミがほとんどいませんが、これまでのやり方は次のようなものでした。

     

    • 前篇ではメガミの歴史を語り、後篇では個々のカードを語る。
    • 第一幕での六柱を語る際は、本作そのもののゲームデザインと紐付けて語る。

     

     チカゲもまたこのやり方は使えません。ハガネと同様に彼女は『第壱拡張』のメガミなのですから。ゆえにやり方としてもハガネと同様に、その頃の昔話をするのが適切に思えます。

     

     もう一点違いがあります。これまでの特集で私は「いかにして上手くやったか」を主に語ってきました。しかし『第壱拡張』において、チカゲは大変に愚かな過ちを犯したメガミでした。それゆえ、なにを失敗してしまったかにも幾ばくかの焦点を置く必要があるでしょう。

     

     失敗を語ることに少しばかりの苦しみはありますが、ひるんではいられません。始めるとしましょう。

     

     

    拡張ハジマリ3柱の2柱目

     

     

     チカゲの物語が始まったのはハガネよりも少しだけ昔、2016年7月頃でした。サイネ特集を思い出して頂きましょう。第1回公式大会の成功を受け、私は拡張の作成を宣言しました。そして最初のプレイテストで新たなメガミを3柱持ち込んだのです。

     

     その1柱が薙刀でサイネの原型であり、次の1柱は失敗でしたが上手いやり方を今も探しています。そして残る1柱。彼女こそが毒を象徴武器としており、チカゲの原型でした。折角です。当時のカードを何枚かお見せしましょう。

     

    毒打ち    攻撃

    適正距離1-3    1/1

    【攻撃後】相手のオーラに毒化結晶を1つ加える。

     

    毒霧散布    付与

    納2

    【破棄時】現在の間合が6以下ならば、間合に毒化結晶を2つ加える。

     

     えっ、毒化結晶? なんだって? そのように思われたかもしれません。ええ、その当時はチカゲのコンセプトは全く違い、毒化結晶という特殊な桜花結晶を用いていました。細かい説明は避けますが、自陣(オーラ、フレア、ライフ)に持つと悪い影響を与えるような桜花結晶だと思ってください。

     

     毒化結晶には独自の面白みがありましたが、最終的には没になりました。最大の理由はその複雑さです。悪い桜花結晶を表現するためには特殊なルールをいくつも入れなくてはならず、ルールを理解するまでの障壁が大きすぎたのです。

     

     最終的に毒化結晶は『第壱拡張』では形にならず、「海の向こうで産出される特殊な桜花結晶」という形でイメージを変えてサリヤへと受け継がれることになります。そちらでも一悶着ありましたが、それは未来のサリヤ特集で語ることにしましょう。

     

     

    物語は今回もメガミを定める

     

     さて、毒化結晶は消えました。では象徴武器が「毒」であるメガミはどうなったかというと、変えないようにしたいという要請が働きました。理由はストーリーによるものです。

     

     ハガネ特集で書いた通り、その時点でのストーリーには大まかな流れしかありませんでした。もう一度書きましょう。「天音家のために戦っていた天音揺波は、その時点での時代を牽引し、世を収めんとしている強力なミコトに出会う。彼と敵対することはないが、揺波の失敗により彼は暗殺されてしまう。暗殺を企てるのは瑞泉家である。そしてその影響により天音家は滅び、揺波は家を失うことになる」こんな具合でした。

     

     その時点で、「暗殺」が重要になるのは明白です。しかしながら時代を牽引するミコトは強大な存在であるため、それを力で打ち破るとなると物語上のパワーバランスが厄介なことになります。

     

     それを解決するには「毒」こそが最もふさわしい手段なのです。さらに言うなら毒は暗殺のフレーバーとしても良好ですし、シンラとは別方向で陰湿な悪質さを出せそうなため、ゲームのふくらみとしても期待していました。

     

     時系列的にはもう少し後ですが、ストーリーの話になったのでここで少し掘り下げておきましょう。サイネやハガネのストーリーによるプレビューは成功でしたが、チカゲもまた面白い形で成功できたと考えています。理由は2つ。想定外の人物がメガミになった点と、そもそも2柱目のメガミが追加されることそのものが予想外である点です。

     

     つまり、チカゲの発表では多くの方の予想をいい意味で裏切れたということです。私は2柱を発表するに際し、1柱は予想通りであるがゆえにワクワクするものを、もう1柱では予想外ゆえにワクワクするものとできるよう心掛けています。こうすれば安心と意外性を共存させ、皆様を置いてけぼりにしないよう心掛けつつも、想定外の魅力が出せるのです。

     

     『第壱拡張』ではそれは簡単であり、そもそも2柱追加することを隠せば予想外にできました。

     

     もう1点の予想外である、闇昏千影がメガミになるという点ですが、これを予想外として働かせられたのはいくらか幸運もありました。これは物語上の要請によるものなのです。

     

     理屈は単純です。元来メガミである存在はそもそも強大であるため、物語で活躍させるのが難しいのです。しかしゲームで使用できるメガミは当然ながら物語で活躍するべきです。その矛盾を解決するために、メガミに変化する英雄を増やすことにしました。無尽蔵では面白くないので、その時点で合計4人という縛りも付けることにしました。

     

     その結果として「龍ノ宮一志を暗殺した人物が宿すメガミ」という計画は少し変更され、「その人物そのもの」が登場することになったのです。

     

     

    古い記憶より呪い来たれり

     

     さて、話を戻しましょう。そうなると問題となるのは、毒をいかにして実装するかです。しばらく考えた結果、私は古い記憶を思い出しました。時は昔、まだ桜が降るより前、中世ラノベファンタジー世界のコロッセウムで戦っていた時のことです。

     

     そこで私は何度かのプレイテストを経た後、ついその時のノリで拡張にあたる7人目と8人目を作っていたのです(まだゲームシステムも固まっていないというのに……。しかしそれでも遥か未来を妄想してしまうこの行為。もしあなたがゲームを作ったことがあるならば、お分かり頂けるでしょうか。ええ)。

     

     その2人こそが「ぬいぐるみ」と「宝剣」でした。私が『ドミニオン』のプレイヤーであるのはどこかで語ったかと思いますが、この2人がどのようなキャラクターだったかというと、その影響を多分に受けたものでした。

     

     そう、山札のサイズ変更です。『ドミニオン』での公式サプライの中には、山札サイズの拡縮をコンセプトとしたサプライがありました。「魔女」「礼拝堂」「庭園」といった軸となる要素がせめぎ合うこのサプライは、当時の私を興奮させたものです。

     

     「ぬいぐるみ」はホラー的で禍々しいキャラであり、文字通り「呪い」を相手の山札に与えていました。私は彼女のことを思いだし、そしてそのコンセプトはそのまま受け継げることに気付いたのです。何かしらの手段で毒を相手に与えるならば、「毒カード」の形で与えればよいのです。

     

    (ちなみに「宝剣」は強めのカードの山を持っており、儀式を行うことでそれらのカードを自分のデッキに入れられました。後付ですが、このコンセプトはクルルとホノカへと受け継がれていったのかもしれません)

     

     しかし単なる「呪い」では問題です。本当に除去不能なゴミを押し付けられてしまっては、余りに理不尽すぎるのです。『ドミニオン』のように山札が20枚以上へと拡大していくならまだしも、本作での山札は7枚から変わらないのですからなおさらです。

     

     そこで私はもう一工夫することにしました。「毒カード」を使用したら悪い効果のあるカードにして、その代わりに使えば相手の手元に返せるようにしたのです。その時点で滑らかな気付きが生まれました。「毒カード」は複数種類あるほうが魅力的なのです。「毒カード」から生まれる悪い効果を別々のものにして、毒を送る側が任意に選べるようにすれば、毒を送る側には何を送るかという考えどころが生まれます。他方で送られる側にもどのようにそれらを処理するかという考えどころが生まれ、ゲームが奥深くなるのです。

     

     では毒は何種類必要でしょうか。私はこの手の選択肢では、大体の場合は3択にすれば正解となると考えています。2択だと選んでいる感じがせず、4択以上だと混乱が先に立つのです。今回についても、事実その通りのようです。

     

     ここまで仕上げたところで、プレイテストへと持ち込みました。そちらでのチカゲのフィードバックは良好でした。想定していた毒のジレンマは魅力的に機能し、楽しさの面では合格だったのです。その時点では毒の効果には修正すべき余地が多分にありましたが、毒カードのギミックはほとんど修正されずに確定となりました。

     

     

     

    嫌われることを恐れないで

     

     しかし、私の中でこのギミックに一切の懸念がなかったかというとそうではありません。何がというと、このギミックは仕掛けられた側にとってストレスが大きい傾向があるのです。

     

     毒を相手に与えるのは多大な嫌がらせです。ですが誤解を恐れずに言うならば、嫌がらせは楽しいのです。プレイテストでも毒を送り、相手を苦痛にゆがませるのは楽しまれていました。毒を蛇蝎の如く嫌うプレイヤーは間違いなく生まれてしまうでしょう。しかし、毒を愛するプレイヤーもまた間違いなく生まれる確信がありました。ならば、嫌われることを恐れていてはゲームに膨らみは生まれません。

     

     さらに言うならば本作は1対1の対戦型ボードゲームです。この類のゲームではカードは多かれ少なかれ、相手にマイナスを与えるカードは必然的に存在します。手札を捨てられると不快、攻撃を打ち消されると不快、間合を変えられると不快。全ての不快を否定していては、ゲームは膨らみも面白さも捨て去ってしまいます。究極的に、何を楽しく感じ、何を不快に感じるかはプレイヤー次第なのです。

     

     大事なのはチカゲを愛する資質のあるプレイヤーにとって、彼女が本当に愛されるメガミになることです。陰湿な嫌がらせを繰り返し、生まれた隙へと致命傷を撃ちこむ。そのプロセスを楽しめるプレイヤーにとって最高の体験にするのです。振り返ってみれば、これも「毒を手にしたプレイヤーが行いたい体験」であり、ハガネの場合と同様の問いかけをしていたと言えるでしょう。

     

     以上より、私は懸念を切り捨て、毒カードを採用することにしました。

     

     最初にチカゲには失敗があり、それを恐れずに語ると約束しました。その上で忌憚なく申し上げますと、私にとって毒カードは成功なのです。

     

     

    大反省会、復習の時間

     

     ここで終われば、今回の特集もこれまでと変わりません。めでたしめでたしと言ったところです。しかしそういうわけにもいきません。以上の経緯により生まれたチカゲは大失敗であり、緊急での調整を行うことになってしまったのです。その理由は強さにもありましたが、それ以上につまらなさにありました。

     

     毒カードはやはり失敗だったのでしょうか。いいえ。私の意見は変わらず、毒カードは成功です。

     

     では何を失敗してしまったのか。実のところ私の見解は、当時の分析からさして変わってはいません。私が何を失敗したと捉え、どう直したのかは当時の記事をお読みいただいた方がよいでしょう。今のチカゲが受け入れられている点から見ても、この修正は成功だったと考えています。

     

     この記事では改めて当時に何を考え、なぜこうなったかという内情をお伝えすることにしましょう。

     

     端的に言うならば、近距離問題(『第二幕』で近距離のメガミを作れないという問題)を軽視していた、というよりそもそも大きな問題と捉えられていなかったのが最大の理由です。そしてそれゆえに、間合の決定を手なりで進めてしまったのです。

     

     最初の拡張プレイテストで3柱をデザインしたのは書いた通りですが、サイネは中距離、ある一柱は遠距離でした。ゆえに手なりでチカゲは近距離になったのです。そのまま私の中で、毒針を忍び寄って突き刺す。針の射程は当然短いので、近距離であるというイメージが固まってしまいました(その時点では第二幕計画すら立ちあがっておらず、近距離の危険性はまだ判然としていませんでした)。そしてストーリーから毒が必要だとわかり、そのまま安易に同じ間合でデザインしてしまったのです。

     

     もちろん、その頃にはユリナやユキヒの問題から近距離の危険性は分かりつつありました。しかし、攻撃のダメージを下げ、『第二幕』のルールを導入すれば大丈夫であろうと、安易に思い込んでしまいました。ユリナとの組み合わせには当時から懸念こそありましたが、私どものプレイング技術の不足と、本作初となる特殊勝利カードの調整に苦心したため、十全な調整が行えていなかったのも問題です。

     

     この学びがあったからこそ、それ以降のメガミでは間合の調整により慎重になることができました。同時に『第二幕』の抱える潜在的問題に対して、最初の気付きを得られたとも言えます。今振り返ると、この失敗は今後に繋がる重要な失敗だったと言えるでしょう。

     

     私は大変に愚かなので、失敗をして初めて学ぶ始末であり、当時も今もご迷惑をおかけした皆様には申し訳ない限りです。しかし学びを活かし、本作をより良い未来へと進める意志だけは絶やすつもりはありません。なにとぞ、見守ってやっていただけるとありがたい限りです。

     

     

     今回はこんなところでしょうか。次回の更新は来週、チカゲ特集の後篇にて、現在のカード個別の話をさせて頂きます。ご期待くださいませ!