雄大な地に鐘が鳴る(前篇)

2017.12.30 Saturday

0

     こんにちは、BakaFireです。本日はメガミ特集の第5回をお送りいたします。これまでトコヨ特集オボロ特集サイネ特集ヒミカ特集と進み、今回はハガネ特集となります。これまでのシリーズを踏まえた内容もありますので、お時間があるならば順にお読みいただくことをお勧めします。

     


     それでは、早速はじめましょう!
     
     
    前回の通りとはいかないのです

     

     どのようにメガミを語るかはこれまでのやり方を踏襲したいところです。以下のようなものでした。
     

    • 前篇ではメガミの歴史を語り、後篇では個々のカードを語る。
    • 第一幕での六柱を語る際は、本作そのもののゲームデザインと紐付けて語る。

     
     お分かり頂ける通り、今回はこのやり方は使えないようです。ハガネはこれまで特集したメガミとは大きく異なり、『第壱拡張』のメガミなのですから。

     

     彼女らのデザインが本格的には始まったのは2016年の9月下旬です。つまりは『第二幕』を入稿した直後から、合計3回の拡張を実現するために私どもは動きだしていたのです。今回はその頃の昔話をしましょう。

     

    残された間合はどこだ?

     

     本格的なデザインが始まるよりも前に、私はぼんやりとした閉塞感を感じていました。本作のメガミには得意な間合がある程度定められており、個性の一つとして活用されています。しかし、次のメガミの得意な間合をどうすればよいのか、いまひとつ判然としないのです。
     


     まだ『第二幕』の発売すらしていない時期です。私の脳内に立ちはだかるのはおぞましき暴虐の化身であり、間合0-2と6-10には強い恐怖を感じていました。他方で間合3-5の中距離はトコヨ、オボロ、ユキヒ、サイネとすでに人口が飽和しつつありました。

     

    (補足しておくと、閉塞感の正体は今ははっきりしています。『供焚勝法戮糧表でお伝えした通り、近距離問題ゆえに間合0-2のメガミが、瞬殺問題ゆえに6-10のメガミが作り辛い状況にありました)

     

     間合を無視するという選択肢もありましたが、本作は「間合を合わせて攻撃するゲーム」です。それを行うには『第壱拡張』は早すぎるでしょう。暗中模索の末、私は間合をこれまでとは違うやり方で注目させる必要があると考えました。
     
     その結果、「間合の変化に注目する」というやり方を発見しました。適正距離は常に合っていると言えるくらいに広い一方で、それらのカードを活用するには間合が変化していなければならないようにするのです。これまでのメガミは、自分の得意な間合にい続けるのが最善でした。しかしこのやり方ならばその前提を崩し、新しい側面に光をあてられると考えたのです。
     
     そして本格的なデザインが始まり、私はハガネの初期案をテストしました。その中にあったカードをいくつかお見せしましょう。

     

    遠心撃    攻撃    適正距離2-6     0/0
    【常時】遠心―現在の間合がターン開始時の間合から2以上変化しており、かつあなたがこのターン中に他の《攻撃》カードを使用していないならば、この《攻撃》は+3/+1となる。

     

    砂風塵    攻撃    2-6    1/-    
    【攻撃後】遠心―現在の間合がターン開始時の間合から2以上変化しており、かつあなたがこのターン中に他の《攻撃》カードを使用していないならば、相手の手札を1枚無作為に選び、それを捨て札にする。

     

     しかし残念ながら、この案へのフィードバックは悪いものでした。第一に上の案の「遠心撃」ははっきり弱く、間合を動かして戦うという気持ちよさがなかったこと。第二に間合を近づけつつ攻撃するのが強い一方で離しながら攻撃するのは弱く、相手の得意な間合に応じた相性が激しくなりすぎていた点が問題でした。
     
     もちろん場当たり的な改善案はその場で出ました。例えば後退だけにしたらどうか。例えばダメージを大きくしてはどうか。お気づきの通り、それらの調整を行えば今のハガネにかなり近い仕上がりになります。
     
     しかし私はそうはしませんでした。どうにも納得がいかず、根幹の理念が固まっていないように感じられたのです。そのために遠心は一度没になり、白紙の状態から考え直すことになりました。

     

    物語もまたメガミを定める

     

     ハガネのデザインは、システム的な側面から行われただけではありません。サイネ特集でお伝えした通り、本作ではストーリーの連載が始まっていました。これまでのメガミの活躍を描くと共に、新たなメガミを魅力的に演出するためのやり方として、物語を活用するのです。
     
     サイネについてそのやり方は大成功しましたので、それ以降のメガミでも行われるのは当然です。それではハガネについてはどのように行われたのでしょうか。
     
     実のところを告白しますと、2016年10月頃の時点では『桜降る代の神語り』のストーリー展開はまだまだ決まっていない部分も多かったのです。全五巻に物語を分けることや、それぞれでのざっくりとした流れは決まっていましたが、細部はほぼ白紙でした。
     
     例えば第一章で決まっていたのは「天音家のために戦っていた天音揺波は、その時点での時代を牽引し、世を収めんとしている強力なミコトに出会う。彼と敵対することはないが、揺波の失敗により彼は暗殺されてしまう。暗殺を企てるのは瑞泉家である。そしてその影響により天音家は滅び、揺波は家を失うことになる」といった程度でした。
     
     そこで私どもは「物語を面白くすること」と「新しいメガミを魅力的にすること」を両立するために、物語の肉付けを行ったのです。
     
     ここでのキーパーソンは当然「時代を牽引し、世を収めんとしている強力なミコト」、即ち龍ノ宮一志です。彼の存在、そして彼が暗殺されることこそが第一章の核となります。そこから想像すれば『第壱拡張』のメガミをどうすべきかは自然に見えてきます。彼自身が宿しているメガミと、彼を暗殺する存在が宿しているメガミです。そして、そのうちの前者こそがハガネとなったのです。
     
     もうひとつ重要な要素があります。『第二幕』が基本と拡張に起承転結を分ける形で計画されていた点は何度もお伝えした通りですが、『第壱拡張』はそのうちの「承」を担っていました。それゆえに『第壱拡張』のメガミは順当で、奇をてらいすぎない必要があるのです。昔からメガミとして存在しつづけていたメガミが新たに登場するのはこれが初めてなので、順当でありながら新しさがあり、この拡張にふさわしいものでした。
     
     これらを踏まえ、ハガネ、そして彼女の象徴武器を考える必要があります。彼女を宿す龍ノ宮はどちらかというと味方の存在です。他方で揺波にとっては強大な壁でもあり、強かな存在感が必要です。また順当さを演出するためにも、象徴武器は分かりやすく武器である必要がありました(もう一方のチカゲが毒なので、なおのことです)。これらの要件を踏まえて考え、鎚こそが相応しいと結論付けたのです。
     
     あとは物語の流れとメガミのイメージから肉付けされていき、驚くほどスムーズにハガネの人格や立ち位置は決まっていきました。

     

    パワーを溜めて、どっかーん!

     

     ストーリー面のイメージがすんなり決まったこともあり、初期案の時点で武器は鎚としてデザインされていました。しかし上記の通り、初期案は没になりました。それでは改めてシステム面ではどのようにしたのでしょうか。実のところ、なかなかもって苦難の道が続いていました。遠心が没になってからいくつかの案が私やプレイテスターから出ましたが、いずれもこれだと呼べるようなものではなかったのです。

     

     何が悪いのか悩み、ふと、次の疑問を抱きました。「巨大な鎚を持ったプレイヤー」は、どのような体験をしたいのか。そして私はこの問いかけにこそ重要な鍵が眠っていると予感しました。ゆえに慎重に考え、そして答えます。力を溜めて、そしてパワフルな一撃をぶち込みたいのだ、と。
     
     そうです。鎚は言うまでもなくパワフルで、他方で重さゆえに扱いにくい武器なのです。ならば振るうには力を溜める必要があり、そして力を放出しながら放たれる一撃は超威力であるべきです。パワフルで威力が高いといえば《全力》カードがすぐに浮かびますが、《全力》を使うとむしろリソースが溜まってしまうので、今回は良い手段ではなさそうです。

     

     では、力を溜めるとはどういうことか。答えは少し考えればすぐに浮かびました。集中力です。サイネの際に没にした、集中力をコストにしたカードはハガネにこそ相応しいのではないでしょうか。
     
     しかし、あと一歩だけ正解からは離れていると感じました。集中力は悪くありません。ですがどこか孤立的なのです。集中力を追加で支払っても、ゲームへの変化は大きくありません。他のカードによるサポートもし辛いため、シナジーも希薄です。総じて、ゲーム内の他の要素とのつながりが薄すぎるのです。
     
     ならば、溜めた力を放出する際にゲームに何か変化が起こればよいのではないでしょうか。そうすればゲーム内の要素と、力の放出に繋がりが生まれます。では集中力などのリソースを支払い、ゲーム内で変化するものとは――?
     
     答えに気づいた時、私は思わず笑ってしまいました。そうです。間合が変化すればよいのです。
     
     そして遠心は帰ってきました。力を「放出する」必要があるので向きは後退に絞られ、パワフルであるためにダメージは大きくなりました。結果として、あの日場当たり的に得られた案をそのまま使うことにしたのです。そう、つまるところはやはり――。

     


     
     そしてこの過程があったからこそ、ハガネは魅力的になったのだと今も信じています。デザインする上で、システムへの提案から切り出されただけの案ではメガミに血は通いません。目指すべき体験があり、そこに向けて理を重ねた案だからこそ、鎚らしく、ハガネらしいのです。


     こうして大地のメガミは、今日も活き活きとこの地を踏みしめています。ハガネと遠心の成り立ちはこれにて閉幕といたしましょう。


     
     次回の更新は来週、ハガネ特集の後篇にて、現在のカード個別の話をさせて頂きます。ご期待くださいませ。
     今回の特集への感想や、他に行ってほしい特集などありましたらTwitter(@BakaFire)までお伝えください。あなたの一声が、今後の記事を変えるかもしれません。お待ちしております! 

     この記事に関するツィートはこちらです。もしこの類の記事に魅力を感じて頂けたならば、いいねあたりを押して頂けると、好評と判断しやすくて助かります。
     
     そして今年の更新はこれにて終わりとなります。当ブログへとお越しくださり、誠にありがとうございました。来年も何卒、よろしくお願いいたします。それではよいお年を!