記事目録

2017.08.04 Friday

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    『桜降る代に決闘を』の公式サイトはこちら

     

     

    第0話:或る最果ての社にて

    序章:小さな地の小さな野望

    第一章:天音家の戦い

     

    第18話:旅立ち

    第19話:奇縁

    第20話:細音と久遠

    閑話:ある三柱の一幕

    第21話:ゆりな珍道中

    第22話:再び交わる道

    第23話:死の自覚

    第24話:渦中へ

    第25話:武神ザンカ

    閑話:ある山間の邂逅

    第26話:神渉

    第27話:奇妙な四人(揺波側)

    第28話:奇妙な四人(細音側)

    第29話:陰陽本殿跡

    第30話:大乱戦!

    第31話:異文化座談会

     

    次回更新は8/18(金)です。

     

     

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    第1回大乱闘 第2回大乱闘

     

    しばらくは更新予定はありません。次の大規模大会は、もちろんレポートいたしますよ!

     

     

    シーズン1 作:hounori先生

    第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回

     

    メガミの日常をまったりお届け、そんなかんじのゆるい午後。

    10月上旬に、電源ゲーム版サイトの更新と合わせてシーズン2を開始いたします。ご期待ください。

     

    『桜降る代の神語り』第31話:異文化座談会

    2017.08.04 Friday

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       異国の救世主と共に、難敵を退けた天音揺波一行。
       取り返しのつかない傷こそなかったものの、治療が必要なこともまた道理。
       一番近い里の医者の下へ駆け込んだ五人と鉄の獣に、奇異なものを見る目を向けられたのはご愛嬌というものだ。
       結局彼女たちが一息ついたのは、翌日の夕刻、旅籠での食事時だった。

       

       


      「なんだか、久しぶりにまともなご飯を食べている気がします……!」
      「俺、むしろ落ち着かないんだけど……」

       

       姿勢を正し、膳に向き合う浴衣姿の揺波は、柔らかい白米と一緒に喜びを噛み締めていた。
       本殿跡のある咲ヶ原はあまり人のいない土地であるが、西から岩切へ向かう通り道にあるこの地は宿場町として賑わいを見せている。旅人の多くは岩切で湧く温泉での湯治が目的で、中には当然金払いのいい者だっている。彼女たちが泊まっているのは、そんな客を見据えた、里でも上等な旅籠だった。

       

      「ガキの使いの忍にはまだ早かったか。なんなら、外でヴィーナの見張りでもしているか?」
      「ありがたくご厚意に甘えさせていただきますっ!」

       

       揺波の隣で飯をかきこむ千鳥。いかに佐伯の身の上を怪しんでいると言っても、この場にいる全員の宿代をぽんと払った上座の彼の前で、下座の千鳥が文句など言えるはずもない。
       そんな佐伯であるが、漬物を掴む箸先が震えている。背中の傷は処置こそされたものの、後は回復力に任せる他なく、右上半身の動きのぎこちなさは如何ともしがたい。細身の身体に巻きつけられた包帯が痛々しく、額には脂汗が滲んでいる。

       

      「あの……辛いようでしたらお手伝いしましょうか?」

       

       そんな様子が見ていられなくなったのか、千鳥の正面の席のサリヤは、ジュリアの代わりに焼き魚をほぐしながら慮る。

       

      「いえ、お気遣いなく。この程度でへばっていてはライラ様に顔向けできません」
      「そうですか……サエキさんはジュリア様を救ってくださった恩人なんですから、なんでも言ってくださいね」
      「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて……あの鉄の獣は一体なんなのか、そしてあれを作り上げた貴方たちは一体何者なのか、教えていただけないでしょうか」

       

       軽く笑みを交えて問うた佐伯が目配せする先には、興味津々な揺波と千鳥の姿がいる。サリヤはしてやられた、と苦笑いを零した。
       ただ、許可を求めて顔を向けたときには、箸との格闘を続けていた彼女の主は、問われたのだから当然返すのだ、と言わんばかりに答え始めていた。

       

      「ヴィーナの基本は、蒸気機関を動力源にした二輪車デス。馬に引っ張らせる代わりに、水蒸気のチカラで車輪が回ります。デスガ、蒸気のチカラであの巨体を動すには、もっと大きなボイラーが必要になります。そこで、造花結晶の出番デシタ」
      「そう、ずっと気になってたんだけど、造花結晶……って桜花結晶のことじゃないのか?」
      「コンポンテキには同じと考えてますが、別物です。アナタたちが知っている結晶の花弁に対し、造った結晶の花弁――ソレ、造花結晶と呼んでます」

       

       ジュリアの溢れ出すような説明にサリヤは不安げな面差しであったが、主は彼女の顔色を伺うようなことはしない。

       

      「まず、こっちの桜花結晶と、ワタシたちの桜花結晶では、こっちの桜花結晶が、比べられない量のチカラ持っているようです。ワタシたちの結晶は、ミガワリ? になるなんて高度なコトできません」
      「なんと。ではもしや……桜花決闘もないのですか?」
      「ハイ、ソウデス。そもそも、いっぱい結晶を咲かせる樹も、ミコトも、ないです」
      「えっ……」

       

       その土地的な差異に、三人のミコトは多かれ少なかれ驚いていたが、中でも揺波は何を言っているのか信じられない、といった反応であった。
       ジュリアは一同の驚きを粛々と受け止め、さらに言葉を続ける。

       

      「ワタシタチにとってコールブロッサム――イエ、カムクラザクラは、葉っぱも花もない、たまに変なカタチの花弁を散らすフシギな樹です。昔、花弁のエネルギーに気づいた先祖サマは、石炭みたいな燃料として研究シテ、今は特別な燃料として一部で使われてます。開発中の造花結晶は、その結晶を高密度にしたもの、と思ってクダサイ」
      「ジュリア様はヴェラシエ――結晶を扱うことを許された身分であり、その中でも若く、異才と評される技師です。彼の地では、より強力な結晶を、もっと昔から利用していると聞き、こうして研究調査に参られたのです。……ですよね?」
      「あ……ウン」

       

       サリヤの念押しを受けて、ジュリアはつまらなそうに口をすぼめた。けれどサリヤの態度は強硬的なものではなく、ある種の申し訳無さがにじみ出ている。
       対し佐伯の納得は早く、サリヤの顔も立てるように再度促す。

       

      「ではヴィーナは、蒸気の力に加えて造花結晶の力で動かしている、と」
      「ハイ! 蒸気機関に造花結晶を与えるコトで、瞬間のチカラと効率、機関部の小型化ができました! それだけダト逆に動力ありすぎで、真っ直ぐ走って吹き飛ぶダケのおもちゃですが……それを制御するための機能も実現してアリマス!」
      「走ってるときに急に曲がろうとすると、足にすごい負担が来ますよね? ヴィーナで本来それをやると、私が放り出されるくらいの衝撃になるんですが、ほとんどそれがないんです」

       

       ソウデス! と親指を立てた両手をサリヤへと突き出すジュリア。
       
      「全てはそこに生じたエネルギーなのデス! 結晶のチカラは中でも一番可能性を秘めていますから、造花結晶によって密度が十分なった今、あとの課題はチカラに方向性をあげるコト! そのシステム『Blackbox』を組み込んで作ったのがヴィーナです! サリヤしか上手に使えません!」
      「正直に言うと、こちらであんなに激しい戦闘機動をとったのは初めてだったので、うまくいって本当によかったです……その前も、ジュリア様を探して走り通しでしたし」
      「そういえば、よくあの場所が分かりましたね」

       

       熱いジュリアの講義の最中、脇に逸れるように訊ねたのは揺波だった。彼女は早々に、ヴィーナの技術が明らかに自分の理解の及ばないものだと、見切りをつけていたのであった。

       

      「ああ、それなら、探し回っている途中で親切な方々が教えてくれたんです。道のど真ん中で伸びてましたけど」
      「……もしかして、ジュリアさんに絡んでいた、あのならず者どもでしょうか」
      「盗賊団、と名乗ってましたけどね。ジュリア様を攫ったそいつらの本拠地に乗り込んだらもぬけの殻で、ジュリア様共々探し回っていたんです。運良くお二人の行き先を聞いていた方がいたので助かりました」

       

       喋っていくうちに嫌なことを思い出したのか、顔をしかめるサリヤ。それはジュリアも同様であった。

       

      「恩人の前で言うのは気が引けますが、その盗賊団もそうですけど、私たちはこの土地に試されている気がするんですよ……」
      「なんだかジュリアさんも、前にそんなこと言ってたような……」
      「だって!」
      「……っ!?」

       

       怒りを露わにするように、大きく身振りするサリヤであったが、そんな彼女を見ていた千鳥が驚きの声を必死に飲み込んでいた。何故なら、彼女は浴衣を着るのが今回で初めてであり、己の所作でどう着崩れるのか把握できていないままであり、そして千鳥がその結果を観測してしまったからであった。
       その様子に気づかないサリヤは、さらに熱弁を振るう。

       

      「長い船旅が終わったと思ったら、港で牢屋に入れられたんですよ!? 何を言っても、怪しいやつの一点張りで。助けてもらった方に代わりに結晶研究の権威をご紹介していただきましたけど、あまりにも運が悪いというか。それで二人旅が始まったと思えば、盗賊に襲われる始末! 挙句の果てに、明確に命を狙われることになるなんて」
      「そ、そそそれは、災難、でしたね」
      「サリヤさん、前はだけてますよ」
      「えっ……――あっ、やだ、ごめんなさい。まだうまく着こなせなくて……」

       

       揺波の冷静な指摘によって観測結果が過去のものになっていくのを感じる千鳥だったが、サリヤに咎められなかったことにほっとしていた。浴衣の紺と褐色の肌の間に現れた、薄桃色の綺麗な布の正体に考えが行ってしまうが、彼がちら、と奥を見れば、佐伯が塵芥を見るような目で千鳥のことを見ていた。
       身だしなみを整えている侍従に代わり、言葉を引き取ったジュリアは、ため息をつきながらも随分と前向きだった。

       

      「しかし、順番と人がおかしいですが、メガミサマのチカラと、神聖な場所が見れたのはとてもヨカッタです。こうして、ミコトの人に知り合えたコトも」
      「縁のメガミ様に祝福されているようでありますな」
      「歴史知るコトも、技術のためには必要です。貴重なケイケンでした。是非もっと詳しい話を聞きたいのですが、それよりも……」

       

       そこで切ったジュリアは、汁を啜る揺波を見据えた。

       

      「襲われて途中になりましたが、ユリナサン、伝説について、話が違う言ってましたね? あれはどういう意味でしょう。ずっと気になってました」
      「あっ……あぁ! そう、そうでした……バタバタしてて訊く暇がなかったんですよね」

       

       矢によって断たれた疑念が蘇ってきたのか、こめかみに指を押し当てた揺波は、探し当てるようにその疑問を言語化していく。

       

      「あのとき、佐伯さんが教えてくれたヲウカ伝説。決闘の成立についてのお話だから、たぶん間違いない……と、思うんですけど……」
      「なんだ、言ってみろ」
      「決闘の始まりには、ヲウカとウツロの戦いがあったはずなんですけど、その伝説だと全然触れられてなくて、でもいろんな人が知っている話だって……どうしてなんでしょう?」

       

       その揺波の提示に対して、残る四人の反応は様々であった。
       サリヤは元々話に入れなかったので静観しており、ジュリアはさらなる情報を大人しく待っていた。
       そして主として問われていた佐伯は、

       

      「それを、誰から聞いたんだ?」
      「ザンカからです」
      「なる、ほど……やはり私にも覚えはない。だが、それをメガミ様から聞いたのだとすれば話は別だな……我々の間から失われた異説を知っていたとしても、不思議ではないからな」

       

       答える半ば、何かに納得したように、左手で顎をさすり、最後には黙考を始めた。
       ただ、その思慮の裏で巡らされていたのは、残る一人――千鳥が、反射的に揺波へ向けた視線を慌てて戻していた光景への解釈。
       当の千鳥が息を殺したところで、佐伯には既に見られていたのだ。

       

      「ただ……もしかしたら調べ物の得意な忍なら、ウツロについてだろうと知っているんじゃあないか?」
      「ガキの使いだからってほいほい教えるわけないだろ」
      「はっ! なら、あそこがウツロにも関係していることは認めるんだな? そして忍がそれを調べていたんだ、ということも」
      「うっ……」

       

       サリヤの苦笑いと、佐伯に鼻で笑われたことが、千鳥の心に刺さる。

       

      「……まあ、ジュリアさんたちもいるので軽く説明しましょう。ウツロとは、伝説だけが残っているメガミ様のお名前です。宿すミコトの話も聞かないどころか、社すら定かではありません。人嫌いでも暴れん坊でも、一人くらいは使い手がいるものですがね」

       

       一瞬、揺波を目で指した佐伯は、

       

      「確認できる文献もかなり断片的で、実態は杳として知れません。一説によれば、とても古い……それこそヲウカ様と同じくらい永くあるメガミ様だと言われています」
      「スゴイです! それなら、ヲウカサマとウツロサマの戦いのキロクも、どこかにあるかも知れません!」
      「しかしまあ、それが正しく伝えられていないのだとすれば、私がこの場で天音の問に答えられる道理は、やはりなかったということになりますな。忍なら、あるいは、ですが」

       

       あからさまに見下す佐伯に、千鳥はどうにか鼻を明かしてやろうとするも、

       

      「へ、へぇー! そんな忍がわざわざ調べるような場所を調べてた、どこのどなたかも分からないあんたにも、分からないことがあるんだぁー!」
      「それはそうだ。言っただろう? 私は学者だと。そして学者とは、まだ陽の光を浴びていない真実を求める者でもある」
      「チドリくん……」
      「憐れむような目で見ないでください! どうせ俺はガキの使いですよ!」

       

       膝を抱えて嘘泣きをし始めた千鳥の姿に笑いが起きる。
       傷に響かないように抑えて笑っていた佐伯は、皆がひとしきり笑った頃合いを見計らったか、その笑みに真剣さを混ぜた。まるで、自分は高みの見物をしていられる立場にある、とでも言うように。

       

      「まあ、ウツロについて話してくれないのは残念だが、その道化に免じてここは一つ、それとは別に、全員が気になっているであろうことを教えてやろう。遅かれ早かれたどり着くことになっただろうが、あの猟犬たちの飼い主は、ほぼ間違いなく瑞泉だ」
      「瑞泉、って、大家のか……?」
      「全てはあの大火から繋がっている……そうだろう? 天音」

       

       虚を突かれた揺波は、びくり、と肩を震わせた。その言葉自体は彼女の抱えていた曖昧な疑念に一本、線を通すようなものであったが、こわごわと見返した佐伯には、あの日自らの手で起こしてしまったことを見透かされたようで、声が出なかった。

       

      「ジュリアさんたちを港で捕らえたのも瑞泉の者でしょう。ゆめゆめ気をつけることです。連中、あんな反則的な技術を持ち出してくるようになった……それが意味するのはつまり、泉の湧き水程度では到底足りない、支配的な雨の時代の訪れ、なのですから……」

       

       場には、四人が息を呑んだ音だけが溶けて消えていた。
       自分たちの置かれている状況を再認識した者たちの前で、佐伯だけが、静かに眼鏡の奥で笑っていた。

       

       

       

       


      「お見送りまでしていただいて……お世話になりました」
      「いえいえ、私もここでお別れとは大変残念です」

       

       翌朝、五人の姿は里の北西に構えられた門にあった。揺波と千鳥に加え、サリヤとジュリアの四人が、北西に伸びる街道側へ。佐伯だけが、里の側に一人残っていた。

       

      「怪我がなければ、というところですが、あいにくまだ仕事の途中でして」
      「アゥ、ゴメンナサイデシタ……」
      「まあまあ。……古鷹山群へはかなり距離がありますが、森に入るまではほとんど開けたのどかな道ですので、襲われる可能性は低いかと。森から里へは、きっとあれが案内してくれるでしょう……おそらく」
      「何だよその間は! 客の案内ぐらいできるから!」
      「ふふ、よろしくお願いね、チドリくん」

       

       荷物をヴィーナにくくりつけ終わったサリヤが、悪戯っぽく笑いかける。そうされると千鳥はもう何も言い返せなくなり、挙句そっぽを向いてしまった。
       佐伯はそれから、袂より折りたたまれた紙を取り出すと、そっとジュリアの手に持たせる。

       

      「ここに、私が立ち寄る場所が書いてあります。それを見せて私の名前を出せば、悪いようにはされないでしょう」
      「エ、でも……」
      「ジュリアさんたちの素晴らしい技術について、もっと詳しくお聞きしたいですし、研究のお手伝いもして差し上げたい気持ちでいっぱいなのです。本当は同道して、メガミ様としてでなく、結晶研究の権威としてのオボロ様にも是非お会いしたいのですが、今は他に為すべきこともあります。これがまた我々を巡りあわせてくれることを祈って、お別れとしましょう」

       

       それにジュリアは、受け取った紙をサリヤに預けることで答えとした。腰の物入れにそれをしまったサリヤが、丁寧に頭を下げる。

       

      「では皆さん、今度こそお気をつけて。あの忍が若気の至りで過ちを犯さないとも限りませんので、身内にもお気をつけください」
      「あんたほんとに見送る気あるのか!?」
      「そうやって貴様が構ってくるだけ、お二人の到着が遅れるんだぞ? ああ、仕方ないな、私が消えたほうが建設的か。じゃあな」
      「く、くそーっ! 今度会ったら覚えてろよ!」

       

       そんな捨て台詞に満足した佐伯も、四人に背を向けて里の中へと戻っていった。

       

      「じゃあ行きましょっか、ユリナちゃん! ……ユリナちゃん?」
      「え……あっ、はい! 行きましょう! 目指せ忍の里、です!」
      「オー!」

       

       ぼうっと遠くを見つめていた揺波は、慌てて明るく振る舞い、先頭を歩き始めた。ヴィーナを押すサリヤに苦笑されながら、揺波はどこか落ち着かない気持ちを持て余していた。
       彼女が感じていた、もやもやとした一連の流れに、瑞泉という形は与えられた。
       けれど、それが『分からなかったこと』から『分かったこと』になって、すっきりするということもなかったのである。

       

       一体自分は何を掴めずにいるのか。
       その答えがあるかもしれない場所へ、彼女は淡々と歩を進めるのみであった。

       


       こうして天音揺波の側に訪れた動乱も、どうにか一段落を迎えることになった。
       しかし不穏の陰は消えず、静かな胎動は彼女たちに不安を感じさせてやまない。
       この五人の間でも、お互いそれなりに信用はあるものの、信頼と呼べる絆はサリヤとジュリアの間くらいなものだろう。
       それでも彼女たちは、同じ目的地に向かって、同じ道を進むのさ。

       

       さあ、いよいよ次は忍の里だ。いくつもの思惑が交錯するこの地で待つのは果たして?
       次の舞台を、乞うご期待と言ったところだね。

       

      語り:カナヱ
      『桜降代之戦絵巻 第三巻』より
      作:五十嵐月夜  原案:BakaFire 挿絵:TOKIAME

       

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      新たなメガミと怒涛の疾走

      2017.08.04 Friday

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         こんにちは、BakaFireです!

         

         さて、いよいよコミックマーケット92や東京ボードゲームフェスティバルも近づき、第弐拡張の頒布まで残りわずかとなりました。イベントでの出展内容や、第弐拡張全体については先週のニュースでお届けしたばかりです。もしまだお読みでないならば、ぜひご一読ください。

         

         

        イレギュラーは乗騎と共にあり

         

         先週のニュースではパッケージを通して、新たなメガミの姿が発表されました。では本日は? 当然ですが、そのメガミについてをお伝えしますよ! しかし慌ててはいけません。いつものことですが、彼女の活躍はストーリーですでに描かれています。もちろん、そちらには別のプレビューカードがありますよ!

         

         公式ストーリー『桜降る代の神語り』は第二章も終わりが見えてきました。お時間が許すのであれば、是非ともご一読いただけると嬉しいです。最初から読むのであればこちらを、第二章の最初から読むならばこちらをクリックしてください。

         

         すでにお読みになったか、残念ながら時間がないならばこのままお進みください。

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         さあご覧あれ、海の向こうより来たれしイレギュラーなるメガミ、サリヤを!

         そして彼女と共にある乗騎ヴィーナの中核、蒸気機関を!

         

         

         サリヤは海外の技術である蒸気機関と、それにより動く乗騎を用いることで、かつてない機動戦闘を実現します。しかし蒸気機関を動かすには、当然ですが燃料が必要です。

         

         それを表すのが特殊なトークンである造花結晶です。ゲーム開始時、マシンには6つの造花結晶が置かれています。使い方は騎動と燃焼の2種類があり、どちらも彼女のカードにより実現されます。まずは「Burning Steam」をご覧ください!

         

         

         

         騎動を一言で説明するなら、高速移動で一時的に間合を変化させるというものです。騎動を行うならば、騎動前進か騎動後退のどちらかを選びます。そして前進ならば造花結晶を「間合−1トークン」として、後退ならば「間合+1トークン」として間合に置くのです。

         

        ※ 正確な置き方としては、間合−1トークンは桜花結晶に重ねるように置き、その桜花結晶を無効化します。間合+1トークンは桜花結晶と同じように置き、現在の間合の計算で数えられます。

         

         これらのトークンはあなたの開始フェイズに取り除かれ、燃焼済になります。つまり、間合を変化させていられるのは今の自分のターンと次の相手のターンの間だけなのです。しかしそれをネガティブに捉える必要はないでしょう。要は間合が変化し、その変化分は必ず戻るのです。その特性を戦略に応用できてこそ、真に乗騎を乗りこなしたと言えるのではないでしょうか。

         

         もうひとつの使い方、燃焼は実にシンプルです。燃焼を持つカードは造花結晶を1つ燃焼済にしなければ使えません。もちろんその分、ちょいとばかし強力になっていますよ。「Scheld Charge」をご覧いただきましょう!

         

         

         

         騎動も燃焼も造花結晶を消費する代わりに、強力なカードになっています。お分かりですね。彼女を使いこなすならば、燃料管理が重要なのです。

         

         しかし、燃料を失うことが悪いとは限りません。折角なので「Form:GARUDA」もお見せしておきましょうか。意味不明なカードですが、意味不明な物どうしが揃えば、見えてくるものもあるでしょう?

         

         

         

         本日は新たに3枚のカードを紹介いたしました。間合を目まぐるしく変化させるスピード感と、燃料を制御する管理の楽しさ。それぞれお楽しみいただければ幸いです。

         

         

         

        第弐拡張プレリリースが4地方で開催されるぞ!

         

         本日紹介したサリヤをいち早くお楽しみいただく方法がありますよ! それも素晴らしいことに明日に! 8/5(土)にプレリリース大会が東京、大阪、北海道、愛知の4か所で開催されるのです!

         

         東京は秋葉原の「季夏の交流祭」、大阪の「プレリリース大会@DDT」、北海道の「プレリリース大会@札幌YS」、愛知の「プレリリース大会@愛知地区」をぜひともチェックして下さい。

         

         さらに大阪の方には素晴らしいニュース! 翌日の8/6(日)の「プレリリース大会Ex@ひがっち」でもサリヤを用いたゲームをお楽しみいただけます。

         

         ただ、申し訳ないことにいくつかの地方ではすでに満員となってしまっております。少なくとも私どもが開催する東京の会場は満員で、大会はキャンセルの方が出た場合のみご参加いただける形となっております。申し訳ありませんが、ご容赦ください。

         

         

         来週はコミックマーケット当日となりますので、本ブログの更新もお休みとなります。次の更新は再来週、今後の公式イベントをさらにエキサイティングにするための話と、先日の見解報告への補完を行わせて頂きます。

        第弐拡張やイベントの速報をお届け

        2017.07.28 Friday

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           こんにちは、BakaFireです。本日は様々なすばらしいニュースをあなたにお届けします! 3か月に1回書いている展望が、未決定事項も含む先触れだとすれば、今回は決定した内容の発表です。

           

           内容は以下の5点となります。お楽しみいただければ幸いです。

           

          • 第弐拡張の内容について
          • 電源版発表のスケジュールについて
          • コミックマーケットへの出展について
          • 東京ボードゲームコレクションへの出展について
          • 会場特典について

           

           ここで注意! 第弐拡張の内容にかかわる話も行いますので、もしストーリーを追って頂けているのであれば本日更新分を先にお読みいただくことをお勧めします。

           

           準備はよろしいですか? それでははじめましょう!

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

          第弐拡張は「転」の時

           

           あれこれ語るより前に、まず初公開となるパッケージ、そしてタイトルや内容物を発表いたしましょう!

           

           

          『桜降る代に決闘を 第弐拡張:機巧革命』

           

          価格:1,800円 (イベント価格1,500円)

           

          内容物

          • カード 30枚(うち修正カード2枚)
          • メガミタロット 2枚
          • マシンタロット 1枚
          • ルールシート 1枚
          • カードリスト 1枚
          • 造花結晶トークン 12個

           

           基本セット『第二幕』が「起」ならば、第壱拡張は「承」をコンセプトにしていました。基本セットから順当に新たなメガミが登場し、ゲームを遊ぶ感覚も、世界観も「起」を受け継ぐ形で広がるのです。

           

           対して第弐拡張は「転」がコンセプトです。第壱拡張と同じことを繰り返すのではなく、もう少しルールを破って変化させ、想像を超えることを目指したのです。ゲームを遊ぶ感覚も、世界観も。とはいえ、変化は混乱のもとでもあるので、慎重に使う必要があります。私どもがどのようにしたのか、ゲームと世界観それぞれを軽く説明しましょう。

           

           ゲーム面では「これまでの延長線上からは外れないながらも、頭のおかしいメガミ」と「ぶっとんでいるかのように見えて、意外と正統派なメガミ」をコンセプトに作成しました。どちらもプレイ感を大きく変化させますが、変化していない部分も作り、やりすぎにはならないようにしたのです。

           

           世界観ではこれまでに見ていなかった部分に光を当てることにしました。そう、科学技術です。ここで混乱を避けるために用いた道具は、統一感と対比です。今回のメガミのコンセプトは科学技術、中でも機械工学に揃えられているのです。

           

           桜降る代は別に日本というわけではありませんが、和風ファンタジーである以上、史実の日本を参考にするのは良いアプローチです。しかしここで機械工学となると、海の向こうからの影響に目を向けるべきでしょう。その一方で、日本は日本でからくりという独特の機械的な仕組みを作っていました。そう考えれば、この帰結は妥当でしょう。今回のメガミは「日本のからくりのメガミ」と「海外の蒸気機関のメガミ」なのです!

           

           語れることはまだまだありますが、ここではこのくらいにしておきましょう。様々な側面から新たな風を吹き込む『第弐拡張』にご期待ください!

           

           

          電源版発表の時は近い

           

           以前の展望で、デジタルゲーム版の発表は行いました。そちらについて動き始めるのももうじきとなります。お知らせしましょう。デジタルゲーム版の公式サイトは8月11日に公開され、そちらにて全てのプラットフォーム、つまりパソコンやスマートフォンなど、どういった媒介で遊べるのかどうかを発表いたします!

           

           とはいえ、この時点で多くの発表を期待し過ぎないでください。デジタルゲームのリリースは2018年です。あくまでティーザーサイトであり、様々な情報が随時公開されていくものだとお考えください。つまり、まだまだワクワクするようなニュースが控えているということですよ!

           

          コミックマーケットは3日間とも出展します!

           

           第弐拡張の初出が8月11日から13日に開催されるコミックマーケット92となるのは展望で語った通りです。こちらの記事では、ブース番号などを発表しましょう。

           

           今回、本作は西4階企業ブース No.3314、にじよめ/DLsite.com様の一部をお借しいただき、本作のシリーズを頒布いたします。そして大変ありがたいことに、3日間全てでブースをお貸しいただけることになりました。こちらでの頒布物は、以下の通りです。

           

          桜降る代に決闘を 第二幕 3,500円
          祭札 通常版 1,500円
          第壱拡張:夜天会心 1,500円
          第弐拡張:機巧革命 1,500円

           

           もちろん、このような場を設けて頂いたのですから、今回限りの御縁ということはありえません。今後も本作は、DLsite.com様と連携し、より魅力的な展開を行っていく予定です! ぜひともご期待ください。

           

          ボドコレではクレイジーなコラボも待ってるぞ!

           

           おおっと、本作を頒布するのはコミックマーケットだけではありませんでしたね。8月13日の東京ボードゲームコレクションでも出展いたしますよ。ブース番号はC-09、BakaFire Party。頒布物は以下の通りです。

           

          桜降る代に決闘を 第二幕 3,500円
          祭札 通常版 1,500円
          第壱拡張:夜天会心 1,500円
          第弐拡張:機巧革命 1,500円
          惨劇RoopeR 5th 4,000円
          惨劇RoopeR 各種拡張 各500円

           

           そしてそちらでは、実に魅力的なコラボが実現することになりました。

           

           皆様は『戦闘破壊学園ダンゲロス ボードゲーム』をご存知でしょうか。『戦闘破壊学園ダンゲロス』は小説や漫画として知られていますが、その世界をボードゲームで体験できるというものです。

           

           その製作者である架神先生が、その世界に様々なボードゲーム、カードゲームをコラボさせてしまおうという企画を打ち立てたのです! 実にクールでクレイジー! ここで宣伝するのですから、勿論本作も参戦させて頂きます。それも無料配布ということですので、ゲットする以外ありえませんね! どこに行けばいいのかって? B-03、戦闘破壊学園ダンゲロスまでスマートに早足で向かうだけですよ。勿論その前か後にC-09、BakaFire Partyに寄るのを忘れないでくださいね!

           

           ええ、折角ですので、本作のコラボカードをお見せしましょうじゃあないですか!

           

           

           

           なぜ彼女なのかって? そりゃあもちろん、彼女ならばDangerousでクレイジーな世界でも上手くやってくれるだろうからですよ! 逆にメガミ随一の狂気を見せつけてくれることでしょう! そう、例えばこのクレイジーな効果でね!

           

           

          会場特典でPR集中力カードを配布!

           

           コミックマーケット92東京ボードゲームコレクション。幸運にもどちらかのイベントにお越しいただけるあなたには、さらに素晴らしいニュースがありますよ!

           

           先日の全国大会の参加賞として配布され、ご好評いただいたプロモーション集中力カードですが、新たな1枚がこちらにて配布されるのです。ご覧いただきましょう!

           

           

           もちろん、どちらのイベントにお越しいただいてもOK! 「No.3314、にじよめ/DLsite.com」または「C-09、BakaFire Party」でお待ちしておりますよ!

           

          追記:審議の結果、東京までお越しいただくのが難しい地方の皆様のために、地方の大会の参加賞としても配布することにしました。但し枚数が限られるため、地方ごとに回数は限らせて頂きます。ご容赦ください。

          (各地方で大会を主催して頂いている方には、8月中旬を目途にご連絡差し上げます。その折にはよろしくお願いします)

           

           

           本日はここまでとなります。次の更新は来週、海の外より来訪した異質なる獣、蒸気迸る乗騎をご覧いただきましょう

          『桜降る代の神語り』第30話:大乱戦!

          2017.07.28 Friday

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             突然の襲撃。それも桜の下でなく、遥か遠くからの狙撃。
             如何なミコトとて、逃げる以外の選択肢なんてない。天音揺波一行だろうとそれは同じさ。
             洞窟に駆け込み、佐伯識典への軽い手当を済ませても、渦中を脱したわけじゃあない。
             姿なき射手に怯えながら、四人は入り口へとひた走る。

             

             


            「あと少しです、がんばってください!」

             

             山のなりから考えれば随分と整っている洞窟も、駆け抜けるとなれば話は別だ。先頭を行く千鳥、それに続く揺波は元より、殿を務める佐伯も負傷こそしているが鍛錬を積んでいる身。しかし一方ジュリアは、緊張下ということも手伝って外の光を前に息を切らせていた。
             彼らにとって幸いだったのは、後ろから追ってくる伏兵の気配が未だないことだった。つまり上を取っている射手にだけ警戒すればよく、うまく森に逃げ込めばそのまま逃走できる可能性もあった。

             

            「出るぞ!」

             

             故に、光へ飛び込んでいった千鳥の意識が、上空に向けられていたのは、当然とも言えた。
             苦無を構え、万が一出鼻を射られたとしても、躱すことも逸らすこともできるように。
             だが――

             

            「……ポルチャルトー」

             

             四人の誰のものでもない呟きが、千鳥の耳に入った時には、既に遅かった。
             空へ目を向け、なるべく勢いをつけて飛び出した千鳥の左足が踏みしめたのは――いや、足を滑らせたのは、鏡のような氷面。
             どのようにも躱せるように、足のばねに溜めていた力が、凍りついた地面によってあべこべな方向へと流される。

             

            「ぁ……」

             

             驚きと共に、一瞬、身体を宙に浮かせた千鳥。そして次の瞬間には、彼の左手から、

             

            「ふんッ!」
            「……がッ、はぁッ……!」

             

             衝撃は、千鳥のそう小さくない身体ですらも軽々と吹き飛ばす。一度、二度、いっそ美しさすら覚える氷の地面に叩きつけられ、いくらも滑り、やがて止まった。白く罅の入った氷が、その激しさを物語っている。

             

            「千鳥さん!」

             

             さらなる強襲に、刀を正眼に構えた揺波は千鳥の名を叫ぶ。だが、その視線は同じく爪を構えた佐伯共々、姿を現した新手の男から逸らせないでいた。
             よく鍛え引き締められた上半身を晒す男の身体には、武勲として誇れるような傷が散見される。しかし堅い面差しにそれを魅せる意思はなく、瞳だけが静かに、目の前の敵こそ栄誉の礎だと訴えるように燃えている。右の爪先を軽く突き立てた前傾の構えと相まって、冷徹な肉食獣を思わせる。
             彼の得物は佐伯と同じく両手の爪。しかしそれだけではなく、異質なものが二つ。一つは右腕に取り付けられた、小ぶりな歯車が三つ噛み合った玩具のような篭手。もう一つは、静かに氷上に立つ男の靴底に取り付けられた、刃のようなもの。

             

             彼我の距離は、お互い接近に対して少し余裕を持って対応できる程度のもの。千鳥を欠き、佐伯が負傷しているとはいえ、人数で有利を取っている揺波側は、射手の援護が来ないうちの短期決着を目指し、慣れない氷上での間合いを測る。
             ただ、揺波が一歩、千鳥の側へと位置をずらした瞬間だった。

             

            「……!」

             

             彼女が次に目にしたのは、いつの間にか間合いを詰めていた男の姿だった。滑る地面を逆に活かして加速に加速を重ねる動きは、滑走として走りとは異質の接近を成す。
             突き出した爪の一撃に対し、峰に手を添えた刀で受け止め、下へと受け流す。返す刀で男を薙ぎ払おうとするも、踏ん張りが利かない揺波とは対照的に男の動きは機敏かつ柔軟、流された爪に逆らうことなく身体を下げ、斬撃を潜っていく。
             揺波の背後をとれる形となった男だったが、そこには佐伯も控えており、無事な右腕で迎撃される。しかしそれを悠々と受け止め、足場の悪さと靴の奇怪さを物ともしない方向転換で、再度距離をとる。

             

             一度目の交錯で傷のなかった揺波は、けれど襲撃者の実力に刀を構える手に力が篭った。自分や細音と同等の腕前だという直感が、彼女に一つ、呼吸を忘れさせる。
             この場で同等とは、戦ってなんとか退けられるかもしれない……という意味ではない。

             

            「貴様もライラ様を……いや、それ以前にどういうことだこれは! 何故コルヌ様のお力を、桜の下でないにも関わらず使えている!?」

             

             揺波と佐伯の焦燥も、どういうわけか一方的にメガミの力を使われているという不可解な事実を前にしては避けられない。
            力の有無、さらにそれを活用して生み出された地の利。
             その上で同等の技量を持つ相手と対峙することの絶望感。
             たとえ数で勝っていても、これでは突破して逃げることなど叶うわけがない。

             

            「な……!」

             

             そんな佐伯の問に対する男の答えは、有無を言わさぬ爆進だった。
             揺波を目指しても、佐伯を目指してもいない、加速に身を包んでの前進。
             ……気づけば、じわじわと広がり続けていた氷は、洞窟の淵にまで侵食を始めていた。

             

            「エ……」

             

             入り口の石門から様子を窺ってたジュリアへ、怜悧な眼差しの男が猛然と迫る。

             

            「貴様……!」

             

             反応の遅れた佐伯は、氷上を拙く滑るようにして男の前に割って入ろうとした。
             辛うじて間に合うか、そんな間合いを詰めた佐伯は、風を切る男の進路を邪魔するように、胴のあたりを大きく爪で薙いだ。
             だが、腰が入っておらず、遠心力で威力を加えるための左肩が負傷している状態で繰り出されたそれは、襲撃者を退かせるだけの一撃には程遠かった。

             

            「退け」
            「ぐぁ……」

             

             佐伯の右側を抜ける動きを直前に左へ切り替えた男は、虚しく爪を振り抜いてがら空きとなった佐伯の背中を、通り魔のように裂いていった。
             氷面に散る、鮮血。

             

            「サーキィッ……!」

             

             顔面蒼白となったジュリアが彼を呼ぶ裏返った声が、背後の洞窟へ吸い込まれていく。
             遅れてようやく間合いに入った揺波は、まずはジュリアと佐伯から男を引き剥がすべく彼の正中に狙いを定める。
             だがそこへ、絶望を最悪へと上塗りする風切り音が、揺波を狙う。

             

            「はッ!」

             

             頭上を払った揺波の傍を、曲がった矢が滑り転がっていった。

             

            「おおっ……!」
            「く……」

             

             無論、天からの攻撃に応ずれば、地よりの攻撃に応ずる余地はない。辛うじて身を捻り、深手には至らなかったものの、掬い上げられるように振り抜かれた男の爪先は、揺波の右の太腿に三筋の赤い線を浅く描いた。

             そうして再び距離をとった男は、ちらりと陽の照った空を見上げ、それから揺波たちを順番に値踏みするように視線を動かした。
            千鳥は衝撃に未だ伏し、佐伯は広がる血の中片膝をついている。ジュリアは理性が恐慌に押しつぶされる寸前で、まともに立っているのはもはや揺波だけ。

             

            「終わりだな」
            「……! わ、わたしが相手です!」

             

             す、と男が爪を向けたのは、揺波ではなく、佐伯とその後ろのジュリアだった。青ざめた揺波が思いつきで挑発するも、男の視線がぶれることはない。紛れもない殺意に、自分に向けられたものではないというのに、揺波の背中に嫌な汗が浮かんだ。
            順々に殺され、最後には自分も。
             結晶が身代わりになってくれない本当の殺し合いに、揺波の頭の中で一手先が浮かんでは消えた。

             

            「ふん、貴様は後だ」

             

             万事休す。
             その言葉すら、揺波の脳裏をかすめた。

             

             そんなときだった。

             

            「……?」

             

             揺波の耳に、地鳴りのような音が飛び込んできた。
             ゴウンゴウン、とも、グルングルン、とも、大地の腹の底から悲鳴のようにひり出された叫び声のようなそれ。
             もしや山の鳴動かと思うものの、山に向かい合っている男もまた、音の正体を掴もうとし、失敗していた。
             音は、だんだん大きく、そして近づいてきている。それも、かなりの速さで。
             化物のような獣が、森で暴れているとでもいうのだろうか。

             

            「関係ない……!」

             

             ただ、男も男で、音の正体が揺波たちの隠し玉でないと、彼女の態度から推測していた。山崩れでもないのなら、と決着に向けて全身に力をみなぎらせた。

             

             ……しかしここで、彼は一つの失敗をした。
             端から脅威ではないと眼中になかった存在の変化を――この状況にあって、安堵を滲ませたジュリアの表情の変化を、まずは佐伯に目標を絞っていた今、目にしていなかったのである。
             一歩、氷を噛みしめるように靴底の刃で踏み切った男は、故に判断が遅れた。

             

            「なん――」

             

             何だ、と彼が言い終えることはできなかった。

             

            「ぁぐッ――」

             

             前のめりになっていた男を、森から凄まじい速さで飛び出してきた黒く大きな何かが、先刻彼が千鳥にしたように、弾き飛ばした。
             ろくに反応もできなかった彼は、癇癪を起こした子供に投げ捨てられた人形のように、冗談じみた軽さで優に千鳥の倍を転がされる。凍った領域からも投げ出され、彼の全身が土にまみれた。

             

             あまりの唐突さに、場がソレの低い唸り声に支配される。
             ソレには、女が跨っていた。焦げた肌と真っ直ぐに流れる銀の長髪を持ち、豊満な体躯を最低限の装甲で覆っている女は、およそこの地の者ではなにしろ、確かに人であり、女だった。
             では馬を駆る女かと問われれば、それも違った。低い重心は肉を狩る獣を彷彿とさせるも、ソレに毛並みなんてものはない。彼女の手には鞭のように長く伸びる得物が握られていたが、彼女の髪よりもなお輝く銀のそれは革ではなく、細くしなやかに伸びる剣のようで、馬の尻を叩くにしてはあまりに異質であった。

             

            「い、や……あれ、は……馬鹿な……」

             

             博覧強記たる佐伯からしても、いっそ血を流しすぎたせいで幻覚を見ているのだと言われたほうが信じられる程度に、ソレは目を疑うような代物であった。
             ソレは、そもそも生き物ではなかった。落ち着いた黒で彩色されているものの、照り返すそれは金属光沢であり、大の男一人分よりもなお長いその胴体のほとんどが、金属らしきもので形成されている。例外は、前と後ろに据えられた黒い車輪くらいか。さらにはソレの後部からは、人や動物が息を切らせるように、もうもうと白い煙が吐き出されていた。
             鉄の獣。その乗騎は、彼の知識をもってしてそう呼び表す他なかった。

             

             と、乗っていた女は自分の頭に引っかかっていた枝葉をどけると、辺りを見回した。そしてその視線が一点に定まると、焦燥しきった顔が一気に綻んだ。

             

            「ジュリア様!」
            「サリヤっ!」

             

             そんな闖入者に答えたのは、彼女と同じく小麦色の肌をした、ジュリアその人。
             構えたままの揺波は状況の変化についていけず、ぽかんと戦闘中の彼女らしからず、二人を交互に見比べていた。
             そんな中、好機とばかりに苦痛を押してジュリアの近くまで下がる佐伯は、

             

            「も、もしやあの方は、今までおっしゃっていた、お付きの……」
            「ソウデス! サリヤ、来てくれまシタ! ああ、ヨカッタ……」
            「しかし、あの鉄の獣は一体……。あんな金属の塊、およそまともに動かせるものではないでしょう……。それを、馬のように颯爽となんて、信じられません」

             

             まるでこの場の空気を代弁するかのような佐伯の問。至極もっともなそれに、ジュリアの表情は先程までの悲痛なものから一変していた。それは、自分たちの信じる物によって全てが解決するのだと、確信を抱いた顔だった。

             

            「あのマシンはワタシの最高傑作・ヴィーナ。動力は、蒸気と――造花結晶の力デス!」

             

             

             


            「く、ぐ……おまえェ……!」

             

             乱入によって一度弛緩した空気だが、襲撃者が立ち上がるなりサリヤの眼差しは再び鋭いものへと変わる。ただ、目の下のくまといい、据わったその瞳はなりふり構ってはいられない彼女の心中を表してやまない。
             対して構えられた男の爪だったが、ほとんど全力疾走の駿馬に轢かれたようなものであるにも関わらず、少しふらつくだけで彼の戦意に衰えは見受けられない。
             それに、主へと切っ先が向けられたことを想起したのか、サリヤの感情が爆発する。

             

            「よくもジュリア様をぉォォッ!」

             

             篭手で守られた左手で乗騎の取っ手を掴むなり、あの地響きのような唸り声を上げて急発進する。砕かれた氷の破片を車輪が巻き上げ、男を食い殺せとばかりに飛びかかる。
             ただ、サリヤの武器は鉄の獣だけではない。手にしたしなる長剣を振り回し、自身の周辺に入り込もうとする者を切り裂く領域を作り出している。

             

            「邪魔をするなあぁぁァァァッ!」

             

             それへ吠えた男に後退の選択肢はなかった。靴底の刃を土に噛ませ、さらに相対速度を上げていくように接近する。
             交錯の直前、踏み切って飛び上がった男の爪は、的確にサリヤの顔面を捉えていた。いかに体勢が悪くとも、当たりさえすれば速度に任せて深手を負わせられる、という判断だ。自分の足で駆けるのとは違い、騎兵の動作は馬に依存する。右の爪で狙い、左の爪で伸びる剣を防げばいい、という単純にして合理的な解だった。
             ……前提が間違っている、ということを除けば、だが。

             

            「は……!?」

             

             突如乗騎の前輪が急速に回転を減じ、後輪だけが滑るように旋回した。ちょうど前輪を中心にして、時計回りに回転したようであった。重量感が嘘のような挙動に意表を突かれる。
             無論、馬鹿正直に直進すると思い込んでいた男の爪は空振りし、蛇のように襲い掛かってくる剣の餌食となる。

             

            「くそォァッ!」

             

             先程までの堅い顔つきは過去のもの、隠すことなく怒りを露わにした男は、胸に走った切り傷に構うことなく、もう一度速度を身にまとったサリヤへと向き直る。
             だが、二度目の交錯は訪れない。

             

            「ぐっ、ぁ……」

             

             飛来した矢が、風を切るサリヤを正確に撃ち抜いていた。すんでのところで反応し、肩当てで弾き飛ばすも、その威力は衝撃だけで彼女の右腕を痺れさせるほど。男からの追撃を嫌い、左手の操縦でなんとか距離をとり、射手を視界に収める。
             空を背景にしていたのは、淡い桜色の翼を生やした女であった。女は適当な樹の上に着地すると、弓の残身を解き、腰の矢筒から矢を引き抜きながら男を睨みつけた。

             

            「架崎! あんた馬鹿じゃないのかい!」

             

             一喝した女は、つがえないままの矢でサリヤを指す。

             

            「よく見な、こいつもうぼろっぼろじゃないか! そんな黒焦げ女相手にみっともない!」
            「だが浮雲、この黒い馬は――」
            「だがもくそもないよ! おまえさんはすぐそうやって頭に血が上るんだ。いくら変な馬だからって、なんでわざわざ騎兵の土俵で戦ってやらにゃいけないんだい。悪い足場に誘うのは基本だろうに。それに、得物だって長すぎるもんだから、ほうら、走ってないと、もろこしの髭みたいにくたびれてるじゃないか」

             

             それから浮雲と呼ばれた射手の女は、矢をつがえて弦を引かないまま、ぞんざいに凍っている領域を示した。その指摘に、かちかちと気持ちを落ち着かせるように爪を噛み合わせた架崎が、元の堅い顔つきへと戻っていく。
             そして、大きくその場で一歩、踏み込む直前、

             

            「悪いな」

             

             その足元から氷が生じ、元々凍っていた地面へ向かって真っ直ぐ細い道を作った。間髪入れずに身体を前に倒す架崎が、鉄の獣に負けじとあっという間に速度を得る。
             狙いはもちろん、最初から狙っていたうちの一人、ジュリア。

             

            「ジュリア様ッ!」

             

             架崎の一手を予期できずにいたサリヤは、慌てて乗騎の脇腹に足をかけた。いななくように重低音を響かせるも、架崎の行手を遮るにはもはや遅い。さらに実際、最初の素直な吶喊ならまだしも、氷の上では満足な機動が行えないのも事実であった。

             

             転倒を覚悟で凍った地面に乗騎を乗り込ませていくサリヤは、主の危機を前に視野が狭まっていた。ちょうどそれは、サリヤに反応できなかった架崎という構図を裏返すように、彼女から視野を奪っていた。
             現状、敵にとってこの場で一番厄介なのはサリヤ。
             その彼女の視線が一点に集中している今、狙わないわけがない。

             

            「血が昇りやすいのは、おまえさんも一緒、ってね……」

             

             樹上、ひとりごちる浮雲。
             引き絞った弦が解き放たれれば、矢は素早いサリヤの動きを先読みしたように空を裂く。かじりつくようにしてマシンを操縦する彼女の無防備な頭を、鏃がひた狙う。

             

             未だ気づかないサリヤ。振り回した剣も、上からの攻撃には咄嗟に対応できない。
             浮雲が、勝利を確信した……そのときだった。

             

            「な……!」

             

             矢はサリヤに当たる直前、飛んできた何かによって軌道を変えられた。その鈍い音でサリヤもはっとするが、救世主へ片目をつぶってすぐさま視線を前へ。
             浮雲はすぐに新たな矢をつがえるが、その最中、下手人の存在に至る。

             

            「忍のガキ……!」
            「忘れてもらってたなら本望だね!」

             

             ずっと伏していた千鳥が、苦無や手裏剣を次々投げつける。高所にいる浮雲にとってそれらは決して致命的な脅威というほどではなかったが、たとえばそう、矢を弾くには十分な鋭さを持っていた。
             最初架崎に吹き飛ばされ、戦闘不能になったと思われていた千鳥だったが、正直に突進を食らったわけではない。きちんと腕を盾にし、地面に叩きつけられた際も受け身を取っていた。回復力も含め、昔の彼ならばいざしらず、オボロによる修行は実を結んでいたのである。
             それから彼は、射手共々敵の意識の影に己が沈む頃合いを見計らっていたが、こうしてサリヤを救うべく復帰と相成ったわけであった。

             

             一方、ジュリアへ邁進する架崎へ追いつけないサリヤは、敵の行手を阻む少女の姿を見る。

             

            「わたしも、忘れてもらっては困ります!」
            「ありがとう!」
            「天音の娘がァ! 退けェェェァッ!」

             

             しっかりと氷の上に立ち、両の手で刀を構えた揺波は、強引に押し通ろうとする架崎の突進を正面から受け止めた。身を低くし、頭上で構えられた爪を刀で防ぎ、鍔迫り合いの様のまま滑っていくも、ジュリアに遠く及ばぬ位置で勢いは無へと減じる。

             

            「はッ!」

             

             気合一つ、架崎の爪を弾き返した揺波は、たたらを踏む架崎へ上段を叩き込むと見せかけ、容赦ない突きを入れる。喉元を狙ったそれを架崎は防御することしかできず、さらなる連撃を繰り出すことで、速度を活かした立ち回りに戻る暇を揺波は与えない。
             そして彼女にとって、架崎を仕留めきる必要はなかった。自分が有利になるように動く、それだけを考えるなら、時間を稼ぐだけでよかったのだから。

             

            「離れて!」
            「このアマァ!」

             

             後退を強いられていた架崎へ襲いかかるサリヤの剣。空間ごと切り裂くそれに、彼はサリヤと入れ違いになるように大きく後退した。そうせざるを得なかったのである。
             肌から垂れる鮮血に、砕いてしまいそうなほど食いしばられた歯が軋む。
             そんな彼から、サリヤは小さく旋回してマシンの鼻先をそらした。

             

            「ねえ、あなた。刀のあなた」
            「あ、わたしですか?」
            「うん。ちょっとだけ、私に時間くれないかな。ちょっとでいいの。ジュリア様をお願い」
            「分かりました」

             

             即答し、油断なく架崎を見据える揺波。サリヤはその思い切りの良さに感心しつつも、短い感謝の言葉と共にマシンの脇腹を叩く。
             果たしてサリヤが向かったのは、千鳥とじりじりと静かな遠距離戦を繰り広げていた浮雲の足元であった。森の端、見上げるほどには高い樹の上で弓を構える浮雲に目標を据え、森へ突っ込むかのように急加速する。

             

            「そんな紐でなにしようってんだい!」

             

             訝しがりながらも嘲ってみせる浮雲の言葉ももっともで、俯瞰的に見ていた浮雲には、いかに全長が長くとも、鋭さを保ったまま剣を高所へ正確に届かせるのは至難の業だと見て分かっていた。
             さらに速度を上げ、挙句前輪が浮き、後輪だけで走る有様になってなお器用に剣を振り回すサリヤ。加速に耐えるように食いしばり、剣を持つ右手への荷重に耐える。彼女を囲む剣身は、二重に、三重に重なっていく。
             そう、その剣は、猛烈な速度の中で引き伸ばされていたのである。

             

            「たあぁぁぁぁぁァァァァァアアッ!」

             

             

             浮雲の立つ樹の脇を駆け抜けながら、真上に向かって剣を振り上げる。重力に逆らって宙を泳いでいくその剣は、邪魔な枝葉を切り落としながら不規則に頂点へと突き進む。

             

            「嘘だろ……!」

             

             いつまで経ってもその勢いは衰えず、目算を誤った浮雲は足を切りつけられたことで馬鹿げた得物の切れ味を思い知る。ついでのようになます切りにされた樹は足場として心もとなく、咄嗟に翼で空へと逃げる。
             眼下には、千鳥、揺波、サリヤという脅威。いかに佐伯とジュリアという荷物が居たとて、機を先した浮雲たちの有利がもはや失われていることには変わりなかった。

             

            「ちっ……架崎、退くよ!」

             

             土産とばかりにジュリアへ矢を放った浮雲は、その矢が揺波に落とされたのを横目に急降下し、架崎を抱えて飛び上がる。千鳥が追撃を試みようとするも、瞬く間に空の点となった二人に届くことはなかった。
             場に残ったのは、僅かに舞った土埃と冷えた空気、そして戦いの余韻。

             

            「終わっ、た……のか……?」

             

             佐伯の一言で、再度彼らは認識する。
             嵐のように訪れた襲撃者が、嵐のようにまた去っていったのだ、と。

             

             

             


            「サリヤ……サリヤぁ……!」
            「ジュリア様ぁ……よくご無事で……。お怪我はありませんか? ちゃんとご飯食べていましたか? 私がいながら、本当に、本当に、ごめんなさい。ヴィーナがなかったらこうして再会することもできませんでした。ありがとう、ありがとう……!」

             

             架崎が謎の原理によって現出させたコルヌの氷も、時間が経ち、彼が遠く消えたことで、自然と溶けていった。少しぬかるんだ洞窟前を避け、木陰で一息ついていた一行の中、再会を果たしたサリヤとジュリアが涙ながらに抱擁を交わす。
             彼女たちの間で交わされる言葉は異国のものであったが、揺波たちにその大まかな内容を察するのは容易い。千鳥から貰った軟膏を傷に塗りながら、主従というより姉妹のような二人を揺波は微笑ましく見守っていた。

             

            「いっ……っっ……! おい忍、もっと丁寧にやれ!」
            「傷が深いんだから響くような声出さないでって! 治療は最初が肝心なんだから、やってもらってるだけ有難く思ってくださいよ」

             

             丸まった佐伯の背中は、拭ったところで未だ血が滲む有様だった。千鳥が根気よく対処し、薬を塗れる程度には収まったものの、ちょっと動こうものなら出血するので、きちんとした対処と安静が必要なのは明らかだった。
             そんな彼の苦悶に、ジュリアの顔が曇る。

             

            「アノ……それ、ゴメンナサイでした……ワタシ、のせいです」
            「ジュリアさんが謝る必要はありませんよ。私は当然のことをしたまでです」
            「私からも……ジュリア様を助けてくださって、ありがとうございました。特に……サエキさん、でしたか。あなたはならず者からもジュリア様を救い出してくださったようで。この御恩は決して忘れません」

             

             異国人にも関わらず、丁寧に膝を折り、流暢な言葉遣いで頭を下げるサリヤ。千鳥はそうした彼女の一部に、見てはいけないものを見たようで、咄嗟に赤くなった顔をそらす。もちろん手元を狂わせた千鳥を、悲鳴を噛み殺した佐伯が睨みつける。
             そんな中揺波は、襲ってきた敵に思い馳せていた。

             

            「あの人たち……ジュリアさんも狙ってましたけど、わたしの名前も呼んでたし、もしかしたらわたしを狙ってきた人たちかもしれません」
            「あんたらどんだけおっかない連中に目つけられてんだよ……」
            「ジュリア様は、まあ……うーん、命というよりは、たぶん造花の技術に用があると思うの。ゆりなちゃん? にも用があったんだとしたら、一挙両得ってことだったんじゃないかしら。あの二人には、現にそれができるだけの力があったんですもの」

             

             沈黙する一同の脳裏には、メガミの権能でしかありえない氷と翼がよぎっていた。そしてその先で行き着くのは、彼らに対抗できた鉄の獣、それを操るサリヤの存在である。

             

            「……まあ、ここで考え続けたところで仕方ないだろう。この乗騎といい、造花結晶? とやらといい、ジュリアさんたちに聞きたいことも山ほどある。が、こうしてご活躍いただいたサリヤさんも、長旅で随分とお疲れのようだ」
            「え、あ、私は……!」
            「愛馬もですね」

             

             否定するサリヤの見てくれは、近くで見ればそれはひどいものだった。森を無理やり駆け抜けたせいで全身に細かい擦り傷が走っており、長い銀の髪は土埃にまみれてごわごわ。今にも落ちそうな瞼は目元のくまも相まって眠気を主張してやまない。もちろん、彼女の乗騎にもひた走り続けた汚れが散見された。
             救世主の登場までには、それ相応の苦労があったのだ。いかにしっかりしていそうな彼女とて、容姿に気を回せぬほどには。

             

            「里はそう遠くありません。私の傷もありますし、まずは一休みしてからにしましょう」
            「はい……お言葉に甘えて……」

             

             苦笑いしながら提案を飲んだサリヤ。彼女のお腹に飛び込むジュリアの顔には、悪戯めいた笑みと、心の底からの安堵が浮かんでいたのだった。

             

             

             


             目まぐるしい大乱戦。その果てにどうにかひとまずの勝利、そして安息を得た天音揺波ら一行。彼女ら同様に君も混乱しているだろうが、ここはひとつ落ち着いてくれ。物語の裏、様々な事情はどのみちすぐに語ることになるさ。

             それよりも、今は彼女たちの話をしよう。

             サリヤ・ソルアリア・ラーナーク、そして彼女の従える蒸気と鉄の獣ヴィーナ。
             君のことだからもう予想はついているだろうから、変に勿体付けずに言ってしまおうか。彼女、いや彼女たちこそが四柱目だ。

             メガミになった人間という時点で前例は少ないが、彼女はその中でもとびきりのイレギュラーさ。この地の人間でない、つまり、そもそもミコトですらないんだからね。

             とはいえ、彼女の実力は折り紙つきさ。目の当たりにした君も理解しているだろう? 鉄の獣を駆っての機動戦闘、そしてその推進力ゆえに、鞭と剣の長所を合わせたようなあの武器が成立する。
             かの時代の人間では最強の一角だよ。まあ、最強であるには、いささか前提条件が多いようだけどね。そもそも、桜の下では戦えないわけだし。

             君にとっては関係ないか。
             今は桜降る代、彼女を宿すならば問題はない。
             象徴武器たる乗騎ヴィーナは現出し、前提は全て満たされる。
             彼女の鋭利なる技、君には使いこなせるかな?

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             


             
             

             

             


             

             


             
             そして彼女の異常性の根幹、なぜメガミになったのか。
             君の疑問は尤もだ。だが、闇昏千影のときと同様、今すべてを語ってはつまらない。これからの物語にこうご期待というところだね。

             だが、その異常を成し遂げた裏に、もう一人の少女がいたことは間違いない。
             蒸気迸る鉄の獣、その生みの親。彼女は天才であり、そして下手をすると、かのメガミと比肩するほどにイカレた技術者なんだからね。
             鉄の獣には、まだまだ秘密があるということさ。



             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             
             サリヤ・ソルアリア・ラーナーク、ジュリア・ヴェラシヤ・クラーヴォ。彼女らの席が埋まり、英雄たちにとって、欠けた席はいよいよあと一つ。


             「彼女」が目覚める時、英雄譚のおぜん立ては、すべて整う。

             

             

            語り:カナヱ
            『桜降代之戦絵巻 第三巻』より
            作:五十嵐月夜  原案:BakaFire 挿絵:TOKIAME

             

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