記事目録

2018.02.21 Wednesday

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    『桜降る代に決闘を』の公式サイトはこちら

     

     

    第0話:或る最果ての社にて

    序章:小さな地の小さな野望

    第一章:天音家の戦い

    第二章:ふたつの旅

     

    第36話:帰路へ

    第37話:メガミへの挑戦

    第38話:影の目覚め

    第39話:世界が反転するとき

    第40話:滲む平穏

    第41話:再び忍の里

    第42話:忍の里防衛戦

    第43話:戦火の後で

    第44話:縁途切れず

    第45話:闇昏千鳥

    閑話:ある愚者の脱走

    第46話:歴史と文化の都

    第47話:世の趨勢

    第48話:叶世座公演

    第49話:事態急変

    第50話:望まれぬ戦いへ

    第51話:古鷹京詞

     

    しばらくは週間連載となります。次回は2/23(金)更新です。

     

     

    最新記事

    外套の裏には歪な心(後篇)

     

    過去の記事(上の記事ほど新しいです)

    外套の裏には歪な心(前篇)

    大決戦のために問題解決

    大決戦の時は近い!

    公式ネットショップと再版計画

    雄大な地に鐘が鳴る(後篇)

    雄大な地に鐘が鳴る(前篇)

    今後の展望、2017冬

    コミックマーケット93と公式通販

    第参拡張の修正とお詫び

    新たなメガミと未来へ拡張

    第参拡張とゲームマーケット2017秋

    イベントは次のステージへ

    コラボカフェがやってくるぞ!

    新たなメガミと原点に回帰

    テレビに出ることになりました

    質疑応答の時間です

    決定版に向けて大調整

    これまでとこれから

    未来をつくるために(後篇)

    未来をつくるために(前篇)

    炎天は熱く熱く輝く(後篇)

    炎天は熱く熱く輝く(前篇)

    今後の展望、2017秋

    技の果てはどこまでも静か(後篇)

    技の果てはどこまでも静か(前篇)

    より楽しいイベントを目指して

    新たなメガミと怒涛の疾走

    第弐拡張やイベントの速報をお届け

    より良いゲームのための見解報告

    新たなメガミと狂気を組立

    忍の道をいざ行かん(後篇)

    忍の道をいざ行かん(前篇)

    今後の展望、2017夏

    悠久不変に舞い踊れ(後篇)

    悠久不変に舞い踊れ(前篇)

    ゲームマーケット2017春まとめ

    全国大会に向けていざ進め!

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    今後の展望、2017春

    新たなメガミには毒がある

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    第一幕の覇者たちを讃えよう!

    今後の展望、2016冬

    第二の幕開けは近い:後篇、新作発表

    第二の幕開けは近い:中篇、問題解決

    第二の幕開けは近い:前篇、問題提起

    新たなメガミをお出迎え

    今後の展望、2016秋

    楽しき代のためカード調整

    今後の展望、2016夏

     

    次回更新は3/2(金)を予定しております。

     

     

    『半歩先行く戦いを』

    第1回:前進と後退

    第2回:全力で行こう

    第3回:切札は秘めてこそ

    第4回:攻めと守りに基本あれ

    第5回:決闘いろいろ小噺集

    第6回:30秒で組み上げな

     

    『双つその手に導きを』

    第1回:ザ・ビートダウン

     

    次回更新は2/23(金)を予定しておりますが、著者のお仕事の都合で2/30(金)になる可能性もございます。

     

     

    シーズン1 作:hounori先生

    第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回

     

    シーズン2 作:あまからするめ先生

    第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回

     

    シーズン2はデジタルゲーム版のメガミ紹介も兼ねております。そんなかんじでよしなによしなに。

    次回は3/7(水)更新です。

     

     

    コラボカフェ開幕式&閉幕式

     

    錦秋の大交流祭レポート

     

    全国大会レポート(前篇)

    全国大会レポート(後篇)

     

    第1回 第2回 第3回 第4回 第一幕最終

    第1回大乱闘 第2回大乱闘

     

    しばらくは更新予定はありません。次の大規模大会は、もちろんレポートいたしますよ!

     

     

    桜降る代のゆるい午後2:第9回

    2018.02.21 Wednesday

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      ゆるい午後シーズン2は、デジタルゲーム版のメガミ紹介も兼ねているぞ!

      デジタルゲーム版も併せてよろしくよろしく。

       

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      『双つその手に導きを』第1回:ザ・ビートダウン

      2018.02.16 Friday

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         こんにちは、BakaFireです。前回まで連載していたつきのみちさんの攻略記事『半歩先行く戦いを』では、本作全体を通した基礎を解説し、その理解を通して勝率の向上を目指しました。事実、このシリーズを一通りお読みいただければあなたの立ち回りは大いに洗練されることでしょう。
         
         もしあなたがまだお読みでないのであれば、実に勿体ありません。お時間が許せば、是非ともご一読ください。こちらよりどうぞ。
         
         さあ、シリーズを読み終え、基礎は理解しました。今こそ大会に出ましょう! しかしそこで再び問題が生じるかもしれません。大会に出るにはあなたの使うメガミの組み合わせを決めなくてはならないのです。趣味や思い入れ、あるいは確固たる戦略で選ぶのが一番ですが、それらがない場合は「強い組み合わせは何なのか」や「その組み合わせがなぜ強いのか」を参考にするのは良いやり方です。
         
         そこでこちらのシリーズでは初級者から中級者を対象に、メガミの組み合わせ単位での攻略記事を紹介いたします。このシリーズをお読みいただくことで、有力な組み合わせがなぜ有力なのかを理解でき、使う上での指標にも、相手をする上での対策にもなるでしょう。
         
         紹介する組み合わせは、以下のルールで決めております。
         

        • 基本セットに登場するメガミの組み合わせである。拡張のメガミは熟練したプレイヤーに向けたデザインであることが多く、本シリーズの目的には即さない。
        • 大会などで十分な結果を残している。
        • 全6回それぞれの戦い方が十分に異なる。例えば、近距離でビートダウンする組み合わせを2つ以上紹介するつもりはない。

         

         前シリーズと同様の理由から、本シリーズを書くのも私ではありません。大会で十分以上の結果を残し、そして扱う組み合わせに熟練したプレイヤーの皆様に執筆をお願いすることに致しました。毎回、異なるプレイヤーが記事を書くことになります(私個人の居住地の都合より、関東のプレイヤーにお願いすることになりますがご容赦ください)。
         
         しかし、攻略本の執筆より抜擢されたつきのみちさんは別としても、記事を魅力的な文章で書くのは簡単ではありません。そこで本シリーズでは、扱う組み合わせについてのインタビュー形式で進めさせて頂きます。

         

         第1回は正統派のビートダウンデッキとして、ユリナ/オボロを扱います。それでは、早速はじめましょう!

         


        著者紹介:tot
         第一幕ランキング1位、第1回全国大会ベスト8、錦秋の大交流祭4勝1敗。本作を発売から今日にかけて遊んで頂いている古株のプレイヤー。ビートダウンを特に嗜好するが、多くの型のデッキを使いこなすオールラウンダーでもある。


         

        双つその手に導きを

        第1回:ザ・ビートダウン

        著:tot

         

        ■この組み合わせの特徴を教えてください。特に、なぜ近距離ビートダウンにおいて優秀なのかを説明して頂ければと思います。

         

         ライフダメージ2の攻撃札が多く、ビートダウン同士の殴り合いは勿論、通常のビートダウンでは間に合わないような速攻コンボにも、真正面から殴り勝てる打点の高さが特徴です。設置からのラッシュや「忍歩」による対応不可攻撃、切札を絡めたコンボなど、相手の防御を強引に突破する手段も豊富にあり、近接火力において右に出る組み合わせは早々ありません。
         
         また、火力だけでなく、そこそこの防御力を持ち合わせている点も優秀です。防御型のメガミに比べれば劣りますが、「忍歩」や対応切札によるここぞの防御力はビートダウンが持つには十分に高く、攻撃に集中しながらも、相手の大技で致命傷を受けることを避けて戦えます。
         
         総じて、多くの相手にビートダウンの本分である「殴り合い」を挑んで有利に立ち回ることのできる、ビートダウンの代表と呼ぶに相応しい組み合わせです。

         

         

        ■この組み合わせでサンプルデッキを作成し、そのデッキの強みを教えてください。

         

        【通常札】斬、一閃、居合、影菱、鋼糸、斬撃乱舞、忍歩
        【切 札】天音揺波の底力、月影落、浦波嵐

         

         デッキ10枚中9枚が攻撃カードであり、「影菱」を含めると通常札にライフ打点2の攻撃が5枚もある火力に特化したデッキです。全力攻撃を3枚採用し、ユリナ/オボロの中でも特に強力な動きである「設置からの全力攻撃」を狙いやすい構成になっています。

         


        ■サンプルデッキを使う際、桜花決闘で意識すべき点を教えてください。

         

         このデッキを使う際は、強気に攻めることを意識すると良いです。


         ライフ打点が極めて高いデッキなので、ノーガードの殴り合いならば大抵の場合、こちらがライフレースで優位に立てます。相手に大技を当てられて先行されたとしても、設置からの「天音揺波の底力」で一発逆転を狙えます。


         相手が反撃よりも防御を優先するようであれば、攻撃カードの多さを活かし、常にオーラを攻め立てましょう。下手に自分が纏うよりも、ライフ打点の高さで圧力をかけて相手に纏を強要し、攻撃する余裕を与えないことが重要です。まさに「攻撃は最大の防御」ですね。

         

         より具体的な動き方や意識する点は以下の通りです。序盤・中盤・終盤の目安として、それぞれデッキ1順目、2巡目、3巡目以降に分けて解説します。


        ※再構成回数とゲーム展開は前後することもありますので、目安として捉えてください。

         

        <序盤:デッキ1巡目>
         間合い的に攻撃は殆ど振れません。まずは最初の再構成で設置攻撃を当てることを目標に前進します。


         途中で「手裏剣乱舞」を当てられると、リソース差を大きくつけられるので、後の展開が楽になります。その際に手札や集中力が溢れると勿体無いので、相手の攻撃が来ない間合なら、毎ターンのリソースはこまめに消費します。「手裏剣乱舞」を当てることに拘泥して、防御を疎かにしないように注意しましょう。

         

        <中盤:デッキ2巡目>
         まだ相手の切札で即死しない場面です。ここで如何に相手のオーラ・ライフを削れるかが重要です。とにかく強気に攻め、設置を除く攻撃カードはできるだけ表向きでプレイすることを目指します。


         切札なしで相手ライフに2点以上与えられるなら、大抵の場合、ノーガードで攻めてもOKです(相手の対応の計算は忘れないこと)。それ以外の場面でも、相手のカードプールにある「ライフダメージ≧オーラダメージの手痛い攻撃(2/2攻撃など)」をオーラ受けできる分の自オーラがあれば、攻めるには十分です。


         攻撃が早々通らないコントロール相手の場合は、防御を優先し、再構成時の設置攻撃からダメージを狙います。

         

        <終盤:デッキ3巡目以降>
         デッキ2巡目でダメージを取れているならば、あと一押しです。無理に攻めると相手の切札で即死するので防御の優先度を高め、切札を絡めたラッシュで相手ライフを削り切れる手札が揃うのを待ちます。相手を確実に倒せるまではフレアを温存し、いつでも「浦波嵐」、「忍歩」で対応できるようにしておきましょう。

         


        ■相手に合わせてサンプルデッキの何枚かを変更することがあるかと思いますが、変更するカードの候補や、どのような相手の時に変更するのかを教えてください。

         

         通常札は主に「居合」と「斬撃乱舞」が変更候補です。相手に応じて片方あるいは両方を対策カードと入れ替えます。例えば、中・遠距離キャラ相手には、代わりに「足捌き」や「遠当て」を入れると良いでしょう。攻撃手段の少ないコントロール/コンボ相手ならば、「圧気」も有効です。

         

         切札は相手の持つ対応カードを踏まえて、当てやすいカードを選択します。例えば、移動対応持ちのメガミに対して「月影落」は当てづらいため、代わりに「鳶影」を入れ、「鳶影」→「忍歩」からの対応不可攻撃を狙う、などです。


        ■この組み合わせで組めるサンプルデッキ以外の方向性のデッキや、コンボ、ギミックなどはあれば教えてください。

         

         大抵の事は近接ビートで解決できる一方で、近接ビート以外の構築は苦手な組み合わせです。コンボやギミックは強力なものが揃っていますので、そちらから2つ紹介します。

         

        【虚魚+浮船宿】
         問答無用で相手のオーラを全て破壊できます。通常札のライフ打点が高いため、相手に対応が無ければ、他に切札を使わずともライフに4〜5点は与えられます。


         このコンボに「鳶影」と「忍歩」+設置攻撃を合わせると、確定で2ダメージを与えられます。準備には時間がかかりますが、ライフ1点差を守り抜くような重コントロール相手には極めて有効です。「忍歩」・「影菱」を伏せ札に仕込みつつ、手札に「一閃」と「鋼糸」が揃うのを待ってから発動すると良いでしょう。手札に必要なカードは2枚だけなので、妨害がなければ、デッキ引ききりで必ず揃えられます。


         また、自分のオーラが空になるので、遠距離で戦う相手への前進手段としても有用です。

         

        【鳶影+足捌き】
         対応で打てば、大抵の中・遠距離攻撃を躱せます。間合いの変化により後続の攻撃も打ちづらくできるため、本作でも最高クラスの対応性能を誇ります。


         事前に「足捌き」を伏せる必要があるため、やや使い方が難しいコンボですが、伏せ札を1枚作るだけでも、相手に圧力をかけられるので意識すると良いでしょう。

         


        ■この記事を読んだ上で、大会に出る方に一言お願いします。

         

         ユリナ/オボロは、シンプルに攻撃カードを叩き付けるだけでも十分に強く、初心者にもオススメの組み合わせです。一方で、防御面は「盤面の圧力」で身を守ることが重要であり、突き詰めると、豪快な戦闘スタイルとは裏腹に、緻密なプレイングが求められる奥深さも持ち合わせています。初心者上級者問わず、ビートダウンが好きな方は、ぜひ使い込んでみてください!

         

         

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        『桜降る代の神語り』第51話:古鷹京詞

        2018.02.16 Friday

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           ここまで来てしまったら、もはや前置く言葉はあまりに少ない。
           天音揺波と古鷹京詞の桜花決闘。避けられなかったその戦いを、カナヱはただ語るだけだ。
           そして、その先を――迎えた結末を、ただただ語ることにしよう。

           

           

           


           半日足らず。たったそれだけしか経っていないのに、篝火で浮かび上がる舞台への道は、揺波にはあまりにも長い時間が過ぎてしまったかのように、ひどく違ったものに見えていた。

           

          「…………」

           

           黙々と、一歩一歩進む一人きりの道。古鷹は先へ、そして藤峰も罠の可能性を探るべく先に舞台へ向かった。反応を窺うどころか、古鷹はその動きに「どうぞご自由に」とまで言ってのけた。
           古鷹京詞という男は、真実、桜花決闘によって何かを決めようとしている。けれど、その動機が揺波には分からない。その動機が勝利の報酬という矛盾が、集中しなければいけない揺波の心をかき乱す。

           

           盤外がいくら歪だからといって、これから行うは紛れもなく桜花決闘だ。いかに相手が大家の当主であろうと、揺波に負けるつもりはない。勝った結果として、押し通してまで揺波にさせたかった何かができず、古鷹が何かを失うことになっても、それは変わらない。
           だが、と視界に流れていく篝火を揺波は眺める。
           その向こうに幻視する龍ノ宮一志に、本当にこれでいいのだろうか、と問うことだけは、どうしてもやめられなかった。

           

           と、

           

          「……?」

           

           向こう側、舞台のほうから揺波のいるほうへ向かって、歩いてくる者がいる。ちょうど、離れから廊下に降りてきたようだった。
           最初はうまく見定めることができなかったが、次第にその影が自分より小さなものであると気づいた揺波は、それが本来この時この場所にいるはずのない少女だという結論に辿り着き、驚きを得た。

           

          「久遠さん……?」

           

           歩み来る少女は、確かに幾年久遠その人である。
           やや混乱を生じつつも、ここは仮にも騒乱の場である、と思い至った揺波は、親切心からはっきりと彼女を呼び止めようとして、

           

          「久遠さ――…………っ!」

           

           口も、そして足も、動かすことができなくなった。
           じわじわと密度を上げていく圧に押し潰されるように、次第に息も苦しくなっていく。
           その源は、揺波の前から優雅に、そして静かに迫っていた。

           

          「…………」

           

           

           扇で口元を隠し、淀みなく歩を進める久遠。その動きに無駄はなく、髪先の揺れ一つとっても完成されきっているという印象を強烈に与えてくる。彼女の歩みを止めることが、いや、余計な声を出すことすら許される者がいるのだろうか――息苦しさに喘ぐことすら琴線に触れてしまうようで、ただただ揺波は久遠が通り過ぎるのを待つしかない。
           しかし、だ。圧を放つ久遠から感じるのは、静謐さではない。

           

           研ぎ澄ました顔からにじみ出ているのは、隠すことのできない憤怒。
           煮えたぎるそれを土台にしてもなお、静かで、美しい。人知を超えた計り知れない表現を肌身に受けて、揺波は恐ろしさに脂汗を流していた。
           これと同じものを、揺波は知っている。そして、あの殺意の炎の持ち主と同類であることを確信する。何故メガミだと今まで気づかなかったのか、と身も蓋もない後悔が彼女を襲う。

           

           この廊下は今、あの日の龍ノ宮城と同じだった。
           龍ノ宮一志とヒミカの関係も、そのまま古鷹京詞と久遠に映し出されているよう。
           あのときは細音がいた。神座桜の近くだったから、生き延びることができた。
           揺波が意識するのは懐の神代枝。先手を打たれて生きていられる保証はない。
           いつでも使えるように手を添え、覚悟を決める。

           

          「止める、んですか……」

           

           重い空気をかいくぐるようにして、その言葉は確かに久遠に届いたはずだった。
           実際、眉間に皺を寄せた久遠は、それでもなお美しく不愉快を露わにした。
           これまでか――そう、神代枝を掴む指に力を込めようとした揺波だが、

           

          「いいえ。どうでもいいわ」

           

           返答は、心底つまらなそうな否定だった。揺波すら見てない久遠は、そのまま揺波の横を通り過ぎ、母屋に消えていった。
           圧から解放された揺波は、生まれた安堵と大きな疑問をよそに、深く息を整える。
           どれだけ多くのしこりが残されていようとも、彼女が相対すべき敵は、この先で待っているのだから。

           

           

           

           


           夜更けにも関わらず、舞台は光に満ちていた。

           

          「……いいんですね」

           

           数時間前には皆が舞い、奏でた舞台には今、二人の主役が立っている。左手には揺波、右手には古鷹。四方に灯された篝火とは別に、天井からは上品な明かりが二人を照らしている。背景とした白金滝桜の輝きと相まって、既に絵になる美しさであった。
           人の身の観客はただ一人。この公演場への出入り口を警戒する藤峰のみである。彼からの異常なしという報告は、気休め程度ではあるが揺波から肩の荷を一つ下ろさせた。

           

           向かい合う古鷹の返答はない。堅く口を結んだ彼からは、その感情を読み取れない。袖と袴の裾だけが、小揺るぎもしない枯木のような彼が生きているのだと教えてくれる。
           それを見て揺波は、不要なもの全てを切り捨てるように、一言、宣誓する。

           

          「天音揺波。我らがヲウカに決闘を」

           

           手にした斬華一閃の重みは、ザンカの期待の重みである。そして、揺波の勝利への執着心もまた加わっているようだった。桜の下で相手と対峙した今、刃を露わにするにつれて霞のように残った存念が消えていく。
           それに応じるのは、色のない古鷹の声。

           

          「古鷹京詞。我らがヲウカに決闘を」

           

           胸の前で虚空を右手で握り、左手を添えた古鷹。右腕を前へと伸ばすにつれ、そこにはなかったはずの扇が水平に開かれていく。
           次いで、その扇の優美さを魅せるように、顔の前で一振り、二振り。すると、いつの間にか彼の顔は何やら奇妙な下三角の薄い石版で隠されていた。ぐるぐると描かれた一対の模様はまるで目のようで、彼の眼前に浮かんでいるそれは古の仮面のようだと揺波は感想する。左右に行ったり来たり、本当に表情を隠すことが目的ではないようで、やや安堵した。

           

           そんな仮面は、ただ奇妙なだけではない。ともすれば生きているとさえ思わせるような、生命力と存在感がひしひしと伝わってくるのだ。
           世を襲う現象の例外たる揺波とザンカを指して、似たようなものだ、と言った古鷹の言葉を揺波は思い出す。扇も、仮面も、僅かな綻びも感じさせない。それは、古鷹もまた、例外的なメガミを宿しているという事実を指す。

           

           相手にとって不足はない、といった熱意は揺波には沸かない。最も大切なのは、今ここに立つ相手の動きを判断し、最適な対応をすること。相手の失策を最初から期待していない揺波にとって万全な状態の相手とは、自他共に想定外な動きに構える必要がなくなるということでしかないのである。

           

           だからこそ、揺波はただ相手を見据える。
           古鷹京詞の一手を、見極めるために。

           

           

           

           


           間合いの変化は静かだった。

           

          「…………」

           

           しん、と多くを静寂が支配する場に、板を踏む音が窺うように響く。方や揺波の靴の硬い音、方や古鷹の厚い足袋の微かな音。
           両者とも、ゆっくりとだが着実に間合いを詰めている。窺うような古鷹の足音は、前を志向することに消極的であることを示している。だが、後退の意思はそこにはない。着実な一歩は意図を感じさせないよう、巧妙に作られている。

           

           息を呑むような静かな状況は、彼が演出したと言っても過言ではなかった。近い間合いを得手とする揺波でも、即座に距離を詰めようとは思えなかった。作られた状況下において、攻撃の届かない中距離を一気に駆けることに危険を感じたのである。
           だが、それとは別に警鐘を鳴らすのは、渦巻く仮面の瞳であった。時折静かに鈍く輝くそれは、間違いなく何かをしている。遠距離攻撃であれば、現在の間合いにいるのは上策ではない、という板挟みの状況が既にできあがっていた。

           

          「っ……」

           

           踏み込むべきか、もう少し出方を窺うべきか。
           未だ打ち合ってもいない段階で僅かに逡巡する揺波だったが、その隙に別の選択を強いられることになる。

           

          「やッ!」

           

           ゆるりと構えていたはずの扇を、古鷹は俊敏な動きで揺波へと放った。空を駆ける扇は、獲物を見つけた猛禽類のように一直線に正中を狙う。
           咄嗟に刀を盾にし、保険とばかりに結晶も構える。
           だが、

           

          「う、く……!」

           

           水平に羽を広げる扇は、立てられた刀を避けるように身を倒す。そして守りとした結晶をあざ笑うかのように、ひらり、風に舞うような優雅さで潜り込んだかと思えば、脇腹への打撃を為した。啄まれた体内の結晶が、塵となって舞台に輝く。
           必要以上に様子を窺っていたからこそ受けてしまった先手。後悔すべきところを、揺波は前への原動力へと変えた。

           

          「はぁぁッ!」

           

           未だ投擲の残心を解いていなかった無手の古鷹に対し、右下段から腹を薙ぎ切るような一刀を繰り出す。
           けれど一寸踏み込みが浅いことを見切ったのか、古鷹は半歩下がりつつ半身になりながら、揺波の切っ先が帯を掠めたところで、斬華一閃を送り出すように優しく左手を振り下ろした。その手には、投げたはずの扇が既に顕現し直されている。
           自分の力以上の推進力を刀に与えられて、揺波は体勢を崩しそうになる。しかし、これを揺波は身体を回転させることによって、不完全ながらも更なる攻撃へと転じる。

           

          「ぃ――ぃぃやッ!」
          「ほう」

           

           回転力を乗せ、半ば飛びかかるように彼の背を斬りつける一撃は、彼女の貪欲さと技巧が生み出したものである。切り返しの間に合わなかった古鷹は、左肩に傷を甘んじて受けた上で猛る揺波を正面に捉え直そうと試みる。
           さらに一歩、滑るように間合いを離す古鷹を、揺波は逃さない。有効打の代わりに陥った無理な体勢の中、強靭なばねで踏みとどまる右足は、確信によって支えられている。切っ先が届かなくなる前にあと一撃、放つだけの猶予を彼女は自覚していた。
           だが、

           

          「ぁ、っと……?」

           

           その踏ん張りが、突如利かなくなる。揺波の信じていた三撃目のための力を否定するような、そんな虚脱感が彼女を襲った。
           不可解な現象に追撃を中止、咄嗟に後退し、離した間合いで体勢を立て直す。
           再び泰然と構えた古鷹の顔を、仮面が半分ほど遮っている。彼はやはり無表情であったが、仮面の模様に帯びた光が仄かに胎動している。己を襲った虚脱感は仮面による力か、と評価を付け加える。

           

           けれど、離れた間合いにいる意味がないことを揺波は既に理解している。古鷹が迫ってくることはないが、風に舞う扇は容易く距離の壁を超えてくる。さらにはこの仮面の力だ。
           虚脱が解けたことを確認するなり、もう一度飛び込んだのは道理であった。

           

          「ふッ――」

           

           揺波の一手は、小さくまとまった下腹部への切りつけ。これもまた、そう避けることが台本に書かれていたような自然さで、古鷹は身を捻って避ける。返す刀で狙うは扇を持つ右手であり、あてがわれた結晶の盾を奪い去るが、流れを作るような決定打には至らない。
           さらに喉元を狙った突き込み。けれどそれは閉じた扇に痛打され、古鷹の首の僅か一寸隣を抜けていく。身体を前に差し出すことになった揺波は、がら空きになった自身の喉元に緘尻――扇の根元を合わせられ、自身の推進力を身をもって味わうことになる。

           

          「ぉ、ごっ……」

           

           突き出した刀を振り払い、飛び退くことで追撃は阻止したものの、繰り出した攻撃の手応えは、塵と消えた結晶に比べて見劣りしてしまう。
           届いている攻撃はある。けれど、古鷹の芯をあと一寸捉えきれていない。彼の舞うような戦いは、揺波の攻撃を華麗に受け流してしまう。舞という印象だけで言えば細音と似たような印象であるが、その実、打ち合う様は比ぶべくもない。

           

           細音は薙刀の間合いの広さ、そして八相の構えによって後の先を得手とするが、流れるような薙刀捌きから繰り出される連撃もまた強力無比である。守りを切り捨てているにも関わらず、自らも攻め、撃ち合いすら演じてみせる彼女は基本的に前を志向するミコトだ。
           けれど古鷹は違う。徹頭徹尾、後の先を志向している。
           自ら攻めることはなく、攻撃をいなし、揺波にできた隙を鋭く刺す。攻撃は最大の防御と言うが、それは攻撃によって相手の動きを支配できたときに限られる。守りによって攻撃者を支配し、間隙を縫うように繰り出す防御不能の一撃によって古鷹は攻めるのだ。

           

          「ふぅぅ…………」

           

           達人。そう呼ぶべきなのだろう。
           数度の撃ち合いによって知り得た古鷹京詞というミコトを、揺波はそう評さざるを得なかった。

           

           龍ノ宮の苛烈な攻めを最強の矛とするのなら、古鷹の鉄壁の守りは最強の盾。ハガネとの決闘も経て、強大な力を捌く術を揺波は磨いていたが、これほどの守りを持つ者を相手にした経験はない。舞うような立ち回りを得た細音との死闘がなければ、届かない刃の歯がゆさに致命的な焦りを得ていたことだろう。
           ただ、正反対とはいえ、恐ろしさでいえば龍ノ宮と同等だという事実がまだ救いだった。あのとき彼は本調子ではなかったのだろうが、古鷹と同じ領域に立つ者を、さらには彼らに力を与える立場の者を、今まで打ち倒してきたという自信が、己と向き合わされるようなこの決闘での支えとなっていた。

           

          「…………」

           

           古鷹はやはり、間合いを詰めてくることはない。彼の描く決闘の筋書きにそのような動きは載っていないとでも言うようだった。
           それに三度距離を詰め、刃を向ける揺波。彼女の考えることは一つ、古鷹の守りを崩すことである。
           方策はある。ザンカの威風を、より細かく、より稠密に発揮させるのだ。感覚的には、守りの手を気で圧するようなもの。龍ノ宮戦のように激しい攻撃を縫う必要がない以上、やれないはずはなかった。

           

          「やッ!」

           

           小さな踏み込みから、牽制よりも僅かに力を込めて切り下ろす。右肩から左脇腹へ抜けるような軌道は、身を倒しての回避だけでは避けきれない。揺波の読み通り、古鷹は軌道をそらすべく、左足を引きながら右の扇を掲げる動きを見せた。
           今までであれば、推力を加えられた刀が床を削るところである。

           

           だが、刀と扇が触れ合った瞬間。
           全身に溜め込んできた気を、揺波は一気に高める。膨張する圧力は、破裂した際の破滅的な結果を否が応でも相手に悟らせる。

           

          「……!」

           

           その時点で、古鷹の動きはほんの少し、乱れを見せた。床へ刀を送り出す扇の動きを、やや乱暴に加速させたのだ。それは、膨らむ圧の先に待つものへの対処を求められたことからくる焦りによって生まれた動きだった。
           そして、揺波にとってその対処はむしろ好都合だった。

           

          「はぁぁッッッ!!」
          「ぉ、ぐ……!」

           

           臨界を迎えた気の爆発は、結晶の守りを散らす威風となって舞台に吹き付ける。その向きは頭を押さえつけるように上から下――今まで古鷹が揺波にそうしてきたように、刀をはたきおとす腕の動きをさらに加速させる。
           そうして得られるのは、古鷹の体勢の揺らぎだ。構えていた分、揺波の返しはこの戦いの尺度で言えば圧倒的に速い。
           いかに僅かな間だったとしても、そこには確かに、守りは存在していなかった。

           

           相打ちを狙うかのように仮面が光を帯び、揺波の腕を痛みが襲う。けれどそれは、虚脱でない以上攻撃の妨げにはならず、相打ちを望んだ以上、彼は今、己を守るための技を繰り出せないと告げたようなものだった。

           

          「っくぁッ!!」

           

           強烈な逆袈裟が、古鷹の胴を裂いた。砕け散る結晶は、確実な負傷の証だった。

           

          「く……!」
          「ふッ! てェァッ!!」

           

           彼に構え直す暇を与えぬよう、刀を振るえるギリギリまで至近し、今までの負債を払うように切りつけていく。古鷹は今、守りとする結晶を持たない。吹き荒ぶ揺波の気に盾を奪われた彼へ、芯を打ち据える斬撃が見舞われていく。
           有効打の感覚を受け、機を見た揺波に浮かぶのは勝利の二文字。手の届くところまで降りてきたそれを掴むべく、渾身の一撃を決意する。

           

          「つき、かげ――」

           

           跳び上がった揺波の背には、天井に据えられた舞台照明。満月のように丸いその光を浴びた彼女の影が、見上げる古鷹へ降り注ぐ。

           

          「――おとぉぉぉぉぉおし!!」

           

           

           全霊を込めた一撃が、仮面ごと叩き切ろうと振り下ろされる。
           竹を割るような痛快な一撃は、無防備な古鷹にとっては趨勢を決する威力を有している。受けたが最後、数多の結晶の塵を吹き散らし、決着を迎えることは避け得ないはずだった。

           

           だが、

           

          「久遠の花を――」

           

           

           ぽつり、と漏らした古鷹は、両手に扇を広げ……舞った。
           自らを花弁と見立てるように、両腕を咲かせ。
           雨風に負けることなくたおやかに咲き続けるように、揺波の一刀を受け流す。むしろそれは、斬華一閃のほうから傷つけまいと避けているようですらあった。
           そして、花は吹雪く。

           

          「君が摘める道理はない……!」
          「が――!?」

           

           無防備に落ちてくる揺波の腹を目掛け、見舞われる返しの一撃。結晶が身代わりとなってなお、弾き飛ばされる揺波に重い痛みが襲いかかる。
           苦悶しながら見上げる古鷹の姿は、風に靡いただけのよう。
           決着はまだ遠く――揺波の渾身の一撃が、破れた瞬間であった。

           

           

           

           


           敗北を知らない揺波には、土に塗れた経験はない。地面に転がって相手を見上げることも。

           

          「ぁ……ぐ……」

           

           月影落は、これまで幾度も相手を打ち倒してきた技だった。辛うじて守り抜いたとしても、すぐそこに詰みの状況が待っているような、そんな必殺の一撃であった。
           それを、躱されるどころか、綺麗に返された。
           戦意を失ったとしてもなんら不思議ではない結果である。

           

           けれど、ここで諦めることは、揺波にはできなかった。
           彼女の眼は、まだ死んでいない。
           彼女の勝利への執念は、決して敗北への道を歩ませない。

           

          「ふぅぅ、ふぅぅ……!」

           

           古鷹を睨みながら、立ち上がる揺波。燃える瞳で見出すのは、平然としているよう見せて、肩で息をしている古鷹の様子。失った結晶も含め、彼もまた万全とは程遠い。
           まだ負けてはいない。決め手が返されたことは、敗北を意味しない。

           

          「はあぁぁ……ああああああぁぁぁッ!!」

           

           意気を高揚させ、空気を震わせたのは、唸りとは違う圧。
           桜の塵が舞い上がり、揺波の闘志を現すようだ。まさしくその様は気炎万丈である。
           左半分が顕になった古鷹が、驚いたように強張り、それから頬を微かに緩ませた。

           

          「行きますッ!」

           

           誰にとはなく宣言した揺波の踏み込みが舞台を揺らす。

           

          「あァッ!!」

           

           猛進し、斬りかかる揺波の振りは軌跡が見えるほどに素早い。それすらもなんなく紙一重で躱してみせる古鷹だが、揺波の切り返しは掛け合いの呼吸を覚えた相手役のように、間断なく為される。
           一振り、二振りとさらに速度を上げて迫る。けれど今、この舞台上で主役は古鷹であった。どれほど焦がれる恋歌を詠もうとも、さらに深みある返歌で窘めるように、執念を纏った斬撃はどれほども彼には届かない。

           

          「はっ!」
          「ぅ……っう……!」

           

           反撃を辛うじて防御した揺波は、戦闘勘に導かれるままに深追いを避け、間合いを離す。
           いかに意気を込めた連撃を見舞おうとも、届かなければ意味はない。その勢いも長く続くものではなく、時間が経つほどに守りによる支配から抜け出すことは困難になる。
           諦める揺波ではない。けれど、現状を打開するような策はもう残っていない。

           

          「はぁ……はぁ……」

           

           現実を前にして挫けそうになる揺波は、それでも挽回の一手を探す。
           と、そんなときだ。

           

          「……?」

           

           刀を握り直そうと緩めた左手が、熱を帯びていることに気がついた。激しい剣戟や熱意によるものではない、果ては熱さとも違う。仄かなそれは、優しく安堵するような力を湛える暖かさだった。
           揺波は、それを知っている。いや、その源を知っている。
           自身の左手にあるものを。自身の左手に宿るものを。

           

           思い起こされるのは、この地、この舞台に至る元凶となったあの戦い。
           求める形は、既に彼女が見せてくれていた。

           

          「む」

           

           斬華一閃を古鷹に向かって投げつける。彼は即座にそれに反応し、足捌きで避けようとするが、あては外れることになる。
           大気に、斬華一閃が解けていく。桜の光となって消えていく様は、自棄になった攻撃などではなく、ミコト自身の意思によって消される顕現武器そのもの。

           

          「ぽわぽわちゃん!」

           

           揺波が掲げるは、信頼すべき暖かさ宿る左手。
           その手に握るは、桜色の長い柄。
           そしてたなびくは、満開の桜並木を思わせるような標。
           暖かな力を導くホノカの旗は、今揺波の手の中に顕現した。

           

           

          「力を!」

           

           大きく振り上げたその旗は、舞台に力の流れを生む。我こそ主役とばかりに集める衆目は、散りばめられた桜花結晶のもの。彼女の示すその先を共に見るため、揺波が巻き上げる気炎の更なる糧となる。

           

          「なん……」

           

           仮面で隠れていても、古鷹の動揺は声に現れていた。投げつけられた刀の変化にも反応していた彼だったが、かき集めた守りの結晶が離反するところまでは、台本には載っていなかっただろう。
           彼女が執念を燃え上がらせる限り、勝負は終わらない。
           揺波の瞳は、古鷹を――その先にあるものを、今度こそ捉えている。

           

          「はあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

           

           なればあとは辿り着くのみ。闘志の権化となった揺波は、前へと踏み出す。
           牽制として振り払われた旗に対し、古鷹が選んだのは後ろへの回避だった。

           

          「くっ……」

           

           飛び退きながら、揺波を隠す旗の尾を巧妙に避ける弾道で扇を投げ込む。決死の前進であっても、攻撃を放つ前に倒れてしまっては意味がない。そんな一手を打った古鷹は、事ここに至ってなお冷静であった。
           けれど、

           

          「お願い!」

           

           揺波は、扇を撃ち落とそうとも、躱そうともしない。
           彼女が掲げるのは、ミコトの証たる結晶輝く左手。
           その輝きが一段と増した瞬間、獲物を食らう鷹のような扇は、見えない壁にぶつかったように力なく落ちていく。

           

          「……!」
          「やああぁぁぁぁぁ――」

           

           そこにもはや、揺波の進撃を阻むものはなかった。旗は花びらとなって消え、彼女の手には再び愛刀が握られる。
           左手の結晶は、守った対価を払うように輝きを失っていく。けれど揺波には、ホノカが背中を押してくれた結果のような気がして、斬華一閃を握る手にいっそう力が入る。
           そして振り抜く一閃の前に、古鷹を守る結晶も、技も、皆無だった。

           

          「――ぁぁぁあああああッッッ!!!!」

           

           横一文字の軌道にそって、彼の身体から砕けた結晶が溢れ出す。
           脱力し、膝をつき、手をついた古鷹に、残された結晶はない。まるで揺波に頭を垂れているようなその姿は、紛れもなく終わりを示していた。たとえ仮面で顔が隠れていても、扇を握りしめていても、それが力を生むことはもうない。
           決着は、ここに成ったのだ。

           

           

           

           


           終わってみれば、舞台は静かなようでいてざわめきに包まれていた。舞台上のものだけに注いでいた集中が緩んだことで揺波が耳にした音は、葉と葉が擦れ合うような、神座桜の鳴き声だった。それが決闘を見届けた桜の歓声のようで、心地よい。

           

          「ふぅ……」

           

           息を整えるこの時間は、揺波がいつも勝利を得た充足感を咀嚼する場だった。けれど、どこか満たされないことに戸惑う揺波は、始まる前に追いやっていたこの決闘の背景を思い出すに連れて、それが虚しさであると思い至った。気づいてしまえば、勝利への一撃を成した斬華一閃が、いやに重く感じられた。
           古鷹は未だ、膝をついたままだ。消え始めた仮面は、勝利を手に彼と話さなければならないその時が来てしまったのだと告げていた。

           

          「え……」

           

           けれど、いざ古鷹の様子を見て、揺波は言葉を失った。
           このまま顔を上げるべきか、それともこの顔を見せぬようにすべきか――そう逡巡するかのように半端に浮いた彼の顔は、決闘中にすら見られなかったほどに、歪んでいた。
           わなわなと震える手が、それが悔しさであると思わせるが、違う。

           

           恐怖。
           古鷹京詞は、恐れにその顔を歪ませていた。

           

          「あ、の……」

           

           尋常ではないその様子に、恐る恐る呼びかける揺波。
           答えは、辛うじて得られた。

           

          「す……」
          「……?」

           

           何かを言いかけて、けれど飲み込んでしまった古鷹に心配を募らせる揺波。結晶が身代わりになってくれたとしても、響いた打撃の余韻や単に集中力の決壊で決闘の後に動けなくなる場合はないわけではない。
           だからこそ、揺波はその左手を、古鷹に差し出した。
           ……その優しさが、引き金となった。

           

          「あっ……!?」

           

           突如、古鷹に左腕を捕まれ、床に引きずり倒すように引っ張られる。がくん、と体勢を崩した揺波は、眼前に迫るものがなんなのか理解して、ゆっくりと流れる時間の中で凍りついた。
           緘尻。刺突用途に用いる場合、最も力の集まる、先程は揺波の喉を捉えたその一点。
           顕現させたままだった古鷹の扇のそれは、一直線に揺波の左の眼球を目指していた。

           

           一切容赦のない、殺意の発露。
           既に古鷹の結晶は失われ、決闘が終わりを迎えたというのに、だ。

           

          「っ……!」

           

           目を瞑ってしまいそうになる恐怖に打ち勝ち、抵抗するのではなく身体を引っ張られたほうへ――右側へと思いっきり倒す。
           間一髪、こめかみを掠めていった扇を見送り、転げて身体を起こした揺波は、次の動作を身体が動くに任せていた。敵を背にした状態で離脱してしまった際は、追撃の可能性を考慮して背後を薙ぎ払うようにして体勢を立て直す……それが、揺波の身体が覚えていた動きであった。

           

           その腕は、止まらない。
           手に持ったままの斬華一閃は、容赦のない動きに対して、容赦なく振り抜かれる。
           そしてその腕が知らない、歪な手応えを、揺波は得る。

           

          「が……ぁ……」

           

           それは藁束のような繊維質の集合を断ち切るようでもあり、水面を切り裂いたときのようであり、どちらにも似ているようで、何かが違っていた。
           切り払い、振り向いた揺波の頬を、水滴が濡らす。

           

          「あ……あぁ……」

           

           ぼた、ぼた、と。既に衣服が受け止めきれなくなったのか、一太刀の軌跡が生み出した断裂から、命がこぼれ落ちている。
           扇が消え行く手で、力なく押しとどめようとする古鷹の顔から、急激に色が失われていく。彼の顔に焦りはなく、呆然と納得が混じり合っているようだった。

           

          「ぁ、ぁ……ぅ……」

           

           言葉にならない声で力を使い果たしたように、人形のように倒れ込む。びじゅり、と不快感を覚える音と共に、古鷹から流れ出した血が揺波の足元に飛び散った。

           

          「こだか、さん……? なん……で…………?」

           

           答えは、得られない。答えられる者は、その能を失っていた。
           古鷹はまだ、勝利した揺波の疑問を解消するという義務が残っていた。履行されぬまま冷たくなっていく彼の姿は、それを反故にし、更なる疑問を揺波に植え付けるものであった。

           

           決着がついてなお抗する理由が、揺波には当然分からない。
           それを冷静に考察できるほどの余裕など、あるわけがない。
           天音揺波というミコトは今、二度目となる惨状を目の当たりにして、混乱の渦に叩き込まれていた。

           

           そんなときだ。
           しっかりと聞かせるような、ぱち、ぱち、という拍手が、くつくつという嗤いと共に、揺波の意識に引っかかる。

           

          「なに……?」

           

           賞賛の源は、客席の最後尾。ぎこちない動きで首を動かした揺波は、そこに伸びる二つの影を見て取った。
           一人は、理性と野心、さらに自信をその身から溢れさせる男。揺波は彼を知っている。大家会合の際、古鷹以上の強者だと認識した若き為政者だ。
           そして傍らには、黒を基調とした衣を身に纏った、灰色の髪の少女。揺波は彼女を知らない。けれど、離れていても分かる紛うことなきメガミの威圧感に、思わず唾を飲み込んでいた。

           

          「素晴らしい……!」

           

           明らかに皮肉った声色の賛辞が響き渡る。
           瑞泉驟雨とメガミ・ウツロが、舞台の明かりに僅かに照らされて、夜闇の縁にわだかまっていた。

           

           

           


           英雄とは輝かしいものだ。彼女がこの時代で成し遂げたものが、悪行などと言うようなものはそうはいないだろう。
           けれど、その軌跡が輝かしいものだけでできているとは限らない。彼女の選択と因果の導きにより、歩む道の礎となった者もいた。
           古鷹京詞は、そんな一人だ。嗚呼。惜しいミコトを亡くしたと、カナヱも思うよ。……本当に。

           

           しかし、その道があってこそだ。こうしてまた一歩、英雄は先へ進んだ。
           古鷹京詞を超え、道を拓いた彼女を出迎えるのは、意外や意外、敵の総大将・瑞泉驟雨。
           突然現れた彼の思惑とは、果たして。

           

          語り:カナヱ
          『桜降代之戦絵巻 第四巻』より
          作:五十嵐月夜  原案:BakaFire  挿絵:TOKIAME

           

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          外套の裏には歪な心(後篇)

          2018.02.10 Saturday

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            毒は静かに躰を蝕む

             

             

             こんにちは、BakaFireです。今回の記事はチカゲ特集の後篇となります。前篇をまだお読みでない方は、こちらから読まれることをお勧めします。

             

             このシリーズは特定のメガミに注目して、本作のデザインを語るというものです。今回は新シリーズ第1回にして累計第6回となります。

             

             前篇ではメガミ・チカゲに関する歴史を説明し、彼女のキーワード「毒袋」が生まれるまでの話をしました。後篇では個々のカードに注目し、それらを通して彼女を語ることにしましょう。

             

            カードの何に注目するか

             

             やり方もこれまでのものを踏襲します。以下にてまとめましょう。

             

            • カードの歴史と評価に注目する
            • 歴史とはカードが生まれた経緯を指す。
            • 歴史においてルールの変化が重要ならばそれも語る。
            • 評価はゲームにおける魅力、バランスの適切さ、メガミの気質の体現性の3点を見て行う。
            • 現在問題視している箇所や、カードへの否定的な見解も書く(出版から時間が経ち、皆様からのフィードバックを頂くと至らなかった点も見えてくるのです)
            • 否定的に書き、修正を匂わせたとしても、修正を急ぐつもりはない。

             

             前篇でも語った致命的な過ちのために大きな修正を入れることになってしまいましたが、現時点でのチカゲへの反省点は小さなものです。また、チカゲもハガネと同様に当時の環境や知見が意識されていました。当時の環境についても簡潔にまとめ直しましょう。詳しくはハガネ特集をご覧ください。

             

            • 『第二幕』になり、暴力的火力の支配からは解放された
            • しかし結果としてトコヨが最も強くなり、防御的で抑制的な環境となった。
            • 競技性はまっとうなものになったものの、これはこれでつまらないと感じる方もいると考えられ、問題だった。
            • 結果、『第壱拡張』のメガミにはトコヨへの耐性が求められた。

             

             ハガネと比べ、チカゲはより特定のメガミへの対策を意識してデザインされたカードが目立ちます。今としては、そのように対策的なデザインを行うのは良いやり方とは考えていません。ですが当時の歴史的資料として、何への対策として作成されたのかも書くことにしましょう。

             

             

             

             現在でこそ適正距離は3-5ですが、修正前は1-3でした。1-3でも単独のカードとして強すぎはしないのですが、近距離であることそのものが問題であるため修正されています。

             

             毒化結晶が没になり、原案の毒のルールに変更された時点で作成され、一度も変更されませんでした。このようなシンプルなカードはメガミ全体の複雑さを制御するためにデザインされます。メガミのコンセプトを伝えつつシンプルなものとなることも多いですが、毒を送るカードはあまり多くは作れないため、チカゲは能力のない《攻撃》カードを持つことになりました。

             

             デザインは理にかなっており、「斬」と比べてオーラへのダメージが1小さく、代わりに間合に3が追加されています。ダメージは意図的に小さくデザインされました。いくら近距離問題への把握が不十分と言えど、近距離にダメージが大きい攻撃を追加してはいけないことくらいは分かっていたのです。

             

             

             現在の適正距離は5ですが、修正前は1でした。

             

             毒を送る基本カードです。毒はとても魅力的なルールですが、毒を送られる頻度が多すぎるとあまりにも不愉快です。それゆえに、この類のカードは通常札に2枚、切札に1枚が限界と考えており、事実その通りだったようです。

             

             さらに、普通の《行動》カードでも問題のあるストレスレベルです。そこで2枚の通常札はそれぞれ「毒を送り辛くする工夫」を行う必要がありました。

             

             「毒針」の解答は《攻撃》カードの攻撃後効果にするというものです。《攻撃》ならば間合によって使用できるタイミングが制限され、相手は《対応》カードで対処できる余地が生まれるのです。

             

             ではその間合をいくつにすべきか。結果としては大失敗でしたが、私は1を試してみることにしました。この動機は間合1への挑戦にあります。『第二幕』ルールの導入で、間合0と1には特別さが与えられることになります。中でも間合1単独の間合を持つ《攻撃》は、その攻撃を行うためには他の移動カードを使う必要があり、さらには前後どちらに移動する対応でも避けられてしまいます。これらには組み合わせる魅力、構築する魅力、相手との相性を考慮する魅力と、双掌繚乱、眼前構築の魅力が詰まっているように感じられました。

             

             それゆえに間合1単独にすることで強力で魅力的なカードをデザインできると当時の私は考えていました。「毒針」は駄目でしたが、未来では一応の解答は得られています。その辺りは、サリヤ特集でお話ししましょう。

             

             今振り返ると、これは動機そのものに誤りがあったとも考えています。間合1の魅力を無理に探そうとするのではなく、やろうとしていることが自然に間合1を求めるまで待つべきだったのかもしれません。

             

             

             

             チカゲは死の恐怖に怯えており、転じて高い生存欲を持ちます。当然、逃げることにも彼女にとっては得意なことなので、逃げるような《対応》カードがあるべきでしょう。

             

             初期案は「間合⇒相/オーラ:2」の行動/対応という極めて愚かなカードで、当然没になりました。ではその枠にどのようなカードを入れるべきでしょうか。

             

             当時の環境として最も問題であったのはトコヨですが、彼女と最も有力な形で組み合わせられていたユリナへの問題が感じられなかったかと言うと、当然そのようなことはありませんでした。ユリナとユキヒの組み合わせはまだまだ一線級であり、「斬」「一閃」「月影落」などの《攻撃》は当時はまだ問題があるのではないかと懸念していたのです(実際は近距離問題というより上位の構造の問題でした)。

             

             そこで、これらの攻撃、そして前進に対して刺さりうる対応カードとしたのです。結果として、近距離型だったチカゲとのかみ合いが奇妙だったのは反省点ですが、このカードそのものの出来や、中距離型となった後の仕上がりは良好でした。強いて言うならば、近距離問題ゆえに近距離型のメガミが作れず、結果としてこのカードが刺さる相手そのものが少なくなってしまったのは反省点です。

             

             

             

             毒化結晶がある時点から存在し、適正距離が0-4から0-3になった以外は一度も変更されませんでした。毒化結晶にせよ毒袋にせよ、チカゲは(当時としては)追加ルールが多く、複雑さがありました。それゆえにテキストのない《攻撃》カードがもう1枚あるべきと考えられたのです。「飛苦無」と違う印象にするため、《全力》カードになるのは必然です。

             

             当時はチカゲは近距離型としてデザインされていたため、適正距離に0-1を含むべきでした。しかし、『第一幕』での「つきさし」の強さやクリンチ戦略の脅威から、単純にその間合で火力の高い攻撃は危険です。

             

             そこで、適正距離をさらに広げる代わりに、オーラへのダメージを小さめに設計しました。全力を使ってオーラを2だけ削るのはあまり強くない動きです。こうすることで適正距離としては安易に使えるものの、安易に使うだけで成果が得られるわけでもなくなるのです。

             

             さらにこのダメージは、チカゲの暗殺者としての側面を強調しています。暗殺者は正面から腕力で斬りかかる力は弱いものです。しかし相手が隙をさらしているならば、命を刈り取る一撃を撃ちこめるのです。オーラへのダメージよりライフへのダメージが高いとはそういうことなのです。

             

             この側面はもう少し強調しても良いかもしれません。しかし『第二幕』ではライフが8しかないために、それは実現できませんでした。つまり……。

             

             

             

             チカゲの移動カード枠です。元々は先ほど「遁術」で述べた愚かなカードがその役割を担っていましたが、それが没になったため、こちらでも新たなカードが必要となりました。

             

             そこでいくつかの案を試しましたが、2歩の前進ではクリンチ戦略の危険が大きすぎ、前進より弱ければ魅力に乏しすぎると分かりました。そこで模索の結果、前進そのものをカードにしてみることにしたのです。

             

             『第二幕』ルールにより、カードでの前進は基本動作での前進と違い、間合1以下に踏み込むという価値があります。そして書式もシンプルです。『第二幕』後の最初の拡張にシンプルで、それでいてセンセーショナルなカードとして登場させるには相応しいと考えたのです。

             

             結果として、そもそもの近距離問題のために愚かな結果となりました。ただ、修正されていないことから分かるようにこのカード自身のせいではありません。

             

             その際の修正でチカゲが中距離型のメガミになると決まった際、併せて「抜き足」と「泥濘」も修正すべきかどうかは検討されましたが、それについては不要と判断しました。チカゲには「生きる道」が存在しているため、《攻撃》が中距離になったとしても至近距離に隠れるインセンティブは十分にあるのです。

             

             

             

             毒を送る基本カードです。「毒針」同様に「毒を送り辛くする工夫」が必要でしたので、こちらでは極めて単純に《全力》カードにして実装しました。《全力》カードは使う際に隙をさらしてしまうため、かなり使い辛いものです。しかしこのカードを使えば相手のドローの1枚は毒カードになるため、その隙が程よく緩和されるのです。これは双方にとって適切な塩梅といえるでしょう。

             

             結果、作成されてから一度も変更されませんでした。毒の強さはこのカードを基準となると考えて間違いありません。

             

             

             このカードの枠は幾度となく変更されました。途中で一度この「泥濘」になった後で没になり、その後再びこの「泥濘」に戻りました。

             

             強力な「前進」を抑止する「壮語」と比べ、カードとしての存在に幾ばくかの疑問はあります。しかし、当時は近接距離であった点や、「生きる道」を活かすための隠れる動きの補助となる点を考慮し、これでよいだろうと考えたのです。

             

             今でも幾らか疑問はあります。しかし近距離での打撃力が乏しく、他方で「生きる道」を持つチカゲでなければ、このカードを持つことはできないのも確かでしょう。

             

             

             

             毒カードのデザインで重要なのは、毒を選ぶ行為を有意義なものにすることです。

             

             しかし最初はできておらず、初期案は単に嫌そうな効果を3つ並べただけでした。麻痺毒の原型、幻覚毒そのもの(このカードは1度も変更されませんでした)、そして弛緩毒は単に毒袋に戻すという効果だけを持った《全力》カードでした。

             

             この初期案から毒カードの楽しさは見いだせましたが、カード効果としては失敗も感じていました。最たる原因は「弛緩毒」であり、毒選択の9割でこの毒が選ばれるほど、安定してしまっていたのです。そこで旧「弛緩毒」は没にし、改めて毒に求められるものを考えてみました。

             

             結果、毒は相手がやりたいことを妨害する一方で、それを狙っていない相手は簡単に使用して取り除けるものであるべきだと分かりました。こうすれば毒を送る側は相手の狙いを類推しなくてはならなくなり、意思決定が有意義になるのです。

             

             では、妨害すべき3種の「やりたいこと」とは何でしょうか。重なりはあっても構いませんが、重なりが大きくてはいけません。考えに考え、「基本動作」「切札の使用」「攻撃」がその3つであると私は結論付けました。「基本動作」は「麻痺毒」で、「切札の使用」は「幻覚毒」で担えます。そこで残る「攻撃」を抑止する手段として新たな「弛緩毒」をデザインしました。

             

             現状の毒3種はそれぞれが程よく、有意義な選択を演出できていると感じています。

             

             

             「毒袋」というコンセプトが出来上がった時、切札でも毒を送るカードがあるべきと考えるのは自然です。そして切札からは特別な毒を送れた方がワクワクするのも間違いないでしょう。コンセプトや効果は変更されず、消費は途中で4から5に引き上げられました。

             

             では、毒の特別さはどのように設計されるべきでしょうか。単純に効果が強い、つまりはより悪い効果の毒というのはうまいやり方ではありません。毒を使うかどうかは相手次第です。逆に言えば、相手が毒を使うのか、それとも手札にため込むのかという選択権を持っているからこそ悪質な効果を持たせられ、魅力的な毒になるのです。

             

             そこで、毒袋に戻らない毒を作ることにしました。一度入れられたら、恒久的にデッキを蝕むのです。イメージとしては「完全論破」にも近いかもしれません。その辺りは一度しか使えない切札であるという点ともかみ合い、良いデザインになりました。

             

             ちなみに、毒袋に2枚の「滅灯毒」があるのは「生体活性」などの再利用のためのロマンです。本作が、メガミの組み合わせを楽しむゲームでもある以上、ロマンの余地はできる限り残すべきなのです。

             

             

             ギリギリ、それも入稿当日まで吟味が続けられた1枚です。最初の案は次のようなものでした。

             

            叛旗の激毒    消費3

            攻撃/対応    適正距離0-10    2/2 

            【常時】このカードは対応でしか使用できない。

            【攻撃後】対応したライフへのダメージが3以上の《攻撃》を打ち消す。

             

             これについても、ユリナを意識したデザインになっています。最初にデザインされた時点では『第二幕』も始まったばかり。ゆえに警戒対象はトコヨというよりもユリナでした。ユリナ/ヒミカで『第一幕』を焼き尽くし、ユリナ/ユキヒでの活躍もほぼ確約されている以上、当然と言えるでしょう。しかしどうにもこのカードはぱっとしませんでした。

             

             そんな中、『第二幕』初期の環境も見定められ、ユリナ/トコヨこそが極めて強力であり、同時にゲーム展開を遅くしているという問題点もあると分かってきました。その時点で警戒対象はユリナだけではなく、トコヨとユリナという形になったのです。

             

             さらにもう一点の懸念点もありました。後に述べる「闇昏千影の生きる道」です。本作初となる特殊勝利カードであるため、バランスは強く気にしてデザインされました。細かくは当該カードで語りますが、結果として十分な強みがあり、その一方で安易な成功手段はないと考えられる仕上がりになったのです。

             

             しかしそこで気付きます。「闇昏千影の生きる道」は確実に「久遠ノ花」で止まってしまうのです。そのような状況で「生きる道」戦略に十分な強みが見いだされてしまったら、それこそトコヨを宿すことが絶対の正解になってしまいます。

             

             以上より、ユリナ/トコヨに刺さりつつ、それでいて「久遠ノ花」に対策できるカードが求められました。その結果としてできたのが次のカードです。

             

            叛旗の激毒 消費3

            相手は自身の切札から消費が5以上かつ未使用の切札を全て公開し、使用済にする。そうした場合、それらの枚数だけ相手のライフに1ダメージを与える。

             

             これは激毒の名に恥じぬほど、ユリナ/トコヨを苦しめました。しかし試すにつれ、余りに多くの問題を抱えたカードであるとも分かったのです。まず証明の問題があります。さらに、余りに一部のカードのみを咎めているためユリナ/トコヨ側の眼前構築が不自由になりすぎ、気分の悪い読み合いを強いられてしまいます。

             

             以上よりこれも没になりました。しかしながら多大な問題として、その時点で入稿の締め切りであり、次のカードを試している時間がなかったのです。選択が必要でした。結論として、ユリナへの対策は諦めることにしました。すでに「遁術」があるため、無理にこれ以上の対策を行う必然性はないと判断したのです。そして、「生きる道」のために「久遠ノ花」への耐性を与えることを最優先事項としました。

             

             そしてその場で即興的に作られたのがこのカードです。「生きる道」と正しくかみ合うよう納は6と整えられ、他の使いどころもあるようにあらゆる「-」を持つ《攻撃》を対象としました。正直に告白しますと、私どもにはこのカードをテストする時間はありませんでした。もちろんその場では最善を尽くし、リスクが小さくなるよう知恵を振り絞りましたが、一度も実際のゲームでは回されていないのです。結果として、良好なテックカードとして働いたのは幸運にも恵まれたと言えます。

             

             

            現在の適正距離は3-7ですが、修正前は1-5でした。

             

             本作のようなゲームには相互作用とジレンマが欠かせません。チカゲが毒カードと言うギミックを活用する以上、そこからそれらを生じさせるように他のカードで演出する必要があります。

             

             毒カードは当然ですが、使用したいカードではありません。そして使わないことを選んだら手札で滞留します。それだけでも連続攻撃や対応の阻害ができるため、十分な意味があります。しかし、それだけではゲーム的な気持ちよさを濃縮できていません。

             

             毒が手札にたまると、必然的に手札を2枚以上持ってターンを終える頻度が上がります。その際に悪いことが起こるようにするのです。こうすれば毒を送った側は自分の行動が良い結果に繋がったという相互作用の楽しさを得られ、毒を送られた側は毒を使うべきか使わざるべきかと言うジレンマをより強く感じ、ひりつくような意思決定を味わえるのです。

             

             これらの理念、そしてカード単独の試みは魅力的でした。しかし残念ながらバランスはダメだったようで、各種攻撃カードと共に中距離間合へと移されることになります。その後はバランスの面でも丁度よく、良い仕上がりのカードとして気に入っています。

             

             

             本作初の特殊勝利カードであり、チカゲ――闇昏千影のあり方を象徴するカードでもあります。

             

             ご理解いただけることでしょうが、このカードのバランス調整には高い注意集中が払われました。まず、初期案を紹介しましょう。

             

            v1

            消費4 納4 付与/全力

            破棄時:あなたは勝利する。

             

             この時点では、隙を切札の《付与》カードに持たせようという試みがなされていました。通常札の隙と同様にあらゆる1以上のダメージで失敗しますが、その際は未使用に戻ります。特殊勝利を狙うデッキが、軽々しく一度失敗しただけでゲームに勝てないようではつまらないので、失敗してもチャンスが残るようにしました。この時点で十分な魅力が感じられ、コンセプトとしては完成していると判断しました。

             

             しかし、バランス調整には多大な吟味が必要なのは明白です。事実、問題はすぐに発見されました。消費が4だとあらゆる組み合わせで先手第2ターンに使用できてしまうのです。先手第2ターンでは間合はまだ十分に離れており、大半の組み合わせが攻撃を間に合わせられません。そこでまずは、消費が4から5へと引き上げられます。

             

            v2

            消費5 納4 付与/全力

            破棄時:あなたは勝利する。

             

             こうなれば2ターン目の使用はほぼ不可能です。唯一、オボロと組み合わせれば後手第2ターンに使用できますが、オボロは後退は不得意であり、また後手であるために先手側には前進の時間が十分に与えられています。この案ではバランスは壊さないだろうと考えられていました。

             

             しかししばらくのプレイテストの末、逆の問題があると分かりました。悲しいことに、全く成功しないのです。《全力》の付与を貼り、2ターンもの間、一切の攻撃に当たらないようにする。これはどれほど対応が得意なメガミと組み合わせても、はっきり言って不可能でした。成功しない特殊勝利は、まったく魅力的ではありません。

             

             成功のためのハードルを下げる必要がありました。そしてしばらくの模索の末、オーラへのダメージでは失敗しないようになったのです。この時点で隙からは大きく離れましたので、隙と言う名前を使うのは辞めました。

             

            v3

            消費5 納4 付与/全力

            展開中:あなたがライフへのダメージを受けた時、失敗して未使用に戻る。

            破棄時:あなたは勝利する。

             

             結果、十分に成功するようになりました。そしてさらに素晴らしいことに、ゲーム展開も魅力的になったのです。オーラで防げば失敗しないのですから、チカゲ側はオーラをできる限り5に近づけ、相手が攻撃し辛い形にした上で貼るのがベストになります。それゆえ、成功のために様々な工夫ができるようになりました。一方で貼られる側はライフに攻撃を通すために、十分な連続攻撃を準備しておくことで対策できます。これらによって、このカードを巡ったせめぎ合いが熱いものとなるのです。

             

             カードとしての魅力はすでに相当のものです。しかし、カードの使い方を考えているうちに、恐ろしいことに気づいてしまいました。切札の対応、具体的には「久遠ノ花」や「音無砕氷」を構えてしまえば、容易に成功できそうに思えたのです。

             

             次のプレイテストで実験し、まさにその通りでした。さらに言うならフレアを5つ最速で溜めて撃つ動きそのものも危険であり、根本的な強さにも問題を感じます。

             

             困ったことになりました。私は悩み苦しみます。相手に十分な時間が与えられ、その上で通常札での対応の範囲では、このせめぎ合いは魅力的なのです。どうにか切札の対応だけを、スマートなやり方で使わせないようにし、さらにこのカードそのものの使用を遅らせられないでしょうか。

             

             そんな苦悩の中、テスト中のリストを見ていた私はあるカードに気が付きました。ええ、もうお分かりでしょう。それはチカゲのカードではありません。ハガネの「大破鐘メガロベル」です。

             

             ハガネ特集で語った通り、「大破鐘メガロベル」に「他の切札が使用済ならば」という条件が付いているのは別の理由によるものです。しかしなんたる巡りあわせでしょうか。この文言は運命的なことに「生きる道」の問題を2つとも解決し、救済できるのです。

             

             第一の問題である対応の切札は、守りきらなくてはならない2ターン目だけは、その前に切札を消費しなくてはならないため解決されます。これは逆に1ターン目は切札の庇護を受けられるため、工夫の余地も与えています。第二の問題である最速で貼る動きは、他の切札2枚も使用しなければならないことから合計フレアが増えるため解決されます。

             

             こうして「生きる道」はいよいよ今の姿にたどり着きました。しかし、これでバランス調整は終わりではありません。第一の問題はともかく、第二の問題が本当に解決されたかはすぐには分かりませんでした。そこで私は、他の全てのメガミとチカゲを組み合わせ、「生きる道」を狙う場合の切札構成を考えてみました。そしてその中で有力な組み合わせだけを取りだし、丁寧にテストしたのです。

             

             長い苦心と努力の末、「生きる道」は素晴らしいバランスに仕上がりました。本作のベストカードのひとつと言っても過言ではないでしょう。たったひとつ失敗があるとすれば、このカードにこれだけ入れ込んだ結果として、他のバランスが幾らかおろそかになってしまったのは否定できない点です。

             

             

             原初札は基本的には「メガミに挑戦!」で使用されるものです(メガミと挑戦者で対戦し、メガミ側は原初札を用いる代わりに1柱しか使えず、挑戦者は相手のメガミを見たうえで宿す2柱を選ぶ)。そのため、そのメガミ単独での戦いを実現できるようにデザインされます。特に通常札は、その戦いの円滑化が目的となります。

             

             チカゲの問題は決定力の不足にあります。『第壱拡張』の初期でこそバランスに多大な問題がありましたが、調整後は攻撃力が控えめとなりました。しかしここで輝くのが「生きる道」です。攻撃力が控えめでも突然に特殊勝利を狙われるリスクがあるので、ゲームがスリリングで魅力的になっているのです。

             

             しかし単独となると問題が浮き彫りになります。組み合わせるメガミの攻撃能力を組み合わせられないので決定力不足は自明であり、チカゲだけでは防御力も不足しているため「生きる道」も夢物語です。

             

             そこで通常札と切札それぞれで防御、攻撃を補うことにしました。攻撃と「生きる道」の天秤がチカゲの魅力である以上、「メガミに挑戦!」でもそれは活かされるべきでしょう。防御カードが確定で存在していると固すぎてストレスになるため、通常札が防御を担当することになります。

             

             もう一工夫したのは、手札に毒があるかどうかを見るというギミックです。これによって相手は毒を使うモチベーションが高まり、より毒を意識したゲームとなるのです。このギミックは今後は原初札に限らず、利用できるのではないかと期待しています。

             

             

             原初札の切札も同様のコンセプトで作られますが、こちらは「刺激的で特殊な舞台を作る」ことを意識してデザインされます。上記の通り、切札では攻撃を担当することになります。しかし、安易な攻撃カードでは原初の切札ではありません。チカゲらしさを煮詰めたようなものである必要があります。

             

             第一に見いだされたのが、手札の2倍のダメージを持つという効果です。「大天空クラッシュ」で書いた通り、変数は何度も使うと混乱を招きますが、ここぞというときに使うと素晴らしい効果があります。チカゲのカードが相手の手札を閾値として見ることがある以上、これはチカゲ的です。

             

             次に、新しい毒を作り、それを攻撃後効果で加えるようにしようと決めました。この理由は単純です。原初札と言う特別な場所で新たな毒が登場するのは格好よく、センセーショナルだからです。「残滓毒」の効果については、安易な回答を抑止するものにしました。「生きる道」はシンラやクルルに脆弱性があります。そこで、彼女らの得意とするカードタイプを咎めるような効果にしたのです。

             

             ここで悩ましい事態に陥りました。新しい毒は1ターンでも早く送りたい。しかし貴重なリーサル手段を早々に切ってしまうとダメージ不足が深刻である。ならば再起を付けたいが、そうなると消費が問題となります。消費が低いと強すぎる一方で、消費が高いと序盤に毒を送る目的がそもそも果たせないのです。

             

             そこまで来てさらに閃きました。消費もXにしてしまえばよいのです。事実、これは素晴らしいアイデアでした。消費0の0/0、消費2の2/2、消費4の4/4、そして消費6の6/6、すべてに意味があるのですから。

             

             

             

             これにてチカゲ特集は閉幕となります。様々なカードに秘められた物語をお楽しみいただけたら嬉しい限りです。

             

             私自身の作業があまりに立て込んでいるため、申し訳ないながら2週間ほど私の記事はお休みをいただきます。休み明けには、細音雪花が帰ってくる話をいたします。ご期待くださいませ!